2020年8月28日金曜日

アメリカは共産中国との「情報戦」に勝利できるか?


アメリカの「中国人留学生外し」が示す深い確執
留学生大国目指す日本にも対岸の火事ではない
 API地経学ブリーフィング


今後、自由主義諸国は中国からの「ヒト」の流れをどこまで、どのような基準で制限していったらいいのか

 米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

中国人留学生37万人の影

 米中対立に拍車がかかる今日、アメリカの対中デカップリング(切り離し)の動きは経済上のモノ・サービス・金融の分野だけではとどまりそうにない。約50年間にわたって米中の協調関係を下支えしグローバリゼーションによってさらに深化した、米中間の「ヒト」のつながりにもついに規制の手が及んだ。

 アメリカ政府は61日付で、今後、中国人民解放軍とつながりを持つ大学院レベル以上の中国人留学生・研究者をアメリカに入国させず、すでにアメリカ内にいる対象者のビザは剥奪することを決めた。これにより少なくとも3000人の中国人が影響を受けるという。
 5月には共和党の上院議員からも理系の中国人留学生をすべて入国規制すべきだとする提案が発表され、7月には約9200万人に及ぶ中国共産党の党員とその家族の入国規制が検討されていると報じられた。今後アメリカをはじめとする自由主義諸国は中国からの「ヒト」の流れをどこまで、どのような基準で制限していったらいいのか。2008年以来留学生受け入れ30万人を目指し取り組んできた日本にとっても深刻な問題だ。

 中国が急速な経済発展を遂げるにつれ、そのエリート層の多くは子弟を海外に送り出すようになった。現在アメリカには37万人近くの中国人留学生がおり、この中にはかつてハーバード大に通った習近平の1人娘もいた。こうした中国エリートの子弟は究極的な意味で米中関係の信頼を担保する「人質」であり、裏返せばそれは北京のトップがアメリカやその開かれた大学に一定の信頼を置いているという証しでもあった。莫大な数に膨れ上がった中国人留学生は、アメリカで学ぶ留学生全体の約34%を占め、大学の国際性向上に貢献し、多くの大学の財政を支えている。

 しかし、米中信頼担保の役割を果たしてきた中国人留学生はいまや米中不信の種になってしまった。中国政府がその一部を政治利用し、アメリカの安全保障や価値観を脅かすツールとして用いることが広く認識されてきたからだ。2018年アメリカ連邦捜査局(FBI)は、一部の理系分野の中国人留学生・研究者が「非伝統的な収集者」として知的財産の不正流出に加担していると報告した。

 問題は知的財産の流出だけにとどまらない。中国領事館が中国人学生団体と連携し、各大学における教育・研究活動に中から影響力を行使しようとする事例が数多く報道されている。ダライ・ラマや中国亡命者による講演への妨害行為がその際たる例だが、ほかにも領事館によって中国人留学生の言動が監視されるだけでなく、その監視の目が各国で教鞭をとる大学教員、とくに中国研究者にまで及ぶ可能性に危惧が高まっている。
 すでに中国国内の大学では、習近平体制を批判した大学教授の言動が学生を通じて政府当局者に伝わり、後に逮捕されている。同様の現象が中国人留学生を通じて海外の大学教員に起こらない保証はない。豪州では講義中に中国を批判した教員がSNS上で批判を浴びる事件が起こった。

中国研究者の間に募る懸念

 現に世界の中国研究者の間では、中国政府からの懲罰を恐れた結果広がりかねない自己検閲に懸念が広まっている。今年発表された調査研究では、中国本土以外で活動する中国研究者562人のうち、約7割が中国研究における自己検閲に危機感を示したという。中国当局による長期的な拘束は非常にまれでも、中国への渡航規制や公文書館へのアクセス制限、訪中時に当局者から誘われる「お茶」など、さまざまな圧力が実体験として報告されている。
 一方、中国領事館の留学生に対する介入の度合いには地域間でも差があり、その実態はつかみきれないことから、トランプ政権内では中国人留学生を一緒くたに敵視する声もある。だが、ただでさえ政治の分極化が進むアメリカにおいて、反移民主義的傾向の強いトランプ政権が闇雲に中国人入国規制を行えば、それは必ずや国内外で物議を醸し、アメリカは内部分裂を起こしてしまうだろう。中国系のアメリカ市民に対する差別問題につながる危険性もある。

 すでに中国は最近のアメリカの動きを特定の人種を排除しようとするレッド・スケアの再来と非難しているが、これにはアメリカの国内情勢を見据えた一定の公算がある。近年のアメリカでは人種や性別、性的指向など特定のアイデンティティーに基づく集団の権利をめぐる問題が政治議題として重視され、保守とリベラルの分裂が深刻化している。トランプ氏が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んで批判されたのも、そうした描写がアジア系市民への差別行為を助長するからだった。中国はこうした情勢を巧みに捉え、中国人入国規制を人種差別問題として語る。

 5月に発表したアメリカ政府の対中戦略文書が工夫を凝らしながら本件に警鐘を鳴らすのはこのためだ。この文書は、中国人留学生は「自由の国アメリカ」にいながら自国の政府に監視され政治利用される被害者だと示唆し、アメリカの大学は彼らの権利を守る必要があると訴える。「習近平体制 vs. アメリカで学ぶ優秀な中国人留学生」という構図を作り、アメリカは後者の味方と伝えることで、この対中指針がトランプ政権の単なる排他的アメリカ・ファーストの一環ではないと示す。

 移民たちによる「大いなる実験」を建国精神とし、外国人に門戸を開くことで成長を続けてきたアメリカだからこそ、ヒトをめぐる対中デカップリングでは神経をとがらせている。19世紀後半から20世紀前半にかけてアメリカ国内で中国系移民に続いて日系移民が排斥され、当時の日米関係に影を落とした歴史からも、この問題がはらむデリケートさが読み取れるだろう。

