2017年5月30日火曜日

非合法国家北朝鮮の「戦争のやり方」

①朝鮮総連による広報戦

【北朝鮮「秘密工作」ファイル】テレビ局が朝鮮総連に苦慮するワケ

青年らによる朝鮮人民軍創建85年の記念日を祝う舞踏会が平壌市内で開かれた。

 在京テレビキー局が、北朝鮮の出先機関としての役割を演じる在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)への対応に苦慮している。テレビ局は取材の機会が限定される北朝鮮内の様子を少しでも放映することで視聴率を稼ぎたいところ。渡航ビザを出す北朝鮮当局の機嫌をできるだけ損ねたくないのが本音だ。このため、朝鮮総連はテレビ局に対し、北朝鮮に有利な報道を促そうとビザを“餌”に活発に働き掛けを行っているとみられる。
 一例を挙げると、金日成主席誕生記念日「太陽節」(4月15日)は、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長がミサイル発射実験を繰り返す中、在京テレビキー局にとってはのどから手が出るほど取材したいテーマだった。
 ただ、TBSは2017年3月13日の番組「好きか嫌いか言う時間」放映時に、脱北者が北朝鮮の生活を語る韓国のテレビ番組「いま会いに行きます」の内容を紹介。番組では金一族の内幕を解説していた。このため、朝鮮総連は偏向放送であるとして14~16日の3日間連続でTBSを訪問するなどして抗議した。
 朝鮮総連関係者によると、北朝鮮は当初、TBSに対し、太陽節取材のため記者らの訪朝を許可する意向を示していた。ところが、突如方針を転換して訪朝を拒否したという。
 また、朝鮮総連幹部が正恩氏の異母兄、金正男氏殺害事件後、日本テレビとテレビ朝日の報道局員らと接触。金正男氏殺害事件について、北朝鮮当局による犯行説を払拭する報道を行うよう求めたことも判明している。


 事件をめぐっては、マレーシア警察が、在マレーシア北朝鮮大使館の2等書記官らを重要参考人に位置付けたことなどから、北朝鮮当局による組織的犯行をうかがわせる報道が国内外で行われていた。このため、事件関与を否定する北朝鮮の意を酌んだ朝鮮総連が諜報活動の一環として宣伝や謀略工作を行ったとみられる。
 日本テレビとテレビ朝日は産経新聞の取材に対し、それぞれ「ニュース制作過程の個別質問には答えない。取材や報道において、あらゆる圧力、干渉を排除し多角的な報道に努めている」「指摘の事実はない」と回答。TBSは「通常、番組にはさまざまな意見が寄せられるが、具体的な内容は明らかにしていない」とした。朝鮮総連は「取材に応じない」としている。
 各テレビ局の対応はまちまちだが、自分たちの考えに反する報道を行う局には徹底して弾圧を行う朝鮮総連の姿勢が昨今、鮮明になっているので、戸惑うことも増えそうだ。さらに、朝鮮総連が今春、日本を「敵」と位置付け、ミサイル発射や核実験を強行する正恩氏をたたえる学習資料を傘下団体向けに配布していたことも発覚している。各局は、こうした姿勢と思想を持つ朝鮮総連と「対決」するのか、それとも「理解」で応えるのか。今後も受難は続きそうだ。

 朝鮮総連 北朝鮮を支持する在日朝鮮人組織で、正式名称は在日本朝鮮人総連合会。昭和30年5月に発足、中央本部は東京都千代田区。在日同胞の権利擁護や、朝鮮学校の運営、在日朝鮮人系企業の支援などを担ってきた。

北朝鮮・朝鮮総連の実体とは何か?


②弾道ミサイルを活用する外交戦

北の核ミサイルは迎撃しても安全装置作動で起爆せず?それでも激烈な電磁波+化学液+ミサイル破片の「豪雨」…

北朝鮮が2017年5月22日、中距離弾道ミサイル「北極星2」の実戦配備に向けた「最終発射実験」を行う。

 関係者と過日行った北朝鮮のわが国に対する核ミサイル攻撃のシミュレーションは途中で早めの休憩に入った。「部屋の空気が一瞬滞留した」ように感じたほど、参加者が受けた衝撃があまりに強かったためだ。小生も事態の深刻さに、少し気持ちが悪くなった。
 現在、日本に襲来する敵弾道ミサイルを迎え撃つ切り札は、海上自衛隊のイージス艦搭載迎撃ミサイル《SM3》と航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット《PAC3》の2段構え。シミュレーションは、次のシナリオで始まった
 《高度500キロの宇宙空間=洋上で迎撃するSM3が、北朝鮮の核ミサイルを撃ち漏らした。従って、大都市圏などに配備され、高度15キロで迎撃するPAC3が撃ち落とさなければならない最終局面を迎えた》
 SM3の撃ち漏らしは、おびただしい数のミサイルが一度に向かってくる《飽和攻撃》など複数考えられたが、いつもなら問題提起される課題は今次シミュレーションでは分析対象外となった。ともあれ、シミュレーションでは、より根源的課題でありながら「定説」を信じ切っていた危機管理上の甘さが、残酷なほど鋭利に突き付けられた。
 PAC3迎撃に成功すると、参加者は「皆」、安堵の表情を浮かべた。否。「皆」ではなかった。A氏が言った。

 「核爆発は起きないのか?」
 B氏が言い切った。
 「起きない」
 核弾頭の起爆装置は通常、幾重にも掛けられた安全装置でロックされ、迎撃の衝撃を受けても、装置の働きで核爆発が起きないとされている。それ故、B氏の答えは「定説」に沿っていた。
 A氏はたたみ掛けた。


