2017年の北朝鮮情勢を振り返る
核・ミサイル開発は実際どうなっている?
礒﨑敦仁 (慶應義塾大学准教授)
澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)
澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)
2017年12月25日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11498
公募で決まる2017年の「今年の漢字」は「北」だった。理由の筆頭に挙がったのは、たび重なるミサイル発射や核実験といった北朝鮮の動向だ。北海道上空を飛び越える軌道でミサイルが発射され、Jアラート(全国瞬時警報システム)のサイレンが鳴り響いたのも今年だった。年末に発表された内閣府による「外交に関する世論調査」では、北朝鮮への関心事項のトップが「ミサイル問題」(83.0%)となり、「日本人拉致問題」(78.3%)を上回った。拉致問題よりミサイル問題への関心度の方が高くなったのは、日本と北朝鮮の関係が調査項目に入った2000年以降で初めてである。1月に就任したトランプ米大統領は金正恩国務委員長を「ちびロケットマン」と呼んで挑発し、金正恩委員長はトランプ大統領を「老いぼれ」とあざけった。
(提供:KCNA/UPI/アフロ)
今までなら一笑に付されていたであろう「米国による先制攻撃」も、トランプ氏ならばあるかもしれないと繰り返し心配された。12月になってからも「金正日国防委員長の命日である17日に開戦」だとか、「クリスマス休暇で在韓米軍の家族が帰った時があぶない」などという説がとなえられたほどだ。国連安全保障理事会が採択した制裁決議の本数を見ても、北朝鮮をめぐる危機が昨年から急速に深刻化していることを読み取れる。北朝鮮が初めて核実験を行った2006年からの10年間に4本だった制裁決議が、昨年は2本、今年は4本となった。この2年間で、それ以前の10年間の1.5倍というペースである。北朝鮮をめぐる危機が深まった2017年という年が暮れる前に、この1年を振り返っておきたい。
初のICBM発射、北海道上空越えのミサイルも
1月20日に就任したトランプ米大統領は、事前の予想を覆して北朝鮮の核・ミサイル問題を重視する姿勢を見せた。北朝鮮の核問題に対応してきた過去25年間の歴代政権が取ってきた政策をすべて失敗だったと決め付け、軍事行動を意味する「すべての選択肢」を強調する強い姿勢だった。実際の政権としては、強い圧力をかけることで北朝鮮を交渉の場に引き出すことを主軸とし、そのために軍事力を見せつけるというのが基本方針だ。しかし、大統領自身がしばしば軍事力行使をにおわせる不規則発言(ツイート)を繰り返した。北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返したことに加え、トランプ氏のこうした姿勢が危機感を増幅させた面は否定しがたい。北朝鮮では2017年、「3・18革命」と「7・4革命」という言葉がけん伝された。
2017年3月18日には金正恩委員長の指導の下でミサイルの新型エンジンの燃焼試験に成功したとされる(「3・18革命」)。そして、7月4日には初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「火星14」のロフテッド軌道での発射を成功させた(「7・4革命」)。この日は米国の独立記念日であり、金正恩委員長はICBM発射を米国への「贈り物」と称した。金正恩委員長はこの際、「今後も大小の『贈り物』を頻繁に贈ろう」と語った。その言葉通り、7月28日に「火星14」を再びロフテッド軌道で発射した。
8月29日と9月15日には北海道上空を通過させて中距離弾道ミサイル「火星12」を発射した。この時には、高い角度に打ち上げて飛距離を抑えるロフテッド軌道ではなく、飛距離を伸ばす通常の軌道での発射だった。さらに11月29日には米国本土に届く飛距離を持つICBM「火星15」をロフテッド軌道で発射した。この間の9月3日には、広島型原爆の約10倍という威力の核実験(6回目)を強行している。
「核戦力完成」宣言の意味するものは何か
11月の「火星15」発射について、日米韓では弾頭部の大気圏再突入技術に依然として問題を抱えている可能性が指摘されたが、北朝鮮は「大成功」だったと規定。「(経済建設と核開発を同時に進めるという)並進路線を忠実に支えてきた偉大で英雄的な朝鮮人民が獲得した高価な勝利である」と宣言された。注目すべきは、この勝利宣言が「朝鮮民主主義人民共和国政府声明」という形式だったことだ。「政府声明」は、金正恩委員長自らの言葉や声明に次ぐ重みを持っている。そして、昨年来の核・ミサイル開発加速の起点と言える2016年1月6日に行われた4回目の核実験を受けて「核抑止力を質量ともに絶えず強化していくだろう」と宣言したのも「政府声明」だった。
北朝鮮は2016年1月の核実験後、「核抑止力の強化」をうたった政府声明を実践するかのように核・ミサイルの開発を急いできた。そして、2017年11月の「火星15」発射でICBMが「完成」したとされ、政府声明によって「(金正恩委員長が)ついに国家核武力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現されたと矜持高く宣布」したことが明らかにされた。
