2016年12月20日火曜日

我が国の防衛戦略と主要最新装備2016

奄美・石垣・宮古など日本の安保に重要な離島の「防人」配備を急げ

東海大学教授・山田吉彦


≪海と空で加速する中国の進出≫

 今年(2016年・平成28年)、中国の南シナ海での人工島の建設が国際的な問題となり注目を集めたが、東シナ海への進出も海と空の両面から加速しており、危機的な状況になっている。
 2016年8月、尖閣諸島周辺海域に約300隻の中国漁船団が現れ、同時に15隻の中国公船が接続水域に侵入した。また、上空でも中国軍の戦闘機による領空への接近が繰り返されている。
 日本政府は東シナ海での偶発的な衝突を避けるために、中国と「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けた議論を急ぐことで一致した。しかし、中国との協議にどれだけの意味があるかは、甚だ疑問である。
 東シナ海ガス田では、日中共同開発を目指し、一方的な開発は行わないとしたが、中国はその合意を「見解の相違」だとし、単独で軍事転用も可能なプラットホームを16基も設置している。
 2016年12月10日には、沖縄本島と宮古島間の上空を中国の戦闘機などが通過したため、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)を実施した。平成26年度に航空自衛隊が行ったスクランブルの回数は943回に達する。27年度は873回だったが、中国機に対しての発進は571回と過去最高で、28年度も9月末時点で計594回。そのうち約70%が中国機に対するものである。


 また海洋進出においても、尖閣諸島周辺の日本の領海内に12月11日、中国海警局の警備船3隻が侵入し、今年で35回目となった。中国の東シナ海への進出は海と空が一体となって進められており、南シナ海では陸軍も加わった離島奪取の訓練が展開されているのである。

≪難しい「非武装漁民」への対処≫

 わが国でもようやく「島を守る」総合的な訓練が開始された。11月に奄美諸島の江仁屋離島において海上保安庁、警察、海上自衛隊が連携して、武装漁民による離島への不法上陸を想定した対処訓練が実施された。
 まず、離島に接近する武装漁船に海保が対処し、海保の規制をかいくぐり上陸した漁民の捕捉を警察が試みる。最後は武器を使い始めた漁民に対して、治安出動の発令を受けた自衛隊が制圧する-という流れである。
 しかし、この訓練が有効に機能するのは、あくまでも「武装漁民」が押し寄せた場合においてである。実際に五島列島や小笠原諸島に現れ、沿岸住民に脅威を与えているのは「非武装の漁民」だ。現実的な問題は、非武装の漁民が押し寄せて上陸した場合への対応だが、多くの離島では住民の高齢化が進み、屈強な漁民が上陸すれば、彼らが火器を持たなくとも島の占拠はたやすいだろう。


 現行法では、非武装漁民の不法上陸に対処するのは、海保と警察の任務である。しかし仮に100隻の漁船に乗った1千人が離島への上陸を目指した場合、海保や警察では人員や装備が足りずに対応不能となるだろう。陸上自衛隊については、現在の法解釈では行動が制約されている。
 このため相手が非武装であっても、国民の生活に危害を加える動きを阻止できる迅速な治安出動が必要となる。離島への侵略を防ぐためには警備力、防衛力を持つこととあわせ、島民が安定して暮らす社会作りも重要である。
 3月に陸上自衛隊の与那国沿岸監視隊の駐屯地が開設され、離島防衛施設が配備された。中国が海と空からしのび寄る現状において、日本最西端の与那国島でレーダーなどを用いた情報収集活動をすることの意味は大きい。中国の東シナ海での軍事動向を把握するためにも重要である。

≪国土脅かす既存制度を見直せ≫

 同監視隊は、国境警備の任務のひとつである地域住民の生活の安定にも寄与している。与那国島では、自衛隊員とその家族が学校教育や地域活動に不可欠な存在となり、国境の島の社会を活性化する役割を担っている。まさに「現代の防人」といえる。今後、奄美大島や石垣島、宮古島など、日本の安全保障上、重要な離島での配備が急がれる。


