「日中友好」を演出して日本財界の籠絡を図る中国
北村淳
2018.11.1(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54542
米ニューヨークで日米首脳会談に臨む安倍晋三首相(左)とドナルド・トランプ米大統領(2018年9月26日撮影)。(c)Nicholas Kamm / AFP〔AFPBB
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安倍首相が訪中し習近平国家主席との首脳会談が開かれた直前、すなわち10月26日の午前中、習主席は中国人民解放軍南部戦区司令部(広東省広州市)を視察し、「戦争に備えよ!」との強い訓示をした。
習主席が対米強硬姿勢を表明
習近平国家主席が軍首脳部に対してこのような訓示をした背景には、南シナ海でのアメリカ海軍による「公海航行自由原則維持のための作戦(FONOP)」の強化や、南シナ海や東シナ海でのアメリカ空軍による爆撃機の飛行の強化、それに10月22日にアメリカ海軍巡洋艦アンティータムと駆逐艦カーティス・ウィルバーが台湾海峡を北上した動きなどがある。
台湾海峡を北上した巡洋艦アンティータム(写真:米海軍)
習主席は、“南シナ海などでの中国の主権を脅かす軍事情勢は複雑化しているが、それらの困難な状況に打ち勝つために、戦闘準備を整える演習、統合軍事演習、そして直面するであろう事態に即応した軍事演習などを強化し、戦力を充実させて戦争に備えなければならない”といった内容の対米強硬姿勢を固める指令を発した。このような「対米戦闘能力を強化せよ」という中米対決姿勢の表明と、この日の午後からスタートした安倍首相との会談で“合意”された「東シナ海を平和、協力、友好の海へ」といった日中協調姿勢の表明は好対照である。
日米同盟に亀裂を入れたい中国
トランプ政権は米中貿易戦争を開始し、さらにアメリカは、中国との軍事衝突をも含んだ「大国間角逐」に打ち勝つことを国防戦略の根本に据え、南シナ海や台湾海峡での対中国対決姿勢を強化させつつある。そんな状況に直面している中国にとって、日米同盟を「分断する」、そこまでいかなくとも「弱体化させる」あるいは「ギクシャクさせる」途を模索していることは確実である。日本がアメリカの軍事的後ろ盾を失った場合、すでに自衛隊を上回る戦力を擁する中国海洋戦力(海軍、空軍、ロケット軍)にとってものの数ではないことは言うまでもない。
アメリカにとっても、日本国内に点在する軍事施設を、中国との軍事衝突の際に前進拠点として「自由自在」に使用できなくなってしまうことは由々しき問題である。なぜならば、中国の前庭ともいえる南シナ海や台湾海峡、そして東シナ海で中国軍と対峙するアメリカ軍は、全て太平洋を超えて遠征しなければならなくなるからだ。
前進陸上拠点としての日本が必要な米軍
かつて中国海洋戦力が弱体であった時期には、たとえば1996年のいわゆる第3次台湾海峡危機に際しては、アメリカが派遣した2セットの空母機動部隊(インディペンデンス空母戦闘群、ニミッツ空母戦闘群)の前に中国軍は手も足も出ない状況であった。
1996年に中国を威嚇し封じ込めた空母ニミッツ(左)と空母インディペンデンス(写真:米海軍)
中国は、アメリカによって面子を完全に潰された苦い経験を契機として、空母部隊を中心とするアメリカ海洋戦力による中国近海への接近を阻止するための海洋戦力(各種ミサイル、爆撃機、戦闘攻撃機、水上戦闘艦、潜水艦、機雷など)の強化に邁進した。
インターネットに掲載された中国軍対艦弾道ミサイルで攻撃される米海軍艦艇のCG画像
20年にわたる臥薪嘗胆の時期を経て、現在、中国は台湾海峡のような中国沿海域はもちろんのこと南シナ海や東シナ海に進入した米海軍空母や強襲揚陸艦を撃沈するための対艦弾道ミサイルをはじめ、アメリカ軍の接近を阻止するための戦力を構築し強化させ続けている。
そのため、今やアメリカ軍が中国軍と対峙するには、日本列島から台湾を経てフィリピンの列島線に至る、中国が言うところの第一列島線上に陸上軍事拠点を築くことが絶対に必要となっている。だからこそ、中国海洋戦力の真の実力を熟知していた前太平洋軍司令官ハリス海軍大将が、中国海洋戦力を叩くのは海軍力だけでは無理であり、地上に配備した対艦ミサイルや長距離ロケット砲といった地上軍戦力も総動員しなければならないと指摘したのである。
このように、日本だけでなくアメリカにとっても、日米同盟に翳りが生じることだけは避けたい状況となっている。ということは、中国にしてみれば、日米同盟に少しでも不協和音を生じさせることこそが「戦わずして勝つ」ために極めて望ましいことになるのだ。
一歩前進した「日米同盟分断」策
中国にとって幸いなことには、経団連などの日本財界の主流は「日中友好」の名の下に安定した日中経済交流を熱望している状況である。