二つの「政府声明」はセットであると考えることができる。2016年1月の「政府声明」で自ら宣言した核・ミサイル開発が到達点に至ったとの自己評価を翌年11月の「政府声明」で行ったということだ。実際には、弾頭部の大気圏再突入などの技術的課題が残っているだろう。とはいえ、北朝鮮自身が核抑止力を確保したと国家レベルで宣言したことは、政治的判断として一つの区切りにしたことを意味する。今後は、経済を立て直すための外交攻勢を仕掛けてくる可能性もありそうだ。
「戦争危機の4月」も北朝鮮は平穏だった
北朝鮮の核・ミサイル開発が由々しき問題であることは間違いないが、日本では危機感が実態以上に伝えられることの多かった一年でもあった。戦争の危機説が騒がれた4月の状況が好例だろう。トランプ大統領が空母「カールビンソン」を朝鮮半島近海に派遣すると語り、日本では米国による先制攻撃の可能性が声高に語られた。
だが、北朝鮮側はいたって平静だった。4月11日には国会にあたる最高人民会議が事前予告通りに開催され、金日成主席生誕105周年だった15日には平壌で閲兵式(軍事パレード)が行われた。どちらの行事にも金正恩委員長が出席している。金正恩委員長が雲隠れせず予定通りの日に予定通りの場所に現れたということは、米国からの攻撃は無いと読んでいたことになる。
最高人民会議では19年ぶりに外交委員会が復活した。最高人民会議を前後して幹部たちが金正恩委員長の代わりに行った演説は、北朝鮮のレトリックとしては普段の攻撃性を自制したものであった。しかし、そのような動きはインパクトが少ないばかりか理解しづらい。さらに、北朝鮮は非論理的で暴走しているという思い込みにも合致しないためか、日本では大きく報道されなかった。
9月3日の核実験に際しては、党政治局常務委員会が実施を決定したとされた。金正恩氏を筆頭にした政治局常務委員会は序列5位までの最高幹部が名を連ねる組織だが、実際に開催されたのは初めてとみられる。『労働新聞』はこの時の会議について、核実験だけでなく経済問題も討議されたことを示唆した。経済や外交の担当者を含む委員会での決定という形式を取ったことも、軍事以外も重視する色合いを出そうとした可能性がある。
経済と外交重視の大型人事を10月に実施
経済や外交に重心を移そうとする動きは、10月7日に開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第2回全員会議で行われた大規模な人事からも読み取れた。政治局構成員の4分の1程度、各分野の実務を担う党中央委副委員長の半数弱、党中央軍事委員会委員の3分の1程度が交代したと推測される規模だ。米朝間の緊張が高まっているにもかかわらず、軍人の登用はほとんどなく、むしろ経済や外交の実務家が引き上げられた。その内容からは、核抑止力の確保に自信を持ったことを受けて、経済建設と核開発を同時に進めるという金正恩政権の公式方針である「並進路線」の中で経済建設に重点を移そうとしている様子が見受けられた。なお、金正恩委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏はこの時、中央委員から政治局候補委員に昇格した。長老格の金己男(キム・ギナム)党宣伝扇動部長や崔泰福(チェ・テボク)最高人民会議議長は円満に引退している。
実際に9月下旬からは金正恩委員長の動静報道が軍部隊への視察ではなく経済関連の活動ばかりとなった。ロシアへ外務省北米局長を派遣したり、国連事務次長を平壌に招いたりといった外交的な動きが見られるようにもなっている。
一方、金正恩委員長は2017年元日の「新年の辞」で「北南関係の改善」を訴え、10年前に金正日国防委員長と盧武鉉大統領との間で署名された南北共同宣言(「10・4宣言」)に言及したが、南北関係に大きな動きはなかった。
韓国では北朝鮮との融和路線を志向する進歩派の文在寅政権が誕生したが、北朝鮮の核・ミサイル開発が急速に進展する中では日米の圧力路線に同調するしかないという韓国側の事情があろう。ただ、北朝鮮は過去にも韓国の政権が南北対話を望む場合にはむしろ、最初は相手をじらすという戦術を取ってきた。南北関係改善を望む文在寅政権のスタンスは一貫して維持されると考えられるため、南北関係は今後、金正恩政権の判断次第で動きうるだろう。
金正男氏殺害事件と米国によるテロ支援国家再指定
核・ミサイル実験とともに耳目を集めたのは、2月13日に発生した金正男氏殺害事件であろう。金正恩委員長の異母兄である金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害された。犯行には猛毒の神経剤「VX」が使われた。
マレーシア当局の捜査によって北朝鮮の情報機関による犯行である可能性が強いと判断されたが、北朝鮮側はいっさいの協力を拒否した。実行犯のベトナム人女性とインドネシア人女性はマレーシア当局に逮捕され、裁判が進められている。この事件によって、それまで親密な関係を保ってきた北朝鮮と東南アジア諸国との関係は冷却化し、東南アジアでの北朝鮮イメージは悪化した。
