2016年12月30日金曜日

自衛隊の予算 ~高いのか?それとも低いのか?~

保育園不足、都市部と自衛隊の抱える問題
宇都隆史議員

自衛隊の病院予算不足問題について
和田政宗議員

 以上の動画をみておわかりのように、自衛隊においても時代の流れ、変遷に伴って様々予算的な問題がでてきており、必ずしも正面装備だけ充実させておけばいい、という話ではありません。

 また昔からよく聞かれることですが、自衛隊員の個人装備の貧弱さについて言及した記事をご紹介いたします。国防の最前線で日夜任務遂行のために、訓練、錬成に励む自衛隊員の待遇について改善の余地はないのでしょうか?
 自衛隊だけではありませんが、公共機関のオーナーたる納税者の国民として、頭の隅において問題意識として留保しておいてもいいことかと思います。

自衛隊が貧乏すぎる…制服が予算不足で足らない、給料・退職金カットも
日刊SPA

◆「何もかもが足らない!ボンビー自衛隊の実態!02

 201011月、今や民進党党首の蓮舫さんが、襟をピンと立てながら行政刷新委員会で、「自衛隊の制服高すぎる。中国で縫製して輸入すればもっと安くなる」と言っていました。国防にかかわる重要なものでも、安ければいいと考える人もいるんですね。「自衛隊の制服なんて海外での大量生産品で何が悪いの?」という論調に当時びっくりしたものです。
 自衛隊に限らず、軍の制服のデザインや素材は、その制服と同じものが第三者の手に渡ってしまえば、いくらでも軍の中に潜入することができてしまいます。それがものすごく恐ろしいことだということくらい私にでもわかります。例えば、戦場で敵兵が、その制服を着て入れ替わったとしてもすぐには気付かないじゃないですか? 自衛官の制服は公務員の信用を利用した犯罪にも使えます。そういった悪用を避けるために、官給品は民間人には払いさげず、古くなったら交換という形で回収しているんですよね。

 制服の部分的な汚れは、駐屯地にある業務隊や被服係などに依頼すると修繕されるのだそうですが、長年使うと全体に色あせて繊維が薄くなり擦り切れてくるのでそこまで行くと交換してもらうことになります。だから、自衛隊に入隊したての時にはまず制服や身の回り品一式を支給してもらいます。その後、使い古せば消耗品だから交換が必要です。制服が必要なのは新人の入隊時だけじゃないのです。
 また支給品は制服だけじゃなく、ベルトのバックルや靴や支給された衣類を入れる衣嚢や仮眠覆いやセパレーツと呼ばれる雨合羽、鉄パチ(ヘルメット)なども支給されます。同じ装備を完全に揃えていることで、例えばスパイが混じっていても一部が違うという違和感ですぐに見つけられるわけです。

 その制服が、予算不足でまったく足らない状況になっています。東日本大震災への陸自の大規模な派遣がありました。普段の演習などとは違い、荒れ果てた被災地で、泥水に体を浸しながらの救難活動を自衛隊は必死で行いました。瓦礫の山での作業ですから制服も切り裂かれたり、擦り切れたり、傷だらけになります。だから、自衛隊は通常時なら使い果たすことのない在庫をすべて使い果たしてしまったのです。東日本大震災で自衛隊も沢山の予算を使い、これまで持っていた多くの資材を使い果たしたというのに、震災の年の平成23年度予算は46625億円、平成24年度予算は46453億円と減っています。
 この年、自衛隊の給料は10%カットされたことも記憶に鮮明に残っています。聞くところによると、いきなりの給料カットでローンの支払いに困ったり、子供の塾通いをやめさせることになった家庭もあったとか。

 陸上自衛隊では新しく入隊した自衛官に先に制服を配ってあげたいので、今いる先輩自衛官が本当なら交換しなければならないような制服や靴を我慢して使っています。使えればまだいいのですが、いろいろな訓練時にやはり破れかけた靴などを履いていては後れをとりますし、「『服装が乱れている』と上官に叱られることも多くて辛い」と嘆く声も聞こえてきます。
 その人のせいではなく、予算が無くて制服が交換できないためなのですから、とても可哀想だと思います。
 ある自衛官Bさんが、米軍の艦艇に乗り込んで食堂で米軍と話をしていたときに東日本大震災の話になりました。米軍も多くの隊員が友達オペレーションで被災地に物資を運び、みんな長期間、東北のために支援をしてくれたことのお礼をいったところ、海兵隊ではそのあと隊員さんたちは長い休みをもらい、長期の支援活動に参加したということを褒章されたといいます。
 自衛隊もあんなに頑張ったのだから、国から勲章をもらったのだろう?と米軍から聞かれました。
 仕方なく自衛官Bさんは、「我々は東北が被災して大変な時だから、『君たちの給料もしばらく10%カットする』と国から言われ、退職金も値下がりしたんだよ」と説明したところ、何度説明しても米軍には「冗談だろう」と言われ、理解してもらえなかったそうです。
「もし、本当にそんなに大変な職務をはたした軍人に、国が給料をカットするなどの暴挙に出たら、普通は暴動が起こる。自衛隊はいつもどおり淡々と職務をこなしているのだから、それは俺をかつごうとしてんだろう? 騙されないぞ。はっはっは~~」と米軍の軍人は笑ったそうです。


共産中国の遼寧「空母打撃群」が南西諸島を通過して西太平洋へ・・・わが日本の対策は?

2020年までの世界展開狙う共産中国が米軍排除へ実力アピール 

2016.12.25 20:55更新 http://www.sankei.com/politics/news/161225/plt1612250018-n1.html

【北京=西見由章】中国海軍の201612月24日の発表によると、空母「遼寧」の艦隊は初の遠洋訓練のため西太平洋を目指している。空母の本格運用により軍事プレゼンスの拡大を誇示し、米軍を排除する「接近阻止・領域拒否」の能力強化をアピールする狙いがある。

 「空母は“(家に閉じ籠もる)オタク”ではない。軍港にとどまり続けることはない。将来必ず遠洋航海に出る」(楊宇軍・中国国防省報道官)。人民日報系の環球時報(電子版)は24日、2013年4月の楊氏のこの発言が「現実となるまでに3年を要した」と報じた。
 ウクライナから購入した遼寧は、装備を取り外した状態で引き渡されたため、蒸気タービンによる動力システムの修復が難航。現在も艦載機の殲(J)15は出力不足が指摘される上、遼寧にはカタパルト(射出機)がなく、搭載武器の重量も制限されている。
 パイロット不足も深刻で、今年4月には模擬着艦訓練中に操縦士が事故死。過度に訓練が強化されているとの指摘も根強い。
 にもかかわらず、中国海軍が性急に空母の運用開始を進めるのは、20年までに世界の各海域に空母を展開することを目標に掲げているためだ。大連で建造中の初の国産空母は来年初めにも進水する可能性が高く、上海でも別の国産空母が建造中とみられる。

http://www.sankei.com/politics/news/161225/plt1612250018-n2.html

   今回の訓練について中国海軍の梁陽報道官は、「年度計画に基づき実施される」としている。ただ、中国への強硬姿勢が目立つトランプ次期米大統領を牽制するため、本格運用をさらに急いだ可能性がある。
 中国の一部の学者は、20年までに南シナ海の人工島建設を完了して米軍を排除し、21年にも台湾に軍事侵攻するとの予測まで公表している。米軍との火種を抱える海域で、その影響力排除に向けて空母にかかる期待は大きい。
 ただ、実際に空母が軍事プレゼンスを示せるまでに「どんなに急いでもあと5、6年はかかる」(軍事研究者)との見方もある。中国メディアは遼寧艦隊の実戦能力を強調するが、練習艦としての位置づけに変化はないとみられる。

