2019年2月21日木曜日

南沙諸島をめぐる不屈の戦い ~フィリピンの領土領海防衛~


中国相手に一歩も引かないフィリピンの実効支配

日本の尖閣諸島実効支配とは大違い

北村淳
フィリピンが実効支配するパグアサ島

 アメリカが2隻の駆逐艦(「スプルーアンス」と「プレブル」)を南シナ海・南沙諸島に派遣し、ミスチーフ礁とセコンド・トーマス礁それぞれの沿岸から12海里内海域を通航させた。1月の西沙諸島での実施に続く、南シナ海での「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)の実施である。
 オバマ政権が躊躇しながらも海軍に実施を許可して以来、アメリカ太平洋艦隊は南シナ海で断続的にFONOPを行ってきた。
 FONOPの建前は特定の国を支援したり特定の国を恫喝するといった軍事作戦ではなく、国際海洋法秩序の遵守を呼びかけ、著しい違反に対しては「アメリカとしてはそれなりの対処をする可能性がある」という姿勢を示すための外交的作戦とされている。したがって、これまでのFONOPは、南沙諸島や西沙諸島を巡る領有権紛争当事国間での具体的な動きに即応しての軍艦派遣というわけではなかった。
 しかし、今回のFONOPは若干様相が異なっている。フィリピンと中国の間で島の領有権を巡って緊張が高まっている中で実施されたFONOPだからである。
フィリピンが実効支配しているパグアサ島で、フィリピンによる水路掘削作業と埋め立て作業が開始された。それに対して、中国は海軍艦艇や海上民兵漁船を派遣して露骨に軍事的威嚇を強めている。そうした状況下で今回のFONOPは実施されたのだ。
南沙諸島のパグアサ島の位置(Googleマップ)
フィリピンが実効支配しているパグアサ島
 フィリピンは南沙諸島の島嶼環礁のうち9つを実効支配している。その中でも最大のものがパグアサ島である(英語名は "Thitu Island"、中国では中業島、第2次世界大戦中は日本軍が占領し三角島と呼んでいた)。
南沙諸島の現況
 およそ92エーカー(0.37平方キロメートル)のパグアサ島には、100名以上の島民が居住しており、酪農や農耕に従事している。ある程度の数の島民が生活しているため、市役所、公民館、学校、浄水所、船着場などの民生施設が整っている。生活必需品は、毎月1回定期的に島を訪れる海軍艦船によって補給されている。
 島内には、民間施設とともにフィリピン軍の施設も設置されている。最大の施設はRancudo飛行場であり、1300メートルの滑走路を有する。フィリピン軍が設置したこの飛行場は、現在南沙諸島に各国(フィリピン1カ所、ベトナム1カ所、マレーシア1カ所、台湾1カ所、中国3カ所)が設置している滑走路のうちでも最も歴史が古く、1975年に開設された。この航空施設のおかげで、フィリピン軍は航空機による南沙諸島の警戒監視を容易に実施することができるのだ。
 航空施設のほかにもフィリピン海軍基地や駐留将兵のための兵舎、それに通信タワーなども設置されており、パグアサ島は、フィリピンが実効支配を続けている9つの島嶼環礁の警戒監視の前進拠点としての役割を果たしている。
水路建設の開始で実効支配の強化へ
 フィリピン軍は、かねてよりRancudo飛行場の修繕と、より大型の軍艦が直接海軍施設に接岸できるようにするための水路の建設を計画していた。
 現在、大型船で運搬されてきた補給物資は、パグアサ島を取り囲むサンゴ礁沖で小型ボートに載せ替えて島に送り込むという手順が取られている。その効率を上げるための水路掘削計画である。
 昨年(2018年)末から水路掘削作業が開始された状況が確認されていたが、このほど、水路掘削と並行して埋立地も誕生しつつある状況が明らかになってきた。かねてよりフィリピン当局者は、漁業施設や太陽光発電施設それに海洋研究施設などを建設するとの意向を表明していたため、この埋立地にはそのような施設が設置されるのかもしれない。
 このように、フィリピンは自らが実効支配を続けているパグアサ島の軍事施設と民間施設をさらに充実させる努力を強化し始めたのである。
キャベツ作戦でフィリピンを威嚇する中国
 このようなフィリピンの動きに対して、中国が軍事的牽制を開始した。パグアサ島から12海里(およそ22キロメートル)南西に位置するスービ礁(中国が人工島化して3000メートル級滑走路も設置されている)に数隻のミサイル・フリゲートを含む海軍艦艇や海警局巡視船とともに数十隻にものぼる漁船(なかには70メートル級の大型漁船もある)を展開させたのである。これらの漁船は第3の海軍(第1の海軍は中国人民解放軍海軍、第2の海軍は中国海警局)といわれている海上民兵が操船しているものと考えられている。
 12月下旬から1月下旬にかけて撮影された衛星写真データによると、最大で95隻もの中国艦船が確認されており、現在も40隻以上の漁船、軍艦、巡視船がこの海域に展開している状況のようである。
それらの中国漁船はパグアサ島に近接した海域に集結し、それより外側の海域に軍艦や巡視船が遊弋(ゆうよく:海上を動き回って敵に備えること)するという、典型的な「キャベツ作戦」の様相を呈している(キャベツ作戦とは、漁船団を中心に海警船、軍艦などが重層的に覆うことで領海を奪う作戦)。
 もちろん、パグアサ島の実効支配を確保するためにフィリピン海軍も艦艇を派出しており、フィリピン海軍フリゲートが中国海軍フリゲートに対峙している状況も確認されている。
 このように中国がフィリピンに対して露骨な軍事的圧力をかけている状況下で、フィリピン側を支援するような形で、アメリカ太平洋艦隊の2隻の駆逐艦が南沙諸島でFONOPを実施したのだ。
南沙諸島の状況と対照的な日本の実効支配
 南沙諸島の領有権を巡る紛争においては、フィリピンだけでなくベトナムもマレーシアも台湾も中国も、それぞれが実効支配を主張している島嶼環礁に航空施設や港湾施設などの軍事拠点を設置したり、測候所や漁船避難所などの民間施設を維持することによって、目に見える形での実効支配を演出し、領有権を主張している。
南沙諸島の状況と好対照なのが、尖閣諸島に対する日本の実効支配である。
 日本政府は、尖閣諸島に何らかの施設を設置したり、人員を配置したりすることを避け続けてきている。その代わりに、アメリカ政府の高官たちに「アメリカ政府は尖閣諸島を日本が実効支配しているとの認識を持っており、尖閣諸島も日米安保条約の対象となりうる地域であると認識している」と言わせることにより、胸を撫で下ろしているのが現状だ。しかし、そのように「アメリカの虎の威を」借りても、目に見える形での実効支配などにはなり得ないのが国際社会の現実であることを認識しなければならない。
【関連動画】
南沙諸島へフィリピン海軍に同行
海上自衛隊がフィリピン海軍と共同訓練
我が国海上自衛隊との訓練により、有事における海上作戦の遂行の円滑化を図る。
フィリピンが米国からフリゲート艦を取得
アメリカからは戦闘艦を取得し、我が国の安倍晋三政権からは海上保安庁の巡視船の提供をうけました。国際海洋法条約に基づく領海防衛を固めています。


