中国・ロシア海軍合同演習の仮想敵は日本
「遺憾の意」の表明で状況を好転させることはもはや不可能
北村淳 2016.9.15(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47877
中国駆逐艦(上)とロシア駆逐艦
G20の終了を待ち構えていたかのように、中国が南シナ海と東シナ海での露骨な覇権確保行動を再開した。
南シナ海のスカボロー礁周辺では、予想を上回る早さでG20開催中から海警巡視船や作業船など10隻前後を展開させるという行動に出ている。
(本コラム「レッドラインを超えた?中国がスカボロー礁基地化へ」を参照 )。
(本コラム「レッドラインを超えた?中国がスカボロー礁基地化へ」を参照 )。
そして、2016年9月11日には予想通り、中国海警巡視船4隻が尖閣諸島周辺の日本領海内を90分にわたって航行した。引き続いて12日からは、中国海軍とロシア海軍の合同演習が南シナ海で実施されている。
初めて南シナ海で行われる中露合同演習
その演習とは、9月12日から8日間にわたって開催される「Joint
Sea 2016」である。
中露の合同海軍演習はこれが初めてではない。2012年には黄海で、2013年には日本海のロシア沿海域で、2014年には東シナ海で、2015年春には地中海で、2015年夏には再び日本海のロシア沿海域でそれぞれ開催された。しかし今回の演習は、初めて南シナ海で実施される演習であり、これまで以上に強い外交的メッセージを含んでいるという点で、大きな注目を集めている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47877?page=2
南沙諸島での人工島建設やそれらの軍事拠点化、西沙諸島への地対艦ミサイルや地対空ミサイルの配備、国際仲裁裁判所の裁定を無視する宣言、それにスカボロー礁の軍事拠点化に向けての動きなど、南シナ海での中国の覇権主義的な動きがますます露骨になっている。今回の演習もまさにその動きの一環と位置付けられる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47877?page=2
南沙諸島での人工島建設やそれらの軍事拠点化、西沙諸島への地対艦ミサイルや地対空ミサイルの配備、国際仲裁裁判所の裁定を無視する宣言、それにスカボロー礁の軍事拠点化に向けての動きなど、南シナ海での中国の覇権主義的な動きがますます露骨になっている。今回の演習もまさにその動きの一環と位置付けられる。
もっとも中国当局によると「Joint
Sea 2016」はあくまでも定期的な中露合同演習であって、特定の仮想敵や、特別の事象を想定してのものではない、としている。
だが、この種の軍事演習を実施するにあたっては、中国だけでなくアメリカにしろ日本にしろ似通ったコメントを発するため、「定期的な通常の演習」という言葉には何の意味もない。実際、北朝鮮の核実験を受けて、アメリカ軍と韓国軍による「特定の国を想定していない通常の合同演習」が、北朝鮮と中国の神経を逆なでする黄海で間もなく実施される。
中国側は、「中国の鼻先の黄海に空母まで繰り出して行われる米韓合同演習と違って、中露合同演習は挑発的なものではない」とも言う。この言い分は、あながちピント外れとは言えなくもない。なぜなら「Joint Sea 2016」は、領有権紛争中の西沙諸島や南沙諸島の人工島、それにスカボロー礁などの周辺海域で実施されるわけではなく、名実ともに中国の領域である広東省沿岸域とその沿海で実施されるからだ。
だが、「Joint Sea 2016」の演習内容からは、とりわけ日本にとり重大な警戒を要する海軍演習であることが見て取れる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47877?page=3
対日戦に必要な対潜水艦戦と水陸両用戦
人民解放軍海軍によると、「Joint
Sea 2016」には中露両海軍から水上戦闘艦艇(駆逐艦やフリゲート)や補助艦艇(補給艦や救難艦)、艦載ヘリコプター、固定翼航空機(地上基地機)、それに潜水艦と海兵隊(中国海軍陸戦隊、ロシア海軍歩兵)が参加して、海上防衛戦、捜索救難活動、対潜水艦戦、島嶼を巡る攻防戦などの訓練が実施される。
とりわけ中国海軍陸戦隊とロシア海軍歩兵は、実弾を用いての実戦的水陸両用訓練を執り行うという。訓練内容は、水陸両用装甲車両も用いて、渡洋しての島嶼への接近、上陸を巡っての攻撃と防御などを実施するらしい。
中国海軍陸戦隊
南シナ海で開催される「Joint
Sea 2016」は、たしかに南沙諸島、西沙諸島、スカボロー礁、そして九段線を巡って中国と領有権紛争中の南シナ海沿海諸国、とりわけフィリピンやマレーシア、それにベトナムを威嚇する意味合いを持っている。
しかし、それらの国々の潜水艦戦力は中国やロシアにとってはものの数ではない。わざわざ「Joint Sea 2016」で対潜水艦戦の訓練を実施するということは、海上自衛隊を念頭に置いて日本を威嚇する意図があることは明白である。
加えて、きわめて実戦的な本格的水陸両用戦の訓練も、尖閣諸島や先島諸島への侵攻可能性を暗示する対日デモンストレーションと考えねばならない。ロシアはともかく、中国軍が強力な敵を排除して実施する可能性がある島嶼侵攻戦は、南シナ海では起こりえない。
アメリカ海軍関係者などの間でも、中露の水陸両用実弾演習は、島嶼防衛戦力を強化しつつある日本を仮想敵にしたものであると考えられている。
もはや「遺憾の意」は無意味
このように、中国はスカボロー礁での埋め立て作業準備に向けての動き、尖閣周辺での日本に対する威嚇行動の再開、そして日本を仮想敵の1つに据えた中露合同海軍演習とますます南シナ海と東シナ海への露骨な侵出活動を強めている。
