2017年5月7日日曜日

アメリカは北朝鮮を攻撃するのか? ~共産中国の存在、弾道ミサイルシステムを破壊するサイバー攻撃~

トランプの北朝鮮威嚇で中国が高笑いの理由

北朝鮮をどんな形でもコントロールできる中国
米フロリダ州ウエストパームビーチのリゾート施設「マーアーラゴ」の夕食会で握手するドナルド・トランプ米大統領と習近平・中国国家主席(201746日撮影)。(c)AFP/JIM WATSONAFPBB News

日本のメディアは、トランプ政権による北朝鮮攻撃がまるで4X日に敢行されるかのごとき無責任な報道を繰り広げ、日本国民の関心というよりは不安をあおってきた。そうした報道はもっぱらカール・ビンソン空母打撃群の動きや北朝鮮の弾道ミサイルの発射といった微視的視点に集中している。しかし、北朝鮮に対するアメリカの軍事的威嚇が強まると、実は中国が最も「得をする」という戦略的視点を忘れてはならない。
アメリカが中国に頼らねばならない事情
トランプ政権はこれまでの歴代大統領とは異なり、北朝鮮に対して軍事オプションも視野に入れた強硬姿勢で対処する方針に転じた。北朝鮮の核開発ならびにミサイル開発が、いよいよアメリカ本土(ハワイ州とアラスカ州を除いた48州)を射程圏に納めるICBM(核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル)を開発しつつある段階に達してしまったためである。
 とはいうものの、アメリカが実際に北朝鮮への軍事攻撃を実施した場合、ほぼ間違いなく韓国に対する激烈な報復攻撃が行われ、日本に対して弾道ミサイルが多数撃ち込まれる可能性も否定できない。そのため、トランプ政権は軍事オプションは本気であるとの姿勢を示しつつも、実際には軍事攻撃を避けつつ事態の沈静化を模索しているのが現状だ。すなわち、中国の影響力によって北朝鮮のICBM開発をなんとか抑制しようというわけだ。
 いくらアメリカ第一主義を標榜するトランプ大統領といえども、同盟国である韓国と日本の市民を多数犠牲にしてまで、北朝鮮のICBM開発を(あるいは金正恩政権を)軍事攻撃によって葬り去ってしまうという決断はそう簡単にはできない。そこで、とりあえずは中国を抱き込む方策をとっているわけである。
 ただし、そのために払わなければならない代償も大きいものがある。それは、第一列島線内部、すなわち南シナ海と東シナ海での中国による軍事的優勢の構築を加速させてしまうという代償だ。
“お流れ”になった南シナ海問題
20173月下旬にフロリダで米中首脳会談が開かれる直前、すでにトランプ政権は北朝鮮問題に対して強硬姿勢をとる旨を明言していたが、アメリカ海軍関係戦略家たちの多くは、首脳会談で取り上げられる安全保障問題としては北朝鮮問題に加えて南シナ海(それにごく一部の人々は東シナ海も)も中心的論点になるものと考えていた。
 なぜならば、南沙諸島での人工島建設をはじめとする南シナ海への中国による軍事的侵出は、アメリカにとっては容認しがたいレベルに達しているからである。そのため多くの米軍関係者たちは、南シナ海や東シナ海での中国の軍事的侵出活動について、トランプ大統領が習主席に強く抑制を求めることを期待していた。
 ところが、習主席訪米中に、トランプ政権はシリアに対するトマホーク巡航ミサイル攻撃を敢行し、その余勢を駆って北朝鮮に対する軍事的威嚇態勢を強めつつ、中国に北朝鮮に対する影響力の行使を迫ることになった。
 アメリカが中国に対して「北朝鮮問題で協力をお願いする」わけであるから、いくらトランプ大統領といいえども、習主席に対して南シナ海問題での対中強硬姿勢を表明することができなかったのは当然である。
 結局、フロリダでの米中首脳会談以降、トランプ政権は北朝鮮に対する軍事攻撃を発動する展開を維持し続けているが、アメリカが対北朝鮮強硬姿勢を強めれば強めるほど、中国による南シナ海への侵出政策に対する強硬姿勢は弱めざるを得なくなってしまったのだ。
笑いが止まらない中国
そもそも、中国にとって北朝鮮問題はアメリカよりも圧倒的に有利な立場にある。それにもかかかわらずトランプ大統領が習主席に北朝鮮問題での協力を依頼したのだから、笑いが止まらない状況になっている。
 もし、トランプ大統領がしびれを切らして北朝鮮に対する軍事攻撃を実施し、金正恩政権が崩壊に瀕する状況に立ち至ったとしよう。たしかに、これによってアメリカ本土に対するICBM攻撃という軍事的脅威は除去できる。しかし、北朝鮮の内部に食い込んでいないアメリカ軍が北朝鮮を占領することは不可能に近い。北朝鮮の混乱を収拾する名目で北朝鮮に進駐するのは中国人民解放軍ということになり、その結果、北朝鮮は実質的に中国の支配下に入り、韓国も風前の灯火となってしまう。
 一方、トランプ大統領が、中国による北朝鮮の制御を我慢強く待ち続けた場合、中国は表面的には北朝鮮に対して圧力をかけるそぶりを見せつつ、中国にとって軍事的脅威になる寸前のぎりぎりの段階までは北朝鮮による対米挑発行為を目こぼしをするだろう。そのほうがアメリカに対して中国の価値を高く売りつけられることになるからだ。
 万が一にも、中国が設定したレッドラインを金正恩が踏みにじった場合には、人民解放軍による北朝鮮懲罰作戦が直ちに発動され、金正恩政権は抹殺されてしまうであろう。
 人民解放軍はアメリカとは比較にならないほど北朝鮮軍の内部事情を把握しているので、金正恩一派の排除は容易である。また、破れかぶれになった北朝鮮軍による報復攻撃で多数の中国市民が犠牲になることが予想されたとしても、民主主義国のアメリカ・日本・韓国とは違い、中国にとっては攻撃を躊躇する理由にはならない。
 要するに中国にとって、北朝鮮などはアメリカに頼まれるまでもなく、コントロールしようと思えばコントロールできるのである(以下は、中国と北朝鮮の関係を風刺した政治漫画である。筆者の周りの海軍関係戦略家たちの間で受けている)。
 ましてやトランプ政権が対北朝鮮軍事オプションを公言しているわけだから、中国が軍事力によって金正恩一派を沈黙させたとしてもアメリカから「侵略」呼ばわりされる恐れはない。このように、どう転んでも北朝鮮問題は「中国優勢、アメリカ劣勢」という状況にならざるをえないのだ。
中国と北朝鮮の関係を風刺した政治漫画(出所:Michael P. Ramirez

