2019年2月8日金曜日

共産中国の南シナ海人工島の「人間の盾」戦略 ~ある意味最強戦略~


中国が南シナ海・人工島基地に設置する「人間の盾」

困難になりつつある人工島への攻撃

北村淳
フィリピン軍が公開した、南シナ海・ファイアリークロス礁に停泊する中国漁船(2012717日撮影、資料写真)。この後、ファイアリークロス礁には、灯台をはじめとする様々な施設が建設された。(c)AFP/WESTCOMAFPBB News

 中国政府(中国交通運輸部)は、南沙諸島に中国が誕生させた人工島の1つであるファイアリークロス礁に「海上救助センター」を開設した。これによって南シナ海の海上交通の安全がより一層促進されると、中国当局は宣伝している。
純然たる軍事基地島は危険
 もともとは暗礁とも言える無人の環礁を埋め立てて造り出された7つの人工島は、今や中国の前進軍事拠点と化している。当然のことながら一般住民は居住していない。軍関係者それに軍事施設をはじめとする建設関係者や施設運用者だけが滞在している。
 もし、それらの人工島を完全な軍事基地としてしまった場合、つまり、軍事施設が完成して建設関係者たちが引き上げた場合、7つの人工島には原則として軍関係者だけが滞在していることになる。そのような状況は、中国側にとっては極めて不都合であり、反対に、中国の南シナ海軍事化に異を唱えているアメリカ側にとっては好都合である。
 なぜならば、軍関係者だけが存在する純然たる軍事施設ならば、さすがに核搭載兵器を用いるわけにはいかないが、ミサイルや精密誘導爆弾それに強力な地中貫通爆弾などを人工島群に降り注いで壊滅させてしまうことが可能だからだ。もちろん中国側としては、原爆を2回も使用したこともあるアメリカがいざとなれば人工島を消滅させてしまうであろうことは百も承知だ。そのため中国は、南沙諸島の7つの人工島を純然たる軍事基地としておかずに、アメリカ軍がミサイルや誘導爆弾を雨霰と降り注ぐことができないようにするための手を打っているのである。
【第1ステップ】巨大灯台の建設
 その第一歩は人工島への灯台の建設であった。
 灯台といっても、尖閣諸島に日本の民間団体が設置した灯台のような簡易灯台ではなく、永久建造物の本格的な灯台だ(尖閣諸島の灯台は堅固な永久建造物ではないアルミ製櫓型の超小型無人灯台である。現在は海上保安庁が管理している)。ファイアリークロス礁、ジョンソンサウス礁、クアテロン礁、スービ礁そしてミスチーフ礁に建設された5つの灯台は、中国交通運輸部が運用し南シナ海の海上交通の安全に寄与している。ちなみにジョンソンサウス礁に建設された灯台は高さ50メートル、スービ礁の灯台は高さ55メートルの巨大灯台である(下の図)。
【第2ステップ】気象観測所の開設
 そして灯台建設に引き続く第2の方策が、海洋気象観測所の設置である。
 昨年(2018年)11月、中国政府は、南沙諸島の人工島であるファイアリークロス礁、スービ礁、ミスチーフ礁に海洋気象観測所を開設した。それぞれの観測所には高空気象観測施設や気象レーダーなども設置されており、南シナ海の様々な気象データ、予報、そして警報をリアルタイムで提供できる態勢が確保された。
国家海洋局南海分局が報じるスービ礁(渚碧礁)周辺の気象情報
中国当局によれば、このような南シナ海の海洋気象情報を国際社会に提供するのは、中国政府の義務であり、これらのデータを提供することにより、南シナ海の海上交通、漁業、そして海難救助などの安全が促進される、ということである。
【第3ステップ】海難救助体制の確立
 海洋気象観測所の次は海難救助施設の設置である。
 すでに昨年夏から、中国交通運輸部 南海救助局は南沙諸島に海難救助船「南海救115」を派遣して、当該海域での海難救助活動を開始している。引き続き「南海救117」も増派して、中国自ら主張する「主権国ならば義務と言える、支配権を及ぼしている海域での救難活動」の態勢を維持していることをアピールしていた。実際に、これまでにそれらの救助船によって16名の命が救われているとのことである。
南海救117(写真:中国交通運輸部)
 また、交通運輸部は南沙諸島に救助船を常駐させたのに引き続いて、ファイアリークロス礁に海難救援施設を設置した。
名称は「海上救助センター」といい、救難隊員たちが常駐する。さらにファイアリークロス礁には軍用滑走路や大型艦も使用できる港湾施設が建設されているため、南海救助局の海難救助船だけでなく海警局の巡視船や各種ヘリコプター、それに場合によっては海軍哨戒機などを投入しての大規模な海難捜索救援活動が行える体裁が整った。
困難になりつつある人工島への攻撃
 3000メートル級滑走路や軍用機の格納施設、それに大型軍艦や輸送船も接岸できる港湾設備まで整った立派な軍事基地のある人工島に、本格的な灯台施設や海洋気象観測所といった非軍事的民生施設を併設させれば、非戦闘員である灯台管理運用要員や気象観測員や海難救助隊員、それに場合によってはその家族たちなどが居住することになる。そして、海洋のまっただ中に浮かぶ観測施設という科学的に貴重な場所柄、民間の研究者などが滞在する可能性も高い。
 狭小な人工島に、航空施設、港湾施設、各種レーダーやミサイルシステムなどの軍事施設と、民間人が居住する非軍事的民生施設が混在している以上、アメリカ軍はむやみに攻撃するわけにはいかない。たとえば軍用レーダー装置だけを破壊するために巡航ミサイルを発射したとしても、中国はもとより国際社会から非難が湧き上がる可能性が高い。このように、いくら命中精度の高い巡航ミサイルや誘導爆弾を保有しているアメリカ軍でも、攻撃することは至難の業である。
次はレジャー施設か?
 中国は南沙人工島軍事基地群に灯台や気象観測施設、そして海難救援施設も誕生させ、軍事施設と民生施設と混在させる「非戦闘員という人間の盾」を手にしてしまう計画を着実に進展させている。次の一手は、漁業関連施設、海洋研究施設、それに人工ビーチやリゾートホテルなどを含む観光施設の設置かもしれない(すでにクルーズ船が南沙諸島周遊をする計画が存在する)。それによって、軍事施設を軍事攻撃から防御するためのより強力な「民間人という人間の盾」を手に入れ、米軍による南沙諸島軍事基地群に対する攻撃を不可能な状況に近づけるのだ。