 半面、現行制度の中には、島の人々の生活を脅かすものも存在する。例えば、2000年に発効した日中漁業協定に定められた暫定措置水域だ。暫定措置水域では日中両国の漁獲目標が定められ、それぞれの国が自国の漁船を管理することになっている。
 しかしこの協定によって、1万隻を超える中国漁船が東シナ海でわが物顔で乱獲を続けるため、沖縄や五島列島の漁師らは、中国漁船に圧迫されて漁場の放棄を余儀なくされている。
 また、1997年に小渕恵三外相名で中国大使に出された書簡では、暫定措置対象外の北緯27度以南の尖閣諸島水域においても、中国漁船の不法操業を取り締まらないとしている。これらの制度が沿岸漁民の生活や、国土を脅かしているのである。

 中国の海洋の脅威に対応するため、早急な制度の見直しが不可欠である。

《維新嵐》 日露関係の信用を高めていくことが国家戦略となっていくのなら、北の防衛にも手を抜くことはできません。ロシアを信用しない、ということではありません。我が国は、かつて第二次大戦終末に北からスターリン政権時代のソビエト連邦の「侵略」を受けました。
 ヤルタ協定の決定に基づく措置であることは間違いではありませんが、南樺太や千島の住民からの略奪、強姦といった「侵略」まで容認されていたわけではないはずです。これはシベリア抑留と並んでソビエトによる我が国への非道な「戦争犯罪」であり、ナチスドイツのユダヤ人虐待やアメリカの無差別都市空爆と並ぶ看過できない「戦争犯罪」なのです。
 業の報いでソビエト連邦はみじめな末路となりましたが、人道的な責任はロシアに受け継がれているものと考えます。
 もう二度と北で戦火をおこさない、ロシア人と富を共有できる文化を育む、北海道に強力な抑止力となり得る軍事戦力を維持し続けることにより、日露関係を信頼深い関係にしていかなくてはなりません。平成28年の日露首脳会談はそのための「はじめの一歩」とすべきです。
 
 奄美、石垣、宮古は南西諸島のチョークポイントですが、北の防衛も歴史的な経緯から忘れてはなりません。従って防衛費がGDP比1%枠をこえることは、仕方がないことです。金がないのなら国家公務員や国会議員の給料を容赦なく削るべきです。国民にばかり負担を求めるな!


連載100回特別版 これが陸・海・空のNO.1兵器だ! 日本への負担増求めるトランプ米次期大統領もうなるはず

 産経新聞のウェブサイト「産経ニュース」で平成26年10月から始まった連載「防衛最前線」は今回で100回目となる。厳しい安全保障環境に直面する自衛隊だが、来年1月には日本にさらなる防衛負担を求めるドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する。数ある自衛隊装備の中でも、トランプ氏をも黙らせる自衛隊装備は何か。独断と偏見で陸海空自衛隊から1つずつ選んでみた。

F35戦闘機

 「トランプ氏が喜びそうな自衛隊装備? うーん。やっぱり値段が高い米国製装備じゃないかな。F35戦闘機とかイージス艦とか…」
 ある防衛省幹部はこう語る。大統領選期間中、米製造業の衰退を問題視してきたトランプ氏だけに、米2014会計年度国防予算で1機当たり約1億9千万ドル(約179億円)に上るF35の輸出は貿易収支の改善に貢献するというわけだ。
 トランプ氏はツイッターでF35について「コストが制御不能になっている。数十億ドルが節約できる」とコメントしており、同機開発を大幅に見直す可能性はある。ただ、コスト削減のため日本などF35を調達する同盟国のさらなる負担増を求める可能性も捨てきれない。
 航空自衛隊がF35を導入する米側のメリットはこれにとどまらない。