中国が得をするメカニズム
トランプ政権による北朝鮮に対する軍事的威嚇が強まれば強まるほど、南シナ海における中国の軍事的侵出に対するアメリカおよび国際社会の関心は薄れていく。したがって中国としては、「北朝鮮がアメリカに対して挑発を続けている」という構図ができるだけ続くことは極めて都合が良い。その間に南シナ海での中国の軍事的優勢はますます強固なものとなり、アメリカの関心が再び南シナ海に向いた頃には、完全に手遅れの状態になっているであろう。
 北朝鮮のICBMは、直接アメリカ本土が攻撃されるかもしれない脅威であるが、南シナ海でいくら中国が軍事的優勢を手にしても、直接アメリカが軍事的脅威を被ることにはならない。したがって、アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領にとって、ひとまず南シナ海情勢には目をつぶっても、直接的軍事脅威の芽を今のうちに摘んでしまうことが肝要である。
 このメカニズムを東シナ海に当てはめると、アメリカの北朝鮮に対する軍事的威嚇が強まれば強まるほど、東シナ海における中国の覇権主義的行動に対するアメリカの関心が薄れていく、ということになる。
 それにもかかわらず、日本はアメリカの対北朝鮮軍事展開を強力にサポートする態勢を強めている。ということは、いよいよ日本政府が、東シナ海での中国の軍事的圧力を跳ね返すための自主防衛努力を強力に推し進める覚悟を決めた、と理解することもできる。果たしてその通りなのだろうか?

中国軍が中朝国境に15万人移動・移動式のミサイル部隊も
朝鮮半島に影響力を残したい共産中国がアメリカと連動して軍を動かしてきた!?

《維新嵐》アメリカが、北朝鮮に対して軍事的干渉を強めれば強めるほど、共産中国の南シナ海での覇権主義が有利になる、ということ。北朝鮮へアメリカが軍事的行使を行うと、人民解放軍がアメリカ軍へ協力して北朝鮮へ派兵することになり、共産中国の朝鮮半島への影響力拡大につながる。東アジアが微妙な軍事バランスの上にあることがよく理解できます。

アメリカの立場、共産中国の政治的軍事的影響力の拡大ということを考え合わせると北朝鮮の弾道ミサイルが怖いからといって、おいそれと強硬な政策は我が国もとれませんな。アメリカが北朝鮮への対処には共産中国の協力が必要、だがその分南シナ海の中国利権に対していえなくなる。これはあからさまな干渉はできませんな。

アメリカの北朝鮮攻撃は、爆弾やミサイルばかりではありません。現代は「ステルス攻撃」の時代だということを忘れてはいけません。


米国に太平洋軍司令官の更迭を要求した中国

北朝鮮問題を利用して南シナ海でますます優位に
北村淳
横田空軍基地でスピーチするハリス米海軍大将(2016106日、出所:米海軍、U.S. Navy photo by Petty Officer 1st Class Jay M. Chu/Released

