2016年2月13日土曜日

北朝鮮による「弾道ミサイル」発射の本当の狙いとは何か?

「中国軍が守る基地から米国に届くミサイル発射」

武貞秀士・拓殖大学大学院特任教授
P2016.2.8 21:53更新 http://www.sankei.com/world/news/160208/wor1602080044-n1.html

 今回の北朝鮮による長距離弾道ミサイル発射は米国への核抑止力完成に向けた最終段階の実験といえる。
 発射基地の平安北道東倉里は中国の防空識別圏に近く、米国が攻撃しようとすれば、米中空軍の衝突が起きる場所にある。中国人民解放軍に守られた基地から、北朝鮮が米国東部に届くミサイルを発射したというのが今回の本質だ。

 (親中派とされた)張成沢氏の粛清後、中朝間の人間のパイプが以前より弱まっているのは間違いない。ただ中朝間の戦術レベルの関係はギクシャクしているが、戦略レベルでの中国の影響力は依然として強い。
 北朝鮮の貿易の約9割を中国が占めており、その原油がなければ経済が干上がる。完全に中国の手のひらの上にある。中国も北朝鮮の地下資源を期待しているし、最も困るのは北朝鮮の体制崩壊だ。金正恩第1書記は中国の足元をみている。

 また、米国の嫌がることをしてくれる北朝鮮は中国にとって困った存在ではなく、相互依存関係にある。昨年の南シナ海をめぐる米中の摩擦を考えれば、米国が望む北朝鮮への厳しい制裁に中国が賛成する可能性ははるかに低くなったといえる。(談)

《維新嵐》武貞氏によるとあくまでアメリカ本土まで到達する弾道ミサイルの発射実験である、とされる。そしてその背後には戦略レベルで連携する共産中国の影響力があるとされる。

しかし一方では下のように別な見方もある。

北朝鮮が発射したテポドン2改はミサイルではない

 北朝鮮は201627日午前930分(日本時間)頃、黄海岸の東倉里(トンチャリ)付近の「西海衛星発射場」から、米国が「テポドン2(改)」と仮称しているロケットを発射、北朝鮮中央テレビは午後030分、地球観測用の人工衛星「光明星4号」の打ち上げに成功した、と発表した。
 米国の戦略軍統合宇宙運用センターも2個の物体が周回軌道に乗り、その1個が衛星、と発表している。「地球観測衛星」すなわち「偵察衛星」がその機能を果たせるか否かはまだ不明ながら、人工衛星が打ち上げられたことは事実のようだ。

弾道ミサイルではなく衛星打ち上げロケットだった

 日本では「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射」という政府の年来の表現に新聞、テレビもそのまま従っているが、現に人工衛星が打ち上げられると「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射で人工衛星打ち上げに成功」という妙な話になってしまう。
 このため、朝日新聞は米戦略軍が7日に人工衛星が軌道に乗ったことを発表していたのを、9日朝刊外報面のすみに1段で「地球周回軌道に2つの物体乗る。米報道、ミサイル発射後」と小さく伝え、8日の読売新聞朝刊も衛星を「搭載物」と書くなど、衛星隠しに努めた。政府の表現に盲従したのは大本営発表を流したのに似ている。

 米国などのメディアは「人工衛星打ち上げ用」にも「弾道ミサイル」にも共通する「ロケット」と報じてきた例が多く、その方が正確で無難な表現だ。
 北朝鮮は20121212日にも今回と同じコースで人工衛星を打ち上げ、それが周回軌道に乗ったことを北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が確認していた。打ち上げ自体は成功だが、日本ではこのことが小さくしか報じられなかったため、知らない人がほとんどだ。ただ、この衛星は全く電波を出していない。偵察衛星なら画像をデジタル通信で送る必要があるし、国威発揚なら国歌でも流しつつ周回しそうだが、通信機が故障し制御できないのではと思われる。
 今回のロケットは地球を南北方向に周回する「極軌道」に乗るよう、南に向けて発射され、その946秒後に高度500km付近で水平に加速して人工衛星を放出している。この飛翔パターンから見て、人工衛星を上げるための発射であったことは疑いの余地がない。長距離弾道ミサイルなら上昇を続けて高度600kmないし1000km付近で頂点に達し、放物線を描いて落下する。
 宇宙の状況を監視している米国の戦略軍統合宇宙運用センターは7日「2個の物体が周回軌道に乗り、うち1つは衛星、他の1つは3段目のロケットの燃え殻」と発表し、衛星に「41332」、ロケットに「41333」の認識番号を付けた。

