2022年4月2日土曜日

「インテリジェンス・ヒストリー」という知的武器

  我が国では、諜報工作員やスパイ、或いは秘密工作というと映画かドラマの世界というイメージをもたれることが多いかと思います。義務教育や高等学校の歴史教科書ではとりあげられないことですので無理もないのですが、このことは大学機関においても学問的な研究対象として扱われない傾向にあることも確かです。

 しかし欧米諸国においては、国際政治学、外交史の一分野として、スパイや工作員による秘密工作について学問的に論じられる土壌が成立しています。

 こうした研究分野を「インテリジェンス・ヒストリー」と呼びます。和訳すれば「情報史学」となります。

 学問としての「インテリジェンス・ヒストリー」とは、1980年代のイギリスに始まり、機密文書の公開という世界的な潮流の中で注目を集めて、1990年代以降、欧米の主要大学で情報史やインテリジェンス学の学部、学科或いは専攻コースが次々と設立されるようになりました。

 インテリジェンス・ヒストリーの我が国での草分け的存在としては、京都大学の中西輝政名誉教授がいます。(代表的著作『大英帝国衰亡史』PHP研究所 1997年)中西名誉教授によるとインテリジェンス・ヒストリーについて次のように述べられています。

 「インテリジェンスは『知性』という意味でもあります。日本ではインテリジェンスは秘密情報を扱うとか、単なる情報の話にされてますけど、本来はきちんとしたモノの見方、考え方、世界観、価値観、歴史観、自分の知的な立脚点をもう一度持って『これで本当に正しいのか』という問いかけを絶えず行う、自分を確立した人間が扱えるものです。」

 より厳密にいうと、「インテリジェンス」について中西輝政名誉教授は、オクスフォード大学のマイケル・ハーマン教授の定義を引用しながら、次の3つの意味があることを説明しています。

  インテリジェンスとは、国策、政策に役立てるために、国家ないしは国家機関に準ずる組織が集めた情報の内容を指す。いわゆる「秘密情報」、或いは秘密ではないが独自に分析され練り上げられた「加工された情報」、つまり生の情報(インフォメーション)を受け止めて、それが自分の国の国益とか政府の立場、場合によると経済界の立場に対して、「どのような意味を持つのか」というところまで、信憑性を吟味した上で解釈を施したもの。

  そういうものを入手するための活動自体を指す場合もある。

  そのような活動をする機関、或いは組織つまり「情報機関」そのものを指す場合もある。

 

 そして中西輝政名誉教授は、インテリジェンスが担当する分野は、大まかにいえば、次の4つであると説明しています。


   情報を収集すること。これは相手の情報を盗むことも含まれている。

 ②  相手に情報収集をさせないこと。つまり防諜や「カウンターインテリジェンス」という分野である。敵ないし外国のスパイを監視または取り締まることで、その役割は普通の国では警察が担うことになる。

 ③  宣伝、プロパガンダ。プロパガンダには、「ホワイトプロパガンダ」と「ブラックプロパガンダ」があるといわれる。前者は、政策目的をもってある事実を知らしめる広報活動を指す。それに対して後者は、虚偽情報などあらゆる手段を使って相手を追い詰めていく活動である。

 ④  秘密工作や謀略行為を行うことである。CIAはこれを「カバート・アクション」と呼び、ロシアでは「アクティブ・メジャー(積極工作)」ということがある。

 要はインテリジェンスには、以上3つの意味と4つの分野がある。そしてインテリジェンスを踏まえた近現代史研究であるインテリジェンス・ヒストリーの学部や学科、専攻コースを設置して本格的な研究を進める動きは英語圏に留まらず、オランダ、スペイン、フランス、ドイツ、イタリアなどに広がっています。

(引用文献:『日本人が知らない近現代史の虚妄』江崎道朗著 SB選書563


動画でみるインテリジェンスヒストリー

アメリカ共産党のインテリジェンス
米英で進むコミンテルン研究
スパイ天国日本、本当にこれでいいの?








0 件のコメント:

コメントを投稿