2015年11月20日金曜日

繰り返される惨劇・まだ終わらないテロとの戦い ~パリ同時多発テロの終着点とその影響~

銃撃戦で容疑者2人死亡 パリで新たなテロを未然に阻む
ISの終わりの始まり

佐々木伸 (星槎大学客員教授)
20151119日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5634

パリの同時多発テロの容疑者を追跡していたフランス警察特殊部隊は18日未明、市郊外のサンドニのアジトを急襲し、銃撃戦の末、容疑者2人が死亡、7人を拘束した。フランスの報道によると、容疑者らはビジネス街で新たなテロを実行する直前だった。しかしテロの首謀者とされる男らの行方は不明のままで、治安部隊による緊迫した“マンハント”が続いている。
予想を超える大掛かりな集団
18日未明の銃撃戦で待機するパリ市の救急隊員。少なくとも5人の警官が負傷している(Getty Images
捜査当局は首謀者とされるベルギー国籍のアブデルハミド・アバウド容疑者(27)が電話の盗聴などからサンドニ付近に潜んでいるとの情報をつかみ、捜索を行っていた。その中で同容疑者の女のいとこが浮上、いとこを追跡してアジトにたどり着いた。このいとこの女は警察との銃撃戦の中で、自爆した。
 警察の突入作戦は午前4時半ごろから開始、銃撃音と大きな爆発音が7回も鳴り響いた。この作戦はオランド大統領やバルス首相がエリゼ宮(大統領官邸)で実況で見守る中、実施された。捜査当局の話として伝えられるところによると、犯人らはパリ西郊外のビジネス街で新たなテロを起こす直前だった。
 しかし、肝心な首謀者アバウド容疑者は拘束した7人には含まれていないと見られ、行方は依然不明だ。同容疑者はこれまで、過激派組織「イスラム国」(IS)の幹部としてシリアに滞在し、そこで計画を立案し、同時多発テロを指揮していたと見られていた。同容疑者が仮にパリにいるというのが事実ならば、捜査当局に探知されないまま、密かにフランスに入国していたという衝撃的な事態となる。
 13日のテロの実行部隊は当初死亡した7人と見られていた。うち5人の身元が判明しているが、その後この7人の他に、死亡した容疑者の兄弟の1人、ベルギー在住のアブデスラム・サラ(26)が実行部隊に加わっていた容疑で指名手配され、さらに別なもう1人も監視カメラに捉えられていたことが分かっており、実行部隊は9人以上だった。
 未明のサンドニの急襲では、9人の容疑者が潜伏していたわけで、実行部隊も含めると、テロ・グループは少なくとも18人に上り、当初考えられていたよりもはるかに大掛かりな攻撃集団だったことがあらためて明らかになった。捜査当局は行方の分からない容疑者たち、とりわけアバウド容疑者の追跡に全力を挙げている。
 パリの同時多発テロの暗雲は欧州全体を覆っている。17日にはドイツのハノーバーで、メルケル首相も観戦するドイツとオランダのサッカー試合が予定されていたが、爆発物が仕掛けられているという情報が外国情報機関からもたらされ、ゲーム開始直前に中止になった。ベルギーのブリュッセルでもベルギーとスペインのサッカー試合がやはり中止に追い込まれた。
 米国にもテロの影響は及び、ロサンゼルスとワシントンから17日離陸したエール・フランス機への爆破警告電話があったため、それぞれ米国内とカナダに緊急着陸した。パリのテロの恐怖が世界的にまん延している様相だ。