「中国の内海」誇示か?中国空母遼寧、台湾の南170キロに 
2016.12.26 14:34更新 http://www.sankei.com/world/news/161226/wor1612260026-n1.html

 台湾の国防部(国防省)は201612月26日、中国初の空母「遼寧」が同日午前9時(日本時間同10時)に台湾南端の屏東県から南方約167キロの海上を通過し、南西方向へ移動しており、台湾軍が動向を監視していると発表した。
 遼寧は25日午前、沖縄本島-宮古島間を通過して西太平洋を航行。台湾メディアは、台湾を回り込むように航路をとり、南シナ海へ向かうと予測している。
 台湾の国家安全局幹部は26日、立法院(国会)の委員会質疑で、中国海軍は過去に25回、西太平洋で訓練を行っているが空母の投入は初めてだと指摘。
 立法委員(国会議員)からは、遼寧が台湾の東側を通過したのは、台湾海峡が既に「中国の内海」であることを誇示する狙いではないかとの見方が出た。(共同)

《維新嵐》
【遼寧空母打撃群の目的について
 共産中国の練習用空母遼寧の西太平洋方面への航海については、一番の目的は外洋での乗員訓練が目的ではないでしょうか?特に艦載機の発着艦訓練。次世代の国産空母を開発しているといっても共産中国は、「空母後進国」。空母そのもののハードウェアの技術以上に、空母の「運用」に関するスキル向上はまだまだ時間のかかることでしょう。
 日米は太平洋を挟んだ空母決戦にて運用スキルを向上させたという見方もできると考えると、「実戦」という「訓練」のない共産中国が、外洋に出て基礎的なスキルを身に着けようという発想は当然あるのでないでしょうか?

【どうする日本国防軍自衛隊】
 人民解放軍の艦艇が南西諸島、宮古島と沖縄本島の間を通過してくれることについては、自衛隊は逆にありがたいこともあるでしょう。
 なぜなら人民解放軍艦艇の「音紋」を採取できるからです。
音紋は艦種の識別、特定の際の目安になります。特に潜水艦。国際法違反ですが、海峡を潜航したまま通過してくれれば、格好の「カモ」といえるのではないでしょうか?
 空母であれば、未知数の共産中国の空母の様子がいろいろ観察できます。艦載機の種別、空母の形状、兵装などさまざまでしょう。この機会に徹底的に観察と情報収集をしておいて確実な解析をしておくべきです。

お笑い中国軍空母遼寧クリスマスに日本海峡を通過

【わが国はどう遼寧空母打撃群を抑止すべきか?】

いよいよ太平洋に進出してきた中国空母艦隊
宮古海峡をやすやすと通航させないために日本がするべきこと
北村淳
2016.12.29(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48792
中国海軍の空母「遼寧」(資料写真)。(c)AFPAFPBB News

 オバマ米大統領が大統領として最後のクリスマス休暇を過ごしている間に、中国人民解放軍海軍の空母艦隊が南西諸島ライン(中国が言うところの「第一列島線」の一部)を越えて西太平洋に進出した。
1996年に勃発したしたいわゆる第3次台湾海峡危機の際は、中国海軍はアメリカが台湾周辺海域に派遣した2つの空母艦隊(第7空母戦闘群、第5空母戦闘群)に威圧され、全く手も足も出なかった。その姿を思い起こすと、(依然として中国空母艦隊は米海軍空母打撃群に比べると戦力的に大きく後塵を拝しているとはいえ)過去20年間における中国海洋戦力の強化ぶりには目を見張らざるを得ない。
20年前に着手した中国海軍の近代化
1980年代半ばに鄧小平が推進した経済発展政策と連動して、中国共産党は鄧小平の片腕であった海軍司令員劉華清提督が立案した海軍戦略に基づき、人民解放軍海軍の近代化をスタートさせた。
 しかしながら、陸上戦力強化と違って海軍建設には25年はかかると言われる。そのためアメリカ空母艦隊による恫喝の前に為す術がなかった1996年当時は、中国海軍はまだ旧式艦艇・航空機を取りそろえただけの弱体海軍であった。当時と現在の戦力を比較してみよう。
【戦略原潜】
1996年当時、中国海軍は一応核弾道ミサイルを搭載した092型戦略原潜を保有していた。しかし、原潜もミサイルも、アメリカにほんのわずかな脅威も与えられない代物であった。
 現在、すでに092型戦略原潜は退役し、094型戦略原潜45隻が就役しており、さらに新鋭096型戦略原潜が開発中である。
攻撃原潜】
 中国海軍は、戦略原潜と同じく“一応”攻撃原潜も保有していた。しかし、当時5隻運用されていた091型攻撃原潜は「騒音をまきちらして」潜航することで勇名を馳せる代物であった。そのため、原潜を保有していない海上自衛隊にとってもさしたる脅威ではなく、まして米海軍にとっては玩具のような存在だった。
 現在、091型攻撃原潜は全て退役し、093型攻撃原潜46隻が就役あるいは試験運用中である。さらに新型の095型攻撃原潜も就役し追加建造中といわれている。
【水上戦闘艦】
 第3次台湾海峡危機勃発時期に中国海軍が保有していた駆逐艦17隻のうち16隻の051型駆逐艦は、当時の水準でも旧式艦であった。そして、そこそこ近代的な軍艦である052型駆逐艦1隻が、ようやく就役した。駆逐艦より小型のフリゲートも、当時中国海軍が保有していた36隻のうち30隻が旧式の053型フリゲートで、やや改良型の053H型フリゲートがようやく誕生したといった状況であった。
 現在、中国海軍から老朽駆逐艦は姿を消し、1996年当時新型艦として誕生した駆逐艦は最も旧式の駆逐艦となっている。国際水準に照らしても新型艦と見なせるものを含めて駆逐艦2830隻、フリゲート45隻が就役している。
【航空母艦など】
 潜水艦や主力水上戦闘艦だけでなく、小型水上戦闘艦や水陸両用戦用艦艇、それに補給艦などの補助艦艇に関しても、20年前は「多数の旧式あるいは老朽艦」という表現が当てはまる状況であった。
 それらが現在は一新されている。そして、空母運用訓練用とはいえ、航空母艦「遼寧」を運用し、2隻の新型航空母艦を建造しているのに加えて、強襲揚陸艦や揚陸輸送艦の建造も急ピッチで進められている。
【海軍航空機】
 各種艦艇と同じく、20年間での中国海軍航空戦力も大幅に近代化されている。第3次台湾海峡危機当時、中国海軍航空隊が保有していた戦闘機・戦闘攻撃機の数はおよそ700機であった。だが、全て当時の水準においても旧式あるいは老朽機であり、アメリカ空母が艦載していた100機ほどの戦闘機に全て撃墜されてしまう程度の戦力に過ぎなかった。
 また、中国海軍は爆撃機も155機ほど保有していたが、そのうちの130機は骨董品のような代物であり、残りの25機も旧式航空機だった。とてもアメリカ海軍や海上自衛隊に脅威を与えるような能力は持ち合わせていなかった。
 現在、それら全ての旧式機・老朽機は姿を消した。そして中国海軍航空隊は、航空自衛隊の戦闘機に勝るとも劣らない新鋭機を含めて、322機の戦闘機・戦闘攻撃機と50機の爆撃機を保有している。
 なお、中国空軍は海軍航空隊よりも最新鋭の戦闘機を保有しており、700機以上の新型戦闘機、300機ほどの戦闘攻撃機に加えて80機の爆撃機を運用している。
臥薪嘗胆の成果
アメリカ海軍空母艦隊による威圧の前に惨めに屈せざるを得なかった中国海軍は、上記のごとくまさに臥薪嘗胆し、強力な海軍の建設に邁進している。
「アメリカ海軍の接近を中国沿岸域からできるだけ遠方で阻止し、中国の近海域でアメリカやその同盟国の海軍には自由な行動をさせない」という、劉華清が打ち立てた中国海軍戦略の目標を達成できるだけの戦力にはまだ到達していると言えない。だが、20年前の惨めな「闘わずして完敗した」状況に比べると、かつてはアメリカ海軍が完全に取り仕切っていた西太平洋に自前の空母艦隊を繰り出すだけの実力を手にしたことは事実である。
 過去20年間における日本の海洋戦力の推移と比較すると、(実際に戦闘を交えなければ真の実力は分からないとは言うものの)中国海洋戦力を侮るような態度は、明らかに捨て去らねばならない。
中国空母艦隊が持つ強力な攻撃力
今回、いわゆる宮古海峡を通過して西太平洋に繰り出した中国海軍空母艦隊(空母1隻、駆逐艦3隻、フリゲート2隻、コルベット1隻、補給艦1隻)の戦闘力は以下の通りである。
・空母に艦載されるJ-15戦闘機24機(敵航空機や、敵艦を攻撃する)
・空母や水上戦闘艦に搭載される各種ヘリコプター16機(敵潜水艦を攻撃する)
・対空ミサイル244基(敵のミサイルや航空機から味方艦艇を防御する)
・対艦ミサイル52基(敵水上艦艇を攻撃する)
・対潜ミサイル16基(敵潜水艦を攻撃する)
・対地ミサイル16基(敵地上目標を攻撃する)
・魚雷32基(敵水上艦艇や潜水艦を攻撃する)
・機関砲6
また、海上自衛隊に視認され公表された8隻の水上艦艇以外にも、12隻の攻撃原潜(魚雷、対艦ミサイルを装備)が同行していると考えられる。
 これらの装備の搭載数は、あくまで搭載可能最大数であり、フル装備で行動することは戦時でない作戦行動ではほとんど考えられない。とはいうものの、これだけ強力な攻撃力を有する艦隊が、南西諸島ラインを横切って日本周辺海域で行動するようになることは、日本にとっては大いなる軍事的脅威となることは言を待たない。
中国艦隊を心理的に圧迫する策とは
日本としては、アメリカに縋ってアメリカ海軍が息を吹き返すのを気長に待ち、場合によってはアメリカ海軍も中国海軍に歯が立たなくなってしまうという他力本願の危険を冒すのではなく、自らの力で中国海軍空母艦隊の行動をある程度は牽制する態勢を固めなければならない。
(もっとも、日本が核武装をしない限り、中国に核恫喝されないためには核を保有する同盟国の抑止力を期待するしかない。よって自主防衛態勢の効果はあくまで限定的とならざるを得ないことは念頭に置いておくべきである。)
 どんなに強力な攻撃力を備えた中国艦隊といえども、宮古海峡を通過しなければ東シナ海と西太平洋を行き来することはできない。そして、宮古海峡の両端は日本の領域である。したがって日本側が宮古海峡両端に、中国艦隊に大いなる脅威を与える戦力を配備すれば、中国海軍艦隊が宮古海峡を通航する際には心理的な圧迫を受けざるを得なくなる。
 ただし、海上自衛隊の水上戦闘艦や潜水艦や哨戒機、それに航空自衛隊の戦闘機や警戒機などを多数急造して宮古海峡周辺の海域や空域を埋め尽くすことは、予算的にも、人員的にも、時間的にも不可能に近い。2017年からでもすぐさま実行できる現実的な防衛策は、宮古海峡の両端に強力な地対艦ミサイル部隊と防空ミサイル部隊を配備し始めることである。
宮古海峡を通航する中国艦艇を心理的に圧迫するミサイルバリア