 北朝鮮が「光明星4号」と命名したこの衛星は、赤道に対する傾斜角97.5度(ほぼ南北)、高度約500km19424秒で周回しているとされる。地球は東西方向に自転しているから、南北方向に1日約15周するこの衛星は世界各地の上空を11回は通ることになる。だがこの衛星も前回同様、電波を出しておらず、回転している様子で、少なくとも当面、姿勢制御ができていないようだ。
 北朝鮮はこれを「地球観測衛星」と称しているが、その軌道や高度は偵察衛星と同じだ。重量は200kg程度と推定されており、それが正しければ大型の望遠鏡を付けたデジタルカメラは積めず、解像力はごく低いだろう。米国の偵察衛星は11tから20tで解像力は10cm程度、日本の情報収集衛星は23t50cmないし1mと推定されている。

 今回のロケット発射が人工衛星打ち上げ用であっても、前回の打ち上げ後の2013123日の国連安保理決議2087など、何度もの決議が北朝鮮に対し「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射、核実験をこれ以上実施しないこと」を北朝鮮に求めている。
 だから、北朝鮮の16日の「水爆実験」と今回の人工衛星打ち上げが安保理決議に違反していることは明白で、日本政府やメディアが北朝鮮を非難するのに無理をして「ミサイル」と強調する必要は本来はない。政府には弾道ミサイルに対する脅威感を煽って、2004年度から15年度までの12年間で、すでに13500億円余を費やしたミサイル防衛予算をさらに増やしたい下心があるのでは、と感じる。

発射に時間がかかるテポドン2は弾道ミサイルには不適

「弾道ミサイルと衛星打ち上げロケットは技術的には同一」との報道もよくあるが、これは「旅客機と爆撃機は基本的には同一」と言うレベルの話だ。ICBM(大陸間弾道ミサイル)が登場して60年近くの間にロケット、ミサイル技術が進歩し、分化が進んだ今日では「即時発射」を必要とする軍用のミサイルと、準備に時間が掛かっても大推力で大型の衛星を上げたい衛星用ロケットでは大きなちがいがある。

 1950年代後半から1960年初期には、ソ連の初のICBMSS6」や米国の「アトラス」は、今日の衛星打ち上げ用ロケットと同様、発射直前に液体燃料を注入して発射する仕組みだった。だが、発射準備に時間がかかっては、先制攻撃を喰うと反撃できないから、燃料をタンクに填めたまま待機でき、即時発射が可能な「貯蔵可能液体燃料」がすぐに開発され、さらに維持が容易でキーを回せば発射できる「固体燃料」の長距離ロケットの開発も進んだ。
 米国では1960年に潜水艦発射の固体燃料弾道ミサイル「ポラリス」が配備され、1962年からは固体燃料のICBM「ミニットマン」の配備が始まった。液体燃料を使う「アトラス」は1967年までにすべて退役し、多くは人工衛星打ち上げに転用された。これはあくまでICBMの「廃物利用」であって、衛星打ち上げ用ロケットがICBMに進化した訳ではない。