IS終わりの始まりか
 こうした欧米の動きの一方で、フランスとロシアがシリアのISの首都ラッカに対する空爆を激化させている。フランスは17日夜もヨルダンとペルシャ湾から戦闘爆撃機10機を出動させ攻撃した。フランスは一両日中にも空爆を強化するため空母「シャルル・ドゴール」を地中海に展開する見通しだ。
 エジプト・シナイ半島で先月末に起きたロシア旅客機墜落をISのテロと断定したロシアは同組織への報復攻撃を強め、ロシア本土から長距離爆撃機を初めて出撃させてラッカ内外の約270カ所を空爆したほか、東地中海上の艦船から巡航ミサイル30発を撃ち込んだ。
 また、米国もこの2カ国と連携する形で空爆を強化しており、一部の情報によると、ラッカではISの戦闘員が多数死亡し、戦闘員の家族らがラッカを脱出して、ISの占領下にあるイラクのモスルへ移動する動きも出ている、という。IS側にかなりの損害が出ているのは確実だ。
 オランド大統領はロシアとの軍事的な協力を強めていく考えを表明し、17日プーチン大統領と電話会談。さらに24日には訪米してオバマ大統領と会い、26日にはモスクワを訪問してあらためてプーチン大統領と会談する予定だ。フランスとロシアはウクライナ問題で関係が冷却化していたが、皮肉にもパリのテロで結束が強まった形だ。専門家の1人は「テロは米仏ロの3カ国を結束させた。ISにとって裏目に出たのではないか。ISの終わりの始まりかもしれない」と指摘している。
※しかし今回のテロへのフランス政府の対応は、全く迷いがなかったですね。無差別テロは絶対許さない、つまり軍事力を即時投入して鎮圧と流れるような動きでした。


フランス海軍・空母をISIL攻撃のためシリ

ア沖に派遣

配信日:2015/11/19 22:25
http://flyteam.jp/airline/french-navy/news/article/56981
出港するフランス海軍空母シャルル・ド・ゴール

フランス海軍は、20151118日、空母シャルル・ド・ゴールを中心とする空母群(GAN)が、東地中海向けて出港したと発表しました。

シャルル・ド・ゴール空母群が到着すると、フランス軍のISILへの攻撃能力は、これまでの3倍になるとしています。このフランス艦隊に対してロシア軍は共同作戦や支援を実施するとみられます。

シャルル・ド・ゴールにはラファールM18機、シュペルエタンダールM8機、E-2C2機、ヘリコプター4機が搭載されます。

※フランス海軍も同時多発テロがパリで行われるに及んで、声明まで発表したISとの戦争を覚悟しなくてはならなくなりました。少なからぬフランス国民が死傷しているわけですから、二度と国内テロをおこさせないための「自衛戦争」ですね。


フランス海軍・空母からISILを攻撃

配信日:2015/11/24 12:25
http://flyteam.jp/airline/french-navy/news/article/57088
フランス海軍のラファール


フランス海軍は、20151123日、空母シャルル・ド・ゴールからラファール4機をシリアのISIL施設攻撃に出撃させました。ド・ゴールは1118日にトゥーロンを出港し、シリア沖から今回初めての航空攻撃です。
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日にはこれと合わせて、空軍のミラージュ2000 2機もISIL施設を攻撃しました。これによりISILの司令部と車両倉庫、整備施設を破壊しました。
 これまでフランス軍はラファール6機とミラージュ2000D/N 6機、アトランティック1機をヨルダンに派遣していましたが、空母の到着によりラファール18機、シュペルエタンダール8機が戦力に加わりました。



フランス海軍空母シャルル・ド・ゴール、紅

海でアメリカ海軍の指揮を執る


配信日:2015/12/08 21:25

http://flyteam.jp/airline/united-states-navy/news/article/57637
2015127日、スエズ運河を通過するシャルル・ド・ゴールと随伴艦

フランス海軍の空母シャルル・ド・ゴール(R91)がスエズ運河を通過して紅海に入り、2015127日、ド・ゴール座乗のRene-Jean Crignola海軍少将が、アメリカ海軍中央軍団第50任務部隊(CTF50)の指揮を執りました。

①アメリカ海軍部隊とフランス海軍部隊の統合は、アメリカ軍と他の有志連合国軍との特別な相互運用性を実証する。
②ド・ゴールの作戦参加は、空母からのISIL攻撃を再開することを意味しています。
現在、中東地域にはアメリカ海軍の空母が存在しないため、ド・ゴールの攻撃力が大きな存在感を持っています。