宮古島などにはこの種のミサイル部隊を配備することになっているが、数年後から実戦配備する、といった悠長なテンポでは話にならない。すでに中国空母艦隊が通過しているのだ。また、現在予定されている程度の小規模なミサイル部隊では中国艦隊に心理的脅威を与えることはできない。上記のように、今回通過した空母艦隊だけでも少なくとも244基以上の防空ミサイルを携行することができる。ということは、陸上自衛隊地対艦ミサイル部隊も、200基あるいはそれ以上多数の地対艦ミサイルを装備する必要があろう。万一の場合は中国艦艇に向かって連射し、中国艦隊の対空ミサイルを撃ち尽くさせた後に、さらに攻撃を加えて中国艦艇を撃破させられるだけの能力を見せつけなければならない。幸いなことに、陸上自衛隊には地対艦ミサイル運用に特化した世界でも稀な「地対艦ミサイル連隊」が存在する。また、日本独自で高性能地対艦ミサイルを開発製造しているため、装備の輸入といった頭の痛い問題も生じない。そしてなによりも、軍艦や航空機に比べると地対艦ミサイルシステムや地対艦ミサイルそのものの価格は極めてリーズナブルである。
 宮古海峡で中国海軍に心理的プレッシャーをかけ、日本周辺海域を我が物顔に動き回らせないためのミサイルバリア構築に必要なのは、安倍政権と国防当局の覚悟だけである。来年こそ、日本防衛の切り札としてミサイルバリア構築元年にしなければならない。

中国空母遼寧の恥ずかしがる正体






2016年12月29日木曜日

日本の内閣総理大臣がハワイ・真珠湾を訪問 ~日米同盟の歴史的考察~

安倍首相真珠湾訪問、もう一つのパールハーバー

「屈辱の象徴」から「和解の象徴」へ

小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)

 20161227日午後、安倍晋三首相が真珠湾を訪問する。1950年代に吉田茂、鳩山一郎、岸信介ら歴代首相が真珠湾を訪問していたことがわかってきたが、日本の首相として1962年に建設されたアリゾナ記念館を訪問するのは、安倍首相が初めてだ。
安倍首相は、真珠湾訪問に先立ってオバマ大統領との最後の首脳会談を行う。201212月に第二次安倍政権が発足し、その翌月の131月に第二期オバマ政権が始まった。アジアリバランスを掲げ、アジアを重視する対外政策を追求してきたオバマ大統領と、積極的平和主義を掲げ、限定的ながらも集団的自衛権の行使に道を開く平和安全保障法制を制定した安倍首相は、日米関係を安全保障だけではなく、経済、文化など様々な分野で強化してきた。最後の首脳会談は、この4年間で強化された日米同盟を確認する機会となるだろう。
米議会演説で示した「不戦の決意」
 13年末の安倍首相の靖国神社参拝により、米国では安倍首相の歴史認識に強い懸念が生まれた。しかし、154月に安倍首相が米議会上下両院合同会議で行った演説は、安倍首相が極東軍事裁判の結果を受け入れない「歴史修正主義者」ではないかという米国内の懸念を払拭した。
 この演説の中で、安倍首相は「真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚海……、メモリアルに刻まれた戦場の名が心をよぎり、私はアメリカの若者の、失われた夢、未来を思いました。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。私は深い悔悟を胸に、しばしその場に立って、黙とうをささげました」と述べ、戦争で命を落とした米国人の魂に哀悼を捧げた。
 安倍首相は、この演説で謝罪はしなかった。日米は、太平洋戦争で凄惨な戦いを経験し、双方に数多くの犠牲者を出した。だが、日米の和解に謝罪は必要ない。安倍首相は、犠牲者を悼み、威厳を持って悲劇の歴史を共有した上で、不戦の決意を実践することが日米の和解の方法だということを示したのだ。