 米政府はアジア太平洋地域の整備拠点として、オーストラリアとともに日本を選定。米軍のF35も日本国内での整備が可能となる。F15などこれまでの戦闘機は米軍が自前で整備を行っており、日本が米軍機の整備も担うようになれば「効率的に作戦を遂行することができる」(空自関係者)という。
 空自は平成36年までに計42機取得する計画。29年度には空自三沢基地(青森県)で配備が始まる予定だ。
 F35の最大の特徴は、敵のレーダーに捕捉されにくい高度なステルス性だ。「ファースト・ルック、ファースト・アタック、ファースト・キル(最初に発見し、最初に攻撃し、最初に殺す)」を可能とするF35は第5世代戦闘機に分類される。
 「私の問題意識としては、敵基地攻撃をずっと米国に頼り続けていいのだろうかということだ。F35の能力を生かしていくことができるかどうかの検討はしなければならない」
 安倍首相は25年2月28日の衆院予算委員会で、こう力説した。政府が北朝鮮の弾道ミサイル発射基地などを無力化するための敵基地攻撃能力の保有を決断すれば、相手に気付かれず接近できるF35は中核的な役割を担うというわけだ。
 政府は当初、同じ世代のF22取得を熱望したが、米側は軍事技術の流出を恐れて禁輸措置を取った。ただ、電波吸収材(RAM)を機体表面に塗装しているとされるF22と比べ、F35は機体を覆う複合材内部にRAMを埋め込んでおり、維持・管理が低コストで済むなど利点もある。


 しかし、F35は毀誉褒貶の激しい戦闘機でもある。
 機体のコントロールに不可欠な最終型ソフトウエアの開発遅れや共同開発国の買い控えによる価格高騰、実戦配備の遅れや国内生産割合が低く抑えられる懸念…。専門家によるF35批判の声は日米両国にまたがって相次いでいる。
 政府は次期主力戦闘機としてメーカー提案があったF35、FA18E/F、ユーロファイターの3機種からF35を選んだ。防衛省内には「複数の機種の中から選定する場合は、メーカー同士がアンチ・キャンペーンを張る。大なり小なり批判があるのは当然の現象」という声もあるが、いまだに他の機種を選定するべきだったとの批判は収まっていない。
 政府がF35を調達することを決定したのは、民主党政権時代の23年12月だった。安倍首相は、24年12月の政権交代を機にF35導入を白紙に戻すことも可能だったが、日頃、民主党(現民進党)に批判的な首相もこの件は前政権の方針を踏襲した。
 むしろ、安倍首相は「わが国を防衛するためにはF35が絶対的に必要だ。この世代の戦闘機を持たなければ、残念ながら日本の国を守ることができない」と述べ、F35に期待をかける。
 日本周辺では中国がJ20(殲20)などの開発を急ピッチで進めており、3機種の中で唯一の第5世代機だったF35の導入は不可欠だ-という思いがにじむ。


P1哨戒機

 トランプ氏は米海軍の艦艇を350隻に増強する計画を掲げている。その中でも中心的役割を果たすのが空母打撃群だ。この空母にとって最大の難敵が潜水艦といえる。
 潜水艦は相手に気付かれることなく近づき、魚雷1発で空母を沈めることができるため、「弱者の兵器」とも呼ばれる。アジア太平洋地域で米軍の行動を阻む「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略を進める中国軍にとって、欠かせない装備だ。
 米軍はアジア太平洋地域で対潜水艦戦(ASW)能力を海上自衛隊に依存しており、その切り札とも言えるのが海自のP1哨戒機だ。中国潜水艦をいち早く発見し、自由な行動を封じ込める役割を担う。P3C哨戒機の後継機として開発され、約70機を配備する予定だ。
 実用機としては初めてフライ・バイ・ライト・システムを採用した。パイロットから方向蛇などに操縦信号を伝える際、電線ではなく光ファイバーを通して行う。多種多様な電子機器を積み込む哨戒機でも電磁波の影響を受けることなく運用することができるようになった。
 巡航高度はP3Cの約1・3倍で、気象状況に左右されずに現場に到達することが可能だ。また、巡航速度が1・3倍、航続距離は1・2倍。素早く活動現場にたどり着き、より長い時間をかけて警戒監視活動に当たる。
 米海軍は中国海軍の潜水艦の数が米軍を上回り、近年急速にその能力を向上させているとみている。


