窮地に立たされ日本を利用しようとする米国
中国の対艦ミサイルに苦慮、現状の装備では劣勢に
北村 淳 2015.7.9(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44247
イージス戦闘システムを「ベースライン9」にバージョンアップした巡洋艦「チャンセラーズビル」(写真:米海軍)
「アメリカ海軍が高強度ハイテク戦争に勝ち残るためには、最先端バージョンのイージスシステムを装備した軍艦を少なくとも40隻は出動させなければならない。しかし、現状では、そのような準備が整うのは2026年頃、極めて楽観的には2024年頃まで待たなければならない」
アメリカ海軍作戦部長(アメリカ海軍軍人のトップ)をはじめとする海軍首脳たちと、連邦議会下院海洋戦力投射戦力小委員会長フォーブス議員などが、国防予算の大幅削減に伴いアメリカ海軍の作戦能力が大幅に制限される窮状について語った。
最新鋭のイージスシステム「ベースライン9」
「高強度ハイテク戦争」とは中国人民解放軍との戦闘を意味している。そして、「最先端バージョンのイージスシステム」とは「ベースライン9」という最新鋭バージョンのイージス戦闘システムを意味している。
ベースライン9と「SM-6迎撃ミサイル」を装備した軍艦は、敵の弾道ミサイルと巡航ミサイルあるいは航空機を同時に攻撃することができる。ベースライン9以前のイージスシステムを搭載している軍艦は、弾道ミサイルを攻撃するときは同時に巡航ミサイルや航空機は攻撃できないし、巡航ミサイルや航空機を攻撃するときは同時に弾道ミサイルを攻撃することはできない。
強力なアメリカ海軍を中国近海に接近させないための「A2/AD戦略」(接近阻止領域拒否戦略)を打ち立てて軍事力強化に邁進してきた人民解放軍は、接近してくるアメリカ艦隊に対して様々な種類の弾道ミサイル、巡航ミサイルそして航空機による一斉攻撃を敢行することは間違いないとアメリカ海軍作戦家たちは考えている。したがって、人民解放軍からの対艦弾道ミサイル、対艦超音速巡航ミサイル、それに航空機による各種攻撃から身を守るためには、40隻のベースライン9搭載イージス艦を取り揃えなければならないのだ。
ミサイルを発射したチャンセラーズビル(写真:米海軍)
厳しい状況にあえぐ米海軍
しかしながら、アメリカ海軍が警戒しなければならないのは人民解放軍だけではない。中国に加えてロシアや中東方面からの弾道ミサイルの脅威に対してアメリカ海軍が総出動する場合には、少なくとも77隻の弾道ミサイル迎撃システム能力を備えたイージス艦(巡洋艦・駆逐艦)を出動させなければならなくなる。
現在、アメリカ海軍が保有しているイージス巡洋艦は22隻、イージス駆逐艦は62隻(加えて1隻が間もなく就役し、2隻が建造中)である。いかなる国の海軍といえども、保有する軍艦の3分の1前後は整備点検中なため、アメリカ海軍の巡洋艦と駆逐艦(全てがいずれかのバージョンのイージスシステムを装備しているイージス艦)は全て弾道ミサイル防衛に駆り出されることとなる。
アメリカ海軍首脳部は、とりわけアメリカ連邦議会がアメリカ海軍の弾道ミサイル防衛戦力に過大な期待を寄せている傾向に注意を喚起するとともに、現状ではアメリカ海軍の作戦は極めて厳しい状態である旨を以下のように述べている。
「海軍の任務は弾道ミサイル防衛だけではなく、弾道ミサイル防衛に劣らず重要な任務がたくさんある」
「中国はじめ仮想敵勢力の弾道ミサイルや各種対艦ミサイル、それに航空戦力の伸展に米海軍の防衛戦力を追いつかせ続けることは“もはや持続可能ではない状態”となってしまっている」
「そしてその原因は、アメリカ海軍に軍事的能力が欠乏しているからではなく、予算が不足しているために必要な戦力を確保できないからである」
軍艦や航空機をネットワークで結合する「NIFC-CA」
全てのイージス艦にベースライン9とSM-6迎撃ミサイルを装備させることが、アメリカ海軍にとっては理想ではあるものの、上記のように40隻を最先端化するだけでも(現状のような国防予算レベルでは)10年前後はかかってしまう。
そこで、ベースライン9搭載イージス艦と旧バージョンのイージス艦、それに新鋭E-2Dホークアイ早期警戒機などをネットワークで結合して、それぞれの軍艦や航空機がそれぞれ保有する監視能力、データ処理分析能力、火器統制能力、攻撃能力などを共有することによって、弾道ミサイル、超音速巡航ミサイル、巡航ミサイル、それに航空機をネットワーク全体が同時に攻撃できるようにするシステムが開発中である。
米海軍のE-2D早期警戒機(写真:米海軍)
