【北朝鮮が瀬戸際外交を越える時】戦慄のシミュレーション
dot 藤田直央
「瀬戸際外交」、「朝鮮半島紛争」、そして「自殺攻撃」──。
北朝鮮が日本をミサイル攻撃するシナリオとして、防衛省防衛研究所出身で、政策研究大学院大学教授の道下徳成氏(51)はこの三つを挙げる。
「瀬戸際外交」では、日米を譲歩させようと在日米軍基地がある日本のほうへ撃つ。被害に直結する領土でなく、領海に落としてミサイル能力を見せつける。「朝鮮半島紛争」では交戦する韓国を日米が支援しないよう威嚇する。「自殺攻撃」は金正恩政権の崩壊寸前で、自暴自棄になった場合だ。
北朝鮮は2017年3月6日に弾道ミサイル4発を発射し、3発が秋田沖の日本の排他的経済水域(領海外)に落下。発射はほぼ同時で、ミサイル防衛(MD)で迎撃する場合の難易度は増す。朝鮮労働党機関紙の労働新聞は、有事に在日米軍基地攻撃を担う部隊が参加したと報じた。
こうした動きに日米は譲歩どころか、「北朝鮮は米国を手玉に取ってきた」(2017年3月17日のトランプ大統領のツイート)と反発。トランプ政権は軍事中枢を先にたたく「予防攻撃」も視野に対北朝鮮政策を見直す。労働新聞は2017年3月19日付で米国に届く大陸間弾道弾(ICBM)開発のためとみられる地上燃焼実験を伝え、緊張が高まっている。
●韓国軍は「3倍返し」
瀬戸際外交が破綻(はたん)すれば、朝鮮半島紛争シナリオへと移る。米国が「予防攻撃」に踏み切れば、北朝鮮はソウルを長距離砲などで「火の海」にして報復。韓国軍は交戦規定による「3倍返し」でまた報復、とエスカレートする。
日米韓が結束すると勝ち目がない北朝鮮は、「日米が韓国を支援するなら日本を攻撃する」と恫喝。脅しの信憑性を高めようと、韓国の攻撃をかいくぐり、日本の都市をめがけてノドン数発を同時に放ちかねない。日本全土をほぼ射程に入れる中距離弾道ミサイルだ。マッハ15~20で複数の弾頭が同時に飛来する。MDは撃ち漏らすかもしれない。1発が着弾したら、どうなるか。
火薬が詰まった通常弾頭の場合に参考になるのが、第2次大戦中にドイツが英国へ放った弾道ミサイルV2による被害だ。積める火薬はノドンに近い1トンになる。
英BBCの報道によると、1300発以上で2724人が亡くなった。1944年9月にロンドンに落ちた1発は地面に直径10メートル、深さ2.5メートルの穴をうがち、3人死亡、22人けが、家6棟が壊れた。中小ビルなら崩れそうな威力だ。
最悪のケースは、追い込まれた北朝鮮が核弾頭を積んだノドンを日本の人口密集地へと放つ場合だ。自殺攻撃に近い。
道下氏も参考にする被害想定がある。韓米の研究者2人が『ウォー・シミュレイション 北朝鮮が暴発する日』(2003年、新潮社)で示したもので、「米ヘリテージ財団の協力を得て、米国防総省が使用する軍事シミュレイションのソフトウェアを活用」と説明がある。
2004年5月31日午前8時、12キロトン級の核兵器(広島型は15キロトン、長崎型は21キロトン)が地表爆発したら──。天気や風向きもふまえた予測はこうだ。
東京 爆心地・国会議事堂付近 死者42万3627人、全体被害者81万1244人
大阪 爆心地・梅田付近 死者48万2088人、全体被害者88万1819人
その時の表現は生々しい。
「2.5キロ以内に存在する人の90%以上はカメラのフラッシュのような閃光(せんこう)を見た瞬間に消える」「爆発で生き残っても、弾丸のように吹き込む大量のがれきで致命傷を負う」「永田町、霞が関、丸の内が壊滅すれば日本の中枢機能は一瞬で停止する」
実は広島市も核攻撃の被害想定を07年に出している。国民保護法で自治体に求められる国民保護計画の策定にあたり、「原爆投下による惨害を受けた都市の使命」としてまとめ、ウェブサイトで公開している。
想定は1945年当時と同じ爆心地で、8月の平日の昼間、晴れ。16キロトン級の核兵器が地上600メートルで爆発した場合、死者6万6千人、負傷者20万5千人、死傷率は46.4%にのぼる。
45年末までに14万人が亡くなったとされる当時よりも頑丈な建物が増え、倒壊による圧死は大きく減る。それでも「建物内に窓ガラスや備品が飛散し凶器と化す。高層ビルでは避難階段に生存者が殺到し将棋倒し」「道路は建物や自動車の残骸で埋め尽くされ、火の手が迫り人々は逃げ惑う」とみる。