 この演説の傍聴席には、硫黄島での戦いに従事したスノーデン元米海兵隊中将と、栗林忠道大将・硫黄島守備隊司令官の孫である新藤義孝国会議員がいた。安倍首相は、日米合同の慰霊祭にしばしば参加し、日米の和解の努力を行ってきたスノーデン元中将に感謝の意を表した。
「悲劇の象徴」、ヒロシマ、「屈辱の象徴」、パールハーバー
 165月には、オバマ大統領が伊勢志摩で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議に出席の後に被爆地・広島を訪問した。広島平和記念資料館を視察したオバマ大統領は、原爆死没者慰霊碑で献花した後の演説で「核なき世界」の実現に向けた決意を改めて示した。
 その際、オバマ大統領は、一人の被爆者と歴史的な抱擁をした。自らも被爆者である森重昭氏は、原爆で亡くなったアメリカ兵捕虜がいることを調査し、核廃絶に取り組んできた。オバマ大統領と森氏の抱擁は、もう一つの日米の和解を物語っていた。この抱擁は多くの被爆者とその家族に安らぎを与えたに違いない。
 米国大統領の広島訪問は、政治的に難しい決断だった。米国では、原爆投下は戦争の早期終結に不可欠だったという考えが依然根強く、大統領による広島訪問、ましてや原爆投下への謝罪は、退役軍人や遺族から大きな反発を招きかねない。
 だが、安倍首相が米議会で謝罪する必要がなかったように、オバマ大統領が広島で謝罪する必要はなかった。犠牲者に哀悼を捧げるとともに、核廃絶への思いを強調するだけで、また1つ日米の和解を具現できたのだ。
 オバマ大統領の広島訪問後、安倍首相の真珠湾訪問の可能性が取りざたされるようになった。だが、「ヒロシマ」と「パールハーバー」はその響きが持つ意味が異なる。「ヒロシマ」が悲劇の象徴だとすれば、「パールハーバー」は屈辱の象徴だからだ。
 41127日午前755分、日本海軍の連合艦隊機動部隊が真珠湾を強襲し、2時間で戦艦を含む12隻の艦船が沈没または座礁し、164機の軍用機が破壊され、民間人49名を含む約2400名が犠牲となった。
 米国では、宣戦布告なき攻撃を受けたこの日は、「汚辱の日」と呼ばれ、「リメンバー・パールハーバー」の言葉とともに、第二次世界大戦の忌々しい記憶として語り継がれている。パールハーバーは、米国が日本を降伏に追い込むことを決意した場所なのだ。
 一方、日本では、米国によって自存自衛のための戦争に追い込まれたという見方が根強い。ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を知っていたにもかかわらず、戦争を忌諱する国民世論を参戦支持に誘導するため、わざと攻撃させたという陰謀論も一部には信じられている。あくまで軍事施設を攻撃した真珠湾攻撃と、都市を標的とし、多くの民間人の犠牲者を出した原爆投下を一緒にするべきでないという考えもある。

「屈辱の象徴」から「和解の象徴」へ
 オバマ大統領が広島を訪問したからといって、安倍首相が真珠湾を訪問することは自然な流れではなかった。しかし、日米の和解は真珠湾でもすでに進んでいた。
 139月に、真珠湾のアリゾナ記念館に原爆犠牲者の折った折り鶴が展示された。2歳の時に広島で被爆し、原爆症と闘いながら元気になることを祈って折り鶴を折り続けた佐々木貞子さん。そのサダコの折り鶴が屈辱の象徴であるパールハーバーに展示されることなど、本来なら考えられないことだった。
 しかし、貞子さんの兄、原爆投下を決断したトルーマン大統領の孫、ハワイの日系人社会、そして米軍人の協力によってこの展示が実現した。この瞬間、パールハーバーは屈辱の象徴ではなく、和解の象徴になった。
 822日、スーパーマリオに扮した安倍首相がリオ五輪の閉会式に土管から出現していた頃、アリゾナ記念館では昭恵夫人が真珠湾攻撃の犠牲者を悼み、サダコの折り鶴の展示の前で足を止めていた。昭恵夫人は、パールハーバーの持つ意味の変化に気づいたことだろう。
 安倍首相の真珠湾訪問が発表された直後の128日には、真珠湾で初となる日米合同の慰霊祭が行われた。安倍首相が27日に向かうのは、屈辱や復讐ではなく、和解の象徴としてのパールハーバーである。安倍首相の訪問は、真珠湾攻撃の生存者と犠牲者、そしてその家族の魂に安らぎを与えることだろう。
 当日、安倍首相とオバマ大統領にはハリス米太平洋軍司令官が同行する。日本海軍と戦った海軍人の父と、米軍の空襲で神戸の実家を焼かれた日本人の母の間に生まれ、日米同盟の強化に尽力してきたハリス司令官は、日米和解のもう一つの象徴だ。安倍首相とオバマ大統領の4年間を締めくくるためにこれほど最適な同行者は、故ダニエル・イノウエ上院議員以外にはいないだろう。
 戦争や植民地支配で生まれた国家間の敵意と憎悪を克服し、真の和解を実現することは容易ではない。政治家同士が和解を演出しても、犠牲者とその家族が寛容の心を示さないかぎり、真の和解が実現することはないだろう。

 日米では戦争の犠牲者とその家族、そして軍人とその遺族が和解を進めてきた。安倍首相の真珠湾訪問は、国民同士の和解の動きに支えられ、日米関係のさらなる強化につながるだろう。そして、それは、日本と中韓などアジア諸国とのさらなる和解につなげる上で重要な一歩となる。

日米和解をアピール

日本の安倍首相、ハワイで戦没者墓地など訪問
BBC News

 日本の安倍晋三首相は平成281226日(日本時間27日早朝)、米ハワイ州ホノルルに到着し、戦没者らが眠る国立太平洋記念墓地などを訪れた。27日にはオバマ米大統領とともに、太平洋戦争の直前に旧日本軍の攻撃を受けた真珠湾を訪問する。
日米両国の首脳がそろって真珠湾を訪れるのは、今回が初めて。
安倍首相の側近らは、首相は慰霊に訪れるものの、謝罪はしないと語った。1941127日(日本時間8日)の真珠湾攻撃では、米軍関係者と市民が計2400人以上死亡。間もなく太平洋戦争が始まった。
真珠湾攻撃では、停泊していた戦艦8隻のうち4隻が撃沈され、残りの4隻も撃破された。ただし、主要な空母は航海中だった。
ハワイ到着後、最初に訪れたホノルル中心部近くの国立太平洋記念墓地で、安倍首相は献花し、しばし黙祷を捧げた。
27日には、安倍首相とオバマ大統領が会談した後、撃沈された戦艦アリゾナの上に設けられたアリゾナ記念館を一緒に訪れる予定となっている。来年1月のオバマ大統領退任前に、両首脳が会談する最後の機会になる。
安倍首相による真珠湾訪問は、攻撃75周年の3週間後にあたる。これに先立ち、今年5月にはオバマ大統領が現職大統領として初めて、被爆地・広島を訪れた1945年の広島原爆投下で、約15万人が死亡したとされている。
真珠湾を訪問した最初の日本の首相は吉田茂。1951年にサンフランシスコ講和条約署名のため訪米した際、往復時に2回ハワイに立ち寄っている。
吉田首相(当時)が復路に立ち寄った際には、アーサー・ラドフォード米太平洋艦隊司令長官(同)と面会。面会した部屋から、真珠湾攻撃の跡地が直接眺められたという。
ラドフォード提督は後に回想録で、「まるで戦艦アリゾナの残骸が窓から見えるような気がした」と書いている。
面会の冒頭は気まずい雰囲気だったが、ラドフォード氏の飼い犬が吉田氏に近付き、頭を撫でてもらったのを機に、空気は和んだという。
安倍総理を迎える真珠湾は今
【寛容の価値を世界に】すぐに歴史問題を振りかざす中韓にも理解を迫る