留学生大国を目指す日本に警戒が必要なこと

 中国人留学生問題は日本にとって決して対岸の火事ではない。現在日本には約86000人の中国人留学生がおり、留学生全体の約41%を占める。アメリカで中国人留学生が占める比率34%より大きい数字だ。都内の大学におかれる中国人の学生団体も2018年の72団体から2020年の94団体に増加している。
 米中間の「ヒト」デカップリングの動きを受け、日本はとくに2点で警戒を強めなければならない。
 まず、中国軍関係者や理系の学生など、新たな規制によってアメリカに留学できなくなった中国人の学生が代替先として日本にやってきていること、今後もその数が増えることを見越し、機微情報流出への防衛策を強化する必要がある。日本ではすでに「外国為替及び外国貿易法」に基づき、理工系の大学や学部に対して外国人留学生受け入れの適切な基準を示すなど、機微技術管理の対策を講じているが、その対策はいまだ十分に浸透していない。
 日本の国立大学、医歯薬理工系学部を置く公立・私立大学を対象にした2018年の経済産業省の調査によれば、輸出管理の担当部署や内部規定を設定している大学はまだ半分程度だ。内部規程のない大学では外国人留学生・研究者受け入れ時点で安全保障上の審査を行っているのはわずか6%にすぎなかった。ここ数年における中国人留学生の急増および国際情勢の変化を受け、こうした抜け穴を早急に埋める必要がある。政府は対策実施のための財源やノウハウが不足している大学を中心に支援を拡充し、対策を最大限に強化したうえで優秀な理系分野の中国人留学生を迎えるのが望ましい。

 さらに日本の大学内での言論・学問の自由を保護し、中国を扱う研究者たちが自己検閲せざるをえない状況にならないよう、政府・大学が連携して策を講ずる必要がある。昨年9月、北海道大学の岩谷將教授が中国社会科学院近代史研究所からの招聘による訪中時に反スパイ法違反の嫌疑で拘束され、その後日本政府の働きかけで解放されたことは記憶に新しい。

日本国籍の研究者が2カ月間拘束

 2015年以降、中国では14名もの日本人が拘束され、大手商社の社員を含む9名が有罪判決を受けている。だが今回、日中戦争史を専門とする日本国籍の研究者が2カ月間拘留されるという史上初めての出来事は、日本の中国研究者に大きな衝撃を与えた。
 今後、ほかの日本人中国研究者が訪中時に拘束されるリスクやその他の圧力から研究分野を制限されたり、中国人留学生の面前では率直に意見できない状況になったりすれば、自由主義国の根幹となる言論・学問の自由は次第に腐敗していくだろう。同状況下にある自由主義諸国の大学や研究者等と意見交換を深め、ともに知恵を絞らなければならない。

 留学生大国を目指す日本は、今後とも大学の開かれた言論空間を堅持し、機微情報や知的財産の保護対策を徹底的に強化したうえで、優秀な留学生を歓迎しなければならない。そのためには中国人留学生がもたらす問題が、日本の安全保障、知的財産、そして言論・学問の自由に関わる分野横断的な問題だと認識し、国を挙げて防衛措置を強める必要がある。こうして防衛策を徹底させ潜在的攻撃者を抑止できれば、攻撃の武器として用いられる中国人留学生を守ることにも繋がる。

 一方、今後も中国政府が留学生を利用した政治工作を加速させ、こうした強化措置だけでは対応できなくなれば、日本を含む自由主義諸国は中国人留学生に対して国境を閉じていかざるをえなくなるだろう。また日中の相互理解を支えてきた日本の中国研究者や経済人が安心して訪中できない状況が続けば、日中関係は厚みを失いすさんでいくだろう。そんな日中関係、国際社会が中国の望む世界なのか。留学生をめぐるデカップリングの動きは、北京にそう問いかけている。

 (寺岡 亜由美/プリンストン大学 国際公共政策大学院安全保障学博士候補生)

家庭生活に難のある学生、海外で学ぶ意欲あふれる若者、それぞれの状況に応じてヒューミントの役割を課していくような形でしょうか?

特別なスパイの訓練を経てきている方はそう多くはないでしょう。多くはお金で雇われたエージェントではないかと思えます。


中国人留学生関連動画



仮に相手がスパイであったとしても正直「騙される方も悪い」という考え方もあるかと思います。スパイを罪と断定し、国家に害をなす存在として刑罰を科す対象としていくのは政府の仕事です。特定秘密保護法だけではなく、スパイそのものを取り締まることにできる法律を整備しないとこの国は国際社会で一流国として認められないでしょうね。いつまでもアメリカの保護国、共産中国の準保護国となるだけです。


大国に情報戦で翻弄されれば、国家としての主体性はないです。自衛隊の防衛戦略もそこのところを考えるべきです。市街地戦闘訓練も大事ですが、ヒューミント養成、シギント収集のための体制を整えることですが、まずは日本人の戦争についての認識を変えることが重要でしょうか?
 となると義務教育での「戦争教育」の改革だな。



我が国の「敵地攻撃論」について ~政府の思惑の本音はまず法整備か?~

平和が続く日本で高まる「敵地攻撃論」の想像以上の危うさ

 田岡俊次
© ダイヤモンド・オンライン 提供 日本のミサイル防衛は、弾道ミサイルに対して、イージス艦の「SM3」ミサイルや航空自衛隊の「ペトリオットPAC3」(写真)で迎撃する体制 出典:航空自衛隊ホームページ


 815日の全国戦没者追悼式で天皇陛下は「終戦以来75年、人々のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき誠に感慨深いものがあります」と述べられた。
 第2次世界大戦以後の75年間、世界各地で戦争、内乱、軍のクーデターなどが絶えず、ほとんどの国が戦争をしてきたことを思えば、日本が平和を維持してきたのは例外的で慶賀すべきことだ。
 だが一方でそのために、戦争を現実に起こり得るものとして、具体的に考える能力を欠き戦争の危険を軽視する「楽観的防衛論」が台頭する要因にもなっている。

戦後75年間、平和を謳歌 直接戦闘を回避できてきた日本

 米国は1950年に始まった朝鮮戦争以後、戦争をしなかった年はまれだ。アジア、中南米、中東・北アフリカ、バルカン半島に出兵して戦い続け、その同盟国、友好国も協調出兵を迫られた。
 朝鮮戦争では米軍、韓国軍側を支援して英、仏、カナダ、豪州など15カ国も参戦、北朝鮮軍、中国軍と激戦し、ソ連も技術者、教官などを派遣した。米国の占領下にあった日本からは海上保安庁の掃海艇が米軍の上陸地点で機雷除去を行い、1隻が爆沈した。
 ベトナム戦争では1964年から本格的に南ベトナムに出兵した米軍側に韓国、豪州、タイ、フィリピン、ニュージーランド軍が加わり、北ベトナム側には中国、ソ連は対空部隊や多数の技術者などを送り込んだ。

 1991年の湾岸戦争では米軍主体の多国籍軍に英、仏、伊、カナダやエジプト、シリアなど14カ国軍が加わり、他にソ連を含む18カ国が多国籍軍への非戦闘支援を行い、日本も停戦後にペルシャ湾に掃海艇を派遣した。

