2015年11月26日木曜日

ことさらに共産中国と事を構えたくないアメリカ ~同盟国の防衛連携強化・国民の危機意識を高めよう~

硬軟織り交ぜてアメリカを翻弄する人民解放軍
南シナ海のFON作戦を非難する一方で米中陸軍が合同訓練
北村 淳
米国タコマ郊外のルイス・マッコード陸空軍統合基地で合同訓練を指揮する米中両軍司令官

 南沙諸島の中国人工島、スービ礁、周辺海域での「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)実施以来、オバマ大統領は中国の人工島建設に対する牽制姿勢を機会あるごとに示している。ただし、中国人工島周辺海域で実施されたFONOP1回だけで、その後は具体的行動には出ていない。
FONOPをめぐる米中の応酬
もっとも、本コラムで繰り返しているように、FONOPは建前としては中国の人工島建設を牽制するためのものではなく、あくまで「公海航行自由原則」が維持されることを海軍力を使ってアピールするためのものである。したがって、アメリカ海軍自身がメディアや政治家などに注意を喚起しているように、FONOPと“人工島をはじめとする領域問題への介入”を混同することは避けねばならない。
 とはいえ、南沙諸島の中国人工島に建設中の様々な軍事施設は「公海航行自由原則」を脅かす恐れがあるため、アメリカがそれら軍事施設の建設に反対したり、建設中の軍事施設周辺海域でFONOPを実施することは当然の行動といえよう。
そのため、アメリカ海軍は引き続き航行自由原則が侵害されないためにも、南沙諸島中国人工島周辺海域でのFONOPを実施しようとしている。次の実施海域はミスチーフ礁周辺海域と言われている。
 スービ礁で実施されたFONOPは、ある意味では予告してから実施したような結果となってしまったため、米国や中国のメディアや中国当局がFONOPを領域紛争介入と混同するような伝え方をしてしまい、さして効果は上がらなかったと考えられている。したがって、次回以降のFONOPは「静かに、かつ頻繁に」実施されることになると考えられている。
南沙諸島に中国が建設している人工島

 もちろん、中国側はアメリカを強く非難している。中国側の主張は次のとおりである。
「アメリカ海軍によるFONOPは、航行自由原則を口実にした露骨な領域紛争への介入である。ベトナムやフィリピンなども歴史的に見ても明らかに中国領である南沙諸島の島嶼岩礁を占領しており滑走路や軍事施設を設置している。領域侵害の被害者は中国であるにもかかわらず、あたかも中国だけが滑走路や軍事施設を建設しているように騒ぎ立てて、一方的にフィリピンやベトナムやマレーシアなどの側に立っているアメリカの姿勢は容認しがたい」
タコマで米中陸軍が合同訓練
 ただし、中国当局はアメリカの南シナ海への介入姿勢を非難するのと並行して、人民解放軍とアメリカ軍の協力関係を深化させる努力も推し進めている。
習近平国家主席が先日訪米した際に、マイクロソフトのビル・ゲイツをはじめとするビジネスリーダーたちと懇談したり、ボーイングからの巨額に上る旅客機購入をぶち上げたシアトル周辺は、米軍反中派からは「中国に取り込まれた地域」と言われている(もちろん冗談として)。
 そのシアトルに隣接するタコマ郊外に、巨大な敷地を誇るルイス・マッコード陸空軍統合基地がある。
 この基地には、イラク戦争に際してバグダットに突入し勇名を馳せた「ストライカー旅団戦闘団」を擁するアメリカ陸軍第1軍団司令部がある。第1軍団は歴史ある部隊で、第2次大戦後に日本占領を実施したのもこの軍団である。現在は、日米同盟の強化ということで、座間に前進司令部を設置している。
 このように、アメリカ陸軍にとってルイス・マッコード陸空軍統合基地は紛れもなく主要基地の1つである。
 ここに、中国人民解放軍の陸軍部隊が乗り込んできた。災害救援活動などでの緊急医療に関する合同訓練を実施するために派遣されたのだ。この中国軍部隊は100名にも満たない小規模部隊である。とはいっても、人民解放軍陸上部隊がアメリカ本土に、それも米軍基地に足跡を記したのは史上初の出来事である。
ワシントン州軍と災害救援訓練を実施中の人民解放軍兵士たち
訓練を見守る米中の陸軍兵士たち
米海軍や海兵隊の中国封じ込め派の将校たちの中には「(上述の)冗談が、冗談ではなくなってきているようで嫌な感じだ」と苦々しく思っているものも少なくない。
 しかし、第1軍団司令官は「中国軍とのパートナーシップのチャンネルを維持し、コミュニケーションを継続し、合同訓練を実施することは、米中間の対立をこれ以上激化させないために有用である」との見解を述べている。同様に、人民解放軍アメリカ派遣部隊司令官も「米中合同訓練は米中両国の相互理解を深め、平和を維持することを助長する」と述べている。

