2018年11月27日火曜日

ついに実現!我が国初の「固定翼機搭載空母」 ~いよいよ機動部隊復活ですな~

 この記事を目にした時は、正直今でもフェイクニュースなのではないか?と思っています。もし我が国に固定翼機搭載の航空母艦が配備されたら、それはかつての帝国海軍の虎の子であり、日米戦争においてハワイ・真珠湾奇襲攻撃やセイロン島空爆で名をはせた「機動部隊」が復活することになります。今や共産中国による「現代における侵略行為」から海洋権益を防衛するためには理解できることではあります。
 これまで海上自衛隊の自衛艦隊は、旧ソ連や共産中国の原潜に対する哨戒、攻撃を目的とし、抑止となる戦力として整備されてきましたから、固定翼機搭載の空母の配備となると自衛艦隊のドクトリンそのものが大きく変化することになるでしょう。
 我が国に固定翼機搭載の航空母艦は必要なものでしょうか?
庶民レベルで今一度考えてみるいい機会ではないでしょうか?

F35B導入 いずも空母化で最終調整
NNN24
2018/11/26 14:11 https://www.msn.com/ja-jp/news/video/%ef%bd%86%ef%bc%93%ef%bc%95%ef%bd%82導入-いずも“空母”化で最終調整/ar-BBQ6k2n?ocid=spartandhp#page=2

 政府は新たな防衛計画の大綱を来月とりまとめるにあたって、アメリカ軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを導入する方針を固めた。同時に護衛艦をいわゆる「空母」に改修し、運用する方向で最終調整している。
最新鋭ステルス戦闘機F35Bは、航空自衛隊が運用しているF35Aの派生型で、短い距離で離陸し、垂直に着陸することができるのが特徴。
政府は、このF35Bを導入する方針を固めるとともに海上自衛隊の「いずも」型護衛艦の甲板を改修し、F35Bが離着艦できるいわゆる「空母」にする方向で最終調整している。中国が海洋進出を強める中、尖閣諸島を含む南西諸島の防衛力を強化する狙い。
政府は今後、こうした方針を自民・公明両党に示した上で来月とりまとめる防衛大綱の中にどのような文言で盛り込むか調整に入る方針。
護衛艦「いずも」 F35Bを艦載し空母化を検討 https://www.youtube.com/watch?v=YqxDxt3C64c



護衛艦「いずも」軽空母化とF35B導入は憲法違反か 大型空母の中国vs軽空母の日本
20180221 09:54https://blogos.com/article/279004/