「核ミサイルの上空における迎撃の実証実験結果を掌握しているのか?」
 「部屋の空気が一瞬滞留した」のはこの時だった。核保有国はコンピューター・シミュレーションを実施しているに違いあるまいが、実証実験が公表されたケースは「皆無」だ。核ミサイル迎撃の実証実験は、行われれば各種監視機能で判明するので、実際上も「皆無」であろう。もっとも、事故による“実例”は存在する。
 A氏は軍事史に刻まれた事故による“実例”を話し始めた。
 《1980年9月18日/米アーカンソー州ダマスカス郊外/午後6時30分/第308戦略部隊が所在するミサイル発射基地・ミサイル格納施設》
 《2名の若い作業員が、核弾頭が装填された大陸間弾道ミサイル・タイタンIIの保守点検作業をしていた。内、発射口(=最上部)近くの1名が誤って手を滑らせて重さ3キロのレンチを落とした。レンチは発射サイロの中を加速して落下し、数メートル下のミサイル最下部=1段ロケットの燃料タンクにぶつかった。結果、タンクの表面に穴が開いた》
 《異臭と共に、サイロ内にミサイル燃料が漏れ出し、揮発しだした。燃料の燃焼力は極めて強く、超弩級の爆発も想定された》
 《ミサイル格納施設内の作業員4名は非常口から脱出した。午後9時までに、基地内の総員に退避命令が、午後10時には周辺住民の避難が始まった。が、指揮命令系統の乱れで、決死の覚悟で緊急出動した技術者らが事故現場=サイロ内に立ち入り、燃料濃度測定などを敢行したのは翌日未明に入ってだった》


《技術者は、次の命令待ちの態勢にあった。と、午前3時、ついにサイロ内で燃料爆発が起こった。9メガトンという、当時の米国で最大級の威力を有す核弾頭が爆風で空高く吹き飛ばされ、30メートル離れた地上に落下した》
 《幸い、安全装置が作動して核爆発は免れた》
 話し終えたA氏は、最後にこう付け加えた。
 《安全装置の作動停止や、高電圧の熱電池が爆発した末に起爆する可能性を警告する米国人専門家は少なくない》

東京上空40~50キロで核爆発が起きたら…

 安全装置が作動しても、PAC3で迎撃する事態とは、地上に着弾するわずか5秒前で、副次的被害は避けようもない。地上15キロの上空で、超音速で落下してくる弾頭に直接ヒットするPAC3は重量320キロ。衝突後、100キロ超の破片と化して、数キロ~数十キロの範囲で、地上に迫る可能性も計測されている。 
 ただし、核ミサイルで大都市圏が直撃されなくとも、戦果は上がる。東京上空40~50キロで核爆発を起こせば、激烈な電磁波が発生する。《高高度電磁パルス攻撃》と呼ぶが、電磁波=衝撃波の影響で電子機器が瞬時に使用不能になり、航空機は墜落し、自衛隊・警察・消防の指揮命令系統も機能不全。携帯電話や防災無線などの情報通信やテレビ・ラジオもマヒし、被害情報把握も救援・復旧活動も困難になる。信号機も突如消え、交通事故や火災で死者を増やし、大パニックに陥る。


 核爆弾以外にも、北朝鮮は生物・化学剤を大量に保有する。韓国国防省の報告書(2009年)は、《マスタード・ガスやサリンなど5000トンもの青酸ガス・神経ガス系の化学兵器、天然痘/コレラ/黄熱病/チフス/赤痢など13種類もの細菌を秘蔵する世界最大の化学・生物兵器保有国の一つ。(種類によっては)ミサイルの弾頭への搭載可能技術を有する》と断じる。
 弾頭に化学剤を装填していれば、ガス状なら拡散するが、液状ならば飛散する懸念が残る。
 ところで、敵ミサイルの迎撃はラグビーのタックルと同様、はずされたら他のチームメートがフォローする。3層、4層と防衛網を多層化することで安全性は向上。かつ、ゴールラインよりできる限り遠方でのタックルで、一層安全性が担保される。
 そこで注目されているのが、弾道ミサイルなどを迎撃すべくイージス艦に搭載されているイージス(艦隊防空)システムの陸上バージョンである《イージス・アショア》。レーダーや迎撃ミサイルの垂直発射システム(VLS)など、イージス艦が備える各種機能が陸上で再現されるイメージを描けばよい。
 《C4ISR》も然り。C4ISRとは、指揮(Command)▽統制(Control)▽通信(Communication)▽コンピューター(Computer)の「4つのC」+情報(Intelligence)▽監視(Surveillance)▽偵察(Reconnaissance)の頭文字を並べた軍事用語。頭文字の機能全てが自動で流れるように連結・一体運用される能力もイージス艦と同じだ。


イージス・アショアは、実戦的実験で素晴らしい成功を収めている。既に欧州では、イージス・アショアの整備が進行中だ。整備は、イランやロシアのミサイルを大きな脅威と考えるNATO(北大西洋条約機構)首脳会議で、加盟28カ国の総意として合意された《欧州ミサイル防衛構想》に基づく。特に、東欧のルーマニアやポーランドは積極的だ。トルコにも高性能レーダー基地が建設され、迎撃ミサイル発射基地など、システムの各機能をドイツに置かれた指揮・統制中枢で一体管理する。陸上型イージスのみならず、本来の海上型イージスも並行して準備され、米海軍やスペイン海軍のイージス艦が地中海やジブラルタル海峡でにらみを利かせ、防空上の縦深性に厚みをもたらしている。