 2001年に米、英が行ったアフガニスタン攻撃は長期のゲリラ戦となり、米軍主導の国際治安維持部隊(ISAF)には北大西洋条約機構(NATO)の28カ国の他に、非加盟国のスウェーデン、フィンランドなど15カ国も加わった。日本は補給艦、護衛艦を派遣、8年間米国などの艦艇に給油を行った。

 2003年に始まったイラク戦争では米、英、豪、ポーランド軍が侵攻したが、その後の治安維持に42カ国が参加。日本も陸上自衛隊約600人、C130輸送機を出し、学校、道路の補修や医療支援を行い、輸送機は米兵の輸送も行った。
 補給や占領地での民衆の懐柔も戦争で重要な要素だから日本もその一端を担ったが、直接の戦闘は辛うじて避けられたから、日本は「75年間平和を保った」と言うこともできなくはない。

陸上国境、人種や宗教対立なく 一方で「楽天的な防衛論」

 世界で大多数の国が近隣諸国との武力紛争や独立戦争、内戦、海外派兵などで、多数の死傷者、難民を出し、経済、財政に重大な損失を招いてきた中、日本がほぼ3世代戦禍を免れてきたのは、いくつかの要因が考えられる。

1)島国で陸上国境がないため紛争が起こりにくいこと
2)世界的制海権を持つ米国に占領され、その同盟国となったため他の国の侵攻を受けにくいこと
3)人種、宗教間の対立が少ないこと
4)憲法による規制があり、第2次世界大戦での惨敗、それを招いた軍の横暴の経験から、国民に戦争、軍事問題に対する忌避感が強かったこと――などだ。

 日本が平和を謳歌し繁栄したのは結構この上ないが、その結果、戦争はめったに起きないように感じ、戦争の危険を軽視した楽天的な防衛論が台頭することは寒心に堪えない。
 その一つは北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対処するため、敵のミサイル基地を攻撃する能力を持つべきだとする「敵基地攻撃論」だ。

「敵地攻撃論」の非合理 ミサイル「発射」の把握困難

 敵ミサイル基地攻撃を唱える人々の主張には、軍事知識や戦争の現実についての認識の「欠落」がある。
 小銃射撃や砲撃でも、攻撃をするには目標の位置を知ることが不可欠であるのは自明のことだが、敵基地攻撃を唱える人々は「どのようにして相手のミサイルを探知するのか」を考えていない様子だ。
 偵察衛星は地球をほぼ南北方向に約90分で周回する。地球は東西方向に自転するからおよそ1日に1回、世界各地の上空を高度200キロ程度、時速約29000キロで通過する。
 カメラの首振り機能を生かしても北朝鮮を撮影できるのは1日に数分でしかない。夜間や雲がある場合には光学カメラは使えないから、精密レーダー衛星があるが、解像度は劣る。
 偵察衛星は飛行場や造船所など、固定目標を撮影するには有効だが、移動目標を探知し、監視するにはほとんど役に立たないのだ。

 米軍は光学カメラを搭載した光学衛星5機、レーダー衛星7機(他に実験中の小型衛星5機)を持つ。日本は光学衛星2機、レーダー衛星5機を持つが、故障しているものもあり、実質的には計5機と思われる。
 常時監視をしようとすれば偵察衛星が数分置きに1地点上空を通るよう、百数十機を上げておく必要がある。

「静止衛星で見張れるのではないか」と言う人も少なくないが、それも不可能だ。
 静止衛星は地球の直径の3倍に近い高度約36000キロで赤道上空を周回する。この高度だと衛星の速度と地球の自転の速度が釣り合って、地球から見て止まっているように見える。だから電波の中継などには活用されるが、この距離からはミサイルのような小さい物体を撮影することは不可能だ。
 弾道ミサイル発射の際に出る大量の赤外線は探知できるから、「発射」の第一報を出し、ミサイル防衛(迎撃)には有効だが、敵基地攻撃の役には立たないのだ。

ミサイルの「破壊」も難しい 移動式や即時発射能力向上

 北朝鮮の弾道ミサイルは移動発射機に搭載し、北部の山岳地帯などのトンネルに隠され、燃料を注入したまま待機できる「貯蔵可能液体燃料」を使用、新しい物はさらに即時発射が可能で、移動も楽な固体燃料になってきている。
 これはトンネルから出てきて、ミサイルを立て、発射まで15分程との推定もあるから、ジェットエンジン付きの大型グライダーのような「グローバル・ホーク」など無人偵察機を北朝鮮上空で常に旋回させてもトンネルから出て来たところを攻撃することも困難になっている。
 しかも北朝鮮は、旧ソ連製の「S200」や国産の「ボンゲ(稲妻)5」など高度3万メートルに達する対空ミサイルを持っているから、偵察機が上空で旋回していれば撃墜される公算が大きい。

 隠れている弾道ミサイルを発見、破壊するのは米軍にも容易ではない。
 1991年の湾岸戦争ではイラク軍の「アル・フセイン」(スカッド改)弾道ミサイルに対し、米軍は1日平均64機を「スカッド・ハント」に投入、発射地域の上空で監視、攻撃させたが、イラクは停戦の2日前までイスラエルや米軍基地にミサイル発射を続けた。
 停戦後に米軍が調べると、空軍機が破壊したと報告したのは、実はカラのミサイル発射機やトラックなどだったことが分かった。
 発射前に破壊できたのは、夜間に特殊部隊を運んでいたヘリコプターが偶然ミサイル発射の火柱を目撃、そちらに向かってみると、もう一発が発射準備中だったため、ヘリコプターのドアからの機銃射撃で壊した例だけだった。
 その後、約30年間で対地攻撃用の精密レーダーや赤外線探知装置の性能は進歩したが、他方で弾道ミサイルの機動性や即時発射能力も飛躍的に向上したから、その破壊は容易ではない。

 日頃の偵察衛星の画像や通信傍受で弾道ミサイルの展開地域は分かっても、攻撃するには精密な地点の緯度、経度のデータが必要だ。
 特に山腹のトンネルに隠されると、出入り口は分かってもダミーも多いし、トンネルが地下でどちらに曲がったり、枝分かれしたりしているかは分からない。地中貫通用の大型爆弾でも数十メートルの深さにしか届かないから、山の上空から攻撃するのは困難だ。
 敵基地攻撃を唱える人々は、北朝鮮の「テポドン」の発射のテレビ映像などを見て、それをミサイル基地だと思っている人も少なくないようだ。
「テポドン」は高さ65メートルもある巨大な櫓の側で、何週間もかけて組み立てられ、北朝鮮はその発射を事前に公表している。