このネットワークは「NIFC-CA」と呼ばれており、2年ほど前から実地テストが実施されている。去る6月10日には超音速巡航ミサイル迎撃実験にも成功し、実用化への期待が高まっている。
イージス艦とE-2D警戒機をNIFC-CAで統合して運用することにより、ベースライン9イージスシステムとSM-6迎撃ミサイルを共に搭載する駆逐艦の数を抑えることができる。その結果、費用を大幅に節約することができ、海軍作戦家たちが心配する「弾道ミサイル防衛以外の本来の海軍作戦」に割り当てる戦力を確保することも可能になるわけだ。
(NIFC-CAはあくまで弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機から、空母任務部隊や水陸両用戦隊とりわけ航空母艦や強襲揚陸艦を防御するための防衛システムであり、敵艦や敵地を攻撃するためのシステムではない。)
NIFC-CAに日本を引きずり込みたい米国
当然のことながら、NIFC-CAでネットワーク化するイージス艦や警戒機の数は、多ければ多いほど強力な防御力を発揮することになる。しかしながら、現状のアメリカ海軍保有艦艇数では充分ではない。
そして、NIFC-CAを構成することができる軍艦や警戒機、それにベースライン9イージスシステムとSM-6迎撃ミサイルを共に搭載する駆逐艦などの数が揃うには少なくとも数年間の猶予がどうしても必要である。そこで、アメリカ海軍作戦家たちの頭をよぎるのは、同盟軍の軍艦や警戒機をNIFC-CAに組み込むことである。
言うまでもなく、筆頭候補は海上自衛隊である。海上自衛隊はイージス駆逐艦を6隻(いずれもベースライン4~7)運用しているし、さらに2隻の建造が予定されている。また海上自衛隊はE-2D早期警戒機の購入も開始した。したがって、これらの海上自衛隊イージス艦と早期警戒機をNIFC-CAのシステム構成要素に組み込むことは技術的には何の問題もない。
また、多くのアメリカ軍関係者の理解では、安倍政権の防衛政策大転換によって、これまで日米共同運用を阻害してきた「集団的自衛権行使の禁止」という政治的問題も排除されつつある。
そして何よりも、政府や与党の実力者たちが「日米同盟だけが日本防衛を全うするための唯一の手段」と公言してはばからないのが日本の国情である。「日米同盟強化のため」という触れ込みでベースライン9やSM-6などを日本に売り込めば、いくら超高額兵器でも日本は気前よく購入してくれることは間違いない。このことは、かつてアメリカ空母艦隊をソ連軍の脅威から防御するために超高額軍艦であるイージス駆逐艦を建造した“実績”が物語っている。
アメリカの都合に従うより自主防衛の強化を
アメリカ側から働きかけがあったかどうかは定かではないが、6月29日、中谷防衛大臣はNIFC-CAの導入へ前向きである旨を平和安全法制特別委員会で明らかにしている。
自衛隊がNIFC-CAを導入するということは、アメリカ海軍が構築するNIFC-CAネットワークに海上自衛隊のイージス艦とE-2D警戒機を組み込んでアメリカ海軍と海上自衛隊がまさに一体となって作戦行動をすることを意味している。
もちろん、NIFC-CAによって、これまでの各種防御システムでは迎撃が困難であった、人民解放軍の対艦弾道ミサイルや対艦超音速巡航ミサイルから米海軍艦艇や海上自衛隊艦艇を守ることが(完ぺきではないが)可能となるであろう。しかしながら、アメリカ海軍が巨費を投じて開発に邁進しているNIFC-CAの究極の防御対象は、人民解放軍にとり最大の攻撃目標であるアメリカ海軍空母である。
日本にとっても、日本周辺海域に展開するアメリカ空母を防衛することは極めて重要である。しかしながら、日本防衛にとっては、アメリカ空母を狙う中国の対艦弾道ミサイルや超音速巡航ミサイルよりも、日本全土の戦略目標を確実に破壊できる人民解放軍長距離巡航ミサイルのほうがはるかに大きな直接的脅威である(拙著「巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない」参照)。ただでさえ少なすぎる国防予算を、日本自身が直面している脅威を抑止するために優先的に割り当てるのは日本国防当局の責務である。
21世紀の現在、いかなる国家といえども単独防衛は困難である。日米同盟は日本の安全保障にとって極めて重要な要素であることは間違いない。
しかし、軍事同盟はあくまで自主防衛努力を補強するものである。「日米同盟こそが日本防衛の唯一の方策」などと公言してはばからず、日本自身の防衛よりもアメリカ軍艦の防御を優先させるような対米従属的姿勢は即刻改めなければならない。
【海上自衛隊あたご型イージス護衛艦へ最新型のイージスシステムを導入】
「自衛隊」はつまり「日本国防軍」なんですよ!