【南シナ海をめぐる国際情勢】

南シナ海問題はもはやグローバルな問題である

岡崎研究所
201911718日にタイのチェンマイでASEAN外相会議が開催され、ミャンマーのロヒンギャ問題、南シナ海問題などが話し合われた。ここでは、南シナ海問題を取り上げる。18日に発出された議長報道声明のうち、南シナ海に関する部分は次の通り。
我々は、南シナ海における、平和、安全、安定、航行と上空飛行の自由を維持・促進することの重要性を再確認し、南シナ海を平和、安定、繁栄の海とすることの利益を認識した。我々は、2002年の「南シナ海行動宣言(DOC)」が完全かつ実効的な形で実施されることの重要性を強調した。我々は、ASEANと中国との継続的な協力強化を歓迎するとともに、相互に合意したタイムラインに沿って実効性のある「南シナ海行動規範(COC)」の早期策定に向けた中身のある交渉が進展していることに勇気づけられた。我々は、ASEAN加盟国と中国が単一のCOC交渉草案に合意していることに留意し、201811月にシンガポールにおける第21ASEAN首脳会議で発表された通り、2019年中に草案の第一読会を終えることを期待する。この点に関して、我々は、COCの交渉に資する環境を維持する必要性を強調した。我々は、緊張、事故、誤解、誤算のリスクを軽減する具体的措置を歓迎する。我々は、相互の信用と信頼を高めるため、信頼醸成と予防的措置が重要であることを、強調した。
 我々は、南シナ海に関する問題を議論し、地域における埋め立てへの一部の懸念に留意した。我々は、相互の信用と信頼を高め、自制して行動し、事態を複雑化させる行動を避け、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に沿って紛争を平和的に解決することの必要性を再確認した。我々は、全ての領有権主張国、あらゆるその他の国による全ての行動において、非軍事と自制が重要であることを強調した。
出典:‘Press Statement by the Chairman of the ASEAN Foreign Ministers’ Retreat’17-18 January 2019
 南シナ海をめぐっては、201711月にフィリピンが議長国を務めたASEAN首脳会議の際に「懸念」の文言が削除されたが、シンガポールが議長国となった昨年に同文言が復活し、タイが議長国を務める今年も維持された。今回の外相会議では、ベトナムとマレーシアが南シナ海への懸念を表明したと報じられている。ベトナムは一貫して対中強硬姿勢を維持してきた国であり、マレーシアは昨年マハティールが首相に復帰して以来、前政権の対中傾斜を大きく強く軌道修正している。「懸念」の文言は、中国による南シナ海の軍事化の加速の前では無力と言わざるを得ないが、こうした国々が、南シナ海問題をめぐりASEANの中でどれだけ声を上げていくのか、行動を示していくのか、今後とも注目される。
 COCについては、早期策定に向けた具体的な日程が示された。声明では「相互に合意したタイムライン」とあるが、中国の李克強首相は昨年11月のASEAN首脳会議に際する関連会議で2021年までに妥結したいと表明している。今回の議長を務めたタイのドン外相は記者会見で、早期妥結が可能である旨、述べている。2021年よりも早く妥結もあり得るという話もある。
 しかし、ASEANと中国との間で昨年8月に合意されたとされるCOC草案は公表されていない。法的拘束力を持たないものになるのではないかとも言われている。中国は軍事活動通告のメカニズムも提案している。域外国と合同軍事演習を実施する場合、関係国に事前通告しなければならず、反対があれば実施できない、という内容である。例えば、ASEAN加盟国が米国と合同演習をしようとしても、中国が反対すれば、実施できないことになる。仮に、こういう内容のCOCになってしまっては、かえって有害と言えるかもしれない。

 南シナ海問題は、もはや地域の問題ではなくグローバルな問題である。航行と上空飛行の自由を確保するための主要各国の取り組みが重要であり、実際に、そのようになってきている。米豪だけでなく英仏など欧州の国も「航行の自由作戦」(あるいはそれに準ずる行動)を実施し始めた。英国のウィリアムソン国防相は、最近、シンガポールあるいはブルネイに基地を置くことについて言及した。南シナ海における英国のプレゼンスを維持するため、補給・維持修理の要員と補給艦を配備するということのようである。また、フランスも、インド太平洋の海洋秩序維持のため、日本との協力を進めつつある。

【管理人コーナー】
離島管理は「共産中国方式」でいけばいいよね?
灯台、気象観測所、海難救助体制の確立、すべて尖閣諸島で実践されてもいいやり方かと思います。以前に日本政府は、尖閣諸島の魚釣島に海保のヘリポートを設置するという方針を打ち出したことがあります。しかしとりやめになりました。共産中国の猛抗議があったからです。日本固有の尖閣諸島の開発について、外国から不当な干渉があり、政府がこれに屈してしまいました。
我が国の離島管理は所詮この程度のものです。まともな日本国民ならこの事実は決して忘れるべきでないでしょう。
ソビエト連邦は樺太や千島を侵略し、我が国から領土を奪っていきましたが、我が国が関与しないヤルタ会談を根拠とし、樺太千島の領有を正当化しています。
アメリカは、血で血を洗う沖縄戦で多くの犠牲を払って入手した沖縄を政治的な背景があって我が国に返還しました。しかし軍事基地は安保条約を盾に変わらず駐留を続けています。
つまり国境の領土は「戦略的に」マネジメントしなければならない、ということです。外国に遠慮したり、事なかれ主義になっていてはだめなんですよ。いわゆる北方領土は、ロシアになってから「南クリル」と呼ばれますが、経済特区になって集中的に資本が投下されています。択捉、国後両島には強襲揚陸艦や対地ミサイルが配備されている軍事拠点化されています。なぜなら日本との国境だけでなく、アメリカの強大な軍事力が日本に駐留しているからでしょう。しかも緩衝地帯なしに隣接していますから、非常に緊張したエリアになっているわけです。
こうした状況の中で、ロシアのプーチン大統領が「引き分け」論から領土解決を含む日露平和友好条約の締結を我が国側に提案してきたことの意味をもっと重く、そして前向きにとらえるべきです。領土問題より前に、ロシアとの「平和友好条約」があるわけですが、日中平和友好条約で尖閣問題を棚上げするようにはいきません。ロシア政府がやはり共産中国の時のようにODAで日本側から無償借款させ、日本の政治家に破格のお金を渡さないと、「四島一括返還」をだされてしまい話がまとまらないように思います。何にせよ「戦略的に」プーチン氏は日露友好を提案したわけですから、安倍官邸が「戦略的」こたえなければイーブンの外交にならないんです。外交は「WIN-WIN」の関係です。どうしたら国益に結びつけるのか?
まさに官邸の腕の見せどころなんですよ。
やはり尖閣諸島や歯舞群島、色丹島(返還が実現したら)は、南シナ海での人工島のように護岸工事と称して埋め立て、ヘリポートや港湾を構築すべきです。特に尖閣諸島と歯舞群島には特に念をいれて、経済要塞化、海保要塞化(海難救助拠点化)すべきです。色丹島は我が国主権域としたうえで、居住するロシア人の生活と権益を保障してやるべき。ソ連政府が日本人にしてきたことを繰り返すことは絶対ダメです。入管法も改正されて外国人移民が増えるわけですから、北にロシア人と暮らす島があっても問題ありません。要はより経済的に豊かになり、二度と流血のない地域にすることでしょう。ただどちらにしても「スパイ防止法」は絶対必要ですな。
巡航ミサイルも海兵隊も海南救助体制構築の後でしょう。


まずは、灯台、気象観測、港湾、経済インフラ、海難救助体制構築、そして国防軍駐留です。外国軍の駐留は国境辺境には必要ないでしょう。ちなみに国際法規の上で「最強」なソフトインフラは、子供、障害者、有色人種かな?




2019年2月4日月曜日

低下する?アメリカ第七艦隊の軍事的影響力 変化する「戦争の形」 各国で続くデータ移転

第1章 台湾海峡を米軍艦が通航しても、中国が動じない理由

色あせていく米国第7艦隊の「世界最強神話」
北村淳
海上自衛隊「たかなみ」(手前)と並走するアメリカ海軍ミサイル駆逐艦「マッキャンベル」
 2018124日、アメリカ海軍ミサイル駆逐艦「マッキャンベル」と補給艦「ウォルターSディール」が南シナ海から台湾海峡を通過して東シナ海へと抜けた。アメリカ海軍艦艇による台湾海峡通過は、昨年(2018年)の10月下旬からは4カ月間で3回と、ペースが上がっている。
アメリカ海軍の補給艦「ウォルターSディール」
FONOPと台湾海峡通航の違い

 アメリカは、南シナ海の西沙諸島や南沙諸島での中国の過剰な海洋主権の主張を牽制するという名目で、「FONOP(公海での航行自由原則維持のための作戦)」を断続的に実施してきた。アメリカの真意は、南シナ海での中国による軍事的優勢の拡大を抑制することにある。しかしながら表向きには、あくまでもFONOPは軍事的威嚇ではなく、国際海洋法秩序の維持という大義名分を掲げている。そのため、「中国が主権を主張する海域において、基準としている線の引き方が国際ルールをないがしろにしている」、または「中国が主権を主張する海域を外国軍艦が航行する場合に事前に中国当局に通知せよという中国政府の要求は、国際海洋法秩序とは相容れない」といった国際法的な疑義を呈して、南シナ海でのFONOPを実施しているのである。ところが、アメリカ軍艦が台湾海峡を通航するのはFONOPではない。たとえ「台湾は中国の一部であり台湾省である」という中国政府の主張に従ったとしても、台湾海峡は中国の主権とは抵触せずに通過することが可能である。
なぜならば、台湾海峡の幅は最も狭い部分でも70海里近くある。よって、中国側の領海幅と台湾側の領海幅を差し引いても46海里近い公海幅があり、それぞれの接続水域幅を差し引いても22海里以上の公海幅があるからだ。
中国と台湾の間が台湾海峡。東シナ海と南シナ海をつないでいる(Googleマップ)