【管理人より】
尖閣諸島は、海上警察権で守れ!
 
 我が国はかつて尖閣諸島の魚釣島に海上保安庁のヘリポートを設置しようという案がありましたね。しかし共産中国の猛抗議にあってあえなくプランをひっこめています。
 これは主権国家同士の関係として考えるとおかしなことです。なぜならこの時の政府は国軍にあたる自衛隊を配置しようとしていたわけではないです。海の安全を守る海上保安庁のヘリポートですから、目的はおそらく人道支援でしょう。
 本来ならば人道支援のための施設を建設することは、共産中国にとってもメリットがあることなのです。しかし反対したということは、おそらく共産中国は、人民解放軍の手によって海上救難のための施設を作りたかった、或いは中国海警かもしれませんが、むこうの国家機関が管理する組織に作らせたかったから抗議したわけです。
 つまり共産中国の主権下にある尖閣諸島に日本の政府機関による施設を作ることは、例え人道支援を目的とする施設であっても罷りならん、ということです。
 しかし今や尖閣諸島は、民主党・野田政権の時に政府が土地を買取り、国有化しました。共産中国も抗議するだけでは、領有の正当化はできませんから、民兵に守られた中国海警の艦船を送り込んできています。島の周囲から日本人を追い出したい、元来尖閣諸島付近の海は共産中国の領海なんだから、というところでしょう。
彼らには外国の領海という意識は全くないようです。
日本政府は、尖閣諸島を無人島していては絶対だめです。このままだと付近の海から接近してきた人民解放軍の兵士に上陸され、難破を装って居座られてしまうでしょう。そして救助を名目として、後から後から後続の部隊を送り込んできます。
 かつて尖閣諸島に自衛隊を駐屯させよ、といわれた政治家がいましたが、その行為は危険です。自衛隊が先にやってくると「中国固有の領土である釣魚島が日本軍に侵略された。」という開戦の口実を与えることになってしまいます。
 ですから尖閣諸島に上陸するのは、非軍事組織でなければならないのです。それが海上保安庁です。ヘリポートと巡視船が接岸できる港を構築、目的は周辺海上の救難活動です。付近で難破した中国漁船をも救助するのです。これ以上の「領有権」の主張があるでしょうか?
当然、共産中国は認めないでしょうが、欧米各国に認めさせれば問題ないです。あとロシアにも賛成させるわけです。ここはポイントですね。
これが尖閣防衛の絶対的方法だとは考えません。こういう問題は、国民全体で職種の枠、垣根をこえてみんなで考えていきましょう。
尖閣諸島防衛の軍事的意義
自衛隊の尖閣防衛部隊

尖閣諸島に自衛隊を駐屯させては絶対だめでしょう。日米戦争でのガダルカナルの攻防戦の二の舞になるでしょう。どんな「精強部隊」でも食糧、武器弾薬がなければ戦闘は継続できないのです。



2019年2月17日日曜日

共産中国は「航空母艦大国」となれるのか??


パキスタンに空母売却? 中国の最終目標は何か

一歩ずつアメリカ海軍に近づいている空母関連技術
北村淳
中国海軍が運用している空母「遼寧」

 中国政府が中国海軍の001型航空母艦「遼寧」をパキスタンに売却する方向で折衝が進んでいる、という噂が浮上した。
 現在、中国海軍が運用している空母は遼寧だけである。新たな001A型空母が完成しているが、まだ海上公試(最終実地テスト)中であり、艦名も未定だ。また、002型空母2隻と003型空母1隻を就役させる計画もあるが、まだ建造中である。このような状況のため、遼寧を近いうちにパキスタンに売却するとは考えられない。
 しかし、パキスタンへの売却というアイデアは荒唐無稽というわけではない。かねてより空母を運用し、さらに2隻の空母を手にする予定のインド海軍を牽制するために、友好国パキスタンに空母「遼寧」を配備させる意義は大いにあるからだ。
 もし、中国の息がかかったパキスタン海軍が、中国製艦載機が積載された中国製空母を運用するとなれば、中国が自ら空母をインド洋に繰り出してインド海軍を牽制する労力が大幅に軽減できることになる。したがって、ある時期(中国海軍にとって遼寧を手放しても良い段階)に到達した場合には、遼寧をパキスタンに移転することは中国にとっても願ったり叶ったりということになるのだ。
インド海軍空母「ヴィクラマーディティヤ」(写真:インド海軍)
遼寧も001A型空母も訓練・開発研究用

 中国海軍が運用している001型航空母艦「遼寧」は、中国海軍にとっては明らかに訓練空母的な位置づけであるといえる。20129月に就役して以来、それまで航空母艦の運用経験がなかった中国海軍は、遼寧を用いて操艦を含めた空母そのものの運用方法、空母艦載機の運用方法、そして空母艦隊の運用方法を学んでいると解釈できる。
 そして遼寧による運用経験から得た教訓を盛り込みながら、20184月には初の国産空母である001A型航空母艦を誕生させ、海上公試を開始した。001A型空母の海上公試と入れ替わりに、それまで5年半に渡って使用してきた遼寧はドック入りして大幅な改良が加えられたようである。001A型空母も、遼寧同様に訓練空母と位置付けられる。中国海軍が空母や空母艦載機、そして空母艦隊の運用を実地研究しつつ経験を積み、そこからのフィードバックを生かしつつ真の実戦用航空母艦と空母艦載機を開発するための訓練用・開発研究用航空母艦と考えるべきであろう。
中国海軍の001A型空母
002型空母、そして原子力空母へ