「アメリカと同盟国の制空権はもはや保証されない」

[ロンドン発]イギリスの有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が毎年恒例の、世界の軍事情勢を分析した報告書「ミリタリー・バランス2018」を発表した。「中国やロシアのような大国は世界におけるアメリカとその同盟国の優勢に挑んでいる。大国間の戦争は不可避ではないが、国々が組織的に紛争の可能性に備えている」と分析した。
IISSのジョン・チップマン総所長は、北朝鮮の核・ミサイル危機やロシアの脅威より先に、急激に近代化する中国の軍事力について言及した。「中国が独自に開発した第5世代双発ステルス戦闘機、J20(殲撃20型)は2020年までに前線への実戦配備が開始される。アメリカだけがステルス戦闘機を作戦で運用できた時代の航空優勢は失われる恐れがある」
「中国は新型長距離空対空ミサイルPL15を開発し、今年中に実戦配備できるだろう」と分析。PL15は高速で索敵できるアクティブ電子走査アレイ・レーダーを装備しているとみられ、中国はこうした空対空の精密誘導技術を持つ数少ない国の仲間入りを果たした。
「中国人民解放軍空軍のゴールは中国領空でいかなる敵にも挑める能力を獲得することだ。過去30年間にわたってアメリカと同盟国のキー・アドバンテージになってきた制空権はもはや保証されているわけではない」。中国海軍も2000年以降、日本や韓国、インドを合わせたより多い潜水艦、駆逐艦、フリゲート艦、コルベット艦を建造している。
自衛隊がゲームチェンジャーとして期待するF35
 日本の自衛隊が「中国、ロシアに対する航空優勢を確保するゲームチェンジャー」と期待するのが、アメリカの多用途性ステルス戦闘機F35である。アメリカ海兵隊がF35BSTOVLタイプ=短距離離陸・垂直着陸型)16機を山口県の岩国基地に配備。アメリカ空軍もF35A(通常離着陸型)12機を沖縄県の嘉手納基地に配備した。
航空自衛隊はF35A42機、調達して配備する方針だ。さらに、海上自衛隊が軽空母からも発進できるF35Bを調達し、2026年度ごろの運用開始を目指すという報道が相次いでいる。短い滑走路しかない離島の空港や海自の「いずも」型護衛艦(満載排水量26,000トン、全長248メートル)での運用を念頭に「いずも」の軽空母化も検討しているという。
艦載機も離着陸できる「大型(正規)空母」とは異なり、短距離離陸・垂直着陸機だけを搭載できる「軽空母」とは言うものの、日本が空母を保有するのは戦後初めて。安倍晋三首相による集団的自衛権の限定的行使容認に続いて、アメリカ軍が「矛」、自衛隊は「盾」の役割に徹するという「専守防衛」を掲げてきた外交・安全保障政策の大転換となる。
空母保有は海自にとり悲願だったが、日米安保「ビンのふた」論にみられるように日本の軍事化に対する近隣諸国の警戒が強く、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないという日本国憲法上の制約がそれを阻んできた。
そもそも中国人民解放軍の海外活動は2000年ごろまで皆無に近く、その必要がなかったとも言える。がしかし、中国は東シナ海や南シナ海で領土的野心をむき出しにし始めた。中国の習近平国家主席が昨年秋「戦争に戦って勝つ強軍」の建設を表明したことから、アメリカも同盟国も東アジアでの軍事的プレゼンスを増すべきだという結論に達した。
大型空母を建造する中国
中国は旧ソ連製空母を完成させた「遼寧」を就役させ、さらに国産空母1隻を進水、滑走距離を短くできる電磁式カタパルトを備えた国産空母1隻の建造にも取りかかっている。習近平氏のインフラ経済圏構想「一帯一路」は北極圏にまで拡大し、中・長期的には中国独自のシーレーン防衛の構築が必要不可欠と考えている。
南シナ海での中国による人工島・滑走路造成を見ると、中国は軍事力の差を背景に領有権争いの存在する島々を不法占拠し、実効支配の既成事実化を進めてきたのは明らかだ。軍事力の均衡が破れたと判断すれば、中国は容赦なく前に出てくる。
これに対抗するように急浮上したのが、長距離飛行が可能な輸送機オスプレイ(V22)やF35Bを、「いずも」のようなヘリコプター護衛艦や強襲揚陸艦を使って運用する作戦だ。海上自衛隊は外見上「軽空母」に見えるヘリコプター護衛艦の「いずも」型2隻、「ひゅうが」型2隻、輸送艦「おおすみ」型3隻を保有している。
イギリスの例を見てみよう。世界金融危機以降、厳しい財政再建を強いられているイギリスだが、グローバルプレーヤーであり続けるために、独自の核抑止力と前方展開できる空母2隻を保有することを決定している。31億ポンドをかけたクイーン・エリザベス(満載排水量67,669トン、全長284メートル)が昨年12月に就役し、プリンス・オブ・ウェールズ(同)が2020年に就役する予定だ。
イギリス政府はクイーン・エリザベス級空母の搭載機をF35BからF35Cに変更して一時は正規空母の運用を目指した。しかし費用がかさみ、結局はF35Bに戻すというドタバタを演じている。今年中にはクイーン・エリザベスからF35Bが飛び立つ見通しだが、海上での作戦が可能になるのは2020年以降。
イギリスは「同盟国なら相互運用は当たり前」
この「空白」を埋めるように、アメリカ海兵隊のF35Bもクイーン・エリザベスから離着陸する方針が明らかにされた。15年当時、空母2隻の取得責任者だった英海軍のキース・ブラウント准将はメディアにこう語っている。
「我々は同盟国だ。イギリスが調達して運用するのと同じ航空機(F35B)を持つアメリカ海兵隊がクイーン・エリザベスの飛行甲板を使う機会と可能性を閉じてしまうなんてナンセンス以外の何物でもない」
ボリス・ジョンソン英外相は昨年7月にオーストラリアを訪れた際、「法の支配」に基づく国際秩序を維持するため、アジア太平洋地域での「航行の自由」作戦に2隻のクイーン・エリザベス級空母を派遣する考えを表明して、中国の反発を食らった。
一国で大型空母を保有し、艦載機を運用するのは財政が逼迫する先進国では難しくなってきた。
在日米海軍はF35Bを搭載できるように改修した強襲揚陸艦ワスプ(満載排水量41,302トン、全長257メートル)を長崎県の佐世保基地に配備。韓国もF35Bを導入するため独島級ヘリコプター揚陸艦(満載排水量18,800トン、全長199メートル)の改修を検討していると報じられた。オーストラリアもキャンベラ級強襲揚陸艦(満載排水量27,851トン、231メートル)を改修すればF35Bを搭載できるようになる。
IISSの空軍専門家ダグラス・バリー氏はF35と冒頭に触れた中国のJ20について次のように比較する。「F35はステルス性能を持ち、マルチロールに対応できる航空機だが、空対地能力に力点が置かれた非常に優れた爆撃機だ。その一方で情報・監視・偵察能力にも秀でている。J20はある程度のステルス性を持っている。J20はファイター(戦闘機)として設計されている。J20F35は役割が違う」
「空飛ぶ忍者」のネットワーク
アメリカは自国や同盟国のヘリコプター護衛艦や強襲揚陸艦のアセットをフル活用して、飛び石のようにF35Bを運用。高いステルス性能を誇るF35Bは「空飛ぶ忍者」として敵の情報を収集し、統合ネットワークを通じて後方の味方に情報を送り、敵の戦力に精密な打撃を与える能力を獲得しようとしているのだろうか。
「いずも」の軽空母化とF35B導入の報道は、安倍首相の考えというより、アメリカと同盟国の大きな戦略の一つのピースに過ぎないのかもしれない。自衛隊はF35Bを導入しても情報・監視・偵察に徹すれば「専守防衛」の範囲内にとどまり、憲法の制約もクリアできると安倍政権は考えていると筆者は見る。
IISSの海軍専門家ニック・チャイルズ氏によると、強襲揚陸艦の保有隻数はアメリカ31隻、イギリス6隻、インドネシア5隻、中国、シンガポール各4隻、オーストラリア、韓国、フランス、イタリア、スペイン各3隻の順。日本も今年3月、水陸機動団の実戦配備を開始する予定だ。
同氏は「海兵隊と海軍の強襲揚陸艦能力はアジア太平洋地域におけるアメリカの前方展開戦略のカギを握っている。その戦略はF35Bとの連携がセットになっている」と指摘する。「日本は軽空母とF35Bを保有する必要があるか」と尋ねると、チャイルズ氏はこんな見方を示した。
「中国の空母はまだアメリカと同じ能力を備えていない。しかし次世代はもっと能力を向上させているだろう。アメリカは空母3隻をアジアに派遣して存在感を示したが、常時そうできるわけではない。日本、韓国、オーストラリアは軽空母に改修できるアセットをすでに持っている。アメリカと同盟国は力を合わせられる。日本の軽空母保有には政治的、歴史的にセンシティブな問題が残るが、日本が何をしたいのか、日本にとって何が最優先課題かにかかっている」