いくら、習国家主席が安倍総理やオバマ大統領と会談して互いに牽制し合っても、「政権は銃口から生まれる」「軍なくして人民なし」の原理に立脚する中国共産党にとって、言葉は軍事力の前には全く意味をなさない。
日本政府首脳も、中国政府首脳に対して繰り返し繰り返し「遺憾の意」を表明し続けても東シナ海や南シナ海の状況を好転させることは絶対に不可能であることを肝に銘じなければならない。そして、現在の生ぬるい島嶼防衛方針を抜本的に見直し、実効性のある新戦略をもって立ち向かわなければ「完全に手遅れ」になってしまうことは必至である。
《維新嵐》 国家の安全保障戦略と戦略を実行できる勇気、国家を守るために必要な勇気、こうしたものがますます不可欠になりますね。こうした対外的な批判、非難をものともせずに自国の戦略の貫徹を進める共産中国の国際事情は次のテーマの論文になります。
《維新嵐》 国家の安全保障戦略と戦略を実行できる勇気、国家を守るために必要な勇気、こうしたものがますます不可欠になりますね。こうした対外的な批判、非難をものともせずに自国の戦略の貫徹を進める共産中国の国際事情は次のテーマの論文になります。
中露合同演習はなぜ南シナ海で行われたのか
「海上連合2016」を読む
小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7837
南シナ海で初の合同演習
2016年9月12日から19日に掛けて、中国とロシアは「海上連合2016」と題する共同演習を南シナ海で実施した。「海上連合」演習は2012年の第1回以来、毎年開催されており、今年は5回目。しかし、南シナ海といえば中国による強引な海洋進出が国際的な摩擦を生んでいる海域である上、同海域における中露の合同演習は初めてということもあり、我が国の内外でも大きな注目が集まった。
では、その実態は如何なるもので、その狙いは何であったのか。本稿ではこの点について考察してみたい。
(写真:新華社/アフロ)
まずは演習の実態を把握することから始めよう。ロシア国防省によると、今回の演習に参加した兵力は中露併せて以下のとおりであった。
・潜水艦2隻
・水上艦13隻
・航空機及びヘリコプター20機以上
・海軍歩兵(海兵隊)250人以上
・水陸両用戦闘車12両
・水上艦13隻
・航空機及びヘリコプター20機以上
・海軍歩兵(海兵隊)250人以上
・水陸両用戦闘車12両
このうち、ロシア側から参加したのは、対潜駆逐艦2隻及びそれらの搭載ヘリコプター、揚陸艦1隻(海軍歩兵及び水陸両用戦闘車搭載)、洋上タグボート、補給艦であり、残りが中国側の参加兵力ということになる。中国側はロシア製のSu-30MK戦闘機や空中早期警戒機といった新型航空機も投入した。
ただ、規模の面で言えば、今回の演習はさほど大きなものではなかった。昨年8月、ウラジオストク沖の日本海で実施された「海上連合2015」の第2段階(第1段階は地中海で実施)には潜水艦2隻や大型揚陸艦を含む艦艇20隻と海軍歩兵隊員500名が参加しているし、2012年の「海上連合2012」となると参加隻数は25隻に達していた。
「海上連合2016」における3つの「初」
一方、今回の「海上連合2016」を質的な面からみると、幾つかの注目すべき点が認められる。南シナ海というホットスポットでの演習であったことはその最たるものだが、その意味するところを探るためにもう少し細かい点を見ておきたい。
たとえば中国の『人民網』日本語版2016年9月21日付によると、今回の「海上連合2016」には3つの「初」があったという。その第1は、中露の艦艇や航空機が青軍と赤軍に分かれて部隊を編成し、両軍の対抗演習という形態で実施された点である。これまでの「海上連合」では、中露艦隊が合同で編隊航行を行ったり、互いの艦艇を目標に見立てて訓練を行うことはあったものの、敵味方に分かれて本格的な対抗演習を行ったことはなかったと見られる。
第2点はこれと関連するもので、演習用に統合指揮情報システムが採用された。合同作戦を実施するためには味方の部隊同士をデータリンクシステムでつないで情報を共有する必要があるが、これまで中露間にはこうしたデータリンクは確立されていなかった。「海上連合」で導入されたのはおそらく初歩的なものであろうが、最初の一歩を踏み出したこと自体は注目に値しよう。
第3点は、立体的な離島奪還演習が実施されたことであるという。昨年の「海上連合2015」において中国海軍は初めて大型揚陸艦を日本海に進出させ、ロシアと合同で上陸演習を行ったが、これは「他国を仮想敵国とし、指向性の明確ないわゆる「離島奪還」演習と異なり、中露海軍の今回の演習の上陸演習は、上陸行動における組織・指揮手順と基本戦術を演習するものであり、仮想敵も設け」ないというものであった(『北京週報』日本語版2015年8月21日)。一方、今回の訓練では中露の海軍歩兵部隊が上陸用舟艇やヘリコプターを使用して上陸作戦訓練を行い、守備隊と交戦するという内容になっている。
また、『人民網』日本語版9月12日付は、今回の「海上連合2016」の特色の1つとして、戦役級の演習であったことを指摘している。戦役(campaign)という概念はなかなか一口に説明しがたいが、概ね戦略と戦術の間にある一連の軍事活動ということになろう。過去の「海上連合」演習がどの程度の規模を想定していたのかははっきりしないものの、今回は実働部隊が小規模であった代わりに、司令部内ではより大きな規模の軍事作戦を想定して訓練が行われていた可能性もある。
海に引きずり込まれたロシア
まとめるならば、今回の「海上連合2016」は、規模よりもその中身に大きな意義があったことになる。しかも、このような演習を南シナ海で実施したことの意義はさらに大きい。中国にしてみれば、ハーグの国際仲裁裁判所から南シナ海の領有を全面否定されたこのタイミングでロシアを南シナ海に引き込むことが出来たのは大きな成果であることは言うまでもないだろう。だが、ロシアは何故、南シナ海に出てきたのだろうか?