ド・ゴール戦闘群には、原子力潜水艦や駆逐艦、イギリスとドイツのフリゲート艦が含まれ、1118日にフランス・トゥーロンを出港しました。

【米仏軍、IS幹部殺害指令最強特殊部隊を投入 露軍と「共同軍事行動」
20151120 1712http://news.livedoor.com/article/detail/10856302/
 残虐非道な過激派組織「イスラム国」(IS)に対する、殲滅作戦が進んでいる。フランス警察は20151118日、パリ郊外にあるテロリストの拠点を激しい銃撃戦の末、制圧した。同国海軍の原子力空母「シャルル・ドゴール」も、IS攻撃に向けて出撃した。米国やロシアによる集中爆撃も続いている。これに対し、ISは、米ニューヨークへのテロ攻撃を警告する映像を公表した。世界に緊張が走るなか、「IS幹部の殺害」などを狙う、米仏露軍が誇る、すご腕の特殊部隊の存在が注目されている。
 フランス警察の特殊部隊は18日、パリ同時多発テロの主犯格、アブデルハミド・アバウド容疑者(27)らの潜伏先とされる、パリの郊外サンドニのアパートを急襲した。激しい銃撃戦の末、約7時間後に制圧した。
 フランス検察当局は19日、この急襲作戦により、主犯格とされるアバウド容疑者が死亡したと発表した。現場のアパートから見つかった遺体の指紋から身元を確認した。
 シリア北部にあるISの本拠地への攻撃も続いている。
 ロシア軍参謀本部は18日、「ISが支配する原油生産施設や、約500台のタンクローリーを攻撃した」と発表した。爆撃機による空爆や、巡行ミサイルによる攻撃とみられ、違法な輸出による収入源を絶つ狙いだ。ロシア通信が伝えた。
 フランスが誇る原子力空母「シャルル・ドゴール」(全長261・5メートル、全幅64・36メートル。乗員約1900人。艦載機は固定翼機35機、ヘリコプター5機)も同日、南仏トゥーロンの海軍基地から出港した。週末にもシリア沖に到着する。
 ロシア軍参謀本部は、シャルル・ドゴールが到着次第、ISに対して「共同軍事行動」を取ると発表した。
 IS包囲網が狭まるなか、完全制圧を目指す地上軍派遣前に、少数精鋭の特殊部隊が投入され、その存在が注目されている。
 『特殊部隊の秘密』(PHP研究所)の著書がある、フォトジャーナリストの菊池雅之氏は「米軍の『デルタフォース』と『SEALs(シールズ)』、ロシアの『GRUスペツナズ』はシリアに入っているはずだ。空爆でISの戦略拠点をたたき、特殊部隊と無人攻撃機でIS幹部を排除(殺害)する作戦といえる」と語った。
 デルタフォースは、米陸軍の特殊部隊。都市部での戦闘や敵拠点の急襲、人質奪還などを目的に、1977年に創設された。79年に発生した駐イラン米国大使館人質事件では、翌年の救出作戦「イーグル・クロー作戦」を実行した。
 米国防総省は先月22日、イラクのクルド自治政府の要請を受けた米軍特殊部隊が、クルド部隊を支援してISの拠点から人質約70人を解放したと発表した。この特殊部隊がデルタフォースとされる。
 シールズは、ベトナム戦争中の62年に創設。米海軍が誇る「最強の特殊部隊」で、地球上あらゆる場所に投入される。2001年からは国際テロ組織アルカーイダ掃討作戦に参戦し、11年5月に最高指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者を殺害したことで有名だ。
 ISの指導者、アブバクル・バグダディ容疑者も先月11日、イラク西部アンバル県のシリアとの国境近くで、イラク軍の空爆を受けた。バグダディ容疑者は負傷したが、生死は不明という。同容疑者は昨年6月、預言者ムハンマドの後継者「カリフ」を名乗り、指導者に就任した。
 パリ同時多発テロに見舞われたフランスにも、「国家憲兵隊治安介入部隊」(GIGN)がある。陸軍・海軍・空軍に次ぐ、第4の軍隊・国防省国家憲兵隊に所属する。94年に発生したエールフランス8969便ハイジャック事件で存在を知られ、今年1月の諷刺週刊紙シャルリー・エブド襲撃事件でも出動したとされる。
 首都で129人が犠牲となるテロ攻撃を受けただけに、今後、IS殲滅作戦に投入される可能性は十分ありそうだ。
 ロシアが誇る特殊部隊、GRUスペツナズは、旧ソ連時代の1950年代に創設された。アフガン紛争やチェチェン紛争などに投入され、現在は、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に所属する。情け容赦ない攻撃で恐れられている。一部の欧米メデイアが先月、「ロシアは、シリアのアサド政権を守るためスペツナズを派遣している」と報じている。