F35Bの動画 https://youtu.be/BU5RkNRc68c

【関連リンク】
新鋭ステルス戦闘機「F-35B」の配備と軽空母時代の幕開け かわぐちかいじ氏の人気漫画『空母いぶき』のリアリティー 元海将補・岩崎洋一

政府の予算の概算要求にはみられないんですよね・・・。



防衛省の2019年度概算要求、F-15戦闘機の電子戦能力向上など

防衛省は2018831()、「平成31(2019)年度概算要求の概要」を発表しました。総額は52,986億円で、過去最大の予算を要求しています。この予算要求は、アメリカ軍再編関係経費、新たな政府専用機導入に伴う経費は除かれています。概算要求は各省庁が財務省に提出する来年度予算の見積もりで、これから12月にかけて査定が行われ予算案となります。再編や新政府専用機を含まない伸び率は7.2%、含む伸び率は2.1%です。
2019年度の概算要求は、厳しい安全保障環境の中、将来の防衛に万全を期すとして現実に真正面から向き合った防衛体制の構築と、防衛力を大幅に強化する方針から策定されています。宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を横断的に活用した防衛力の構築が意識されているほか、地域の諸外国との関係性を踏まえ、同盟国との関係の深化や発展も意識されています。
この方針の下、航空関連のクロス・ドメインの防衛力強化として、航空自衛隊の作戦システムに対するサイバー攻撃などを迅速に察知し、的確に対処する強化策として6億円、F-15戦闘機の電子戦能力の向上として2機改修に101億円と設計変更など関連経費で別途439億円、UP-3D多用機の機体改修に15億円、F-35Aに搭載するスタンド・オフ・ミサイル(JSM)の取得に73億円などを要求しています。
なお、新たな政府専用機導入に伴う経費として、2018年度は312億円、2019年度は61億円としています。各自衛隊の航空関連装備品の主な要求は以下のとおりです。
■2019年度概算要求、航空機関連
初度費はカッコ内
<陸上自衛隊>
UH-X6機、110億円(52億円)
<海上自衛隊>
P-3C機齢延伸:5機、23億円
P-3C搭載レーダーの能力向上:1式、0.3億円
SH-60K機齢延伸:3機、63億円
SH-60J機齢延伸:2機、13億円
<航空自衛隊>
F-35A6機、916億円
F-2JDCS搭載改修:2機、1億円
  (※他の部品調達を含む)
F-15能力向上:2機、101億円
E-2D2機、544億円
E-767能力向上:1機、129億円
<共同部隊>
・グローバルホーク:1機、81億円

2018年11月17日土曜日

アメリカ・トランプ政権とINF条約  国際関係論・国際政治学・軍事学の違い

米中冷戦に向けて不可欠だった米国のINF
条約撤廃

条約の枠外でINFミサイル大国になった中国
北村淳
2018.11.15(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54656
軍事パレードで行進する中国人民解放軍兵士ら。中国はINF全廃条約の枠外でミサイル開発を進めている(2017730日撮影、資料写真)。(c)STR / AFPAFPBB News

