2018年7月11日水曜日

北朝鮮・金正恩が恐れるもの

①在韓米軍&韓国国防軍「同盟」の解消・影響力の低下

変わる米韓同盟?日本への影響は

「米韓合同軍事演習中止」は東アジアに何をもたらすのか

伊藤弘太郎 (キヤノングローバル戦略研究所研究員)
20184月に行なわれた米韓合同軍事演習(写真:ロイター/アフロ)
 2018612日に行われた史上初の米朝首脳会談では、共同文書に完全・検証可能・不可逆的な非核化を意味する「CVID」の文言が盛り込まれなかったことが批判された。更に、トランプ大統領自身が記者会見の場で、「今夏からの米韓合同軍事演習を中止する」と表明したことも「一方的な譲歩でないか」と大きな波紋を呼んだ。首脳会談前、多くの専門家は対北譲歩策の一つとして「B-1B爆撃機などの戦略兵器の展開中止」までは予測しており、米韓合同軍事演習に関しても、あくまで「非核化の最終段階で演習規模縮小などを段階的に行っていくだろう」といった観測が有力だった。ところが、トランプ大統領の発言を受けて行われた米韓国防当局による協議を経て、618日、今夏の合同軍事演習の中止が正式に発表された。翌19日には金正恩国務委員長の3度目となる中国訪問が行われた。同委員長は「米韓合同軍事演習中止」という手土産を持って、習近平国家主席との会談に臨むことができたのである。

多様な危機を想定してきた米韓合同軍事演習

 米韓合同軍事演習は二種類ある。北朝鮮との全面戦あるいは局地戦を想定した米韓連合軍の作戦計画に基づき両軍の陸海空・海兵隊の4軍によって行われる大規模なものと、米韓の同じ軍種間で行われる小・中規模な演習・訓練の二つだ。前者の大規模演習には、毎年3月に行われるコンピュータによる指揮所演習「キー・リゾルブ(略称:KR)」、毎年3月から4月にかけて行われる野外機動演習の「フォール・イーグル(FE・韓国名はドクスリ)」に加え、毎年8月中旬から行われる「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン(UFG)」の3つがある。北朝鮮が事あるごとに「北侵戦争騒動」と非難し、中止を求めてきたのがこれら3つの演習なのだ。一方、後者の小・中規模の訓練には、5月に米韓両空軍が実施した「マックスサンダー」等、米韓両軍の同じ軍種間で行われる定期訓練が主体である。
 当初、北朝鮮の非核化を推進するために中止となるのは、前者3つの大規模演習だと予想されていた。しかし、今回はUFGに加えて、米韓海兵隊による合同演習(KMEP: Korean Marine Exchange Program)も中止リストに加えられた。また、来春のKRFEは、「北の非核化の進展状況を見ながら実施の可否を判断する」とし、「必要に応じていつでも再開できる体制を整える」ものとされた。
 今回中止が決まったUFG演習は、韓国政府の国内危機管理担当官庁である行政自治部主管の軍官民による共同演習(乙支演習)と、米韓の軍事指揮所演習(フリーダム・ガーディアン演習)の二つで構成される。後者は、北朝鮮による局地挑発に対する韓国軍単独または米韓共同の対応能力の向上を目指し、全面戦における米韓連合軍の作戦計画に基づき、コンピュータによるシミュレーションを使用して行われる。
 通常韓国大統領は乙支演習初日に、青瓦台・地下バンカーにおいて国家安全保障会議(NSC)を招集し、関係閣僚や大統領府スタッフは同会議に出席して、緊急事態対応の手順を各自確認することになっている。ここでいう緊急事態には、北による軍事挑発にとどまらず、韓国国内で発生した重大な自然災害なども含まれる。乙支演習の目的には軍事以外の多様な危機に米軍と合同で対処する能力を訓練することも含まれるのだ。

北朝鮮にとっては量・質ともに驚異

 米韓合同軍事演習の効果は、米韓連合戦力の連携強化だけでなく、在韓米軍以外の米インド太平洋軍隷下の部隊、特に在沖海兵隊を中心にした在日米軍部隊の練度向上にも重要な役割を果たしている。近年の例を見ても、岩国基地所属のF-35Bや普天間基地所属のオスプレイのような最新装備品が実戦配備後に米韓合同演習に参加している。陸海空・海兵隊の四軍を統合戦力として訓練できる絶好の機会だからだ。
 韓国軍自身も演習による大きなメリットを享受している。614日付朝鮮日報では元韓国軍将官の「連合訓練は韓米戦闘体制を固めることはもちろん、我々がとても安い授業料を出して、世界最強の米軍から戦争ノウハウを学ぶ機会1」というコメントが報じられた。この言葉が端的に示すように、統合軍事演習は韓国軍四軍の戦力強化に大きな役割を果たしている。
 また、最近の米韓合同軍事演習の特徴としては、戦略兵器である米空軍のB-1B爆撃機や海軍の原子力潜水艦が頻繁に参加するだけでなく、米韓両軍の特殊作戦部隊による合同訓練の様子を公に「見せる」ようになったことが挙げられる。昨年まで米韓両軍は「北の指導部除去」を高らかに掲げており、昨年春のKR&FEには過去最大規模の米特殊戦力が参加したとされる。北朝鮮にとっては、米韓合同軍事演習のために圧倒的な米軍戦力が朝鮮半島に集結するという「量的な脅威」だけでなく、米軍戦力の種類が多様化したことで「質的な脅威」も増すという、より深刻な状況になりつつあったのだ。

対中抑止の意味合いも 日本への影響は?