 201212月と162月の2回、人工衛星と称する物体を周回軌道に乗せることに成功したが、衛星は故障したのか電波は出ていない。
「弾道ミサイルと人工衛星打ち上げ用のロケットは技術的には同じ」と言われることが多いが、これは「大型旅客機と戦闘機は基本的には同じ」と言うような粗雑な論だ。
 1957年にソ連が初の人工衛星を打ち上げ、翌年に米国もそれに続いて競い合った時代には、双方とも軍用のミサイルを転用した。だがそれ以来60年以上の歳月に、弾道ミサイルと人工衛星用ミサイルは別の方向に進化した。

 弾道ミサイルはたて穴に入れるか、潜水艦や車両に積んで移動するからなるべく小型にすることが望ましく、即時発射機能が必要だ。米国の主力ICBM「ミニットマン」は固体燃料を使い全長18メートル、重量35トンになった。
 一方、人工衛星は大型の反射望遠鏡やレーダー、送信機など多くの電子装備を搭載、寿命を長くするため大量の姿勢制御用燃料も積みたいからどんどん大型化し、「スペース・シャトル」は2000トンを超す大型となった。人工衛星を打ち上げる場合は、即時発射の必要はないから推力の強い液体燃料が使われた。
「テポドン」のように全長が10階建てのビル並みの30メートル、重さは80トンもあり、移動も即時発射もできないものは、戦時では簡単に破壊されるから弾道ミサイルの適性を欠く。現実にいまは人工衛星の打ち上げに使用されている。

日米韓の連携どこまで 北朝鮮への抑止効果は疑問

 米軍、韓国軍との密接な情報交換で、移動発射のミサイルが山腹のトンネルなどから出て来た位置をつかんで攻撃できるようなことを言う自衛隊幹部もいる。
 だが、もし米、韓国軍がその情報を得れば、11秒を争うからただちに自分が攻撃するはずだ。日本に教えて手柄を譲ることはないだろう。
 また自衛隊が巡航ミサイルによる攻撃を朝鮮半島で行う場合には、味方討ちや誤爆を避けるために米韓合同司令本部の許可が必要だ。韓国軍がそれを歓迎することも考えにくい。
 また敵基地攻撃を唱える人々は「外国がいままさに日本に向けてミサイルを発射しようとしている際には、それを攻撃するのは自衛権の行使に当たる」と言う。
 法的にはそれにも一理はあるが、仮にミサイルの発射準備が行われていることを知っても、それが日本に向けて発射されるのか、単なる日常の訓練か、海に向かって試射するのか、他の国を狙うのかは、まず分からない。
 日本がミサイル攻撃を受けた後に、平壌などの固定目標に巡航ミサイルを発射するなら可能だが、核ミサイル攻撃の能力を持つ相手に、火薬弾頭の巡航ミサイルなどで対抗するのは破壊力が段違い。大砲に対して弓矢で立ち向かうようで抑止効果は無きに等しい。

購入予定だった「SM348発は イージス艦搭載が効果的

 いまの日本のミサイル防衛は、弾道ミサイルに対して、イージス艦の「SM3」ミサイルや航空自衛隊の「ペトリオットPAC3」で迎撃する体制だが、完全な防衛とはならず、突破される公算が大だ。
 それでも飛来する弾道ミサイルの一部でも阻止できればその分だけ被害が減じるという、せめてもの効果は期待できる。ただ現状はミサイル防衛は実は形だけのものと言わざるを得ない。
 近く8隻になるイージス艦は、各艦の垂直発射機に90発ないし、96発のミサイルが入り、対航空機用ミサイル16発、対潜水艦ミサイル16発を積んでも、「SM3」ミサイルを58発ないし64発収納できる。
 だが1発約40億円もするから、各艦はそれぞれ8発ずつしか積んでいない。北朝鮮は核付き弾道ミサイルを約20発、火薬弾頭付きは約200発持つと推定されている。
 相手が核付きと火薬弾頭付きの弾道ミサイルを交ぜて発射してくれば、日本のイージス艦は最初の8発だけに対処すれば、「任務終了、帰港します」とならざるを得ない。
 短射程の「ペトリオットPAC3」も同様で、34両の移動式の発射機には各16発を積めるが4発しか搭載していない。
「イージス・アショア」は、イージス艦と「PAC3」の体制に加えて、秋田と山口の2カ所に配備する計画だった。
 費用は米国への支払いが4614億円、その「SM3」ミサイルが48発で約1900億円、日本側の用地買収、施設建設を含むと7000億円以上かかるとみられていた。
 その計画は中断されたが、ミサイル48発だけは買い、交代で日本海などに出動して警戒配置につく2隻のイージス艦に24発ずつ追加搭載させれば、1隻で計32発を積むことになり、ミサイル防衛能力は一気に4倍になる。

具体的に考える能力欠如 法律整備に傾いてきた議論

 以上のことを考えれば、イージス・アショア計画を中断したから、代わりに全く役に立たない「敵基地攻撃能力」を保有しようとするのは、非合理なことが明らかだ。
 日本人は幸い75年も平和の中に暮らし、軍事問題から目を背けてきたため、戦争を現実に起こり得るものとして、具体的に考える能力を欠いている。
 しかも憲法問題があったから、防衛政策の論議は、憲法の規定との整合性や専守防衛の解釈などに偏ることになり、軍事知識を必要としない法律論に傾いてきた。
 これは、あたかも企業が新事業に乗り出すか否かを役員会で討議する際、技術的な難点や市場、資金、採算などを論じるよりも、会社の定款に合致するかどうかを議論するような格好だ。
 だがこうした防衛に関する現実感の欠如は、防衛の専門家と思われている人や自衛隊の幹部にも見受けられる。

 防衛庁はテポドン登場当初には詳細が分からないから「弾道ミサイル実験」と称し、いまもそれを変えずにいる。
 だから防衛政策に関与する国防族のなかからも、北朝鮮の西海衛星発射場の映像を見て「ミサイル基地を攻撃して潰せる」との甘い考えを抱く議員も出るのではないか。
 西海発射場は米国のケネディ宇宙センターの廉価版のような施設だから、それを叩いても相手のミサイル戦力を奪えるわけではない。