 北朝鮮が今回人工衛星打ち上げに使った「テポドン2(改)」は高さ67mもの塔の側で、120日頃から2週間以上もかけ、衆人環視の中で組み立て、液体燃料の注入を24日に始め、3日後の7日に発射した様子だ。もしこんなに時間が掛かる物をICBMに使おうとして、戦時や緊張が高まった際に発射準備を始めれば航空攻撃などで簡単に破壊される。
 固定式の発射台から発射され、移動が不可能、即時発射もできない「テポドン2」のようなロケットは弾道ミサイルには不適だ。日本のH2Aも同様でICBMにはまず使えない。日本の今回の騒ぎは「H2AICBMだ」と言うのと同然だ。
 東大宇宙航空研究所が中心となって開発したΜ(ギリシャ文字の「ミュー」)ロケットは固体燃料の3段ロケットで即時発射が可能、Μ-V5)は1.8tもの衛星を軌道に上げる能力があった。これは米国の主力弾道ミサイル「ミニットマン」をしのぐ、世界最高の固体燃料ロケットで、信頼性も高かった。このため米国では「日本はICBMを開発しているのでは」と疑う声も出て、私も米国人に聞かれたことがある。「ミュー」系列の開発は2006年に停止され、資金、技術は液体燃料を発射直前に注入するH2系列に集約されたが、その一因は米国の猜疑を避けるためだったかもしれない。

 人工衛星用ロケットと違いICBMには高熱に耐える「再突入体」が不可欠だ。時速2km以上の高速で落下するICBMが大気圏に突入すると、空気が圧縮されて高熱を発する。高い圧縮比を持つディーゼル機関がスパークプラグを必要としないのと同じ原理だ。
 再突入体は数千度の高熱にさらされるから、核弾頭を守るため耐熱にすることが必要で、セラミックの素材や炭素繊維などを特殊なプラスチックで固め、一部が溶けつつ熱を吸収する方式らしい。北朝鮮はそうした技術を持っていないと推定されており、それが付いていない以上「テポドン2(改)」は「弾道ミサイル」とは言えない。

 北朝鮮の大型ロケットの発射は日本海岸の無水端(ムスダン)と黄海岸の東倉里から行われているが、海岸だけに極めて攻撃を受けやすく、発射準備の状況も丸見えだ。これらは種子島宇宙センターやケネディ宇宙センターの廉価版のようなものだ。実戦用の弾道ミサイルであれば移動可能なサイズと構造にして先制攻撃を受けにくくするか、それが無理なら内陸の山地のサイロ(立て坑)に入れるだろう。

迎撃して破壊された残骸が降って来るほうが危険

 日本にとっては大型の「テポドン2」(全長30m、重量90t)ではなく小型の「ムスダン」(全長12.5m、重量12t)が本物の脅威だ。これは旧ソ連のY級原潜が搭載していた弾道ミサイル「SSN6」を基礎に開発したと言われる。12輪の自走発射機に乗せて、北部の山岳地帯のトンネルに隠れ、貯蔵可能液体燃料を填めたまま待機し、出て来て10分程で発射可能、と見られる。射程は3000km以上だから、日本全域が射程に入っている。にもかかわらず、衛星打ち上げ用以外にはまず使えそうにない「テポドン2」で政府もメディアも大騒ぎをするのは軍事知識の不足によると思わずにおれない。
 政府は「破壊措置命令」を出し、はるばる沖縄の宮古島、石垣島にまで「PAC3」を運び込んだがこれは滑稽だ。北朝鮮のロケットが順調に飛べば日本領域に落ちることはなく、日本の領空外の宇宙空間を通るだけだから迎撃の必要はない。

 超高速の弾道ミサイルに対する防衛では目標の放物線を計算して、その「未来位置」に向けて迎撃ミサイルを発射するのだが、故障が起きて目標が不規則な動きをしたり、大気圏内で分解しフラフラと落ちて来れば未来位置を予測して命中させるのは至難の業となる。
 もし焼け残ったロケットのエンジンなど金属の塊が落下して来れば、コースを計算して命中させる可能性もなくはないだろうが、それを破壊していくつかの残骸が降って来るのと、1個の残骸のまま落下するのと、いずれが危険か分からない。

 一方、韓国も対馬海峡に面する麗水(ヨス)に近い羅老島(ナロド)の宇宙センターからロシア製エンジンを使った人工衛星を打ち上げようとして2009年と2010年には失敗、2013年には成功しており、ここからの発射コースは沖縄本島付近の上空を通るだけに、東倉里からの発射より故障で落下する際の危険はやや高いが、それに備える破壊措置は出されておらず、整合性を欠いている。
 まず役に立ちそうにないPAC3を宮古、石垣に展開したのは、両島に自衛隊が地対艦ミサイルや警備部隊などを配備しようとしており、島民に対し「我々があなた方を守ります」とPRするための「展示訓練」か、と苦笑せざるをえない。