 長年にわたって実際に空母艦隊を運用しているアメリカ海軍関係者たちは、航空母艦と空母以外の水上艦は全く別物であることを強調する。いくら空母以外の巡洋艦や駆逐艦など水上戦闘艦艇や大規模艦隊の運用経験が豊富な海軍(たとえば海上自衛隊)であっても、航空母艦や空母艦載機、そしてなによりも空母艦隊の運用を習得するには長い年月と様々な試行錯誤が必要なのだ。どの海軍といえども、他国海軍(同盟国といえども)に空母運用方法などを親切に伝授することなど100%あり得ない。そうである以上、中国海軍が自ら訓練用・開発研究用航空母艦を手にして、空母、艦載機そして空母艦隊の運用方法を身につける努力を続けているのは当然のステップである。
現在、中国海軍が遼寧を用い始めてから6年が経過し、001A型空母もまもなく海上公試を終えて正式に就役する(今年の4月頃、遅くとも中国海軍創建70周年を迎える今年の101日までには)ものと考えられている。その後は遼寧と001A型空母の2隻によって、さらなる訓練と研究が進められることになる。
 現在、中国海軍は、2隻の002型航空母艦と、003型原子力空母の建造を進めている。002型空母2隻が就役して、遼寧と001A型空母の訓練空母としての役割が終了した頃には、中国空母がパキスタン海軍へ移籍されることになるかもしれない。
目標は原子力空母の運用
 中国海軍にとっては002型空母も最終目標ではなく、開発研究目的が色濃い空母とみなせる。002型空母には、遼寧と001A型では用いることができなかった「カタパルト装置」(航空母艦から艦載機が発進する際に、航空機を飛行甲板から射出する装置)が採用されている。カタパルトの採用と並行して、空母艦載機もさらに進化させる努力がなされているものと考えられている。002型空母の開発建造は、中国海軍の空母関連技術が一歩ずつアメリカ海軍に近づいていることを示しているのである。
米空母の甲板に設置されたカタパルト
 そして、カタパルト(米海軍でも最新の電磁式カタパルトと言われている)を備えた002型空母を2隻生み出すことによって、中国海軍はさらなる訓練を重ねることになる。
中国海軍は、こうして遼寧、001A型空母、それに002型空母から得た経験を、現在建造中の原子力空母に生かそうというわけである。
 要するに、中国海軍の空母開発計画にとって当面の最終目標は、アメリカ海軍が運用している原子力空母に肉薄する原子力空母(11万トンクラスと言われている)を手にすることである。実際に中国海軍関係者によると、中国は2035年までには4隻の原子力空母を稼働させるために少なくとも6隻以上の原子力空母を手にするということである。
空母の役割は国ごとに違う
 このように中国海軍は自助努力により試行錯誤を重ねながら本格的な航空母艦の建造に力を注いでいるが、そうした状況に対して、とりわけ日本では「アメリカ海軍空母打撃群には追いつけるわけがない」といった声が少なくないようだ。
 しかしながら、アメリカ海軍による空母打撃群の運用目的と、中国海軍やイギリス海軍それにインド海軍などによる航空母艦の運用目的は同じではない。いずれの国の海軍においても、それぞれの国独自の国防戦略に基づいた海軍戦略によって、空母や空母艦隊の運用に差異があるのは当然であり、中国海軍が米海軍の空母打撃群をモデルにしなければならない道理は全くないのだ。この点を誤解すると、中国海軍の空母の真価や脅威を見誤ることになりかねない。その詳細に関しては稿を改めて解説したい。

空母遼寧からはじまる共産中国の海軍戦略
結構多くの方々が陥りやすい錯覚かと思いますが、戦争は最新の装備をそろえれば最強だぜ、というわけではありません。織田信長の戦いで有名な長篠の戦いでも「新兵器・火縄銃」を「大量に」そろえたから、武田勝頼に勝てたわけではないのです。
新装備を揃えたら、それを必ず使いこなさないといけません。使いこなすドクトリンを開発し、戦術の中にはめこみ、戦略に落とし込まないといけないのです。
共産中国(人民解放軍)が、日米をしのぐ空母を開発し、日米を圧倒する空母のドクトリンを開発できるか、それをうまく艦隊戦術にあてはめられるか?
彼らのあくなきチャレンジは続くよどこまでも、ですね。
日米は、共産中国に「得意技」を発揮させない、ドクトリンを使えないように戦術や戦略を考えていかないとならないでしょう。
【動画】空母遼寧
J-15発艦の場面。こうした艦載機の運用についても試行錯誤が繰り返されているものと思われるが、海軍戦略のコンセプトがしっかりしていれば、着実に運用も完成されていくでしょう。

空母遼寧撃沈!?
共産中国初の運用となる空母遼寧ですが、元々旧ソビエト連邦海軍のスクラップする空母を寸前で「観光目的」に買い取った経緯がありますから、メンテナンスしないと使えません。しかし空母の実践的な運用経験がない人民解放軍にとっては、運用ノウハウを学ぶにお手頃な艦種といえるでしょう。
 つまり元々空母の運用ノウハウを学ぶ目的の空母であれば、そういう目的、ふれこみで用が済めば他国へ売却されるものであるのかもしれません。だいたい旧ソ連自体が空母後進国といえます。太平洋で実戦的な運用経験を蓄積した旧日本海軍やアメリカ海軍のそれとは比較にはなりません。日本とアメリカは空母の運用に関しては「先進国」なのです。その日本の空母技術や運用ノウハウを接収、改良しているのがアメリカ海軍だとしたら、世界の空母先進国アメリカに共産中国が追いつくだけでも、至難の業といえるでしょう。

アメリカは「フロムザシー戦略」で、大陸の沿岸から奥地の戦略的なポイントを空爆するための空母、我が国の空母いずもとかが、ひゅうが、いせは、「離島防衛戦略」の上で運用される空母です。

