2016年12月8日木曜日

【米中最新戦闘機開発事情】F-35 VS J-20 ステルス戦闘機をめぐる諸問題

【米最新ステルス機F-35に“解雇”の危機?】
トランプ氏の判断はいかに
6700万円のヘルメットが「つかえて後ろが見えない」
F-35米海兵隊仕様

 次期米大統領・トランプ氏が最新ステルス機のF-35を“解雇”する可能性が出てきた。選挙中は「強いアメリカを取り戻す」として軍の増強へと舵を切る主張を繰り返してきたトランプ氏だが、最新ステルス機のF-35には「あまり優れたものだとは言えない」と赤点スレスレの厳しい評価を下しているのだ。さらにF-35は10月に入って開発計画の絶望的な遅延が明らかになり、予算は超過に次ぐ超過…。最悪の場合、やり手ビジネスマンのトランプ氏が、「You’re fired」(君はクビだ)と言い放つ可能性も出てきた。(岡田敏彦)

透けて見える

 F-35「ライトニングII」は日本の航空自衛隊も採用、導入を決めており、9月には日本向け第1号機が引き渡された。11月30日には、航空自衛隊のパイロットらが訓練のため遠征している米国アリゾナ州のルーク空軍基地にこの機体が到着、いよいよ訓練を始める。
 F-35はレーダーに映らないステルス性を持ってるのが最大の特徴だ。また各種センサーを機体各部に取り付け、ヘルメットのガラス部に直接表示できる。これまでの戦闘機なら、パイロットが下を向いても操縦席の床しか見えなかったが、F-35なら下方から迫る敵機の映像もヘルメットのガラス部に表示できる。あたかも機体が透けているかのように、先の景色が見えるというわけだ。価格は約60万ドル(約6700万円)で、おそらく世界一高額なヘルメットだろう。


 空中戦で最も大切なことは、先に敵を見つけること。これは古今東西の戦闘機パイロットが述べてきた。F-35は、自身はステルス性で敵に見つかることがない。そして遠方の敵機については味方のレーダー探知結果をデータリンクで受け取り、(自機がレーダーを使えば、その電波が探知され、存在が露呈する可能性がある)、近くの敵機に対しては死角のない各種センサーで対応する。
 こうした特徴をみれば、最強の戦闘機とも言えるF-35だが、トランプ氏はその性能を疑問視している。

情報流出

 米メディアのブルームバーグ(電子版)は、トランプ氏が2015年10月にラジオ局のインタビューで、F-35の開発費用の高騰を批判し「あまり優れたものだとは言えない。現在使っている戦闘機の方がいいと聞いている」と述べたと11月中旬に報じた。
 「現在使っている戦闘機」とは、空軍のF-16ファイティングファルコンやステルス機のF-22ラプター、航空自衛隊も運用するF-15イーグルなどを指す。F-16の開発が始まったのは1970年代初頭だ。以降40年以上の間に、戦闘機に関する技術は飛躍的に進化している。にもかかわらず「最新鋭ステルスより現用機」とトランプ氏が言うには理由がある。実はインタビューの3カ月前、米国で衝撃的なリポートが流出したのだ。


 F-35は空中戦ができないとテストパイロットが認めた-。米国の軍事関連サイト「WAR is BORING」(WIB)は2015年6月29日、こんな刺激的な見出しで、F-35の開発のため実際に搭乗し試験を行っているパイロットの報告書の内容を明らかにした。
 報告書は同年1月14日にカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地近くの太平洋上で行われた、F-35ライトニングIIとF-16ファイティングファルコンの模擬空戦の内容をまとめたものだ。
 テストパイロットは報告書で「F-35は、F-16と戦うにはあまりに低速だった。すべての場面でエネルギー的に不利だった」と、絶望的な評価をしている。ほか、専門的には「ミサイルを発射するために必要なピッチレート(機種上げ姿勢に移る速さ)が非常に遅い」「高迎え角での運動性が悪い」などが指摘されていた。ごく簡単に言い換えると、「機体が重く、エンジンのパワーが足りない。総じて動きが鈍くさい」ということだ。。
 ちなみにこの時のテスト条件は、F-35は胴体内ウエポンベイ(兵装収容部)にミサイルや爆弾は積まない身軽な状態。一方のF-16は大きな増加燃料タンクを両翼下に1本ずつ吊り下げた状態で、明らかにF-35が有利なはずだった。
 さらに、最新鋭の「死角のない」ヘルメットにも問題が出た。「ヘルメットが大きすぎて、キャノピー(操縦席の頭上を覆う透明部分)につかえてしまい、後ろを見られない」というのだ。
 トランプ氏はこうした情報を側近から入手しており、F-35を「あまり良くない」とするのだ。