《維新嵐》北朝鮮のミサイル打ち上げは、ミサイルの発射実験ではなく、偵察衛星の打ち上げによるものだったとされます。静止衛星軌道に衛星をのせるか、衛星を出さずに大気圏に再突入するかの違いだけで、衛星打ち上げロケットと弾道ミサイルの本質は同じといえますが、仮に本来の目的が偵察衛星の打ち上げによるものであったとしても、北朝鮮が軍事的に宇宙空間から敵対国を監視できるようになるわけですから、そういう水準に達したということで「脅威」には違いないでしょう。
 ただ偵察衛星が予定通り機能していくかどうかは、技術的には未知数ですね。

 また打ち上げが弾道ミサイル発射であったとしたら、中朝関係の今後について共産中国にとって不利な外交政策を強いられるのではないか、という見方もあります。
 みなさんは、どう今回の北朝鮮の動きを判断されるでしょうか?


習近平氏による訪朝――中国に残された選択

遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
201629 1823http://news.livedoor.com/article/detail/11163055/

 北の暴走をとめることができず、かといって安保理の制裁決議にも二の足を踏む中国に、唯一できるのは習近平国家主席が自ら北朝鮮を訪問することくらいだ。北がさらに追い詰められて戦争へと暴走すれば、中国は滅びる。

打つ手をなくした中国

 20155月、モスクワで開かれた反ファシスト戦勝70周年記念のときに、習近平国家主席と金正恩第一書記がモスクワで会えるように中国側は手を尽くしたが、結局、金正恩は姿を現さなかった。
 20137月には李源朝国家副主席が訪朝したが、その年の12月には中国の窓口となっていた張成沢(チャンソンテク)が公開処刑された。中国は早くから北朝鮮に改革開放を促し、張成沢は北朝鮮の改革開放を進めるための窓口になっていた。
 201593日に北京で行われた軍事パレードに金正恩氏を招待したが、出席したのは朝鮮労働党ナンバー3の崔竜海(チェ・リョンヘ)でしかなかった。
 それでも201510月に中国はチャイ・ナセブン(中共中央政治局常務委員)の党内序列ナンバー5の劉雲山氏を訪朝させ、北朝鮮で行われる朝鮮労働党創建70周年の祭典に参加させている。そのときには習近平氏の親書を携え、核実験やミサイル発射などを抑制するよう要求している。
----- それでも北朝鮮はそれらすべてを無視して、今年1月に水爆実験と称する核実験を行なった。

最後の一手は習近平氏による訪朝――国が滅ぶよりはプライドを捨てて
 こんな中、李源朝氏や劉雲山氏よりも、ずっと身分の低い武大偉・朝鮮半島問題特別代表を訪朝させたのは、ミサイル問題でもなければ核実験問題でもなく、あくまでも六カ国協議(六者会談)の担当者としての訪朝だ。
 今さら北朝鮮が六カ国協議もないだろうと誰もが思うだろうが、しかし北朝鮮をこれ以上追いつめれば、戦争にまで発展しかねないという危機感が中国にはある。
 戦争になった場合、中朝は実質的な軍事同盟があるので、中国は北朝鮮側に付かなければならない。ということは米軍と戦うということになる。軍力的に、今の中国には、とてもアメリカに勝つだけの力はない。となれば中国の一党支配体制は必ず崩壊するだろう。
 中朝間の軍事同盟を破棄して、中国がアメリカ側に付いたとしよう。
 ロシアが黙っているはずがないから、どちらに転んでも、これは第三次世界大戦に発展しかねない。こういう事態だけは絶対に避けたいというのが中国の思いだ。
 もちろん陸続きでお隣にいる北朝鮮は、在韓米軍からの防波堤になっているので、何度も言ってきたが「唇が滅びれば、歯が寒い」ので、唇だけは温存していたいという思惑もある。

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