 米韓連合戦力と韓国軍の能力向上が日本の安全保障に貢献してきたことは紛れもない事実である。一方、中国から見れば、対北朝鮮の圧力強化策の一環として行われる米韓、日米、日米韓による連携の強化は、脅威以外の何物でもない。
 振り返れば、昨年5月以降、グアムから米空軍B-1B爆撃機が朝鮮半島に頻繁に飛来し、その都度、航空自衛隊と韓国空軍の戦闘機と共にそれぞれの防空識別圏内を編隊飛行した。日本では報道されていないが、昨年のUFG演習開始直前の818日、米国防衛産業大手のロッキード・マーチン社は、B-1B爆撃機からの新型長距離射程空対艦ミサイル (LRASM)発射に初めて成功したとする実験映像を自社ホームページ上で公開している2。同ミサイルは今年からB1-Bに、来年からはFA-18E/Fにそれぞれ搭載される予定であり、こうした映像が米国に対抗し海軍力を増強しつつある中国を刺激したことは確実だろう。
 このように米韓合同軍事演習は対中抑止力としても機能していたのであり、同演習の突然の中止は、東アジア地域の安全保障環境に大きな変化をもたらす可能性があるだろう。ベル元在韓米軍司令官は「米韓合同軍事演習中止後、69カ月以内に演習を再開しなければ、司令官を含めた軍事力が萎縮する(atrophy)」と発言している3。また、今夏在韓米軍司令官が、ブルックス陸軍大将から、米陸軍総軍司令官のエイブラムス陸軍大将に交代することが内定したとも報じられている。エイブラムス大将はこれまで中東地域を中心に作戦指揮を執って来たが、仮に同大将が今年夏在韓米軍司令官に就任しても、通常在韓米軍幹部を含む在韓米軍首脳部が12年で配置転換されることを考慮すれば、最悪の場合、今後半年以上韓国との大規模統合軍事演習が行われない可能性もある。その場合には、米韓連合戦力の有事における即応性や米インド太平洋軍隷下の部隊に影響が出ることも避けられないかもしれない。
 韓国軍はUFG演習の中止という穴を埋めようとするかのように、5月から延期していた韓国軍単独の「太極演習」を8月中旬に、通常よりも1週間長く行うとされる4。これについては戦時作戦統制権返還を見据えた韓国軍独自の能力強化を図る動きとの分析もある。米韓合同軍事演習の中止は、単に北朝鮮の非核化を巡る動きの一環ではない。もし、こうした動きが米韓同盟の質的変化の序章だとすれば、我が国にとって無視できない問題が顕在化することもあり得るだろう。
 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13310?page=3

韓国が在韓米軍撤退を求めるのは合理的ではないが……

 先月29日に京畿道(キョンギド)・平澤(ピョンテク)市にある在韓米軍司令部の開所式が行われ、これによりソウル中心部の龍山(ヨンサン)基地からキャンプ・ハンプフリーへの移転が正式に完了した。多くの米軍関係者とその家族はすでに新司令部に引越を済ませ新生活を始めている。同キャンプへの司令部移転は2016年に開始され、本年には移転作業が完了、2020年までには在韓米軍の家族や軍属4万人以上が居住するようになるとみられる。同移転計画にはすでに15000億ウォンの韓国政府資金が投じられたとも報じられた。
 筆者は先月12日の米朝首脳会談後に出張でソウルを訪れたが、現地で驚いたことがある。TVニュース番組の間に「平澤米軍基地正門前徒歩5分の優良物件」、「今後安定的な収入が見込めます」など、在韓米軍関係者居住を見込んだ投資用マンションのCMが頻繁に流れていたのだ。すでに、平澤基地のゲート周辺には米軍関係者向けの立派な賃貸一戸建て住宅が並ぶ「レンタルハウス村」も出現し、基地周辺の土地価格は他の地域に比べて大きく上昇しているという。それだけではない。移転元の南北軍事境界線に近い京畿道では、北部地域に残る米軍基地の返還が、南北融和の一環として促進されるのではないかとの期待が高まっているそうだ。総人口の半分がソウルを中心とする首都圏地域に集中する韓国で米軍基地跡地は、将来の大規模都市開発を可能とする残り少ない貴重な土地なのである。
 盧武鉉政権時代に計画された米軍基地・司令部の移転は、激しい反対運動を乗り越え、地元の理解を得て、ようやくこの日を迎えたという経緯がある。日本では、「文在寅大統領が進歩系で親北だから、在韓米軍撤退を求めている」といった指摘も散見されるが、韓国政府が在韓米軍撤退を求めるという見方は現段階では合理的ではない。新たな米軍基地により地域経済が発展へ向けて動き出しただけでなく、軍事的に見ても、韓国独自の国防力建設が道半ばだからだ。韓国政府の懸念は、むしろ、トランプ大統領がこうした韓国の足元を見ながら、在韓米軍駐留費負担増や戦略兵器派遣に伴う費用負担要求などでディール(取引)を仕掛けてくることではないだろうか。

 米朝首脳会談の翌日に行われた韓国の地方選挙では与党が大勝し、野党の保守政党は指導部が総退陣した。野党側の新指導部選びは党内の主導権争いによってまとまらず、その政治的影響力の低下は避けられない。12年前なら、米韓合同軍事演習の中止など全く考えられない状況にあったが、今や国民世論はこれを許容するようになった。このようにして、今後在韓米軍の縮小や合同演習の中止などが、なし崩し的かつ、米国単独または米韓間だけで決まっていくようになれば、我が国の安全保障に多大な悪影響をもたらすことは確実だろう。一方で、北の非核化措置に向けた動きに重大な疑義が生じれば、米朝関係が一気に昨年のような軍事的緊張状態に戻る可能性も排除できない。我が国にとっては、北朝鮮の非核化の進展度合いとは無関係に、当面座視できない状況が続くだろう。我が国が、米韓同盟の急激な構造変化にも備え、安全保障戦略の再構築を迫られる時が近いうちに来るかもしれない。
〈管理人より〉「集団安全保障」で北朝鮮を封じ込めましょう!
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4:『アジア経済』2018年7月4日