中国艦隊によるホノルルへの親善訪問
人民解放軍の陸軍部隊が“米軍との親交を深めている”だけではない。中国小艦隊がハワイのパールハーバーに“米中両国親善のために”近々入港する。
 いうまでもなくパールハーバーはアメリカ海軍太平洋艦隊司令部所在地であり、先日南沙諸島の中国人工島周辺海域に駆逐艦を派遣しFONOPを実施した“張本人”の本拠地だ。
 ホノルルに入港した中国小艦隊はミサイル駆逐艦1隻、ミサイルフリゲート1隻、補給給油艦1隻で編成された「第152任務部隊」である。この小艦隊は本来の任務であったアデン湾ならびにソマリア沖での民間船舶護衛任務(中国海軍としては20回目の護衛戦隊の派遣)終了後にスーダンとエジプトを訪問して、地中海からジブラルタル海峡を抜けて北欧諸国や東欧諸国を訪問した。
 その後、大西洋を渡ってフロリダのメイポート米海軍基地を親善訪問した。これは、中国人民解放軍海軍艦隊として初めてアメリカ東海岸の米海軍基地への入港であった。
 フロリダでの親善行事をこなした艦隊はキューバに滞在したのち、1118日の夕方から翌早朝にかけてパナマ運河を通過した。メキシコのアカプルコに寄港したのち、パールハーバーに向かうことになっている。
 アメリカ海軍当局は、外国艦隊や艦艇の寄港に関する詳細情報は原則として公表しないことになっている。そのため、人民解放軍第152戦隊のパールハーバー入港予定日時は発表されていない。ただし、太平洋艦隊司令部は「我々はアロハ精神によって中国の客人たちの訪問をもてなすであろう」「この種の訪問は、米中両海軍の信頼醸成に大きく貢献する。アメリカ海軍は、引き続き米中海軍の相互理解を促進し、透明性を進化させ、誤解や誤算が生ずる危険性を低減させることに役立つと信じている」といった“公式見解”を発表した。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45345?page=5
日本も何らかの行動を
 原油や天然ガスを日本にもたらすシーレーンが南シナ海を縦断していることはいうまでもない。南シナ海問題に重大な影響を受ける日本としては、南沙諸島の中国人工島、そして軍事拠点の設置により公海航行自由原則が脅かされることを傍観しているわけにはいかない。
 アメリカがFONOPを実施して以降、アメリカ政府が本腰を入れて南沙人工島問題へ介入すると考えたためか、安倍政権がしばしば中国人工島に言及するようになったようだ。しかし、いくらアメリカがFONOPを実施しても、中国がせっかく作った滑走路や軍事施設を更地に戻したり、人工島を元の暗礁に戻すことは絶対にありえない。
 繰り返すようだが、アメリカ海軍のFONOPはあくまで「公海自由航行原則を維持させる」ためのデモンストレーションであって、アメリカ海軍もアメリカ政府もFONOPによって人工島軍事基地問題が解決するなどとは微塵も考えていない。
 日本政府は「アメリカのFONOPを支持はするが、自衛隊を参加させる意思はない」と明言している。そして、「アメリカを支持する」「日米同盟を強化する」「国際海洋法を尊重すべきだ」という原則論は盛んに言い立てているが、何ら具体的行動は実施していない。
 アメリカ海軍とともにFONOPを実施すること以外にも、日本が独自に南シナ海における日本の国益を維持する施策はいくらでもある。

 アメリカ軍関係者は、「南沙諸島に誕生する中国の軍事基地群が公海航行自由原則に脅威を与えるということが分かっているのか?」と安倍政権の認識を訝っている。アメリカ軍関係者に言われるまでもなく、口先だけでなく具体的な行動をとらないと、安倍政権の認識は甚だ疑問に思われても致し方ない。