米国に届く核ミサイル開発中止と核保有国認定の米朝取引という悪夢

 一方、現有のSM3(イージス艦搭載迎撃ミサイル)は《ブロック1A》だが、発展型のSM3《ブロック2A》を数年以内に運用する。ブロック2Aはブロック1Aに比べ射高・射程ともに2倍に延び、各1000キロと2000キロへと大進化を遂げる。射程2000キロが描く直径4000キロの円内に日本列島が収まる。故に、イージス艦1隻で日本を防御でき、2隻態勢なら防御確率はアップする。
 射高の高さも魅力だ。従来型では対処が難しかった、ミサイルを高く打ち上げて手前に落とす《ロフテッド弾道》を阻止できそうだ。グアムやハワイに向かう北朝鮮の中距離弾道ミサイルも、わが国が策源地となって阻むことも可能となり、日米同盟下での集団的自衛権行使の実効性も上がる。SM3ブロック2Aを搭載できる新造イージス艦の増隻や従来型イージス艦の改修が急がれる。


 しかも、SM3ブロック2Aはイージス・アショアに転用できる。現に、欧州のイージス・アショア計画はブロック2Aの採用が前提だ。つまり、イージス艦発射のSM3ブロック2Aで前述したごとく、「陸に上がったイージス艦」たるイージス・アショアも適所に1カ所存在すれば最低限、日本の対弾道ミサイル防衛が成る。2カ所あれば防御確率が上がる。
 わが国も前述のNATOにならい、イージス・アショアをはじめ、自衛隊&在日米軍の高性能レーダー+日本近海の海上自衛隊の改修・新造イージス艦&米海軍イージス艦が任務・迎撃分担を円滑に連携できれば、迎撃確率は100%へと近付く。
 海上と陸上のイージス・システムの構造はほぼ同じだが、運用上の相違はある。イージス艦は迎撃の最適海域まで燃料と日数を使い進出し、操艦や艦防護のための要員を長期に拘束する。その点、イージス・アショアは省人化に資するし、建造・運用費もイージス艦ほどではない。人員・予算不足の「自衛隊に優しい兵器」といえる。
 さらに、イージス・アショア+SM3ブロック2A+PAC3(地対空誘導弾)に続く4つ目の切り札が最新鋭高高度ミサイル防衛《THAAD=サード》システム。高度40~150キロ/半径200キロをカバーし、6~7基を導入すれば、わが国の防衛は飛躍的に向上する。ただ、1基あたり2000億円もする財政上の負担をクリアせねばならない。
 しかし、以上の防御態勢では、敵のミサイル攻撃を無力化する《拒否的抑止力》に止まる。現状と今後計画される防御態勢はろう城戦に等しく、いたずらに「矢弾が尽きる落城」を待つだけ。先述した副次的被害も全否定できぬ。


 対地巡航ミサイル&戦略爆撃機+それを支援する軍事衛星&情報機関&各種施設&各種特殊航空機…で、敵ミサイル基地などを先制・報復攻撃する《懲罰的抑止力》を保有する危機的情勢を迎えたのだ。懲罰的抑止力を保有しない国家的怠慢を「平和的」だと自賛している独善を改めるときだ。そもそも、抑止力は懲罰的と拒否的の2種類が相乗効果を発揮して、抑止力が最強化され、祖国を守るのである。ミサイル発射前の策源地攻撃を、あえて拒否的抑止力に分類する元航空自衛隊将官もおられるが、「発射の第1段階」ととらえれば正しい認識だ。
 実は、海上自衛隊のイージス艦の垂直発射システム(VLS)には対地巡航ミサイル《トマホーク》が装填できる。対地巡航ミサイルを装填すれば、海自イージス艦は拒否的抑止力に加え、懲罰的抑止力のプラットフォームも兼ねることになる。
 けれども、情勢の激変に目をつぶり、怠ってきた最強抑止力の構築が間に合うかどうか…。 現時点では米国本土に、北朝鮮の核・ミサイルは届かない。強烈な仲間意識を隠さない文在寅大統領が率いる韓国に対する発射は遠慮がちに。北朝鮮を民主国家との緩衝帯と位置付け、経済・エネルギー支援を陰日なたに差し伸べてくれる中国やロシアには核・ミサイルを撃ち込み難い。従って、関係国の内、日本のみが北朝鮮の攻撃に遭う厄難が突出して拡大した、ことになる。


「米国第一主義」を掲げるドナルド・トランプ大統領は、日本を射程に収める核・ミサイルで武装する北朝鮮を核保有国と認める代わりに、米国本土に届く長距離弾道ミサイル(ICBM)を持たせない旨を取引(ディール)する恐れも観測されている。かくして、米国の安全は担保される。
 日米安全保障条約5条は次のごとく記す。
 《日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する》
 北朝鮮の核・ミサイル攻撃を米国だけが回避でき、在日米軍も後方に下がり、《自国の平和及び安全を危うくする》と米側が認定しない場合、日米安保条約の発動要件は弱まる。北朝鮮が《共通の危険》ではなくなる日米関係が生起するのなら、わが国は独力で北朝鮮と戦わなければならぬ。
 「現実離れ」のシナリオと批判するのは勝手だが、現実離れした憲法の下、現実離れした安全保障論議に自己陶酔し続けるサヨクには言われたくない。

ドキュメンタリー電磁パルスの脅威に備えるリーダーのための最新科学


③資金調達のためのサイバー戦

「北は偽ドルからサイバー攻撃へ転換」「金正恩は幼児的で病的」ジョエル・ブレナー氏

 サイバーセキュリティーの専門家で米国家安全保障局(NSA)の元首席監察官、ジョエル・ブレナー氏(69)との単独会見の主なやりとりは次の通り。

 --バングラデシュ中央銀行の口座から多額の外貨が盗まれた事件は北朝鮮によるサイバー攻撃だとされているが

 「北朝鮮のサイバー攻撃能力は(当初は)原始的なものだったが、その学習能力のカーブは急速に上昇しており、恐ろしいほどだ。数年前から豊富な能力を備えるまでになっている。 北朝鮮は、意図的に外貨を盗もうとしている。バングラデシュ中央銀行への攻撃は非常に洗練されたものだった。かつては偽米ドル札で外貨を獲得してきたが、今はサイバー攻撃が外貨獲得手段となっている」