伝統的戦略で中国を威嚇

 では、アメリカ海軍が頻繁に軍艦を台湾海峡に派遣して通航させる狙いは何か。
 台湾海峡は台湾と中国を隔てているだけでなく、台湾軍と中国軍が常に睨み合っている軍事的緊張エリアである。したがって、台湾海峡を第三国の軍艦が航行することを中国政府が極端に忌み嫌う行為であることは当然である。そのため、台湾海峡に軍艦を派遣する(中国と台湾以外の)国はアメリカ以外には見当たらないのだが、これまではそのアメリカといえども頻繁に台湾海峡に軍艦を送り込むことはなかった。アメリカが台湾海峡に軍艦を送り込むのは、中国に対して強い政治的メッセージを与える場合、あるいは1996年の台湾危機の時のように露骨に軍事的威嚇を行う場合に限られていた。すなわち、昨年の10月以降、3回も台湾海峡へ軍艦を派遣しているということは、トランプ政権が中国に対してかなり強い政治的メッセージを与えるための軍事的威嚇を実施していることを意味している。
 アメリカ海軍は昨年の10月下旬には駆逐艦と巡洋艦を通航させ、11月下旬には駆逐艦と補給艦を、そして今回も駆逐艦と補給艦を台湾海峡に送り込んだ。そして、リチャードソン海軍作戦部長(米海軍トップの軍人)は、近いうちには空母艦隊を通過させることを示唆している。
中国を威圧したいトランプ政権は、アメリカが最大の軍事的威嚇になると考えてきた空母艦隊まで台湾海峡を通航させようとしているのだ。
海上自衛隊艦艇が護衛する第7艦隊空母「ロナルド・レーガン」(中央の大型艦、その右隣は海上自衛隊ヘリコプター空母「かが」)
空母第一主義に拘泥するアメリカ

 しかしながら、ここで疑問が生じる。アメリカ海軍のシンボルである空母艦隊を台湾海峡に派遣することが、かつてのように中国に対する軍事的威嚇になるのか? という疑問である。
 有名な軍事格言に「将軍たちは過去の戦争で現在・将来を戦う」(『Generals Always Fight the Previous War』単に『Fighting the Last War』とも言われる)というのがある。これは、かつて勝利した側の軍事指導者たちは、その勝利した戦争における戦略や戦術そして兵器などを用いて、現在の戦争を戦い、来たる戦争のために準備をすることになりがちである、という意味である。たとえば、アメリカ海軍などでしばしば持ち出される具体例として、1941年の日本海軍による真珠湾奇襲攻撃は、日露戦争の経験を繰り返した奇襲戦略であったという説明がある。日露戦争は1904年の日本海軍による旅順奇襲攻撃で始まり、結果的に日本が勝利を収めた。日本はその経験を踏襲したというわけだ(もちろん、この説明には問題山積なのであるが)。
もはや脅威ではないアメリカ海軍空母打撃群
 軍事組織は、過去の戦例や訓練などの経験から導き出した戦略や戦術そしてそれらから編み出したドクトリンによって組織を構築し、軍備を整え、訓練を積んでいる。したがって、そのような「過去の戦争経験(勝利した戦争、成功した経験)」から脱却して抜本的変革をなすことは、あたかも自己否定をすることになるようで、頭では理解していてもなかなか進んで実施できないというのが常である。
アメリカ海軍にもそれは当てはまる。真珠湾攻撃を受けたアメリカ海軍はミッドウェー海戦での逆転勝利によって、航空戦力中心主義、すなわち空母第一主義に転換して、日本海軍を壊滅させた。その後もアメリカ海軍は、世界最強の空母戦力を手にすることによって、ソビエト連邦との冷戦に打ち勝った。さらに冷戦後も世界の警察官として引き続き世界中に空母艦隊を派遣して睨みをきかせてきた。ところが、東アジア軍事情勢、とりわけ中国海洋戦力を中心とした軍事情勢は急激に変化している。中国海軍や人民解放軍首脳たち、それに中国共産党指導部は、アメリカ海軍空母打撃群が台湾海峡や東シナ海、南シナ海に姿を現しても、もはやそれを脅威に感じないで済むだけの撃破態勢を固めつつある。
 世界に先駆けて開発した対艦弾道ミサイル、膨大な数に上る多種多様な対艦ミサイル、世界最大の在庫量を誇るスマート機雷、強力なパンチ力を持った100隻近い高速ミサイル艇、静粛性を飛躍的に増しつつある潜水艦など、目白押しの中国の接近阻止戦力をアメリカ海軍も危惧している。さらに、極超音速兵器開発やレールガン開発ではアメリカをリードしていると言われており、無人航空機や無人艇の開発分野もスピードアップしている。
日米同盟にすがりついている日本も、いつまでも第7艦隊の「世界最強神話」に頼っていると、気が付いたときには取り返しがつかない状況に陥っているであろう。敵を知り、己を知り、味方も知らねば、国際軍事競争に生き残ることはできない。
アメリカ第七艦隊 「世界最強艦隊の全貌」
共産中国の迎撃能力の向上と米艦隊の練度の低下が、アジアでの米軍戦力の相対的な低下を招いているのか?

アメリカ第七艦隊旗艦ブルーリッジ




第2章【現代の戦争の形 ハイブリッド戦】

フェイクニュース、ネット世論操作、ハイブリッド戦の関係
(例をあげているのはロシア)
※軍事行動 戦闘全体の25
※ハイブリッド脅威 戦闘全体の75
戦争の7割以上は、リアルに軍事兵器を用いて行われるガチの戦争ではなく、「直接人が死なない戦争」になっているのが世界の現状です。特に我が国に軍事兵器を使った攻撃をしかける国は皆無です。しかし我が国の他国に類をみない、他国に対して優位にたてるような技術的な情報、個人、法人の財などは絶えず世界中から攻撃をうけている(=奪われている)といっていい状況です。以下にあげるのは、軍事戦争によらない戦争の形です。
ネット世論操作
  フェイクニュース
アメリカ大統領選挙で猛威をふるったフェイクニュース。
  SNS
フェイスブック、ツイッター、Google+など。
  戦略的情報漏洩
アメリカ大統領選期間中に民主党とヒラリー陣営からサイバー攻撃によって盗み出した情報を公開したような情報漏洩。公開先としてロシアとの関与を疑われているウィキリークスが使われた。
サイバーツール
サイバー攻撃、諜報活動、情報改竄、乗っ取りなど
※アメリカ第七艦隊のイージス駆逐艦の衝突事故をひきおこさしめたのは、駆逐艦のレーダーシステムへのサイバー攻撃(ハッキング?)といわれます。なおこの見解は北村淳氏は否定されていますね。
政党
相手国内の政党への支援
組織への資金提供
シンクタンクなどを使ったPR
組織的抗議運動
抗議団体などへの資金提供や扇動。
財閥
ロシアの新興財閥(オリガルヒと呼ばれる)を利用してビジネス、政治など様々な影響力を拡大。
プロパガンダ
伝統的なものからSNSまで政権の広報に利用する。
国内メディア
国内メディアは国内だけでなく同時に国外にも発信し、情報操作に使う。
宗教
ロシアはロシア正教会との関係を強化し、ヨーロッパ諸国に対する影響力を強める。ギリシャの政党資金の夜明けは、ことあるごとにロシア正教会との関係に言及している。
経済
経済制裁、経済依存度をあげて逆らいにくくするなど。
※米中貿易戦争などは関税率を武器にした経済戦争といえるでしょう。あとお互いの国同士で経済的依存関係が深化すると、軍事力行使が抑止される傾向にあります。
代理戦争
直接戦争することなく、他国などを代理にして戦争する。
匿名戦争
代理戦争のうち、正体がわからない戦争。
ツールの同期
ハイブリッド戦のツールをタイミングよく使い分け連動させることで、より高い効果をあげ、避けにくいようにする。
非合法軍事組織
正規の軍隊ではなく、私的グループを装った軍事組織。