《維新嵐こう思います》米中は、反目・牽制しあいながら手をつないで協調している?適当に手の内をみせあいながら相手を「透明化」することにより、軍事的脅威を減らしていくという方針がどういう結果を招くでしょうか?こういう戦略の結果が、南沙諸島の要塞化を許してしまったのではないのでしょうか?
アメリカは、本音では南シナ海の「公海自由の原則」が守ってもらえるなら、人工島を作られてしまったところはどうしようもない、という感じがみえなくもないです。

「予算承認を」米国防長官、異例の訴え
岡崎研究所

20151125日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5627
 20151020日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙で、カーター米国防長官が、米国が国防上の任務を果たすために、議会が継続予算決議の繰り返しをするのを止め、きちんと国防歳出予算法案を通すべきである、と述べています。
Getty Images
常態化する予算審議の長期化
 すなわち、米議会は7年続けて国防歳出予算法案を会計年度に間に合うように通さなかった。そして国防省は他の省庁と同様、過去4年強制削減の影響と戦ってきた。
 米国はこのような状態が普通になることは許せない。米国政府が国防予算で四苦八苦している間、中国は南シナ海において、ロシアはウクライナとシリアにおいて情勢を不安定化させる行動に出ていて、ISも野蛮な動きを続けている。
 このような不確実な安全保障環境において、米軍は機敏で力強くなければならないのに、束縛を受けている。選択肢を注意深く、戦略的に検討すべきなのに、早急な削減を迫られている。
 無差別な削減と予算の混乱は、管理上非効率であり、納税者と国防産業にとって無駄である。そして軍事戦略にとって危険である。正直言って、それは世界に対して恥ずかしい。また米国の才能ある軍人とその家族の士気を阻喪させる。米国は、最も優れた人材を引き寄せ続け、次世代の能力を開発し、当面の脅威に対応しなければならない。米国の軍事的優位は当然与えられるべきものでも保証されたものでもない。
 通常の予算に代わって継続予算決議を長期化させることは、予算の強制削減に他ならない。もし議会が継続予算決議をまる1年続ければ、国防省の予算は、10年以上にわたった戦争のあとの兵力の体制を回復し将来に向け重要な新しい能力に投資するのに必要とされる額を、380億ドル下回ることになる。
 不幸にして、議会が審議している最新の国防予算法案は、必要な改革を制限するものである。例えば、古く、能力が劣り、優先度の低い体系を止めることを制限する。また国防費の不足を隠すため、資金を通常の予算から国防省の戦争基金会計に移すが、この予算のやりくりのため、米軍を近代的で意味のあるものにし続けるために必要な長期計画と投資をする合理的な基準が失われる。

米国の国防が直面する損害は容易に回避できる。議会が政府の国防予算を承認すればよいのである。
 私は、議会に長期的な予算取引のため行動するよう訴える。それは米国の部隊とその家族に、彼らが成功するための決意と資源があることを知らしめるとともに、世界に対し、米国が世界で最も優れた戦闘能力を計画し構築し続けるというメッセージを送ることになるだろう、と述べています。
出 典:Ashton CarterThe U.S. Military Needs Budget Certainty in Uncertain Times’(Wall Street Journal, October 20, 2015
http://www.wsj.com/articles/the-u-s-military-needs-budget-certainty-in-uncertain-times-1445379339
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国防予算削減で損なわれる米国優位
 上記論説は、国防予算をきちんと審議、成立させてほしいとの、議会に対するカーター国防長官の切実な訴えです。
 国防予算の審議について、国防長官がメディアに寄稿するのは異例のことであり、国防予算の現状について、いかに国防当局が危機感を持っているかを示すものです。
 国防予算の現状のマイナスの影響は計り知れません。カーター長官は、それは米国の軍事的優位を危うくしうるものであり、米国の軍事戦略にとって危険であり、中国やロシアそしてISの行動を見れば、許せないと言い切っています。
 カーター長官は論説で、現在議会が審議中の予算法案は、必要な改革を制限するものであると批判していますが、1022日、オバマ大統領は2016年国防授権法に拒否権を行使し、その主な理由として、同法が強制削減を含んでいること、必要な改革を認めず、予算の無駄使いとなっていることを挙げて、カーターの主張と軌を一にしています。
 カーター長官の指摘しているような国防予算の現状は、単に米国のみならず、同盟国、そして国際社会全体としても無関心ではいられないものです。日本をはじめとする同盟国、そして世界の安全に関心のある国は、米軍が「機敏で、力強く」あり続け、米国の軍事的優位が維持されることを望んでいるからです。
 本来、国防は超党派の関心事項であるべきものですが、近年は党派的利害に振り回されるケースが多くなっているようです。 国防の重要性にかんがみ、両党、特に共和党は、カーター国防長官の訴えに耳を傾け、今一度党派的利害を超えるよう努めることが望まれます。