 --今月起きた大規模サイバー攻撃をどうみるか

 「おそらく北朝鮮による攻撃で、資金を得るために計画されたものだ。混乱ももたらしたが、それは外貨獲得の付随的な結果だ。外貨以外の目的があったかと問われれば『イエス』だ。彼らは無視されることが耐えられない。あの国を動かしている若者(金正恩朝鮮労働党委員長)は狂っている。彼のやり方は破壊的で幼児的、病的だ。戦略がない。3歳児と同じで注目を集めたいのだ」


 --米国へのサイバー攻撃や選挙干渉などが取り沙汰されるロシアや中国については

 「中国は技術的に米国に追いつかなければ地政学的、経済的にもあらゆる面で対抗できないと考え、可能な限り早くどんな手段を使っても追いつこうとしている。米軍指揮系統への侵入のほか、日米の技術を盗むことも含めてだ。ロシアもそうだが、情報機関を使い、軍事技術だけでなくあらゆる技術を盗む。経済的に追いつくためだ」(住井亨介)



「北のサイバー攻撃、外貨獲得が目的」
NSA元首席監察官、ジョエル・ブレナー氏がズバリ

 2017年5月24日、東京都港区のインターコンチネンタルホテルにて産経新聞のインタビューに応える米国家安全保障局(NSA)の元首席監察官、ジョエル・ブレナー氏

 サイバーセキュリティーの専門家で米国家安全保障局(NSA)の元首席監察官、ジョエル・ブレナー氏(69)が平成29525日までに都内で産経新聞の単独インタビューに応じ、世界各地で今月発生した大規模サイバー攻撃について「北朝鮮による外貨獲得が目的」との見方を示した上で、「北朝鮮のサイバー攻撃の能力は急速に上昇している」と警鐘を鳴らした。(住井亨介)
 ブレナー氏は、世界で約30万件の被害が出た今回のサイバー攻撃について、「他の国や犯罪組織による犯行の可能性もあるが、過去の事例との共通点、他では見られないコード(暗号情報)などから、北朝鮮の犯行とみられる」とした。
 動機については、「攻撃は外貨を得るために仕組まれたものだ。実際には失笑するようなわずかな資金しか得られず、ほとんど失敗だった」と断定。英国の医療機関などにもたらされた深刻な混乱は付随的なこととしつつ、「金正恩朝鮮労働党委員長は注目を集めたいのだ。破壊的、幼児的で狂っている。(国際社会から)無視されることに耐えられない」と述べた。


 北朝鮮をめぐっては、ニューヨーク連邦準備銀行が管理するバングラデシュ中央銀行の口座がサイバー攻撃を受けて8100万ドル(約90億円)が盗まれた事件との関与も取り沙汰されており、「北朝鮮は外貨獲得に死に物狂いになっている」とした。
 また、ブレナー氏は中国、ロシアによるサイバー攻撃にも言及。「中国の関心は経済的、技術的に西側諸国に追いつくことだ。そのためには技術も盗む。ロシアは米国とその同盟国に直接的に対抗できなくなっているが、その必要もない。同盟国を不安定化させればいい」と指摘した。

 「サイバー先進国とそれ以外の国との差は次第に狭まっている。エネルギー、金融、通信、交通の各システムを攻撃する能力は、今や数多くの敵対者が手にしており、潜在的なものも含めこれらと渡り合わねばならなくなっている」とも述べ、日米間の協力強化の必要性を示した。



北朝鮮&共産中国と向き合うアメリカの現状 ~我が国はどう役割をはたすのか?~

歴史は繰り返す、米中の覇権争い

岡崎研究所
エコノミスト誌のアジア担当エディターであるジーグラーが、2017422日付の同誌で、中国が強大になり、米国が支配してきたアジアの覇権構造は変革を迫られているが、トランプ政権は上手く対処できるだろうかと疑問を投げかけています。論説の要旨は以下の通りです。