 トランプ政権が米露間の軍備制限条約を撤廃する意向を表明している。この条約は「INF条約」(Intermediat-rahge Newclear Forces Treaty)すなわち「中距離核全廃条約」と呼ばれているが、この呼び方は誤解を招きがちである。INF条約が制限している対象兵器を正しく認識していないと、トランプ政権がこのタイミングでINF条約を撤廃しようとしている真意を読み誤ることとなる。
INF条約の本当の中身
 INF条約の正式名称は "Treaty Between the United States of America and the Union of Soviet Socialist Republics on the Elimination of Their Intermediate-Range and Shorter-Range Missiles" である。もともとはアメリカ(レーガン大統領)とソ連(ゴルバチョフ書記長)の間で1987年に締結され、その後ロシアに引き継がれたため、現在は米露間の条約となっている。その正式名称の通り、この条約は「中距離核ミサイル(Intermediate Nuclear Missiles)」だけを制限するための条約ではない。核弾頭が搭載されていようが非核弾頭が搭載されていようが、また弾道ミサイルであろうが巡航ミサイルであろうが、中距離ミサイルと短距離ミサイルを制限するための条約である。
 そして、条約が制限しているのは、地上配備型の中距離・短距離ミサイルである。艦艇(水上戦闘艦・潜水艦)や航空機(爆撃機や戦闘攻撃機)から発射されるミサイルは条約の対象とはなっていない。
INF条約が締結された当時は米ソ冷戦末期である。アメリカにせよソ連にせよ主たる想定戦域はヨーロッパであった。ヨーロッパで戦闘が発生した場合、奇襲攻撃に用いられ、かつ防御手段が極めて限定的であった中距離ミサイルは、とりわけ核弾頭が装着されている場合には(双方ともに)最大の脅威になると考えられていた。そのため、米国もソ連もこのような奇襲手段を互いに保持しないことには異論がなかったのである。
だが、制限の対象は中距離ミサイルだけにとどまらなかった。ミサイル廃棄状況を相互に検証するにあたって、核弾頭搭載か非核弾頭搭載か? という相互不信を除去するために、全ての地上発射型中距離(10005500キロメートル)ならびに短距離(5001000キロメートル)ミサイルを廃棄することとなったのである。ただし、あくまで双方にとっての眼目は「核弾頭搭載中距離ミサイルの脅威を除去する」ことだったので、INF条約と呼ばれるようになったのである。
間隙を縫って中国がINFミサイル大国に
 INF条約に基づいて、ヨーロッパの戦域から地上配備型中距離・短距離ミサイル(以下、INFミサイル)は姿を消した。軍艦や航空機から発射する中距離・短距離巡航ミサイルは制限されなかったが、ヨーロッパ戦域で対峙していたNATO諸国・ワルシャワ条約諸国にとっては地上発射型ミサイルが廃棄されれば、核ミサイル奇襲攻撃による脅威の大半が消え去ることになる。
 INF条約は、配備だけでなく製造、保有、実験も禁止しているので、その後、アメリカとロシアが地上発射型中距離ミサイル・短距離ミサイルを手にすることはなかった。ところが、アメリカやロシアがINF条約に縛られている間、条約とは無関係の中国は、中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイル、長距離巡航ミサイルを次から次へと生み出し、今やそれらのミサイルに関しては世界最強の戦力を手にするに至っている(「長距離巡航ミサイル」はINF条約の定義に従うと、中距離巡航ミサイルあるいは短距離巡航ミサイルということになるが、通常は射程距離1000キロメートル前後から2000キロメートル以上の巡航ミサイルは長距離巡航ミサイルと呼ばれる)。中国ロケット軍(かつて第2砲兵隊と呼ばれた独立軍種。ロケット軍が運用するミサイルは地上発射型である)が手にしている短距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、長距離巡航ミサイルは、台湾、韓国、日本、フィリピンといったアメリカの同盟国やベトナム、インドなどのアメリカの友好国を射程圏内に捉えている。艦艇・航空機発射型の長距離巡航ミサイルでも、それらの国々を攻撃することが可能だ。
 中国の“INF弾道ミサイル”の射程圏
中国の“INF巡航ミサイル攻撃図