共産中国が、台湾政権に対してしかける戦争の形 ハイブリッド戦


第3章【データの世紀】情報資源に国境線 脱EUで英孤立/中露にリスク
~曇るネットの自由、経済圏分立も~

 データ資源が自由に行き交うネット空間に「国境」が引かれ始めた。各国の個人情報保護規制や国際政治の動きをうけ、大手IT企業が重要情報の保管場所を変更した。欧州連合離脱で混乱する英国や監視社会化が進む中国からデータを遠ざける。経済圏が分立し、世界のデータ流通が滞る懸念が出ている。
 ネットサービスが分断し、企業は対応コスト増に苦しみかねない。安倍晋三首相が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で円滑なデータ流通の国際ルール作りを提唱するなど懸念解消にむけた声も高まる。
拠点移す企業続々と
 アイルランドはデータセンターの建設ラッシュだ。米フェイスブックは2018年の秋、首都ダブリン郊外にのべ床面積約6万㎡の巨大施設を完成させた。早くも数百億円規模の拡張工事に着手した。Googleやアマゾンドットコム、マイクロソフトも既存施設の増強を決定。同国のデータセンター建設投資は、2019年に60億ユーロ(7500億円)超と2016年の2倍を見込む。
 特需は欧州連合離脱の余波だ。多くのIT大手はロンドンを欧州のデータ拠点の軸とし、他の欧州諸国とデータをやりとりして顧客情報の分析などを行う。だが英国が離脱するとEUとの規制にずれが生じる。データ移動の手間やコストがかさむ恐れが出てきた。
 EU2018年に域外への個人情報の移転を原則禁じる一般「データ保護規則(GDPR)」
を施行。英国が離脱すれば他のEU諸国からデータを持ち出すために利用者の同意を取り直すか、特別な契約を結ぶことなどが必要になる。こうした煩雑さを避け、EU内のアイルラ
ンドにデータ連携の軸を移す企業が増えた。同国政府産業開発庁のシェーン・ノーラン上級副社長は「複数社が『英国ではなく貴国を選ぶ』という。」と話す。
 企業のデータセンターは通信速度を保つため、大市場の近くに置くのが常識だった。最
近は地域を越えてデータをやりとりする機会が増え、各国の規制内容も重要な判断基準になる。さらに国家体制の違いも企業のデータ戦略に影響する。
「間違った判断だ。」香港の個人情報保護機関のトップ、ステファン・ウォン氏は2018年秋に悔しさをにじませた。フェイスブックのアジア初の大型データセンター誘致に失敗、代わりにシンガポールが選ばれた。同社の決定理由は不明だが、監視社会化する中国の影響を嫌ったとの観測がある。ウォン氏は「香港の法制は、中国本土と違う。」と強調。“中国リスク”の懸念を他社に広げまいとする。
 中国は国家ぐるみのデータ収集を進め、米企業などが警戒を強める。元グーグル最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏は20189月に「インターネットは米主導と中国主導の2つに分かれる。」と予言している。米IT大手のロビー団体、情報技術産業協議会のジョン・ミラー公共政策部長も「欧米やアジアなどで中国とは別の経済圏を発展させたい。」と話す。
対応コスト重荷
経済圏の細分化はさらに進みかねない。フェイクニュースで米大統領選に介入するなどデータ悪用が疑われるロシアにも、神経をとがらせる動きがみられるからだ。
 2007年にロシアから大規模サイバー攻撃を受けたエストニアは2018年、ルクセンブルクに「データ大使館」を設置。データ防衛のため、国民情報を国外に保存する。ロシアの情報セキュリティー大手、カスペルスキー研究所は、2018年自社ソフトのデータをスイスへ移転。自社につきまとう「ロシアのスパイ活動に協力」との疑惑の払拭を狙う。中立国のスイスでデータ監査を受け、「適正な取り扱い」のお墨付きを得ようとする。
 複数のデータ経済圏の出現は、企業のデータ管理やネットサービスの分断を招き、重い対応コストは成長の足かせになり得る。
 安倍晋三首相は、ダボス会議で123日、企業や消費者が生む膨大なデータについて「自由に国境をまたげるようにしないといけない。」などと演説。世界貿易機関(WTO)加盟国によるデータ流通のルール作りを提案した。十分なデータ保護と円滑な流通を両立する枠組みを構築できるか、各国や企業の力が問われる。(日本経済新聞 平成31127日日曜版 兼松雄一郎氏、寺井浩介氏記事より抜粋)

国際的な傾向:政治や規制が安定する場所にデータが移動している
エストニア データ大使館をルクセンブルクに設立し国民情報を保存。(バックアップ)
ロシア カスペルスキー研究所が、データをスイスに移動。
アイルランド 英国の欧州連合離脱で特需も 大手IT企業の建設投資が進む。
米フェイスブックがアジア初のデータセンターをシンガポールに建設。(香港を避ける)