もともとロシアは中国の抱える領土問題には深入りしない方針を貫いており、なんとかロシアを自国側に引き寄せようとする中国との間で綱引きが続いてきた。たとえば2005年に実施された初の中露合同演習「和平使命2005」では、中国側が台湾海峡に近い浙江省で実施し、台湾問題でロシアを自国の側に引き込みたかったと言われる。これに対してロシア側は内陸部の新疆ウイグル自治区での実施を主張し、最終的に山東半島での実施が決まった。
ただ、ロシアが海上での演習に付き合ったのはここまでで、次回以降の「和平使命」演習は全て陸上での実施となった。さらに2011年には予定されていた「和平使命2011」が実施されず終いとなったが、これも海上での演習実施にこだわる中国と、それを避けたいロシアとの間で折り合いが付かなかったためとされる。
そこで中露の合同演習を仕切りなおす形で2012年に始まったのが「海上連合」演習であったわけだが、以上の経緯を踏まえるならばこの演習名はなかなか意味深である。「海上」と名が付くからには、もはや陸上演習でごまかすというわけにはいかなくなるためだ。
ウクライナ危機のインパクト
もっとも、「海上連合2012」では、依然として中露の立場に食い違いが見られた。当初、中国のメディアは、同演習の過程で中露合同艦隊が対馬海峡を合計3回通過するなどと報じていたが 、実際には対馬海峡の通過は行われなかった。また、演習では合同司令部は設置されず、ロシア艦隊は演習が開始される22日の前日に中国に到着したために十分な摺り合わせも行われないなど、形式的な側面が目立った。さらに演習終了後、ロシア太平洋艦隊の一部は南シナ海の領有を巡って中国と対立するヴェトナムを訪問し、中国一辺倒でないことをアピールすることも忘れなかった。
ところが2014年の「海上連合2014」では、ロシアは東シナ海での演習実施に同意した。中露の艦艇が合同で編隊を組むなど、内容面での密接さも増した。東シナ海といえば日中が領有権を争う尖閣諸島を含んでいるため、同海域での演習に踏み出したことは大きな変化であると言える。これに先立ってロシアはウクライナへの軍事介入を行い、西側との関係が急速に悪化していたことから、中国との共同歩調をアピールすることは西側への牽制になるという狙いがあったものと見られる。ただし、中国側がより尖閣に近い海域での演習実施を主張したのに対し、ロシア側がこれに難色を示した結果、東シナ海北部が演習海域となったと伝えられるなど、ここでもロシアは中国の思惑に対して一定の距離を取った。
2015年には、さらに新しい展開が生まれた。「海上連合」演習が2段階に分けて実施され、しかも第1段階の実施場所には地中海が選ばれたのである。さらにこの演習に先立ち、中国艦隊はクリミアを目の前に臨む黒海のノヴォロシースク港にも寄港していた。中露が地中海で合同演習を行ったのも、「海上連合」演習が2度に分けて実施されたのも初めてのことであった。
このように、中露の合同演習は様々な思惑の相違を孕みながらも、徐々に深化する傾向を示してきた。そこで大きな役割を果たしたのは、やはりウクライナ危機以降の対西側関係の悪化であろう。
ロシアのためらい?
問題は、ロシアがどのような思惑で南シナ海での演習実施にまで踏み込んだかであろう。昨年の地中海における中露合同演習の「借り」を返したとする説明も見られるが、地中海での演習はもともと中国が望んでいたことである。また、これに先立って中国艦隊は黒海を訪問しているが、ロシア領ノヴォロシースク港に寄港しただけでクリミア半島への寄港は避けた。要するに、中国がさほど「貸し」を作ったようには見えない。
また、2016年に「海上合同」演習を実施すること自体は昨年から公表されていたものの、実施海域はなかなか定まらなかった。通例であれば「海上合同」演習は春から夏に掛けて実施されることが多いが、9月半ばという今回の演習実施タイミングはやや遅めである。
演習実施に向けた中露海軍当局者の会合は4月に北京で開催されていたが、その後6月末になってロシア側が「9月に実施する」と発表し、中国側もこれを認めた。7月12日には国際仲裁裁判所が中国の南シナ海における領有権の主張を「根拠がない」とする判決を出していたので、その結果が出るのを待っていた可能性もある。ちなみに中国の主張を全面却下する判決が出た後も、ロシア外務省は「原則としてのどの国の立場にも立たず、紛争に巻き込まれることはない」として中立姿勢を改めて強調していた。
さらに同月末、中国国防部は9月に南シナ海で中露合同演習を実施することを初めて明らかにしたが、ロシア側が南シナ海での実施について公式に認めたのは1カ月近く経った8月22日になってからだった。
中露接近アピールは日本への牽制か
このようにしてみると、今回の「海上合同2016」でもロシア側は南シナ海での実施に積極的であったようには見えない。ただ、それでも中国側の思惑にロシアが乗ったとすれば、対立が深まる西側諸国への牽制にロシアが利益を見出したのだと考えられよう。
たとえば中露接近をアピールすることで米国を牽制するという狙いがそこにはあったであろうし、年内のプーチン大統領訪日によって領土問題の進展が期待される中、領土問題や経済協力に対する日本への牽制効果が期待されていた可能性もある。我が国の安倍政権が対露関係の改善を対中政策の一環としても位置付けていることを考えれば、ロシアの対中接近は日本から妥協を引き出す手段となり得る。
一方、中国に対しては、日露の接近が安全保障面には及ばないとのアピールにもなろう。さらにプーチン大統領は演習に先立ち、G20のために訪問した中国・杭州で習近平国家主席と会談した際、「法的に見て」「仲裁裁判所は中国の主張に耳を傾けなかった」などと中国を擁護するような発言を行っている。
ただし、今回も演習自体は南シナ海北部の広東州沿岸で実施され、中国がサンゴ礁の埋め立てなどを行っている南沙諸島方面には接近しなかった。中露接近はアピールするが、領土問題そのものにまでは踏み込まないようにした形と言える。前述したプーチン発言も、あくまでも仲裁裁判所の判決に関してのみ中国を支持すると読めるように慎重に計算されており、南シナ海問題でロシアが全面的に中国支持へと回ったわけではない。
来年以降の見通しは
「海上連合」演習は来年も実施されると見られる。今のところ公式の発表はないが、実施場所と内容がどうなるかは今から注目されるところだ。