 また、中国軍のそれらのミサイルは、南シナ海、東シナ海それに西太平洋を中国に向けて接近してくるアメリカ海軍艦艇を撃破するためにも多大な威力を発揮することになる。
 要するに、アメリカがINF条約に縛られている間に、条約とは無関係な中国は、アメリカ軍が30年以上にわたって保有も開発もしてこなかったミサイルでアメリカ軍の接近を封殺する態勢を築き上げてしまったのである。
米中冷戦で必要なINFミサイル
 このような状況下で、トランプ政権は米中冷戦に突入した。米ソ冷戦と違い、米中冷戦の正面戦域は西太平洋、東シナ海、南シナ海である。そして、上記のように、中国軍は世界最強の中距離・短距離ミサイル戦力を擁して、中国に接近を企てるアメリカ軍(ならびにアメリカの同盟軍)を撃破する準備を整えている。つまり、米国が米中冷戦に打ち勝ち、アメリカ軍がアジア太平洋地域で覇権を維持し続けるには、中国の強大な中距離・短距離ミサイル戦力と対峙し抑止しなければならないことになる。
 しかしながら、現時点でアメリカ軍が保有している長射程巡航ミサイルは軍艦(巡洋艦、駆逐艦、攻撃原潜)に搭載するトマホークミサイルだけである。軍艦から巡航ミサイルで地上目標を攻撃する方法は、軍艦の機動性を生かすというメリットもあるのだが、衛星監視システムなどが進歩した現在、軍艦(巡洋艦や駆逐艦などの水上戦闘艦)は補足発見されやすいため、中国軍の接近阻止ミサイル攻撃の餌食となりやすい。
 その点、1000キロメートルあるいは2000キロメートル以上も遠距離の陸上からミサイル攻撃が可能ならば、十二分に強大な中国ミサイル戦力に対抗可能である。
 地上からミサイルを発射するといっても、もちろん現代の中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイル、長距離巡航ミサイルは、固定ミサイル基地ではなくTELと呼ばれる移動式発射装置(トレーラーのような大型車両に発射装置が積載されている)から発射される。そのため、ある程度の機動性もあるし、軍艦よりははるかに発見されにくい。また、超高額な軍艦を建造することを考えると、地上発射式ミサイルのコストは「極めてリーズナブル」ということになる。したがって、アメリカ軍としては、米中冷戦に打ち勝つためには、地上発射型長距離巡航ミサイル、地上発射型中距離・短距離弾道ミサイルを手にして、同盟国や友好国に展開して中国側を牽制する必要がある。そのための第一歩として、それらのミサイルを開発し配備することを禁じているINF条約から離脱しなければならないのだ。
アメリカが日本に求めてくること
 とはいえ、アメリカがINF条約による規制から自由になり、地上発射型中距離・短距離弾道ミサイルや地上発射型長距離巡航ミサイルを開発し、製造し、配備を始めたとしても、それらの地上発射型ミサイルを設置する場所を確保しなければならない。
 現在、日本や韓国には米軍施設が存在するが、それらの米軍基地内だけでしか地上発射型ミサイルを運用できないのならば、中国軍にとっての攻撃目標が特定されてしまうことになり、抑止効果は生じない。
 日本中どこにでも、そして同盟国中どこにでも、米軍TELを移動させることができなければ、地上発射型ミサイルを手にすることにより中国軍に対抗する意味がない。このまま米中冷戦が続く場合には、アメリカ側から日本各地に米軍TELを移動させるための補足条約を押しつけてくる可能性もある。
 常日頃「日米同盟、日米同盟」と念仏やお題目を唱えるように繰り返し、実際にアメリカの軍事力にベッタリ頼り切っている日本政府が、今後も日米同盟を堅持していく決意をしているのであるならば、米軍が米中冷戦で勝利を手にできるように最大限尽力する必要がある。しかしながら、日本の国土を自由自在に米軍ミサイル発射装置が動き回るようになっては、もはや独立国とは言えなくなる。そのような事態に立ち至る前に、日本自身が長距離巡航ミサイルや弾道ミサイルによる防衛態勢を固め、アメリカ軍がそのようなミサイルを日本国内に持ち込む必要性をなくしてしまうことこそ上策である(拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』講談社α新書687-1C 2015323日・参照)。もはや米中冷戦は始まっているのである。日本政府、国防当局は腹をくくった方針を打ち出し、国民に問う責務がある。

【特集】国際関係論・国際政治・軍事学 ~3つの学問はどう違うのか?
【国際関係論】 過去の戦争の歴史を研究し、なぜ勝ったのか?どうして負けたのか?の法則を導き出す学問。過去の戦争の教訓を学ぶ。 国際関係論は英語で「インターナショナルリレーション」(IR)。IRセオリーというものがある。その中で一番わかりやすいのはバランス・オブ・パワーの理論でしょう。例えば冷戦時代に米ソは、核戦力と通常戦力でとりあえず均衡していました。同じくらい強かったので戦争は抑止できた。格闘技でもお互いが強ければ最初から激しい殴り合いにはならない。 ※戦争でなぜ負けたのか?は理論で解説する。 ①適応の失敗(Failure to Adapt) 新しい技術を受け入れずに敗北した場合にあてはまる理論。 ②予測の間違い(Failure to Anticpate) 戦局の予測を間違えて戦争に負ける場合。 ③学習不足(Failure to Learn) 勉強不足で戦訓をきちんと学んでいない。 ④完全崩壊(Catastrophic Failure) ①~③のうち複数或いは全部が複合した最悪の敗北の仕方である。 (出典:『新軍事学入門~平和を望むなら、戦争の準備をせよ~』飯柴智亮など著2015年9月28日発行 飛鳥新社発行)

第3弾藤井厳喜アカデミー国際関係論:1講 国家を動かす6つの手段[H23/9/4] https://www.youtube.com/watch?v=uK1loSg2OlM

【国際政治学】 戦争が起きた、または戦争をしなくてすんだ結果に至るまでの外交交渉、政治決断の過程を分析する。戦争を避けるための外交交渉を学ぶことが重要である。 国際政治は、英語で「ポリティカルサイエンス」、4年制大学ではまず行政を学ぶ。財務省、商務省などといった各省庁が何をしているかから始まり、大統領選挙は4年に1回、その間に中間選挙が2年に1回など自国、米国の基本的な政治システムから学ぶ。(アメリカの場合)(出典:『新軍事学入門~平和を望むなら、戦争の準備をせよ~』飯柴智亮など著2015年9月28日発行 飛鳥新社発行)
潜入!アメリカ国家安全保障局(NSA) https://www.youtube.com/watch?v=hUoukfKVf8o&list=PL_KTSPaZSP8Zwmn8BD8M2-qwl7OZNad54