自治体が国民保護計画を作る基準として政府が閣議決定した基本指針にも核攻撃の項目があるが、政府は、被害想定について、「攻撃類型、規模、環境などの前提で全く異なり、仮定を重ね想定するのは適当でない」(内閣官房)と示していない。
●その時避難できるか
北朝鮮の度重なるミサイル発射で、着弾に備える動きは始まっている。政府は2017年3月17日、日本海に面する秋田県男鹿市の漁村で、日本初のミサイル避難訓練を実施した。
ノドン発射から着弾までは7~10分。政府が発射情報をつかみ、弾道を予測し、住民に防災行政無線で伝えるまで数分。残り数分で遠くへの避難は無理だ。とにかく近くの建物へ逃げ込み、周辺に落ちた時の爆風や高熱にさらされないようにする。
訓練は一帯を通行止めにして住民110人が参加。校庭の小学生は校舎へ、掃除中の高齢者は公民館へ急ぐ。「男鹿半島西約20キロに落下」という訓練放送に、元漁師の加藤喜正さん(76)の表情が締まった。
防災意識の高い集落だが、発射から避難完了まで7分前後とぎりぎり。立ち会った内閣官房幹部は、「他の自治体に訓練を働きかけたいが、都市部ではより丁寧な周知が必要」と話した。
政府は2018年度までに累計約2兆円を投じて「盾」のMDを強化する方針だが、北朝鮮のミサイル能力向上といたちごっこ。そこで、ミサイル施設をたたく「矛」の敵基地攻撃能力を持つべきだとの声が強まる。自民党のMD検討チームは「直ちに検討を」との提言書をまとめ、2017年3月30日に座長の小野寺五典・元防衛相らが首相官邸で安倍晋三首相に手渡した。
安倍首相は、「北朝鮮のミサイルは新たな脅威の段階に入っている。提言をしっかり受け止めたい」と応じた。2017年3月24日の国会答弁でも「従来の発想にとらわれず検討すべき」と含みを持たせている。
外国の領土に届く「矛」の兵器保有を、日本は憲法9条や米軍との役割分担から控えてきた。軍事的にも疑問の声が上がる。ノドンを載せる移動式発射台は北朝鮮に約50台あり、その位置をつかむのは難しいからだ。また、日米韓の役割分担として、ミサイル施設への攻撃は北朝鮮により近い場所に基地を持つ米韓が当たるのが合理的だ。
●トランプ氏の腹一つ
だが、北朝鮮と戦う状況をさらに詰めて考えれば、攻撃を米韓にお任せだと、日本向けのノドンへの対処が後回しにされるおそれがある。政府内には、「有事に米韓との結束が揺らがないよう、日本の姿勢を示すシンボルとして敵基地攻撃能力が必要」との見方も出ている。
そんな議論にお構いなく、北朝鮮がICBM発射や6回目の核実験に踏み切るかもしれない。「力による平和」を掲げるトランプ政権の反応次第で東アジア情勢は一気に流動化する。
道下氏は対話が必要だと説く。
「追い込まれた北朝鮮には核・ミサイルしか外交手段がない。核兵器を持つなら対話をしないという建前論では解決しない。追い込むばかりではヤクザは更生できない。生計が立つ道筋をともに考えるべきだ」
日朝間では今世紀に入り、首相が2度平壌を訪れたが、対話は絶えて久しい。危機を避ける手立ては日本にあるのか。(朝日新聞専門記者・藤田直央)※AERA 2017年4月10日号
《維新嵐》弾道ミサイルと核弾頭に怯えて、対話で解決では話になりません。「対話」=「外交」による解決に出る前に、北朝鮮には十分「圧力」をかけておかなければなりません。その「圧力」の中身は、まず現在政府が継続中の「経済制裁」、それに加えて「外交的圧力」、「軍事的圧力」が不可欠でしょう。
そしてそれぞれの「圧力」を有効ならしめるのに、欠かせないのは国際協力になります。アメリカ、韓国はいうに及ばず、共産中国とロシアの協力は不可欠です。
我が国と韓国は、朝鮮戦争休戦以降、民間人をいわれもなく拉致され、本人たちの意思に関わりなく北朝鮮の国家戦略に使われた、という北朝鮮による「侵略」を共有している国です。実は、ロシア人や漢人、アメリカ人も拉致されているのですが、北朝鮮が極めて「侵略性」の高い国であること、自国の国家戦略のためには、他国を侵略することにためらいの全くない国であることを強く国際社会にアピールして、どの国にとっても脅威となる国である、という共有状況を作る必要があります。もう中途半端な戦いをして、国民を危険にさらすようなことはやめてもらいたい、と政府には強く求めたい。