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 中国は東アジアや国際秩序においてより大きな役割を求めている。米国は中国のために場所をあけなければならない。キッシンジャーも言うように、米中両国はこの目的に応える方法を見つける必要がある。平和はその結果にかかっている。 
 中国は、大量の難民が自国に流入して来るよりは、金正恩が北朝鮮を支配する方が良い。何よりも、隣に米軍のいる民主的統一朝鮮が出現するのは困る。ところが、トランプがシリアをミサイル攻撃したことで、米国は北朝鮮に対しても単独行動を取る可能性があることがわかった。北朝鮮への対処は、米中協力にとって大きな試練になるだろう。
 しかし、米中の衝突は不可避ではない。40年に及ぶ中国の市場改革の中で米中協力の習慣が確立した。中国の発展は米国による安全保障抜きにはなし得なかった。今や米中は年間貿易額6000億ドル、投資額3500億ドルの世界で最重要の二国間経済関係を築いている。
 また、中国には革命の輸出を願う使命感や野心はない。実際、習の使命は世界の中で中国に更なる役割を確保することのようだ。中国には歴史的に天下=世界を支配する観念しかないが、今や中国は複数の大国の内の一つになることを受け入れなければならない。
 そんな中、トランプ大統領が誕生した。過去70年、米国の大戦略は、自由貿易、強力な同盟、人権と民主主義を柱としてきたが、トランプは、外交軽視で保護主義と狭量な「米国第一」を標榜する。今のところ、中国はトランプへの懸念と不安を隠し、静観の構えを取るが、水面下では娘婿のクシュナーを介してトランプに影響を及ぼそうと懸命だ。中国はトランプの取引的なやり方をすぐさま把握し、アリババの創業者、馬雲をワシントンに派遣し、馬は米国で百万の雇用を創るとトランプに約束した。その後、中国で何年も滞っていたトランプ・ブランドの保護申請が通り、トランプの反中レトリックもトーンダウンした。
 しかし、米中関係に関する不確実性は依然残っている。一部のトランプ側近は、米中の軍事衝突を不可避と考え、米国の国益を守るには外交ではなく軍事にもカネを使うべきだと主張している。一方、マティス国防長官は、中国の南シナ海での行動への慎重な対応を促し、優先するのは軍事行動より外交だ、と言っている。貿易に関しても、多国間協調路線が支持を得始めている。ただ、トランプ政権でマティスのような「大人」はごく少数だ。また、外交政策チーム、とりわけアジア担当は今も空席が続く。
 トランプのアジア政策がこのように不確かな中、アジアについては、トランプ政権が攻撃的姿勢を強め、中国を怒らせる、米国のアジア政策が現実遊離のいい加減なものになり、友好国を不安にさせ、中国をつけ上がらせる、という二つのリスクがある。結果はどちらも同じ様なものになるかもしれない。つまり、力の力学に変化が生じ、情勢が不安定化し、地域的騒乱が起きる危険性がある。
出 典:Dominic Ziegler ‘Disorder under heaven: America and China’s strategic relationship’Economist, April 22, 2017
http://www.economist.com/news/special-report/21720714-after-seven-decades-hegemony-asia-america-now-has-accommodate-increasingly
 米中関係は、歴史的に見れば既存の覇権国と台頭する新しい大国との関係です。ギリシャの歴史家ツキュディデスが名著『戦史』で描いているように、スパルタに対しアテネが挑戦し、ペロポネソス戦争となりました。現代では19世紀後半の欧州で、既存の覇権国英国、フランス、ロシアに新興ドイツが挑戦し、第一次世界大戦を招きました。
覇権国米国に、中国が挑戦する構図
 米中関係は、特に東アジアにおいて、覇権国米国に、中国が挑戦する構図となっています。
スパルタに対するアテネの挑戦、英国、フランス、ロシアに対するドイツの挑戦はいずれも戦争を招きましたが、エコノミスト誌の指摘するように、米中の衝突は不可避ではありません。中国の台頭は著しい経済発展を原動力としましたが、その経済発展は、中国が米国主導のブレトン・ウッズ体制の恩恵を最大限受ける形で実現しました。世界最重要となった米中の経済関係を特色づけるのは相互依存です。
 これに対して、安全保障面では、エコノミスト誌の指摘を待つまでもなく、アジアを中心に米中両国が覇権を争っています。中国が南シナ海の支配を目論んでいるのに対し、米国はアジアで中国が覇権を握るのを阻止しようとしています。これはうまく管理しないと武力衝突に至る危険があります。
 トランプ政権の誕生で、今後の米中関係は不確実性が高まっています。その大きな要因は、トランプに戦略がないことです。トランプに戦略がないのは対中政策に限ったことではありませんが、米中関係の重要性を考えれば、その影響は大きいです。
 トランプ大統領は取引的やり方を好みますが、エコノミスト誌は中国が早くもそれに付けこみ、雇用の創出を材料に、トランプの対中批判を和らげるのに成功していると言っています。今後、トランプが対中関係の管理で、どんな取引的やり方をするのか予測がつきません。
 今後の米中関係で不確実性が高まっている今一つの理由は、トランプのスタッフの間に意見の対立があることです。対中強硬論を主張する者もいれば、より現実的なアプローチを支持する者もいるとのことです。そのうえ、国務省、国防省の政治任命のポストの多くが未だ空白であるといいます。これでは地に着いた一貫性のある政策の実施はままなりません。
 当面、安全保障分野での最大問題は北朝鮮です。トランプは中国の影響力に期待しているようですが、中国が北朝鮮の体制を危うくするような圧力を北朝鮮に加えるとは考えられません。トランプの中国に対する期待が大きいだけに、中国の圧力が不十分であることが分かった時に、トランプが北朝鮮に独自の行動を取る危険があります。
 北朝鮮情勢は危機をはらんでいますが、米中の利害が正面から対立している問題ではありません。米中双方とも北朝鮮の非核化を望んでいます。したがって、北朝鮮問題をめぐって米中が正面から軍事衝突することは考えにくいです。
 米中関係の深刻な危機となる恐れがあるのは南シナ海問題でしょう。これは上述のように、米中の利害が衝突する状況です。この問題をいかに管理していくかが、米中両国に与えられた大きな課題です。


大国間の戦争はあるか?米中戦争!その時日本は必ず巻き込まれる


北朝鮮との戦争「壊滅的」=米国防長官

時事通信

【ワシントン時事】マティス米国防長官は20175月28日、CBSテレビのインタビューで、核開発を続ける北朝鮮との軍事衝突が起きれば「壊滅的な戦争」になると警告した。また、北朝鮮の弾道ミサイルなどの技術が向上しつつあるとの見方を示し、「米国の直接的な脅威だ」と強い懸念を示した。
 マティス氏は、戦争になれば、北朝鮮の脅威が日本や韓国だけでなく、中国やロシアにも広がると指摘。米国が軍事行動に踏み切る期限はあるのかと問われても回答を控え、レッドライン(越えてはならない一線)を引かず、中国と連携して問題に対処する方針を強調した。


《維新嵐》対北朝鮮「慎重派」のマティス国防長官は、共産中国の南シナ海の問題でも「外交」を軸に解決すべきと主張します。北朝鮮に対してもレッドラインは設定しないとはいいますが、本音は共産中国、ロシアも巻き込んで、「北朝鮮による危機感の共有」という要素により、多国間による外交的な圧力で、核・弾道ミサイル開発を抑止しようとしてます。米朝による2国間交渉もトランプの外交カードにはありますが、記事を見る限り、北朝鮮を封じ込めるための方策は、多国間による外交的圧力が「主力」です。実弾を伴う軍事攻撃は、ありえないでしょう。
共産中国の南シナ海を含めた海洋覇権の力の象徴が、航空母艦を核とした海軍の建設になります。その戦略とは何でしょうか?