人民解放軍がどういう「戦略」或いは「戦術」の思想、構想において空母を運用してくるか、将来的なビジョンはみえにくいですが、既に南シナ海に島嶼をおさえてしまった共産中国ですから、ここのあたりの防衛に使う「離島防衛戦略」としての運用はしてくるものと考えていいでしょうね。
それでもはたして、世界の空母先進国アメリカ、日本に勝る空母運用ができるのかどうか?未知数だらけです。日米は潜水艦大国でもあり、原潜のアメリカと、通常動力型で独自に進化する我が国の潜水艦で組み合わさる戦略運用が可能ですから、まともに考えても簡単に共産中国が日米に勝てるとは思えません。

やはり軍事だけでなく、ハイブリッド戦でくるのでしょうな?
共産中国お得意のサイバー攻撃により、日米の空母の戦略的な運用データをまず窃取してくることは容易にイメージできます。

経済先進国同士では、簡単にリアルな戦争はおこりにくいです。「勝てる」と確信できる戦争でなければ、国防の観点からも軍事行動にでにくいのです。日米と中朝、ロシアとの軍事的な格差、また日露間での経済の協力関係の深化で、東アジアではまだ軍事紛争はないだろうと予測できます。(本文は管理人の書下ろしです。)


共産中国は、【軍事力の強化】の他にアメリカに勝たなければいけない分野がありますよね。

根深い米中の経済対立、米中貿易戦争の行方


岡崎研究所
2018年(平成30年)12月のブエノスアイレスにおける米中首脳会談で、トランプ大統領と習近平国家主席は、両国間の貿易紛争につき、90日間の期限を設けて交渉することで合意し、現在は「休戦状態」にある。米側は、期限内に妥結できなければ2000億ドル相当の中国製品に対する関税率を10%から25%に引き上げるとしている。その期限が31日に切れるのを前に、1月末に中国の劉鶴副首相率いる交渉団が訪米し、閣僚級交渉、トランプ大統領との会談を行い、米中首脳の再会談の可能性が出てきている。ホワイトハウスが劉鶴氏の訪米に関して出した声明は、要旨、次の通り。

交渉は、以下を含む広範な問題を取り扱った。
1)米企業に対する中国企業への技術移転の圧力、
2)中国における知的財産権の保護と執行の強化の必要性、
3)米国が中国において直面する多くの関税および非関税障壁、
4)中国の米企業に対するサイバー窃取がもたらす悪影響、
5)補助金と国営企業を含む、市場を歪める力が如何に過剰生産をもたらしているか、
6)米国の製造業産品、サービス、農産物の中国への販売を制約している市場障壁および関税を除去する必要性、
7)米中通商関係において通貨が果たす役割。両者は、莫大な額の増大を続ける米国の対中赤字を削減する必要についても議論した。中国による、米国の農産物、畜産物、工業製品の購入が、交渉の枢要な部分を占めている。
 両者は、全ての主要な問題に関与していくこと、相違を解決するための生産的で技術的な議論をしていくことなどにつき、有益な意思を示した。米国は、構造的問題と赤字削減に特に焦点を当てている。
 前進はあったが、やるべきことはまだ多い。トランプ大統領は、ブエノスアイレスで合意した90日の期限は厳格な期限であり、31日までに満足できる結果が得られなければ米国は関税を引き上げる旨、繰り返した。米国は、これらの重要な問題を中国とさらに交渉することを楽しみにしている。
出典:‘Statement of the United States Regarding China Talks’White House, January 31, 2019
上記声明からは、米国は、中国による知的財産権の侵害、補助金や国営企業、米国企業への技術移転の強制、中国による関税および非関税障壁、貿易赤字といった点を問題視する、従来の姿勢を維持しているように見える。すなわち、中国に対して構造的な改革と対米貿易黒字の削減を求めていくということである。
 中国側が提示した譲歩は、米国のエネルギーや農産物など12分野での輸入拡大、米国の対中投資受け入れ拡大などにとどまるようである。米国との隔たりは大きい。上記声明も「前進はあったが、やるべきことはまだ多い」と明言している。129日付けワシントン・ポスト紙の社説‘Trump sparked a crisis with China. Now he should make the most of it.’は、中国が得意とする買い物攻勢に幻惑されてはならず、協議は中国経済の構造改革に糸口を付けるものでなければならないことを主張している。当然そうあるべきである。
 しかし、中国側は米中首脳会談を提案し、トランプもこれに前向きのようである。中国側は経済が急失速しており、トランプの方は2020年の大統領選挙を控え貿易面で何らかの得点を挙げたいと考えているものと思われる。中国から何らかの具体的譲歩を引き出し、それをトランプの駆け引きの勝利と宣伝し、米中の冷戦の一時的休止がもたらされる可能性は否定できない。
 ただ、仮に首脳会談が開かれ短期的に妥協が成立したとしても、長期的には米中の経済競争が終わることはないであろう。中国との対決は貿易から始まり、今や先端技術における覇権争いをはじめ、全面対決の様相を示している。米中の対決が先端技術にまで及んでいるのは、米国が、中国の挑戦は米国の卓越した地位を脅かしているとの危機感を抱いているからである。例えば、中国は、通信速度が現行の4G携帯電話の100倍となる、次世代の社会基盤となると見込まれる5G技術で、米国に引けを取らない開発をしていると言われる。
 そういうわけで、米国は先端技術における中国の台頭の「封じ込め」にかかっており、中国が先端技術の開発を国策として推進する「中国製造2025」を非難するとともに、中国の先端技術製品の調達を禁止し、同盟国に対しても同様の措置を取るよう要請している。米中の経済対立は、構造的に非常に根深いものである。
米中の経済戦争は、元々は共産中国がしかけてしまった、ふんでしまった虎のしっぽですね。根が深いこの問題をまずどう処理するか? 原子力空母の開発より早急かつ大変な問題といえるでしょう。(管理人)
 ロシアは静かに情報戦への準備?を固めつつあります。我が国は少しでも早くに確実な「日露平和友好条約」の締結を。北方四島の帰属の問題どころではありません。日本国の将来の主権に関わる問題が、共産中国の海洋覇権戦略なのです。大陸国家の海洋への覇権伸長には大いに警戒と準備が不可欠なことはこれまでの我が国の歴史が証明しています。
今までのようなアメリカ従属主体の外交、与党政治家による国家官僚にまるなげ事なかれ政治では、いずれ我が国の国家主権は消えてなくなることでしょう。例えば毛利元就の大国の狭間での生き残り戦略など義務教育レベルで見直しでみてはいかがでしょう?(管理人)
ロシアがネット鎖国に? サイバー攻撃対策の一環で