なお、金正男氏は「キム・チョル」名義の北朝鮮旅券を持って海外に滞在していたことから、北朝鮮では「キム・チョル事件」と呼ばれ、事件への関与は全面否定されている。
トランプ大統領は、この事件を根拠に北朝鮮をテロ支援国に再指定した。もともとは1987年11月の大韓航空機爆破事件を受けて1988年1月に指定され、2007年2月の六カ国協議での合意を受けて2008年10月に指定解除されていたものである。北朝鮮国内では、2013年12月の張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の処刑以来、側近幹部への粛清はやや落ち着いたように見えていたが、最近は引き締めの動きが再び伝えられる。
2017年11月20日には韓国の情報機関・国家情報院が、党組織指導部による朝鮮人民軍総政治局への思想点検の結果として黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長や金元弘(キム・ウォンホン)第1副局長らが処罰されたと韓国国会に報告した。黄炳瑞氏は権力序列で5位以内に入っていた最高幹部の一人である。ただし、北朝鮮では処罰として農場などに送られた幹部が一定期間の後に復権することも珍しくない。「革命化教育」と呼ばれるものだ。経済制裁によって北朝鮮の態度を変化させることはできていないが、同国の経済に少なからぬ影響が出てきていることは、各種声明や『労働新聞』などによる反発ぶりからも想像に難くない。11月頃からは、十分な燃料を持たぬまま木造漁船が沖に出て日本の沿岸に漂着するという事件も多発した。11月13日には板門店の共同警備区域(JSA)で北朝鮮軍人が韓国に亡命する事件も発生している。韓国に亡命する脱北者数自体は昨年より減少傾向にあるため、象徴的な事件だけをもって北朝鮮社会全体の変化を語ることはできないものの、年末には金正恩委員長指導のもと約5年ぶりに「党細胞委員長大会」が開催され、国内の引き締めが図られた。
金正恩委員長は毎年、元日に「新年の辞」という演説を行う。軍事から経済、外交までを包括した内容で、いわば北朝鮮版の施政方針演説である。「核武力完成」を宣言した金正恩委員長が何を語るのかは、2018年の北朝鮮情勢を占う大事な材料になる。
〈管理人です〉どうしても米朝「主戦論」が今の主流です。確かに「アメリカンファースト」を掲げて誕生したトランプ政権ですし、イスラエルの首都にエルサレムを認めましょう、と至極アメリカの論理では当たり前な意見ながら、デリケートな論理をサラリといわれる大統領ですから、アジアでのアメリカの大切な利権の安全を保障するため、米本国への軍事的脅威の回避のために「悪のテロ支援国」北朝鮮を成敗することは、今すぐにでもあり得ることではありますが、そうなった時に北朝鮮はどう反撃するのか?我が国にはどういう作戦をとってくるのか?リアルに主張される方々は少ないように感じます。
高橋洋一が語る「北朝鮮問題は春までに開戦or北朝鮮のギブアップ」が不思議ではない2つの根拠
SPA!
【高橋洋一】
すでに「アメリカによる攻撃のカウントダウンが始まっている」といわれる北朝鮮情勢。2017年夏以降、毎月のようにミサイルが発射され、その飛距離が徐々に伸びている状況を見ると、さすがに「今回ばかりは、戦争も避けられないかも」と思ってしまう。しかし同時に、お隣の韓国がさほど気にしていないところを見ると「まぁ、いつものことか。大丈夫だろう」とも思える。
「米朝戦争は目前」と煽るマスコミもあるが、実際、戦争が起こるなんてことはあるのだろうか?「開戦か北朝鮮のギブアップか、来年の春には、結果が出ているんじゃないでしょうか。個人的には、アメリカが北朝鮮を攻撃する確率が、きわめて高いと思っていますが」
そう語るのは『朝鮮半島 終焉の舞台裏』の著者で、数量政策学者の高橋洋一氏だ。「ここまで条件が揃ってしまうと、そう言わざるを得ない」と続ける氏に、その根拠の内容を聞いてみた。
◆でっちあげてでもアメリカは北朝鮮を攻撃する
その根拠の一つに「北朝鮮のミサイル開発が、急速に進展している」ことがあると高橋氏は語る。
「11月に発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星15』は、米メディアの報道によると『大気圏への再突入に失敗し、途中で分解した』とのことでしたが、飛距離だけでいえば1万3000kmと、すでにニューヨークを射程内にとらえています。専門家の間では『1年以内に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の再突入技術は確立されるだろう』と言われていますが、今の開発スピードを考えれば、もっと早いかもしれません。
アメリカにしてみれば、当然、本国に届くミサイルが完成する前に、北朝鮮を叩かなければならないわけで、そうなると春くらいまでには攻撃をせざるを得ない。『核拡散を防ぐ』という大義名分もありますしね」
やられる前にやる、というわけだ。しかし北朝鮮には、中国やロシアなど旧東側諸国がバックについている印象がある。たとえアメリカでも、そう簡単に手出しできないのではないだろうか?
