2017年1月7日土曜日

軍事力だけでは決して解決できないテロリズム

世界は再び過激派のテロに揺れている

ベルリン、アンカラで続発

佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 欧州で懸念が高まっていたテロが20161219日ドイツで起きた。首都ベルリン中心部の「クリスマス市」にトラックが突っ込み、12人が死亡、約50人が重軽傷を負った。86人の犠牲者を出した7月の仏ニースでの事件と同様、「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。トルコではロシア大使が暗殺される事件も起き、世界は再び過激派のテロに揺れている。

ISへの呼応テロか

 ドイツではクリスマス時期になると、ツリーの飾りや菓子、名物のホットワインなどを販売する屋台が並ぶクリスマス市が盛んで、ベルリンには数十カ所もある。今回、トラックが突っ込んだのは、第2次大戦の記念碑としても有名なカイザー・ウイルヘルム教会の近くのクリスマス市だった。
 目撃者らによると、トラックはライトを消したままでクリスマス市を楽しんでいた群衆に突っ込み、大きなツリーも引き倒した。トラックに乗っていたのは2人の男で、1人は警察に拘束され、もう1人はテロ現場で死亡しているのが見つかった。メルケル首相は「テロ攻撃」と断定した。
 警察当局は一時、パキスタン国籍を容疑者として拘束したが、嫌疑不十分で釈放した。この事件で、IS系のアマク通信が「われわれの戦士が実行した」との犯行声明を出した。治安関係者は、ISの直接指揮下の犯行というよりも、同組織の過激な呼び掛けに刺激された“一匹オオカミ”型のテロの可能性が高いと見て、犯人の行方を追っている。
 昨年100万人が超える難民が流入したドイツでは7月、南部のアンスバッハの野外コンサート会場でシリア人難民が自爆テロを起こしたほか、アフガニスタン人による襲撃事件も起きていた。治安当局は11月、全国的に活動していたイスラム団体「真実の宗教」をISテロに関与したとして非合法化した。
 治安当局はクリスマス市を狙ったテロが起きる可能性があるとしてドイツ全土で警戒を強め、12月はじめには、南部の都市のクリスマス市を狙ったテロ容疑でイラク系の12歳の少年を拘束した。ISの指令を受けた犯行だったとされる。
 しかしドイツを含め、フランスなど欧州の治安当局は今回のテロが爆弾や重火器ではなく、いつどこでも入手できる車が使われたことにあらためて衝撃を受けている。8月に米軍の空爆で殺害されたIS公式スポークスマンのムハマド・アドナニは「車や石、棒切れ、毒」などあらゆる手段を使ってテロを起こすよう呼び掛け、これに呼応する形でニースの車暴走テロが起きた。
 今回もニース同様、車を凶器にしたテロであれば、重火器や爆薬などの購買や流通をいくら警戒しても防げなかったことになり、治安当局の苦悩は深い。フランスでもこのほど、ディズニーランドやパリのシャンゼリゼなどを狙ったテロが摘発され、昨年11月のパリ同時多発テロ以降続けている非常事態宣言を来年7月まで延長した。
 特に治安機関が懸念しているのは、パリの同時多発テロなど欧州テロの立案などに深く関与しているIS幹部、アブ・ソレイマネ、アブ・アハマドの2人が地下に潜って行方が分からないままになっている点だ。シリアやイラクでISが追い詰められる中、欧州のテロの脅威は逆に高まっているといえる。

ロシア大使殺害はアルカイダか
 同じ19日、トルコのアンカラで開かれていた写真展「トルコ人の目を通したロシア」の開幕式でロシアのアンドレイ・カルロフ駐トルコ大使が非番のトルコ警察機動隊員に銃撃され死亡する事件が発生した。男は「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」「アレッポを忘れるな、シリアを忘れるな」と叫んだ。男は現場で警察に射殺された。
 事件後、トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談し、テロとの戦いを強化していくことで一致したが、男が殺害されていることもあり、背後関係などはまだ不明だ。しかし男が「アレッポ」に言及していることから、アレッポに猛爆撃を加えて反体制地区を制圧したロシアへの報復テロと見られている。
 その中で浮上してくるのが反体制派の一翼として戦っているアルカイダ系過激派組織「シリア征服戦線」(旧ヌスラ戦線)だ。アレッポで最後まで戦った反体制派戦闘員は約8000人。うち1000人程度が同組織の戦闘員といわれ、ロシアの空爆で多大な死傷者を出した。ロシアやシリア政府軍に対する憎悪は相当強く、同組織が背後で事件に関わっていた可能性が高いようだ。
 IS126日の声明で、米欧やロシア、トルコを攻撃するよう呼び掛けたが、アレッポでの戦闘には加わっておらず、ISが大使暗殺に関与している可能性は低いと見られている。