第二次大戦後の我が国は戦略的地勢の観点からいっても西から覇権をのばしてきたアメリカ合衆国の「国防線」の一角に位置する国である。アメリカに対して政治的に「敗北」を認めたわけであるから、軍事上もアメリカ国防圏への侵入を西から(アメリカからみて)防衛する役目をおのずと担っていると考えていいだろう。
つまり我が国が自主防衛努力につとめることが、アメリカにしてみれば、西の国防線を固める結果につながるということで、日米の軍事力は「一体化」していくのである。その肝は、民主主義、自由主義の政治理念の普遍的価値を守るためである。
我が国がアメリカの西の国防線であるなら、自由主義民主主義の価値観を守るため、政治上軍事上、アメリカの既得権益を守るために、国防線付近に強力な空海軍、有事の時の即応戦力である海兵隊を配置していくのは当然である。戦勝国アメリカの軍事戦略、政治戦略を受け入れた我が国が在日米軍と共同で軍事作戦を行う「国軍」を有することも不思議なことではない。
本質としては、「自衛隊」という呼称でも「国防軍」という呼称でも同じなのである。
イージス巡洋艦チャンセラーズビル
How to Deter China:陸上自衛隊への期待と課題 島嶼防衛と海上・航空優勢拒否との両立
吉富望 (日本大学総合科学研究所教授)
2015年07月07日(Tue) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5138
米国のシンクタンク「戦略・予算評価センター」のアンドリュー・クレピネビッチ所長が「中国をいかに抑止するか:第1列島線防衛の場合(How to Deter China: The Case for
Archipelagic Defense)」と題する論文をForeign Affairs誌の2015年3月/4月号に寄稿した。
クレピネビッチは「エアシー・バトル(AirSea Battle)」を提唱して米軍に強い影響を与えた人物であり、今般提唱した「第1列島線防衛」も米軍に何らかの影響を与える可能性がある。この論文でクレピネビッチは、有事における中国軍の西太平洋進出を阻止する上で、南西諸島から台湾、フィリピン、ベトナムに至る第1列島線の防備を固めることの重要性を説き、その際には米国および第1列島線諸国の陸上戦力が大きな役割を担うことを強調し、特に陸上自衛隊に強い期待を寄せている。
なぜ陸上戦力が求められるのか?
中国軍は、米軍による中国本土への接近や中国周辺での活動を妨害する「接近阻止/領域拒否(anti-access/area-denial: A2AD)」のためにミサイル、航空機、潜水艦、水上艦艇等の配備を進め、海上・航空優勢を確保し得る範囲を西太平洋まで拡大しようとしている。
エアシー・バトルも第1列島線防衛も、中国に武力行使を諦めさせる効果(抑止効果)を狙いとしているが、その方法(力点)が異なっている。エアシー・バトルでは、米軍が中国本土への空爆などの反撃能力および海上封鎖能力を強化することで中国を抑止する「懲罰的抑止」に力点を置いている。
一方、第1列島線防衛では「懲罰的抑止」を維持しつつ、米軍および第1列島線諸国の軍が第1列島線において中国の海上・航空優勢を拒否し、西太平洋への進出を阻止する能力を強化することで中国を抑止する「拒否的抑止」に力点を置いている。
2009年版米国防省「中国の軍事力報告」から引用し、著者が加筆修正
では、誰が第1列島線で中国軍を阻止するのか。クレピネビッチは第1列島線周辺における中国の海上・航空優勢を拒否する役割は総じて地上戦力によって達成可能と主張する。
この主張の背景には二つの認識があると考えられる。第一に、中国軍のA2ADによって第1列島線周辺における米軍および第1列島線諸国の海上・航空戦力のプレゼンスが低下するとの認識である。
第二に、陸上戦力はA2AD環境下でも第1列島線で健在し、中国軍に対抗できる能力を持ち得るとの認識である。若干の説明を加えよう。