フォールイーグル2017

②「外国人拉致」が暴露されること
拉致被害者は政府認定の12人だけではない

民間団体や警察が拉致された疑いとみる500人超を見捨てるな
森清勇
東京・元赤坂の迎賓館で、横田めぐみさんの母・早紀江さん(中央)ら北朝鮮による拉致被害者の家族と面会したドナルド・トランプ米大統領(左、2017116日撮影)。(c)AFP/Kimimasa MAYAMAAFPBB News

 米朝首脳会談でドナルド・トランプ米大統領が日本人の拉致問題を提起し、金正恩朝鮮労働党委員長は「安倍晋三首相と会ってもよい。オープンだ」と述べていたとされる。その後は元の木阿弥みたいに国営放送は「拉致問題は存在しない」「日本の妄言」などと発言しているようであるが、米朝の首脳が昨年やり合った非難応酬と同じく、一種の駆け引きであろう。
 ともあれ、大統領が金委員から否定的でない返事を引き出したことから、日朝首脳会談の可能性が模索されているともみられる。安倍首相も日朝の首脳が会って解決すべき問題である趣旨の発言をしている。拉致問題には本来米国は関係なく、日本と北朝鮮間で解決すべき問題であることは言うまでもない。しかし、なかなか進展してこなかった。その点で、今回の米朝首脳会談を通じて北朝鮮に対して影響力を持つことになったトランプ大統領が直接日本人拉致問題を提起し、それに対して金委員長が語った言葉は一定の重みがある。
 20029月の小泉純一郎首相(当時)の訪朝に携わり、去る621日の日朝国交正常化推進議連総会に出席した田中均元外務審議官は、安倍首相が拉致問題の提起をトランプ米大統領に依頼したことについて、「恥ずかしい」との認識を示した(時事通信社 2018/06/21)とされる。
 しかし、帰国した5人の扱いなどをめぐる発言などからは、田中氏こそが「拉致」という事実に真剣に向き合っていなかったことを暴露している。委員長発言を契機に、日本政府はあらゆるチャンネルを活用して拉致被害者を取り戻すべきであるが、何度も騙された経緯を決して忘れず生かさなければならない。

12人の外に500人以上が拉致されている可能性

 ただ、一抹の不安がある。
 ここで確認しなければならないことは、「拉致被害者」という用語が固有名詞化され、政府が認定した17人という狭い範囲に限定してしまっているのではないかということである。また、17人のうち既に5人は解放され、子供たちも含め帰国している。従って、現在の政府認定は12人であり、この被害者をとり戻すことはもちろんであるが、その他にも拉致の疑いがもたれる日本人が多数いることを忘れてはならない。
政府が拉致認定を行うには、(1)北朝鮮の国家的な意思の推認(2)本人の意思に反して連れ去られた(3)行方不明者が北朝鮮にいる、という3つの要件を満たす必要があるとされる。
 しかし、冷静に考えると、これらの条件は被害者本人や北朝鮮からしかクリアーできない。となれば、これらの条件設定は、あえて言えば、易きに走って被害者見殺しも仕方ないと考えているとみられても致し方ない。辛うじて、この条件に叶うとして政府が認定したのが17人である。正確に言えば、曽我ひとみさんは認定どころか名前すら把握されておらず、帰国者リストで初めて分かったという報道もあった。
 このように、政府さえ把握していない被害者がいたわけで、政府認定の17人が政府の取り戻すべきすべてとは言い難い。現に政府は認定していないが北朝鮮に拉致された疑いがあるとして、救出活動などを行っている民間団体「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表、平成15年発足)が把握する「特定失踪者」は約470人である。
 特定失踪者問題調査会の独自調査とは別に、警察当局も900人近くの失踪者について、拉致の疑いを視野に捜査を継続しているとされる。政府認定と民間団体や警察が拉致の疑いも排除できないとする特定失踪者らとの落差は大きい。
 特定失踪者としてリストアップされた人の家族などでつくる「特定失踪者家族会」(大沢孝司会長、平成305月発足)は、国際的な人道犯罪などを裁く「国際刑事裁判所」(ICC) に対し、働きかけをして拉致全体の解決を目指すという。
 正攻法であろうが、この種の国際機関が違法性や悪辣非道を非難しても、端から無視する国家も多い。
 仲裁裁判所が南シナ海の人工島造成は国際法を無視するものと裁定したが、中国は判決書を「紙屑」と批判し、軍用機用の滑走路ばかりでなくミサイル用レーダーなども配備して軍事拠点化を鋭意進めている例もある。
 家族会は可能性のあるものは何にでもすがろうとする必死の思いからであろうし、正しく「溺れる者は藁をも掴む」心境であろう。
 国際機関に訴える、こうした迂遠な方法も大切であろうが、政府は家族会の意を汲んで、また、政府認定の「拉致被害者」と区別する必要があるならば、拉致された疑いがもたれる「拉致被疑者」などとして、首脳会談などにおいては取り上げるべきであろう。