 この日はスイスのチューリヒでもイスラムの祈りの施設で銃撃テロが発生しており、欧州全体にテロの脅威が暗い影を落としている。

《維新嵐》 こうした一部のイスラム過激派に影響されたテロの本源ともなったイスラム原理主義。その精神的な依代であり、聖典である『コーラン』について興味深い記事をみつけましたので抜粋します。個人的にはこのような発言もありなのかな、と思います。一口にイスラム原理主義といっても過激なテロと結びつけて理解し、実践しているのは一部だといいます。ならば『コーラン』がテロやジハードを容認するものではないという解釈を打ち出し、発信していくべきではないかと思うのです。
日本人も近年二人の男性がISに殺害されているからテロリズムとは無関係ではありません。
ニュース動画

テロの温床になっているコーランの「聖戦」規定

続・地中海遥かなり(第6回)

高野凌 (定年バックパッカー)
201711http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8355

中国女性が指摘、コーランの「聖戦(ジハード)」規定がテロリズムの温床
 “続・地中海遥かなり”の旅を終えてからもマリアの神仏同一論はどこか心の中にモヤモヤと引っ掛かっていた。神仏同一論だけでテロリズムは抑えられるのだろうか。私はそもそもコーランに“異教徒との闘いで死んだ勇者は天国に行く”とテロリズムを奨励するような聖戦(ジハード)の規定がある限り狂信的イスラム教徒のテロリズムを論理的に否定することはできないと悲観していた。
 今年(20169)インド旅行中に知り合った中国広西省出身33歳の女性バックパッカー、麗媛(リーエン)は非共産党員の普通の庶民である。大学で品質管理専攻後に長年雲南省昆明の食品工場で勤務。半年前に工場を辞めて貯金を全部おろしてバックパッカー旅に出たという。
 イスラム過激派問題について私より明確かつ強固にコーランの「ジハード」規定を論難した。その場でタブレットをネットに接続して中国語に翻訳されたコーランの聖戦の段落を私に示して解説したのである。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8355?page=4
 彼女の見解を整理すると以下の通り:『ジハードの規定はモハメッドやその後継者の時代には重要な意義があったであろう。イスラムを信仰する共同体が生存圏を確保するための異教徒との闘いという歴史的背景の下で。ジハードの規定を文字通り解釈すると21世紀の現代国際社会において無実の異教徒を無差別殺害することも正当化されてしまう。ジハードの規定は現代国際社会の現実を鑑みて削除するか現代的解釈をし直すべきである。』
 まさに我が意を得たりである。カトリックですらローマ法王が“GLBTの権利”を認めるという議論をしているのである。各国・各派のイスラム指導者・法学者が集まって「ジハード」を現代解釈して“統一的現代解釈”として公開して過激集団の論拠を真っ向から否定するべきであると考える。イスラム法の専門家の意見を是非聞いてみたい。
イスタンブール・テロで明けた新年、2017年の国際情勢を暗示

佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 今年も世界はテロで明けた。トルコ・イスタンブールのナイトクラブで1日未明、無差別銃撃テロが発生し、少なくとも39人が死亡、約70人が重軽傷を負った。トルコでのテロを呼び掛けていた過激派組織「イスラム国」(IS)の犯行であることが濃厚。事件は向こう1年、世界がテロと紛争の脅威に揺さぶられるものになりそうな予感を暗示している。
テロの犠牲者を痛む親族(Gettyimages