 航空自衛隊は対地攻撃の訓練を三沢の射爆場で行っているが、定まった位置にはっきり見える標的を設置して行うから、どこに隠されているか不明確な目標を探して攻撃する困難さの実感がなく、攻撃兵器さえ充実すればミサイル陣地を破壊できるように感じているようだ。
 海上自衛隊も護衛艦、潜水艦から発射する巡航ミサイルを欲しがるが、相手の移動式ミサイル発射機がトンネルから出て来てごく短時間で発射するなら、こちらが洋上から巡航ミサイルを発射しても間に合わない。
 このため「巡航ミサイルは北朝鮮のミサイルに対しては役立たないとしても、中国軍の基地などの固定目標攻撃に効果がある」との説も出る。
 だが尖閣諸島を巡って戦争が起きれば、仮に一時的に日本が優勢になったとしても「尖閣戦争」でおさまらず、真珠湾攻撃で日米戦争が始まったのと同様、日中全面戦争の第一幕となる公算が大きいことを考えておかねばなるまい。(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)


ここからは管理人のコメント

確かに理解できる「敵地攻撃論」
 北朝鮮が我が国方向にミサイルを発射するたびに悶々とする思いをされている方は私だけではないかと思います。
 いいようもない不安感が小さくないですし、なんとか発射基地を何とかならないものか、と思います。はっきりいってうっとうしいことをしてくれますよね。

 だからこそどうしたら北朝鮮の外交の切り札の一つであるミサイルを「無力化」し、飛ばせないようにするか、具体的な戦略を検討しながら法整備をしていかなくてはならないと思います。つまり「超限戦」の戦争スタイルでしかけてくるこの時代に、自衛隊まずありきの戦略だけ細切れで検討しても意味がないということ。

 例えば北朝鮮の脅威は、ミサイルだけではありません。

北がサイバー攻撃再開 米FBIが警戒喚起


【ワシントン=住井亨介】米連邦捜査局(FBI)や国土安全保障省など米政府4機関は26日、北朝鮮が今年2月以降、複数の国の金融機関にサイバー攻撃を再開しているとして警戒を呼びかけた。攻撃は昨年末から止まっていたという。
 4機関の発表によると、サイバー攻撃を行っているのは、米当局から「ビーグルボーイズ」と呼ばれるハッカー集団で、北朝鮮の対外情報工作機関「軍偵察総局」の傘下にあるとみられる。同局管理下にあり、2019年に米国から制裁指定されたハッカー集団「ラザルス」などと共通点があるという。
 ビーグルボーイズは遅くとも14年には活動を始め、15年以降、日本を含む約40カ国・地域の金融機関を標的として約20億ドル(約2120億円)を詐取しようとした。
 4機関は、今年2月以降の被害状況については示していないが、不正に入手された資金について「北朝鮮が核兵器や弾道ミサイル開発につぎ込む可能性がある」と指摘した。

管理人の意見です。
 これ読んだときに、背筋が寒くならない人は相当に鈍感体質でしょう。金融機関へのハッキングにより、人が直接亡くなることはないでしょうが、銀行などに預金してある財産がまるごとハッキングで窃取されてしまえば、人々の生活、経済活動に大きな支障が確実に出ます。中には財産が亡くなって自殺する人も出るかもしれません。
 しかもこサイバー攻撃は攻撃者優位で、ハッカーの任意で世界中のオンラインとサーバーを使ってハッキングが可能です。

 これって「侵略戦争」ではないんでしょうか?
 十分「敵地攻撃論」の議論に含めていける、想定できる事態じゃないでしょうか?
 敵地を攻撃することは、憲法上可能ということは政府の解釈ですが、叩くのはミサイル基地だけではなさそうです。また叩き方、戦い方も時代の推移により検討すべきでしょう。

 今や地球の静止衛星軌道上の人工衛星のプログラムにハッキングできる時代です。核兵器は直接都市を攻撃するより、上空で爆発させて電離層を破壊、都市機能をマヒさせることもできますし、その方が対抗する国への政治的優位性を確保しやすい。(電磁パルス攻撃)

 「超限戦」の戦争形態をとる国は共産中国だけではありません。例えば2014年のロシア。クリミア自治共和国への「侵攻」戦争の主武器は、軍事力ではありません。ハッキングとフェイクニュースという新たな武器です。2016年アメリカ議会で明らかになった侵攻形態は以下のようなものです。

ロシアがウクライナにしかけた「ハイブリッド戦争」

①ウクライナ軍のレーダーを使用不能にする。(電子戦)
②ハッキングで発電所、メディアの機器をコントロールする。(サイバー戦)
 GPSが使えなくなった偵察用のドローンは自己の位置を評定できなくなり、地上へ降下したまま動かせない状況にされた。
 さらにウクライナ軍の砲弾の信管を作動不能にした。
③携帯電話を一時的に使用不能にして、機能が回復した時には数多くのフェイクニュースをメール等で大量に送信した。

 これによりウクライナ住民は大きく混乱し、錯綜した情報を与えられた市民によるデモ隊(偽装したロシア軍兵士)がインフラ設備に押し寄せ、占拠することによって、電源がおちてしまう事態が発生する。停電状態の中、頼みのラジオ局もデモ隊に占拠された状態になり、ラジオからはフェイクニュースが流し続けられた。

 ロシア軍の軍事力を前面に出しての侵攻ではなく、軍は偽装して、電子戦、サイバー戦、宣伝戦でメディアをコントロールして戦争目的を達成したわけです。

共産中国による尖閣諸島への侵攻
【戦後75年】令和2年8月15日・沈黙の日の丸行進~英霊に感謝し、靖國神社を敬う国民行進[桜R2/8/16]


ご存じ我が国の伝統を守るために日夜戦い続けてくれるチャンネル桜さんが主宰する団体運動ですが、この中で尖閣諸島侵攻について、これからくる的な発言をされています。

これ認識が違います。共産中国による尖閣諸島侵攻はもう始まっています。
多くの日本人が周知するように尖閣諸島は「国有化」されています。これは共産中国からすれば、「日本による尖閣諸島の法的な侵略」なんです。

彼らはこれに対して断固「中国の主張」を通してきています。
まず漁船が大挙して尖閣諸島付近の近海へ出現。尖閣諸島は日本に「占領」されているため、漁船の保護監視を目的に中国海警の巡視船がきますが、実際は漁船を統率しています。漁船の出漁+巡視船により、尖閣諸島周辺海域を面的に抑えて、日本側の漁船を締め出します。その締め出しも中国側がするのではなく、尖閣周辺海域を危険海域とみなした海上保安庁が日本側漁船を遠ざけてくれます。

周辺海域を抑えれば、これは日本人は気づいていませんが、潜水艦が尖閣海域に潜航してきますね。夜陰にまぎれて資材や人員を運び込むこともできますし、侵攻の手順の選択肢が増えるでしょう。

あとは定時巡回してくる海保の巡視船と沖縄からスクランブルしてくる空自の戦闘機にどう対処するかです。これも海保の巡視船は、漁船保護を理由に、中国海警巡視船に偽装した軍用艦艇が活躍するんじゃないかな?
 