2019年1月26日土曜日

ロシア・プーチン大統領が勘違いする我が国の軍事的従属性 「北方領土」の軍事的な価値


プーチンの言う通り? 
軍事的主権を持たない日本

米国への忖度で海兵隊の辺野古移転急ぐ安倍政権
北村淳
米軍の普天間航空基地

 プーチン大統領は、日露平和条約締結後に歯舞群島と色丹島が日本に返還された場合に、それらの島々に米軍基地が設置されるおそれはないのか? という議論に関して、「沖縄の辺野古米軍新基地の建設状況から判断すると、日本での米軍基地設置に関して日本政府がどの程度の主権を持っているのか疑わしい」と公の場で発言した。
プーチン大統領の誤解
 ロシア側の解釈によると、「安倍政権が辺野古滑走路建設を強行しているのは、日本に防衛分野での主権がなく、アメリカの意のままに、日本国防当局、そして日本政府が使われているからである」ということになる。そのため、いくら安倍首相自らが「歯舞群島と色丹島が日本に返還された後に、それらの島々に米軍基地が建設されることはありえない」と明言しても、日本の防衛分野における主権者であるアメリカの確証ではない以上、ロシア側としては安心できないというわけだ。
 だからと言って、日本がアメリカ側に確証を求めることはできない。もしも日本側が、トランプ大統領をはじめとするアメリカ側高官に「歯舞群島と色丹島に米軍基地を設置することは断じてない」と公約でもさせようものなら、それこそ安倍政権は防衛分野における主権を名実ともにアメリカに委ねてしまっていることを国際社会に宣言してしまうことになってしまう(防衛分野における主権は、国家主権のうちでも根幹をなす主権に他ならない)。もちろん現実には、アメリカが日本から国防に関する主権を取り上げているわけではない。かつて日本は満州帝国から国防に関する主権を取り上げたが、その状況とは異なる。
 安倍政権が辺野古移設を推し進めているのは、アメリカに強制されているからではない。たとえ沖縄県知事が断固として反対しようとも、沖縄の民意がどのようなものなのであろうとも、自らの決断と確固たる意志によって米海兵隊新施設を辺野古に建設しようとしているのである。したがって、プーチン大統領が危惧の念を表明したように、安倍政権は国防に関する主権を喪失しているわけではなく、国防に関する主権の行使として辺野古沖の埋め立てを強行しているのだ。
アメリカにとっての辺野古移設の価値
 ただし、その主権の行使が軍事的に正しい判断に基づいているのか? と問うならば、答えは否である。安倍政権は、国防に関する主権をアメリカに明け渡しているのではなく、軍事的に誤った前提に基づいて国防に関する主権を行使している。この点が、プーチン大統領の認識で修正すべき点といえよう。
 安倍政権の軍事的に誤った判断とは、「アメリカ海兵隊ならびにアメリカ軍当局、そしてアメリカ政府が、普天間航空基地を辺野古新施設に移設することを、アメリカ軍事戦略の観点から極めて重要視している」と考えている点である。
「アメリカ軍事戦略にとって辺野古新施設の誕生は絶対不可欠である。そうである以上、すでに20年近くも滞っている辺野古滑走路を一刻も早く完成させなければ、米海兵隊が怒り、アメリカ軍当局が怒り、トランプ大統領が怒り、日米同盟が危うい状況に追い込まれる」──安倍政権は、そうした懸念があると考えるがゆえに、国内的には万難を排して、辺野古沖の埋め立てを強行しているわけである。
しかし、その懸念は杞憂である。普天間航空基地を辺野古新施設に移設することが、日米同盟を揺がすほどにアメリカ軍事戦略にとって重大な意味を持っているのならば、アメリカ軍当局、そしてアメリカ政府は20年近くも放ってはおかない。とうの昔にあの手この手の強力な圧力を日本政府にかけているか、日米同盟を終結させるかしているはずだ。アメリカ軍事戦略にとっては、海兵隊の航空基地が普天間から辺野古に移ることなど、さしたる問題ではないということだ。
在沖縄海兵隊の戦力は低下する
 現に、海兵隊関係者の中にすら、辺野古に誕生しつつある新施設は「普天間基地の代替物がなにもないよりはマシ、といった程度のものである」と公言している者がいる。実際に、日本政府が埋め立てを強行して造り出そうとしている辺野古沖滑走路の長さを考えるだけでも、「ないよりはマシな程度」と考えられている理由は明らかである。
現在、海兵隊が使用している普天間航空基地の滑走路は2740メートルであるが、辺野古沖合に誕生するであろうV字型滑走路はそれぞれ1200メートル(オーバーランエリアを加えると1800メートル)しかない。
 普天間の3000メートル級滑走路の場合、海兵隊が使用しているすべての航空機の発着が可能である。具体的には、F/A-18戦闘機、AV-8B垂直離着陸(VTOL)戦闘機、F-35B短距離離陸垂直着陸(STOVL)戦闘機、EA-6B電子戦機、KC-130空中給油/輸送機、MV-22ティルトローター中型輸送機(オスプレイ)、AH-1Z攻撃ヘリコプター、CH-53E重輸送ヘリコプター、UH-1Y汎用ヘリコプターなどである。
F/A-18戦闘機(写真:海兵隊)
AV-8B垂直離着陸(VTOL)戦闘機(写真:海兵隊)
EA-6B電子戦機(写真:海兵隊)
KC-130J空中給油/輸送機とF-35B短距離離陸垂直着陸(STOVL)戦闘機(写真:海兵隊)
AH-1Z攻撃ヘリコプター(写真:筆者)
CH-53E重輸送ヘリコプター(写真:筆者)
しかし、辺野古に予定されている1200メートル滑走路の場合、理論的には離着陸可能な固定翼機がないわけではないが、安全性確保という観点からは、実際には戦闘機や輸送機などの固定翼機の運用はできない。そのため辺野古航空基地は、現実にはヘリコプターとMV-22オスプレイだけを運用するための大型ヘリポートという位置付けに過ぎなくなる。
海兵隊のMV-22オスプレイ(写真:筆者)
 したがって、海兵隊航空基地が普天間から辺野古に移ることは運用可能な航空機が減少することを意味し、常に地上戦闘部隊と航空戦闘部隊が両輪となって作戦行動を行うアメリカ海兵隊にとっては、大幅に作戦能力を削がれることになるのだMAGTF、本コラム「海兵隊の沖縄駐留に米軍関係者の間でも賛否両論」2018年10月11日、『海兵隊とオスプレイ』北村淳編著 20121015日 並木書房 参照)。
日本はやはり「アメリカの属国」なのか?
 もっとも一般常識的に考えても、保有する航空戦力が低下することによって、沖縄の海兵隊の戦力が低下するということは容易に想像がつくところである。それにもかかわらず、安倍政権は口をひらけば「普天間基地を辺野古へ移設することにより抑止力が維持される」と説明している。日本政府は抑止力を維持するために海兵隊の戦力を削ぐことが確実な、そしてアメリカ国防戦略においてもさしたる重要性を持たない、辺野古沖滑走路の建設を強行しようとするのであろうか?
 おそらく日本政府は、いくら超高額兵器をアメリカから気前よく購入しているからといっても普天間移設問題を解決しないとアメリカ側の逆鱗に触れてしまい、日本政府が頼りきっている日米同盟が破綻してしまうのではないかと考えているにちがいない。これでは、国防に関する主権を制限されていなくとも、プーチン大統領が指摘するように、日本はアメリカの属国状態であることに変わりはない。
〈ここからは管理人より〉
日露平和友好条約は21世紀から始まる新たな日露のパートナーシップ。色丹島と歯舞群島の引き渡しは、第二次大戦後の我が国の外交的成果。
基本的に戦争で「勝利」という形でおちをつけて失地した領土主権が戻ることはあり得ません。これが基本原則です。ただ日ソ共同宣言では、当時のソビエト連邦側に千島列島への赤軍の「侵攻」の事実を認めさせ、ソ連側が色丹島、歯舞群島の返還で合意妥協できた日ソ関係の妥協点であり、我が国側から見れば、戦争という形をとらずに無血で旧領を取り返すことのできた外交的成果といえるでしょう。
時間が経つうちに当時のソ連は解体、消滅し主権をひきついだロシアがこの条約の精神を誠実に履行する義務があります。ただ領土については、色丹、歯舞が限度。それ以上の要求はロシア側にするべきではありません。そもそも千島列島、樺太をめぐる国際情勢は変わりました。我が国が第二次大戦で「敗戦」を受け入れ、侵攻した張本人のソビエト連邦も崩壊し、アメリカの軍事的覇権の中で何とかこれに対抗しようとするロシアや共産中国、韓国、日本の国益がぶつかる領域になっています。
ウクライナがNATOに加盟する動きをみせただけでロシアがフェイクニュース部隊を駆使してクリミアを自国に編入し黒海への米海軍の進入を阻止しました。そのロシアが南クリルに米海軍が接近、駐留することを認めるはずがないことは十分理解できます。だからこそ我が国は北海道や千島に米軍の駐留のないことを証明し、非軍事的な経済振興エリアの構築をロシアと進める意思を強く示していかなければなりません。色丹島や歯舞群島は北海道の一部です。ロシア側が「引き分け」を望むのなら、この点を十分理解しつつ、旧ソ連軍に侵攻され多くの日本人が暴行殺戮を受けて住み慣れた土地を奪われたことに目をむけてほしい。そして未来志向で二度と千島や樺太で流血や戦禍がないように、平和秩序を確立することに協力してほしいと思います。是非はともかく入国管理法も改正され外国人が国内で働ける余地も拡大してきました。色丹島、歯舞群島に住むロシア人をかつてのソ連が日本人にしたように一方的に追い出すようなことはしないでしょう。日本人もロシア人も協力して暮らせるコミュニティを構築すればいいだけです。また日露平和条約により我が国の離島政策が大きく転換する機会にもなればと密かに願っています。前途に明るい希望を見いだせる新しい未来志向の日露関係を構築していくべきです。
我が国に根強く残る4島一括返還要求。第二次大戦後、ソ連崩壊後の情勢をみればこれが都市伝説であることは明らか。現実的な解決策ではないです。戦後の日ソ共同宣言の外交成果を基軸に、未だ手つかずのところが多い樺太やシベリアの地下資源やメタンハイドレートの開発投資、漁業、農業、公共インフラ投資などでロシアと連携し、経済テリトリーを確立すべきでしょう。領土問題のおかげで対露経済がどれだけの損失を抱えているか経済学者はなぜ指摘しないのでしょう。領土問題は元々北海道の一部の色丹島と歯舞群島の主権返還が実現すれば十分です。いたづらに日露関係の構築を先延ばしにして共産中国や韓国の政治的経済的な進出を許すことはありません。