「たしかに中国やロシアにとって、対西側諸国の防波堤として、北朝鮮は重要な存在でしたが、もはや手に負えない存在になっています。今でこそ韓国や日本、アメリカに向けられているミサイルが、いつ自国に向けられるとも限りません。それに、戦火を逃れた武装難民が国内に流入すれば、それこそ厄介。特に陸続きの中国は、この状況は避けたいはず。
過去に北朝鮮への制裁決議に中国やロシアが反対しなかったこと、残された追加制裁の内容が全面禁輸ぐらいしかないことを考えても、武力行使に反対する可能性は低いでしょう。また、仮に反対にあった場合でも、アメリカは国連を動かすことなく、単独でも行動に移すでしょう。なぜなら、アメリカは『そういう国』だからです」
国際的な正当性を得るためには、国連決議がベストである。しかしこれには、中国やロシアを含む常任理事国の全会一致が必要となる。万が一、ロシアか中国が反対すれば「イラク戦争の時のように多国籍軍を結成し、何らかの口実を作ってでも北朝鮮を攻撃する」と高橋氏は続ける。
「いい悪いは別として、冷酷な事実を見なければいけない。そもそもアメリカは事件をでっち上げてでも、戦争をする国。ベトナム戦争でのトンキン湾事件はその典型だし、イラク戦争における大量破壊兵器も事実ではありませんでした。特にトランプ大統領は、大統領就任直後に単独でシリアを攻撃するなど「オバマ時代の弱腰外交とは違う」というところを見せつけようとしています。北朝鮮が挑発を繰り返し、火に油を注ぐような行動をとれば、たとえ本国に届く核ミサイルが完成されなくても、アメリカは軍事オプションを行使するでしょう」
◆北朝鮮は約束破りの常習犯
本国に届く核ミサイルができる前に、アメリカは北朝鮮を攻撃する。これは、わかった。しかし、そうなる前に対話によって解決はできないのだろうか?
「たしかに、それが一番いいですね。でも、実際は難しいでしょう。というのも北朝鮮は、国際社会で何度も約束を反故にしてきたからです。最近だとオバマ時代に、核実験停止などの見返りに食糧を提供する約束(『2・29合意』)を反故にしたことがありました。今後もきっと同じことが起こる。そもそも北朝鮮には、国際社会の約束事を守る気なんて、これっぽっちもないんです」
付き合えば、バカを見る。それが北朝鮮という国なわけだ。とはいえ、アメリカではなく、中国かロシアが話をすれば、なんとか話になるのでは?
「それも無理でしょう。さっきお話したように、北朝鮮はもはや誰もコントロールできない国になっています。金正恩は中国の使者を門前払いだし、そもそも習近平主席は、金正恩に会ったことがない。ロシアにしても、首都からはるか東の揉め事が盛り上がってくれれば、国際社会の目がクリミア問題から離れてくれるので好都合なはず。あえて、半島情勢に口出しはしないでしょう。
それと一応言っておくと、民族主義で有名な韓国の文在寅大統領も、大統領就任当初こそ、北朝鮮との対話に意欲的でしたけど、人道支援で国際社会から大ブーイングを受けたあとは、さすがに諦めたみたいです」
◆注視すべきは半島崩壊後の国際情勢
北朝鮮という国、それを取り巻く周辺諸国の事情を考えると、米朝戦争は、もはや避けられないようだ。しかし、北朝鮮より警戒するべき国があると高橋氏は続ける。注視すべきは「米朝戦争ではなく、その後の半島情勢」だと言う。
「世間では、北朝鮮のミサイル、それが引き金となる米朝戦争勃発が話題になっていますが、アメリカや中国をはじめとする当事国の間では、すでにポスト金正恩体制について、話し合いが行われているはずです。つまり、金正恩体制崩壊後、どの国が北朝鮮を統治するのか。そのことが今後、非常に重要になってきます。おそらくは、中国が傀儡政権を置き、統治することになるのでしょうが、朝鮮半島の半分を手に入れることにより、東アジアでの中国の力はますます大きくなるでしょう。
習近平主席は党総書記に就いた直後、「中国の夢」というスローガンを掲げ、建国から100年にあたる2049年までに「社会主義の現代化した国家」を目指すとしています。これは、列強に半植民地化されたアヘン戦争以前の大国の地位を取り戻すことだと解釈できます。この中国に対し、日本はどう対応していくのか? 米朝戦争よりも、実はこのことが今後、大きな問題になってくると私は見ています」
攻撃態勢に入っているアメリカ海軍
それに対して北朝鮮はどう反撃(防衛)作戦をとるか?
朝鮮半島上空で電磁パルスが発生したら我が国や韓国の経済にどう影響がでるのだろうか?
反撃の矢面に立つ日韓、軍事的な「守れる」の意味は?