中国軍は多数の弾道・巡航ミサイルを保有しており、有事には第1列島線に所在する航空基地に対して大規模なミサイル攻撃を行うと考えられている。その場合、米軍や第1列島線諸国軍の航空戦力は、こうした攻撃で早期に壊滅することを避けるため、ミサイル攻撃等を受けにくい第2列島線の航空基地に退避し、そこから第1列島線付近に飛来して作戦を行うこととなる。
空中給油によってこうした遠方からの作戦は可能であるが、第1列島線付近で常時在空することは難しくなり、中国軍が航空優勢を握る場面が増えることが予想される。その結果、味方の航空機の援護を常時受けることが難しくなった米軍や第1列島線諸国軍の海上戦力、特に水上艦艇は第1列島線付近から退避せざるをえなくなる。そして、第1列島線には地上戦力が残される。
では、第1列島線に残った地上戦力は航空優勢が常時確保できない中でも生き残れるのか。地上戦力は地形、植生、人工構築物、人工素材等を利用した掩蔽や隠蔽、デコイ(囮)による偽騙、加えて頻繁な小移動や分散が可能である。
空爆のみで敵の地上部隊を
壊滅させた例は見当たらない
壊滅させた例は見当たらない
このため、空中や宇宙からの情報収集手段が発達した現代でも地上戦力を全て発見することは難しい。発見されなければ、正確な攻撃を受けることもない。歴史上、航空優勢を確保している側が空爆のみで敵の地上部隊を壊滅させた例は見当たらないのは、このためである。
地上戦力とは、地上戦力によるしらみつぶしの攻撃によってのみ撃滅できるという厄介な代物だ。元米陸軍軍人であり敵の航空優勢下での地上戦力の残存性を熟知しているクレピネビッチだからこそ、中国軍の海上・航空優勢獲得を拒否する役割を第1列島線に残った地上戦力に期待しているのだ。
クレピネビッチは地上戦力に下記の役割を期待しており、陸上戦力がこうした役割を果たすことで海上・航空戦力は努力を分散することなく、遠距離偵察や空爆などの任務に重点志向できると述べている。
1. 中国軍の海上・航空優勢獲得を直接拒否する役割
(1) 地対空ミサイルおよび地対艦ミサイルにより空中・水上からの接近を拒否
(2) ロケットランチャー、ヘリコプター、舟艇による機雷敷設およびロケットランチャーによる対潜魚雷の投射により水上・水中からの接近を拒否
(3) 島嶼への上陸・占拠を拒否
2. 味方の作戦基盤を防護する役割
島嶼と海底に設置された光ケーブルを防護し、戦闘ネットワークを維持
3. 拒否的抑止に資する役割
地対地ミサイルによる敵地攻撃
なぜ陸上自衛隊に期待がかかるのか?
第1列島線に前方展開した米軍および第1列島線諸国軍の陸上戦力はクレピネビッチが期待している役割を果たせるのか。米陸軍が第1列島線に前方展開している戦力は小規模で、上記の役割に直接寄与できるのは沖縄に駐留しているパトリオットミサイル部隊、特殊部隊等であろう。
ちなみに、クレピネビッチは米海兵隊の戦力は考慮していない。沖縄に駐留する米海兵隊を含めて考えると米軍の貢献度は高まる。また、第1列島線諸国の陸上戦力については日本とベトナムに期待を寄せているものの、フィリピンに関しては米陸軍が今後より大きな役割を果たさざるを得ないと述べている。
陸上自衛隊についてクレピネビッチは、米軍の支援が無くても中国軍の海上・航空優勢獲得を拒否する能力を大幅に強化できると断じている。これは、陸上自衛隊が南西諸島における防衛態勢を逐次強化しているからであろう。陸上自衛隊はすでに沖縄に地対空ミサイルを配備し、地対艦ミサイルを島嶼に展開する訓練を実施している。また、与那国島への沿岸監視部隊の配置を決定し、奄美大島、宮古島および石垣島に警備部隊の配置を検討している。
クレピネビッチは、地上戦力による機雷敷設や対潜魚雷の投射も提唱しているが、これは海上戦力が実施してきた役割を陸上戦力が補完するユニークなものである。陸上自衛隊は地対艦ミサイル、多連装ロケットシステム、ヘリコプターなどを保有しており、海上自衛隊の統制下でこれらを用いた機雷敷設や対潜魚雷の投射を行うことについて検討する価値はある。
なお、クレピネビッチは地上戦力が地対地ミサイルによる敵地攻撃能力を持つことを提唱している。陸上自衛隊がこの種のミサイルを保有することは技術的には可能であろうが政治的には敏感な問題であり、慎重な検討が求められる。
陸上自衛隊の課題