「恐怖と流血の日々に変えよう」
 それは新年になったばかりの1日午前115分ごろに始まった。欧州とアジアをつなぐボスポラス海峡に面したイスタンブール欧州側のオルタキョイ地区にある人気のナイトクラブ「レイナ」。ここにサンタクロースのコスチューム姿の襲撃犯が侵入し、カラシニコフで無差別に銃撃した。
 当時店内は、新年を祝うセレブの常連客、外国人観光客ら約600人で賑わっていたが、銃撃で客らは一瞬にしてパニックに陥った。一部は海に飛び込んで逃げた。トルコ当局は襲撃犯を1人としている。犯人は逃走中。襲撃犯はまだ息のある客らの頭を次々に撃ってとどめを刺すという残虐ぶりだった。死者のうち16人は外国人、と伝えられている。
 トルコ内相は「テロ」と断定、また米国家安全保障会議(NSC)の報道官もテロ攻撃と非難した。犯行声明は出ていないが、ISの犯行である可能性が限りなく高い。ISが西側の堕落した場所の象徴の1つとするナイトクラブを狙っていること、また客らを無差別に殺りくする手口は一昨年のパリ同時多発テロ事件を彷彿させるものだ。
 ただ、ISはトルコでのテロには犯行声明を出さないのが通例だ。ISは指導者のバグダディが直近の声明でトルコに対するテロ攻撃を呼び掛けたほか、同組織関連のニュース機関が数日前、年末年始の休暇を「恐怖と流血の日々に変えよう」と西側でのテロを促すメッセージを発信していた。
 このため米政府は昨年末、イスラム過激派がトルコ全土でテロを起こそうとしているとして、休暇シーズンの間、人の集まる場所などでの行動に注意するよう米市民へ警告を出していた。イスタンブールでは警官17000人がテロなどを警戒して警戒態勢につき、襲撃されたナイトクラブでも、この米国の警告を受けて、店の警備態勢を強化していたという。

トランプ政権、大きなジレンマに
 トルコでは、昨年1219日にロシア大使が暗殺されるなどこの1カ月で4回もテロが発生したことになるが、大使暗殺と同じ日にはドイツ・ベルリンでトラックによる暴走テロが起き、世界に衝撃を与えた。このテロの犯人のチュニジア人難民は遺言ビデオをISに送っており、背後に同組織が介在していたことは決定的と考えられている。
 ベルリンのテロに続く今回のイスタンブール・テロによって120日に正式に始動するトランプ米政権もテロ対策を焦眉の急として最優先課題にせざるを得ないだろう。ISは昨年、分かっているだけでも、16カ国42回のテロで犯行声明を出しており、イラクやシリアの戦場で一段と劣勢になる中、西側でのテロ攻撃を激化させるのは必至とみられている。
 オバマ政権のISへの攻撃を生ぬるいと批判してきたトランプ新政権は対IS空爆をオバマ政権以上に強化することになるだろう。米主導の有志連合は2014年夏以降これまでに、ISの拠点などに17000回の爆撃を加え、国防総省によると、戦闘員約5万人を殺害した。米空爆の1日の戦費は1250万ドル(146000万円)だ。
 トランプ新政権は始動直後からこのオバマ政権下でのIS攻撃を上回る空爆強化に踏み切ると見られている。しかし空爆だけでISを壊滅するのは困難であることはこれまでの攻撃が証明しているし、テロを抑止するにも効果がないことは明らかだ。
 アナリストらによると、トランプ政権は間もなくこうした実態を思い知らされることになるが、その時、米軍の戦場での関与を強めるのかどうかが大きな分水嶺になるだろう。オバマ政権は現在、イラクに約6000人の軍事顧問団を、またシリアには約500人の特殊部隊を投入し、対IS戦での助言や訓練を行っている。
 トランプ氏は米軍のイラク侵攻などの干渉を非難し、米軍の紛争地に対する派遣には慎重な姿勢を示しているが、ISを効果的に追い詰め、テロ活動を抑止するためには、最終的には米軍の増派以外に手はない、というのが専門家の見方。トランプ政権はおっつけ大きなジレンマに直面せざるを得まい。
 テロにどう対応していくかという問題の他にも2017年はトランプ政権にとって難しい課題が目白押しだ。中国との貿易をめぐる対立、ロシアのプーチン政権との軍事的協調に踏み切るのかどうか、対ロ防衛をめぐる北大西洋条約機構(NATO)諸国との関係の行方、そして世界の火薬庫である中東への関与をどうするのか。北朝鮮の扱いも難題だ。
 トランプ政権はこうした課題に取り組むに先だって、トゲのように突き刺さったテロとの戦いにまずは振り回されることになりそうだ。



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