米国は台湾に潜水艦技術を供与すべし
岡崎研究所
2017年5月16日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9602
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「台湾は潜水艦を必要とする」との社説を2017年4月11日付で掲載し、台湾防衛のために米は潜水艦技術を台湾に供与すべきであると論じています。社説の論旨は次の通りです。
(iStock)
台湾が自前のディーゼル潜水艦を作るとの発表は、防衛産業において懐疑論を呼び起こした。台湾の造船所は圧力に耐える船体を作った経験がなく、台湾防衛産業は近代的潜水艦のハイテクの内部構造(火器統制や推進システムなど)を作るのに苦労するだろう。
台湾が大陸からの侵略を抑止するために潜水艦を必要とすることは間違いない。最良の選択肢はすでに生産ラインを有している国から買うことであるが、中国が売らないよう圧力をかけている。
2001年、ブッシュ政権は台湾のために通常潜水艦を開発・建設すると約束した。しかし、米海軍がこれに反対した。米海軍は原子力潜水艦しか配備していないが、もし米国の会社がディーゼル潜水艦を作ると、米海軍がそれも買うように議会に働きかけをしかねないと恐れた。台湾内でも潜水艦に金をかけすぎとの反対があった。2008年、米国はこの考えを取り下げた。
その後、台湾の防衛状況はもっと悪くなっている。2009年、RAND研究所は大陸からの攻撃があれば、台湾は2-3日で領空の制空権を失うと結論した。
中国は威嚇をレベル・アップしている。蔡英文総統選出後、北京は経済関係を低下させ、統一に向けた話し合いを無期限に拒否するならば、武力を行使するとしている。中国の空母は12月、1月に台湾周辺を回航した。これらの動きは台湾の政治家を刺激した。台湾政府は2018年防衛費を50%増やすと発表した。台湾の防衛予算は、米国が何年も言ってきたGDPの3%になる。
トランプ政権はどんな武器を台湾に売るか決めなければならない。オバマ政権は、台湾への10億ドルの売却をキャンセルしたが、その分を復活させるだけでは足りない。2016年の共和党綱領は、台湾へのディーゼル潜水艦技術の売却を謳っている。台湾で潜水艦を作れば米海軍の反対はなくなる。日本などもこのプロジェクトに貢献するように説得され得る。
台湾は新しい戦闘機など他の武器も必要とする。しかし潜水艦は特に重要である。PLA(人民解放軍)が米国に対し展開している接近拒否戦略を、台湾が中国に対し行いうることになる。
米国が潜水艦技術を台湾に売ることは象徴的意味もある。政治的には、米国の台湾支持強化は、中国に台湾人を威嚇し降参させる戦略を再考させる。これは地域の安定化に役立ち、台湾紛争の危険を減少させる。中国は報復しようが、戦略的利益はコストを上回るだろう。
米国が潜水艦技術を台湾に売ることは象徴的意味もある。政治的には、米国の台湾支持強化は、中国に台湾人を威嚇し降参させる戦略を再考させる。これは地域の安定化に役立ち、台湾紛争の危険を減少させる。中国は報復しようが、戦略的利益はコストを上回るだろう。
出典:‘Taiwan Needs Submarines’(Wall Street Journal, April 11, 2017)
https://www.wsj.com/articles/taiwan-needs-submarines-1491954190
https://www.wsj.com/articles/taiwan-needs-submarines-1491954190
この社説の趣旨に賛成します。台湾に中国が侵攻を企てる際に、台湾が潜水艦を保有していることは大きな抑止力になります。中国が台湾の潜水艦増強を阻止する努力をしていることがそのことを証明しています。
台湾が日米に友好的な事実上の独立国として存続することの北東アジア情勢に与える影響は大きいものがあります。中国の接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略は、台湾が現状を維持する限り、大きな穴が開いた形になります。台湾の現状維持は、南シナ海での人工島構築や軍事施設建設よりも、大きな意味を持ちます。
米国の会社が台湾用にディーゼル潜水艦を作る
米国の会社が台湾用にディーゼル潜水艦を作るようになると、米議会に働きかけ米海軍にも買わせようとするのではないかと恐れ、米海軍は、米国の会社がディーゼル潜水艦を作ることに反対したといいますが、大きな戦略問題と米海軍の調達問題という小さな問題を混同した誤った判断です。
ただ、次善の策として、台湾での建造、建造技術の台湾への提供を考えるのは良いことです。日本にもディーゼル潜水艦建造の高い技術があります。米国が台湾に技術を供与する際に、必要に応じて、かつ日本の法制を考慮しつつ、協力する余地があるように思われます。困難な問題ですが、検討してみるとよいでしょう。
中国側は台湾が潜水艦を持つことに大反対し騒ぎ立てるでしょうが、こういう問題について中国側の意見を取り入れても、中国側が対台湾武力行使への準備を緩めたり、両岸間での意味ある軍備管理の話し合いをする用意を示すことは考え難いです。中国の出方を心配して自己規制するのが最もまずいと思われます。
台湾が日本の中古潜水艦購入を検討!?