島嶼防衛と海上・航空優勢拒否との両立
島嶼防衛と海上・航空優勢拒否との両立
陸上自衛隊が南西諸島周辺での海上・航空優勢拒否において果たす役割は大きい。しかし南西諸島に所在する陸上自衛隊にとって島嶼防衛、つまり日本の領土を守り、そこに住む国民を守ることは至高の任務である。したがって、陸上自衛隊は島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させる必要があるのだ。これはクレピネビッチが言及していない点である。
沖縄県内には49の有人島が存在するが、これだけ数の有人島を守るためには更なる情報収集能力、機動展開力、長射程火力、兵站支援能力などが不可欠である。例えば機動展開力は、平素から陸上自衛隊が配置されていない島嶼に部隊を緊急輸送し、その領土と住民を守る上で極めて重要である。
同時に、地対空ミサイルや地対艦ミサイルを多数の島嶼に緊急輸送して配置することは、中国軍の海上・航空優勢獲得を拒否する上で有効である。しかし、南西諸島周辺で海上・航空優勢を巡る攻防が行われている中では海上・航空自衛隊による輸送支援に期待できない場合もあろう。
だが、陸上自衛隊はヘリコプター以外に離島に部隊等を機動展開させる手段を持たない。これでは島嶼防衛も海上・航空優勢拒否も全うできない。多数の隊員や多量の装備・物資等を迅速に輸送できる高速輸送艇を陸上自衛隊が自ら保有し、主要島嶼に配備しておく必要がある。また、こうした高速輸送艇は既に述べた機雷敷設にも活用できる。
とはいえ、国の財政事情や少子化の中で、島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させるための隊員の増加や予算の増額は多くを期待できない。したがって、陸上自衛隊全体として組織のスリム化や装備の効率化を進め、同時に陸海空自衛隊による統合を進めて必要な資源を捻出する必要がある。ここで重要となるのは、陸海空の各自衛隊が南西諸島における島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させるために如何に役割を分担するかという共通認識であろう。
もうひとつの抑止力:信頼醸成
エアシー・バトルや第1列島線防衛は「懲罰的抑止」や「拒否的抑止」によって有事を防ぐことが狙いであり、これらの重要性は言うまでもない。しかし、有事を防ぐ上で「信頼醸成」を忘れてはならない。これはクレピネビッチの論文の範囲を超えるテーマである。
陸上自衛隊は本年6月20日から7月1日までの間、モンゴルにおいて多国間共同訓練(カーン・クエスト15)に参加したが、そこでは自衛隊員と中国軍人とが肩を並べて訓練し、自衛隊員が中国軍人にアドバイスを与える様子が見られた。日中関係に確執が見られる中、こうした友好的な姿は信頼醸成上、画期的である。
加えて、陸上自衛隊と中国軍には地域における災害救援・人道支援など協力できる分野はあり、これを信頼醸成に活用しない手はない。陸上自衛隊は南西諸島における島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させる努力を続けつつ、中国軍との信頼醸成に向けた努力をも続ける必要がある。
※人民解放軍と自衛隊との「信頼醸成」は、過度に意識すべきではないと考える。なぜなら「信頼醸成」に務めるのは、軍人同士よりもまずは政治家同士だからである。
政治家が相手におもねることなく、既得権益にとらわれず、国益のため国民のために、政治的価値観の違う相手でも有益な関係を構築し信頼関係を高めなければならない、その後に軍隊間、軍人同士の交流がうまく作っていけるものではないだろうか?
※人民解放軍と自衛隊との「信頼醸成」は、過度に意識すべきではないと考える。なぜなら「信頼醸成」に務めるのは、軍人同士よりもまずは政治家同士だからである。
政治家が相手におもねることなく、既得権益にとらわれず、国益のため国民のために、政治的価値観の違う相手でも有益な関係を構築し信頼関係を高めなければならない、その後に軍隊間、軍人同士の交流がうまく作っていけるものではないだろうか?