2017年10月18日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10855
安倍晋三首相は、北朝鮮問題への対応について「すべての選択肢がテーブルの上にあるという米国の姿勢を一貫して支持する」と繰り返す。「すべての選択肢」には軍事力行使が入る。ただ合理的に考えれば米国、北朝鮮とも先制攻撃には踏み切れない。北朝鮮の反撃で日韓が被る被害の大きさは米国の行動を縛るし、北朝鮮にとっても全面衝突は体制崩壊に直結しかねないからだ。とはいえ、全面的な石油禁輸という制裁に直面した戦前の日本が無謀な対米開戦に踏み切ったり、欧州各国の誤算によって第1次世界大戦に発展したり、という例もある。日本の取るべき姿勢を考える一助とするために、これまで主に米国で行われてきた武力行使に関するシミュレーション結果などをまとめてみた。
なお、シミュレーションでは大きく取り上げられていないものの、実際には韓国に在留する外国人の数も考慮すべき点となる。経済成長とグローバル化の進展に伴って、冷戦終結後に急増してきたからだ。第1次核危機で戦争になることが懸念された1994年には9万6000人しかいなかった定住外国人が、現在では100万人を大きく上回るほどになった。武力衝突の影響を受けると予想される首都圏在住者が半数を超える。韓国統計庁によると、昨年の国別内訳は日本5万人、米国14万人、中国102万人(うち中国籍の朝鮮族63万人)である。
東京とソウルで死者210万人は「頭の体操」
米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮分析サイト「38ノース」が10月4日に公表した予測は衝撃的だった。北朝鮮が核ミサイルで反撃したら「東京とソウルで計210万人が死亡」というものだ。これは、(1)北朝鮮の保有する核兵器は25キロトン級の25発、(2)米軍の攻撃を受けた北朝鮮が25発すべてを東京とソウルに向けて発射、(3)発射されたミサイルのうち80%がMDによる破壊(迎撃)を免れて標的の都市上空で爆発——という3段階の仮定を重ねたものだ。
核兵器については15kt~250ktの7通り、MDによる迎撃に失敗して爆発に至る確率は20%、50%、80%の3通りとして、計21パターンを試算している。その中から代表的なものとして紹介されたのが、上記の「210万人死亡」だ。とはいえ、もっとも被害が少ない想定である「15キロトン、迎撃失敗の確率20%」という試算でも死者数はソウル22万人、東京20万人である。日韓両国を狙うミサイルには既に、核弾頭を搭載できる可能性が高い。「頭の体操」とはいえ、現実味がないと切り捨てるのは難しいだろう。
先制攻撃を真剣に準備した米軍
米軍による北朝鮮攻撃が議論されるのは今回が2回目だ。前回は第1次核危機と呼ばれた1994年春だった。この時は、板門店での南北協議で北朝鮮代表が「戦争になればソウルは火の海になる」と発言して大騒ぎになった。
米軍による同年5月の試算では、朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者が5万2000人、韓国軍の死傷者が49万人とされた。クリントン米大統領はこの報告を聞いて、武力行使ではなく外交努力を続けることを指示したが、その後も状況は好転しなかったため6月には再び武力行使の可能性が高まった。結局、個人の資格で訪朝したカーター元大統領が金日成主席(故人)から譲歩を引き出したことで武力行使は回避された。国防総省の6月の見積もりでは、韓国における民間人の死者は米国人8〜10万人を含む100万人だった。
韓国の金泳三大統領(故人)は、クリントン大統領との電話で武力行使に反対したと回顧録に記している。金泳三氏は「60万人の韓国軍は一人たりとも動かさない。朝鮮半島を戦場にすることは絶対にだめだ。戦争になったら、南北で無数の軍人と民間人が死に、経済は完全に破綻して外資もみんな逃げてしまう。あなたたちにとっては飛行機で空爆すれば終わりかもしれないが、北朝鮮は即座に軍事境界線から韓国の主要都市を一斉に砲撃してくるだろう」と訴えたという。もっとも当時は「核危機」とはいっても核開発を疑われるというレベルの話であり、ミサイルにしても日本を射程内に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」の開発を急いでいるという段階だった。
ソウルは「火の海」になるか
北朝鮮軍の砲撃に着目した分析には、米ノーチラス研究所が2012年に発表した報告書「Mind
the Gap Between Rhetoric and Reality」がある。米陸軍の退役軍人である専門家による分析で、「北朝鮮はソウルを火の海にはできない」と結論づけた。ただし、それは「ソウルに被害が出ない」という意味ではない。何万人かの犠牲は出るが、それは「火の海というほどではない」という内容だ。英語で「collateral damage(付随する損害)」と呼ばれる民間人の巻き添え被害は、どんな軍事作戦でも避けがたい。そうした軍事的な常識が背景にある。一般的な日本人が持つであろう「被害」という言葉との認識ギャップには注意すべきだ。
試算は、ソウルに被害を与える北朝鮮の装備として240ミリ多連装ロケット砲(射程35km)と170ミリ自走砲(同60km)を挙げる。そして、(1)240ミリ多連装ロケット砲の射程に入るのはソウル市の北部3分の1程度、(2)すべての装備を一斉に稼働できるわけではない、(3)ソウルには2000万人分の退避場所(地下鉄駅や地下駐車場などが指定されている)があるので、最初の一撃を受けた後には多くの人が退避施設に入って難を逃れる、(4)北朝鮮軍の砲弾の不発率は25%程度に達する、(5)米韓両軍の反撃によって北朝鮮の野砲は1時間に1%という「歴史的」なペースで破壊される——などと想定した。
それによると、北朝鮮がソウルを標的に攻撃をしかけてきた場合、最初の一撃で3万人弱、24時間で約6万5000人が死亡する。北朝鮮の装備は数日で沈黙させられることになるため、1週間後でも死者数は8万人と見積もられた。この程度では「火の海」とは呼べないということだ。ただし、韓国は240ミリ多連装ロケット砲の射程をソウル全域に到達可能な60kmと考えている。しかも韓国の16年版国防白書によると、北朝鮮は射程200kmに達する新型300ミリ多連装ロケット砲の配備を始めている。この試算が行われた時には存在しなかった兵器である。