こちらの方が、本来は現実的なんだろうと思います。ただ日本政府としては、潜水艦を台湾海軍に売却して、技術支援をしていくことは「戦略上」必須であり、国益上も重要なことなんでしょうが、国際的に共産中国を刺激したくない、という心理も働き、安倍内閣でなくても軍事面で台湾を支援することはまずないでしょう。共産中国と絶縁し、台湾と国交を結ぶ、つまり中国大陸の正当な政府は「台湾政府」だとすれば話は別ですがね。田中角栄政権の対中政策を白紙にする勇気は、自公連立政権にはないでしょう。
中国有利に転じる台湾海峡の軍事バランス
岡崎研究所
2013年12月18日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3424
中台の軍事バランスが中国に傾く中、台湾は国防費を十分に増やさず、米国は台湾支援に消極的であり、危険な誤算に繋がりかねない、と2013年11月6日付ウォール・ストリート・ジャーナル社説が警告しています。
すなわち、台湾の国防部は2013年10月に、2020年までに中国が米国の干渉をはねのけて台湾を侵攻できる能力を持つであろう、との公式見解を発表した。
中国は、20年にわたって軍事予算を毎年10%以上増加させ、今や、数分のうちに台湾の目標に照準を合わせることのできる弾道ミサイルを2,000基近く保有している。人民解放軍は、迅速に台湾の制空権を握ることが出来るであろう。中国は、対艦弾道ミサイル、衛星攻撃兵器、先進的なジェット戦闘機、攻撃型潜水艦を含む、米軍の接近を拒否する兵器も増やしている。ペンタゴンは、5月に、中国軍の近代化は、これまでの台湾の優位を帳消しにしたと結論付けている。
こうした危険な状態は、中国の強さだけでなく、台湾の弱さの反映でもある。馬英九は2008年に総統に選出された時には、GDPの3%を国防費に充てると約束したが、2010年以来、GDP比2%強、政府の総支出の16%しか国防費に充てていない。1990年代半ばには、それぞれの数字は、3.5%、24%であった。
台湾軍は、志願兵制度への移行によって圧迫されている。現役兵士は270,000人から215,000人に減り、人員獲得費用は上昇している。今夏の若い兵士のいじめによる死亡は、軍の内部規律と外部からの評判を傷つけている。
馬政権は、2009年の台風8号(Morakot) からの復興などの要因で国防費が減っている、と言っているが、台北は、馬が2016年に退任するまでに事態を好転させるビジョンを示していない。「台湾の軍事能力に関しては、台北には不可解な安心感がある」とJohn Cornyn米上院議員は指摘している。
米国のアジア回帰は、同盟国と友邦に国防への投資を増やすよう求めるものだが、台湾については沈黙している。米国は、F-35はもとより、F-16 C/D の台湾への売却を拒否してきた。これにより、台湾は、2019年に退役予定の旧式のF-5飛行隊の置き換えが出来ずにいる。米政府は、昨年、台湾が1992年に購入した145機の F-16
A/Bを更新することに同意したが、それは、飛行機を若返らせるわけでも、機数を増やすわけでもない。
米台商業協会のRupert
Hammond-Chambers は、米当局者は台湾に新しい武器を売却することを嫌がり、ここ2年、台北が武器をリクエストする前に特別の許可を求めるよう要請している、と報告している。同氏によれば、武器売却の無い状態はこれまでで最長となっており、F-16 A/Bの更新から約2年経ったが、新しい計画は進行していない。
国防部は、より多くの支援を得るために、中国の脅威を誇張しているかもしれないが、ワシントンが「戦略的曖昧さ」を維持しているので、台湾海峡での紛争に関与すると思われる米軍の能力に賭ける以外に、選択肢はない。台北とワシントンは、国防部の警告を真剣に受け止めるべきである。台湾海峡のようなフラッシュポイントでは、弱いと認識されることは、危険な誤算に繋がりかねない、と論じています。
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台湾海峡の軍事バランスが中国有利に転じていることは、ここ十年来指摘されていますが、台湾の国防部が、2020年までに、米国の干渉があっても、中国がそれをはねのける力を持つであろうと公に言明したことは、確かに注目する必要があります。
台湾の国内政治は、2016年前半の総統選挙にはまだ2年余りありますが、国民党政権の対大陸政策の限界も大体見えてきて、台湾と大陸の関係には既に流動的な兆しが見えます。もしこの国防部の正式な判断表明が、大陸との友好一辺倒の国民党政府の姿勢に対する隠微な警告または抵抗であるとすれば、それも情勢が変化しつつある一つの予兆であるかもしれません。
米国の側については、オバマ政権成立以来の台湾政策は、F-16/CDの台湾売却を拒否して、F-16/ABの改造を許可しただけだと言えますが、それももう3年前の話です。オバマ政権の間に、新たな台湾安全保障強化の課題が生じた場合、オバマ政権はそれを無視できるでしょうか。
いずれにしても、長く閑却されていた台湾の安全保障の問題はここ1、2年のうちに再浮上してくる可能性があります。
人民解放軍による台湾侵攻作戦が現実味!?米中戦力逆転分析(ランド研究所)
国共内戦時代ならともかく今更台湾へ軍事侵攻しようなどということを本気で実行しようという中共幹部がいるのかと疑問を感じます。中台関係は経済面で蜜月関係、できれば「戦わずに手に入れたい」が本音ではないでしょうか?
制空権は既に共産中国にあります。制海権は、「空母打撃群」を人民解放軍が準備できるかどうか?かな。大陸優位の状態で台湾を飲み込むか、アメリカのJAM-GC戦略構想の成功により、共産中国を抑止しながら台湾の独立を保つか?むろん我が国にとっては、後者の方がメリットは大きいかと思いますから、南西諸島防衛のために台湾へ潜水艦を売るというより、レンタルしてみてはどうでしょうか?
【関連リンク】
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