 前出の菊池氏は「デルタフォースは今年5月、ISの金庫番だったアブ・サヤフ幹部を殺害した。特殊部隊は能力が高く、確実に成果を挙げている。先日、『米政権がIS掃討作戦のために、イラクに攻撃ヘリ投入を検討』と報じられたが、これも特殊部隊の作戦強化のためとされる。しばらくは、空爆と特殊部隊、無人機攻撃による作戦が続くのではないか」と語っている。

※特殊部隊の投入が根本的に相手を掃討することは、ありえないとは思います。


妻であり母親である最愛の人を失った遺族の

手紙(要約)

パリの同時多発テロで妻を射殺されたアントワーヌ・レリ

スさんがフェイスブックにアップした手紙(要約)

2015.11.19 23:00更新 http://www.sankei.com/world/news/151119/wor1511190076-n1.html
 金曜の夜、君はかけがえのない命を奪った。私の人生最愛の人であり、私の息子の母の命を。でも、君が僕の憎しみを受けることはない。君が誰なのか、私は知らない。知りたくもない。
 私は君に「憎しみ」を贈りはしない。君はそれを望んでいるだろう。君は僕がおびえることを、街の人々を疑いの目でみることを、安全のために自由を犠牲にすることを、期待していただろう。君の負けだ。
 今朝、何日も何日も待った末に、ようやく彼女に会えた。彼女は金曜の夜、別れた時のように美しかった。そして12年前、私がどうしようもないほどの恋に落ちたときと同じように美しかった。
 もちろん、私は痛みに打ちのめされている。そこは君に小さな勝ちを譲ろう。でも、この痛みは少ししか続かない。私は、彼女が私たちを常に見守っていると知っている。そして、私たちは魂の楽園で再び巡り合うことが出来ると知っている。
 私たちは2人だけだ。息子と、私。でも、世界中のどんな軍隊よりも強い。
 なんであれ、君のために使う時間は私に残されていない。もう昼寝から起きようとしているメルビルの元に帰らなくてはならない。彼は、まだ1歳と5カ月になろうとしているばかりだ。彼はいつもと同じようにお菓子を食べる。私たちは、いつもと同じように遊ぶだろう。
 この小さな男の子が一生、幸せで自由であることは、君を恐れさせるだろう。なぜなら君は、彼の憎しみも得られないであろうから。



 パリ同時多発テロはロシアに好機?
小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研究員)
20151118日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5628