BBC News
ロシア政府はサイバー攻撃対策の一環として、一時的に国内を海外のインターネットから遮断する実験を行なうことを検討している。
この実験では、ロシア国民や企業の間でやり取りされるデータが海外のネットワークを経由せず、国内に留まることになる。
ロシアでは昨年、独立したインターネット運用に必要な技術の変更を命じる法案が連邦議会に提出された。
実験は41日までに実施される予定だが、具体的な日時は設定されていない。

大きな混乱

デジタル経済国家計画と呼ばれる法案は、外国勢力がロシアをオンラインから排除しようとした場合に対抗できるよう、ロシア国内のインターネットサービスプロバイダ(ISP)にサービス継続を義務付ける。
ロシアは諸外国にサイバー攻撃などネット上の妨害行動を仕掛けていると、しばしば批判されている。そのため、北大西洋条約機構(NATO)と加盟各国は、対ロ制裁の可能性に言及してきた。
ロシア政府はNATOのこうした動きに対抗するため、新法制定を通じて、ロシア独自のDNS(ネットアドレスシステム)構築を目指す。国外に設けられたサーバーへの接続が遮断されても、ロシア独自のシステムは機能するようにするのが狙いだ。
現在、12の組織がDNSのルートサーバーを監視しているが、ロシアを拠点にする組織はない。しかし、ネットの中核となるアドレス帳のコピーはすでにロシア国内に存在していることから、接続遮断の懲罰的措置が講じられたとしてもロシアのネットシステムは機能し続ける可能性がある。
この実験ではさらに、政府が管理するルーティングポイントにデータを転送できると、ISP各社が実証することが期待されている。それによってISPは、ロシア国内のデータ送受信と海外向けのデータ送信を切り分け、国内でのデータのやりとりは継続するものの、海外に送られるデータは削除することができるようになるという。
最終的にロシア政府は、国内全ての情報送受信が、政府独自のルーティングポイントを経由する状態を目指している。この動きは、中国が実施している規制データの排除と同じような、大規模検閲システム構築の一環とみられる。
ロシア報道によると、国内ISPはこの法案の目的をおおむね支持しているが、実現方法については意見が分かれている。ZDNetによると、実験は国内のインターネット通信に「大きな混乱」を引き起こすとISP各社は見ているという。
ロシア政府は、ISPによるリダイレクト(情報出力先の変更)実験の便宜を図るため、インフラ修正のキャッシュを提供している。

<解説>――ゾーイ・クラインマン、BBCニュース・テクノロジー記者

国家全体を海外のインターネットからどのように「遮断」するのだろうか。
まず、インターネットの仕組みを多少理解することが重要だ。
インターネットとは要するに、無数のデジタル・ネットワークの連続だ。ネットワーク上を情報が移動する。ネットワークはそれぞれルーターポイントで連結している。ネットワークで最も脆弱(ぜいじゃく)な箇所が、ルーターポイントだ。
国内に出入りす情報を取り仕切るルーターポイントを、ロシア政府は自分たちで管理しようとしている。国外からの脅威にさらされた場合、あるいは国民への情報を検閲したい場合、外部からの情報流入を遮断するためだ。まさに跳ね橋を引き上げるようにして。
中国政府のファイアウォールはおそらく世界でもっとも有名な検閲システムで、今では極めて洗練された高性能の仕組みとなった。キーワードや特定のウェブサイトをブロックする方法で、ルーターポイントも規制している。こうすることで、中国政府が国民に見せたくないサイトは、国内で表示されない。
仮想プライベートネットワーク(VPN)を使用してファイアウォールを回避することはできる。コンピューターの位置情報を偽装してフィルターが作動しないようにする仕組みだ。VPNをどこまで容認するかは、政府によって異なる。中国は時々取り締まりを強化する。違法なVPNを提供または使用した者は、実刑判決を受けることもある。
一方、時には不運な事故によってインターネットから遮断されてしまう国もある。昨年モーリタニアでは2日間に渡りオフラインの状態が続いた。インターネットを供給していた海底の光ファイバーケーブルがトロール船によって切断されからだとみられている。

ケーブル切断

慶応大学の土屋先生のご指摘にありましたが、「光ケーブルの切断」という物理的な行為もサイバー攻撃といえるわけですよね。漁船?調査船?軍艦を動員しなくてもできるリーズナブルな攻撃かもしれませんね。潜水艦でした。(管理人)




2019年2月13日水曜日

情報戦争の時代 & 情報活用の時代


【情報戦を代表する最強戦略兵器フェイクニュース】

深刻化する「deep fake」ビデオの脅威

斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
iStock.com/flySnow/Purestock