これまでの経緯を見れば、中国側としては南沙諸島や尖閣諸島にもっと近いところでの演習を希望しているのだろうが、来年は順番から言ってロシア近海で実施する番である。これまではウラジオストク沖が実施場所となってきたが、たとえば中国が望んでいたように、対馬海峡を中露が合同で通航するなどのデモンストレーションはあり得るかもしれない。黒海や北極海などが演習の舞台となる可能性もあるが、前者はともかく後者は南シナ海以上にロシアとしてはありがたくないロケーションとなろう(ロシアは中国の北極海進出に対して警戒的な姿勢を取り続けている)。
内容面で言えば、今回の「海上連合2016」で見られたデータリンク等の合同作戦能力がどこまで発展するかも興味深い。あるいは中国海軍が運用を始めたばかりの空母「遼寧」など、参加兵力自体がこれまでよりもグレードアップされる可能性も考えられよう。
南シナ海問題でロシアを利用する中国
海軍合同演習から考える
小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7848
中国が、南シナ海において、米国を挑発するかのような行動を続けている。2016年9月12日から19日の間、南シナ海において、中ロ海軍合同演習が実施された。「海上連合」と呼ばれるこの合同演習は、2012年から毎年行われているが、南シナ海で実施されるのは初めてである。
(写真:新華社/アフロ)
陣容から見て取れる中国の力の入れ具合
中国海軍は、南海艦隊だけでなく、東海艦隊及び北海艦隊からも、艦艇を参加させた。報道によれば、2000年代半ばに就役した052B/旅洋Ⅰ型「広州(艦番号168)」及び中国版イージス艦とも呼ばれる052C/旅洋Ⅱ型「鄭州(艦番号151)」という2隻の駆逐艦、最新の中国海軍フリゲートであり海軍艦艇の主力である054A/江凱Ⅱ型の「黄山(艦番号570)」、「三亜(艦番号574)」、「大慶(艦番号576)」という3隻、揚陸用のホバークラフトを艦内に収容できる071/玉昭型ドック型輸送揚陸艦「崑崙山(艦番号988)」、072Ⅲ/玉亭型揚陸艦「雲霧山(艦番号997)」、通常動力型潜水艦2隻及び、最新の904A型総合補給艦「軍山湖(艦番号961)」など10隻が参加した。
その他、ロシア製Su-27戦闘機のライセンス版で中国航空兵力の主力であるJ-11B戦闘機、JH-7戦闘爆撃機、警戒管制機など、19機の海軍航空機も参加している。中国海軍の主力戦闘艦艇に加え、満載排水量が17600~20000トンになると言われるドック型輸送揚陸艦、中国がわざわざ島嶼補給艦と呼称する総合補給艦といった陣容から、中国の力の入れ具合と、島嶼を巡る海上及び陸上の戦闘を意識していることが見て取れる。
一方のロシア海軍からは、「アドミラル・トリブツ(艦番号564)」と「アドミラル・ヴィノグラドフ(艦番号572)」という2隻のウダロイ級駆逐艦、「ペレスウェート(艦番号077)」揚陸艦等が参加している。ウダロイ級駆逐艦は現在でも、ソブレメンヌイ級と並んで、ロシア海軍の主力駆逐艦でもあるが、基本設計が1970年代という古い艦艇である。近年、ロシア海軍は、駆逐艦よりも少し小さいフリゲートを主に建造し就役させている。ロシア側の参加艦艇を見る限り、格別に規模が大きいという訳ではない。問題は、参加兵力の規模ではなく、場所である。ロシアが、南シナ海という海域で実施された中国との海軍合同演習に参加したことに意味があるのだ。
しかも、今回の中ロ海軍合同演習は、中国がことさらに島嶼奪還などを強調していて、挑発的である。中国メディアは、中ロ両軍の陸戦隊が初めて演習に参加したことを報じ、島嶼奪還の演練を行ったとしている。また、中国国防部は、最新の904A型総合補給艦を、「島嶼補給艦」と呼んでいる。南シナ海における米海軍の「航行の自由」作戦等に反発し、中国の主張に逆らう行動をすれば、軍事衝突も辞さないという構えを見せているのだ。
海上だけでなく、陸上の会議等の場においても、米国と中国は、南シナ海における軍事行動について、つばぜり合いを繰り返している。7月16日には、中国人民解放軍連合参謀部副参謀長の孫建国上将が、中国の大学が北京で開催したフォーラムでのスピーチにおいて、米国などが南シナ海で実施している航行の自由に基づく艦艇の行動は「危険な状態を招く」可能性があると警告した。
これに対応するかのように、7月26日、マーク・リチャードソン米海軍作戦部長が、中国訪問を終えて帰国し、「中国に対し、米国が今後も南シナ海の上空と海上での活動を続ける姿勢を断固として示した」と述べた。その上で、南シナ海に関する仲裁裁判所の判決を受けて、米国は今後も南シナ海における「航行の自由」作戦を継続すると言明している。
クリミア併合がもたらしたもの
ところが、一方のロシアは、これまで、一貫して積極的に中国を支持し米国をけん制してきた訳ではない。中ロ両国が対米けん制で協力姿勢を強調する「海上連合」合同演習における協力のバランスは、変化しているのだ。中国およびロシアの情勢認識の変化が、合同演習の性格に影響を及ぼしているのである。
「海上連合」合同演習は、2014年に大きな転換点を迎えた。これは、主としてロシアの都合によるものだ。欧州諸国が「実質的な武力侵攻」と呼ぶ、ロシアによるウクライナのクリミア半島併合によって、ロシアが西の欧州側でのゲームに失敗し、東のアジア太平洋地域で新たなゲームを始めたことに起因する。
ロシアは、2013年まで、対米けん制のために中国に利用されることに消極的だった。ロシアにとってメリットが十分でなかったのだ。ウクライナ問題によって、欧州との経済協力による第三極としての生き残りに失敗したロシアは、アジアにおいて米中対峙に目を付ける。米中両大国が対峙してくれれば、ロシアが生き残る空間が広くなる。東シナ海で実施された2014年の「海上連合」合同演習の開幕式には、別の会議に出席するために上海を訪れていたプーチン大統領が習近平主席とともに出席し、スピーチまで行っている。
2013年の「海上連合」合同演習は、演習海域が日本海のロシア寄りの海域に設定されており、東シナ海に設定するよりも、日米に対して刺激が少なかったにもかかわらず、ロシア側の消極的な態度によって、合同演習の実施がなかなか公式発表できなかった。この2014年のロシアの極めて積極的な対中協力姿勢への変化は、180度の方向転換と言っても良いほどの大きな変化である。
