2019年4月19日金曜日

南西諸島の陸上自衛隊地対艦ミサイル部隊の抑止力 /モサド元長官が警告するサイバー攻撃の脅威


【第一部】
南西諸島に陸自ミサイル部隊、理解されていない役割

ミサイル部隊が抑止力となる条件は? 防衛省は丁寧な説明を

北村淳

12式地対艦ミサイル発射装置(写真:陸上自衛隊)
(北村 淳:軍事アナリスト)
 2019年326日、防衛省が宮古島と奄美大島に陸上自衛隊駐屯地を開設した。これらの島には地対艦ミサイルシステムと地対空ミサイルシステムを運用するミサイル部隊と、ミサイル部隊はじめ航空施設や港湾施設などの防御にあたる警備部隊が配備されていくことになっている。ようやく、日本防衛に欠かせない南西諸島ミサイルバリアの構築がスタートしたのだ。


2015年7月16日「島嶼防衛の戦略は人民解放軍に学べ」

2018年4月12日「島を奪われることを前提にする日本の論外な防衛戦略」


拙著『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』講談社α新書687-2c 2018年6月20日、など参照)。




「弾薬庫」は保良地区に


 ところが、宮古島での駐屯を開始した警備部隊が、駐屯地内の武器保管庫に中距離多目的ミサイルシステムを持ち込んだことが、地元反対派に問題視され「『保管庫』は実は『弾薬庫』だった」「島民への騙し討ちだ」などと糾弾された。その結果、岩屋防衛大臣は中距離多目的ミサイルシステムに装填する弾薬、すなわち中距離多目的ミサイルなどを島外に撤去するよう指示した。すでにミサイルや迫撃砲弾は宮古島駐屯地から島外に搬出されたとのことである。


 防衛省は駐屯地周辺住民に対する公式説明で、駐屯地内に「弾薬庫」は造らず、小銃などの小火器、小銃弾や発煙筒などを保管する「保管庫」を設置するだけである、としていた。そのため、住民たちが「騙された」と反発しているようである。
いったん宮古島の外に搬出された弾薬は、島内の保良(ぼら)鉱山に建設される弾薬庫が完成し次第、地対艦ミサイルや地対空ミサイルとともに、そこに保管されることになるという。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56137?page=2


ただし保良地区では、弾薬庫の建設そのものへの反対の声も上がっており、今回の「保管庫」を巡るトラブルが弾薬庫建設反対を加速させる可能性もある。それだけではなく、地元の人々からは、宮古島にミサイル部隊が配備されて「ミサイル基地」となることを懸念し、反対する声も上がっているようである。

理解されていないミサイル部隊の役割

 このようなトラブルや反対の声が上がるのは、防衛省が住民に対して、強力な兵器で防衛体制を固めることの意義や必要性について丁寧な説明を怠っているからに他ならない。それどころか防衛省は、反対された場合に説得する努力を避けようとするため、初めから反対されないような隠蔽的説明を行っている。
 たとえば、住民の間から「ミサイル基地」に反対する声が上がっているというが、今後配備が進められていくことになっているミサイル部隊の駐屯地が「ミサイル基地」と認識されてしまうこと自体がそもそも問題である。それはまさに、陸自ミサイル部隊の役割や意義についてまともに説明していないことの表れと言ってよい。
 ミサイル部隊が装備する地対艦ミサイルシステムや地対空ミサイルシステムは、ミサイル基地のような定点にまとまって配置についていたのでは、敵の攻撃目標になるだけである。そのため、地対艦ミサイルシステムや地対空ミサイルシステムは、ミサイル発射装置をはじめ発射管制装置やレーダーシステムなどシステム構成要素の全てが数輌の車輌に積載されており、移動分散できるようになっている。
中距離多目的ミサイル(写真:米国防総省)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56137?page=3
したがって、宮古島で中国軍艦艇や中国軍航空機に対峙する陸自ミサイル部隊のミサイルシステム関連車輛は、島内広範囲にわたって分散配置につき、適宜移動を続ける必要がある。そうでなければ、地対艦ミサイルや地対空ミサイルによる抑止効果を発揮することができない。もしも保良鉱山に設置される弾薬庫に地対艦ミサイルや地対空ミサイル、それに中距離多目的ミサイルが保管され、それらミサイルシステムの発射装置や管制装置などの車輌が駐屯地に整列していたのでは、全く防衛の役に立たないのだ。