 AI技術の著しい進歩により、最近アメリカで本物そっくりの偽ビデオやオーディオが次々に登場、深刻な問題となりつつある。今後その精度がさらに一段と向上するにつれて、政治目的などに悪用され社会混乱の原因にもなりかねず、米議会でも被害を最小限に食い止めるための法案措置の動きまで出始めている。
 問題となってきたAI技術は「ディープ・フェイク(deep fake)」と呼ばれ、AIが可能にした「ディープラーニング」と「フェイク」をミックスした新造語。真偽をただちにチェックし注意を喚起できる従来の「フェイク・ニュース」などとは異なり、本物との区別がほとんど不可能なほど巧妙に造られている点に特徴がある。
BrianAJackson/Gettyimages
 その最たるものが、いわゆる「ディープ・フェイク」ビデオの存在だ。ある人物の顔の形、しわ、目鼻、まゆ、唇の動きなどをコンピューター・グラフィックで微細にわたるまでスキャン、そのデータを別の人物の顔にかぶせ、異なる部分を入念に修正した上で再現する。顔つき、表情のみならず、発声、発音もオーディオ・データのコンピューター分析によって細かく記録、それを唇の動きに合わせて再生させるため、素人目には容易に本人と間違いやすくなる。
 その一例として、アメリカで大きな話題として取り上げられたのは、昨年4月公開された、オバマ大統領があたかも実際に演説しているかのように見せかけたビデオ作品だった。
 新興ネット・メディアとして最近躍進著しい「BuzzFeed」がワシントン州立大学コンピューター・サイエンス技術チームの協力を得てハリウッドの映画製作会社と共同で作り上げたもので、とくにこの作品の中でオバマ氏がトランプ大統領のことを「とんでもない間抜け(complete dipshit)」とののしっている部分があり、またたくまにフェイスブックなどを通じて全米に画像が広がり話題騒然となった。
 もちろん、現実に前大統領が現職大統領をこのような下品な言葉でけなすことなどありえず、これを製作、公表した「BuzzFeed」最高経営者も、作品が最初から贋作であることを断っているとした上で「今後、AI技術が超スピードで一層発達し、この種のdeep fake videoが出回ることによって社会混乱が起こりうることを警告したかった」と、その意図について語っている。
 今後、こうした「ディープ・フェイク・ビデオ」が悪用されかねないケースとして米メディアで指摘されているのが、わいせつなポルノ・ビデオの主人公として本物に見せかけた有名人や特定の政治家などを登場させ、品位を貶める、敵対国の選挙に介入し好ましからざる候補の偽造演説ビデオを流布するなど、SNSを駆使したかく乱工作だ。さらには、最悪のシナリオの一例として、トランプ大統領が「中国を標的にした核ミサイル発射の最終決定を下した」とする「重要演説」動画をSNSで流すといったケースまで議論に上がっている。
 
 すでに実際に、ハリウッド女優界を代表するグラマー美女として知られるスカーレット・ヨハンソンさんの顔がポルノ・ビデオのセックス・シーンの女性にはめこまれるといった被害が報告されているほか、ヨハンソンさん以外でも、本人のまったく知らないところで、別人が演じるわいせつビデオに登場させられていた何件もの類似ケースが出没しているという。
 
 こうしたディープ・フェイク・ビデオの恐怖は、たんなるうわさや偽宣伝チラシ、各種アングラ情報紙()などとは異なり、視覚と聴覚に訴えることによってバーチャル・リアリティの動画を受け手にアピール、信じ込ませることができるだけでなく、それを瞬時に時空を超えて世界中に拡散できる点にある。場合によっては近い将来、国と国の戦争を引き起こし、一方の国の戦況を有利な方向に誘導するといった要因にさえなりうる、と指摘する専門家もいる。
 このため米議会では、「オバマ演説」ビデオで物議をかもした昨年以来、その潜在的脅威と対策について真剣な議論が戦わされてきた。
 最初に問題提起して注目を集めたのが、下院情報特別委員会のアダム・シフ議員ら3人の民主党有力議員だった。シフ議員らは昨年913日、本会議で、「ディープ・フェイク・ビデオは個人の信用を失墜させ、脅迫の材料として悪用されるだけでなく、(ロシアなど)外国敵対勢力が悪用し、わが国の国家安全保障上の脅威にもなりうる」と重大警告するとともに、ダニエル・コーツ国家情報長官に対し、とくに外国情報機関が展開しようとしている欺瞞工作の実態と対策について、調査報告の議会提出を求めた特別書簡を送ったことを明らかにした。
 入手した書簡コピーによると、「ディープ・フェイク技術の恐るべき性能と迅速な進歩が今後わが国にもたらしうる甚大な影響にかんがみ、世界各国におけるその現状と将来的影響について把握しておく必要がある」と指摘、具体的に
1.  諸外国政府、その国家情報機関および工作員がディープ・フェイク技術を駆使してどのように具体的にわが国国家安全保障上の利益に影響をあたえうるかについての評価。
2.  すでに現在にいたるまで、外国政府および工作員が実際にその技術をわが国に対してどのように行使したかの詳細記述。
3.  わが政府あるいは民間企業がディープ・フェイク使用の早期発見または未然防止のために取りうる技術的対抗措置の説明。
4.  ディープ・フェイクの脅威に対処するために今後、米国各情報機関が取り組むべき、予算措置も含めた努力目標に触れた議会宛て勧告など7項目について言及した報告書を提出するよう求めた。
 さらに今年に入り上院でも、マルコ・ルビオ議員(共和)ら情報特別委員会有力メンバーらも、この問題についてあいついで警告を発してきた。
 ルビオ議員は先月、米議会のネット・メディア「The Hill」とのインタビューで「わが国の敵対国(複数)はすでにアメリカ国内に対立要因となるような材料をばらまくためにフェイク画像を使用し始めている。
 選挙日に投票箱が盗まれようとしているシーンや、政治指導者が対立候補を卑猥な言葉で非難中傷する贋作ビデオが歯止めもなく流出するようなことになった場合のことを想定してみる必要がある」と語り、また同委員会副委員長のマーク・ワーナー議員(民主)も「ディープ・フェイク技術がすでに世の中に出回り始めた以上、今からその危険性を警告しても遅すぎるくらいだ。われわれはもはや防戦に回るしかない」と危機感を募らせた。
 そして、本物と贋作の区別を明確化するための「IDコード」表示義務付けなどを織り込んだディープ・フェイク法案を近く上程する意向を示した。
 ただ、その一方でディープ・フェイク技術は猛スピードで進歩を遂げており、ビデオのひとつひとつについて真贋の識別をすることはますます困難になりつつあるという。
 特に今日、インターネット文化は世界中に拡散の一途をたどっており、たとえば、YouTubeには毎分400時間分の各種ビデオがアップされ、Twitter上では毎分35万回のツイートが掲載されているだけに、アメリカ1国だけでその全容を監視したり、規制したりすることは事実上、不可能に近い状態だ。