徹底的に証拠隠滅した北朝鮮

 産経新聞の阿部雅美記者の拉致報道などをみても、日本人が連れ去られたとは思えないような場所や状況も多い。それほど、北朝鮮は巧妙に国家の全力を傾注して日本人を「拉致」し、痕跡を残さない隠蔽努力をしていたのだ。
 日本の政府としては、証拠が固められないものを「北朝鮮が拉致したではないか」とは言いにくいであろう。
 拉致された疑いがあるとしてリストアップされた人が確かに拉致されたのであれば、北朝鮮は日本の調査能力を馬鹿にできないと思うであろうし、拉致していないとウソをつけなくなろう。
 かの国柄から、それでも「拉致していない」「解決済み」を主張し続けるかもしれないが、そうした嘘の代償は大きいことを知らせなければならない。
他方で、実際は拉致されていない場合、逆に日本の調査能力に疑問符がつき、相手はますます嘘の主張をしてくるかもしれない。
 その辺りの勘案は大切であろうが、認定条件を満たさないから拉致被害者にリストアップされず、未来永劫、救出の手が差し向けられない状態に置かれるのはあまりに非情であり、国家として無責任ではないだろうか。
 政府が被害者認定するにあたって厳しい条件を課していることは理解できる。しかし、曽我さんがいい例で、政府が掌握していない人が拉致されているということは大いにあり得る。
 神戸のラーメン店で働いていた田中実さん(拉致当時28歳)は拉致被害者として政府が認定しているが、田中さんを同ラーメン店で働くように誘った金田龍光さんを政府は被害者認定していない。
 2014年には北朝鮮が田中、金田両人を拉致したと日本側に伝えていたにもかかわらずである。
 2人は幼少期から同じ養護施設に預けられ、肉親とは音信不通になっていた。
 また2人が働いていたラーメン店の経営者である韓龍大は北朝鮮の秘密工作機関「洛東江」に所属していた人物で、日本人拉致にも関わっていたことが暴露されている(福田ますみ「拉致被害者2名『生存』情報と野放し実行犯の名前」、『新潮4520185月号所収)。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53440?page=4
 ラーメン店「來大」で働き始めた金田さんは在日朝鮮人で本名は金。その金さんが親とも兄とも思っていた來大の経営者である韓は秘密組織で拉致に関わっていたのである。ここまで経歴や失踪に至る過程が明瞭になっても、一方は拉致被害者と認定され、他方は政府の認定がなく民間団体の特定失踪者どまりである。

拉致担当大臣が「拉致」と確信しても認定されない失踪者

 また、2015101日、松原仁元拉致問題担当大臣が記者会見し、拉致の疑いが排除できない特定失踪者2人の生存情報を得ていたことを明らかにした。政府に拉致被害者として認定するよう迫るためである。
 松原氏が生存情報を明らかにしたのは、昭和49年に新潟県佐渡市で失踪した大沢孝司さん(失踪当時27)と、51年に埼玉県川口市で消息を絶った藤田進さん(同19)。
松原氏によると担当相を務めた平成24110月の間に得た複数の情報から「間違いなく拉致されていたと確信した」という。
 大沢さんと藤田さんは拉致問題を調べる特定失踪者問題調査会が「拉致濃厚」と判断。特に藤田さんは北朝鮮から持ち出された写真が「本人」とする鑑定結果が出ているにもかかわらず、政府は「拉致被害者」と認定していない。
 元担当相の松原氏は会見で拉致認定の3要件に「あてはまるというような確信を持っていた」と述べたそうであるが、出席した大手メディアの社会部記者は「どのような経路で情報を入手したかも明かされず、『拉致と確信している』では説得力がない」と述べ、認定に「影響はない」と言い切ったそうである。
 松原氏は自身が担当大臣であったとき、「拉致されたと確信」したにもかかわらず認定しなかったのかが問われるのではないだろうか。
 捜査関係者は3要件のうち2つをクリアするものはあっても、3つすべてをクリアするのは困難という。失踪から長い時間が経過し、被害者の意思や北朝鮮の国家意思を確認する術に乏しいためである。
 特定失踪者の家族からは「厳しすぎる」との声もあがるが、関係者は「政府が認定をした被害者が実は拉致ではなかった場合、北朝鮮につけ入る隙を与える」と指摘する。
 その危惧が分からないでもない。しかし、拉致に関わる人物に徹底した訓練を施し、実行は夜陰に紛れて行うなど最大の隠蔽工作をしたわけで、拉致の痕跡が見つからないのが当然という見方もできるのではないだろうか。

日本で見つかる被疑者がいてもいいではないか

 失踪者が国内で発見されたならば、不幸中の幸いというだけの話しではないか。そもそも、善良な日本人を拉致するという国家犯罪を起こしておいて、日本が万一被害者と見た人がそうでなかったとしても、面目を失う必要はないであろう。
 秘密工作員が全力を傾けて、巧妙なやり方で連れ去っているわけで、証拠を掴めないとみるのがまずあっていいのではないだろうか。
 失踪者の半分、いや1割が実際の拉致被害者であったとしても、政府認定に至らないばかりに、日朝首脳会談から外されるというのでは余りに理不尽である。
 ここは、認定条件の1つにも該当しないが、国内で失踪する理由が見当たらないというただ1つの理由だけでも、まずは拉致の被疑者として持ち出すべきではないだろうか。
該当しない人が大部分で政府は恥をかいた、いやそれ以前に持ち出すべきではないというのは余りに消極的すぎるし、被害者の見殺しでしかない。
 特定失踪者が、拉致と全く関係なく日本国内で突然発見されることがあるのは確かである。日雇い現場で元気に働いていたり、漁網に白骨死体でかかってきたなどが報告されている。
 しかし、それがなんだという開き直りがいま必要ではないだろうか。
 痕跡がなくて当たり前、あるのは勿怪の幸いでしかないのだ。北朝鮮が日本に不法に侵入して、日本の領土から日本人を拉致していったのである。
 拉致問題に関係する外務省を筆頭とする官庁は、官僚的発想に閉じこもり、日本が被害者ということを忘れ、異常に萎縮し過ぎてしまっていないだろうか。