中国の習近平国家主席がトランプ大統領とフロリダで会談した時期に、中国外交当局がアメリカ太平洋軍司令官のハリー・ハリス海軍大将を更迭するようトランプ政権に要求していたことが明らかになった。
 もちろん、ホワイトハウスはこのような(常軌を逸した)要求ははねつけた。だが、アメリカ海軍関係者たちは「ついに中国が他国の海軍の人事にまで口出しし始めた」と驚きを隠せないでいる。
対中強硬派の頭目とみなされているハリス司令官
なぜ中国側はトランプ政権に対して「ハリス司令官を更迭しろ」というとんでもない要求をしたのか。きっかけが対北朝鮮政策に関する米国からの中国への要請であったことは明らかだ。つまり、トランプ大統領は、アメリカを核ミサイル攻撃する能力を手に入れつつある北朝鮮に対して、中国が“本気で”圧力をかけて抑制するよう習主席に要請した。中国はそのことに対する見返りの1つをアメリカに求めたということだ。
 中国国防当局は、前々からハリス大将こそが中国に対するハードライナー(hard liner:強硬路線支持者)の頭目であると快く思っていなかった。そしてトランプ政権がスタートするや、中国にとって大将はますます“目の上のたんこぶ”のような存在となっている。
 金正恩を軍事的に威嚇するためにカール・ビンソン空母打撃群を差し向けたり、巡航ミサイル原潜を派遣したりしている張本人はハリス大将である。また、韓国にTHHAD(弾道ミサイル防衛システム)を配備するのを強力に推進したのもハリス大将であり、中国にとっては、国際社会に目を向けてほしくない南シナ海での軍事的拡張政策に対して「公海航行自由維持のための作戦」(FONOP)を振りかざして騒ぎ立てようとしている元凶もまたハリス大将である──と中国は考えている。
もちろん、中国といえども、ハリス大将を罷免させることなど絶対不可能なことは百も承知である。だがトランプ大統領が中国側に対して北朝鮮問題で協力を求めたのを機に、中国にとって好ましからぬ人物を排除せよと迫ることで、トランプ政権が南シナ海での中国の活動を見過ごすように、そしてその第一歩として南シナ海でのFONOPを控えるように、暗に要求したと考えることができる。
オバマ政権が実施した“形だけの”FONOP
 ハリス司令官は、太平洋軍の海軍部隊である太平洋艦隊の司令官を経て、現職の太平洋軍司令官に就任した。太平洋艦隊司令官だった当時から、中国の覇権主義的海洋侵出政策、とりわけ南シナ海への海洋戦力の進出に強く警鐘を鳴らしていた。太平洋艦隊司令部参謀たちの多くや太平洋海兵隊司令部などは対中強硬派であり、ハリス大将の方針に同調していた。
 しかしながら、当時の太平洋軍司令官がオバマ大統領同様に中国に対して融和的な方針をとっていたため、ハリス大将の対中強硬方針は実現するに至らなかった。それどころか、一部の高級参謀は対中強硬論を公言し続けたために、実質的に退役に追い込まれてしまう始末であった。
 ハリス大将は、太平洋軍司令官に就任(太平洋軍司令官は、通常太平洋艦隊司令官が就くポスト)した後も、ますます露骨に南シナ海への軍事的拡張政策を推進していた中国に対して牽制を実施すべきと主張し続けた。しかし、オバマ政権が対中強攻策の実施をなかなか許さなかった。
 やがて2015年秋になり、中国が南沙諸島に7つもの人工島を誕生させ、そのうちの3つに3000メートル級滑走路が建設されている状況が明らかになると、ようやくオバマ大統領はハリス大将が主張し続けていた中国牽制策にゴーサインを出した。