論説委員兼政治部編集委員・阿比留瑠比
 安倍晋三首相が平成2812月27日(日本時間28日)に米ハワイ・真珠湾で行った演説からは、敵国として熾烈(しれつ)に戦った米国との間で「戦後」に決着をつけ、強固な日米同盟を基盤にともに未来を切り開こうという強い思いがうかがえる。それは、4年前の第2次政権発足後、安倍首相が一貫して取り組んできたことでもある。
 「これで戦後は完全に終わりになるかな。いつまでも、私の次の首相まで戦後を引きずる必要はない」
 安倍首相は今回の真珠湾訪問を発表した平成2812月5日夜には、周囲にこう語っていた。日米同盟に刺さった最後の「トゲ」である真珠湾で、5月の被爆地・広島に続いてオバマ米大統領と並んで戦没者の慰霊を行うことで、米政府との間では歴史問題をめぐる不毛な対立は今後、なくなるはずだ。
 もともと安倍首相は、米議員らから拍手喝采を浴びた平成27年4月の米上下両院合同会議での演説と、世界で高い評価を受けた昨年8月の戦後70年の首相談話発表で日米の和解を演出し、強調していた。真珠湾訪問にはその総仕上げという意味合いがある。
 安倍首相は米議会演説後には「握手攻めにあった米議員らから口々に『もう謝罪は必要ない』といわれた。米国との間では歴史問題は終わった観がある」、戦後70年談話発表時には「謝罪外交に終止符を打ちたい。これでもう80年談話や90年談話は必要ない」とそれぞれ周囲に語っていた。そしてハワイ出発前には次のように述べている。


 「米議会演説と70年談話で、米国との関係ではかつての戦争は歴史の領域に入った。だから今回は、それを踏まえて日米同盟の強さを確認する場でもある」
 実際、真珠湾演説では米議会演説や戦後70年談話にはあった「反省」や「悔悟」といった言葉は使わなかった。もう謝罪めいたことは必要ないという自信の表れだといえるし、米側もそれを受け入れている。
 日米間で過去の戦争へのわだかまりが払拭されれば、中国やロシアもこれ以上、日米離間を図ることは難しい。歴史認識や安全保障観がまだ定かでないトランプ米次期大統領に対しても、日米同盟の重要性を印象づけることができる。
 そのためのキーワードが「寛容」と「和解」だ。
 「寛容の心、和解の力を、世界はいま、いまこそ必要としています」
安倍首相は演説でこう述べるなど、「寛容」という表現を7回用いた。70年談話でも「寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました」など2回、「寛容」を使用している。
 これは、かつて敵国だった米国による戦後の援助への感謝の表明であると同時に、紛争の絶えない世界各国のありように対する警告でもある。さらには、戦後70年以上がたっても過去ばかりに目を向け、すぐに歴史問題を振りかざしては優位に立とうとする中国や韓国に、寛容さの価値への理解を迫るものだ。


 戦後70年談話では、中国を含む諸外国の寛容さを強調して「心からの感謝の気持ち」を表明したため、中国側から特に目立った批判は出なかった。真珠湾演説でも「米国が、世界が、日本に示してくれた寛容」と述べ、寛容の普遍的価値を訴えている。
 「今日をもって、『パールハーバー』は和解と同盟の記念日になりました」
 演説に先立つオバマ氏との最後の首脳会談。安倍首相はこう語りかけ、オバマ氏に手を差し伸べた。大統領も「その通り」と答え、首相の手を握り返した。
 2人の思いが実を結んだとき、本当に世界で「戦後」が終わる。

パールハーバー アリゾナ記念館黒い涙


《維新嵐》 今や日米の太平洋を挟んだ関係は、世界経済、世界の安全保障の根幹を支えているといっても過言ではないでしょう。
 そして21世紀以降もこの両大国が国際社会を牽引していくはずです。いずれはロシアも引き込んで日米プラス露で「三国軍事同盟」を締結していけば、共産中国や北朝鮮の弾道ミサイルや巡航ミサイルをほぼ完ぺきに抑止できるはずです。
 真珠湾のアリゾナメモリアルには、アメリカ海軍の軍人ばかりでなく、撃墜されたり、墜落した日本海軍の軍人も葬られています。バウフィン号の資料館には、日本軍ゆかりの遺品(要は米軍の戦利品)も展示され、我が国の側からも十分しのぶことができます。今回は安倍総理のスピーチの中に旧日本海軍軍人にも言及していて評価できるものであったかと思います。
 真珠湾奇襲攻撃は、戦時国際法に基づけば「戦争犯罪」ではありまあせんが、深く両国の開戦に至る経緯について思いをめぐらせ、当時の日本軍がなぜハワイを攻撃しなければならなかったかについて、今一度日本人は思いをめぐらしてみてもいいでしょう。




2016年12月25日日曜日

多様化する戦争の世紀 ~軍事力の強化と軍事力中枢への破壊行為(サイバー攻撃)と武器輸出による周辺国への影響力拡大~

【共産中国の海洋権益獲得にむけた空母打撃群の整備
中国の空母艦隊、西太平洋へ
第1列島線通過、トランプ氏牽制か?
2016.12.25 00:19更新 http://www.sankei.com/world/news/161225/wor1612250009-n1.html



黄海を航行する中国初の空母「遼寧」で艦載機「殲15」の訓練が行われている。

【北京=西見由章】中国海軍の梁陽報道官は20161224日、中国初の空母「遼寧」の艦隊が西太平洋での遠海訓練に向けて出発したことを明らかにした。中国の空母艦隊が「第1列島線」(九州-沖縄-台湾-フィリピン)を越えて西太平洋で本格的な訓練を行うのは初めてとみられる。海軍力の象徴である空母を太平洋で誇示することで、中国への強硬姿勢が目立つトランプ次期米大統領を牽制する狙いがありそうだ。
 中国軍は20161210日、戦闘機など6機が宮古海峡を通過し西太平洋に出るなど昨年以降、対米防衛ラインとして設定する第1列島線を越える訓練を活発化。15日には南シナ海で米海軍の無人潜水機を強奪するなど強硬な姿勢が目立っている。
 中国国防省によると、遼寧は24日、東シナ海で艦載機の殲(J)15の離着艦訓練などを実施。これまでは渤海や黄海を駆逐艦や護衛艦とともに航海しながら「協同運用化と体系化、実戦化」の訓練を実施してきたという。16日には中国メディアが、空母艦隊による初めての実弾演習を渤海で実施したと報じていた。


 中国国防省は10月下旬、遼寧省大連で建造されている中国初の国産空母について船体の主要部分が完成したことを公表。また上海でも別の国産空母が建造中とされ、これらは南シナ海や東シナ海で展開される可能性が高い。
【用語解説】遼寧

 ウクライナから購入した空母「ワリヤーグ」を遼寧省で改修した中国初の空母。排水量約6万7千トン、全長約305メートル。2012年9月に海軍への配備が正式発表された。中国は遼寧で得られたノウハウを継承した国産空母の建造を進めており、来年初めにも進水する見通し。ただ遼寧の実戦能力に疑問を呈する声は多い。艦載機のJ15は出力不足が指摘されている上、「パイロットの訓練の精度からみても複雑な運用は困難だ」(軍事研究者)との声もある。

【共産中国のアメリカの間隙を突いた周辺国への影響力拡大戦略】

アメリカに冷たくされたタイに食い込んだ中国兵器

オバマの理想主義がもたらした中国の“成果”