したがって中国としては、安倍首相の訪中をとっかかりに、上っ面だけでも良いから「日中友好」の流れを演出して日本財界を取り込んでしまえばよい。そうすれば、日本政府としても、ホワイトハウスやアメリカ軍当局による対中強硬策にすんなりと与することはできなくなるからだ。アメリカ政府とりわけトランプ政権は、アメリカが打ち出している中国との対決政策に躊躇するような姿勢を示す“同盟国”に対しては強い不信感を抱く傾向が強い。したがって、たとえ安倍政権が「東シナ海を平和の海へ」などというスローガンを本気にしてはいなくとも、日本の財界や政治家、それに政府関係者などの間に中国側に取り込まれてしまうような動きが生じれば、トランプ政権の中に日本に対する不信感が生ずることは必至である。その結果、中国側が画策しているとおり日米同盟に僅かでも亀裂が生ずることになるのだ。
〈管理人より〉共産中国が、アメリカとの関係がギクシャクした時に我が国政府とのいわゆる「日中友好」をもちだすことは、もはや常套手段といえるのではないでしょうか?我が国の中に「親中派」といわれる政治家や対中取引により既得権益を失いたくない財界がある限り、共産中国の政治に都合のよいようにコントロールされ続けるでしょう。日中戦争や第二次大戦でアジアの平和を夢見て命をかけて戦ってきた先人たちが実現したかったことは、はたして今のような日中関係だったのでしょうか?アメリカに「NO!」を言う前に中国共産党に「NO!」といえる国家にならなければこの国は主権国とはいえないでしょう。「国のかたち」を変えるときですね。政治家や既存の財界の事なかれ主義を打破すべきでしょう。お金持ちだけのために国があるのではありません。
【関連動画】
爆笑⁉【戦略系用語】「Probing:探り」中国はどうやって日米同盟に揺さぶりをかける?|奥山真司の地政学「アメリカ通信」 https://www.youtube.com/watch?v=1adR5GB6fm8
2030年の中国の軍事力と日米同盟 ― 米シンクタンクの戦略的分析と評価 https://www.youtube.com/watch?v=mx4aJhd-Ej0
安倍政権の「日中協調」宣言は米国への反逆か?
トランプ政権は中国との対決姿勢を鮮明に
北村淳
2018.11.8(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54605
中国・北京の人民大会堂前で行われた歓迎式典で、同国の李克強首相と儀仗(ぎじょう)兵を閲兵する安倍晋三首相(2018年10月26日撮影)。(c)GREG BAKER / AFP〔AFPBB News〕
アメリカの中間選挙では共和党と民主党が熾烈な争いを展開したものの、トランプ政権の対中国政策に関しては党派間の対立点にはならず、基本的には超党派的に支持されているというのが現状だ。トランプ政権の対中国政策の基本姿勢は、大統領選挙期間中、大統領就任後しばらくの期間、北朝鮮ミサイル危機の緊張が高まっていた時期、そして北朝鮮危機が去って以降と二転三転している。だが、現在幅広く支持されている基本姿勢は、10月4日にペンス副大統領がハドソン研究所(保守系シンクタンク)で行ったかなり密度の濃い演説の中で繰り返し強い言葉で示された「中国との戦略的対決」姿勢である。
明確に変針、「協調から対決へ」
ペンス副大統領の上記演説以前にも、本年(2018年)1月にペンタゴンが公表した「国防戦略概要」において、アメリカの基本的国防戦略が「国際的テロとの戦いに打ち勝つ」ための戦略から「大国間角逐に打ち勝つ」ための戦略に移行することは明言されていた。要するに、アメリカの主たる仮想敵は国際的テロリスト集団から、軍事大国すなわち中国とロシアに転換しなければならない状況に立ち至っていることが宣言されていたのである。その後、米中関係は悪化の一途をたどっており、経済面においてはいわゆる米中貿易戦争といわれる状況に立ち至っている。経済関係の悪化とともに、トランプ政権による南シナ海や台湾海峡を巡ての対中軍事牽制は強硬になりつつあり、軍事的な米中対決の構図すなわち米中冷戦に突入したと考えられる状況に立ち至っている。
ただし、米中貿易戦争はアメリカ産業界にとっては好ましい話ではない。したがって、トランプ政権としても何らかの妥協を図る可能性がないわけではない。しかしながら、米中貿易戦争が沈静化したとしても、米中冷戦は、かつての米ソ冷戦のように、どちらかが軍事的に立ちゆかなくなるまで継続する可能性が高い。なんといってもアメリカ産業界の大黒柱は、自動車や個人向け電子機器などの民生部門ではなく、軍需部門である。そしてそれらの巨大資本にとっては、相手がソ連であれ中国であれ冷戦構造の継続は決して悪い話ではないのだ。いずれにしても、トランプ政権が主導して米中貿易戦争、そして米中冷戦を引き起こしたわけであり、まさに米中関係は「協調から対決へ」と明確に変針した。そのような政策転換を強い言葉を持って明言したのがペンス副大統領の10月4日におけるスピーチであった。