2015年には、初めて、1年に2回、「海上連合」合同演習を実施した。第1回の演習海域は地中海、第2回は日本海である。第1回の演習は、主として、中国がロシアに対して協力姿勢を見せたと言われる。中東及び欧州に対して、ロシアが、中国の協力を得て、その軍事プレゼンスを示したかったのだ。
しかし、中国にとってもメリットがあった。中東は、中国が掲げる「一帯一路」イニシアティブの地理的及び意義的な中心であり、欧州は、「一帯一路」の終点であると位置付けられているからだ。中国は、今後、これらの地域において、米国との軍事プレゼンス競争をしなければならず、中東及び欧州からの海上輸送路も保護しなければならないと考えている。中東情勢が米ロだけの軍事的なゲームで動くのではなく、中国もプレイヤーとして関わっていることを示そうとしたのである。
どうしてもロシアの協力を得たい中国
2016年に入って、南シナ海における米中の軍事的な緊張はさらなる高まりを見せる。7月12日に、常設仲裁裁判所が下した司法判断は、中国の南シナ海における主張を全面的に否定するものであった。しかし、「司法判断」が出される以前から、中国は一貫してこれを無視する構えを見せてきた。「司法判断」が下される直前の7月6日、戴秉国元国務委員が国際会議でこれを「紙屑」と呼び、同じ日に王毅外交部長(日本で言う外務大臣)はケリー国務長官との電話会談で仲裁裁判所の判断を「茶番劇」と切り捨てた。
中国は、仲裁裁判所の判決には従わないと宣言しているのだ。南シナ海の実質的な領海化を、人工島の軍事拠点化という手段を以て進めるという意味である。しかし、G7でも、中国を非難するかのような共同声明が出されるなど、米国や日本、さらには西欧諸国も、南シナ海における中国の行動に懸念を示している。そして、米中両海軍は、南シナ海における行動をエスカレートさせているかに見える。
中国外交部は、世界約70カ国が、あるいは90カ国余りの国の230以上の政党が、南シナ海における中国の立場を支持していると主張している。中国が、国際社会から孤立していないことを強調しようとするのだ。国際社会の支持を失えば、「国際秩序を変える」という中国の目標達成などおぼつかない。しかし、中国が主張する約70カ国のほとんどが発展途上の小国である。「国際関係は大国間のゲームである」と考える中国にとっては、非常に心もとない。相手にするのが、既得権益を有し大きな影響力を持つ、欧米先進諸国や日本だからだ。
だからこそ、いかに不信に満ちた関係であっても、中国は、ロシアの協力が欲しいと考えるのである。軍事的にも、一国では米国に対抗できないと考える中国は、ロシアとの安全保障協力関係を見せつけることが不可欠だと考える。特に、南シナ海問題において劣勢に立たされたと考える中国は、「海上連合」合同演習によって、南シナ海におけるロシアとの緊密な協力を米国に見せつけたかったのだ。
台湾、フィリピン、ベトナムとの関係
ただし、南シナ海の中でも、演習海域は微妙な位置に設定されている。演習海域は、南海艦隊司令部が所在する広東省湛江の東側海域とされたのだ。この海域のすぐ東に位置するのが台湾とフィリピンである。中国にとって、台湾とフィリピンは、圧力をかけたい相手だ。台湾への圧力は、台湾独立の動きを阻止するためである。フィリピンは、仲裁裁判所に申し立てた張本人であり、中国としては、仲裁裁判所の司法判断をなかったことにするためには、中国の主張に対するフィリピンの合意を取り付けなければならない。
さらに重要なのは、台湾とフィリピンの間の、バシー海峡だろう。南海艦隊所属の中国海軍艦艇が太平洋に出るためには、バシー海峡を抜けるのが最も効率が良い。しかし、米海軍が南シナ海で行動していては、中国海軍の艦艇は、自由に太平洋にでることができない。特に戦略原潜(核弾頭を搭載する弾道ミサイルを発射可能な原子力潜水艦)は、米海軍に探知されずに太平洋に出ることができなければ、米海軍の攻撃型原潜に追尾され、米国に対する核報復攻撃の最終的な保証とは成り得ないのだ。
これらの意味では、今回の合同演習は、戦略的に重要な海域で行われたと言うことができる。一方で、ベトナムに近い海域で実施したくなかったという理由も考えられる。湛江から西側の海域で合同演習を実施すれば、ベトナムに対して圧力をかけることになる。フィリピンとの問題が解決しない中、中国も、ベトナムを刺激することは避けたいだろう。
しかし、さらにベトナムに気を使ったのはロシアである可能性もある。ベトナム軍の武器装備品はロシアから購入している。ベトナム空軍は、少なくとも中国と同時期からSu-27戦闘機を運用している。また、ベトナム海軍はゲパルト級フリゲートもロシアから導入した。そしてロシアは、中国が最も嫌がるキロ級潜水艦もベトナムに供給しているのだ。
中国とベトナム両海軍は、西沙諸島(パラセル諸島)及び南沙諸島(スプラトリー諸島)の岩礁等をめぐって、海上戦闘を繰り返してきた。ロシアがベトナムに近代的な艦艇や航空機を供給することは、単に伝統的に良好なベトナムとの安全保障協力関係を維持するというだけでなく、中国が南シナ海において一方的に優勢になることを防ぐ効果もある。
米中ロ、それぞれの思惑
これで、中国が完全にロシアを信じることができるだろうか。ロシアが、南シナ海において、中国との海軍合同演習に応じたのは、中東での米国との軍事的ゲームに関わっている可能性もある。アジア太平洋地域において、中国の背中を押して米国と対峙させれば、米国は、中東だけでなく、アジア太平洋地域にも軍事的資源を投入しなければならなくなる。ロシアは労せずして、中東における米軍の能力を削ぎ、軍事的ゲームを優位に進めることができるかも知れないのだ。
中国は、ロシアの思惑を理解していない訳ではないだろう。それでも中国は、ロシアとの安全保障協力関係を誇示しなければならない。中国は、真剣に米国が中国に対して軍事力を行使することを懸念しているからだ。米国とロシア、どちらの方が中国にとってより危険かという比較の問題である。中国は、自身が経済発展を追求すれば、米国が自国の権益を守るために軍事的手段を用いて中国を攻撃する可能性があると考えている。中国による、南シナ海の実質的な領海化及び人工島の軍事拠点化は、「米国に対しては」防御的であると言うこともできる。
中国が考えるように、南シナ海でも、米中ロという大国がそれぞれの思惑によって、ゲームをプレイしている。しかも、米ロ両大国の、南シナ海におけるゲームは、中東のシリア問題等を巡るゲームの一部、あるいは番外編という側面も持っている。中国海軍の行動は、米ロという大国関係の影響を受けて、強硬の度合いを増減させるかも知れない。