イラク戦争の5倍の爆撃が必要に
米国の雑誌「アトランティック・マンスリー」が、米国防総省やCIA、国務省の元高官といった専門家に依頼して2005年に行ったシミュレーション「North
Korea: The War Game」もある。専門家による討議の結果をまとめたもので具体的な数字の根拠が示されているわけではないが、参考にはなるだろう。この時点で最も問題視されていたのは、北朝鮮からテロリストへの核兵器や核物質の「移転」だった。
激しい議論となったのが、ソウルの被る被害だ。国防総省傘下の国防大学で軍事模擬演習を専門としてきたサム・ガーディナー大佐は、「ソウルを保護するためには最初の数日が非常に重要だ」と説明した。ソウルを守るためには、北朝鮮の化学兵器、ミサイル関連施設、核兵器関連施設を北朝鮮側が使おうとする前に攻撃しなければならない。そのため初日には、イラク戦争の5倍となる4000回の爆撃出撃(1機が出撃に出て戻るのを「1回」と数える)が必要になるという。これには元国務省幹部が「少なくとも最初の24時間、おそらく48時間はソウルを守ることはできない」と反論。割って入った退役空軍中将が「ソウルを『守る』ことと、ソウルが被る被害を『抑える』ことは違う。多くの人が死ぬが、それでも勝利する」と指摘し、ソウルでの死者を「10万人か、それより少ない」人数に抑えられるという見通しを示した。
1日4000回の爆撃出撃を行うと仮定し、ソウル攻撃の主力となる北朝鮮軍の長射程砲が最前線地帯に集中しているという事実や米軍の爆撃力を勘案すれば、ソウルでの人的被害を減じられるという主張だ。同誌は「ソウルは保護されると保証できないというのがコンセンサスとなった」とまとめるとともに、初期の韓国側死者を10万人に抑えられるという意見も出たと記した。これは、北朝鮮による最初の核実験の前年に行われたシミュレーションだ。通常兵器に関しても、この約10年後に配備が始まった300ミリ多連装ロケット砲は射程が200kmあるので、必ずしも最前線に集中配備する必要はない。米軍側には不利な要素である。
「アメリカ・ファースト」への疑念
最後に英国の王立防衛安全保障研究所が今年9月末に発表した報告書「Preparing
for War in Korea」だ。「戦争が現実に起きる可能性がある」と懸念する報告書は、戦争が起きた場合には甚大な人的被害が出るとともに、世界経済にも大きな影響を及ぼすという見通しを示した。韓国はいまや世界11位の経済だ。韓国メーカーの半導体や液晶は世界中に供給されており、サムスン電子の有機EL液晶がなければiPhone Xの生産もままならない。韓国の産業が被害を受ければ、サプライチェーンに与える影響は計り知れないのである。
北東アジアの安全保障環境に与える影響も大きい。ソウルで予想される被害の大きさを考えれば当然だろうが、韓国の文在寅政権は先制攻撃には明確に反対している(保守派政権だったとしても賛成はできないだろう)。この点について報告書は「韓国の同意を取り付けないまま米国が先制攻撃に踏み切るなら、『ソウルを犠牲にしてニューヨークを守る』という意思の表明だと受け取られる。それは戦後処理の過程で、(在韓米軍撤退を求める)中国の圧力とあいまって、在韓米軍が撤退せざるをえない状況を生む可能性を高める」という見解を示した。
報告書は同時に「地域の同盟諸国への破壊的な攻撃をもたらしうるとしても、予見しうる将来の脅威から米国を防衛するため北朝鮮を攻撃するという決定はアメリカ・ファーストの最も顕著なデモンストレーションになるだろう」と述べた。
この文章での同盟国は、単数ではなく複数である。そして、北東アジアにおける米国の同盟国は日本と韓国しかない。米国の先制攻撃によって日本に被害が及んだ場合には、日米同盟も大きな試練にさらされることになるはずだ。
容認しうる武力攻撃シナリオはあるか
トランプ米政権の対応は、どうしても不透明さをぬぐえない。
ティラーソン国務長官やマティス国防長官は外交努力を尽くそうとする姿勢を明確にしている。頭ごなしに圧力をかけるだけで北朝鮮が屈服することなどないと分かっているから、金正恩体制を転覆する意図はないと誘い水を送っているのだ。トランプ大統領の乱暴なツイッターで台無しにされている感はあるが、米国の政策基調は「最大限の圧迫と関与(対話)」である。少なくとも現時点で武力行使に踏み切る兆候は見えない。
ただし、いざとなったら米国は攻撃に踏み切るのではないかと懸念する安全保障の専門家は少なくない。トランプ政権だからというのではない。米本土を核攻撃できる能力を北朝鮮のような国が持つことを米国は決して許さないだろう、という考え方だ。そうした人々からは、こんな想定を聞くことがある。たとえば、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射は決して許さないと明確にした上で、北朝鮮が発射準備をしたらミサイルだけを破壊する。同時に、「金正恩体制を問題にしているわけではない。ICBM開発をやめるなら交渉できる。報復攻撃をしてくるなら体制そのものを壊滅させる」と北朝鮮に伝える。そうすれば事態はエスカレートせず、うまく物事が進むと米国は考えるかもしれない。
北朝鮮にとって最優先の課題は「国体護持」と呼べる金正恩体制の生き残りだ。米国と本格的な戦争をして勝ち目がないことは北朝鮮だって認識しているから、国体護持を約束しておけば反撃してこないはずだ。そうした想定に立つ考え方である。一般的なイメージとは違うかもしれないが、金正恩体制も彼らなりの論理に基づいた合理的な選択をしてきている。その判断力を「信頼」しての想定であり、その通りに事態が動く可能性を期待することはできるだろう。それでも、北朝鮮が想定通りに反応する保証はない。
歴史上、圧力をかけられただけで屈服した国などないといわれる。北朝鮮に対する圧力を強めることは必要だが、それは交渉の場に引き出すための手段である。武力衝突が起きた場合、確実に犠牲になるのは韓国の人々であり、日本に住む我々も犠牲を強いられる可能性がかなり高い。戦後処理の過程で北東アジアの国際秩序が大きく、しかも日本にとって望ましくない方向に揺れる恐れも強い。そんな事態を招かないためには、わずかな可能性でも追及する外交努力を尽くすしかないのである。
〈管理人です〉「北朝鮮の暴発」論という「輿論戦」をしかけ、米朝戦争を誘発、南シナ海から目をそらさせる。どこかの国の戦略にのせられただけ、という可能性は?