※今のアメリカには、全面戦争はおろか局地的な紛争すら共産中国と構えることは難しそうですな。アメリカの国防圏内にある同盟国は粛々と「自主防衛」を深化させるべきかもしれません。


「航行の自由作戦」では不十分
南シナ海 中国人工島問題
20151126日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5632
新米国安全保障センター(CNAS)のフォンテイン代表が、1022日付ウォールストリート・ジャーナル紙に掲載された論説にて、南シナ海問題は領土問題であると同時に軍事問題であり、中国の戦力投射能力強化に対処するため域内関係国との協力構築が重要である、と述べています。
中国が空港などの建設を進めるファイアリー・クロス礁(Getty Images
南シナ海軍事基地建設で高まる中国の戦力投射能力
 すなわち、米海軍は中国が南シナ海に建設した人工島の12海里水域で航行の自由行動を実施すると報道されている(注:1026日に実施)。しかし、対応は航行の自由作戦に限らず、それを超えて中国の戦力投射能力の強化という側面を考えるべきだ。
 訪米した習近平は南シナ海で「軍事化を追求する意図はない」と述べたがその意味は疑わしい。外務省関係者は軍事施設の存在を確認している。
 衛星写真はフィアリー・クロス環礁に軍用機が使用可能な滑走路が存在することを示している。ハリス太平洋軍司令官は戦闘機格納庫や艦艇利用が可能な水深を持つ港が建設されている、レーダーや電子戦能力も配備されるのではないかと懸念を表明した。これらは戦力投射能力の大幅な向上をもたらす。一隻の空母しか保有しない中国は、その不利を埋め合わせるために投射能力の構築を図ろうとしている。
 問題は領海紛争だけに限定されない。中国は軍事力を使う強圧外交への志向を強めており、東南アジアへの影響は甚大である。多くの西側専門家は実際の紛争の時を考えれば基地は小規模で、攻撃も容易だと言っている。しかし、紛争に当たっては、これらの島の航空機や艦船ばかりでなく、中国本土から遠く離れたこれらの島にある状況把握能力により戦力投射能力が強化される。中国は既に航行補助装備、精密レーダーやセンサーなどのハイテク装備の設置を、非軍事的なものだとして開始している。
 さらに、島が緊急事態の際に脆弱だからといって価値がないということにはならない。それは既に対抗能力を持たない係争関係国や地域の国々への中国の影響力を高めている。
 紛争が起きた場合、最初に動く側が決定的な利点を確保する。島に置かれる設備は中国の軍事作戦がそのような成功を収めることを容易にする。
米国とアジアの関係国は、中国封じ込めではなく対中均衡を図り強圧と紛争を阻止するために、協力強化を継続すべきだ。これには、航行自由維持活動をする米海軍や南シナ海で主権を主張する国々だけでなく、地域のすべての関係国が関与すべきだ。米国が開放姿勢で協力を築こうとしていることは良いことだ。米国との多国間協力に対する関心は増えている(フィリピンの基地使用再開やベトナムへの装備売却、艦艇のシンガポール配備、豪州ダーウィンへの米海兵隊配備など)。地域内国同士の協力も深まっている。米国は、これらの国々の間のインターオペラビリティー深化を支援するとともに、これらの国が航行自由行動に参加するよう慫慂していくべきだ。
 直近の航行自由行動は重要であるが、それだけでは不十分だ。東南アジアの国々との安保関係と共同活動を強化することによって、戦力投射能力を拡大させる中国を「管理」することができる、と論じています。