しかし、中国にとっては、南シナ海問題は自国の存続に関わる安全保障の問題である。これ以上に重要な問題はない。戦争に勝利する見込みがない以上、現段階で、中国海軍は米海軍との衝突を避けるだろう。現在の中国は、ロシアを利用しながら、米国をけん制してその軍事力行使を抑止する以外に、米国の妨害を排除しつつ経済活動を拡大する方法はないと考えている。その間に、米国を凌ぐ海軍力を構築する努力を進めるのだ。
中国の目標は変化していない。米中ロの大国関係の状況によって、中国の行動に変化が見られるかも知れない。しかし、目標達成に向けた大きな流れは変化しないことも同時に理解しなければ、中国の意図を見誤ることになりかねない。
あらゆる正面で閉塞状態の中国
岡崎研究所 2016年09月15日(Thu) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7714
2016年8月15日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラックマンが、南シナ海や中国の対豪投資の問題によって、中豪関係が緊張していると述べています。主要点は、次の通りです。
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標的にされる豪州
南シナ海とオリンピックという二つのことが相まって中国のナショナリズムの毒舌は豪州を標的にしている。南シナ海に対する中国の主張を否定した先月の国際仲裁裁判所の裁定が発端になった。豪州は日米と共に中国に対し裁定の尊重を求めた。中国は烈火の如く怒った。人民日報傘下の環球時報は豪州が南シナ海に入って来れば豪州は格好の攻撃目標になる等と主張している。オリンピック水泳競技も紛争の種になっている。豪州の選手が中国の選手を薬物使用者だと呼んだため、中国メディアは対豪批判を爆発させた。
これは、中豪関係を超え、中国の台頭と西欧の間の緊張を示している。南シナ海と太平洋が競争の海域になれば、豪州は、中国がアジア太平洋を支配することを受け入れるのか、あるいは引き続き同盟国である米国の支配に賭けるのかという難しい選択に直面する。
これまでは、安全保障上の懸念は経済上の利益に比べて重要性が少ないと考えられてきた。資源の対中輸出により豪州は20年以上、不況を回避することができた。しかし、経済関係でも問題が出てきた。今年に入って、豪州政府は中国企業によるSキッドマン社(豪州の国土の1%を所有する)の買収を阻止した。先週は2つの中国企業によるオースグリッド送電電力公社の買収を阻止した。買収阻止に当たって豪州政府は安全保障上の懸念を理由にした。
米国は、南シナ海の航行の自由作戦への豪州海軍の参加を求めている。一方、中国は、豪州がそのような活動に参加すれば厳しく対応することを明らかにしている。中国の対応は、当面心理的、外交的なものであろうが、中国からの投資が阻止されることになれば中国の反発は一層強まるであろう。
このように考えると、豪州が今後数十年の間地政学上の引火点になる可能性がある。豪州にとり21世紀はそう幸運な時代にはならないかもしれない。
出典:Gideon Rachman ‘Why Australia’s luck may be running out’ (Financial Times, August 15, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/126470e0-62c5-11e6-a08a-c7ac04ef00aa.html#axzz4Hdp0WXHm
http://www.ft.com/cms/s/0/126470e0-62c5-11e6-a08a-c7ac04ef00aa.html#axzz4Hdp0WXHm
上記は、興味深い見解です。従来、豪州の中国観は総じてソフトなものであり、中国の脅威も左程感じてきませんでした。同時に、価値を共有する国として対米同盟は強固に保ってきました。ところが、南シナ海の問題や中国の対豪投資の問題などを契機に、豪州の中国に対する安全保障観がより現実的なものに変わり始めています。これは、悪いことではありません。
ラックマンは、今の問題の根源は中国の台頭にかかる戦略上の問題であるといいます。まさにそうでしょう。中国がかつて宣言したように「平和的」な台頭であれば問題はありません。しかし最近の中国の言動や振る舞いを見れば、とても「平和的」とは言えません。覇権主義であり、拡張主義です。
中国の最大の障害
南シナ海の問題を契機に、今中国の対外関係はほぼあらゆる正面で閉塞状態にあります。中国から見て最大の障害は、米国を中心とする日本、豪州、韓国などの同盟です。それを打破するために、第一に日本への対応を厳しくし、第二に韓国、豪州と米国の間に楔を打ち、第三はASEANの国々を分断しようとしています。中国の対豪州戦略は対韓国戦略と同様に中国の対ミドル・パワー戦略とも言えるもので、今後経済分野を含め対抗措置をとっていく可能性もあります。この戦略には結構高い優先度が置かれているものと思われます。
THAADに関する韓国に対する中国のメディアの執拗な批判や中国における韓国文化活動の停止などは、韓国の政府内外に大きな心理的圧迫を加えています。今の中国の言動を見る限り、対中均衡を強化していく他により良い政策はありません。米国を中心に日本、豪州、韓国の連携を一層強めていくことが重要です。
中国の海洋進出の行動は国際秩序に挑戦する勢力であるとの中国の姿を世界に印象付ける結果になっています。中国に対する信頼感は大きく低下しています。英国のメイ新政権は、仏EDFと中国の企業が建設するヒンクリーポイント原発の最終決定を延期しました。在英中国大使が激しくこれを批判する書簡をメディアに投稿しましたが、問題の深刻さが窺われます。メルケル独首相の対中姿勢も最近厳しくなっているといわれます。漸く欧州がアジアの現実を理解し始めたのであれば良いことです。
《維新嵐》 共産中国の海洋覇権主義の主力となる兵装も我が国の防衛戦略の要となるものも、アメリカのアジアでの権益を守ろうとする兵装も共通した要素があります。それは潜水艦戦力です。対哨戒、対艦対地攻撃の要ともなる潜水艦の性能に変化がおこっています。それはアジアの勢力図を変えるきっかけとなるのでしょうか?