おわりに

 北朝鮮は8人死亡、4人未入国などと平気で嘘をつく国だ。日本は3条件のうち2条件が満たされても認定しない。被害者認定の条件は、日本の過剰な潔癖性を示している。これでは、実際は拉致された人物であるにもかかわらず、特定失踪者どまりにされかねない。
 北朝鮮流に「1万人を拉致した。無条件に返せ」と主張するくらいの国家的度量があってもいいのではないか。
 政府は国益棄損を何とも思わない外務省の言いなりになってきた。外交交渉においても自己保身が先立ち、日本たたき売りも厭わないために、良識ある人は害務省とさえ蔑称したりする。冒頭で述べた田中均氏は、帰国した5人を再度北朝鮮へ送りかえすように主張したとされる。もともと不条理に日本から連れ去られた日本人たちという根本を忘れていたからであろう。

拉致問題提起
〈管理人より〉「完全かつ検証可能で不可逆的な」解決とは、拉致問題にもいえることです。そしてこの忌まわしい問題が完全に解決し、拉致被害者がそれぞれの母国に帰国したとき、北朝鮮の金政権体制はまちがいなく崩壊、拉致に「活躍した」英雄工作員は一転、朝鮮国家の「犯罪者」になるでしょう。だからこそ我が国は、この拉致問題については絶対に譲ることはできません。譲るべきではありません。我が国の最大の武器であり、意に反して北朝鮮の国家機関に拉致された被害者が帰国し、ご家族と再会し、日本人としてのあたりまえの生活が取り戻せるその日まであきらめるべきではないのです。北朝鮮の戦後の「侵略」に勝利することになるのです。


2018年7月7日土曜日

北朝鮮の弾道ミサイル&核兵器の脅威はなくなるのか?

【超大国アメリカのミサイル迎撃事情】

日本周辺の弾道ミサイル防衛、米海軍の大きな負担に

「手を引く」と言い出し始めた米海軍、日本の対応は?
北村淳
衝突事故を起こし横須賀基地の乾ドックに入った米海軍のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」。米海軍提供(20177月13日撮影。818日提供)。(c)AFP/US NAVY/Christian SENYKAFPBB News
 海軍艦艇による弾道ミサイル防衛のためのパトロール任務は、戦略環境の激変という観点からは、アメリカ海軍にとってこの上もない足枷となっている──アメリカ海軍作戦部長ジョン・リチャードソン海軍大将(米海軍軍人の最高位)は、アメリカ海軍大学校での講演でこんな趣旨の発言をした。


BMD任務が駆逐艦衝突事故の遠因に

 リチャードソン大将によると、現在アメリカ海軍は弾道ミサイル防衛(BMD)のために高性能多用途戦闘艦であるイージス駆逐艦を多数割り当てているため、海軍がこなすべきBMD以外の様々な任務を犠牲にせざるを得なくなっているという。
 昨年(2017年)、第7艦隊で民間船舶との衝突事故が頻発した(4件のうち2件は重大事故で、2隻のイージス駆逐艦は使用不能となってしまい、現在修理中である)。これらの事故の原因の1つは、駆逐艦乗務員たちの訓練不足であったと事故調査報告書は指摘している。このような深刻な問題も、イージス駆逐艦やイージス巡洋艦がBMD任務に従事している時間が長すぎるために、海軍本来(伝統的意味合いで)の任務に従事する時間が短くなり、船乗りとしてのスキルが低下してしまったからだということができる。

軍艦配置のやり繰りに苦悩する米海軍

 実際に、アメリカ海軍は日本とヨーロッパに10隻以上のBMDを主たる任務とするイージス駆逐艦を展開させている。そのため、空母打撃群によるパトロール任務や水陸両用即応群によるパトロール任務、それに南シナ海はじめ世界中の海で実施している公海航行自由原則維持のための作戦(FONOP)などに割り当てるイージス巡洋艦やイージス駆逐艦のやりくりが厳しい状況になってしまっている。
そもそも海軍艦艇は、パトロールなどの作戦任務に従事中の軍艦、作戦から帰還して休養中の軍艦、次の作戦行動に向けて乗員の教育訓練も含めて準備中の軍艦、そのほか定期メンテナンス中ないしはダメージを修理中の軍艦、といった使用状況に分類できる。したがって、BMD任務従事中の軍艦の数倍の数のイージス艦をBMDのために差し出さなければならないことを、リチャードソン大将は強調したのだ。


BMDに従事していてはマティス長官の要望に応えられない

 イージス巡洋艦やイージス駆逐艦は、本来は多種多様な海軍作戦をこなすために生み出された超高額・高性能軍艦である。そうした軍艦をBMDという単一ミッションに割り当てているかぎり、マティス国防長官が強調している「軍隊は柔軟性に富むべきであり、(敵からの)予測可能性を極小化し、臨機応変性を極大化しなければならない」という要求に海軍が応えることはできないとリチャードソン大将は指摘している。
 たしかに、BMD任務を実施する軍艦は、敵が容易に予測可能な海域に長期間にわたって位置して、敵の弾道ミサイル発射をじっと待ち受けるという、臨機応変とは対極の受動的・静的作戦であり、全く柔軟性のかけらもないといえよう。
 このように多数のイージス駆逐艦をBMD任務に貼り付けていては、せっかくトランプ政権が打ち出した355隻海軍の建設に向けて軍艦の建造を加速させても、多岐にわたる海軍の任務を遂行していくことはますます難しくなる。なぜならば、アメリカは大国間角逐という戦略環境に打ち勝たねばならず、アメリカ海軍の主敵は、量的にも質的にも戦力強化が著しい中国海軍と、海洋戦力再興に躍起となり始めたロシア海軍だからである。