中国軍による宮古島攻撃の方法
 中国が日本に奇襲攻撃を仕掛ける場合、まずは長射程ミサイル(弾道ミサイル・長距離巡航ミサイル)攻撃を実施することになる(本コラム・2014227日「『中国軍が対日戦争準備』情報の真偽は?足並み揃わない最前線とペンタゴン」、2015917日「中国軍が在日米軍を撃破する衝撃の動画」、拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』講談社α新書、など参照)。
 宮古島を攻撃する場合も同様だ。この場合、最も効果的なのは、東風11型弾道ミサイル(最大射程距離825km1200基以上保有)、東風15型弾道ミサイル(最大射程距離900km1000基以上保有)あるいは東風16型弾道ミサイル(最大射程距離1000km、保有数不明)による、航空自衛隊宮古島レーダーサイト、陸上自衛隊弾薬庫、そして陸上自衛隊宮古島駐屯地への一斉連射攻撃である。

 それらの弾道ミサイルは、東シナ海沿岸地域から発射した場合には4分ほどで、海岸線から200kmほど内陸から発射された場合には530秒ほどで、宮古島の攻撃目標に着弾する。


中国軍が海岸線より100km内陸から弾道ミサイルを発射した場合の最大射程圏
 アメリカ空軍DPS早期警戒衛星が中国ロケット軍による弾道ミサイル発射を探知し、アメリカミサイル防衛局から、相模原のアメリカ陸軍第38防空旅団司令部に転送され、横田の在日米軍司令部を経て宮古島の自衛隊部隊が弾道ミサイル攻撃にさらされている情報をキャッチした頃には、高性能爆薬装填弾頭が降り注いでくるまで長くても23分しかない。わずか23分の間に、駐屯地から弾薬庫に駆けつけることはできないし、駐屯地に整列させてあるミサイルシステム関連車両を退避させることは困難であろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56137?page=4
 不幸中の幸いと言えることは、中国ロケット軍の弾道ミサイルの命中精度は高いため、ほぼ全弾が自衛隊施設敷地内に着弾することぐらいだ。そのため駐屯地周辺の島民に直接的被害は発生しない。ただし中国も国際社会からの非難を受けずに済むことになる。
 ただし、「ミサイル基地」と形容されるミサイル部隊の駐屯地に整列してあるミサイルシステム関連装置を搭載した車輛の多くは吹き飛ばされ、弾薬庫に収納されていた地対艦ミサイル、地対空ミサイル、中距離多目的ミサイルは全て発射されることなく木っ端微塵に吹き飛んでしまうことになる。
 要するに、宮古島をはじめ奄美大島や石垣島に配置につくミサイル部隊が抑止力として適正に機能するには、ミサイルを装填した地上移動式発射装置を含むミサイルシステム関連車輛が島内に分散して、即応発射態勢をとりながら展開していなければならないのだ。

国民への説明は国防の第一歩

日本政府国防当局は宮古島の人々にこのような事情を説明しているのであろうか?

今回の「保管庫」を巡るトラブルのような事態を招来しないためにも、地対艦ミサイルシステムや地対空ミサイルシステムを配備する目的や意義、そしてそれらを抑止力として役立てるための運用方法などを、包み隠さず丁寧に島民に説明しなければならない。
国民の理解と支持こそが民主主義国家における国防の原点といえる。

 《管理人より》↑の文言ではたと思いつくのは,沖縄の名護市辺野古への普天間基地移設についてです。沖縄県の住民投票の結果は、基地移設への反対が圧倒的に多数でした。本来ならばこれで普天間基地の辺野古移設はアンサーが出ています。
 もちろん普天間基地の移設はできません。
住民の意思は大勢が「反対」です。普天間基地は辺野古へは移設しない、で終わりなのです。
しかし安倍内閣は普天間基地移設を進めています。沖縄の住民の民意を安倍内閣はなんと考えているのでしょうか?
まさに「国民の理解と支持」こそが民主主義国家の「国防の原点」なのではないでしょうか?

