【危機に瀕する米海軍の優位性】抑止力維持に艦艇増強を
岡崎研究所
2016年02月12日(Fri) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6063
米国のシンクタンク、ハドソン研究所米海軍力センター所長のクロプシーが、2016年1月6日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、中国の海軍力の増強に鑑み、米国は海軍力を思い切って増強する必要がある、と述べています。論説の要旨は以下の通りです。
レーガン政権時の半分以下まで落ち込んだ艦艇数
中国が自前の空母の建設を発表するなど、海軍力を増強している。一方、2011年の予算強制削減などにより米国防省の予算が1兆ドル削減された結果、米海軍の艦艇数はすでに272隻に減っている。これは30年前のレーガン政権末期の半分以下である。
米国は、世界で抑止効果を上げるとともに、もし抑止が敗れた場合に戦いに勝つための先端兵器が必要である。そのために約350隻の戦闘艦が要る。その内訳は以下の通りである。
空母を、西太平洋、ペルシャ湾、そしてふたたび地中海に配備するため、現在の11隻から16隻に増やす必要がある。
供給艦(物資を供給する艦艇)は現在29隻だが、倍増する必要がある。
潜水艦については、中国は2020年までに69~78隻の潜水艦を保有する予定なので、米国は、同年に70隻を保有する見込みだが、維持修理、ローテーション等を考慮すれば、90隻は要る。
水陸両用艇は、地中海におけるロシア、中国、イランのプレゼンスの増大、ISによるリビアの港町Sirteの占領から、米国は冷戦時代のプレゼンスが必要であり、海軍と海兵隊で45隻が必要である。
大型水上戦闘艦、駆逐艦、巡洋艦は、米艦隊の背骨であり、潜水艦を追尾し、空母を守るので、16隻の空母を守るため、少なくとも100隻を要する。
小型戦闘艦(沿岸戦闘艦LCSと呼ばれるもの)は、フリゲート艦の攻撃、防御能力を備えた30隻が要る。
高速船(陸軍と海兵隊の小規模部隊と装備品を運ぶもの)は、現在の11隻の計画は妥当である。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6063?page=2
合計350隻で、年240億ドルの建造費がかかる。2045年までに350隻の目標を達成するには、海軍の造船予算に毎年75億ドル追加する必要がある。中国の建造計画、世界の他の挑戦を考えれば、30年以内により規模の大きい艦艇が必要とされよう。
これは確かに高価であるが、世界における米海軍の優位を譲るよりは安い。中国の海軍力増強を考えれば、このままでは米国の海軍力の優位は危うい。米国は種々の脅威が増しているのに後退はできない。
出典:Seth Cropsey‘S.O.S. for a Declining American Navy’(Wall Street Journal, January 6, 2016)
http://www.wsj.com/articles/s-o-s-for-a-declining-american-navy-1452124971
出典:Seth Cropsey‘S.O.S. for a Declining American Navy’(Wall Street Journal, January 6, 2016)
http://www.wsj.com/articles/s-o-s-for-a-declining-american-navy-1452124971
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艦艇増強は必要経費
この論説のキー・フレーズは、提案の米海軍力増強計画は高価であるが、米国の世界における海軍の優位を譲るよりは安いという文言です。
確かに、空母を現在の11隻から16隻に、潜水艦を2020年までに現在の見通しの70隻を上回る90隻にし、さらに米艦隊の背骨である大型水上戦闘艦を少なくとも100隻にして、艦艇数全体を現在の272隻から350隻に増やすという計画は高くつきます。