誰も指摘しない北方領土の軍事的価値

軍事カードが大きくものを言う領土交渉の現実
数多久遠
ロシアの首都モスクワで行われた日ロ首脳会談の後、共同記者会見を行うロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)と安倍晋三首相(左、2019122日撮影)。(c)Alexander NEMENOV / POOL / AFPAFPBB News
(数多 久遠:小説家、軍事評論家)
 事前報道で北方領土返還交渉の進展が囁かれていた2019122日の日ロ首脳会談では、プーチン大統領から「解決は可能だ」と前向きな発言があったものの、結局のところ目あたらしい情報はでてきませんでした。ただし、こうした重要な交渉では、合意ができるまで、交渉状況を外部に出さないことが多いため、実際には交渉が進展している可能性もあります。過去には、観測気球と思しきリーク情報をマスコミに流した日本サイドに対して、ロシアから釘を刺されたこともあるため、新たな情報がないことをもって、政府を非難するのは不適切です。むしろ、2018年末に、プーチン大統領が米軍の展開を意図したと見られる言及をしたことを考えれば、交渉が新たなステージに入った可能性も考えられます。一方で、この発言を受け、日本国内の報道では、急に軍事・安全保障に関する言及がなされるようになってきました。本稿では、理解されているとは言い難い北方領土の軍事的価値を概観し、交渉の今後を占う一助としたいと思います。
北方領土の軍事面の価値
 軍事的観点から、ロシアが北方領土を返還したくない理由を整理してみましょう。
1)ロシアの核抑止戦略への影響
 ロシアの核戦力は、主に地上発射の弾道ミサイルと潜水艦発射の弾道ミサイルに依っています。この内、北方領土問題が大きく影響するのは、潜水艦発射弾道ミサイルに対してです。
 地上発射の弾道ミサイルは、移動式のものであっても衛星などによって発見され、発射前に破壊される可能性があります。そのため、いわゆる報復核戦力(攻撃を受けたあとの反撃用)としては潜水艦発射の弾道ミサイルが重視される傾向は、米ロとも共通です。しかし、ロシアの海軍力は、アメリカに遠く及びません。アメリカは、戦略ミサイル原潜(弾道ミサイルを運用する原子力潜水艦)を世界中の海で使用していますが、ロシアの戦略ミサイル原潜は、バレンツ海など北極周辺海域とカムチャツカ半島と千島列島で囲まれたオホーツク海ぐらいでしかまともな運用ができていません(ただし、クリミアを占領しているので、今後は、黒海でも戦略原潜を運用する可能性はあります)。
ロシアは、オホーツク海を戦略原潜の聖域とするため、多数の水上艦艇を運用しているだけではなく、北方領土にも対艦ミサイル部隊を配備するなどしています。しかし、もしも返還した北方領土に日米の部隊が展開することになれば、戦略原潜を守る防御網に穴が開くことになってしまいます。
北方領土の地図(出所:外務省)
2)ロシア太平洋艦隊への影響
 世界史で勉強した方も多いと思いますが、帝政ロシアは、冬期に凍らない不凍港を求めて、南下施策をとっていました。それは、ヨーロッパ方面だけに限りません。ウラジオストクを確保したのも、その一部です。
 現在のロシア太平洋艦隊は、北方艦隊に次ぐ戦力を保有していますが、前述のように米海軍には遠く及ばないため、外洋での活動は、それほど活発とは言えません。本来、海軍力は必要な時に遠方まで戦力を投射できることに価値があります。ところが、不凍港があっても太平洋の出口となる海峡が結氷してしまえば、砕氷船しか外洋に出て行くことができなくなります。狭い海峡が結氷してしまえば、潜水艦が安全のために浮上航行することも当然困難となります。そのため、不凍港だけでなく、結氷せず、安全が確保できる幅や水深がある海峡が必要になります。
しかし、ロシア太平洋艦隊の基地は、日本列島とカムチャツカ半島、そして千島列島で囲まれたエリアにあるため、津軽海峡や対馬海峡などの日本周辺の海峡以外では、結氷せず、かつ安全に通峡できる海峡は、国後島と択捉島の間にある国後水道くらいしかないのです。ロシアとしては、もし北方4島、あるいは択捉島を除く3島を返還しただけでも、国後水道は、日米によって封鎖される可能性が高い海峡となってしまいます。
3)米軍がイージスアショアを設置する可能性
 上記の2つは、以前から専門家が時折指摘してきたものです。しかし、近年の国際情勢において、北方領土の重要性と価値を考えるうえで新たに考慮しなければならない軍事的要因が出てきています。それは、北朝鮮の弾道ミサイルです。
北朝鮮は、アメリカとの交渉に応じるポーズを見せただけで、いまだに核・弾道ミサイル開発を続けています。このままでは、早晩アメリカに届く実戦級核搭載弾道ミサイルを完成させてしまうでしょう。
 詳細には述べませんが、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を高確率に迎撃するためには、弾道ミサイルの発射後の早い段階で(実際には、エンジンが燃焼中のブースト段階での迎撃は困難なため、エンジンが停止し、慣性で上昇を続けているターミナル段階の初期に)迎撃を試みることが重要です(この段階で一部でも迎撃できれば、その後の迎撃チャンスに再度試行することできる上、弾頭が分離される前なので、迎撃すべき目標数を大きく減らすことができます)。しかし、北朝鮮からアメリカに向かうICBMは、図に示すようにロシア沿海州方面を北北東に飛翔します。このため、ターミナル段階の初期に迎撃を行うためには、北海道からさらに北東の地点から迎撃ミサイルを発射する必要性があります。
北朝鮮からアメリカに向かうICBM(『北方領土秘録 外交という名の戦場』より)
 日本が配備をすすめる陸上型のイージス、イージスアショアは、山口県と秋田県に設置される予定であり、この2カ所からではアメリカに向かうICBMの迎撃は困難です。では、どこが適切かと言うと、理想的な候補地が北方領土、択捉島なのです。択捉島が配備適地であることは、アメリカがイランの弾道ミサイルからヨーロッパを防衛するために設置しているイージスアショア(EPAAEuropean Phased Adaptive Approach)の配備地を見れば分かります。EPAAは、何度か計画内容が変遷し、現在はヨーロッパ防衛を目的としたシステムとされています。しかし、もともとはアメリカを防衛するものとして計画されたものですし、使用する迎撃ミサイルのアップグレードで、現在もアメリカ本土の防衛に寄与するものと考えられています。
イランからアメリカに向かう弾道ミサイル(『北方領土秘録 外交という名の戦場』より)
そのEPAA2カ所の配備地の内、最初にイージスアショアが設置されたルーマニアのデベゼルは、イランに対する位置関係を北朝鮮にとってのそれと置き換えると、択捉島にあたる位置なのです。
 他方、択捉島から発射する迎撃ミサイルは、ロシアがオホーツク海に潜航する潜水艦から発射する弾道ミサイルに対しては、距離が近すぎて迎撃が困難でしょう。しかし、イージスアショアのレーダーで捕捉できるため、アメリカがアラスカなどに配備している迎撃ミサイルで撃墜できる可能性が大きくなります。
 アメリカの意図が、対北朝鮮の弾道ミサイル対処であっても、ロシアのミサイルに対しても影響がでます。
 ともあれ、北方4島を日本に返還し、自衛隊やアメリカ軍の展開が可能となれば、ロシアはアメリカに対北朝鮮の弾道ミサイル防衛用最適地を提供することになってしまいます。これは、ロシアにとって損害とは言えませんが、みすみすアメリカを助けることはしたくないでしょう。
北方領土の軍事的価値を考慮してきたか?
 こうしたロシアにとっての北方領土の軍事面での価値を考えると、返還交渉が非常に困難なであることは理解できると思います。
 しかし、このことを理解しないと交渉が進むはずもありません。今般の交渉担当が河野外相と決められたように、北方領土交渉を担うのが外務大臣、そして外務省であることは当然といえます。しかし、既に述べたように、軍事は非常に大きな影響を与えています。そのため、北方領土交渉では、外務大臣同士の交渉だけではなく、防衛大臣同士の交渉も行う「2プラス2」と呼ばれるスキームが使われています。ところが、2プラス2が北方領土交渉において使用されるようになったのは、第2次安倍政権が発足した以降の2013年からなのです。
 つまり、それまでは、こうした軍事的要素が軽視されたまま交渉が行われていたことになります。交渉が進展しなかったのも、さもありなんでしょう。相手の思惑が読めなければ、着地点を探ることもできません。その理由としては、マスコミを中心とした日本社会全体の軍事アレルギーが大きな要素でした。加えて、外交を外務省だけのものにしようとする外務省の姿勢も大きかったと思います。鈴木宗男事件の際、その背後にあって、鈴木宗男氏や田中真紀子当時外相を外交の舞台から追い出したのは象徴的事例でした。
 同時に、無関心を貫き通してきた防衛省の姿勢にも問題があったと言えるでしょう。アメリカに限らず海外の軍隊が領土紛争地に空母機動部隊を派遣したり、デモンストレーションとしての演習を行うことはニュースで頻繁に目にすることができます。しかし、自衛隊が北方領土関連に限らずそうした行動を行ったことは、私が知る限り皆無です。筆者が現役自衛官だった当時にも、そうした計画は聞いたことがありませんでした(逆に、演習を抑える方向の要求があったことはありますが)。
外交において不可欠な軍事情報の活用
 北方領土問題に限らず、領土問題や世界各地で起る事件には、軍事が大きな影響を与えています。それらの情報収集には、大使館などの在外公館が大きな比重を占めていますが、そこで軍事面の情報収集にあたるのは、防衛省・自衛隊から外務省に出向した「防衛駐在官」と呼ばれる自衛官です。現在では、47の大使館などに、67名の自衛官が派遣されています。ただし、世界全体を見回せば、防衛駐在官の赴任地はまだ一部に留まっています。
 2003年までは、彼らの報告は外務省から防衛省に渡っていませんでした。重要な情報が、軍事知識の足りない外務官僚から注目されることなくムダになっていたわけです。現在では、こうした状況はかなり改善され、軍事が絡む外交課題は、各大臣が参加する国家安全保障会議(通称「NSC」)で議論されるようにもなっています。北方領土問題に解決の兆しが見られるのも、こうした外務省と防衛省の連携の賜物と言えるでしょう。
 北方領土交渉は今後も難航が予想されますが、外交における軍事情報、防衛省の役割は今後ますます大きくなっていくはずです。
妥結の一歩手前まで進んだ2016年の交渉
 筆者は北方領土交渉の行方を決して悲観しておらず、妥結の可能性があると考えています。過去には、今以上に妥結の一歩手前まで行っていたこともあるのです。2016年の12月に行われた日ロ首脳会談は、安倍首相の地元、山口県で実施されました。安倍外交の集大成として、アピールするつもりだったことは間違いありません。ですが、この時も直前になって、交渉は暗礁に乗り上げました。
 当時、どのような交渉があったのかは、当然明らかにはされていません。2016年は、北朝鮮の弾道ミサイル発射が相次ぎ、アメリカではトランプ大統領が誕生する国際情勢の大変動年でした。こうしたことが、何らかの影響を与えたのかもしれません。
 拙著『北方領土秘録 外交という名の戦場』(祥伝社)では、そうした可能性の1つを歴史小説として描きました。本稿で述べたような、外交における軍事の重要性を理解していただけるものともなっています。ご一読いただければ幸いです。