インテリジェンスで核の使用を抑止できないでしょうか?
「北朝鮮暴発の危機」は中国のシナリオだった?
中国の海洋戦略が勝利を手にした2017年
北村淳
2017.12.28(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51961
シンガポールのチャンギ海軍基地のドックに入った、衝突事故による穴が開いたままの駆逐艦「ジョン・S・マケイン」(2017年8月22日撮影)。(c)AFP/Roslan RAHMAN〔AFPBB News〕
トランプ大統領は政権発足当初、大統領選挙期間中に公言してきた「対中強硬姿勢」を実現させる布陣を敷いた。反中的立場を鮮明にしていたバノン主席戦略官、中国警戒論者であるナヴァロ国家通商会議議長、それにティラーソン国務長官も「中国による南シナ海への軍事的進出は、物理的手段を用いてでも阻止する」と公言して憚からなかった。 そこで、中国指導部がトランプ政権の“中国強硬姿勢”を切り崩すための秘策として繰り出したのが「北朝鮮暴発の危機」シナリオであると、対中強硬派の米軍情報関係者たちの多くが考えている。
中国軍と北朝鮮軍は通じている
たしかに中国政府は、トランプ政権の要請や国連の決議などに対して、対北朝鮮制裁を実施する姿勢を示してはいる。しかしながら米軍情報関係者たちは、瀋陽の中国人民解放軍関連施設内に北朝鮮軍諜報機関の中枢が設置されていることを確認している。となれば、中国と北朝鮮の軍事的繋がりは依然として健在であり、中国政府による「対北朝鮮制裁」の動きが茶番に近いものであると考えるのは当然といえよう。
要するに米軍情報関係者たちは、「中国側は、北朝鮮による対米攻撃能力を備えた核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成を加速させ、トランプ政権による東アジア方面での軍事的脅威の関心を中国から北朝鮮に向けさせるように画策している」と考えているのだ。
実際に、習近平国家主席のアメリカ訪問と前後して、北朝鮮によるICBM完成のためのミサイル試射が始められた。そして、米中首脳会談での軍事外交問題における最重要議題の1つとなるものと考えられていた「南シナ海への中国の膨張主義的進出問題」は、「北朝鮮のICBM開発問題」に取って代わられてしまった。
「ポーズ」に過ぎないFONOP
アメリカ側としては、北朝鮮のICBM開発を外交的に抑制するためには、中国による影響力の行使を期待せざるを得ない。そのため、中国に対して南シナ海や台湾それに東シナ海などに関して強硬な外交的・軍事的姿勢を示すわけにはいかなくなってしまったのだ。
とはいっても、トランプ政権としては、大統領選挙期間中や政権スタート直後に唱えていた「南シナ海での中国による軍事的拡張行動を強力な手段を用いてでも牽制する」とういう公言を、フィリピンや日本などの同盟国の手前、即刻引っ込めるわけにもいかない。そこで、オバマ政権下で“形式的な対中圧力”として実施されていた「南シナ海での公海航行自由原則維持のための作戦」(以下「FONOP」)を、およそ7カ月ぶりに5月25日から開始した。
しかし、その内容は控えめなレベルに留まっている。実施ペースも、12月25日現在までの7カ月間に5回とオバマ政権時代の2倍になったとはいえ、米海軍の対中国強硬派が考えていたペースにははるかに達さないレベルである。要するに、オバマ政権同様に、トランプ政権も同盟諸国に対して「対中圧力をかけている」というアリバイを示すために、形式的なFONOPを実施しているに過ぎないのだ。
事故多発で自滅した米海軍
そのうえ、8月にFONOPを実施した米太平洋艦隊ミサイル駆逐艦ジョン・S・マケインが、FONOP終了直後にシンガポール沖で民間タンカーと衝突事故を起こし(8月21日)大破したうえ10名の乗組員が犠牲となり戦列を離脱してしまった。
この事故の2カ月ほど前の6月17日には、同じく米太平洋艦隊ミサイル駆逐艦フィッツジェラルドが伊豆沖で民間コンテナ船と衝突事故を起こして大破し、7名の乗組員の命を失った。アメリカ本土に持ち帰って大修理をするため1年以上戦列から離れなければならず、莫大な額にのぼる修理関係費用も必要となってしまった。