米朝会談で変化した北朝鮮情勢

 アメリカ海軍は過去15年以上にわたって、とりわけ北朝鮮によるアメリカや同盟諸国に対する弾道ミサイルの脅しを封じ込めるために、横須賀を母港とする第7艦隊の巡洋艦と駆逐艦にBMD能力を付加し、日本海でのBMD警戒任務を継続してきた。
 そして、昨年の民間船との衝突事故で2隻のBMD対応艦(イージス駆逐艦フィッツジェラルド、イージス駆逐艦ジョン・マケイン)が使用不能になってしまってからは、日本海でのBMD警戒態勢を弱体化させないために、厳しい情勢の中から2018522日、代替のBMD能力を保有したイージス駆逐艦ミリアスが横須賀に到着した。
しかし海軍関係者たちは、リチャードソン大将の言葉を受けてこう指摘する。「シンガポールでの米朝首脳会談により、少なくとも当面の間は北朝鮮による弾道ミサイルの脅威のレベルは低下した。したがって、これまでのように多くの高性能多機能軍艦であるイージス駆逐艦を、日本海上に待機させておくだけのBMD任務に縛り付けることは、アメリカ海軍にとってこれまで以上に大きな負担ということになる」。


海のBMDから陸のBMD

 アメリカ海軍のBMD専門家たちは、「今後は、ヨーロッパでの弾道ミサイル防衛のように、BMDイージス駆逐艦ではなく、陸上に設置したBMDシステムを主力にすべきである」と語っている。彼らは「ルーマニアやポーランドに設置されたイージス・アショアは、わずか11名の要員が3交代制で運用することができる。つまり33名がBMD任務に割かれるだけであり、軍艦による場合の10分の1の人的資源を投入すれば良いことになるのだ。幸いなことに日本政府はイージス・アショア2セットを購入する意向を表明しているではないか」とも指摘する。
 米朝首脳会談を受けて、米韓合同軍事演習や米海兵隊と韓国海兵隊の訓練が中止になり、在韓米軍の縮小や撤退などといった噂もささやかれ、朝鮮戦争終結宣言が締結される可能性も浮上している。米海軍の最高首脳は、「そのような状況下でイージス駆逐艦を日本周辺海域に貼り付けてBMD任務に当たらせる態勢は、アメリカ海軍にとっては大きな負担となっている」といった趣旨の発言をしている。
 また、米海軍関係者たちからも「イージス艦によるBMD任務はイージス・アショアをはじめとする地上配備型システムにバトンタッチすべきである」といった声が上がっている。
以上の発言からは、日本にイージス・アショア2セットが配備される2023年までに、アメリカ海軍第7艦隊が、平時における日本周辺海域でのBMD待機任務から手を引こうとしている動きが見て取れる。

 アメリカ側にこのような動きがある以上、日本側もただ単にアメリカ側に言われるがままに各種BMDシステムを輸入し続けるのではなく、日本自身のBMD態勢そのものについての再検証と建設的な議論を即刻開始しなければならない。
〈管理人より〉なるほど固定して狙うなら、地上配備型のイージスアショアでもいい、というかこちらの方が効率的かもしれないな。
ロサンゼルス向け 北朝鮮弾道ミサイルの飛行&GBI迎撃シュミレーション
【米朝首脳会談により弾道ミサイル&核弾頭を処理しなければいけない北朝鮮】
着手したはずのミサイル施設破壊・遺骨返還もポンペオ氏の“手土産”に取り置き… 小出し戦術で長期化の恐れも
201876日、米ポンペオ米国務長官が、北朝鮮・平壌の順安国際空港に到着し、金英哲朝鮮労働党統一戦線部長や李容浩外相らの出迎えを受ける。

 【ソウル=桜井紀雄】米朝首脳会談での合意をめぐる具体的措置を協議するため、ポンペオ米国務長官が20187月6日、訪朝した。ただ、会談から間もなく1カ月となる今も北朝鮮に、トランプ米大統領が着手しているとしたミサイル施設の廃棄や米兵遺骨の返還で決定的な動きは見られない。北朝鮮がカードを小出しにし、見返りを引き出す戦術を取る懸念が高まっている。
 「訪問してくれるたびに信頼は深まる」。同行記者団によると、ポンペオ氏と6日に会談した金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長はこう歓迎の意を示した。ポンペオ氏は「生産的な協議になるよう期待する」と応じた。
 米国は20186月12日の首脳会談後、目に見える成果を手にしていない。トランプ氏は会談後の会見で「金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は既にミサイルエンジン実験場の破壊に着手していると述べた」と強調した。北西部、東倉里(トンチャンリ)の施設を指すとみられている。
 だが、韓国野党議員は5日、国防省の報告として「東倉里など複数のミサイルエンジン実験場が通常通り稼働している」と公表。寧辺(ニョンビョン)の核施設も稼働中だとし、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載できる新型潜水艦の建造も観測されたと説明した。
トランプ氏は先月、朝鮮戦争で戦死した「米兵200人の遺骨が送り返された」と述べたが、遺骨の搬出はいまなお確認されていない。結局、2つの措置をポンペオ氏との交渉まで温存し、ポンペオ氏への手土産にする思惑がうかがえる。特に過去にも実施した遺骨返還は、負担が少ない上、人道的取り組みとして米世論にも歓迎される有効なカードといえる。
 北朝鮮は6日、対外宣伝サイトで「平和の時代に米軍と戦争演習はもはや必要ない」とし、韓国の民心が「基地の撤廃を要求している」と主張した。米韓は合同軍事演習の中止を打ち出しているが、韓国の一部反対運動にかこつけ、在韓米軍の撤退まで踏み込んで探りを入れた形だ。対米交渉で演習中止以上の見返りを求めてくる可能性がある。
 北朝鮮の人権改善を求める米議会の動きにも「今は朝米が障害物を一つ一つ除いて善意の措置を講じるときだ」とし「米国は相手を刺激する『人権』芝居をやめるべきだ」と警告。体制にとって不都合な要求ははねつけ、北朝鮮ペースの交渉に固執する恐れがあり、完全な非核化に向けた協議は長期化も予想される。
グアムむけ中距離弾道ミサイル発射シュミレーション