2隻目の空母を持った中国が過小評価されることを望むワケ

今後10年でさらに5隻の空母を建造しようとしている

岡崎研究所
 中国が2隻目の空母を進水させたことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「中国の秘密の空母計画」との社説を2017427日付けで掲載し、中国が地域に軍事力を投射する意図を示したものであり、人民解放軍は中国が超大国となる数十年後を見据えている、と論じています。社説の論旨は以下の通りです。


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 中国は2017426日、2隻目の空母を進水させ、地域に軍事力を投射する意図を示した。数年の試験航海を完了した際には、同空母は中国初の実戦空母となる。ソ連が作った船体を利用する既存の遼寧(2012年に進水)は、訓練用のみとして使われている。
 中国は、空母保有国クラブに仲間入りしたが、今後の計画について沈黙を守っている。この透明性欠如は、人民解放軍が、潜在敵国に将来の能力を過小評価させることを望んでいることを示唆する。
 空母建造は海外でも広く報じられていたが、昨年12月に人民日報が報じるまでは、その存在は国家機密だった。
 情報の欠如は想像を生んだ。多くの専門家は、中国は今後10年でさらに5隻の空母を建造しようとしていると見ている。それにより、中国は常時、2隻を海上に展開し、残りを維持や訓練に回すことができるようになろう。
 一つの見方は、中国は空母を国力の誇示と地域の小国の威圧に用いる意図があるということである。少なくとも予見し得る将来においては、中国の空母は脆弱で、技術的に優る米日との紛争では使い物にならないであろう。
 人民解放軍(PLA)は、最強の空母にも限界があることを示した。PLAは、比較的安価な機雷や対艦ミサイルを用いた非対称戦争のための戦略を作り出した。この「領域拒否」戦略で、米国が紛争時に中国の沿岸に艦船を送ることを躊躇させたいと考えている。皮肉なことに、中国の空母に対し、台湾やベトナムが同様の戦術を中国に対してとり得る。
 莫大な開発コストにもかかわらず、中国は空母建造計画を推進している。その論理的帰結は、PLAは、中国が世界一の経済大国となり、超大国の地位に必要な軍隊を維持し得るようになる何十年後を見据えているということである。
 新たな武器に関する中国の沈黙は、伝統的な詭計の戦略的文化への回帰を示唆する。近隣国は、中国が近代以前の地域支配の回復を目指しているとして警戒している。今般の空母進水は、こうした懸念を強化しよう。
出典:‘China’s Stealth Carrier Program’Wall Street Journal, April 27, 2017
https://www.wsj.com/articles/chinas-stealth-carrier-program-1493247659
 この社説は、中国が2隻目の空母を進水させたのは人民解放軍が遠い将来超大国になることを目標に軍備増強をしている野心の現れであると指摘しています。その通りでしょう。そのことの持つ意味をよく考え、それに対処していくことを考えるのが最も重要です。
 ところが、この論説は中国の空母建造計画が秘密にされていることなど、軍備増強に透明性がかけていることを重視しています。しかし、中国の軍備増強計画に透明性がかけていることは問題の本質ではありません。軍備が増強されていることが問題の本質です。このことを勘違いしてはいけません。
日本の防衛費の3.3
 中国の2017年の国防予算は3月に公表されましたが、初めて1兆元を超え、1440億元(約172000億円)でした。日本の防衛費の3.3倍です。対前年比7%以上の伸びであり、2017年の経済成長率は6.5%前後とされていますから、これまで同様、経済成長率を上回る伸びです。加えて中国の国防費には、他の国では国防費とされる経費が計上されていないように思われます。
 いずれにせよ、中国は富国強兵政策のうち、強兵にはずっと力を入れてきているのです。
米国のトランプ政権は国防に力を入れるとしており、2017年の国防予算は前年より約200億ドル増額されています。いずれにせよ、米中の間の軍事力には相当な差がある現状はまだまだ続くでしょう。
 日米同盟全体としては、まだ30年間は中国に対して軍事的に優位に立てるとの見通しもあるので、そう慌てることはありません。しかし、ASEAN諸国などが中国の軍事的圧力を感じる日はそう遠くないでしょう。たとえば、今インドネシアは中国の漁船団に対し、自分が主張する排他的経済水域(EEZ)内で強い対応をしていますが、中国空母が出てきたときにもそうできるか、疑問があります。
 社説は、台湾、ベトナムが中国のA2AD(接近阻止・地域拒否)戦略を参考にし得るのではないかと示唆しています。この点は大変示唆に富むと言ってよいでしょう。

《維新嵐》アメリカが、北朝鮮へ踏み込めば、共産中国は、政治的に重要なキーマンとなってきますが、同時にアジアでの政治的影響力も増すでしょうから、特に南シナ海の既得権強化は抜け目なく手をうってくるものと考えられます。問題は、アメリカがアジア全体の自国の権益をどうみて守ることができるか。北朝鮮よりも南シナ海で何らかの「軍事作戦」を行ってくるでしょう。