あっという間に人工島化し航空施設や港湾施設が建設されているファイアリークロス礁

 ただし、実施が許可されたのは、海軍戦略家たちが目論んでいた姿とはかけ離れた、極めて形式的で“おとなしい”形のFONOPであった。
  FONOPとは、中国が実効支配している南沙諸島や西沙諸島の島嶼(人工島を含む)沿岸12海里内で軍艦を航行させることによって、中国による一方的な海域支配の主張を牽制する海軍作戦である。対中強硬派が目論んでいたFONOPは、それら島嶼の12海里内に軍艦を乗り入れて、艦載ヘリコプターを飛ばすといったような軍事的活動を行うことで中国側を牽制するものであり、少なくとも毎月(人によっては毎週)実施せねば効果は上がらないと考えられていた。
 しかしながらオバマ大統領によって許可されたFONOPは、それら島嶼の12海里内海域を可及的速やかに航行するというもので、平時においてあらゆる海軍艦艇が有する無害通航権の行使と何ら違うところがなかった(国際法によると、軍艦は他国の領海内といえども、沿岸国に脅威を与えないように可及的速やかに通航することが認められている)。
 それだけではない。オバマ大統領がしぶしぶゴーサインを出して第1回目の南シナ海FONOPが実施された201510月以降、オバマ大統領がホワイトハウスを去った20171月までの約16カ月間の間に実施された“控えめなFONOP”は、わずか4回であった。
再開されないFONOP
トランプ政権は大統領選挙期間中から「オバマ大統領がFONOPを含めて南シナ海に対して極めて消極的であり、中国を利していた」と強く批判していた。そして、ティラーソン国務長官やマティス国防長官も、南シナ海での中国の軍事的横暴は許さないと明言していた。
 そうした状況から、太平洋軍そして海軍関係者たちの多くは、いよいよハリス司令官を筆頭とする対中強硬派によって、南シナ海や東シナ海での中国の軍事的拡張主義を強く牽制する様々な作戦が開始されるものと期待していた。
 とりあえずは、より効果的なFONOPの開始である。これまでの4カ月に1回といった“遠慮しすぎのペース”ではなく、執拗に繰り返すパターンが開始されるものと考えられていた。
 実際に、トランプ政権がスタートして間もない2月から、太平洋軍や海軍が南シナ海でのFONOPの実施を要請し始めた。ところが、なぜかペンタゴン(国防総省)はホワイトハウスに要請するのを躊躇していた。ハリス司令官はじめ太平洋軍側はFONOPのみならず南シナ海問題に対する強力な関与を提言し続けていたが、ペンタゴンの態度は不可解なものであった。
 そうこうしている間に北朝鮮問題が生起する。結局、トランプ政権と中国当局によるディールの材料として南シナ海問題が用いられてしまい、これまでのところFONOPは再開されるに至っていない。
さらに低い東シナ海のプライオリティー
トランプ政権は、オバマ政権の弱腰外交姿勢との違いを強調するために、南シナ海での対中強硬姿勢をアピールしていた。しかし、北朝鮮がアメリカ本土を直接軍事攻撃可能な大陸間弾道ミサイルの完成が現実に近づきつつある状況が確認されると、一気に北朝鮮対策がトランプ政権の軍事プライオリティーの最上位に躍り出て、南シナ海問題は影を潜めてしまった。
 たしかに、南シナ海問題でアメリカが守りたい「公海での航行の自由原則」はアメリカの国是ではある。だが、南シナ海を中国が軍事的にコントロールすることで同盟国や友好国(フィリピン、インドネシア、日本、韓国、台湾、ベトナム)が不利益を被っても、アメリカに対する直接的な危害は生じない。単に理念的な問題だけなのだ。
 まして、尖閣諸島を巡る日中間の領域争いは、アメリカの国是である「公海での航行の自由原則」の維持とも関係なく、アメリカにとっては第三国間の領域紛争にすぎない。

 つまり、アメリカ自身が直接軍事攻撃を受ける可能性のある北朝鮮問題と比べるまでもなく、トランプ政権にとって、東シナ海問題は理念的な国是と関連する南シナ海問題よりもはるかにプライオリティーが低い問題である(口では何とでも言えるが)。日本政府はそのことを肝に銘じておかねばならない。

アメリカ海軍太平洋軍司令官ハリス大将就任

北朝鮮の行動、日米同盟・日米韓協力の重要性を裏付け=米太平洋軍司令官
Reuters
© REUTERS 北朝鮮の行動、日米同盟・日米韓協力の重要性を裏付け=米太平洋軍司令官
[東京16日ロイター]来日中のハリス米太平洋軍司令官は2017516日、北朝鮮の度重なるミサイル発射は、日米同盟および日米韓3カ国の協力が重要なことを裏付けているとの認識を示した。
ハリス司令官は「北朝鮮の行動は容認できない」と述べ「それは米日同盟だけでなく米日韓3カ国の協力の重要性を裏付ける」と述べた。

《維新嵐》北朝鮮に対しての日米韓の連携の重要性についてご指摘されるということは、この3国の結束が東アジアの「平和秩序」の安定に不可欠の要素であるということ。ひいては、対中戦略においてもベースになる連携といえます。ハリス氏の存在が共産中国の思うままを阻害している、と共産中国軍内部に認識する軍人も少なくないとは思います。

【米朝サイバー戦争】

北朝鮮のミサイル発射を失敗させた米国7つの手口

クローズ系のネットワークでもサイバー攻撃は難しくない
横山恭三
kyozou Yokoyama 元空将補、在ベルギー防衛駐在官、情報本部情報官、作戦情報隊司令現在、ディフェンス リサーチ センター研究委員、防衛基盤整備協会客員主任研究員、昭和2313日生まれ
2017.4.27(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49836
韓国ソウルの鉄道駅で、北朝鮮の故・金日成主席の生誕105年を記念したパレードの映像を眺める人(2017415日撮影)〔AFPBB News