西側を脅かす新世代の潜水艦
岡崎研究所 2016年09月12日(Mon) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7711
2016年8月6日付の英エコノミスト誌は、西側の潜在敵国は、音が静かで兵装を充実させた潜水艦を増強していて、西側の脅威となっていると警告しています。要旨は、次の通りです。
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潜水艦を強化した中露と予算を削った西側
2006年、沖縄近海で中国の潜水艦が米空母の魚雷の射程内に浮上し、また、昨年(2015年)、フロリダ沖の演習で仏原潜が米空母に撃沈可能な地点まで接近したが、いずれも米国の護衛艦や対潜機は事前に察知できなかった。これらが示すように、新世代の潜水艦は音が静かになっている。また、潜水艦を擁する国は約40カ国に増え、その多くは西側の同盟国ではない。
さらに、新世代の潜水艦は、魚雷に加えて対艦誘導ミサイルも搭載するなど、武器も充実している。中国の潜水艦は、海上をほぼ音速で290キロ飛行可能なミサイルを、ロシアの潜水艦は最高速度マッハ3のミサイルを搭載している。ところが、西側諸国は冷戦終了後、対潜予算を削ってきた。米空母は2009年に対潜戦闘機が退役すると、代わりに短距離ヘリを搭載した。護衛艦の数も減った。
西側の潜在的敵国は、西側の既存の防衛システムが探知・追尾できる以上の数の潜水艦を配備ないし発注しているのが現状だ。イランでさえ、小型潜水艦10数隻とロシア製キロ級潜水艦3隻を保有している。そのため、今や多くの軍艦が脅かされている。そこで、重点を追尾に置いた新たな対策が講じられつつある。広い海洋では探知より追尾の方が技術的にはるかに容易だからだ。
ただ、現在これを担っている駆逐艦や原潜は莫大な建造費と維持費がかかる。そこで、西側諸国はより小型の無人船ドローンに肩代わりさせようと、研究開発を進めている。米国は、敵の潜水艦を海上から何ヶ月も追跡できる無人機を開発中で、コストは1機2000万ドルとされる。これなら多数配備でき、また、ディーゼル潜水艦よりも操作性、耐久性、速度に優れているので、海中の機雷捜索等にも使える。
では、肝心の潜水艦の探知はどうするのか。音は距離の二乗に反比例して弱くなるため、探知機は標的の近くにある必要がある。これは、領海内なら、大量の固定探知機を縦横にめぐらすことで実現できる。実際、シンガポールは2、3キロ間隔で海底にブイを固定し、これらは振動で互いに通信できる。今は試験的にメッセージを発するだけだが、いずれ潜水艦探知センサーを搭載することになろう。一方、大型潜水艦を模倣した音を発して、ドローンを誤った方向に誘導する等、ドローンへの対抗手段も開発されつつある。
このように、独Uボートの登場以来続いてきた水上艦対潜水艦の競争は、技術的進歩によって新たな局面を迎えている。現時点では、潜水艦に分があるが、この状況が長く続く保証はない。
出典:Economist ‘Seek, but shall ye find?’ (August 6, 2016)
http://www.economist.com/news/science-and-technology/21703360-proliferation-quieter-submarines-pushing-navies-concoct-better-ways
http://www.economist.com/news/science-and-technology/21703360-proliferation-quieter-submarines-pushing-navies-concoct-better-ways
この解説記事は、技術的進歩と潜水艦保有国の拡散により、潜水艦が西側の安全保障にとって問題を提起しつつある、と述べています。技術的進歩については、先ず新世代の潜水艦が静かになっていることで、米国の空母の護衛艦や対潜機が中国やフランスの潜水艦の異常接近を察知できなかった例が挙げられています。さらに中国やロシアの新世代の潜水艦が、魚雷に加えて対艦誘導ミサイルを搭載するなど、兵装を充実させている、と述べています。保有国の拡散については、保有国の数が約40か国に増え、その多くが西側の同盟国でないことを指摘しています。
エコノミスト誌は、このような傾向は西側の安全保障にとって問題であると述べていますが、問題を誇張しているきらいがあります。先ず中露の新世代潜水艦の兵装の充実ですが、冷戦後、潜水艦の、水中から高距離のミサイルを発射する対地・対艦攻撃プラットフォームとしての役割を重視するようになったのは、米国が最初でした。今や米国では潜水艦がイージス艦などの水上艦の任務を補完する形で、対地・対艦攻撃任務の一部を肩代わりしています。
次にエコノミスト誌は、潜水艦保有国の多くが西側の同盟国ではない、と警告しています。確かに中露の他に例えばイランが小型潜水艦10数隻を保有していますが、他方でインド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなども潜水艦の取得、運用に力を入れています。これら諸国の重要な動機の一つは、中国に対する対抗であり、これは西側にとり好ましいことです。
潜水艦は、中露と西側の今後の戦略バランスの鍵を握ると言っても過言ではありません。それを左右するのは技術であり、ここでも米国が先頭を切っています。今潜水艦の任務として探知より追尾に重点が置かれているとのことですが、米国は莫大なコストのかかる駆逐艦や原潜に代わって、無人対潜システムの開発に力を入れています。敵の潜水艦を海上から何カ月も追跡できるという無人対潜システムの進水式がさる2016年5月に行なわれたといいます。
このように潜水艦関連技術でも米国が世界をリードしていますが、これを支えるのが予算であることは言うまでもありません。米国の国防予算は、米国の財政事情、民主、共和両党の争いの結果、常に削減の危機に立たされていますが、米国、そして西側の安全保障の確保のため、米国の国防予算は党派の利害を超えて充実されるべきです。
日本は潜水艦に関して米国と協力する余地が十分あります。一つは従来型の対潜協力で、理想的な役割分担としては、海自が南西諸島から台湾、バシー海峡に至る「第一列島線」北西部のチョークポイントを固め、米海軍の原潜と哨戒機を南方や西太平洋での追跡任務に専念させることが考えられます。
第二は東南アジア諸国の潜水艦運用能力構築支援を通じた協力です。例えばベトナムはロシア製のキロ級潜水艦の運用に関しインド海軍から訓練を受けていますが、これに日本が参加すれば、当該地域での中国潜水艦の活動情報を多国間で共有でき有意義です。このほかに、不測の衝突を避ける人工知能の開発、継続的・効率的な運用を可能とする高性能のリチウムイオンバッテリーの開発など、技術面での日米協力が望まれます。
【共産中国の覇権主義に飲み込まれた南シナ海の現在】