しかし、中国の海軍力の増強に直面し、このような艦艇の増強をしないと、世界における米海軍の優位が失われてしまうのであれば、優位を保つための必要経費と考えようということです。それはその通りでしょう。世界における海軍力の優位が米国から中国に移れば、パックス・アメリカーナの終焉であり、その戦略的意味合いは計り知れません。米国はなんとしてでも、そのような事態の到来は避けるべきであり、米議会は強制削減を含む国防費の削減の戦略的意味を真剣に考えるべきでしょう。
※一シンクタンクの提言ではありますが、人民解放軍の海軍力増強に応じて、通常戦力を増強していくという提言は、各国のナショナリズムの高まりと軍事力強化の中ではよく理解できることです。ただこうした海軍力の増強は公金を投資して行われる以上、国家の主権と独立、権益を防衛するためという目的と同時に、アメリカの同盟国の防衛に資するものでなくてはならないことはいうまでもないことです。また軍事産業の経済振興により雇用の拡大がのびたり、GDP率の向上が結果として出てくるという経済面での効果も期待されるものでなければならないでしょう。
アメリカ海軍2017会計年度予算案
配信日:2016/02/16
21:35
http://flyteam.jp/airline/united-states-marine-corps/news/article/59944
アメリカ海軍は、2016年2月9日、1,650億ドルの2017会計年度予算案を発表しました。この予算案には海兵隊分も含まれています。
艦艇は2021会計年度までに308隻を達成するため、アーレイ・バーク級駆逐艦2隻、バージニア級原子力潜水艦2隻、沿海域戦闘艦(LCS)2隻、アメリカ級強襲揚陸艦1隻の計7隻を建造します。
航空機は94機購入し、第5世代のF-35ライトニングIIへの移行を予定より加速するほか、戦闘攻撃能力不足を緩和するためF/A-18スーパーホーネットも購入、P-8Aポセイドンの配備も継続します。
2017会計年度で要求しているおもな航空機は以下のとおりです。
■アメリカ海軍2017会計年度予算案の航空機購入
・F-35CライトニングII 4機
・F-35BライトニングII 16機
・F/A-18E/Fスーパーホーネット 2機
・E-2Dアドバンスド・ホークアイ 6機
・P-8Aポセイドン 11機
・KC-130Jスーパーハーキュリーズ 2機
・CH-53Kキングスタリオン 2機
・MV-22Bオスプレイ 16機
・AH-1Zバイパー/UH-1Yベノム 24機
・MQ-4トライトン 2機
・MQ-8Cファイアスカウト 1機
艦艇は2021会計年度までに308隻を達成するため、アーレイ・バーク級駆逐艦2隻、バージニア級原子力潜水艦2隻、沿海域戦闘艦(LCS)2隻、アメリカ級強襲揚陸艦1隻の計7隻を建造します。
航空機は94機購入し、第5世代のF-35ライトニングIIへの移行を予定より加速するほか、戦闘攻撃能力不足を緩和するためF/A-18スーパーホーネットも購入、P-8Aポセイドンの配備も継続します。
2017会計年度で要求しているおもな航空機は以下のとおりです。
■アメリカ海軍2017会計年度予算案の航空機購入
・F-35CライトニングII 4機
・F-35BライトニングII 16機
・F/A-18E/Fスーパーホーネット 2機
・E-2Dアドバンスド・ホークアイ 6機
・P-8Aポセイドン 11機
・KC-130Jスーパーハーキュリーズ 2機
・CH-53Kキングスタリオン 2機
・MV-22Bオスプレイ 16機
・AH-1Zバイパー/UH-1Yベノム 24機
・MQ-4トライトン 2機
・MQ-8Cファイアスカウト 1機
現実は、日進月歩ですが、早々に目標値が達成されるわけでもありません。将来的には大型空母が必要だといっても近視眼的にいえば、原潜、イージス駆逐艦、沿海域戦闘艦、強襲揚陸艦が補強艦艇としては優先になっていますね。
アメリカ海軍の艦艇数の増加は、ソフト面ハード面での増強という側面とともに、アメリカ国民経済の向上に資するものにしなくてはなりません。一定の国家戦略プランにそってなされることが理想であり、やはり基礎となるのは、従来におけるオバマ政権での太平洋リバランス戦略というこになるかと思います。
そのあたりをもう一度おさらいしておきましょう。
【アメリカ】オバマのアジア太平洋回帰政策とは?リバランスとは?