 北朝鮮が2017416日朝、東部から弾道ミサイル1発を発射したところ、直後に爆発した。また、先の201745日に発射された弾道ミサイルは約60キロ飛翔し、北朝鮮の東岸沖に落下した。
 これらについては、失敗説から自ら意図して爆破させた説など様々な憶測がなされている。中でも、最近の北朝鮮の弾道ミサイルの発射の連続した失敗は米国のサイバー攻撃が原因であるとの注目すべき報道が行われた。
1カ月前の201734日付ニューヨークタイムズ紙は、3年前(2014年)、バラク・オバマ大統領は、国防総省当局者に対して、北朝鮮のミサイル・プログラムに対するサイバーおよび電子攻撃(cyber and electronic strikes)を強化するよう命令した」と報道している。
 米国による北朝鮮へのサイバー攻撃の可能性が初めて報道されたのは、201412月に北朝鮮のインターネットに接続障害が発生した時である。この時期は、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのサイバー攻撃をめぐり米朝が対立している最中であった。
 これまでに米国が北朝鮮のミサイルに対してサイバー攻撃を行ったかどうかの真偽は不明であるが、筆者はその可能性は大きいと見ている。
 かつて、米国はイスラエルと共同してイランの核燃料施設をサイバー攻撃した。その時使用されたのが有名な「スタックスネット」である。
支配力に貪欲な米国が敵対国家にサイバー攻撃を仕掛けないわけがない。今回のミサイル発射の失敗が米国のサイバー攻撃によるものかどうかは分からないが、米国が北朝鮮に対して何らかのサイバー攻撃を仕掛けていることは間違いない。
 本稿の目的は、サイバー空間における攻防が現実化している現状を紹介することである。
「クローズ系なら安全」は神話
具体的には、すでに明らかになっている多くのサイバー攻撃の事例や筆者の限られた知見から、北朝鮮の弾道ミサイル発射を妨害・阻止するために米国が行ったと推定されるサイバー攻撃方法を紹介することである。
 サイバー攻撃とは簡単に言えば標的とするコンピューターシステムにマルウエア(悪意のあるソフトウエアや悪質なコードの総称)を挿入することである。従って、今回は弾道ミサイルシステムを標的としているが、あらゆるコンピューターシステム(重要インフラ、兵器システム、指揮統制システムなど)が標的になり得るのである。
 一般に、軍隊のシステムあるいは民間の重要インフラの制御系システムは、インターネットなど外部のネットワークに接続していないクローズ系コンピューターネットワークである。
 クローズ系はインターネットに接続されていないので安全であると思われがちであるが、20109月にイランの核施設で発生した「スタックスネット事件」など多くのサイバー攻撃がクローズ系コンピューターネットワークに対して行われ、かつ壊滅的なダメージを与えている。
クローズ系コンピューターネットワークが安全であるというのは神話である。
 以下、クローズ系コンピューターネットワークに対するサイバー攻撃方法について事例のあるものについては事例を交えながら要約して述べる。
1ICTサプライチェーン攻撃
ICTサプライチェーン攻撃とは、ライフサイクルのいかなる時点かでコンピューティング・システムのハードウエア、ソフトウエアまたはサービスに不正工作することである。
1980年初頭、CIA(米中央情報局)は、ソ連のパイプラインのポンプとバルブの自動制御装置に論理爆弾を仕掛け、このパイプラインを爆破した、という事例がある。
 この事例は、米国の元サイバーセキュリティ担当大統領特別補佐官リチャード・クラーク氏の著書『世界サイバー戦争』の中で、世界で初めて論理爆弾が実際に使用された事例として紹介されていることから極めて信憑性が高いと見ている。
 同著書に紹介されている経緯は次のとおりである。
 「1980年代初頭、長大なパイプラインの運営に欠かせないポンプとバルブの自動制御技術を、ソ連は持っていなかった。彼らは米国の企業から技術を買おうとして拒絶されると、カナダの企業からの窃盗に照準を合わせた」
 「CIAは、カナダ当局と共謀し、カナダ企業のソフトウエアに不正コードを挿入した。KGBはこのソフトウエアを盗み、自国のパイプラインの運営に利用した」
 「当初、制御ソフトは正常に機能したものの、しばらくすると不具合が出始めた。そしてある日、パイプの一方の端でバルブが閉じられ、もう一方の端でポンプがフル稼働させられた結果、核爆発を除く史上最大の爆発が引き起こされた」
 今回、米国が北朝鮮の弾道ミサイルシステムにICTサプライチェーン攻撃を仕掛けた可能性は大きい。例えば、米国は北朝鮮のミサイル関連部品の購入先を特定し、北朝鮮向けの電子機器にマルウエアを挿入する、あるいは電子機器を偽物とすり替えることが可能である。
2)スパイによる攻撃
スパイによるサイバー攻撃には、標的であるコンピューターシステムに直接マルウエアを挿入する、標的の施設内の伝送路からマルウエアを挿入する、あるいは伝送路を切断するなどが考えられる。以下、事例を紹介する。
2008年、中東で起きたこの事件は機密扱いとなっていたが、20108月に当時のリン国防副長官が雑誌への寄稿で明らかにした。