日本は「競争から協調へ」
トランプ政権が「協調から対決へ」という対中姿勢を再確認するのと前後してアメリカ軍もその方向に向かって対中圧力を(若干)強化した。南シナ海では以前から断続的に実施していた「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)を加速させるとともに、南シナ海と東シナ海ではB-52爆撃機を中国側に接近させる威嚇飛行を実施した。
もっとも9月下旬に南シナ海で実施したFONOPに対しては、中国海軍側も強硬手段に訴え、あわや米海軍駆逐艦と中国海軍駆逐艦が衝突寸前という事態まで引き起こした。このような中国海軍による反撃に対抗するためペンス副大統領が対中強硬姿勢を示したのである。そして、米海軍はさらに強硬なFONOPを11月に実施するとの計画をメディアに漏らし、10月22日には、アメリカ海軍ミサイル巡洋艦アンティータムとミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバーが台湾海峡(台湾を中国大陸から隔てている海峡)を北上した。
当然のことながら中国政府は、米軍艦による台湾海峡航行を中国に対する軍事的脅迫行為かつ台湾問題という中国の内政問題に対する不当な干渉と非難した。それに対してアメリカ海軍は、台湾海峡の航行は公海上を航行しただけであり、何ら中国に非難されるいわれはなく、今後もアメリカ海軍艦艇は台湾海峡を航行するであろう、と応じている。このように米中関係は経済面のみならず軍事的にも目に見える形で悪化し、まさにトランプ政権が名実ともにスタートさせた「協調から対決へ」という米中関係が現実のものとなった。その矢先に、中国を訪問した安倍首相によって、日中関係を「競争から協調へ」という方針が打ち出されたのである。中国海洋戦力との最前線に立たされているアメリカ海軍関係者の間から“同盟国”日本に対する不審の念が表明されても、不思議なことではない。
日本こそが米中冷戦の「正面」
「大国間角逐に打ち勝つ」「協調から対決へ」などの標語によって突入した米中冷戦は、純軍事的にはかつての米ソ冷戦と違って、地上戦力ではなく海洋戦力が主たる対抗戦力となる(もちろん、全ての現代戦はサイバー戦力と宇宙戦力が大きな役割を担っており、海洋戦力も陸上戦力もそれらが弱体では機能しない)。そのため、南シナ海や東シナ海で接近阻止態勢を固めアメリカ軍を待ち構えている中国軍と対峙するアメリカ軍の海上戦力や航空戦力、それに長射程ミサイル戦力などの海洋戦力にとって、前進拠点を提供してくれる日本やフィリピンなど同盟国の存在は極めて重要である。
米ソ冷戦の時期においても、日本の航空基地や海軍基地は米軍にとって重要な拠点であった。しかしながら、米中冷戦におけるその重要性は、かつての米ソ冷戦の時期の比ではない。なぜならば、米ソ冷戦での「正面」は、あくまでもヨーロッパの地上戦域であり、日本周辺の西太平洋海域は、ソ連の「背面」を牽制するための存在という位置付けだったからだ(もちろん、「背面」や「側面」が重要でないというわけではなく、「正面」のほうがより重要である、という意味である)。
ところが、米中冷戦においては、まさに日本周辺海域こそが「正面」の一角となる。アメリカ軍は日米同盟をフルに活用して、日本に存在する航空施設、港湾施設を軍用機や軍艦の出撃・補給拠点として使用するのである。
それだけではない、中国沿岸海域や空域に接近を企てる米軍艦艇や航空機を撃破するための強力な接近阻止態勢を固めている中国軍に対して、アメリカ軍は海洋戦力に加えて地上部隊による長射程ミサイル攻撃を併用せざるを得ない状況に立ち至っている。すなわち、中国領域や中国軍機それに中国軍艦を攻撃するための対地攻撃長距離巡航ミサイル、弾道ミサイル、地対空ミサイル、地対艦ミサイルなどを日本列島上やフィリピン諸島上に展開させて、中国を威圧する態勢を固める必要に迫られているのだ。
このように米中冷戦の開幕に伴い、日米同盟はアメリカ軍にとっても実質的に必要不可欠な軍事同盟となった。その流れの中で、これまでアメリカの軍事力にすがってきた日本が日中関係を「競争から協調へ」と転換しようというのである。安倍政権にはさぞかしアメリカ側には思いつかないような深慮遠謀があるに違いない。
陸上自衛隊にみる階級制度 【元自衛隊芸人トッカグン】https://www.youtube.com/watch?v=_dhKLPfER-A
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