激化する中国の海洋進出…南シナ海のいま
【共産中国の覇権主義に飲み込まれた南シナ海の現在】
激化する中国の海洋進出…南シナ海のいま
2016年9月16日
14時24分 http://news.livedoor.com/article/detail/12027557/
先週、「東アジア首脳会議」がラオスで行われた。日本などは中国に対し南シナ海での中国の主権を否定した仲裁裁判所の判決に従うよう求めたが、それを無視するように中国の海洋進出は激しさを増している。いま南シナ海で何が起きているのだろうか。
■「魚を全部もっていかれる」
南シナ海に浮かぶ150以上の島からなるインドネシア・ナトゥナ諸島。すべての島を合わせても人口は7万人ほどで、マングローブや、島を覆うジャングルなど、豊かな自然に抱かれたインドネシア辺境の島だ。
ナトゥナ諸島では漁業を営む人が多く、周囲を囲む海と一体となって暮らしている。その海が今、遠く離れた大国である中国と向き合わざるを得なくなっている。
ナトゥナ諸島は南シナ海の南端に位置している。ここからは遠い国のように見える中国だが、中国は自らの主権が及ぶ範囲として南シナ海に境界線「九段線」を独自に設定している。その「九段線」の先がナトゥナ諸島の沖合、インドネシアの排他的経済水域と重なっている。
インドネシア漁船船長「(この辺りには)中国、ベトナム、タイなどの船がきます。魚を全部持っていかれます」
様々な魚介類がとれるナトゥナ諸島近海。中国の漁船などはこの漁場を狙い、違法操業を行っている。
■違法操業船に同行するのは―
7年前にインドネシア当局がだ捕した中国漁船の撮影を特別に許可された。船内には、中国語で書かれた計器などがそのまま残されている。ほかの国の船よりひときわ大きな中国船。こうした漁船がナトゥナ諸島近海で違法操業を繰り返している。
インドネシア政府は、違法漁船への警戒を強めるため、専門の監視チームをナトゥナ諸島に配備。監視チームの基地にはだ捕した多くの違法漁船が並ぶが、実はこの中に中国漁船はひとつもない。中国漁船にはほかの国の漁船に比べ、だ捕することが難しい理由があるという。
インドネシア海洋水産省職員「私たちの船と、中国漁船がいたところに、急に中国の海警がぶつかってきました」
今年6月にナトゥナ諸島近海で撮影された写真がある。インドネシア海軍の船とにらみあっているのは中国の沿岸警備隊・海警局の船。中国漁船の違法操業に、中国の公船である海警局の船が同行している。海警局の船が体当たりして違法漁船のだ捕を妨害するなど、今年になり中国側の行動が激化している。
■インドネシアも“中立”から対抗姿勢へ
こうした中国の行動に対し、インドネシアのジョコ大統領は首都ジャカルタから遠く離れたナトゥナ諸島沖で関係閣僚会議を実施。この海域にインドネシアの主権が及ぶことをアピールした。また、インドネシア政府は今年、だ捕した漁船を相次いで爆破。どの国の漁船かは明らかになっていないが、中国に対する“見せしめ”の意味があるとみられている。
これまでインドネシアはASEAN(=東南アジア諸国連合)の中でも南シナ海問題に対して中立な立場をとっていた。しかし、今年に入り、その姿勢を急速に変えつつある。中国はなぜ、インドネシアとの関係を悪化させてまで、この海域に野心をみせるのか。ナトゥナ県の副知事は中国の狙いは漁業以外にもあると指摘する。
ネゲスティ副知事「海底には豊富な天然資源がたくさんあるからでしょう」「もし中国側が攻撃的な態度をとってきたら、我々はそれに対抗しなければいけません」
今月に入ってからもフィリピンと領有権を争う海域で作業船などを展開させるなど、おさまる気配のない中国の海洋進出。歯止めをかけるための有効策はみつからないままだ。
■「魚を全部もっていかれる」
南シナ海に浮かぶ150以上の島からなるインドネシア・ナトゥナ諸島。すべての島を合わせても人口は7万人ほどで、マングローブや、島を覆うジャングルなど、豊かな自然に抱かれたインドネシア辺境の島だ。
ナトゥナ諸島では漁業を営む人が多く、周囲を囲む海と一体となって暮らしている。その海が今、遠く離れた大国である中国と向き合わざるを得なくなっている。
ナトゥナ諸島は南シナ海の南端に位置している。ここからは遠い国のように見える中国だが、中国は自らの主権が及ぶ範囲として南シナ海に境界線「九段線」を独自に設定している。その「九段線」の先がナトゥナ諸島の沖合、インドネシアの排他的経済水域と重なっている。
インドネシア漁船船長「(この辺りには)中国、ベトナム、タイなどの船がきます。魚を全部持っていかれます」
様々な魚介類がとれるナトゥナ諸島近海。中国の漁船などはこの漁場を狙い、違法操業を行っている。
■違法操業船に同行するのは―
7年前にインドネシア当局がだ捕した中国漁船の撮影を特別に許可された。船内には、中国語で書かれた計器などがそのまま残されている。ほかの国の船よりひときわ大きな中国船。こうした漁船がナトゥナ諸島近海で違法操業を繰り返している。
インドネシア政府は、違法漁船への警戒を強めるため、専門の監視チームをナトゥナ諸島に配備。監視チームの基地にはだ捕した多くの違法漁船が並ぶが、実はこの中に中国漁船はひとつもない。中国漁船にはほかの国の漁船に比べ、だ捕することが難しい理由があるという。
インドネシア海洋水産省職員「私たちの船と、中国漁船がいたところに、急に中国の海警がぶつかってきました」
今年6月にナトゥナ諸島近海で撮影された写真がある。インドネシア海軍の船とにらみあっているのは中国の沿岸警備隊・海警局の船。中国漁船の違法操業に、中国の公船である海警局の船が同行している。海警局の船が体当たりして違法漁船のだ捕を妨害するなど、今年になり中国側の行動が激化している。
■インドネシアも“中立”から対抗姿勢へ
こうした中国の行動に対し、インドネシアのジョコ大統領は首都ジャカルタから遠く離れたナトゥナ諸島沖で関係閣僚会議を実施。この海域にインドネシアの主権が及ぶことをアピールした。また、インドネシア政府は今年、だ捕した漁船を相次いで爆破。どの国の漁船かは明らかになっていないが、中国に対する“見せしめ”の意味があるとみられている。
これまでインドネシアはASEAN(=東南アジア諸国連合)の中でも南シナ海問題に対して中立な立場をとっていた。しかし、今年に入り、その姿勢を急速に変えつつある。中国はなぜ、インドネシアとの関係を悪化させてまで、この海域に野心をみせるのか。ナトゥナ県の副知事は中国の狙いは漁業以外にもあると指摘する。
ネゲスティ副知事「海底には豊富な天然資源がたくさんあるからでしょう」「もし中国側が攻撃的な態度をとってきたら、我々はそれに対抗しなければいけません」
今月に入ってからもフィリピンと領有権を争う海域で作業船などを展開させるなど、おさまる気配のない中国の海洋進出。歯止めをかけるための有効策はみつからないままだ。
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