 外国のスパイが米軍の1台のラップトップコンピューターにフラッシュドライブを差し込んだ。このフラッシュドライブの「悪意あるコード」が機密情報伝送ネットワーク(SIPRNET)および非機密情報伝送ネットワーク(NIPRNET)の国防総省システムに検知されないまま拡散し、大量のデータが外国政府の管理下にあるサーバーへ転送された。
 この事例のようなスパイが標的の組織のパソコンにマルウエアを挿入する事例は枚挙にいとまない。
 スタックスネット事件も核施設で働く従業員の家にスパイが忍び込みパソコンにマルウエアを挿入したと言われている。今回、標的の組織(ミサイル製造工場や保管施設など)に潜入したスパイによるサイバー攻撃の可能性は小さくない。
3)インサイダー攻撃の支援
インサイダーとは合法的なアクセス権を悪用する部内者である。本稿で想定しているインサイダーは金正恩体制に不満を持っている軍人、研究者である。
 インサイダーは、組織を攻撃したいと思っている部外者よりもかなり好都合な立場にある。例えば、建物へのアクセスシステムなどの物理的及び技術的対策を回避することができる。
 さらに、悪用できるネットワークやシステム上の欠点など組織の脆弱点を知っている。今回、米国が脱北者を通じて、金正恩体制に不満を持っている軍人または研究者にマルウエアを提供するなど支援した可能性は否定できない。
4)電磁波攻撃
コンピューターやネットワークの伝送路として使用される通信機器は、高出力電磁波(High Power ElectromagneticHPEM)を受けると瞬時に焼損・破壊される。
 車載電源を使用した装置でも十分な電力があれば、特定の地理的範囲内のすべての防護されていない通信機器などに対して損傷または中断をもたらすことができる。
 大規模なものとしては、核爆発による電磁パルス(EMP)攻撃がある。しかしながら今回、米国が、発信源の位置を暴露することになる電磁波攻撃を行った可能性は小さい。
5)レーザー攻撃
レーザー攻撃は、ミサイルなどの目標に対してレーザー(指向性のエネルギー)を直接照射し、目標を破壊あるいは機能を停止させるものである。
 米国は弾道ミサイル対処として航空機搭載レーザー(Airborne LaserABL)の開発を目指していた。ABLは、ブースト段階のミサイルを捕捉・追尾し、ミサイルをロックオンした後、航空機に設置された砲塔からレーザーを35秒間照射して、ミサイルを発射地域で破壊する。
迎撃実験も行われ、2010年には上昇段階の弾道ミサイルを捉え、破壊することに成功した。しかし、国防総省は2011年、予算上の問題から開発を中止した。ただし、技術開発そのものは継続されるとされた。
 近年、レーザー兵器の軽量化、小型化、耐久化が進んでいる。ミサイルに近距離からレーザーを照射できればミサイルを破壊することができる。このことを考慮すれば、今回、米国が無人機に搭載したレーザー兵器を使用した可能性は否定できない。
6GPSを通じた攻撃
北朝鮮の弾道ミサイルは慣性誘導方式を取っており、GPS衛星の電波信号は利用していないと言われるので、本項は該当しない可能性がある。参考として事例を紹介する。
2011124日、イラン空軍は、イラン東部の領空を侵犯した米国の「RQ170ステルス無人偵察機」をサイバーハイジャックし、着陸させることに成功した。この事例について米国は米国側の技術的問題が原因としている。
 しかし、イランの主張するようにGPSを通じた攻撃によりステルス無人機が乗っ取られた可能性はある。
GPSには軍事用と民生用の2つのサービスが提供されている。当然軍事用サービスでは暗号化されたコードが使用されているので乗っ取ることは難しい。そこでイランは、電波妨害装置で、RQ170が軍事信号から一般のGPS信号を受信するように仕向けた。
 そして民生用GPS信号を乗っ取ったイランは、本来RQ170が着陸するべき基地の座標を、イラン側に数十キロずらすことで自国内領土に着陸させたと言われている。
7)水飲み場攻撃
水飲み場攻撃は、水飲み場に集まる動物を狙う猛獣の攻撃になぞらえ、標的の組織のユーザーが普段アクセスするウエブサイト(水飲み場)にマルウエアを埋め込み、サイトを閲覧しただけでマルウエアに感染するような罠を仕掛ける攻撃方法である。
 北朝鮮にも唯一のインターネットサービスプロバイダが存在する。
 北朝鮮では、政治家かその家族、大学のエリート及び軍関係者など限られた者しかインターネットにアクセスすることができないという。核ミサイル施設で働いている軍人や研究者はインターネットにアクセスできるかもしれない。
 そのような軍人や研究者がインターネットにアクセスした時にマルウエアに感染したUSBをうっかりクローズ系に差し込んでしまうかもしれない。米国が、このわずかな好機を狙って、「水飲み場攻撃」を仕掛けた可能性は否定できない。
 上記のとおり、様々なサイバー攻撃方法が存在する。今回、米国が北朝鮮に対してサイバー攻撃を実施したとすれば、いずれかの攻撃方法を採用したと推定できる。
 最後に、ここで紹介したサイバー攻撃方法は、我が国に対しても何時でも、どこでも仕掛けられる可能性がある。既に攻撃されているのに、攻撃されていることに気づいていないだけかもしれない。
我が国は、受け身のサイバーセキュリティだけでなく、これからはサイバー空間の攻防を前提としたサイバー能力の整備に取り組むべきである。さもなければ、将来手痛い打撃を被るであろう。