【軍事学】 外交交渉をやり尽くして、なお開戦に至った時にその戦争に勝つ方法を考える学問である。 軍事学は、英語だと「ミリタリー・サイエンス」。基本となる考え方は「孫子の兵法」である。軍事学の基本の大前提となるものは「プリンシプル・オブ・ウォー」(戦いの原則)がある。これは「戦争の基本」、戦争を実施するうえで何をしなければならないか?である。戦争に勝つための原理原則である。(出典:『新軍事学入門~平和を望むなら、戦争の準備をせよ~』飯柴智亮など著2015年9月28日発行 飛鳥新社発行) 【吉本隆昭】軍事学講座の必要性[桜H22/5/28] https://www.youtube.com/watch?v=kOnIc_q4qPo
【紹介】新軍事学入門 (小峯隆生,飯柴智亮,佐藤優,内山進,北村淳,佐藤正久) https://www.youtube.com/watch?v=QFT9gMDCaKU

2018年11月5日月曜日

中国共産党の日米同盟への向き合い方

一歩前進した中国による「日米同盟分断」作戦

「日中友好」を演出して日本財界の籠絡を図る中国

北村淳
米ニューヨークで日米首脳会談に臨む安倍晋三首相(左)とドナルド・トランプ米大統領(2018926日撮影)。(c)Nicholas Kamm / AFPAFPBB News

 安倍首相が訪中し習近平国家主席との首脳会談が開かれた直前、すなわち1026日の午前中、習主席は中国人民解放軍南部戦区司令部(広東省広州市)を視察し、「戦争に備えよ!」との強い訓示をした。

習主席が対米強硬姿勢を表明

 習近平国家主席が軍首脳部に対してこのような訓示をした背景には、南シナ海でのアメリカ海軍による「公海航行自由原則維持のための作戦(FONOP)」の強化や、南シナ海や東シナ海でのアメリカ空軍による爆撃機の飛行の強化、それに1022日にアメリカ海軍巡洋艦アンティータムと駆逐艦カーティス・ウィルバーが台湾海峡を北上した動きなどがある。
台湾海峡を北上した巡洋艦アンティータム(写真:米海軍)
 習主席は、南シナ海などでの中国の主権を脅かす軍事情勢は複雑化しているが、それらの困難な状況に打ち勝つために、戦闘準備を整える演習、統合軍事演習、そして直面するであろう事態に即応した軍事演習などを強化し、戦力を充実させて戦争に備えなければならないといった内容の対米強硬姿勢を固める指令を発した。このような「対米戦闘能力を強化せよ」という中米対決姿勢の表明と、この日の午後からスタートした安倍首相との会談で合意された「東シナ海を平和、協力、友好の海へ」といった日中協調姿勢の表明は好対照である。
日米同盟に亀裂を入れたい中国
 トランプ政権は米中貿易戦争を開始し、さらにアメリカは、中国との軍事衝突をも含んだ「大国間角逐」に打ち勝つことを国防戦略の根本に据え、南シナ海や台湾海峡での対中国対決姿勢を強化させつつある。そんな状況に直面している中国にとって、日米同盟を「分断する」、そこまでいかなくとも「弱体化させる」あるいは「ギクシャクさせる」途を模索していることは確実である。日本がアメリカの軍事的後ろ盾を失った場合、すでに自衛隊を上回る戦力を擁する中国海洋戦力(海軍、空軍、ロケット軍)にとってものの数ではないことは言うまでもない。
 アメリカにとっても、日本国内に点在する軍事施設を、中国との軍事衝突の際に前進拠点として「自由自在」に使用できなくなってしまうことは由々しき問題である。なぜならば、中国の前庭ともいえる南シナ海や台湾海峡、そして東シナ海で中国軍と対峙するアメリカ軍は、全て太平洋を超えて遠征しなければならなくなるからだ。
前進陸上拠点としての日本が必要な米軍
 かつて中国海洋戦力が弱体であった時期には、たとえば1996年のいわゆる第3次台湾海峡危機に際しては、アメリカが派遣した2セットの空母機動部隊(インディペンデンス空母戦闘群、ニミッツ空母戦闘群)の前に中国軍は手も足も出ない状況であった。
1996年に中国を威嚇し封じ込めた空母ニミッツ(左)と空母インディペンデンス(写真:米海軍)
 中国は、アメリカによって面子を完全に潰された苦い経験を契機として、空母部隊を中心とするアメリカ海洋戦力による中国近海への接近を阻止するための海洋戦力(各種ミサイル、爆撃機、戦闘攻撃機、水上戦闘艦、潜水艦、機雷など)の強化に邁進した。
インターネットに掲載された中国軍対艦弾道ミサイルで攻撃される米海軍艦艇のCG画像
 20年にわたる臥薪嘗胆の時期を経て、現在、中国は台湾海峡のような中国沿海域はもちろんのこと南シナ海や東シナ海に進入した米海軍空母や強襲揚陸艦を撃沈するための対艦弾道ミサイルをはじめ、アメリカ軍の接近を阻止するための戦力を構築し強化させ続けている。
そのため、今やアメリカ軍が中国軍と対峙するには、日本列島から台湾を経てフィリピンの列島線に至る、中国が言うところの第一列島線上に陸上軍事拠点を築くことが絶対に必要となっている。だからこそ、中国海洋戦力の真の実力を熟知していた前太平洋軍司令官ハリス海軍大将が、中国海洋戦力を叩くのは海軍力だけでは無理であり、地上に配備した対艦ミサイルや長距離ロケット砲といった地上軍戦力も総動員しなければならないと指摘したのである。
 このように、日本だけでなくアメリカにとっても、日米同盟に翳りが生じることだけは避けたい状況となっている。ということは、中国にしてみれば、日米同盟に少しでも不協和音を生じさせることこそが「戦わずして勝つ」ために極めて望ましいことになるのだ。
一歩前進した「日米同盟分断」策
 中国にとって幸いなことには、経団連などの日本財界の主流は「日中友好」の名の下に安定した日中経済交流を熱望している状況である。
 したがって中国としては、安倍首相の訪中をとっかかりに、上っ面だけでも良いから「日中友好」の流れを演出して日本財界を取り込んでしまえばよい。そうすれば、日本政府としても、ホワイトハウスやアメリカ軍当局による対中強硬策にすんなりと与することはできなくなるからだ。アメリカ政府とりわけトランプ政権は、アメリカが打ち出している中国との対決政策に躊躇するような姿勢を示す“同盟国”に対しては強い不信感を抱く傾向が強い。したがって、たとえ安倍政権が「東シナ海を平和の海へ」などというスローガンを本気にしてはいなくとも、日本の財界や政治家、それに政府関係者などの間に中国側に取り込まれてしまうような動きが生じれば、トランプ政権の中に日本に対する不信感が生ずることは必至である。その結果、中国側が画策しているとおり日米同盟に僅かでも亀裂が生ずることになるのだ。
〈管理人より〉共産中国が、アメリカとの関係がギクシャクした時に我が国政府とのいわゆる「日中友好」をもちだすことは、もはや常套手段といえるのではないでしょうか?我が国の中に「親中派」といわれる政治家や対中取引により既得権益を失いたくない財界がある限り、共産中国の政治に都合のよいようにコントロールされ続けるでしょう。日中戦争や第二次大戦でアジアの平和を夢見て命をかけて戦ってきた先人たちが実現したかったことは、はたして今のような日中関係だったのでしょうか?アメリカに「NO!」を言う前に中国共産党に「NO!」といえる国家にならなければこの国は主権国とはいえないでしょう。「国のかたち」を変えるときですね。政治家や既存の財界の事なかれ主義を打破すべきでしょう。お金持ちだけのために国があるのではありません。
【関連動画】 
爆笑⁉【戦略系用語】「Probing:探り」中国はどうやって日米同盟に揺さぶりをかける?|奥山真司の地政学「アメリカ通信」 
https://www.youtube.com/watch?v=1adR5GB6fm8
2030年の中国の軍事力と日米同盟 ― 米シンクタンクの戦略的分析と評価 https://www.youtube.com/watch?v=mx4aJhd-Ej0