タイ陸軍が米国製M41戦車の後継として発注した中国のVT4戦車(出所:Wikipedia

中国の軍事的・外交的拡張戦略の進展は、南シナ海だけにとどまらない。南シナ海での人工島建設や基地群誕生のように大々的に取り上げられることはないが、タイとの軍事的関係の親密化も目を見張る勢いで推進されている。
露骨にタイに冷たく接したオバマ政権
20145月、タイで政治的混乱を鎮定することを大義とした陸軍が中心となってクーデターが敢行され、8月にはプラユット陸軍総司令官が国王から首相に任命され軍事政権が発足した。
 それ以降、軍事政権を一律に忌み嫌うオバマ大統領は、タイに対して露骨に冷たい姿勢を示し始めた。
 オバマ政権の方針により、それまでタイ軍部と親密な交流を続けてきていたアメリカ軍部も、合同演習などの規模を縮小したり、中止したりせざるを得なくなった。そのため、東南アジアや極東軍事戦略を担当していたアメリカ軍関係者などの間からは、「アメリカ軍とタイ軍の関係が疎遠になってしまうと、その隙に乗じて中国人民解放軍の影響力が強まりかねない」といった危惧の声が上がっていた。
 その心配は的中した。オバマによるタイ軍事政権に対する“冷たいあしらい”が始まるやいなや、中国側からタイ軍事政権への軍事的・経済的なさまざまなアプローチが開始されたのである。
 本コラムでも指摘したように、2015年夏には、中国によるタイ海軍への潜水艦売り込みに関する具体的情報が流れ始めた。国防予算の関係でこの年の取引は白紙となったが、中国側が“経済的パッケージ”を提供したことで、2016年の夏には3隻の中国製「元型S26T」潜水艦をタイ海軍が手にすることが決定した(本コラム2016714「潜水艦3隻購入で中国に取り込まれるタイ海軍」
潜水艦は国家機密の塊ともいえる軍艦である。そのような潜水艦をタイ海軍に売却し、潜水艦要員の教育訓練や合同演習などを行うことで、人民解放軍海軍とタイ海軍の結びつきは強固になっていく。そして中国側は、潜水艦売却に加えて、継続的に必要となるメンテナンスや修理などを通して経済的利益をも手に入れることになったのである。
今度は新鋭地対空ミサイル
 オバマ政権がタイ軍事政権を敵視する政策をとることは、中国にとって好機に他ならない。中国はこの機に乗じて、軍事上の利益と経済的利益を手中に収めつつ、中国国防圏をタイにまで拡大していこうとしている。その戦略は潜水艦取引にとどまらない。
1213日、タイ空軍は、中国の「中国精密机械出口公司」(CPMIEC:中国国営の防衛企業。主としてミサイルや防空システムに関連した兵器や技術の輸出の代理店)から輸入したKS-1C中距離地対空ミサイルシステムを公開した。
1980年代以降、タイ空軍は短距離(最大射程10キロメートル以下)地対空ミサイルをイギリス、スイス、スウェーデンなどから輸入していた。だが、その後、それらは中国製のQW-2短距離地対空ミサイルに置き換えられてきた。そして今回、最大射程距離70キロメートル、最大射程高度27キロメートルとこれまでの短距離地対空ミサイルに比べると極めて高性能のKS-1C中距離地対空ミサイルを、タイ空軍は手にすることになったのだ。
KS-1Cは人民解放軍(陸軍と空軍)が使用しているHQ-12対空ミサイルシステムの輸出向けバージョンである。そのため、中距離地対空ミサイルを初めて手にしたタイ軍に対して、中国人民解放軍が教育訓練を実施することになる。訓練を通して両軍の関係はますます親密になっていくものと思われる。
中国は、KS-1Cよりも射程距離が短いKS-1A中距離地対空ミサイルをミャンマーに輸出しているし、タイと同じKS-1Cを中央アジアの隣国であるトルクメンスタンにも持ち込んでいる。そして、タイに引き続いてパキスタンとマレーシアにもKS-1Cの売り込み攻勢をかけている。それらの売り込みが成功すれば、地対空ミサイル供与を突破口に、人民解放軍の影響力が中国周辺諸国に広がることになるのだ。
タイ国内に中国の装甲車両工場が誕生?
 中国が経済的利益を手にしながら軍事的影響力を拡大していくために用いているのは、潜水艦や地対空ミサイルだけではなく戦車にも及んでいる。
 タイ陸軍は、かつてアメリカから輸入したM41戦車(陸上自衛隊も1960年代にはM41戦車をアメリカから供与されていた)の後継として、28両の中国製VT4MBT-3000)を発注した。初期の試験運用などの状況如何では、VT4150両ほど追加注文するものとみられている。
VT4は中国北方工業公司(ノリンコ)が製造する輸出向け主力戦車であり、旧式の米国製軽戦車であるM41と違って、人民解放軍が使用している99式主力戦車を元にした近代的戦車である。このような新鋭戦車の輸出を通して、タイ陸軍と人民解放軍の交流がさら深まることは確実である。実際に、VT4の輸出にとどまらず、中国の装甲車両メーカー(すなわちノリンコの子会社)がタイに進出する話まで飛び出した。
 先週、北京の中国国防省を訪問したタイのプラウィット国防大臣(副首相を兼任、退役陸軍大将)は、人民解放軍の最高幹部たちに対して、主力戦車をはじめとする装甲車両の整備工場や生産拠点をタイ国内に建設するよう誘致したという。中国側は即座にタイ側の誘致案を支持し、さっそくワーキンググループを発足させることで合意したという。
このほか北京では、プラウィット国防大臣と李克強首相との間で、タイ縦貫鉄道や高速道路を建設するための中国・タイ共同プロジェクトが合意されている。そのため、タイに中国の装甲車生産・整備工場が誕生する日もそう遠くはないと考えられる。そして、タイ陸軍が手にする100輛以上のVT4主力戦車は、タイ国内のノリンコ工場で生産されることになるかもしれない。
世界各国が最先端防衛技術を戦略的に活用
 潜水艦にしろ、地対空ミサイルシステムにしろ、主力戦車にしろ、中国は、タイのように自ら兵器を製造できない国々に売り込むことにより、経済的利益を手にするだけではなく軍事的影響力をも着実に植え付けつつある。もちろんそのような武器供与は、単なる思いつきではなく綿密に練られた安全保障戦略に基づいている。まさに防衛産業を国防ツールとして有効に活用しているのだ。
 このように、新鋭兵器の輸出を戦略ツールとしているのは中国だけではなく、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、イスラエル、ロシアをはじめ枚挙にいとまがない。最先端技術力を有し、各種兵器を生み出している国々の多くは、兵器の輸出を戦略ツールとして活用し、経済的利益を手に入れると共に、外交的立場を強化したり、国内産業の保護を図ったり、国内の最先端技術力の発展に役立てたりしている。
 日本には、中国が戦略ツールとして輸出する元型S26T潜水艦、KS-1C中距離地対空ミサイル、VT4主力戦車と同等か、それ以上の性能を誇る潜水艦、地対空ミサイル、主力戦車を作り出す技術が存在する。ところが、いくら高性能兵器を生み出しても、自衛隊だけにしか供給できない仕組みが続いていては、国際競争から脱落することは自明の理である。日本政府は、せっかく国内に存在する技術力を戦略ツールとして活用していかなければならない。

《維新嵐》 安倍内閣による「防衛装備移転三原則」がこの問題の突破口にならないものか、と密かに期待しています。ただ兵器輸出による機密情報の漏洩も大きく懸念されるところです。結果自国の国防戦略や機密漏洩を守るために情報戦略にも重点を置かざるを得ない状況になります。下は少々古い論説ですが共産中国のサイバー空間における情報戦略についてよく理解できます。