占守島の戦いを忘れるな!



千島列島のソビエト連邦の侵攻は、樺太や満州と違い、初戦の占守島の上陸作戦で日本軍の頑強な防戦にあい、当初の計画を頓挫させられました。
 占守島の日本軍守備隊の奮戦がなければ、千島列島に住む日本人は、樺太と同じくいわれのない殺戮や暴力にあっていたことでしょう。占守島で日本軍が戦ってくれたおかげで民間人は無事に北海道などへ避難することができたのです。
 しかし占守島で最後まで戦った日本軍守備隊は全滅しました。樺太の電信所で最後まで任務を全うした乙女たちのこと、ソ連軍のおかげでひどい目に会われた方々、土地を奪われた方々のためにも二度とこの地を戦禍にまきこんではいけないのです。千島列島や南樺太がもう一度日本領になることが一番いいのかもしれません。しかし時代がそれを許さないでしょう。戦争で奪われた領土は普通は戻ってくることはないということもあります。だからこそ日ソがギリギリで妥協できた「日ソ共同宣言」を基軸に、いまわしい過去を清算するのです。痛みのない解決などあり得ません。我が国は日露平和友好条約締結でロシアという新たなパートナーと新しい関係を構築するのです。


〈ここも管理人より〉
千島列島や樺太には、米軍は駐留すべきではありません。最も米軍も普天間基地移設の件で我が国国内での在日米軍基地を減らしこそすれ、増やすなどとうてい考えられないでしょう。もっとも今まで米軍基地のなかった北海道ですから、新規の米軍基地の建設など話がでようものなら、北海道あげての政府への大反対運動がおきるはずです。ロシア領国後島とあわせて日本領色丹島、歯舞群島は軍事施設のない「緩衝地帯」にすべきです。だから日露平和友好条約締結後は、国後島駐留のロシア軍は撤退すべきです。

【現実には厳しい?状況にみえる日露交渉】
日露平和友好条約の締結と北方領土での共同経済活動については、日露双方の国民は反対することはないでしょう。ロシアは実は親日国といえる国家といえますからね。色丹島、歯舞群島の10島の返還については、ロシア国内で反対の声が多いだろうことは当初からわかっていたはずです。日露トップ同士で進展してきた新たなとりくみが今後どうなっていくのか?外交交渉である以上、winwinでの妥結が求められます。日本国民は悲観的にも楽観的にもならず、推移を見守りたいところです。


ロシアは石ころ1つ返さぬ、「2島返還」コケにされた日本


樫山幸夫 (産經新聞元論説委員長)
22日に行われた日露首脳会談(REUTERS/AFLO
領土問題で進展がなかったことには大いに失望した。国益を損なう安易な妥協が避けられたことには安堵した。今月22日、モスクワで行われた安倍晋三首相とプーチン大統領との会談は、北方領土問題に関して、現状の打開をもたらすには至らなかった。日本側が「2島返還」へと大きく舵を切る姿勢を鮮明にしているにもかかわらずだ。ロシア側が日本の方針変更に何の関心ももっていないことが、これではっきりした。6月のG2020カ国・地域首脳会議)までに決着させるという政府の目標実現は遠のいたというべきだろう。

首相発言もトーンダウン

 最高気温が氷点下15度、凍えそうなほどのモスクワ、クレムリン(大統領府)で行われた両首脳による話し合いは、続くこと3時間。プーチン氏は、安倍首相を自らの執務室に招き入れ、父親の写真をみせながら、その思い出を語るなど、精一杯のサービスにこれつとめたという。
 しかし、結果はどうだったか。元島民の3回目の空路墓参、4島での共同経済活動促進などで合意した程度で、そればかりか、両国の貿易額を数年間で1.5倍の300億㌦に拡大することを日本側は約束させられた。
 会談終了後の記者会見で首相は、領土問題での進展があったかについて詳しく説明することを避けた。それどころか、「戦後70年以上残された問題の解決は容易ではない」と不機嫌な表情を隠さなかった。昨年1114日、シンガポールでプーチン氏と会談した際、「残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領との手で必ずや終止符を打つ」と見得を切ったことにくらべると、大きな違いだ。
 プーチン大統領も、このところロシア側がみせている強硬論に同調するような発言こそは避けたものの、「両国にとって」受け入れ可能な解決策をみいだすために、今後も長く綿密な作業が必要だーと強調。具体的事業に言及しながら、領土問題への関心よりも、日本からの経済協力を引き出すことが先決と思惑を繰り返しにじませた。
 東京での留守役、菅官房長官も、ことここにいたっては楽観的な見通しを放棄せざるを得なくなった。「すぐに結論が出るようななまやさしい問題ではない」(123日の記者会見)と厳しい認識を披瀝、交渉が長期化する見通しを示唆した。