 こうした情報流出はその後も続いた。8月末にはF-35の運用テスト評価責任者の「飛行試験は進んでいるものの、計画は遅れている。特に(戦闘飛行や地上攻撃用の)ソフトウエア開発は遅れている」などとするメモが流出した。
 WIBなど米メディアはこのメモを分析し、F-35の開発状況を次のように評した。
 いわく、F-35の開発予算は超過しており、これ以上赤字を出さないために開発を“打ち切る”という。もちろん事実上の開発は続くが、それは予定していた「作戦テスト」のなかで行う。そうすれば作戦テスト用の予算を使えるからだ。こんな方法では、さらに計画は遅れ、費用が高騰することは歴史が示している-。
 開発費の超過は、一部では5億3千万ドル(約600億円)ともされる。

欠点は克服できる?

 一方で、新戦闘機の選択肢はF-35しかないというのは米マスコミの一致するところだ。また、先のF-35の“欠点”を否定する意見もある。航空専門サイト「ザ・アビエーショニスト」では9月20日、F-35開発に関わるノルウェー空軍のテストパイロットの意見を紹介した。
 このパイロットは、プログラムの問題はスマートフォンが頻繁に基本ソフト(OS)を更新するのと同様で、最初のバージョンのプログラムで100%の性能を発揮するわけではないと指摘する。パワー不足についても「F-35に乗った感想は、F-18ホーネット(米海軍のエンジン2基の双発機)にエンジンを4つつけて飛ばしているようだった」という海兵隊パイロットの言葉を紹介し、そのパワー(推力)を賞賛している。さらに「(レーダーに映らない)ステルス機能は、後付けできるものではない」と、F-35の素性をかけがえのないものと評価している。


 また、開発責任者の空軍幹部、ジェフリー・ハリガン氏は、そもそもF-35は、敵が目で見えないような長距離からミサイルで攻撃する戦闘機であって、模擬空戦のように「目で見える」空中戦を行う必要などないと主張している。現実問題として、有視界での空中戦が起こる可能性は、程度の差こそあれ高くはないとの見方が各国空軍では支配的だ。

トランプ氏の決断

 性能については諸説あるF-35だが、共通しているのは結局、費用が高騰しているということに尽きる。
 米国はF-35を約2400機配備することを予定しており、空軍型(A型)1機の価格は約9500万ドル(約107億円)。2019年にフル生産に移行させるかどうかを決定する予定だが、その決定を下すのは次期大統領のトランプ氏とジェームズ・マティス次期国防長官だ。
 かつてトランプ氏が主役として出演していた、自分の部下を勝ち抜き形式で選ぶ米NBCの人気番組「ジ・アプレンティス」では、部下希望者に様々な課題を課し、脱落者に対してトランプ氏が「君はクビだ(You’re fired)」という決めセリフが人気を呼んだ。
 果たして厳しいビジネス界を生き抜いてきたトランプ氏が「赤字の成る木」をクビにせず、そのまま育てるのか。F-35の開発メーカーであるロッキード・マーチン社を始め採用国の軍関係者は注目している。

F-35武装・空中給油
F-35空母ニミッツ艦上試験

最新鋭ステルス戦闘機に見る中国のジレンマとコンプレックス

小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官)

 2016111日、中国の広東省珠海市で開催された航空ショー「国際航空宇宙博覧会」で、ひときわ外国メディアの目を引く航空機が公開された。近々、中国人民解放軍空軍に配備が予定されているJ-20戦闘機である。J-20は、中国が「米空軍のF-22に匹敵する」と豪語する、中国国産の最新鋭戦闘機であり、「ステルス性能を有する第5世代の戦闘機である」とされる。

中国国際航空宇宙博覧会で一般公開飛行されたJ-20戦闘機
(写真:ロイター/アフロ)