安倍政権の「日中協調」宣言は米国への反逆か?

トランプ政権は中国との対決姿勢を鮮明に

北村淳
中国・北京の人民大会堂前で行われた歓迎式典で、同国の李克強首相と儀仗(ぎじょう)兵を閲兵する安倍晋三首相(20181026日撮影)。(c)GREG BAKER / AFPAFPBB News

 アメリカの中間選挙では共和党と民主党が熾烈な争いを展開したものの、トランプ政権の対中国政策に関しては党派間の対立点にはならず、基本的には超党派的に支持されているというのが現状だ。トランプ政権の対中国政策の基本姿勢は、大統領選挙期間中、大統領就任後しばらくの期間、北朝鮮ミサイル危機の緊張が高まっていた時期、そして北朝鮮危機が去って以降と二転三転している。だが、現在幅広く支持されている基本姿勢は、104日にペンス副大統領がハドソン研究所(保守系シンクタンク)で行ったかなり密度の濃い演説の中で繰り返し強い言葉で示された「中国との戦略的対決」姿勢である。
明確に変針、「協調から対決へ」
 ペンス副大統領の上記演説以前にも、本年(2018年)1月にペンタゴンが公表した「国防戦略概要」において、アメリカの基本的国防戦略が「国際的テロとの戦いに打ち勝つ」ための戦略から「大国間角逐に打ち勝つ」ための戦略に移行することは明言されていた。要するに、アメリカの主たる仮想敵は国際的テロリスト集団から、軍事大国すなわち中国とロシアに転換しなければならない状況に立ち至っていることが宣言されていたのである。その後、米中関係は悪化の一途をたどっており、経済面においてはいわゆる米中貿易戦争といわれる状況に立ち至っている。経済関係の悪化とともに、トランプ政権による南シナ海や台湾海峡を巡ての対中軍事牽制は強硬になりつつあり、軍事的な米中対決の構図すなわち米中冷戦に突入したと考えられる状況に立ち至っている。