【第二部】
サイバー脅威を自分たちの問題だと自覚せよ!
イスラエル諜報機関「モサド」元長官が警告

新潮社フォーサイト




 山田敏弘
ジャーナリスト、ノンフィクション作家、翻訳家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のフルブライト研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。帰国後の2016年からフリーとして、国際情勢全般、サイバー安全保障、テロリズム、米政治・外交・カルチャーなどについて取材し、連載など多数。テレビやラジオでも解説を行う。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文芸春秋)など多数ある。


本文
 201949日に総選挙が行われたイスラエル。結果は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる「リクード」がかろうじて与党として連立政権を維持することになった。今回、台風の目となった元軍参謀総長のベニー・ガンツが率いる有力政党連合「青白連合」は大躍進したが、結局はネタニヤフを引きずり下ろすまでには至らなかった。
 選挙前、ドナルド・トランプ米大統領は、支持基盤であるキリスト教福音派を意識して、イスラエル寄りの政策をいくつも強行し、ネタニヤフの後押しになるような動きを見せていた。
 20185月には、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移し、今年3月には、イスラエルが1967年にシリアから奪って占領してきたゴラン高原について、イスラエルの主権を正式に認める文書に署名した。選挙直前には、イスラエルの天敵であるイランの「イスラーム革命防衛隊」を、米政府としてテロ組織に指定すると発表もしている。

 こうした動きが、汚職事件や背信行為のスキャンダルで追い詰められていたネタニヤフに、有利に働いたとも言えそうだ。とにかく、世界はもうしばらく、5期目に突入する彼の顔を見続けることになる。
サイバー政策の歴史に重要な役割
 そんなネタニヤフだが、実はサイバーセキュリティ政策に力を入れた首相として知られている。もっと言えば、イスラエルのサイバー政策の歴史に重要な役割を果たした人である。それゆえ、今後も引き続き、サイバー空間における世界的な動向と、敵国に囲まれたイスラエルの立ち位置から、ネタニヤフの下でサイバーセキュリティが国家の安全の重要な要素と位置付けられていくだろう。

 イスラエルがサイバーセキュリティにおいて、世界でも有数のサイバー部隊と能力を持っていることは、フォーサイトでも以前解説(サイバー大国「イスラエル」から日本は何を学べるか 20171127日)している。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56125?page=2

筆者は今年3月、ビジネス関係のカンファレンスに出席するためにイスラエルを訪問し、様々な分野の関係者たちと話をする機会があった。その流れで、イスラエルが誇る世界に名の知れた諜報機関「モサド(イスラエル諜報特務庁)」の元長官にも、話を聞くことができた。この人物は35年以上にわたってモサドで働き、世界を裏側から見てきた元スパイである。
 モサドの長官にまで上り詰めたこの人物の目には、現在のサイバー空間はどう見えているのだろうか。彼の話に触れる前に、まず世界有数のサイバー大国と言われるイスラエルが、どのようにサイバーセキュリティを発展させてきたのかを簡単に振り返りたい。
サイバーセキュリティの父、ベンイスラエル少将
 イスラエルがコンピューター関連の事業に力を入れ始めたのは、1970年代より以前のことだった。というのも、70年代には、すでに有能な科学者がこの国で大勢育っており、当時、世界的な大手IT企業の「IBM」や「インテル」などが人材確保の観点から、イスラエルに研究施設を設置していたからだ。

イスラエルに「国家サイバー局」を立ち上げた「イスラエルのサイバーセキュリティの父」と呼ばれるアイザック・ベンイスラエル少将は以前、筆者の取材に、「1980年代の終わりまでに、私たちはコンピューターが戦闘におけるテクノロジーを支配することになると認識していました」と語っている。つまり、その頃には、現在のようなサイバー空間の混沌とした様子を感じ取っていたという。
 さらに、「そこで、私たちは兵器製造を始め、コンピューターを戦闘などに使っていたのです。90年代初めにはすでに、イスラエル軍の中でサイバー兵器を作るチームも存在していた」とも語った。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56125?page=3

パソコンや携帯電話が普及し始めたのは、1990年代半ば。その頃からサイバーセキュリティが一般的にも議論されるようになっていくが、当時すでにイスラエルは敵国などからのサイバー攻撃にさらされるようになっていた。
サイバー空間の危険性について警鐘を鳴らす