陸上自衛隊広報資料・島嶼防衛
戦闘と“100%無縁”はあり得ない 「後方支援活動」の現実を直視せよ
思いもかけない手違いで戦闘に巻き込まれた米軍輸送部隊
北村 淳 2015.2.26(木) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43001?page=1
ナーシリーヤの戦闘で撃破された海兵隊AAV-7(写真:米海兵隊)
世界中いかなるところで発生する軍事紛争といえども、日本の安全保障のために日本自身が直接関与しなければならない事態は今後ますます増加するであろう。
オバマ政権下のアメリカが世界の“警察官”ではなくなってしまっている現状では、安倍政権が推し進めようとしている「金だけ出すのではなく、後方支援活動に限定するとはいえ自衛隊も積極的に派出する」という方針は正しい方向性である。
「後方支援」というマジックワード
ここで「後方支援」と呼ばれているのは
"combat service support" という軍事英語であり、日本の軍事用語としては「戦務」と訳される。しかしながら、「戦務」では戦争あるいは戦闘を想起させてしまうと考えたためか、「後方支援」という政治的訳語がつくり出された。これによって、あたかも“戦場の後方の安全地帯での活動”といったニュアンスを醸し出すことに成功している。
ただし、「後方支援」と訳そうが「戦務」と訳そうが、
"combat service support" という軍事用語であることには変わりはない。その内容は「補給」「整備」「輸送」「医療」といった直接戦闘に関与しない活動である。
安倍政権が推し進めるように、「周辺事態」といった曖昧模糊とした表現が消え去り、“米軍だけに対する後方支援”という支援対象の限定も消え去り、“弾薬補給活動や戦闘準備航空機に対する整備活動などの禁止”という縛りも消え去ることになると、国際軍事常識における同盟軍(allied forces)あるいは友軍(friendly forces)に対する後方支援(combat service suppport)活動に自衛隊部隊が参加することになる。
すなわち近い将来には、多国籍軍戦闘部隊に対する後方支援活動に従事する自衛隊輸送部隊の車列が中東の砂漠地帯を突き進む姿を我々は目にすることになるのだ。
その際、「後方支援」あるいは「現に戦闘が行われていない地域」といった“ことば”の持つニュアンスによって、「戦闘が行われていない地域において、各種後方支援活動を実施する自衛隊は、戦闘とは一線を画しているので心配無用」との、現実から目を背けた見解も少なくないようである。
だが、戦闘が全く予定されていない地域での後方支援活動に従事するとはいっても、軍事紛争に直接関与する以上は、自衛隊部隊が戦闘に巻き込まれてしまうという状況を想定しなければならない。それは古今東西の戦史や21世紀における戦例が突きつけている現実である。
そこで今回は、戦闘に関与することが全く予定されていなかった後方支援部隊が“思いもかけない手違いにより”戦闘の当事者となってしまい、それが原因でさらに激しい戦闘が引き起こされたり、困難な救出作戦が実施されるに至ってしまった実例を紹介したい。
純然たる後方支援部隊だった米軍・第507整備中隊
2003年3月20日、イラク戦争開始と同時にクウェート国境からイラク領内に侵攻した多国籍軍主力戦闘部隊は、バグダッド南東360キロメートルの戦略拠点ナーシリーヤからバグダッドまで断続的に配置されたイラク軍主力との戦闘を避け、ユーフラテス川南岸を迂回してバグダッドを目指して北上を開始した。
イラクのバグダッドとナーシリーヤ、クウェートの位置関係(Google マップ)
一方、アメリカ海兵隊戦闘部隊は、多国籍軍主力がナーシリーヤ南方を迂回し北上した後に、ナーシリーヤを奇襲して制圧する計画であった。
ユーフラテス川南岸を迂回北上していた多国籍軍主力戦闘部隊の後方には、大規模な後方支援部隊(アメリカ陸軍第3前方支援大隊:補給中隊、整備中隊、医療中隊などから構成されていた)が北上していた。その後方支援部隊の最後尾からさらに間をおいて進んでいたのが「第507整備中隊」であった。この輸送部隊は、大型の低速車両を担当していたのに加えて故障車両が出たため、第3前方支援大隊本隊からはるかに遅れて北上を続けていた。
イラクで戦闘部隊に燃料を運搬する米陸軍補給部隊(写真:米海兵隊)