【この先の道程は険しくとも】
北朝鮮「非核化」への果てしなき道程

斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
 「もはや北朝鮮の核の脅威はなくなった」
 トランプ大統領が米国民向けに意気揚々と放った非核化宣言の雲行きが怪しくなってきた。612米朝首脳会談以降、北朝鮮の核・ミサイルの現状にいささかの変化がないばかりか、「すみやかな廃棄」に向けたプロセスすら先行き不透明だ。
 北朝鮮の非核化展望について、大統領はじめ米政府当事者たちの発言が揺れている。
 トランプ大統領は去る617日朝の自らのツイートで「米韓合同軍事演習の中止は私自身の要請によるものだ。演習自体、金がかかるし、北朝鮮と非核化の交渉をしているときに挑発的な灯りをともすことはよくない。もし、交渉が破たんした場合は、演習をただちに再開する。そうならないことを臨むが」と含みのあるコメントをした。つまり、今後の非核化プロセスが思い通りに進まないこともありうることを示唆したものだ。
しかし先月20日、大統領はミネソタ州ダルースの共和党集会で一転して「先の米朝首脳会談後の共同声明はナンバーワンの声明だ。われわれは北朝鮮のトータルな核廃棄にただちに着手する。金正恩は(非核化の約束を守ることによって)北朝鮮を偉大で成功をおさめる国にすることを確信している」と自信たっぷりに語った。
 さらに同日ホワイトハウスで「核全廃のプロセスは既に始まった。北朝鮮は4カ所の大実験場を破壊した」と明らかにした。
 ところが、この点について記者団に聞かれたマティス国防長官は「私は関知していない。非核化のための詳細な交渉はまだ始まっていないし、現段階ですぐに始まるとは私は思っていない」とコメントし、大統領発言との微妙な食い違いが表面化した。
 一方、Fox Newsによると、ポンペオ国務長官は621日、閣議の席上「金正恩労働党委員長は非核化の約束を忠実に履行するだろう。彼は、自分たちの国のより明るい未来を創るためにも、できるだけすみやかに非核化を進めると思う」との楽観論を展開した。
 つまりここまでの段階では、在韓米軍や国防情報局(DIA)などを通じて北朝鮮国内の最新の軍事情勢と動向に通じているはずのマティス長官が、非核化に向けての具体的な動きが始まったことに否定的な見解を示す一方、大統領と国務長官はともに積極的な評価を下しているかに見えた。
 ところが、その後、突然、ポンペオ長官自身が楽観論から後退した発言をした。625日になって、CNNテレビとの電話インタビューで次のように述べたのだ。
 「私は(非核化交渉のための)タイムラインを、それが2カ月後であれ6カ月後であれ、あえて設けるつもりはない。われわれは先の米朝首脳会談で合意した内容を達成できるかどうかを見るためにすみやかに前進していくことにコミットしている」
 米主要メディアの間では、この発言は婉曲的表現ながら、トランプ・ホワイトハウスが、
北朝鮮による非核化に向けての具体的行動開始時期について何ら担保されておらず、果たして、実際に核放棄する意図があるのかどうかも確信を持っていないことを認めたもの、と受け止められている。 
 この点で注目されるのが、アジア情勢に詳しい「The Diplomat」紙に622日掲載された、中国国際問題研究所研究員Cui Lei氏による「北朝鮮非核化がほとんど不可能である理由」と題する寄稿文だ。
 同氏によると、まず最初に、北朝鮮が米朝会談での非核化約束を履行しなくてもよくなった
「最近の国際政治情勢の展開」が挙げられるという。すなわち米中関係の変化だ。
 トランプ大統領が去る615日、中国製品に対し、500億ドル(5.5兆円)相当の輸入課税を発表して以来、中国側が同様の報復措置をただちに打ち出すなど次第に両国間の「関税戦争」がエスカレートしてきた。しかし、対立は貿易面のみならず、必ず安全保障面にも波及しいくことになる。
 そこでもし、北朝鮮が今後、非核化着手のための具体的一歩を踏み出さなくなった場合、米国は北朝鮮に最大の影響力を行使できる立場にある中国の手を借りざるを得なくなるが、中国側は米国による貿易面での対中強硬措置に対する報復として、協力要請を拒否する可能性があるという。
 金正恩朝鮮労働党委員長は先の米朝首脳会談と前後して、すでに3度にわたり訪中、習近平中国国家主席と親密に会談したが、中国側は非核化について北朝鮮の従来の主張通り、米側が要求してきた「すみやかな廃棄」ではなく、「米朝双方による段階的な同一歩調による非核化」を進めることで合意している。
 中国はさらに今後、北朝鮮に対する国連経済制裁の緩和に乗り出すのは確実視されているほか、ロシアもこの点ですでに経済制裁緩和の意向を表明、さらに韓国も文在演大統領が対北朝鮮微笑外交に転換しつつある。
 こうしたことから、金正恩政権にとって、米朝首脳会談以後の国際環境はきわめて有利に展開してきていることは事実であり、それだけ非核化に早急に着手する必要性が薄らいできている、というわけだ。
 第2に、トランプ大統領はシンガポールでの首脳会談で、金委員長に対し、非核化達成と引き換えに「体制保証」と「大規模経済援助」の2点をとくに約束したが、このうち、後者については、金正恩独裁体制側からみて必ずしも手放しで歓迎できるものではない、との見方が出てきている。
 1980年代、中国が「改革開放」に乗り出し始めた過程で、体制が緩み始め結果として、民主化運動を弾圧する天安門事件につながったのと同様に、北朝鮮国内でも、西側からの援助や経済制裁緩和が人民の改革要求に拍車をかけ、ひいては体制不安定化を引き起こすことにもなりかねないからだ。つまり、金日成金正日金正恩と継承されてきた北朝鮮のファミリー支配は、外国との情報や人の流れを極力遮断した厳格な鎖国政策があったからこそ維持できてきたのであり、それ自体、何物にも代えがたい現体制の存在基盤だというわけだ。