空自の戦闘機は、中国本土から軍用でない航空機をとばして、空自の対応をみながら戦闘機や爆撃機を送ってくるように思います。制海権と制空権をまずとるわけです。そして現在は制海権は共産中国に抑えられているように思います。

デモを否定するわけではありませんが、もっと訴えるなら今どきの侵略戦争について語ってほしいと思いました。「敵地攻撃論」など国会で議論するのが無駄だとはいいませんが、今どきの「ハイブリッド戦争」や「超限戦」の侵略に対して、自衛隊がどう対処するのか、国民がどういう認識の下で、国防を固めていくのか、の議論をベースに国防戦略を固めるべきでしょう。

戦争の形態、戦略は日々進化しています。仮想敵国の政治や経済をコントロールするために、あらゆる戦術をしかけてくるでしょう。核兵器を使って仮想敵国を焦土化するような戦争は今や過去のやり方であり、世界がグローバル化した世の中にあわせた戦争の形があるのです。そこをふまえた議論をお願いします。

進化する戦争形態 関連動画

戦争はいずれ宇宙覇権を取り合うような戦争になっていくでしょうね。宇宙空間とサイバー空間をめぐる戦争が主戦場になってくるかもしれません。
新型コロナウイルスをめぐる各国のハイブリッド戦争




2020年8月12日水曜日

KGB(旧ソ連)のハニートラップ。

 ハニートラップは、KGBが最も得意とする協力者獲得テクニックである。国会議員や外務省職員、大企業の役員やジャーナリストといった政府筋に近い重要人物をターゲットとし、色仕掛けを行ってきた。酒場でいい気分になっているところ、隣に座っていた美女から声をかけられ、その気になってホテルに直行、事に及ぼうとした現場を抑えられ、弱みを握られた対象者は、やむなくKGBの協力者として、門外不出の重要情報を提供せざるを得なくなってしまう・・・。そんな戯画のようなハニートラップが、KGBの伝統手段として使われてきた。
 KGBの訓練生は、思想教育はもとより、銃器や爆薬の使用方法、武術、盗聴や盗撮テクニックなど、様々なノウハウを学ぶ。その教育カリキュラムの中に組み込まれているのが、セックス教育である。

 研修生がセックスを武器とするためには、まず第一に「羞恥心を捨てなければならない。」
 同性、異性問わず不特定多数の人間の前で全裸になり、教官から体のあちこちをまさぐられる。男性については、どんな女性でも昇天させるためのテクニックを実地で教えられる。女性の場合は、不特定多数の男たちと所かまわずセックスができるように仕込まれるといわれる。
 以上の模様は、映像として記録され、後で復習を兼ねて教官から欠点を指摘される。通常のセックスのみならず、スワッピングやSMといったアブノーマルなプレイまで、彼らはくまなく学びつくすのである。
 こうして育成されたKGBのスパイたちは、世界各国へ飛び立って人民の海に潜る。現地の言葉を駆使して、仕事も現地人と全く変わらずこなしながら、チャンスを見つければ色仕掛けの作戦も厭わない情報の発信源へ巧みにアクセスしていく。

 人間誰しも色欲には弱いものである。そんな弱みにつけこむのがKGBの伝家の宝刀「ハニートラップ」なのである。対してCIAでは局員がセックスで情報をとることはまれであるという。

アイドルを売り込むための「グラビアハニートラップ」ともいえるか!?
女性のフェロモンは強力な武器となる!?

KGBスパイ学校の仰天カリキュラム
 KGBのスパイ研修は、我々がよく知る「学校教育」からは程遠い過酷な内容であるといえる。

第一段階 マルクス・エンゲルス学校での4ケ月間の思想教育。

第二段階 レーニン技術学校で1年間の実地教育をうける。

第三段階 スパイ候補生に対して、しゃれにならないドッキリを仕込む。
 候補生をスパイ容疑で逮捕し、拷問を含む苛烈な取り調べを行う。尋問に最後まで口を割らなかった者は銃殺されるのだが、銃は空砲。一度銃殺された候補生は、200種類以上ある訓練所で長期研修を受けることになる。中でも大掛かりなものは東京やニューヨークを模した巨大な模擬都市での研修であろう。
 そこではビルや商店といった建物、陳列されている商品や内装まで本物を忠実にコピーされており、候補生はこの模擬都市で5~10年生活し、現地での生活に完全になじめるかどうかを見極められる。もちろん外部との接触は一切禁止である。KGBは、実に大掛かりなスパイ研修を行っていたようである。

理髪店の「ハニートラップ」、男性客なら売り上げアップが見込める戦略。女性は研修で「羞恥心」を取り除く。

動画

佐藤優氏
高橋洋一氏
政治家を狙う共産中国のハニートラップ。
共産中国のハニートラップにかかった橋本龍太郎元首相。


2020年8月11日火曜日

米ソ諜報戦争 ~冷戦期に激化したスパイ戦争~

 第二次世界大戦後の世界、いわゆる欧州を席捲したナチスドイツ、イタリア・ムッソリーニ政権、アジアの超大国である大日本帝国が崩壊した世界、は、勝者であるアメリカを中心とする自由資本主義陣営と勝ち組になった独裁者スターリン率いるソビエト連邦を中心とする共産主義陣営に二分されることになった。

 この新たな二つの超大国は、核兵器に裏付けられる強大な力関係から、軍事力で真っ向からぶつかることはせず、「冷戦」といわれる対立戦争に入ることになった。第二次大戦で失職すると考えていた各国の諜報員たちには、冷戦下においてより一層の諜報活動の任務が与えられることになった。こうした中で台頭してきた組織が、アメリカ中央情報局(CIA)と国家保安委員会(KGB)であった。米ソという二大超大国の諜報機関を中心に冷戦中の諜報戦争は展開していくことになる。