 防衛省も、中国が最新鋭のユアン(元)級潜水艦を大幅に増強しているとみている。ユアン級は海上自衛隊の最新鋭「そうりゅう」型潜水艦と同じく大気非依存型推進(AIP)システムを採用しているとされ、長時間潜航が可能だ。旧型艦は「ドラを鳴らして航行しているぐらいうるさい」(海自関係者)とされていたが、静粛性も増し、より「見つかりにくい」潜水艦となっている。
 これに対し、P1は海中に投下することで潜水艦が発する音を捉える音響探知機(ソノブイ)の性能が向上。P3Cでは捉えにくくなっている魚雷発射管を開く音や、かじを切る音も聞き分け、中国潜水艦を探し当てる。レーダーや磁気探知システムも多機能・高性能化し、僚機が収集したものも含む膨大なデータを高速で解析し、敵潜水艦の位置情報などを割り出す戦闘指揮システムも大容量化した。
 P1を相手に訓練を行った「そうりゅう」型潜水艦の乗組員は「P3Cから逃げることはできるが、P1はなかなか逃げられない」と証言する。


03式地対空誘導弾


 中国のA2/AD戦略に対抗するためには南西諸島に配備される陸上自衛隊の地対空ミサイル、地対艦ミサイルも欠かせない。この中でも米軍関係者をうならせたのが03式地対空誘導弾(中SAM)だ。
 「米軍ホワイトサンズ射場(WSMR、米ニューメキシコ州)で行われた『チューサムカイ』の発射実験では標的を100%撃墜し、WSMRのエンジニアをうならせた」
 米陸軍ホームページは昨年11月5日、改良型中SAM(中SAM改)の発射実験の結果について、驚きをもって報じた。
 中SAMは有事の際、重要地域の制空権を守るため、敵の航空機や巡航ミサイルを撃ち落とす役割を担う。沖縄本島を含む南西諸島方面では中国軍による海洋進出が懸念されており、政府は地対空ミサイル部隊を沖縄県の宮古島、石垣島、鹿児島県の奄美大島に配備する方針だ。
 03式が導入されたのは15年。それまで米レイセオン社が開発した改良ホークを運用していたが、米軍が地対空防衛装備の重点をパトリオットに移行させたことに伴い、防衛省内ではより射程が短い装備導入の必要性が浮上した。多種多様な弾種を配備することが防空作戦の効率を高めるためだ。
 米国、ドイツ、イタリアは中距離拡大防空システム(MEADS)の共同開発に着手したが、当時の武器輸出禁止三原則に抵触する恐れもあり、日本は国産開発に踏み切った。


 03式は同時に複数の目標に対処する能力を備えたフェーズドアレイ・レーダーを搭載。敵航空機や巡航ミサイルの情報を受け取ったレーダーが目標を捜索、探知、追尾する。発射された誘導弾はレーダーの信号を受け取りながら敵に接近。最後は誘導弾が電波を発し、目標を捕捉して撃墜する。
 垂直発射方式であるため、森の中やビルの谷間からも発射できる。発射装置は重装輪装甲車に搭載されており、泥まみれの不整地からでも敵航空機を狙い撃つことが可能。コンピューター制御されているほか、改良ホークでは4つあったレーダーが1つになったため、運用に要する人員が大幅に削減された。
 防衛省はさらに進めて、次世代型の「中SAM改」の開発を22年度から行ってきた。
 中SAM改の開発は、射程延伸やネットワーク交戦能力の向上が目的。防衛省は来年度予算案の概算要求で中SAM改1式の取得費117億円を計上した。30年度までに5式調達する方針だ。
 防衛省は地対艦誘導弾に関しても来年度予算の概算要求で改良型12式地対艦誘導弾(SSM)の取得費を計上しており、これも南西諸島に配備する計画。中SAMとSSMは有事の際、日本列島南端-台湾-フィリピンを結ぶ「第1列島線」を突破して西太平洋での行動の自由を確保しようとする中国軍を迎え撃つ役割を担うことになる。


「日米同盟を強化したい」

 大統領選に勝利した直後の2016年11月10日、トランプ氏は安倍晋三首相との電話会談でこう述べた。
 だが、トランプ氏が選挙期間中に在日米軍駐留経費の見直しを訴えてきた経緯もあり、政府高官は「日米同盟の重要性を粘り強く説得していくしかない」(政府高官)と語る。こうした「説得作業」の中身には、最新鋭装備とともに自衛隊が果たす役割も含まれるものとみられる。(杉本康士)

自衛隊

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