米海軍が南シナ海で「航行の自由」作戦 

トランプ政権発足後初

BBC News
 米海軍は2017524日、南シナ海で中国が造成した人工島の付近を通過する「航行の自由」作戦を行った。米メディア各社が報じた。トランプ政権発足後初の作戦実施となる。
匿名の情報筋がメディア各社に語ったところによると、ミサイル駆逐艦「デューイ」が人口島の美済(英語名ミスチーフ)礁から12カイリの海域を航行した。
中国は南シナ海のほぼすべての海域を領海だとしており、周辺国の領有権の主張と対立している。
米国は、国際水域はどこでも通行が国際法上認められていると主張している。
米国は南シナ海の領有権をめぐる対立で中立の立場だが、対立の焦点となっている島の近くに海軍の艦船や航空機を派遣している。米国は一連の行動を「航行の自由」作戦と呼ぶ。
米国はさらに、中国政府が戦略的水域における他国の通行を制限しようとしていると批判している。
中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に人工島を造成し、軍事拠点化を進めたことで、周辺地域に緊張が生じた。
米中両国は、双方が南シナ海を「軍事化」していると批判。世界的に深刻な影響を及ぼすような対立に発展する可能性が懸念されている。
トランプ政権は北朝鮮の核開発の抑止で中国の協力を得たい考えだが、今回の作戦は両国関係の「とげ」になりそうだ。
米軍は今月18日、中国の空軍機が前日に東シナ海上空で米軍機に異常接近したと明らかにした。米軍によると、米軍機は東シナ海上空の国際空域で放射線を計測していた。
これについて中国は反応していない。中国は過去に、米軍機が中国沿岸部近くの水域を偵察飛行したと非難したことがある。
《維新嵐》航行の自由作戦は、共産中国の南シナ海の南沙諸島、西沙諸島の拠点防衛を強める=共産中国の支配の強化を図るだけの効果でしかないことは、オバマ政権の頃からよく理解されているはずですが、同じことを繰り返しているということは、対中戦略でのある種行き詰まりを示しているのか?



海上自衛隊は苦境の米海軍を救えるか?

中国海軍に猛追され、焦る米海軍

2017.5.25(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50083
シンガポールに停泊中のミサイル駆逐艦「スタレット」を訪れたジョン・リチャードソン米海軍作戦部長(出所:米海軍、2017515日撮影、U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Byron C. Linder/Released)

 トランプ大統領は大統領選挙中に「350隻海軍」の建設を選挙公約に掲げた。すなわち100隻近くの主要戦闘艦(航空母艦、駆逐艦、潜水艦など)を「アメリカの鉄で、アメリカの技術で、アメリカの労働者によって」建造することにより、世界中に睨みを効かすことができる大海軍を再興して、「偉大なアメリカ」を取り戻そうというのである。トランプ政権同様にアメリカ海軍も、主要艦艇数を2040年頃までに355隻に増加させる方針を打ち出している。
 しかしながら、米国にはもはや一刻の猶予も許されないようだ。先週517日に公表された白書『将来の海軍』において、ジョン・リチャードソン米海軍作戦部長(米海軍軍人のトップ)は、355隻海軍を2040年頃までに達成するという現在の目標では遅すぎる、と指摘している。
「絶対に必要」な大海軍の構築
 リチャードソン提督によると、アメリカ海軍の主たる仮想敵である中国海軍やロシア海軍は猛スピードで海軍力増強に努めている。たとえば中国海軍は2016年だけで18隻もの戦闘艦艇を就役させている。ロシア海軍も新型攻撃原潜をはじめ近代的な艦艇をどんどん生み出している。また北朝鮮やイラン、それにテロリストによる海洋での脅威も高まっている。
 したがって、「355隻海軍の完成は2040年」などと悠長なことは言っておられず、大幅に前倒しする必要があるというのだ(下の図)。


リチャードソン海軍作戦部長が唱える355隻海軍構築計画の前倒しと予算増加(『将来の海軍』より)
 また海軍作戦部長は、数だけではないと強調する。現在のテクノロジーレベルで355隻海軍を誕生させても威力はなく、多くの技術革新を盛り込んだ最先端技術を投入しなければ、それらの脅威に立ち向かうことはできない。そして、軍艦建造だけではなく、海軍の作戦概念に関しても新機軸が求められている。
 このように、リチャードソン海軍大将は、トランプ政権が選挙公約として掲げてきた大海軍構築は絶対に必要であり、さらには、よりスピードアップして、数だけでなく質的にも優れた大海軍を誕生させなければならないことを指摘している。
355隻でも足りない
もちろん海軍力は艦艇の数だけで決定されるわけではない。艦艇の性能、そして海軍戦略や作戦概念の内容、それに人的資源の質などを総合しなければ海軍力の強弱は計れない。とはいうものの、艦艇の数は海軍力の基本中の基本である。
 いずれの国の軍艦も、それぞれの国土の延長である。たとえば、アメリカ海軍軍艦は小さいながらもアメリカ領土であり、海上自衛隊軍艦は日本領土であり、人民解放軍海軍軍艦は中国領土である。そのため、平時において軍艦を海外に展開させているということは、それだけ自国の力を海外に見せつける、すなわちプレゼンスを示すことになる。いずれの海軍にとっても、プレゼンスを示すことこそが、戦闘に勝利することに次いで重要な役割ということができる。そして平時におけるプレゼンスを示すためには軍艦の数が決め手になる。
 そのため、有力なシンクタンクは「462隻は必要」という艦艇数を提示している。また、筆者の周辺の海軍関係者の中には「500隻でも少ないくらいだ」と主張する者もいる。そして、リチャードソン海軍作戦部長と同じく、可及的速やかに海軍力を増強させる必要がある、という点では一致している。
間もなく米海軍を上回る中国海軍
アメリカ海軍がスピードアップして大海軍を建設する必要性を力説している最大の理由は、中国海軍の飛躍的な強大化を大きな脅威に感じているからに他ならない。
 もちろん、中国海軍だけでなくロシア海軍も強力化しつつあるし、その他の海洋における様々な脅威や、世界的人口増加に伴う国際海運量の爆発的増大にも海軍は対応しなければならない。とは言っても、当面の問題は、猛烈なスピードで戦力強化を進めつつある中国海軍だ。
多くの米海軍関係者たちは「2030年までには、アメリカ海軍は中国海軍に対して数的劣勢に陥ってしまう」と考えている。例えば、2020年までに中国海軍はイギリス海軍、ロシア海軍、海上自衛隊、インド海軍を完全に凌駕して世界第2の海軍の地位を得る。それとともに、兵力6000名近くの海兵隊(海軍陸戦隊)を世界中に送り込む、アメリカに次ぐ世界第2の水陸両用戦力をも保有することになる。
そして2022年には、主力水上戦闘艦数において中国海軍はすでにアメリカ海軍を上回るとも推測されており、さらに2030年までには中国海軍の海軍部隊展開能力がアメリカ海軍のそれを確実に上回るとみられる。
 したがって、一刻も早く355隻あるいはそれ以上の規模の海軍を造り上げなければならない状況になっているのである。
現実的には困難な大海軍の構築
しかしながら大海軍構築に賛成する立場の人々からも、はたして現実的に350隻あるいは355隻海軍を誕生させることができるのか? という疑問の声が上がっている。というのも、トランプ政権が打ち出している国防予算のレベルでは、速やかに多数の軍艦を建造していくことなど不可能だからだ。
 また、国防総省は、軍艦建造などの長期的な兵器調達計画の見通しを提示する『将来の国防計画』というレポートを提出できない状態に直面している。その大きな原因は、人事が遅れていることにある。つまり、マティス国防長官を直接補佐し、この種の長期計画の責任者たる国防副長官も、海軍の長である海軍長官もいまだに決定していないのだ(それだけでなく、国防総省の数多くの高官人事も決定していない)。
 さらに悪いことに、アメリカの軍艦建造能力が質的に低下しているという問題も大海軍構築に暗い影を投げかけている。今後アメリカ海軍も含めて世界の海軍で必要とされる小型水上戦闘艦の設計能力が、アメリカの軍艦建造メーカーに欠けており、海外のメーカーの助力を仰ぐ必要があるのではないか? と危惧している海軍関係者たちは少なくない。