非核化に容易に踏み切れない別の事情

 さらに金正恩氏にとって、非核化に容易に踏み切れない別の事情がある。
 それは、同氏が金正日氏から権力をバトンタッチされた翌年の20125月、自らの指導の下で憲法改正に踏み切り、「金正恩国防委員会議長はわが祖国を政治的イデオロギー的な強靭な国家、核保有国家、そして不屈の軍事国家へと移行させた」との文言を盛り込んだ前文に書き換えさせたことだ。
 この憲法前文の修正は、形式的とはいえ、北朝鮮の最高意思決定機関である労働党中央委員会全員会議で採択されたとみられるだけに、新たに内外に向けて宣言した「核保有国家」という公式な立場を今の時点ですぐに撤回することは極めて困難と判断される。
 こうしたことから、Cui Lei氏も指摘しているように、北朝鮮は究極的に、核廃棄ではなく、「インド・モデル」の道を模索することも否定できない。
 インドは核実験を成功させ核保有国家と成った後、国連などの場を通じ自国の厳格な「核非拡散体制」をアピール、国際世論の批判をかわすことに成功した。同様に、北朝鮮も今後、米政府との間に交わした「非核化」について中国やロシアなどの理解を得ながら時間稼ぎし、「核保有」を既成事実化させるともに、国際社会に対して融和外交に転じるというシナリオだ。
 このほか、すでに推定30発の核爆弾を保有し、今後いつでも量産できる体制にある北朝鮮の場合、きわめて小規模にとどまっていた核兵器開発を断念した南アフリカやリビアなどと異なり、実際に非核化に着手する際の困難な技術的問題も指摘されている。
 過去に北朝鮮の核施設を視察したこともある米スタンフォード大学ジーグ・フリード原子物理学博士らの研究チームによると、核廃棄に先立って特定すべき対象となる北朝鮮の個別の核開発計画および具体的活動内容は「22項目」あり、これらすべてに終止符を打つには「最低5年から10年」を要するという。
 この点、ポンペオ国務長官は先に記者会見などを通じ、北朝鮮の非核化達成のめどについて「2年半以内」と期限をつけていた。これは明らかに、トランプ大統領が再選をめざす202011月の大統領選挙を念頭に置いたものにほかならず、北朝鮮側と事前に廃棄のための工程について刷り合わせたものでも何でもない。たんなる政治的意思表示に過ぎない。
 こうした中、米NBCテレビは629日、北朝鮮が最近、国内の複数の秘密施設で、核兵器に使用する核燃料の増産に乗り出している事実を米情報機関が把握している、と報じた。もしこれが事実とすれば、北朝鮮は米側が期待するかたちの非核化に取り組む意思がないことを示すものであり、今後論議を呼ぶことになりそうだ。
 
 一方、ポンペオ長官は早ければ76日に平壌を訪問し、北朝鮮政府当事者と非核化のための具体的プロセスについて協議することになっている。
 果たして、今回自ら3度目の平壌入りで、実のある成果を具体的に引き出すことができるのか、あるいは手ぶらで帰国の途につくことになるのか、国際的関心が高まっている。
〈管理人より〉ポンペイオ長官は「成果なし」で帰国することは許されないでしょう。アメリカの北朝鮮への懸念の一番は、核弾頭と弾道ミサイルですから、決して妥協すべきではありません。しかし本当に北朝鮮の軍事行動を封じ込め、国家体制の変革を進めるには、最高の武器は「拉致問題の解決」でしょう。拉致されているのは日本人ばかりではありません。最大の拉致被害国は韓国、日本、共産中国、ロシア、アメリカ、東欧諸国、インドシナ、東南アジア、北朝鮮による「拉致問題」は国際問題なんです。北朝鮮は、国家戦略の遂行、達成のためには世界中の人々を平気で拉致できる「侵略国家」です。
「完全かつ、検証可能で、不可逆的な解決」
拉致問題のことでないといけません。
現代アメリカの核装備