サイバー攻撃の実態
侵入を前提とした標的型サイバー攻撃対策に必要なことは

《維新嵐》おそらく現代に孫子が生きていたら、こうしたサイバー空間を利用した攻撃を各国に提唱したかもしれませんね。年々巧妙化するサイバー攻撃、電子攻撃の最大のメリットは「誰がやったかわからない。」という点である。これならどれだけ被害が発生したとしても知らぬ存ぜぬでしらを切りとおせるというものであろう。国際政治や外交の問題にまで発展することを抑止することもできる。
直接的な、実弾を伴った軍事攻撃は、100%勝てるという確信がもてなければ、国際政治上攻撃をしかけた国が国益を損なわない、国際的な地位を損なわないという確信がなければまずおこされることはないのではないだろうか?
実弾を伴うリアルな戦争(旧世紀の戦争)を簡単におこすのは、発展途上国ばかりです。そしてたいてい第3国がそうした国に武器を売りつけて利益をあげるという「武器ビジネス」に利用されてしまいます。先進国、国連の安保常任理事国になっている国の戦争となるとあからさまにリアルな戦争をしかけると他国から足元をすくわれかけないから、ばれないように攻撃をするわけですね。アメリカは、サイバー攻撃に対しては「疑わしきは罰せよ。」状況になってますし、イランでさえ核処理施設をスタックスネットで攻撃された時に、攻撃国がアメリカと特定されたわけでないのに、アメリカの無人機の受信装置に細工して自国に誘導し奪うという報復をしました。
誰がやったか、という確信は必要ないようです。あるのは「疑わしき攻撃者はやっちまえ!」という新たな戦争のルールが確立されたことが、サイバー攻撃が軍事的攻撃として市民権を得たことになるのではないでしょうか?