20151113日にパリで発生した同時多発テロ事件は、これまでに130人以上の死者を出し、世界に大きなショックを与えた。テロを起こしたのはイスラム過激派組織IS(「イスラム国」)と関係を持つフランス人らと見られ、当局がさらなる共犯の行方を追っている。
 もちろん、世界の紛争地域ではこれに匹敵する規模の惨劇が毎日のように発生しているにせよ、安全と見られていた先進国の首都でこれほどの規模のテロが発生したことは、米国同時多発テロ事件以降の巨大なインパクトとなった。なかでも注目されるのは、今後の国際政治に対するそれである。
モスクワのフランス大使館前に置かれた献花(Getty Images
 IS対策としてシリアへの軍事介入を行うロシアのメディアでも、今回のパリ同時多発テロの影響については活発な議論が見られた。それも、これを好機と捉える見方が多い。
 たとえば高級紙『ヴェードモスチ』は、外交政策シンクタンク「ロシア国際問題評議会」のコルトゥノフ所長の見解を以下のように紹介している。
 コルトゥノフ所長によれば、フランスのオランド政権は、今回の事件を受けてより積極的な対外政策を示す必要性に迫られている。テロ後にフランスが開始したシリアへの空爆はそのひとつ(ただしフランスは以前からシリア空爆を準備しており、ISのテロはこれに対する「先制攻撃」であったと見られる)だが、この際、フランスはすでに軍事介入を行っているロシアとの関係を緊密化させるだろうとコルトゥノフ所長は予測している。特に偵察・諜報情報の共有や軍事行動の調整などが考えられるという。
安全保障は選り好みできない
 この種の見方はほかにも数多く見られる。国営通信社ITAR-TASS1116日付)は上院外交委員会のクリモフ委員長の見解として、次のように報じている。
 「同人(クリモフ委員長)によれば、今日、政治家が導かなければならない第一の結論は、安全保障は選り好みできないということだ。「西側諸国はNATOとの協力関係を維持するだけでは自らの安全を確保できない。ロシアの大統領、外務省、議会は、テロとの戦いに関する国際的協議を呼びかけてきた。特にISとの戦いに関するものである」と同人は指摘した」
 こうした識者や政策担当者の発言から見られるのは、今回のパリ同時多発テロがロシアの進める互い政策に関して追い風になりうるという認識である。

小欄でも取り上げて来たように、ロシアはシリアのアサド政権を擁護し、軍事介入(IS対策を目的として掲げるが、攻撃の大部分はアサド政権を攻撃する非IS系反政府組織に向けられている)を行っている。一方、西側諸国はアサド政権の退陣を要求するとともに、ロシアの軍事介入が事態を複雑化させ、米国を中心とする有志連合軍とロシア軍との間で偶発的衝突が発生する可能性があるなどとして懸念を示してきた。
 これに対してロシアは今年8月頃からアサド政権を含む対IS「大連合」構想を提唱するとともに、ロシア軍をトルコ国境付近で活発に行動させることで西側のアサド政権に対する軍事介入を牽制する姿勢を示している。イスラエル、トルコ、米国などがロシアとの間で偶発的衝突防止のためのメカニズムを相次いで設立したが、「大連合」構想のほうは受け入れるに至っていない。
 実際、今回のパリ同時多発テロ事件を経ても西側がロシアの構想にそのまま乗ることは考えにくいだろう。ただし、ロシアに有利な形で妥協を引き出せる可能性は高まったと言える。
IS協力はあり得るか
 これを軍事面と政治面に分けて考えてみたい。当面問題となる軍事面について、ロシア議会の諮問機関である公共院のマルコフ委員は、「西側がロシアを対テロ連合のパートナーとして認め、態度を変化させる可能性は低い」としつつ、次のように述べている(前述のITAR-TASS記事より)。
 「ただし、米国を中心とするNATO諸国が西側の対テロ連合とロシアの間で調整アルゴリズムを設置することは充分にあり得る。これには歴史的な前例もある。第二次世界大戦中、反ヒトラー連合に参加するソ連の西側同盟国、すなわち米国及び英国は、第二戦線を開いた。そしてともに勝利したのだ。今日、政治家たちが人間の安全保障に対するテロリストの挑戦に対して決定的な反応を打ち出すべく努力を結集するという希望は残っている」
 つまり、ロシアとNATOがともに肩を並べて戦うことは考えにくいにせよ、互いが戦略的なレベルで連携し合うことならあり得るのではないか、ということである。
 第二の問題は、政治的なレベルである。パリでの同時多発テロの影に隠れてほとんど注目されていないが、ウィーンで開催されていたシリア問題に関する外相級協議が15日に終了し、共同声明が発出された。共同声明によると、米露サウジアラビアなど17カ国から成る国際シリア支援グループ(ISSG)は、シリアでの停戦に向けた取組(ただしISやアル・カーイダ系組織であるアル・ヌスラ戦線その他のテロ組織との戦いには適用されない)を支援するとともに、シリア政府と反政府組織との対話を来年11日を目処に実施する。また、世俗政府の設立と新憲法制定に向けた移行プロセスを6カ月以内に策定し、「自由かつ公正な選挙」を18ヶ月以内に全シリア人参加の下で行うとしている。