出典:Richard Fontaine,Projecting Power in the South China Sea’(Wall Street Journal, October 22, 2015
http://www.wsj.com/articles/projecting-power-in-the-south-china-sea-1445533018
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日本も東南アジア諸国と共同歩調を
 説得力がある論説です。フォンテインは、南シナ海問題は、領土紛争問題にとどまらず、島への軍事アセットの配備を通じた戦力投射能力の強化という軍事問題の側面があることを強調し、それゆえ米国による「航行の自由作戦」だけでは不十分だと言っています。
 習近平の米国での言葉とは裏腹に、島を軍事基地化することによって中国は南シナ海を内水化しようとしています。他方、中国の対艦ミサイル開発によって米空母が大陸へ近づけなくなるリスクも指摘されており、南シナ海問題はそのような大きなピクチャーの中で考える必要があります。フォンテインが、島は小規模であり紛争の際には容易な攻撃対象になるとする、多くの分析家の見解に反論するのは正しいです。さらに、中国の威圧外交により、関係国の対中対応にバラツキが見られるようになっています。
 南シナ海の問題が先の米中首脳会談で激しく議論されたことは共同記者会見やその後の報道によって知ることができます。習近平は、古来中国の領土であるとして主権を主張して譲らず、オバマも取り付く島もなかったようです。それで、会談後、オバマは中国の領土主権の主張に異議を唱える目的で、米艦船を12海里水域に派遣する方針を最終決定しました。
 域内国との共同行動が不可欠であるとのフォンテインの指摘は、まさに重要です。今やこの問題はアジア太平洋の最大の安保問題です。日本も注意深く協力に加わるべきで、いずれ他国との共同航行行動を考えるべきでしょう。また、そのような協力体制構築に貢献すべきです。対中関係を慮って慎重姿勢を維持しているインドネシア、マレーシアにも働きかける必要があります。11月上旬の中谷防衛相の訪越は、日本とベトナムの海洋安全保障上の協力推進を再確認したという意義がありました。
※アメリカ海軍のFON作戦は、公海自由航行の原則を確認するための最低限のオペレーションでしょうね。むしろアメリカ海軍がこじあけて確認してくれた南シナ海の各国共通の航行の権利については、関係同盟国が戦略連携しながら維持・防衛していかなければならないでしょう。アメリカは共産中国とは、全面的に敵対することはありえないです。脅威の持ち方は、アジアの国々と比較しても同等に重いということもないでしょう。我が国には、尖閣諸島という共産中国が「核心的利益」と主張する南沙諸島とおなじくらい戦略的価値をもたれている場所があります。沖縄など南西諸島は日米共通の領土利権ということを考えれば、安保関連法ごときで国論がわかれていてはいけません。自衛隊が国防軍となること、陸上自衛隊を「海兵隊化」していくこと、サイバー戦部隊の能力を向上させること、増税政策と企業における労働者の格差を是正すること、自然災害に備えたインフラの強靭化など国家戦略をもって国土を防衛すべきことは山のようにあります。