技術の違法コピーでロシアと交渉決裂
 J-20が注目されるのは、中国が自力で開発した高性能戦闘機である可能性があるからだ。中国が現在、主力として使用している戦闘機は、ロシア製のSu-27とそのライセンス生産機であるJ-11である。しかし、ロシアは、中国がJ-11をライセンス生産するにあたって、多くの違法な技術のコピーを行ったとして、中国が空母艦載機として導入を希望していたSu-33の輸出を拒否した。両国間で、技術提供や価格などについて折り合いがつかずに交渉が決裂したとされているが、ロシアが拒否したのは、中国が少数の機体しか購入せず、後は違法にコピーするということを実際に行なってきたからだ。
 このため、中国は、ウクライナからSu-33の試作機を購入してコピーし、J-15戦闘機を製造してきた。ところが、この時、中国は設計図を入手できなかったと言われている。J-15の艦載機としての能力が著しく劣るのは、当然の帰結と言えるだろう。エンジンの出力が足りないために、艦上で運用する際の燃料や弾薬が、陸上から運用する際の6分の1の量しか搭載できないとするものもある。
 中国がコピーしたJ-15は使い物にならなかった。20165月現在、J-15の製造は16機で止まったままだ。航空機や艦艇といった武器装備品は、いくら部品を正確にコピーしても、完成品の性能はオリジナルにははるかに及ばない。航空機であれば、時には、まともに飛ぶことさえできない。航空機の開発・製造は、それだけ難しいのである。それでも、中国はメンツにかけて「自国の技術」で問題を解決したいのだろうか。