アサド退陣と引き換えにロシアの影響力維持?
 いわばシリア内戦の終結に向けた新たな和平案で米露が原則合意した形だが、細目では依然として対立が残る。最大の問題はアサド大統領の処遇で、一説によると、ロシアは今回の協議に先立ち、アサド大統領の退陣は認めるが、新政権にアサド派を参加させることや、ロシアの軍事基地を維持することなどの妥協案を提案したとも言われる。
 アサド大統領の退陣と引き換えにロシアの影響力を残すというものであるが、今回の共同声明では否定も肯定もされていない。
 もうひとつの問題は、ISやアル・ヌスラ戦線と並ぶ「その他のテロ組織」をどのように定義するかである。IS及びアル・ヌスラ戦線を「テロ組織」と認めることは共同声明でも明記されており、移行後の新政府を「世俗政権」としていることからもイスラム過激派の排除は既定路線と言える。ただ、反政府勢力を支援してきた米国やサウジアラビアとしては「その他のテロ組織」の範囲をなるべく限定したいのに対し、ロシア側としてはアサド政権閥の影響力を保つ為になるべく多くの反政府組織を新政府から排除したい。
 『ブルームバーグ』(1113日付)が端的に述べているように、ロシアが「長いリスト」を望むのに対し、米側は「短いリスト」を望むという対立が生じているのである。ロシアの経済紙『コメルサント』1113日付によれば、特に「ジャーイシュ・アル・ムハジリン・ワル・アンサール(JMA)」や「アフラ・アシュ・シャーム」といった組織をテロ組織と位置づけるかどうかが議論の分かれ目であるという。
 今後のシリア和平プロセスにおいては、こうした点が大きな焦点となると見られるが、ここでもロシアはパリ同時多発テロのインパクトを利用したいものと見られる。国際政治専門誌『国際政治におけるロシア』のルキヤノフ編集長は、ロシアは今やシリアにおける最大の軍事的プレイヤーとなっており、このような軍事的影響力を政治的影響力に変換することで和平プロセスを有利に進めうるとの見通しを述べている(ヴァルダイ・ディスカッション・クラブ、1115日付)。
    つまり、シリア内戦においてロシアが軍事的に大きな役割を果たし、西側にとっても無視できない存在である限り、和平プロセスもロシアの意向を無視しては進められないだろうという読みである。この見立てからすれば、ロシアの軍事介入は今後も後退することは考えにくいだろう。むしろ、今後の和平プロセスの進展に従ってロシアの軍事介入はさらに激しさを増してくることも考えられ、その動向が注目される。
独立総合研究所 青山繁晴氏はパリ同時多発テロについて語ります。