【自国の機密情報を守秘し、敵対国の国家戦

略の中枢を破壊するサイバー攻撃】

中国とのサイバー戦争に勝つ方法

岡崎研究所

 AEIアジア研究部長のブルメンソールが、フォリン・ポリシー誌のウェブサイトに2013228日付で、「中国とのサイバー戦争にどう勝つか」と題する論説を書き、最近の中国のサイバー攻撃に手を打つ必要を強調しています。
 すなわち、インターネットは今や戦場である。中国は単にサイバー空間を軍事化するのみならず、サイバー戦士を配備し、企業、シンクタンク、メディアに攻勢をかけている。
 これは米中間の戦略的競争の一局面である。最近の中国政府発のサイバー攻撃を見ると、サイバーに関する競争には緊急性がある。
 ワシントンがサイバー戦争、知的財産権の窃取、スパイ行為、嫌がらせを抑止するために、戦略を開発する時である。簡単に言うと、米は重要インフラなどを守る一方で、中国には代償を支払わせるべきであり、攻勢に出る必要がある。
 中国はサイバー軍事能力を重視している。過去20年、中国は米軍の合同作戦に印象づけられ、C4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、諜報、監視、哨戒)に注意を向けてきた。
 同時に、人民解放軍は米軍の情報ネットワークへの依存に弱点も見出した。人民解放軍は、紛争時に米軍の情報システムを無能力化するために努力するだろう。更に重要インフラへの攻撃も例外的状況で考慮するだろう。
 中国はサイバー空間を、商業上の機密を盗み、批判的な個人や組織に嫌がらせをするためにも使っている。
 オバマ政権は、反撃し始めた。220日、ホワイトハウスは商業機密窃取を防止するいくつかの構想を明らかにした。同じ考えの国と共に、懸念国の指導者に圧力を加える外交、窃取についての国内での調査と起訴、情報共有、国内法の改善である。これは防衛的措置で重要だが、攻撃的措置も取るべきである。
 攻撃的措置が勢いを得ているかも知れない。昨年、司法省は「国家安全保障サイバー専門家ネットワーク」(National Security Cyber Specialists NetworkNSCS)を作った。約100人の検事が、「捜査と起訴がサイバー攻撃の抑止と阻止にどんな役割を果たし得るか」との研究課題を与えられている。
 議会はサイバー攻撃関与者の商活動禁止も検討すべきである。議会は、外国主権免除法で、テロの場合同様、サイバー攻撃関与者にも免除を認めないようにすべきである。
 最近のマンディアント社の例に見られるように、会社や情報機関はサイバー攻撃の源を特定し得るようになってきている。19世紀に海賊に対してしたように、私人に許可を与え、米の民間会社が報復をなし得るようにすべきと言う学者もいる。新法や既存法の利用で、中国政府に評判または金銭面でのコストを支払わせうる。


 外交上の措置も強化されるべきである。米国は証拠を示し、中国に対処すべきである。米は唯一の被害者ではない。従ってサイバー防衛センターを各国と作るべきで、その一つを台湾におくべきである。言語上などの利点があるし、その上、中国指導者の嫌がる選択肢がこちらにあることを示し得る。
 米軍のサイバー関係の努力は既に探査、浸透、能力誇示に至っていると思われる。Stuxnet作戦の漏えいは米の利益を害したかもしれないが、中国は米に戦略的サイバー攻撃能力があることを知っている。抑止力を高めるために、米国は友好国とのサイバー演習などを通じて定期的に能力誇示をすべきである。
 米が保有する手段を良く使うためには省庁間調整が必要である。法、法執行、金融、情報、軍事的抑止が、ブッシュ政権の一時期、北朝鮮に成功裡に使われた。中国は北朝鮮ではないが、米はサイバー空間で無責任なことをしている連中を狙うべきである。
 放っておくと、中国の危険なサイバー戦略がより大きな紛争の可能性につながる、と論じています。
◆         ◆          ◆
 この論説は、最近の中国政府、具体的には人民解放軍によるサイバー攻撃の事例が明らかになったことを受けて書かれたものですが、いろいろなことを教えてくれる一方で、対抗措置に重点が置かれ過ぎているきらいがあります。
 サイバー攻撃には、情報窃取から重要インフラ攻撃、軍事通信網の阻害や攪乱など、種々のものがあります。テロの問題同様に、犯罪抑圧の手法で取り扱うべきもの、戦争手段として排除すべきものなど、国際的にどう取り扱うべきか、決まっていないことが余りにも多く、これを決めることが最優先課題です。
 まずは、中国も巻き込んで、国際社会として、国家または個人がサイバー空間でしてはならないことを決め、その上でその遵守を求めて行くことが必要です。中国が国際的ルール作りに参加しなければ、中国抜きで国際的規範が出来上がっていき、中国にとって不利益になることを、よく知らしめるべきです。体系的な国際規範の追求は現実的ではなく、合意出来るところから少しづつ決めていく必要があります。
 サイバーセキュリティでは、サイバー空間の軍事化や攻撃手段の開発競争を如何に防ぐかということにもよく注意する必要があります。そのためには、バランス感覚が重要で、攻撃手段の研究自体は意義あることとしても、それに軽々に依存するのは適切ではないでしょう。司法、金融、外交的手段を重視する方が効果的と思われます。

【アメリカのサイバー戦能力と認識】

平時におけるサイバー戦報復能力



サイバー戦争における米国の報復手段とは?

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、20161115日付同紙のコラムで、米国の大統領選挙に対するロシアのサイバー攻撃による干渉をエスカレートしなかったのは、米国が強い警告を発したためである、と述べています。
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 20161031日、ホワイトハウスはロシアに対しこれ以上米国の大統領選挙をサイバーで干渉しないよう、秘密のホットラインを使って警告した。その後、ロシアは干渉をエスカレートしなかった。
 この警告は、本年米露政府間で行われてきたサイバーの瀬戸際政策の一部であり、ロシアの圧力に屈したと思われない形での関係の安定化が、トランプ次期大統領にとっての最大の課題の一つである。警告は、2013年に「核危機削減センター」の一環として作られた特別のチャネルを通じて送られた。米政府のある高官は、「それはロシアに対する極めて明確なメッセージであった。このチャネルを使ったこと自体がメッセージの一部であった」と述べた。
 この秘密の警告に先立ち、107日クラッパー国家情報局長官とジョンソン国土安全保障省長官が、ロシアの最高位の政府高官が、米国の大統領選挙に干渉するためのサイバー攻撃を認可したとの公の声明を出している。
 米政府筋はこの2つの警告の後、ロシアはサイバー活動を広げず、むしろ減らしたようだと述べた。ホワイトハウスはロシアが選挙当日サイバーで選挙を妨害するのではないかと恐れていたが、そのような干渉は無かった。しかし他の政府高官は、ロシアが追加的活動を抑止されたのかどうかを言うのは時期尚早であると述べた。
 米ロ間の秘密の接触は、両国間で高まっている対決の最新の事例である。オバマ政権は攻撃的なロシアによる事態を不安定化させる行動を抑制するような、サイバー空間における抑止の規範を確立しようと努めてきた。2015年のG-20サミットは、サイバー空間における国家の行動に国際法が適用されると述べ、ホワイトハウスはこれを前進であると考えた。米国は、この約束には攻撃と反撃のつり合いと巻き添えの被害の制限を守るような交戦規則の順守が含まれると主張しているが、オバマ政権はロシアがこれらの制限を無視していると懸念している。
 オバマ政権のロシア専門家は、次期政権の後任に対し、「ロシアの意図を知ること、ロシアが約束を守ると信じることは極めて難しい」と警告する。別の高官は「ロシアは危険な行動を取る傾向を強めており、ロシアの指導層は注意深く、良く計算し、危険は避けるという従来の想定は当てはまらなくなりつつある」と述べた。
 サイバー空間で新しい冷戦が始まった。トランプはデタントを望んでいるようであるが、まずはこの新しい分野での抑止の明確な規範の確立を注意深く検討すべきである。
出典:David Ignatius,In our new Cold War, deterrence should come before detente’(Washington Post, November 15, 2016
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/in-our-new-cold-war-deterrence-should-come-before-detente/2016/11/15/051f4a84-ab79-11e6-8b45-f8e493f06fcd_story.html