2015年2月21日 http://kaito1412.wp-x.jp/アジア回帰政策-オバマ-アメリカ-リバランス-1833
中国の台頭を受けて日本のみならずアジア諸国は緊張感と不安に包まれていますが、そんな中アメリカのオバマ政権は「アジア太平洋回帰」の宣言をしています。これは第二次世界大戦以降アメリカが築いてきた秩序を維持する上で重要な意味とメッセージを持ちます。
多くの方がご存知のようにここ数年で中華人民共和国の急激な成長と台頭がアジア太平洋における情勢を変えつつあります。現在のアジア太平洋の秩序はアメリカ合衆国の圧倒的な影響力とプレゼンス(存在感)が支えてきました。
第二次世界大戦以降はアメリカは日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアなどの各国と同盟を結んだ上で日本、韓国、フィリピンなどに強力な軍事力を置いてプレゼンスを保持してきました。圧倒的に強力なアメリカがアジア各国とそれぞれ同盟を締結して地域の秩序を維持・安定させるシステムを「ハブ&スポークの同盟システム」といいます。
しかし、21世紀に入って中国が急激な経済成長とともに軍事力の近代化と拡張を始めたため、地域の秩序が揺らぎかねないとの不安が存在が浮上しました。他方、冷戦が終結してフィリピンなどからは米軍が撤退して、2000年代は中東方面に戦力を注いで集中しました。そのため、米国の影響力が弱まり、中国の影響力が増強して従来の秩序を変更するという可能性が現実味を帯びてきました。
中国海軍などは第一列島線、第二列島線などの計画を進めていると言われており、南シナ海や東シナ海では周辺国との軋轢が深刻化しています。これらの地域の不安を抑えるため、現状維持を行うためにオバマ政権は中東から兵を引いてアジア太平洋に回帰するという政策を宣言、実行しています。
このアジア太平洋回帰、リバランスとも呼ばれているこの政策はまとめると以下のようになります。
・アジア太平洋における米軍のプレゼンスの維持
・アジア太平洋における各同盟国との連携強化
・各同盟国の安全保障における役割増
・地域各国間の連携強化
軍事面では具体的には、
・米海軍の艦船の60%を太平洋方面に配備
・シンガポールに米海軍戦闘艦を4隻配備
・フィリピンとの安全保障協力の強化
同国における米軍の配備の可能性
・オーストラリア北部のダーウインに海兵隊2500人のローテーション配備
・オーストラリア北部のココス諸島にP-8部隊の配備
・普天間基地の移設と辺野古新基地の整備
外交面では、
・ASEANフォーラムやAPECなどの地域会議を通して外交による現状維持と安全保障分野での協調を推進
・各同盟国との連携強化及びそれぞれの役割・負担の増加
厳しい予算の中でアメリカは軍事力によるプレゼンスを維持する一方、同盟国に従来よりはもっと役割・負担を担ってもらうという方針のようです。外交においては地域における各国と協力して力による現状変更に反対、地域的な枠組みの中における対話を通して現状と秩序を維持しようというものです。
欧州や中東での軍事力を削減する(どちらもウクライナ情勢とISISの影響で先行き不安)一方、アジア太平洋においては削減せず「我々は引き続き秩序と現状維持のためにこの地域に留まる」というシグナルを中国に送っています。
力による現状変更には明確に反対する一方で各国が参加した対話を通して中国側に現状の中で平和的に発展することを促す努力をするようです。このアジア回帰政策はプレゼンスの維持などの具体的な政策の意味合いも持っていますが、どちらかというと政治的なメッセージの意味合いの方が強いといえるでしょう。
太平洋リバランス戦略については、いくつかの論文が発表されています。
【動画】
アメリカ海軍新兵募集ビデオ
アメリカ海軍公式行進曲
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