「2島返還」は大胆な転換だったが

 今回の首脳会談をめぐって、昨年秋から暮れにかけて、日本国内では「2島+アルファ」という方式で領土問題が大きく進展するかもしれないという楽観的な観測がなされていた。歯舞群島、色丹島の返還を優先させ、国後、択捉については見送り、両島の経済活動で日本を優遇するというのが、この考え方だ。従来の政府の方針からの大きな転換になるだけに、あくまでも「4島返還」を求めるべきという立場の人たちを中心に疑念と論議を呼んでいた。
 「2島+アルファ」が浮上したのは、昨年11月、シンガポールにおける両首脳の会談だった。戦争状態の終結、国交の正常化と歯舞、色丹両島の日本への「引き渡し」が明記された1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を「交渉の基礎」とすることで合意し、それに続く12月のブエノスアイレスでの会談で、河野、ラブロフ両外相をそれぞれ交渉の責任者とすることが決まった。
 安倍首相はシンガポール会談直後の1126日の衆院予算委員会で、「私たちの主張をしていればいいということではない。それで(戦後)70年間まったく(状況は)変わらなかった」と述べ、「4島返還」要求を放擲して「2島返還」へと方針を転換することを事実上明らかにした。
 こうした動きを受けて、年明け早々の2019年1月14日、河野外相がモスクワでラブロフ外相と会談したが、その過程で、日本側の方針変更にもかかわらず、ロシア側はむしろ以前にも増して強硬、かたくなな姿勢にでて、従来の姿勢に何ら変化のないことを鮮明にした。ラブロフ外相は、河野外相との会談で、「南クリル諸島(北方領土のロシア側呼称)は第2次大戦の結果、ロシア領になったことを日本側が認めない限り、交渉は進展しない」という不当な歴史認識を繰り返す厚顔ぶり。安倍首相が、北方領土返還の場合、ロシア人住民に帰属の変更を理解してもらう必要があるという旨の発言をしたことに対しても「受け入れがたい」と強く非難した。
 こういう状況のなかで今回のモスクワ会談。成果をみずに終わったことで、はっきりしたのは、「2島+アルファ」という日本側にとっては大きな方針転換であるにもかかわらず、ロシア側はこれに応える意志がまったくないということだ。2島はもちろん、1島いや1片の土地、石ころひとつすら返す意志を持たないだろう。
 返還に反対するロシア国民による集会がモスクワにまで拡大したなど国内事情、世論の動きをプーチン政権が気にしているのかもしれないが、日本側にとっては、いわば熱意に冷や水を浴びせられた格好になったというべきだろう。
 「解決は容易ではない」と首相発言が交代したのも、だれよりも自身が先方の硬い姿勢を感じ取ったからではないか。日露外相会談翌々日の116日付、産経新聞は社説に当たる「主張」で、「〝2島〟戦術破綻は鮮明」という見出しを掲げ、これまでの基本方針を安易に放擲したことに苦言を呈し、「4島の返還を要求するという原則に立ち返るべき」と説いた。その通りだろう。

ロシアは歴史を欺くな

 誤解を恐れずに言えば、「2島返還」などという将来に大きな禍根を残す決着が見送られたのはむしろ幸いだったとみるべきかもしれない。
 北方領土に関する日本政府の戦後一貫した方針はいうまでもなく「4島返還」だ。国後、択捉、歯舞、色丹は歴史的経緯に照らして、日本固有の領土であり、かつて一度も他国の領土となったことはない。旧ソ連は第2次大戦末期、日ソ中立条約を無視して日本に参戦、わが国がポツダム宣言を受諾した後の1945(昭和20)年818日から95日までの間に、どさくさにまぎれて、国後、択捉、色丹及び歯舞群島の4島を不法に占拠した。こうした「不法占拠」の事実は、外務省発行の公式パンフレット「われららの北方領土」に詳しい。「第2次大戦の結果ロシア領になった」というラブロフ発言など、歴史を誣いること甚だしい妄言といわざるをえない。
 そもそも「2島引き渡し」が謳われた1956年の「日ソ共同宣言」にしても、付随して交換された松本俊一全権とグロムイコ外務次官(いずれも当時)の書簡に、「正常な外交関係を再開した後に領土問題を含む平和条約交渉を継続する」と間接的表現ながら、国後、択捉の返還交渉に言及されている。宣言が歯舞、色丹両島の引き渡しだけに限っている、と解釈するのは完全な誤解であり、そうでなければ、解決を急ぐために故意に事実関係を無視しているかだろう。

国後、択捉断念は主権放棄に等しい

 歴史的経緯から明らかなように、国後、択捉両島は不法占拠された日本固有の領土であり、これら2島の返還を自ら断念することは、主権の放棄に等しい愚挙だ。いや愚挙という言葉で済ますにはあまりに重大な結果を招くだろう。「不法であっても、居座ってさえいれば、日本はいつかあきらめる」という誤ったメッセージを他国に与え、尖閣諸島、竹島問題で中国、韓国にロシアと同じ対応を取らせる余地を与えかねない。
 松本グロムイコ書簡を含め日ソ共同宣言を正しく解釈して歯舞、色丹を先行して返還させるというならいい。国後、択捉の主権が日本にあることを明確にロシアに認めさせ、返還時期、方式について継続協議するという方法なら、将来の完全返還に望みを託すことも可能だからだ。このアイデアは宮沢内閣時代の1992(平成4)年に先方に伝えた経緯がある。
 しかし、安倍首相は「私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つ」と言っているのだから、やはり「2島返還」または「2島+アルファ」で最終決着をつける考えなのだろう。

70年間変わらず」は事実か?

 安倍首相は過去の交渉をかえりみて、「70年、変わらなかった」といっている。確かに解決には至らなかったが「変わらなかった」というのは事実だろうか。
 冷戦時代、「領土問題は存在しない」というけんもほろろのロシアに対して、日本政府は粘り強く、本当に粘り強交渉し、少しずつではあるが事態を進展させてきた。
 1973(昭和48)年の田中角栄首相とブレジネフ・ソ連共産党書記長(いずれも当時)の会談で、「第2次世界大戦からの未解決の諸問題」に「4島」が入ることを先方に初めて認めさせ、その後、巻き返しにあいながらも、1993年(平成5)年には、4島を明記して帰属の交渉を継続するという東京宣言(細川護煕首相とエリツィン大統領=いずれも当時)にこぎつけた。かつて旧ソ連は「北方領土」という言葉を口にするだけで無視する姿勢を取ってきたことを考えればまさに隔世の感がある。「70年変わらなかった」という発言は、こうした過去の努力への敬意を欠くと言わざるを得ない。いま「4島返還」を断念すれば、過去の労苦は何だったのかということになってしまう。

国民に空しい期待与えるな

 これまた、誤解を恐れずに言えば、主権を放棄して嘲笑を浴び、近隣諸国につけ込む隙を与えるよりも、時間がかかってもあくまでも本来の目的「4島返還」をめざすべきというのが取るべき道ではないか。プーチン以後の政権の登場を待ってロシアの国内事情が変化するのを待つのもひとつの方法かもしれない。
 政治家の胸の内など想像すべくもないが、口さがない人たちは、首相の意図について憶測をめぐらす。2島返還を有利な材料にして、衆参ダブル選挙に打って出るとか、いずれ憲政史上最長の在任期間を迎えるから、後世に名を残す「遺産」作りに腐心しているーなどだ。
 むろん、首相が個人的思惑や〝政局判断〝〟から領土問題の解決を急ぐなど、あろうはずがない。意見を異にする人がいるとすれば、政策選択の問題だろう。解決は簡単ではないと知りながら、中国牽制のため、ことさら日露関係に進展があるかのように装う深慮遠謀も首相のハラにあるのかもしれない。

 ともあれ、「2島返還」による早急な決着は困難になった。首相はじめ外交の衝にあたる政治家、政府高官は、とりあえず国民に交渉の現状を率直に説明、そのうえであらたな解決策を模索し、広く協力を求めるべきだろう。国民に空しい期待、希望を持たせることほど罪なことはない。

歯舞群島は10島からなる群島です。

色丹島は、歯舞群島とあわせて北海道の一部です。

〈管理人より〉ロシアとの経済活動は大きな国益伸長の可能性を秘めています。そのうえで日ソ共同宣言の約束が守られて、歯舞群島と色丹島が引き渡されるならこれが我が国にとっても不幸な解決とは思えません。国民それぞれが注視していきましょう。