フェイク・コンテンツの急速な拡散の背景

 この点に関連して、専門家の一人、ダートマス・カレッジ・コンピューター・サイエンス学部のハニー・ファリド教授は、「The Hill」とのインタビューで次のように総括している。
 「フェイク・コンテンツの急速な拡散の背景には、それを可能とする多くの力が一気に集約され嵐を引き起こしたという側面がある。すなわち、われわれはすでに、偽情報を作り出す能力を手に入れ、それを容易に広範囲に拡散させ、その上に、ばらまかれた情報をためらいもなく鵜呑みにしてしまう公衆がもろ手を広げて待っている状況があるということだ。この世界的風潮にいかに歯止めをかけるかについては、政府や民間企業だけの責任ではなく、市民一人一人がオンライン情報を何であれ受け入れる愚かさ、騙されやすさから目覚める必要がある。すなわち、われわれ全員がディープ・フェイク現象の一部分を構成しているということだ」
 欧米では古くから、「Seeing is Believing(見ることは信じること=百聞は一見にしかず)」が格言のように伝えられてきた。その語源はラテン語「Videre est Credere」に由来する。そして、今日のビデオVideoはまさにこの「Videre」から派生したものだ。
 しかし、今後Videoが最新のAI技術の登場により、本物とは識別がつけにくいフェイクのまま世の中に出回ることになるとすれば……Seeing is Believing」という言い伝え自体が、死語となる日もそう遠くないかもしれない。
 こうした状況を踏まえ、米議会とくに民主党議員の間では早くも、来年11月の米大統領選への警戒感が強まりつつある。2016年米大統領選挙では、ロシア情報機関の巧妙な介入により、投票日直前になって民主党のヒラリー・クリントン候補にとって不利なメールやがSNSなどを通じ全米に流布され、それが結果的にトランプ氏当選につながったとされる。しかし、2020年選挙では、ロシアが最新のディープ・フェイク技術を駆使して再び介入してくることは必至とみられているからだ。
 この点について、マーク・ワーナー議員は昨年12月初め、テキサス州オースチンで開催された安全保障問題特別セミナーで「ロシアは2020年米大統領選挙に向けて、従来の欺瞞情報活動と新たに登場してきたディープ・フェイク・ビデオを組み合わせた対米工作に乗り出すとみられる。場合によっては、投票日が近づくにつれて精巧につくられた偽ビデオをSNSを通じて次々に流し、選挙を混乱状態に追い込む可能性も否定できない」と警告している。
 そしてやがて、こうしたディープ・フェイクの脅威が、日本など各国の政界や財界にも拡大しない保証はどこにもない。
ディープフェイク動画



【情報活用・ビッグデータTwitter編】
Twitterが収集したビッグデータ活用法

ゴン川野 (フリーランスライター)
 青山学院大学シンギュラリティ研究所設立記念講演会の後期2回目に登壇するのTwitter Japan代表取締役 笹本裕氏である。1988年にリクルートに入社、MTVジャパン、マイクロソフトなどを経て2014年にTwitter Japan社長に就任した笹本氏がTwitterの生い立ち、現在と未来、そのデータがどのように活用されているかについて語った。

個人情報を収集しないTwitter

 Twitter Japanの笹本です。まず、お話ししておきたいのはTwitterと他のSNSとの違いについてです。Twitterは匿名性が保たれユーザーの個人情報を収集していません。これが最大の特徴と言えます。ジャック・ドーシーを初めとした創業メンバーが表現の自由を担保しようという理念から生まれたことです。アメリカが世界中の通信データを傍受していることを暴露した元CIAのエドワード・スノーデン氏が、最もプライバシーが守られるSNSTwitterであると度々、公言しています。
 唐突ですが、この地図が何を示しているのか、皆さんお分かりになりますか? 東京近郊の鉄道路線図のようにも見えますね。実はこれ白地図にTwitterの発信をプロットしたものなんです。朝の時間帯で、まさに中央線や山手線などの線路に沿って盛んにツイートされていることが分かります。これは日本独自の現象で、例えばロサンゼルスでは住宅街のマッピングになります。世界地図にマッピングすると大事件が発生した時は、そこが赤くなることが分かります。日本では年末年始に年賀のメッセージが大量にツイートされるため、アメリカのメンバーは休日返上で日本のサーバーが落ちないようにメンテしています。それほど日本では盛んにTwitterが使われています。

ダンパー数とTwitter
 皆さんは、ダンバー数をご存じでしょうか? 私は個人的に興味があるのですが、ダンバー数とは英国の文化人類学者ロビン・ダンバー教授が定義した数字です。簡単に言えば深く付き合えるのは150人が限界で、それを超えると不快に感じるという学説です。FacebookTwitterでフォロアー数が150人を超えている方は沢山いると思いますが、150人を超えた辺りから関係値がすごく薄くなっていくことが分かっているそうです。
 例えば中小企業で従業員が150人を超えてくると、その会社は中間層をしっかり育成しないと、それ以上の成長が望めないとか、戦隊を組むのも150規模が限界だと言われているとか、アメリカの企業では収容人数150人までのビルしか作らないなど、さまざまな所でダンバー数が使われています。我々もどうダンバー数を使えばTwitterが快適に活用できるかを日々、考えています。

Twitterの生い立ちと存在意義

 ここからはTwitterが扱う言葉について考えていきたいと思います。まず、Twitterの歴史について簡単に触れたいと思います。ジャック・ドーシー、エヴァン・ウィリアムズ、ビズ・ストーンの3人が作ったのがTwitterです。
 13年前に生まれたのTwitterですが、なぜ140文字という制限があったのでしょうか。これは当時、スマートフォンがなくガラケーの時代だったので、ツイートできる文字数が140文字だったからなのです。この制約を日本語に当てはめるとなかなか具合のいい長さという評価を得ましたが、英語だと140文字では足りないということになり、2017年に140文字は撤廃されました。しかし、日本とアジア圏では猛反対があり、制約を外すことにはなりませんでした。その代わり、ツイートをどんどんつなげていけるようにしています。そのぐらい、手軽にツイートできることを心掛けています。また昨今では簡単に動画が発信できるようにもなりました。
 これはTwitterの原型をノートに描いたものです。真ん中にサーチボックスがあるシンプルなものです。ツイートではなく今のステータスを発信するためのUIですね。これが世界中で3億人、日本では4500万の月間アクティブユーザーがおりますが、人口比率で言えば世界で最も使われている国が日本なんです。
 そもそもTwitterの存在意義とは何なのでしょうか? 今、起きている現象を最も早く定義できるのがTwitterなんです。これが定義できるようになったのが3年前なんです。英語だと「What's Happening」です。アップルのジャンル分けの中でTwitterはニュースに定義付けられています。SNSではないんですね。例えば最近の出来事ではワールドカップですね、あらゆる人たちがさまざまな意見をつぶやいています。ある意味、Twitter上が世界最大のサッカースタジアムになったのではないかと思っています。実際には1150億のインプレッションがありました。皆さんの興味をひくイベントがあるとTwitterも盛り上がります。2019年のラグビーワールドカップ、天皇の退位、2020年の東京オリンピックなどに備えて、我々も準備を進めているところです。