政治的、外交的、軍事的、経済的に「必勝」の体制を固めるために、北朝鮮に有利な国際情勢を構築することが、何より政治に強く求めることです。
北朝鮮をめぐる“危険”
米は武力行使まで言及も「日本も無傷では済まない」
内部崩壊の可能性もあり
2017.3.28 05:30更新http://www.sankei.com/west/news/170328/wst1703280004-n1.html
ステルス戦闘機 F-22ラプター
米国が「北朝鮮への直接的な軍事行動の検討」に入ったと米紙ウォールストリート・ジャーナルや、経済専門サイトのビジネスインサイダー(BI)が伝えた。北朝鮮が米国に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発しているという脅威に対応するものだ。もし軍事行動(作戦)が実行に移された場合、米国の圧勝は間違いないという点で米軍事専門家の見方は一致しているが、作戦実行には「深刻なリスクが伴う」とBIは指摘する。「韓国はもちろん、日本への被害も避けられない」というのだ。(岡田敏彦)
まずは制空
BIによると、米軍の作戦の目的は2つ。一つは北朝鮮の核兵器の破壊。もうひとつは金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を“除去”することだと指摘する。
そのために、まず必要なのは、絶対的な制空権の確立だ。つまり戦闘機同士の戦いで相手の航空戦力をつぶさなければならない。
北朝鮮の戦闘機は主力がミグ21で、1960年代のベトナム戦争時で既に性能的な限界が見えていた旧式機。これとは別に比較的新しいミグ29という戦闘機もわずかながら配備されている。航空自衛隊のF-15戦闘機や、米軍と韓国軍が用いるF-16戦闘機と比べれば設計年度は新しいものの、実は性能的には全く相手にならない。
例えばドイツでは1990年の東西ドイツ再統一時に、東ドイツが持っていた24機のミグ29を統合後もしばらく運用したが、電子装備を含む総合性能の低さなどから「この機種は不要だ」と判断し、他国に安く売却している。北朝鮮の持つ“最新機”はこのミグ29がわずか18機(推定)とされ、性能改善やアップデートを重ねてきたF-15やF-16を数百機擁する米軍にとっては、ものの数ではない。
またレーダーや通信を妨害する各種電子戦機の質、量ともに米軍は圧倒的で、米軍戦闘機に脅威となる北朝鮮の地対空ミサイル基地も、対レーダー探知ミサイルを持つ専門の攻撃部隊「ワイルド・ウィーゼル」がしらみつぶしにできる。
まずは「空」を制して、北朝鮮空軍の反撃と偵察機による状況把握を不可能とし、本番の軍事作戦を容易にするのが第一段階だ。とはいえ、ほぼ同時にレーダーに探知されにくい「ステルス機」が軍事目標に向け侵攻している可能性も高い。
米軍の攻撃シナリオ
BIは米シンクタンク「ストラトフォー」の北朝鮮専門家とともに米軍の攻撃シナリオを推定しており、特に重要なのは核施設の攻撃だとする。具体的には、レーダーに探知されないステルス機と、トマホーク巡航ミサイルによる核施設への電撃的な攻撃が主となるとしている。
グアムや米大陸から出撃するステルス爆撃機B-2は約2.8tのEGBU-28「バンカーバスター」特殊爆弾を最大8発搭載可能だ。この特殊爆弾はGPS誘導が可能で、爆撃目標の13キロ手前で投弾できる。対空火器が密集する重要目標に近づく必要がないため「一方的な攻撃」が可能だ。こうして核施設やミサイル製造施設、ICBMの発射基地を破壊する。
一方、F-22やF-35など小型のステルス戦闘機(攻撃機)は、山岳地帯に隠れる移動式のミサイル発射車両を捜索・破壊することとなるが、これは世界最強の米軍でさえ、簡単なミッションとは言い切れない。
韓国紙の朝鮮日報(電子版)は昨年9月5日の北朝鮮によるミサイル発射の直後に、事態の深刻さを強調。このとき黄海北道黄州から発射された3発の弾道ミサイルは、高速道路のトンネル内に隠され、発射時だけ外に出していたことが分かったとしたうえで「トンネル内に隠れている場合、米国の偵察衛星などで事前に発見することは不可能だ」と指摘した。