 例を挙げると、2000年には第2次インティファーダ(パレスチナ人の蜂起)が起きているが、この時も、イスラエルは各地から激しいサイバー攻撃を受けた。そんなことから、イスラエルの対策はおそらく世界水準から見ても、何歩も先を行っていたと言える。

 この頃、ベンイスラエルは、政府に対して初めてサイバー空間の危険性について警鐘を鳴らした。
「私が国防省の研究開発部門のトップだった当時、エフード・バラク首相に書簡を送り、われわれがいかにサイバー攻撃に対して脆弱であるかを伝えたのです」

そして、ベンイスラエルの指摘を受け、イスラエルではサイバー政策の基礎が定められ、監督者の政府と民間のインフラ運営者らの責任も明確にした。このサイバー政策の基礎が、今もイスラエルのサイバーセキュリティ政策の根底にある。

世界で5本の指に入るサイバー大国に

 そして2011年になると、ベンイスラエルは首相の座に着いて3年目のネタニヤフに呼び出しを受けた。

 ネタニヤフは、2009年にイランのナタンズ核燃料施設をサイバー攻撃で破壊したコンピュータウィルス「スタックスネット」を念頭に、「イスラエルがそういう攻撃を受ける可能性はあるのか」と、ベンイスラエルに問うた。
 実はスタックスネットは、米国とイスラエルが共同で作ったとされる「サイバー兵器」であり、その威力を誰よりも知っていたネタニヤフは、スタックスネットのような兵器がイスラエルを襲う日が来るのではないかと恐れたのだという。

 ネタニヤフはベンイスラエルに、包括的なサイバー対策を行える組織を首相官邸内に設置するよう要請した。そうしてベンイスラエルは、官邸や内閣に直接アドバイスをする「国家サイバー局」を立ち上げた。「イスラエルが世界で5本の指に入るサイバー大国になること」を目標に掲げたという。現在、イスラエルのサイバーセキュリティ企業は420社ほどある。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56125?page=4
 イスラエルでは主に軍の「8200部隊」が、国家の戦略としてのサイバー工作を専門に行う。世界屈指の精鋭ぞろいの同部隊は、スタックスネットの開発のみならず、最近では、ロシアのコンピューターセキュリティ大手のカスペルスキー・ラボのシステムにも潜入し、ロシア情報機関がカスペルスキーのシステムを使って米国にサイバー攻撃を仕掛けて情報を盗むなどしていると、米国側に通報している。

 当然ながら、イスラエルの諜報機関であるモサドもサイバー工作には関与してきたと見られている。ナタンズの核燃料施設を破壊した際にも、イラン国内で人を使った工作にモサドが関与したとされているし、2007年にイスラエルがシリアの核施設を爆撃で破壊した有名な「オーチャード作戦」でも、サイバー攻撃にモサドが関与している。

元モサド長官が開発した「セキュリティ対策」

 そんなモサドに35年にもわたって関与してきた元長官の名は、タミル・パルド。パルドは、2011年から2016年まで第11代のモサド長官を務めた、モサドを知り尽くした人物だと言える。そんな彼が、退官後に進んだ先は、モサド時代から重要性を目の当たりにしてきたサイバーセキュリティ分野だった。

 パルドは2016年以降、自身のサイバーセキュリティとしてのアイデアを形にするために、モサドや8200部隊などから「世界でもトップクラスのハッカーたち」を集結させたと、筆者に語った。当初その数は30人に上ったという。それでも、アイデアを形にするのは容易でなかった。「開発には2年以上を要したがね」と笑う。

 そんな精鋭を集めて作られたパルドの会社「XMサイバー」が提供するサイバーセキュリティ対策とはどんなものなのか。 このシステム「HaXM(ハクセム)」は、軍事シミュレーションで使われる手法を応用している。つまり、実際のサイバー攻撃をシミュレーションすることで、その脅威への対策を行うものだ