ISの公式スポークスマンが黒幕 パリのテロ
で対外作戦を指揮

佐々木伸 (星槎大学客員教授)
20151124日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5646
パリの同時多発テロ再発の懸念が高まるベルギーで都市機能がマヒする中、同事件を指揮した過激派組織「イスラム国」(IS)の黒幕の存在が次第に浮上してきた。ISの最高意思決定機関「諮問評議会」のメンバーにして、組織の公式スポークスマンであるアブムハマド・アドナニ(38)がその男だ。
ニューヨークタイムズスクエアでISへの抗議デモを行うムスリムたち(Getty Images
バグダディの右腕
 アドナニはシリア人で、ISの対外作戦の責任者。組織の指導者、アブバクル・バグダディの右腕的な存在で、最高幹部の1人として影響力を発揮している人物だ。パリの同時爆破テロは無論のこと、事件の前に発生したトルコ・アンカラの大規模自爆テロ、エジプトのロシア旅客機爆破、ベイルートの爆弾テロなど一連の対外作戦を計画、監督したと見られている。
 米ニューヨーク・タイムズによると、元米テロ対策センター長のマシュー・オルセン氏は「アドナニはISが台頭した1年前から対外作戦を取り仕切ってきた」と指摘している。アドナニは重要な節目では、公式スポークスマンとしてメッセージを発信するが、写真は暗殺を恐れて公表されていない。米政府が最近行った暗殺作戦を辛うじて逃れたとも伝えられている。米政府は500万ドルの賞金をその首にかけている。
 アドナニの名を知らしめたのは、昨年922日、米主導の有志連合がシリアのIS拠点に対する空爆に踏み切った時だ。アドナニはこの空爆後、「有志国連合の市民を殺害せよ」という指令を出し、注目されるようになった。この指令でアドナニは特に「薄汚れたフランス人」と名指しし、どんな手段でもためらうことなしに殺せ、と呼び掛けた。
 ちなみに専門家によると、ISのこの2年間の声明で、攻撃する、と最も多く名指しされたのはロシアで25回以上の脅しを受けた。次いでフランスの約20回が続く、という。ISの攻撃を主導している米国がトップではないのは、敵とするかつての十字軍には新興勢力の米国が歴史的に含まれないことが理由のようだ。
マングースの異名をとる
 アドナニは対外戦略の責任者として、各地域別にそれぞれの国出身のエミールと呼ばれる中堅指揮官を統括、具体的な作戦の細部はこれら指揮官に委ねているようだ。パリの同時多発テロでは、主犯格であるモロッコ系のベルギー人、アブデルハミド・アバウド(27)を監督していた。
 アバウドは2014年初め、トルコとの国境の町アザスに滞在していたとされる。当時アザスにはISの前身組織に流入する外国人戦闘員があふれかえっていた。アバウドはシリアの反体制派「自由シリア軍」との戦いで頭角を現した。目立たず、静かに、すばしこい動きをすることから、敵の戦闘員らはアバウドを“マングース”と呼んでいたほどだ、という。
 この戦闘ぶりがアドナニの目にとまり、アバウドはフランス語のネイティブであることから欧州のテロ実行部隊の隊長に抜擢された。大きな任務を与えられたアバウドはベルギー、フランスとシリアを行き来し、過激な若者らを徴募して「フランス語部隊」を創設した。
 アバウドはアドナニから「テロを早く実行するよう」相当のプレッシャーを受けていたようで、フランスの治安当局者らによると、これまでに当局が阻止したテロ事件6件のうち4件はアバウドが背後に絡んでいた。8月にアムステルダムからパリ行きの高速列車内で発生したテロ未遂事件もアバウドの計画したものだった。
 アドナニは対外作戦の実行部隊をそれぞれ複数持っていたと見られ、アバウドの部隊の他にも別の部隊がいる可能性があり、フランス、ベルギー治安当局は携帯電話などの情報や電子交信記録などを詳細に調べ、手掛かりをつかむのに躍起になっている。
 ベルギー政府は23日もテロ警戒態勢を最高レベルの4に上げ、地下鉄の運行を停止、学校も休校にするなど都市機能は一部マヒしている。特にブリュッセルのイスラム移民街モレンベークで同時多発テロが計画され、武器も調達されたことから、同地域を重点的に捜索、約20人を拘束した。

 しかし同時多発テロの後、フランスからベルギーに逃走して指名手配を受けている実行犯の兄弟の1人、サラ・アブデスラムの行方は不明のままだ。治安当局はベルギー国内に秘密のアジトがあると見て市民に警戒を呼び掛けており、欧州全体を覆うテロの恐怖はなお消えていない。

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