 CIAが創設されたのは1947年(ロズウェル墜落事件と同年)、第二次大戦中に発足したOSSの後継組織としての色合いが濃い組織であった。
 CIAの最初の諜報工作は、イタリアの選挙への介入であるとされている。莫大な資金を投入してキリスト教民主党に多数派の議席をとらせ、イタリアの共産主義化を防止するという工作を成功させた。
 CIAが飛躍的に発展したのは1953年、“不世出のスパイマスター”アレン・ダレス氏が長官となり、組織を整備した。
 KGBの創設は、1954年のことであった。CIAとKGBは、キューバ危機(1962年)、ベトナム戦争(1959年~1975年)、ソ連のアフガニスタン侵攻(1979年~1989年)など大きな国際紛争の水面下で絶えず火花を散らしていたといわれる。
 両者は世界中で諜報戦を繰り広げ、冷戦を象徴する都市であった東西ベルリンが、主要な舞台になったとされている。

 スパイ活動が盛んになると同時に、諜報技術も飛躍的に進化した。アメリカは高高度からソ連の軍事施設を偵察するためにU-2偵察機を開発する。
 1960年にソ連の地対空ミサイルに撃墜されるまで、ソ連上空をしばしば飛行偵察した。さらに米ソの対立はスパイ衛星(偵察衛星)を打ち上げ、宇宙空間からお互いを監視しあうまでにエスカレートする。諜報戦の部隊は宇宙空間まで拡大したのである。1989年にいわゆる「ベルリンの壁」が除去されて冷戦は終結にむかったものの諜報戦の需要はいささかも減じることはなかった。

動画

1955年に米ロッキード社が開発したU-2高高度偵察機。地対空ミサイル、迎撃機が到達できないところを飛行することでソ連の重要施設を空撮した。

諜報戦の部隊は、高高度から宇宙空間へ(1960年代)
1957年、ソ連は人類史上初となる人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。アメリカはこれに衝撃をうけ、宇宙開発競争の幕開けとなった。




2020年8月8日土曜日

日米欧州各国で合同サイバー演習が実施される! ~激化するサイバー大戦~


日米欧サイバー演習 ~日本主導 対中年頭。秋にも実施~

 政府は、2020年秋にも欧米各国などと合同でサイバー攻撃の対処演習を行う方針を固めた。各国の電力、通信などのインフラ施設で同時多発的に被害が広がる事態を想定して行われる。日本政府が主導した日米欧の枠組みは初の実施であり、サイバー攻撃の分野で力を増す共産中国が念頭にあるとみられる。

インフラ攻撃想定

参加国は、日本政府がこれまでサイバー対策を協議してきた国が主体。米国、英国、フランス、オーストラリア、イスラエルなど10ケ国程度になる。日本政府からは内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が参加する。
演習では、参加国が連携して被害を把握、攻撃者を特定し解析して、復旧手順を確認する。各国内では「情報管理責任者担当」「電力、ガス会社などへの連絡担当」「他国との調整担当」などの役にわかれて机上演習形式で実施される。
当初は各国の代表を東京へ招く方針であったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、テレビ会議形式に切り替えることも検討されている。
政府が多国間の演習を重視するのは、IT機器やソフトウェアの供給網(サプライチェーン)が世界的に拡大し、サイバー攻撃も広域化、複雑化しているためである。
悪意あるハッカーが、IT機器、ソフトウェアに製造納入の過程でマルウェアを埋め込めば、被害は世界的な規模となる。
2019年春には、台湾大手の「エイスース」製のPCでマルウェアが発見された。ソフトウェアの自動更新システムが悪用され、台湾内外のPC利用者100万人超が攻撃をうけたといわれている。
日本政府としては、演習を主導することでIT機器、ソフトウェアに対する規制の状況や最新のウイルス情報などサイバーセキュリティ対策について各国と情報交換したいという考えである。

サイバー攻撃の分野では、やはり「共産中国の脅威」が懸念されている他、サプライチェーンでも共産中国のハイテク企業が存在感を強めている。米国はサイバー攻撃などによる技術流出(窃取)を警戒し、安全保障上の理由から通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)などの中国製品の排除に乗り出している。

民主主義国の政治の根幹である選挙自体が、第三国による攻撃の対象になっています。つまりどんな超大国であろうと、第三国に都合のいい政治家を政権中枢につけることができるということにつながります。やはり選挙はネット投票でなく、紙と鉛筆のアナログ投票の方が無難かな? 国家の安全保障上の大問題ですな。

※この背景には、様々な動きが関連しているようです。例えばアメリカのトランプ政権の対中政策。アメリカが対中情報戦争への対処を行っているのに、同盟国の我が国だけサイバー攻撃をやられっぱなし、というわけにはいかないのでしょう。世界は「超限戦」の時代、インターネットのケーブルでの戦争も主戦場になるということです。


トランプ政権、通信分野で中国徹底排除の構え


 小久保 重信

 米国務省は(2020年)85日、米国内通信分野における中国企業の排除に向けた新たな方針を明らかにした。
 これは、従来からある「クリーン・ネットワーク計画」と呼ぶ取り組みを拡充するもので、「アプリストア」「クラウドサービス」「アプリ」「通信キャリア」「海底ケーブル」の5分野で中国企業を排除するものだ。
 「中国共産党の利益になるような働きをする中国企業を徹底排除する」とし、同盟国の政府や業界にも取り組みに参加するよう呼びかけている。

TikTok以外の中国製アプリも排除

 まず、アプリストア分野では「信頼できない中国製アプリ」の排除を目指すとしている。
 米CNBCやロイターなどの報道よると、ポンペオ国務長官は、中国に親会社がある「TikTok(ティックトック)」と「微信(ウィーチャット)」を名指しし、「米国民の個人データに対する大きな脅威だ」と説明した。
 「中国製アプリは我々のプライバシーを脅かし、コンピューターウイルスをまん延させ、プロパガンダや偽情報を拡散させる」と批判している。
 トランプ米大統領はTikTokが国家安全保障を脅かすとして問題視。米国での利用を2020915日に禁止すると警告しつつ、TikTokの米国事業を同日までに米企業に売却するように迫っている。
 また、トランプ政権は7月、産業スパイの拠点になっていたとして、テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖している。米政府は今回の新方針で、中国に対する断固とした措置が広範囲に及ぶことを示したようだ。

中国のクラウドサービス企業を排除

 ポンペオ国務長官は、クラウドサービスを手がける中国・アリババ集団や中国・百度(バイドゥ)、中国・騰訊控股(テンセント)も批判している。
 「これら中国企業を介して外国の敵がアクセスできるようなクラウドシステムに、新型コロナウイルスワクチンの研究成果のような知的財産や、米国民の大切な個人情報を置いてはならない」と述べている。クラウドサービスに関する対策については、商務省や国防総省と共同で取り組むという。
 CNBCによると、米政府当局者はかねて、中国による知的財産の窃盗は数十億ドル(数千億円)の経済損失と数千人規模の雇用喪失を生じさせ、国家安全保障を脅かしていると批判していた。