中ロ間のパワー・バランスに関わる軍事技術
 しかし中国には、メンツにこだわっている時間はない。少なくとも2隻の建造中の空母を運用する準備を進めなければならないのだ。その準備の中でも最も難しいのが、空母艦載機部隊の養成である。艦載機となる機体すらないのでは、訓練どころの話ではない。中国は、早急にロシアに援助を求めなければならないだろう。
 ロシアは、これも違法コピーを理由に渋っていた、中国に対するSu-35の輸出に同意し、201511月、24機の同機を中国に輸出する契約を結んでいる。ロシアが気にしていたのは、中国が戦闘機を違法コピーしてロシアに金を落とさないことである。24機というまとまった機数の契約であったので、ということはある程度の金額の契約になったので、ロシア側も中国の要望に応じたということだろう。Su-33にしても、中国が違法コピーを認めて金を積めば、ロシアは技術支援するということでもある。
 J-15の問題は、それで解決できるかもしれない。しかし、外国から武器装備品を導入するということは、輸入元の国と常に良好な関係を維持していなければならないということである。しかも、輸入元の国の意図次第で、いつでも輸出を止められる可能性がある。理不尽だろうが何だろうが、その理由などいくらでもつけられる。
 この意味においても、中国にとってロシアとの関係は、常に頭の痛い問題である。いくら信頼できないからと言って、あからさまにロシアを不愉快にさせられないのだ。中国が自国で高性能戦闘機の開発・製造ができるようになれば、中ロ間のパワー・バランスに変化が生まれる。「その行使がなければ採らないであろう行為を相手に採らせる力」が「パワー」であることを考えれば、中国が自国開発できない軍事技術は、ロシアにとって、正にパワーの重要な構成要素であるのだ。
戦闘機としての飛行能力に問題ありか
 もちろん、米国という共通の敵がいる限り、中ロ両国は、なにがしかの形で協力しなければならないが、ロシアは、中国に言うことを聞かせる切り札を1枚失うことになる。実際のところ、中国は、軍事技術供与というロシアのくびきからのがれることができるのだろうか。
 どうも、そう簡単にはいかないようだ。2011年に初めての試験飛行に成功し、その動画を流出させてその存在を明らかにして以降も、J-20の開発は順調に進んできたように見えない。特に中国が技術的に弱いのが、高性能航空エンジンである。先に述べた、空母艦載機J-15の最大の欠点もエンジンであると言われる。自国開発できないために、ロシアから購入したSu-27等に用いるためのエンジンを拝借しているという。
 J-20の状況も似たようなものなのだ。2011年に初飛行した2機のJ-20の内、1機には中国国産エンジンが、もう1機にはロシア製エンジンが搭載されていたと言われる。この国産エンジンは、1980年代から中国航空産業が開発を進めてきたものである。このエンジン開発がある程度の成果を収めたので、90年代からさらに高性能の航空エンジンを開始したとされている。
 この新しい航空エンジンの開発も難航しているようだ。現在に至ってもまだ、中国空軍が納得する性能を有したエンジンは開発できていないということである。J-20には、国産エンジンではなく、ロシア製エンジンを搭載することになるだろうとも言われている。
 また、J-20の全長及び全幅は米空軍のF-22と変わらないものの、翼形を含む機体の形状が、そのステルス性を疑わせる。敵の防空レーダーに容易く探知されてしまうのではないかということだ。さらに、珠海航空ショーで初めてデモ・フライトを行った際、高い動力性能や運動性能を示すような飛行形態を一切見せなかった。戦闘機としての飛行能力に問題があるのかもしれない。J-20が、米国のF-22に挑戦する能力があるという見方には、常に疑問符が付きまとうのだ。
外交カードとしての意義
 しかし、J-20の性能は、そもそも問題ではないのかもしれない。2011年に初飛行の様子を撮影した動画が流出した時には、中国が新戦闘機を開発中であることは既に周知の事実であったので、その存在自体に衝撃を受けた訳ではない。問題は、中国がJ-20の開発を外交の道具として使用したことである。
 J-20の初飛行の動画流出は、ゲーツ国防長官(当時)の訪中の最中であった。さらに、胡錦濤総書記(当時)の訪米直前というタイミングでもあったことから、米中関係に微妙な影響を与えた。中国が米国に軍事的に対抗する意図を見せたようなものだからだ。また、日本及び台湾などに対する心理的影響もあっただろう。もちろん、中国に対する脅威認識を高めたのである。
 仮にJ-20F-22に対抗する能力を持たないとしても、中国は少なくともミサイルや実弾を搭載して飛行することができるステルス機らしい航空機を自国開発できることを示したのだ。J-20は、日本や米国、さらにはロシアに対する外交カードの一枚として大きな意義を持っているということである。
最新技術や最高速力にこだわる中国
 そもそも、全ての戦闘機にステルス性能が求められるかどうかも考えなければならない。ステルス性能とは、簡単に言えば見つかりにくい能力のことである。レーダー波が反射しにくい機体の外形や電波を吸収する塗装などによって、主として敵のレーダーに探知されないことを目的としている。しかし、このステルス性が第5世代の戦闘機の条件であると定義されている訳ではない。実のところ、ステルス性だけでなく、どのような性能を持てば第5世代なのかという明確な定義はないのだ。
 20152月、米海軍作戦部長のグリナード大将(当時)は、海軍の次期戦闘機にはステルス性も過度の高速飛行能力も必要ないと述べている。レーダーの性能がますます高くなる中で、全く探知されない航空機は存在しない。さらに、航空機は、エンジンを回さなければ飛ぶことはできず、どんなに抑え込んでも熱は発する。センサー技術は、航空機技術と同様に、著しく進歩しているのだ。さらに、ミサイルを速度で振り切ることができる戦闘機の開発も難しい。
 しかし、米海軍はすでにステルス性を有するF-35の導入を決めている。グリナード作戦部長の発言と矛盾していると思われるかも知れないが、海軍は、F-35を、前方に展開するセンサー・ノードとして使用することを考えているようだ。
 空母打撃群が展開する、いわゆるNIFC-CA Naval Integrated Fire Control Counter Air)コンセプトの一部として使用するということである。どのような目的でどのように使用するかによって、航空機に求められる性能は異なるのだ。
 ならば、米海軍が考える戦闘機の必要条件とは何か。それは、武器・弾薬の搭載量が大きいことである。戦闘機に求められるのは、航空優勢の確保である。そのためには、搭載する武器・弾薬が多いに越したことはない。大きな機体が必要なのだ。米海軍は、次期戦闘機F/A-XXを、2030年にF/A-18E/Fスーパーホーネットの後継機として採用する予定である。
 米海軍は、武器装備品に関する技術の推移と、技術発展による戦闘様相の変化を踏まえ、自らのオペレーションのために、どのような戦闘機が必要となるのかを考えている。むやみに、ステルス性能や無駄な高速飛行性能を追求することに意味はないのだ。戦闘機の速度にしても、以前は米ソの間で「最高速力」が競われたが、現在では、瞬間の最高速力ではなく、巡航時の超音速飛行の方が重要であると考えられている。

 航空機だけでなく、レーダー等のセンサーを含む武器装備品の在り方は、時代とともに変化するのである。中国は、一般的に、最新技術や最高速力等にこだわりがちだ。それは、自らが遅れているというコンプレックスの現れでもある。もし、中国が、戦闘様相の変化や自らの作戦行動を分析することなく、最新技術や性能要目だけを追求すれば、永遠に米国に追いつくことはできないだろう。

J-20ステルス戦闘機
J-20はアメリカ空軍のF-22に匹敵する性能があるといわれていますね。

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