私ではなく出来事を発信する

 ワールドカップで言えば、86.3%の人々がTwitterで会話していました。InstagramFacebookYouTubeでなくTwitterが圧倒的に多かったのです。その理由を考えてみるとFacebookは友達同士のつながりなので、知らない者同士がサッカーの話題で、つながるにはTwitterしかないんですね。Twitterは若いユーザーが多いと思われていますが、ここ12年で30代以上の方が増えて来て、平均すると30歳以上になると言われています。Instagramとの違いは、インスタは「私を見て」に対して、Twitterは「出来事を見て」と言われています。また、発信だけでなく、情報収集にもよく使われています。例えば通勤通学の電車の遅れをリアルタイムに知るですとか、街中で行列を見付けたら検索してみるとか。リアルタイムの情報を知る手段としても広く認知されています。
 Twitterは匿名性が保たれ、飾らない本音が発信されるため情報としての精度が高く、検索性に優れています。実際にニールセンの調べでは、日本の10代の人たちの検索方法の1位がYahoo!で、2位がTwitterという結果が出ました。GoogleYahoo!の検索エンジンは複数のサイトをクロールして検索するので、どうしても時間が掛かります。これに対してTwitterは発信された情報のみを検索すため素早く結果が表示されます。さらにリアルタイムの情報なので、今起きていること最も早く知ることができます。

ストックとフローから分析した過去・現在・未来

 情報は大きく、StockFlowに分かれると思います。皆さんも体感しているように新聞と書籍はストック型の情報だと言えます。それから、ラジオが生まれ、テレビが生まれてリアルタイムで分かる動画型のコンテンツなどのフロー型が生まれました。さらにWebサイトが登場して検索エンジンが利用されるようになりました。これはフロー型に見えますが、検索の過程を見ると比較的ストック型だと思われます。それがTwitterになるとストックとフローの両方の要素が含まれています。リアルタイムのツイートはフロー型ですが、13年間蓄積されたつぶやきはストック型の情報と言えます。
 それではこの情報がビジネスにどう利用されているのか、複数の事例から見ていきたいと思います。まず、一番多いのは広告への利用ですね、それからマーケティング、ファイナンス、テロのリスクマネージメントにも使われています。実際にCNN2011125日の反政府デモから始まったアラブの春を事前に察知できたのも、Twitterのヒートマップを利用した結果なのです。当時、アラブにはCNNの特派員がいなかったのですが、ヒートマップの世界地図を見ているとエジプトが赤くなっていることで大量の書き込みがあることが分かり、現地に問い合わせた結果、デモが起き始めているという情報を得て、急遽、特派員を現地に送り込んだのです。このヒートマップは日本ではNHKで使われています。
 ヒートマップはデータマイナーという会社が提供するサービスで、Twitter自身が情報を解析することは少なく、専門性のある企業とエコシステムパートナーになってもらうケースが多いです。日本ではNTTデータと提携しています。

経済産業省も注目するTwitterのデータ

 Twitterのデータは経済産業省も注目しています。ツイートが経済指標の算出を可能しているのと考えているそうです。野村證券はAIを使ってツイートを分析して株価の上昇と下降の相関関係を調査しています。こうした試みは2017年以降にマネックス証券、SBI証券、カブドットコム証券、大和証券、岡三オンライン証券がおこなっています。例えば口座開設者に対して、話題の銘柄ランキングや株価上昇が見込める銘柄などを公開しています。
 また観光スポットの解析にも利用されています。Twitterの書き込みから、北海道の地元の人も知らなかった和菓子の店が海外からの観光客に人気のスポットになっていることが分かるなどしています。また、「食事好き」という話題に絞ったクラスター分析にも使われ、その地域にあるグルメな観光スポットの改善点を探すためにも地方自治体によって活用されています。これは九州の事例だったと思いますが、データをクラスター化して、話題の量が多いか少ないか。ターゲットとした言葉の含まれる割合が小さいか大きいかによって、そのスポットの特性を解析して、今後、どうすべきかを検討しています。
 マーケティングではどう活用されているかと言えば、例えばクリスマス。これはTwitterで年間最も盛り上がるイベントになっています。ツイートがスタートするのは9月から10月です。ツイートの数はまだ45万と少ないですが、楽しいイベントとして取り上げられています。これが11月になると焦ってくる人が増えてきます。イルミネーションを一人で見ると寂しいとか、12月になると期待が膨らんできます。直前になると勝ち組と負け組に分かれて喜びと悲しみにわかれてきます。このデータから分かることは、クリスマス商戦は9月からスタートしているということ、また、間違ってもクリスマス直前にみんなで楽しみましょうという提案はやめましょうとか、そんな提案ができるわけです。


Twitterから見たシンギュラリティ

 最後に、シンギュラリティということで、Twitterで発信されたシンギュラリティに関連付けされたキーワードをワードクラウドからご覧いただきます。財団、日本、未来、機械、AI、知能、社会などが最も関連性が高いことが分かります。ところが中には、騙す、備える、読むなど感情的な言葉も散見されます。まあ、一つの言葉だけでは判断できませんが、AIとかそういった言葉を考えるときに、同時に人々の感情も考える必要があるんだなと感じました。
 Twitterは現在、アイスボンド社と協同で、筋肉が動かなくなる病気を発症した方のために眼の動きだけでツイートできる機能をテストしました。言葉だけななく、今後は映像だとか音だとか、様々な手法での発信ができるようにしていきたいと考えいます。皆さんも何か興味があることや、仕事や研究などをおこなうときに、ぜひTwitterのことを思い出して活用していただきたいと思います。
ツイッターの使い方

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