「航行の自由作戦」継続へ 米国は妥協許すな

 岡崎研究所
 20151201日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5656

20151027日、米国は南シナ海において「航行の自由作戦」の実行に踏み切りました。それに関して、ワシントン・ポスト紙とウォールストリート・ジャーナル紙が社説を掲げ、この作戦の実施を支持しています。要旨は以下の通りです。
ワシントン・ポスト「ラッセンの定期的な通航を」
 1027日、イージス艦ラッセンは南沙諸島の礁の近傍を通航した。予想された通り、中国外務省はその領域の侵害であるとして「強い不満と断固たる反対」を表明し、「必要な全ての措置をとる」と述べた。潜在的な衝突のリスクが高まったように聞こえるが、オバマ政権の決断は正しく、そもそもとっくに行われて然るべきことであった。
 南シナ海における不埒で法的根拠を欠く領有権の防衛のための中国の挑発的行動に領有権を争う諸国は警戒感をつのらせていたが、これら諸国は米国が対応しようとしないことに同様警戒感を有していた。米国海軍はかねて中国の挑戦に対応すべきことを論じていたが、首脳会談を控えて、オバマ大統領が許可を留保していた。首脳会談で習近平国家主席はこれら人工島を軍事化しないと怪しげな約束をしたが、この約束は実際に試される必要がある。
 これが、定期的な通航が今後も継続されるべき理由の一つである。もう一つの理由はこれが国際法の下で疑いもなく合法だということである。人工島は12海里の領海を有しない。領域が侵されたという中国の主張は9段線の主張に依拠するが、この主権の主張と米艦のパトロールに対する異議を根拠づけるものは何もない。
 習近平は中国がこの地域の物理的現状を変更する間、米国にブラフをかけて傍観させておくことが出来ると結論付けていたらしい。そうではないことを習近平に解らせるためにはラッセンの行動のような更なる行動を必要とするだろう。
ウォールストリート・ジャーナル「作戦日常業務に」
 ラッセンにスビ礁とミスチーフ礁の人工島の12海里内の海域を通航させたオバマ大統領の決定は正しい。これら人工島の周囲の海域、空域に対する中国の主権の主張に根拠のないことを明確にするためには更に多くのこの種のパトロールが必要となる。これら二つの礁は低潮高地であり、領海を有しない。
 驚くべきは中国の動きに挑戦するまでの遅延である。習近平の訪米の雰囲気を壊すことを怖れてホワイトハウスは逡巡した。遅延は高価についた。この間に中国は埋め立てを加速させ、中国海軍は主権の侵害には「正面からの一撃」をもって臨むと脅かした。27日、中国外務省は米国の行動は「違法」だと言い、中国艦船がラッセンを追尾した。
 中国の今後の出方は判らないが、米国が更に通航を続けなければその努力は損なわれる。作戦は日常業務とされるものであり、疑いを持たれている米国の気迫を証明するためには一回のミッションでは充分でない。また、特に価値があるのは豪州、日本、フィリピン、そしてもしかしてインドネシアとともに行う合同パトロールであろう。インドネシアが参加すればマレーシアとシンガポールも参加するかも知れない。
出 典:Washington PostObama was right to order a sail-by in the South China Sea’(October 27, 2015
https://www.washingtonpost.com/opinions/islands-of-trouble/2015/10/27/d8b6f5f6-7cc0-11e5-beba-927fd8634498_story.html
Wall Street Journal
South China Sea Statement’(October 27, 2015
http://www.wsj.com/articles/south-china-sea-statement-1445986915
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「航行の自由作戦」に替わり得るものはない
 上記2つの社説が言っていることに違いはありません。やっとオバマ大統領は決断したかということであり、遅きに失したとはいえ、この決断を支持しています。
 中国を不必要に刺激しないためでしょうか、カーター国防長官の口は重いようです。ホワイトハウスも何も言いたがりません。米国は今回の作戦の全貌を説明していません。通航したのはスビ礁だけなのか、ミスチーフ礁も含むのかも明らかではありません。また、米国は今回の作戦の国際法との関係における性格も説明していません。国務省は、「公海(international waters)を通航することは挑発的ではない」と言っているのみです。米国の認識として「ラッセン」は無害通航の態様で通航したのか、それとも無害通航でない態様で通航したのかも明らかではありません。
 一方、中国外務省は「ラッセンは中国政府の許可を得ることなく違法に南沙諸島の当該島(複数)および礁(複数)の周辺の海域に侵入した」「中国当局はラッセンを監視し、追尾し、警告した」「ラッセンは中国の主権と安全保障上の利益を脅かした」と述べています。この発言振りによれば、中国の認識としては、ラッセンの行動は無害通航ではもとよりあり得ず、そもそも中国は軍艦に対する無害通航権を認めているのかも疑わしい状況です。そういう観点からは、ラッセンの行動は中国の立場を否定する効果を持ったということかも知れません。
 2つの社説は「航行の自由作戦」の継続を求めています。適切な判断だと思います。カーター国防長官は今後数週間、数ヶ月継続する方針を表明しています。ウォール・ストリート・ジャーナル紙がいう関係国による合同パトロールは可能ならそれを排除する必要はありませんが、米国単独の「航行の自由作戦」に替わり得るものにはなりようがないでしょう。米中間の緊張の高まりを心配する声もありますが、米国としては下手な妥協はすべきではありません。

 人工島の軍事施設建設を抑制させることは恐らく出来ません。関係国間の領有権争いを解決に導くことは、この際二義的なことです。中国の長期的な狙いが西太平洋から米軍を追い出すことにあることは疑いありません。従って、最も重要なことは、中国の脅迫に拘わらず、米軍がこの地域で自由な活動を継続出来るよう、その意思を明白に表現し続けることです。それには負担が伴うだけに、日本が適時、適切に支持を表明することが重要だと思います。



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