純然たる後方支援部隊である第507整備中隊の乗り込んでいた18輛の車両には、トレーラー1両にのみ車載機関銃が設置されていたものの、戦闘用の装甲車両は含まれていなかった。また、この部隊の車列は戦闘発生の恐れがない安全な迂回ルートを経由して移動するため、戦車などの装甲戦闘車が護衛する措置も取られなかった。もちろん、砂漠のルートで針路を失う危険に備えて、指揮官車をはじめ4輛には高性能無線装置が設置されており、GPS誘導システムも6輛に配備されていた。
3月23日午前1時、第507整備中隊は主力戦闘部隊や後方支援部隊本隊が進んでいったハイウェイ1号線と脇道となるハイウェイ8号線の分岐点に達した。中隊の指揮をとっていたキング大尉は、本隊に少しでも早く追い付くために近道のハイウェイ8号線に車列を進めた。
午前6時前、第507整備中隊はハイウェイ8号線が左折する分岐点を見過ごしてそのまま直進してしまい、イラク軍第3軍司令部が設置されていたナーシリーヤに向かうルートに迷い込んでしまった。
純粋な後方支援部隊であった第507整備中隊(米陸軍「On Point」より)
猛攻撃を受けて11名が戦死、6名が捕虜に
第507整備中隊の18輛の車両は、ナーシリーヤ郊外で武装民兵部隊の陣地を横切ったが、民兵部隊は“丸腰”状態で進む輸送車両の車列にあっけにとられたためか攻撃を仕掛けなかった。やがて第507整備中隊の車列がナーシリーヤ市内に差しかかると、戦闘車両を伴わない米軍輸送部隊の突然の出現に驚いたイラク軍は、敵輸送車列であることを確認すると集中攻撃を開始した。そこで初めて道に迷ったことに気がついたキング中隊長は車列を反転させて撤退を開始したが、イラク軍部隊や民兵部隊に取り囲まれてしまった。
猛攻撃を受けた第507整備中隊の大半の車両が撃破され、11名が戦死し、負傷した6名が捕虜となり連れ去られた。キング中隊長が乗り込む指揮官車を含む3台の車両だけがなんとか脱出に成功した。また、撃破された車両から10名の整備中隊兵士たちがなんとかナーシリーヤ郊外に脱出したものの、半数は負傷しており身動きがとれなくなり、イラク側に取り囲まれてしまった。
海兵隊先鋒部隊が負傷兵を救出
多国籍軍主力戦闘部隊とそれに続く後方支援部隊がナーシリーヤを迂回し北上した頃合いを見計らって、アメリカ海兵隊第2海兵遠征旅団がナーシリーヤのイラク軍を撃破するためにハイウェイ8号線に進出してきた。
ところが、第2海兵旅団の先鋒を突き進む戦車部隊は、ナーシリーヤ方面から猛スピードで近づいて来る米軍ハンビー(軍用自動車)と輸送車両を発見した。海兵隊員たちは、自分たちの前方ナーシリーヤ方面には味方の部隊が存在するはずがないにもかかわらずアメリカ陸軍兵士が救援を求めてきたのに驚愕した。
キング中隊長から報告を受けた海兵隊先鋒部隊は、直ちに陸軍第507整備中隊救出のためにM1戦車、AAV7水陸両用強襲車、対戦車ハンビーをナーシリーヤに向けて急行させた。
ナーシリーヤ郊外で多数のアメリカ陸軍大型車両が撃破されている状況を確認した海兵隊救援部隊が、臨戦態勢を取りつつ接近していくと、負傷兵士を抱え動けなくなっている陸軍整備部隊兵士たちを発見した。直ちに救出に取りかかると、包囲していたイラク軍側から激しい銃撃が開始された。
海兵隊側は直ちに反撃を開始、イラク軍の戦車や装甲車を撃破してイラク軍包囲部隊を撃退し10名の陸軍兵士を救出することに成功した。
ナーシリーヤの激戦で海兵隊が大被害
第2海兵遠征旅団の当初の計画では、ナーシリーヤを迂回する形で奇襲して制圧することになっていた。しかし、陸軍第507整備中隊が迷い込んで戦闘が発生してしまったために、海兵隊による奇襲攻撃は不可能になってしまった。しかし、直ちにナーシリーヤを制圧しないと多国籍軍のバクダッド侵攻計画全体に支障をきたすことになってしまう。そこで、海兵隊はイラク軍が待ち構えるナーシリーヤに突撃することになった。
その結果発生したのがナーシリーヤの戦闘である。「待ちぶせ小路」と呼ばれたナーシリーヤ市街で手ぐすね引いて待ち構えていたイラク軍とアメリカ海兵隊第2海兵遠征旅団の間で激戦が展開された。イラク軍の頑強な抵抗に加えて、空から支援に投入されたアメリカ空軍機による海兵隊部隊に対する攻撃という同士討ちまで発生したため、海兵隊員18名が戦死し19名が負傷、5輛のAAV-7が完全に破壊され2両が大破するという、海兵隊にとってはイラク戦争を通じて最大の損害が生じてしまった。
このような大損害を出したものの、3日間にわたる戦闘の末、3月26日までにはナーシリーヤ市街の大半からイラク軍やサダム・フセイン派民兵組織が駆逐され、300名以上のイラク兵が投降してきた。その後も、市内にスナイパーなどが散在して抵抗を続けたため、海兵隊による残敵発見掃討作戦は数日間続いた(そのなかには「ジェシカ・リンチ救出作戦」など、人質となった捕虜の救出作戦もあった)。