ただし、米中貿易戦争はアメリカ産業界にとっては好ましい話ではない。したがって、トランプ政権としても何らかの妥協を図る可能性がないわけではない。しかしながら、米中貿易戦争が沈静化したとしても、米中冷戦は、かつての米ソ冷戦のように、どちらかが軍事的に立ちゆかなくなるまで継続する可能性が高い。なんといってもアメリカ産業界の大黒柱は、自動車や個人向け電子機器などの民生部門ではなく、軍需部門である。そしてそれらの巨大資本にとっては、相手がソ連であれ中国であれ冷戦構造の継続は決して悪い話ではないのだ。いずれにしても、トランプ政権が主導して米中貿易戦争、そして米中冷戦を引き起こしたわけであり、まさに米中関係は「協調から対決へ」と明確に変針した。そのような政策転換を強い言葉を持って明言したのがペンス副大統領の104日におけるスピーチであった。
日本は「競争から協調へ」
 トランプ政権が「協調から対決へ」という対中姿勢を再確認するのと前後してアメリカ軍もその方向に向かって対中圧力を(若干)強化した。南シナ海では以前から断続的に実施していた「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)を加速させるとともに、南シナ海と東シナ海ではB-52爆撃機を中国側に接近させる威嚇飛行を実施した。
 もっとも9月下旬に南シナ海で実施したFONOPに対しては、中国海軍側も強硬手段に訴え、あわや米海軍駆逐艦と中国海軍駆逐艦が衝突寸前という事態まで引き起こした。このような中国海軍による反撃に対抗するためペンス副大統領が対中強硬姿勢を示したのである。そして、米海軍はさらに強硬なFONOP11月に実施するとの計画をメディアに漏らし、1022日には、アメリカ海軍ミサイル巡洋艦アンティータムとミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバーが台湾海峡(台湾を中国大陸から隔てている海峡)を北上した。
当然のことながら中国政府は、米軍艦による台湾海峡航行を中国に対する軍事的脅迫行為かつ台湾問題という中国の内政問題に対する不当な干渉と非難した。それに対してアメリカ海軍は、台湾海峡の航行は公海上を航行しただけであり、何ら中国に非難されるいわれはなく、今後もアメリカ海軍艦艇は台湾海峡を航行するであろう、と応じている。このように米中関係は経済面のみならず軍事的にも目に見える形で悪化し、まさにトランプ政権が名実ともにスタートさせた「協調から対決へ」という米中関係が現実のものとなった。その矢先に、中国を訪問した安倍首相によって、日中関係を「競争から協調へ」という方針が打ち出されたのである。中国海洋戦力との最前線に立たされているアメリカ海軍関係者の間から同盟国日本に対する不審の念が表明されても、不思議なことではない。
日本こそが米中冷戦の「正面」
「大国間角逐に打ち勝つ」「協調から対決へ」などの標語によって突入した米中冷戦は、純軍事的にはかつての米ソ冷戦と違って、地上戦力ではなく海洋戦力が主たる対抗戦力となる(もちろん、全ての現代戦はサイバー戦力と宇宙戦力が大きな役割を担っており、海洋戦力も陸上戦力もそれらが弱体では機能しない)。そのため、南シナ海や東シナ海で接近阻止態勢を固めアメリカ軍を待ち構えている中国軍と対峙するアメリカ軍の海上戦力や航空戦力、それに長射程ミサイル戦力などの海洋戦力にとって、前進拠点を提供してくれる日本やフィリピンなど同盟国の存在は極めて重要である。
 米ソ冷戦の時期においても、日本の航空基地や海軍基地は米軍にとって重要な拠点であった。しかしながら、米中冷戦におけるその重要性は、かつての米ソ冷戦の時期の比ではない。なぜならば、米ソ冷戦での「正面」は、あくまでもヨーロッパの地上戦域であり、日本周辺の西太平洋海域は、ソ連の「背面」を牽制するための存在という位置付けだったからだ(もちろん、「背面」や「側面」が重要でないというわけではなく、「正面」のほうがより重要である、という意味である)。
 ところが、米中冷戦においては、まさに日本周辺海域こそが「正面」の一角となる。アメリカ軍は日米同盟をフルに活用して、日本に存在する航空施設、港湾施設を軍用機や軍艦の出撃・補給拠点として使用するのである。
それだけではない、中国沿岸海域や空域に接近を企てる米軍艦艇や航空機を撃破するための強力な接近阻止態勢を固めている中国軍に対して、アメリカ軍は海洋戦力に加えて地上部隊による長射程ミサイル攻撃を併用せざるを得ない状況に立ち至っている。すなわち、中国領域や中国軍機それに中国軍艦を攻撃するための対地攻撃長距離巡航ミサイル、弾道ミサイル、地対空ミサイル、地対艦ミサイルなどを日本列島上やフィリピン諸島上に展開させて、中国を威圧する態勢を固める必要に迫られているのだ。

 このように米中冷戦の開幕に伴い、日米同盟はアメリカ軍にとっても実質的に必要不可欠な軍事同盟となった。その流れの中で、これまでアメリカの軍事力にすがってきた日本が日中関係を「競争から協調へ」と転換しようというのである。安倍政権にはさぞかしアメリカ側には思いつかないような深慮遠謀があるに違いない。
陸上自衛隊にみる階級制度 【元自衛隊芸人トッカグン】
https://www.youtube.com/watch?v=_dhKLPfER-A