 米大統領選挙中、民主党全国委員会がサイバー攻撃を受け、多くの資料が流出しましたが、サイバー専門家は攻撃はロシアによるものと断定しました。選挙中、クリントン候補がロシアに対し強い姿勢を示したのに対し、トランプ候補は、「プーチンは強い大統領である、ロシアとの関係はうまくやっていける」などと述べました。ロシアがトランプ候補の当選を望んだとしても不思議ではありません。
安保の新しい課題
 米政府がロシアによる一層の選挙干渉を真剣に懸念した結果が、論説の指摘する公開および秘密裏の対露警告でした。結果としてロシアのサイバー干渉は無かったのですが、米政府筋はそれが、警告が抑止として働いた結果かどうかについての言明は避けています。サイバー攻撃問題にどう対処するかは、安全保障上の新しい課題です。
 サイバー攻撃は従来の通常兵器、核による攻撃と比べ、攻撃者の特定の問題をはじめ、目に見えにくい部分が多く、サイバー攻撃問題をどう管理するかは容易でありません。論説は一例としてサイバー攻撃に対する抑止の問題を採りあげています。抑止の典型的な例は核攻撃に対するものであり、攻撃された場合、相手に耐え難い報復をすると警告することで、相手に攻撃を思いとどまらせようとするものです。そのためには報復の能力と意思を相手方にはっきりさせておく必要があります。
 サイバー攻撃の場合はどうでしょうか。核の場合は報復の能力は、例えば潜水艦発射核搭載弾道ミサイルというように相手に示せますが、サイバーの場合は基本的に能力は目に見えず、核と同様に論じることはできません。今回の米国の対露警告が具体的に何であったかは分かりませんが、米国はロシアよりはるかにデジタル・インフラに依存しているので、サイバー攻撃で報復するのは賢明でないという見解が有力のようです。それでは何が報復手段でありうるのか、これは米国に課せられた重要な課題と考えられます。
 抑止の問題以外にも、サイバー攻撃問題をどう管理するかの問題は数多くあります。2015年のG-20サミットで、サイバー空間における国家の行動(当然サイバー攻撃も含む)には国際法が適用されるということで合意が成立したと言いますが、これが何を意味するかは明らかでありません。
 サイバー攻撃は、企業秘密の窃取と言った経済的動機にとどまらず、政治的動機に基づくものがますます増えることが予想されます。イグネイシャスは、別の記事で、米ロ関係について「冷戦は終わり、サイバー戦争が始まった」と言っています(The Cold War is over. The Cyber War has begun. WP, September 15)。サイバー攻撃をどう管理するかは喫緊の課題です。

ロシアがサイバー攻撃でアメリカ大統領選に干渉!? 上念司氏
サイバー攻撃 中国からアメリカへ集中攻撃

現実の危険をはるかに上回る?
サイバー攻撃への認識

岡崎研究所

 ランド研究所の科学部門責任者マーティン・リビッキ(海軍大学招聘教授)がフォーリン・アフェアーズ誌ウェブサイトに、2013816日付で「サイバーの誇大宣伝をまともに取るな。サイバー戦争の現実化をどう防止するか」という論説を寄せ、サイバー脅威は過大評価されており、その結果、現在考えられている対応策も危険性を持つ、と指摘しています。
 すなわち、ワシントンでは米国の重要インフラへのサイバー攻撃は不可避と信じられているようである。クラッパー国家情報長官、サイバー司令部のキース司令官は、脅威を強調している。国防省の防衛科学委員会は、「極端なときには核での対応」を含めサイバー防衛・抑止を改善すべきだ、としている。
 サイバー攻撃の危険に対する認識は、現実の危険をはるかに上回っている。これまでサイバー攻撃で死者は出ていない。ブラジルでの局地的停電以外にインフラがやられた例もない。
 サイバー攻撃は理論上インフラを破壊し、死者を出しうるが、米情報当局が警告している規模にはなりそうにない。直接的被害の規模は、おそらく限られたものとなろう。間接的被害の規模は、救急サービスが大きく支障を受けるなど、他の要因による。金融システムへの信頼がなくなれば、影響は大きかろうが、取り付け騒ぎには至らないだろう。
 当局者は、サイバー攻撃の出所を明らかにしえないとも警告している。イランは、おそらく、Stuxnet攻撃についてのニューヨーク・タイムズ紙のスクープ記事を読むまで、濃縮装置が何故壊れたのか分からなかっただろう。サイバー諜報の犠牲者も、長い間やられていることに気づかないだろう。
 サイバー空間での技術は良い方向にも悪い方向にも発展している。攻撃側も防衛側も同時に洗練されてきている。イランがサイバー戦争を手段として考え始めたのは悪いニュースであるが、ソフトウエア会社が脆弱性をなくそうとしているのは良いニュースである。
 サイバー攻撃の危険は米・イラン対決で一番大きい。イランは2012年、サウジのアラムコのコンピュータ・ネットワークに侵入し、カタールのラスガスにも侵入した。イランのハッカーは米国のガス・石油パイプラインを操作するソフトウエアにアクセスしうるとも言われる。イランは米国にサイバー攻撃を行う理由がある。イランはStuxnet攻撃を忘れていない。


 米国はどう対応すべきか。サイバー攻撃が戦争行為であると決定することは戦争を意味する。報復的サイバー攻撃は対決のエスカレーションにつながり、戦争になる。こういう結果は避けられるべきである。
 米国はサイバー攻撃が起こる前に、それを止めさせる技術的、政治的措置をとるべきである。米政府はソフトウエアの脆弱性を減らすなどのためにもっと投資しうる。米国の重要システムのほとんどは民間が保有しているし、ソフトウエアも民間が開発している。官民でその脆弱性克服に協力すべきである。
 技術的能力、たとえば攻撃者を特定する能力は政治的抑止につながる。また米国はサイバー諜報とサイバー攻撃を区別し、後者には厳しい対応をするべきである。米国は作戦上の柔軟性を持つべきで、怖れる余り拙速に反応することはよくない。コンピュータはナノ秒で動くが、問題にすべきなのはそれを使う人間である、と論じています。
* * *
 この論説は、サイバー攻撃についての行き過ぎた脅威認識や対応論に反対したものです。
 論説は、サイバー攻撃とサイバー諜報の区別をすることを主張していますが、これは適切です。サイバー攻撃についても、軍事目標に対するものと民間施設に対するものを区別することも考えられるべきでしょう。その上で国際的な規範作りを考えるべきであると思います。
 文民保護、軍事目標主義といった、武力紛争についての国際法のなかに、どういうサイバー攻撃を禁止すべきか、問題を整理する手がかりがあるでしょう。一方、サイバー諜報は、今までもやられてきた国際的な諜報を、これまでとは異なる手段でやっているというだけで、これを禁止することは出来ないでしょう。知的財産権窃取には、また別の対応が要ります。サイバー脅威を正しく評価するには、サイバー空間での諸活動を適切に分類して考えることが肝要であり、日米間でも緊密に協議していくべきです。
サイバーセキュリティ
慶応大学大学院教授 土屋大洋氏