現実に起こり得る諸問題とは
上記の戦例のように、戦闘が予想される地域(ナーシリーヤ周辺)を大きく迂回して前方の米陸軍防空ミサイル部隊に対する補給・整備・搬送活動を任務としていた第507整備中隊は、まさに日本政府の言う「現に戦闘が行われていない地域」で活動する後方支援部隊そのものであった。つまり、アメリカ軍や多国籍軍の戦闘部隊に各種後方支援活動を実施するために出動するであろう自衛隊後方支援部隊といえども、いくら活動予定地域が「現に戦闘が行われていない地域」であっても、なんらかの手違いのために敵戦闘部隊と遭遇してしまうことは十二分に想定しておかねばならないのである。
そして、派遣される自衛隊後方支援部隊の戦力は、当然のことながら「後方支援」活動に厳しく限定されるため、その部隊には507整備中隊と同じく戦車をはじめとする装甲戦闘車両や戦闘ヘリコプターなどは随伴させられない。したがって、いくら武器使用基準が緩和されるといっても、敵戦闘部隊と遭遇してしまった自衛隊後方支援部隊は第507整備中隊のように壊滅させられてしまう可能性が極めて高い。
つまり、戦闘が全く予定されていない地域における後方支援活動であるといっても、自衛隊後方支援部隊が戦闘に巻き込まれ戦死者や戦傷者を出したり、自衛隊後方支援部隊が敵に囲まれて孤立してしまったり、あるいは自衛隊員が敵の捕虜となってしまったり、という厳しい状況を想定しなければならない。
そのような状況が現実となった場合、
・敵に囲まれている自衛隊後方支援部隊の救援作戦に、自衛隊は「戦闘だから」という理由で加わらないのか?
・敵の捕虜になっている自衛隊員の救出作戦に自衛隊は「戦闘だから」という理由で加わらないのか?
・自衛隊員の戦死者の遺体の回収作戦に自衛隊は「戦闘のおそれがあるから」という理由で加わらないのか?
・このような戦闘を伴うであろう作戦は、すべて米軍や多国籍軍任せにしてしまうのか・・・?
といった多国籍軍との関係と、自衛隊の名誉に関わる深刻な問題が生じる可能性がある。
このような諸問題に対する事前対策を十二分に立てないで、軍事紛争地域に自衛隊部隊を送り出してしまっては、後方支援活動とはいえ積極的な平和構築への貢献どころか、とんだ国恥となりかねない。政府と国会は、戦場の現実を直視した議論を展開しなければならない。
「後方支援活動」が格好の標的なる!?
※日本共産党の志位委員長のいわれることは間違いではありませんが、だから軍事的な国際支援を否定されては意味がありません。「重武装」が問題になるのではなく、戦死者はある程度覚悟の上で、いかに戦死者をださないように武装やドクトリンを用意するかが重要でしょう。国益追求のために政治戦略を駆使するときには、リスクを伴う「覚悟」が必要かと考えます。
※我が国の国会で軍事的なアメリカへの支援が検討されるときに、必ず自衛隊を派遣される場所が問題になる。つまり「戦闘地域」か「非戦闘地域」かの問題だ。
そして「非戦闘地域」での軍事的活動の象徴として議論されるのが、北村氏のご指摘される「後方支援活動」であろう。
「非戦闘地域」で 「後方支援活動」なら自衛隊は安全、戦死者もでない、アメリカへの顔もたつし、憲法上の制約にもふれないから国民への理解も得られる、ということのようだが、本質は、「責任をとりたくない責任者」である政治家の机上の空論、詭弁である。
政治家がリスクをおって、現場の実情に即した法案審議に終始してこなかったがために、カンボジアPKO以来、派遣される現場では様々な不具合不都合が絶えないのが現状であろう。
本来なら国家の名誉をかけて海外で自衛官の皆さん方が仕事をされるわけであるから、決してあってはいけないことではあるが、万が一お亡くなりになったような場合、「戦死」扱いになり靖国神社に祀られなければならないのだが、中韓の外交攻撃になる煩雑さを嫌う政治家のみなさんが、こういう当たり前の決断をしないのは大問題である。
まして中距離、短距離戦略ミサイルが実用化されている時代にあっては、「非戦闘地域」など存在するのだろうか?
存在したとしても「後方支援活動」こそ兵站への攻撃の標的になるリスクが、大国ほど高いように考えられるのである。
集団的自衛権の行使が一部容認された今日、このシビリアンコントロールの最高峰にある国会での議論そのものが「戦場での現実を直視している」ことは、むしろ国防上当然すぎる事実のように感じる。
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