BIでは、これを破壊するためには米特殊部隊がパラシュート降下してミサイル発射車両を捜索し、直接攻撃するか、もしくは上空の味方米軍機に位置を伝えて爆撃を誘導する必要があるとしている。ただ、北朝鮮全域で200発ともされるノドンやスカッドなどの弾道ミサイルをすべて破壊するのは難しい。
また金氏の“除去”も、そもそも居場所を特定するのが極めて困難なために、移動式ミサイル発射車両に対するのと同様に、空爆だけでは有効打とはならない可能性を指摘している。
そして「北」の反撃は
一方、「北朝鮮が(軍事的に)大打撃を受けても黙ったままと見る向きは皆無だ」ともBIは強調する。予想される北朝鮮の反撃は、韓国に重大な影響をもたらすという。ミサイル発射施設や移動式車両がほとんど破壊された後でも、残ったわずかなミサイルで北朝鮮は反撃に出るだろう。
また38度線の非武装地帯(DMZ)をまたいで、北朝鮮から韓国の首都ソウルまでの距離は約50キロ。北朝鮮軍はミサイルより圧倒的に安価で大量配備できるロケット砲を多数配備し、山間部に掘った横穴に潜めているとされる。こうしたロケット砲による反撃は無視できない重大なものだ。「ソウルには大規模な防空壕があるため迅速に市民を守れるが、都市機能の被害は避けられない」とBIは分析する。
また、DMZの地下を掘り進んだ秘密の「南侵トンネル」を使って、地上軍を韓国に侵入させるとし、「米地上軍はDMZ周辺地域で戦う可能性が最も高い」と指摘する。つまり北朝鮮領内に米陸軍の主力部隊が侵攻することはなく、韓国の守りに徹するとしている。
また、移動式弾道ミサイル発射車両を米軍が短時間ですべて破壊できる確証はなく、弾道ミサイルが日本に向けて発射される可能性も示唆しており「日本の一部の民間人にも死者が出るだろう」とのシビアな分析をしている。
戦争の勝敗は「そもそも北朝鮮が米韓日に勝てると見る向きは皆無だ」とするが、被害をゼロにすることも不可能で、北朝鮮攻撃指令は「米軍司令官(トランプ大統領)が気軽に決断できるものではない」と指摘するのだ。
自壊の可能性
一方、米誌ナショナル・インタレスト(電子版)は、北朝鮮が民衆の蜂起や内戦で崩壊する可能性とその後の展開について特集した。
北朝鮮については核兵器のほか、金正男氏の暗殺にも使われたとみられるVXガスなど生物化学兵器、さらに生物兵器をミサイルで飛ばす可能性がある国だと、その危険性を説明する。
そうした“危険な国家”が崩壊する状況は2つあると指摘した。ひとつは政権の崩壊で、金一族の統治がクーデターなどで終わりを迎え、新たな指導者が現れるとするもの。もうひとつは政府機構全体の崩壊だ。金一族が放逐されたあとも新体制が固まらず、派閥が形成されることで新政府の統治機能が弱まるというものだ。
内部抗争から内戦が勃発する可能性もあるとし、これにより核兵器や生物化学兵器を運用する部隊が、韓国に攻撃を仕掛ける可能性もあるとみる。
さらに中国の介入を招く可能性に触れ「中国は(北朝鮮と韓国の)統一を阻止するだろう」と指摘。「韓米軍と中国軍の戦闘が発生するかもしれない」と分析する。また北の政府崩壊で食料事情が逼迫し、食料をめぐる争いや飢餓状態が発生する可能性があるという。
最も問題なのは、意外にも北の政権が崩壊して韓国が併呑する形で半島を統一した場合だ。同誌は統一のための軍事作戦に5000億ドル(約55兆円)、南北の戦災復興に5000億ドル、北の経済開発に1兆ドル(110兆円)かかると概算し「韓国の政府予算(約40兆円)の約6年分に相当する。税収を倍増する選択肢も出てくるだろう」と指摘する。つまり、北朝鮮の崩壊統一によって朝鮮半島全体が大規模な経済破綻や混乱に陥る可能性があるというのだ。同誌は「北朝鮮が示す危険は核兵器だけではない」と警鐘を鳴らしている。
《維新嵐》北朝鮮は、継戦能力はあるのかな?朝鮮人民軍内部で飢餓が常態化しているともいわれます。戦わずして多くの兵士が投降する可能性があるように思います。「腹が減っては戦はできぬ。」
北朝鮮のミサイル攻撃を受けたときの想定はできているか?