中国のスマホメーカーも批判

 ポンペオ氏は、中国・華為技術(ファーウェイ)などのスマートフォンメーカーも「信頼できない」と批判。米国や同盟国の信頼できるアプリを、こうした中国メーカーのアプリストアに提供しないようにするとし、開発者に中国のアプリストアから自社のアプリを削除するよう促した。同氏は「人権侵害者との提携はやめるべきだ」とも訴えた。
 さらに同氏は、中国の通信事業者が米国の通信ネットワークに接続できないようにすることも重要だと指摘した。このほか、米国と世界をつなぐ海底ケーブルについて、中国の諜報活動に妨害されてはないとし、各国のパートナーと協力し、不正侵入を阻止するとしている。
 (参考・関連記事)「米政府が中国バイトダンス傘下の「TikTok」を問題視」
 (参考・関連記事)「米中関係悪化の中、中国AI企業がアップルを提訴」


米中サイバー戦争

アメリカ、ハッカーを起訴
新型コロナウイルス研究をめぐりサイバー攻撃。


 ※アメリカが対中的に強硬姿勢をみせる理由は、通信機器の被害が甚大なものだからであり、その元凶を共産中国とロシアとみているからです。
 実際に国際的な政治問題を解決、自国の政治的な立場を失いたくないのでしょう。世界の主要先進国の間でリアルな軍事戦争がおこることはなかなか難しいです。今は軍事力、大量破壊兵器で焼き尽くせ、殺し尽くせというよりも、情報戦をしかけてステルス的に相手国の政治的な機密情報を窃取し、国家戦略立案に活用し、国際的に優位に政治の力を行使していく時代です。気づかれずに窃取するのに匿名性の高いインターネットは扱いやすい。だからこそサイバーセキュリティとして、ハッキングをよりいち早く探知する技術、発見する技術を磨いているわけです。そしてサイバーセキュリティは、同盟国間での技術協力とセキュリティの役割分担が不可欠です。

 内閣サイバーセキュリティーセンター(内閣府傘下)が今秋の演習をしきりますが、実は防衛省と自衛隊もサイバー戦へ対応した演習をNATOと共同で実施していました。こちらは参加団体からみて明らかに軍事演習ですね。

自衛隊、NATOサイバー演習に本格参加 中国にらむ

2019/12/3 2:00https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52860480S9A201C1PP8000/
情報元
日本経済新聞 電子版
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 防衛省と自衛隊は(201912月)2日、北大西洋条約機構(NATO)が主催する大規模サイバー演習に初めて正式参加した。各国のサーバーをオンラインで繋ぎ、サイバー攻撃を受けた場合を想定して連携して訓練する。サイバー空間で台頭する中国の脅威などを念頭に日米欧の防衛協力を拡大する。
米国を含むNATO加盟国など30を超える国・地域が参加する演習「サイバー・コアリション2019」に加わった。エストニアのコントロールセンター・・・

※やはりサイバー演習の「仮想敵国」は共産中国ですね。軍事の世界でもアメリカ、欧州でサイバー戦への技術的な連携と協力体制の構築が進められています。

こんなところとも・・・まさにサイバー防衛は世界規模です。


プーチン政権下のロシア、習近平政権下での共産中国は「超限戦」の戦略を共有する覇権国家なのかもしれません。

中ロ、サイバー戦で攻勢 スパイ・デマ拡散 防衛に限界

2020/7/17 18:15https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61657340X10C20A7EA1000/
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 ロシアと中国が欧米諸国に対してサイバー戦で攻勢を掛けている。新型コロナウイルスの感染拡大後、スパイ活動やSNS(交流サイト)などを通じた情報工作が一段と目立ってきた。ロシアと中国は自国のサイバー空間の統制を強める一方、民主国家をサイバー攻撃で揺さぶる。選挙介入への警戒も強まっている。
 英米カナダは16日、新型コロナのワクチンを開発する研究所に対してロシアのハッカー集団がサイバー攻撃を仕掛けたとの非難声明を発表した。ロシア情報機関が関与し、ワクチン情報を狙ったと見ている。米当局は先に中国がサイバー攻撃によりワクチンや治療法の情報を盗もうとしていると研究機関に警告を発している。

 英政府は、ロシアのハッカー集団による新型コロナワクチンを開発する研究機関へのサイバー攻撃の疑いを指摘した=ロイター
 中ロともに欧米と対立を深めており、軍事、経済面での圧力にサイバー空間での攻撃を絡めて対抗する傾向を強めている。両国とも軍と情報機関の傘下にサイバー部隊を擁し、民間や犯罪組織のハッカー集団も工作活動に関与させていると見られている。
 中国の部隊は10万人規模とされ、機密情報の盗みを繰り返している。2020年に相次いで起きた三菱電機やNECの防衛事業の機密を狙ったハッキングも中国による攻撃だったとの見方が有力だ。
 欧米当局は情報工作にも警戒を強める。英政府は16日、ロシアのハッカーが不正に入手した英政府の内部文書をSNSで拡散し、19年末の英総選挙に介入していたと発表した。欧州連合(EU)は中ロが新型コロナ危機をあおるような陰謀論や偽情報を世界に流布していると報告している。
 ロシアは16年、サイバー攻撃とSNSを通じた世論工作により米大統領選に介入した。米議会では11月の大統領選へのロシアや中国の干渉に懸念が高まる。選挙介入など「悪意に満ちた活動」を巡ってロシアは米国の制裁を受けているが、工作活動を緩めていない。
民主国家の防衛策には限界がある。例えば、16年の米大統領選への介入を受けてSNS各社は監視を強めているものの、いたちごっこの様相が否めない。ツイッターは最近も偏った情報を発信したとして、中国政府やロシア当局に関連すると見られる20万件近いアカウントの凍結を発表した。
 北大西洋条約機構(NATO)高官はサイバー防衛について、「反撃の意図を示して相手に攻撃を思いとどまらせる『抑止』しかない」と指摘する。この抑止戦略は軍やインフラ施設の防衛を想定しており、個々のスパイ活動や情報工作を止められるわけではない。中ロへの警告を繰り返し発する欧米当局にはサイバー攻撃に対する有効な対策を打ち出せない手詰まり感が透ける。(編集委員 古川英治)


サイバー戦と電子戦で制したロシアの対ウクライナ戦争



共産中国のサイバー戦部隊