 まずハクセムは、防御するネットワークを把握。現実に起きているサイバー攻撃を担当する「レッドチーム」は、実際の攻撃をシミュレーションしてシステムに攻撃を行い、脆弱性を見つけ出す。いわゆる「ペネトレーション・テスト(侵入テスト)」で、擬似的な攻撃テストだ。これにより、クライアント企業のセキュリティ担当者は、自分の会社のネットワークの弱点を知ることにもなる。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56125?page=5
次に、攻撃に対する防御を担当する「ブルーチーム」は、プログラムの修正やファイルの排除などをして攻撃を食い止め、さらに攻撃を受ける可能性がある部分の修正方法を探り、セキュリティの穴を埋めるソリューションを提案する。

「攻撃される前に対応しなければ意味がない」
 従来なら、これらは基本的に人間が介して行う作業だ。レッドチームとブルーチームがそれぞれの任務での結果を持ち寄って、実際の対策に繋げるために検討を行うので、時間も人員も要する。

 そこに目を付けた同社は、レッドとブルーの間に位置付けられる「パープル・チーム」機能を開発。これにより、レッドチームの攻撃側面とブルーチームの防御側面を合わせて自動解析し、総合的な評価を随時行う。そしてソリューションを伝える。
 パルドによれば、「最大の特徴はすべて自動で機能すること。しかも24時間、365日、休むことなく動く」と言う。つまり、常に巷で発生しているさまざまな攻撃を把握し、それに対処できるよう攻撃が起きる前に対策が打てることになる。

「攻撃される前に対応しなければ意味がない」と言うパルドは、このサイバー対策はモサドの哲学から生まれたものだとし、次のように話してくれた。「私たちモサドは、様々な興味深い経験をしてきた。イスラエルは建国以来、ずっと脅威にさらされてきた。とにかく、私たちそうした様々な脅威を、早い段階で排除する必要があった。すべては、ここイスラエルに安全をもたらすためだ」


 パルドは、「わが社の最大の強みは、人材。スタッフは国のために何年も戦ってきた者たちであり、世界でもベストなサイバー人材だと言っていい。彼らがシステムを作り上げたのです」と言い、「今では、そのシステムを信頼して、オーストラリアや英国などの銀行や証券取引所、自動車産業、病院、インフラ産業へもシステムを提供している。詳細は言えないが、各地で政府にも導入している」と述べる。

政府はすべてを解決できない


そんなパルドは、サイバーセキュリティの現状をこう見ている。「インターネットなどから派生する便利なものが溢れる今日、私たちはサイバー脅威が現実のものであることにまず気がつく必要がある。SNSやテクノロジーからさまざまな利点を得ているが、反対に、リスクも大きい」

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56125?page=6

 パルドは続ける。「まず、私たちはここ1015年で、プライバシーというものを失ってしまった。過去を振り返ると、私の自宅は他人を簡単には侵入させない、まさにだったが、今はそのがスマートフォンになった。スマホにはありとあらゆるものが入っており、外部からでも、人々が何を観て、何を考え、今何をしているのかについて、情報を獲得できてしまう。あなたに危害を加えることもできる。これが今日、私たちが直面している脅威なのだ。子供も含めたすべての人間がそんな世界におり、非常に注意する必要がある」

イスラエルの諜報機関を率いてきた人物の言葉には説得力があった。それこそが彼がモサド長官時代から見てきた「現代の姿」であり、モサドが諜報活動に活用してきた部分でもあるだろう。
 あまりにも便利な「道具」を受け入れた私たちは、暮らしに重要な「プライバシー」を手放してしまったということだ。ただもう後戻りはできない。一度便利さを知ってしまえば、それを捨てるのは難しいからだ。

 そしてパルドはこう言った。「いまだに、政府がすべてを解決できるという間違った考え方をしている人たちがいる。すべての企業、すべての地方都市などが、自分たちでサイバー攻撃に立ち向かうべきである。自分たちの問題だと自覚しなければならない」
 イスラエルのような「そこにある脅威」に直面していない日本人には、こうした話はなかなか届かないかもしれない。だが「令和」の時代には、5G(第5世代移動通信システム)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)が普及し、私たちの情報はますます蓄積されていくし、デジタル化もさらに進む。

 日本人も、百戦錬磨のモサド元長官の言葉を受け、城を守れるのは自分たちだけであると、認識すべき時なのかもしれない。


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