評論家・江崎道朗
日刊SPA!
◆死を覚悟してのスクランブル発進
朝鮮半島情勢が緊迫している。
北朝鮮による核開発とミサイル発射に対してアメリカのトランプ政権は激怒。中国の習近平政権に対して「中国政府が、北朝鮮の核開発を止めることができないのであるならば、アメリカとしては単独行動に踏み切る」旨を通告し、現在、朝鮮半島周辺に空母などを集結させている。
北朝鮮はこの20年、欧米諸国の経済制裁を受けながらも核兵器とミサイルの開発を推進してきた。これができるのも裏で中国が北朝鮮を支援してきたからだ。
ところが歴代のアメリカ政府は、北朝鮮に対する中国の支援を黙認してきた。黙認するどころか、中国の軍事的な台頭に対しても口先で批判するだけで有効な措置をとってこなかった。が、共和党のトランプ政権は、中国と北朝鮮の軍事的挑発に本気で立ち向かおうとしているようだ。
自衛隊も奮闘中だ。先日、沖縄の航空自衛隊の基地を視察したが、連日のように中国の戦闘機が尖閣諸島周辺空域に侵入してくるので、その対抗措置のため航空自衛隊はほぼ連日、スクランブル発進をしている。
スクランブル発進とは、日本の領空を侵犯する外国の飛行機に対して「この空域は、日本の領空なので直ちに退去しなさい」と注意する措置だ。もしこの措置に従わず、相手の戦闘機が攻撃を仕掛けてきたら、戦死する可能性も否定できない。言い換えれば、航空自衛隊のパイロットは、スクランブル発進をするたびに戦死する覚悟を迫られているわけだ。
このスクランブル発進は近年急増し、平成27年度は873回に及ぶ。1日平均3回近く緊急出動をしているわけだ。その半分は、中国機を対象としている。自衛隊はまさにこの瞬間も命がけで日本を守ってくれている。
◆北朝鮮のミサイルをすべて防ぐのは困難
北朝鮮のミサイル発射を受けて2017年3月29日、自民党は、安全保障調査会・国防部会合同会議を開催した。この会議に、防衛省は「弾道ミサイル防衛について」という説明資料を提出した。
これによると、北朝鮮や中国などが日本に対して弾道ミサイルを発射してきたとき、日本は、二段階の弾道ミサイル防衛システムで対応することになっている。
第一段階ではミサイルが大気圏にいる間に、海上自衛隊のイージス駆逐艦が探知し、撃墜する。それでうち漏らしたミサイルは大気圏突入段階で、航空自衛隊のペトリオットPAC-3という迎撃ミサイルで対応することになっている。
第一段階のイージス駆逐艦によるミサイル防衛は、日本列島全体をカバーしているが、第二段階になると、ペトリオットを配備している半径数十キロしか守れない。そして今年3月の時点で、ペトリオットを配備しているのは、札幌、青森、関東、愛知、関西、北九州、沖縄しかない。
つまり、北海道(札幌を除く)や東北(青森を除く)、新潟などの日本海側、中国、四国と南九州には現在、ペトリオット配備をしていないので、ミサイル攻撃に対する危険がかなり高くなる。
北朝鮮が日本に向けているミサイルの数は1100基以上もあると試算されている。射程1000km前後のスカッド・ミサイルは800基以上、最大射程が1300kmのノドン・ミサイルも300基あると言われている。現在の自衛隊の能力では、これだけの数のミサイルを迎撃することは困難だ。
◆ミサイル攻撃を前提に政府は「国民保護ポータルサイト」を開設
そこで政府は、ミサイル攻撃を受けることを前提に、国民にその準備をするよう呼び掛けている。「国民保護ポータルサイト」と題する専用のホームページを開設し、ミサイル攻撃を受けた時の対応策などについて詳しく説明しているのだ。
また、地方自治体は国と連携して、いざという時、救援活動などを実施する計画となっているが、その準備を本当にしているのか、地元の地方自治体に問い合わせておくべきだろう。
本当に北朝鮮によってミサイル攻撃をされた時、どのような手順で国民に知らせるのかについて、次のように解説している。