これらの大事故に加えて、トランプ政権発足直後の1月31日には、以前にFONOPに参加したこともある米太平洋艦隊ミサイル巡洋艦アンティータムが横須賀沖で座礁事故を起こした。また5月9日には北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えるため日本海に進出していた米太平洋艦隊ミサイル駆逐艦レーク・シャンプレインが小型民間船と衝突事故を起こしている。4件続いた軍艦の事故に加えて、11月22日には、北朝鮮を威圧するため日本海に派遣された米太平洋艦隊空母ロナルドレーガンから発艦した輸送機が墜落して、3名の搭乗員が行方不明となってしまった。このように、2017年にアメリカ海軍は東アジア海域で事故を頻発させて、何ら戦闘を行うことなく20名もの海軍将兵を喪失し、2隻の駆逐艦を戦列から離れさせてしまったのである。
こんな有様では、中国海軍に「アメリカ海軍がうろつくだけで、民間船をも危険な目に遭わせてしまう。とっとと東アジア海域から出ていけ」との暴言を吐かせるまでもなく、中国海軍に対する威嚇力が急激に低下していることは疑いの余地がない。
米海軍などの対中強硬派が類推しているように、中国指導部が裏で何らかの画策をしているのかどうかは定かではない。だが、トランプ政権が上記のように、中国の軍事的脅威に対する強硬姿勢を固める動きを引っ込めて、北朝鮮に焦点を絞り込むに至ったことは事実である。そして、米海軍太平洋艦隊が自ら引き起こした重大事故により、海軍の対中威嚇力は大きく鈍化してしまった。
さらに中国にとって願ってもないことが実現した。対中強硬姿勢で中国側にとっては“目の上のたんこぶ”的存在であった米太平洋軍司令官ハリス海軍大将が間もなく転出するのに加えて、ハリス司令官の後任と目されていた太平洋艦隊司令官スウィフト海軍大将が、一連の事故の詰め腹を切らされ早期退役に追い込まれてしまったのだ。スウィフト海軍大将は中国海軍にとってはやはり難敵であり、米海軍対中強硬派にとっては希望の星であった。
現時点で、ハリス大将とスウィフト大将の後任に、中国に対して断固たる姿勢を貫く強力な海軍将官が着任する見込みはないと言われている。まさに、中国海軍にとっては笑いが止まらない状況だ。
「輿論戦」でも勝利する中国
中国の南シナ海への膨張主義的海洋侵出にとって追い風となっているのは、北朝鮮ICBM開発危機とアメリカ海軍の自滅的退潮だけではない。トランプ政権やアメリカのメディアに加え、日本政府や日本のメディアも南シナ海問題には全くと言って良いほど関心を示していない、という傾向である。
中国が南シナ海を軍事的に支配してしまっても直接アメリカにとっての軍事的脅威とはならないため、南シナ海問題に対するアメリカの世論の関心は盛り上がりを欠いていた。しかし、日本政府やメディアの対応はアメリカと異なって然るべきである。日本は経済の生命線ともいえるシーレーンが南シナ海を縦貫しているという地政学的条件を抱えている。そして、中国の海洋膨張戦略の次の矛先は東シナ海なのだ。そもそも、北朝鮮のICBMは日本攻撃用の兵器ではない。また、北朝鮮軍が保有する100基あるいは200基以上ともいわれる日本攻撃用弾道ミサイルが日本に対して発射されるのは、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃した場合に限定される。ところが、日本政府や多くのメディアは、中国の軍事的脅威には目を背けて、もっぱら北朝鮮のICBM問題にのみ関心を集中させている。
まさに、中国指導部の思惑どおり──それ以上に、中国による膨張主義的海洋侵出からアメリカや日本の目をそらせることに成功したという、中国にとっての戦略的成功を収めたのが2017年であった。
〈管理人です〉北朝鮮暴発が共産中国の輿論戦であったとしても、北朝鮮による核弾頭開発の完成が成れば、これを外貨獲得の手段とすべく海外へ技術が移転され、潜在的、顕在的にも核保有国が拡大する恐れがあります。既存の核大国はこの地上最大の兵器である核兵器の平和利用と軍事利用の抑止をはかりながら、新興の核保有国には早い段階から保有自体の芽をつんでおくことも重要なことと感じます。
戦略爆撃論の延長線上にある大量破壊、殺戮兵器である核兵器は既に兵器としては「旧式兵器」です。しかし人類を何万回も滅亡させることの可能な悪魔の兵器は常に兵器として使わせないように、人類の福祉のために平和利用できるように監視
抑制することが不可欠でしょう。その先頭に我が国がなければ、広島や長崎で亡くなっていった方々はうかばれません。毒には毒をもって制す、ではなく「毒を使わせない戦略を考える」ことが現実的であるように思います。