艦艇設計能力の低下を露呈させたLCS-1フリーダム()LCS-2インディペンデンス(右)
米海軍力を補強できる日本
そもそも「中国海軍に対抗する」いう目的に絞るならば、アメリカ海軍が単独で中国海軍を圧倒する必要はない。海上自衛隊やオーストラリア海軍などとの連合海軍力により圧倒すればよいのだ。
 今後、アメリカ海軍やトランプ政権は、上記のように大海軍の構築に時間がかかる現実を見据え、同盟国の中では強力な海軍力や軍艦建造能力を有する日本の助力を期待してくるはずである。
 日本としても、東シナ海情勢、そして南シナ海情勢に対応して海洋戦力を増強しなければならない状況に直面していることは周知の事実である。
 したがって、日米同盟の強化を常に口にしている以上、日本政府は海上自衛隊の人員数や艦艇数の増強(もちろん国防予算の国際水準化が必要になる)を本腰を入れて推し進め、同時に、アメリカに欠落している最新鋭小型戦闘艦艇開発技術(日本のメーカーには優れた技術力が存在している)の供与などの協力も行い、海上自衛隊とアメリカ海軍がトータルで中国海軍の脅威を跳ね返すだけの戦力の構築を即刻開始する必要がある。
《維新嵐》実はアメリカ海軍は対中戦略において、艦艇が足らなかったんですね。海上自衛隊との共同作戦は、艦艇数の不足による海上打撃力の補填もあるのでしょうか。人民解放軍と同じ土俵にあがる愚は犯してはいけませんが。


世界で最も強力な原子力空母

海自「いずも」と「さざなみ」、米ミサイル駆逐艦と巡航訓練を実施


配信日: 19:53
http://flyteam.jp/airline/japan-maritime-self-defense-force/news/article/79743
ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」 DDH-183

海上自衛隊は2017526()から527()まで、南シナ海で日米共同巡航訓練を実施しました。参加部隊は、海自のヘリコプター搭載護衛艦「いずも(DDH-183)」、護衛艦「さざなみ(DD-113)」で、2隻とも515()にシンガポールで開催されたシンガポール海軍主催の国際観艦式に参加しました。


アメリカ海軍は、ミサイル駆逐艦の「デューイ(DEWEY, DDG-105)」で、MH-60R2機搭載可能です。3隻で各種の戦術訓練を実施したとも発表されています。詳しくは、海上自衛隊のウェブサイトを参照ください。

海上自衛隊ホームページ

《維新嵐》我が国の海上自衛隊は、形こそ旧海軍の延長ということになっていますが、そもそもそのドクトリンは全く違いますね。空母を中心に「ブルーウォーターネイビー」として作戦行動できた旧日本海軍に比べて、戦後の海上自衛隊は「ブラウンウォーターネイビー」。米海軍と共同作戦を行うことを前提として構築され、そのドクトリンも「対潜水艦哨戒、攻撃」に特化されています。最初からアメリカ海軍と連携するように設計されているならば、アメリカ海軍を「補填」することに何の問題もありません。
 我が国の「真正保守派」といわれるみなさんは、何がなんでもアメリカを脱却した軍隊を作りたがる傾向がありますが、日米戦争で、我が国の海上戦力は徹底的に「破壊」され、軍部は「無条件降伏」しております。この反省の土台にたって海自は再建され、アメリカの外郭の国防線を守る海軍になった経緯がありますから、この形をトランスフォームすることは、アメリカへの防衛義務に抵触してくることもあり、事実上難しいでしょう。
 我が国の領海、領空を守ることが、アメリカの国防線の防衛義務を果たすことにつながるわけです。