 実は、我が国においても北朝鮮の弾道ミサイルを抑止するために、敵地攻撃論と絡めてサイバー攻撃を行うことが検討されています。


【我が国もサイバー戦の準備を検討】

自民党で始まったサイバー攻撃能力保有の議


開発、人材、法整備…日本がやるなら高いハードルも

 自民党の安全保障調査会(会長・今津寛衆院議員)がサイバーセキュリティー小委員会を新設し、自衛隊による敵基地攻撃の一環としてのサイバー攻撃能力の保有に向けた検討を進めている。核・ミサイル開発を繰り返す北朝鮮の基地などにサイバー攻撃を仕掛け、制御システムに障害を起こすことができれば、有効な防御手段となり得る。その一方で、サイバー攻撃を行うための法整備や技術開発を担う人材育成といった課題が山積しており、実現へのハードルは高い。
 サイバー攻撃は、日本に向けて弾道ミサイルが発射された場合、最初のミサイルを海上配備型迎撃ミサイル(SM3)や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で迎撃した後、2発目以降の発射を防ぐ手段として想定される。
 ミサイル基地や関連施設のネットワークにマルウエア(不正プログラム)を仕込み、制御システムを狂わせて相手の動きを封じた上で戦闘機やイージス艦から攻撃を行う。
 イージス艦からの攻撃は、基地に接近して攻撃する戦闘機とは違ってパイロットを危険にさらさない利点が、逆に戦闘機による攻撃は基地に接近する分、誤情報に基づく攻撃をギリギリで回避できる利点がそれぞれあるが、サイバー攻撃を組み合わせることで、イージス艦や戦闘機が攻撃されるリスクを下げることが可能になる。
 世界の主要な国々はすでにサイバー攻撃能力を保有し、国家が関与したサイバー攻撃は日常的に行われている。しかし、専守防衛を掲げる日本は他国に対するサイバー攻撃は「想定していない」(菅義偉官房長官)との立場だ。
 自民党が敵基地攻撃の議論と合わせてサイバー攻撃能力の保有について検討を始めたことは、緊迫化する北朝鮮情勢を鑑みれば至極当然なことだが、実現に向けた道のりは険しい。
 「日本がサイバー兵器を保有するためには、それを開発できる人材を育てなければならないが、現状をふまえれば10~15年はかかる」
 あるサイバーセキュリティーの専門家はそう指摘する。
 別の専門家は「これまで日本が受けてきたサイバー攻撃を基にすれば、兵器自体の開発はそれほど難しくはない」との見方を示す。ただ、「北朝鮮のミサイル関連施設はインターネットにつながっていない。サイバー兵器をつくっても、北朝鮮のシステムに感染させるには物理的な接点が必要になる」とも語り、サイバー攻撃を成功させる難しさを強調した。
 また、サイバー攻撃を実行する法整備の必要性を指摘する声もある。サイバー攻撃に関する国際ルールは確立されておらず、サイバー攻撃そのものはグレーゾーンとされる。しかし「これはしてもよい」というポジティブリスト(根拠規定)方式で自衛隊が活動している以上、法的根拠は欠かせない。
 ある政府関係者は「『テロ等準備罪』(を新設する組織犯罪処罰法改正案)ですら、『国民の監視だ』と野党は騒ぎ、法案がなかなか通らない状況だ。サイバー攻撃の根拠法となると、それ以上の反発が起きることは間違いない」と法整備の難しさも指摘した。
 「日本がどれだけの脅威に直面しているか。国民にその状況を認識してもらうことが最初の課題だ」サイバーセキュリティーの専門家はこう強調している。(政治部 大橋拓史)

《維新嵐》北朝鮮の弾道ミサイル発射基地は、固定サイロにしろ、車輌運搬方式にしろクローズ系のシステムということのようです。そこの制御システムにマルウェアを送るとなると、かなりのレベルの高度な知識と技量が必要になることは、イランの核処理施設に被害を与えたスタックスネットの事例を考えれば、短期間で可能なこととは思えません。
どうも自民党は、標的型攻撃を想定しているようですが、クローズ系システムへのセキュリティくらい北朝鮮も対策をたててある可能性があります。北朝鮮のサイバー戦部隊は、金正日の時に鶴の一声でできています。もうかなりの実績とノウハウも積んでいるはずです。やはり我が国がサイバー攻撃を弾道ミサイル防衛に本格的に実践していくには、防衛省管轄の「サイバー防衛隊」を活用すべきではないでしょうか?
というより、サイバー防衛隊を陸海空に続く第4の軍種にしていくことを検討していくことがまずは重要なことであろうと考えます。

【北朝鮮・世界屈指のサイバー戦大国】


北朝鮮がバングラの銀行にサイバー攻撃し外

貨獲得か?
読売新聞
【ワシントン=大木聖馬】米上院国土安全保障・政府問題委員会は2017510日、サイバー攻撃に関する公聴会を開き、出席した米大手情報セキュリティー会社「シマンテック」の幹部、ジェフ・グリーン氏は、北朝鮮がバングラデシュの銀行にサイバー攻撃を仕掛けて、8100万ドル(約92億円)を盗んだとの分析を明らかにした。
核ミサイル開発を続ける北朝鮮は、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁や米国などの独自制裁で経済的に困窮する中、外国の金融機関にサイバー攻撃し、外貨を獲得している可能性がある。

グリーン氏は北朝鮮のサイバー攻撃について、「金融面での不正行為は、これまで99%が(個人による)犯罪だった。国家が関わる主要銀行への攻撃は初めて見た」と指摘し、北朝鮮がバングラデシュ以外に対してもサイバー攻撃を仕掛けているとの認識を示した。

《維新の嵐》外貨獲得のためには、非合法な手段も迷わない「ならず者」国家の本性がみえますね。弾道ミサイル、核弾頭とそのノウハウ、化学兵器、そしてサイバー攻撃、おそらくこうした裏家業のほうが見入りがいいのでしょう。また国家戦略遂行上、必要な「外国人」が必要なら、特殊工作員を送り込んで「拉致」して連れてきて無理やり働かせる。

 こういう「失敗国家」から国民の知的財産を守るため、北朝鮮の国家の中核にダメージを与える「攻撃」を検討、遂行する段階にきているともいえるでしょう。

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