《北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する場合、弾道ミサイルは極めて短時間で日本に飛来することが予想されます。仮に、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合には、政府としては、24時間いつでも全国瞬時警報システム(Jアラート)を使用し、緊急情報を伝達します。
北朝鮮が予告することなく弾道ミサイルを発射した場合には、政府としても、事前にお知らせすることなく、Jアラートを使用することになります。
Jアラートを使用すると、市町村の防災行政無線等が自動的に起動し、屋外スピーカー等から警報が流れるほか、携帯電話にエリアメール・緊急速報メールが配信されます。なお、Jアラートによる情報伝達は、国民保護に係る警報のサイレン音を使用し、弾道ミサイルに注意が必要な地域の方に、幅広く行います》
こんな仕組みになっていることを知っている国民は果たしてどれくらいいるのだろうか。北朝鮮のミサイルについてあれこれと論じるのもいいが、国民の安全を重視しようと思うならば、テレビや新聞もこうした手順について丁寧に説明すべきではないのか。肝心なことを報じないから、マスコミは信用されないのだ。
政府のこのホームページでは、ミサイル攻撃などを受けた場合の特別のサイレンも聞くことができる。パトカーや救急車のサイレン音とは違うので、いざというとき反応できるようにしておくためにも一度、聞いておいたほうがいいだろう。
◆自民党は敵基地「反撃」能力保持を提案、トランプ政権も賛成か
一方、北朝鮮のミサイルをすべて撃ち落とすことが困難である以上、国民の生命・財産を守るためには、ミサイル発射基地(正確に言えば、地上移動式ミサイル発射装置)を攻撃する方策も検討しておく必要がある。攻撃は最大の防御ともいうではないか。
そのため自民党は3月30日、北朝鮮を念頭に敵のミサイル基地を攻撃する「敵基地反撃能力」保有の早期検討を柱とする提言書をまとめ、官邸に提出、安倍総理も「提言をしっかりと受け止め、党とよく連携していきたい」と表明した。
トランプ政権の米太平洋艦隊のスウィフト司令官も2017年4月6日、自衛隊の敵基地反撃能力保有をめぐる議論について「日本政府がその道を取ると決めれば、日米の軍事関係は容易に適応できる」と述べ、自民党の動きを歓迎した。
具体的には、今回トランプ政権がシリア爆撃で使ったトマホークという巡航ミサイルを導入することになるだろうが、海上自衛隊のイージス艦ならば直ちに導入が可能であることを米軍は理解している。
実は、敵基地反撃能力を保有することについて自民党は過去何度も議論しているが、これまではアメリカ政府が、敵基地反撃能力を日本が持つことに否定的で、議論はいつの間にか立ち消えになってきた。
ところがトランプ政権はアメリカの歴代政権のなかでも珍しく日本が軍事的に強くなること、つまり「強い日本」を支持する勢力が強く、トランプ政権からの妨害は比較的少ないと思われる。
むしろ問題は、「防衛費増額に反対することが平和を守ることだ」と考える一部の野党やマスコミ、そして財務省だ。防衛予算を増やさなければ敵基地反撃能力を保有できない。財務省は、防衛予算を削ることが正しいと考えているふしがある。
どこの国も、防衛力を経済力に見合ったかたちで整備している。そして防衛費の平均は、GDP(国民総生産)比の2%ぐらいだ。ところが日本は、世界標準の半分の1%、わずか5兆円しか支出していない。
ミサイル防衛体制の充実だけでなく、敵基地反撃能力の保持といった、これまでまったく持っていなかった自衛能力を整備しようと思えば、予算の増額が必要だ。ドイツのメルケル首相もロシアの脅威の増大に対応すべく、2024年までにドイツの防衛費をGDP比2%にすると明言している。
予算は国家の意思だ。
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