2020年4月21日火曜日

【超限戦の時代】諜報戦で共産中国をリードする台湾 ~米トランプ政権の台湾重視はこれがあるからか?~

米国が脱帽する台湾のスパイ、新型肺炎でも威力発揮

福山 隆
2020/04/20 06:00 https://www.msn.com/ja-jp/news/coronavirus/米国が脱帽する台湾のスパイ、新型肺炎でも威力発揮/ar-BB12SVnw?ocid=spartandhp


 子供の頃、庭でもいだ酸っぱい夏ミカンの果汁で、和紙に絵や文字を書いて火鉢であぶると、それが浮かび上がる「あぶり出し」をして遊んだものだ。
 似たようなことだが、新型コロナウイルス禍の中で米中の諜報・情報戦がまるで「あぶり出し」のように露見するするようになった感がある。
 それを見るに、筆者には米国の諜報能力と情報・宣伝戦能力に翳りが見受けられるような気がする。以下、最近の報道から、その一端をお示ししたい。

 台湾情報機関の優れた諜報活動

 2020411日付朝日新聞は「台湾が昨年末、WHOに警告「武漢の肺炎で隔離治療」」と題し、次のように報じている。

「新型コロナウイルスの感染拡大に関連して、台湾当局は11日、世界保健機関(WHO)に対し昨年12月末、『中国・武漢で特殊な肺炎が発生し、患者が隔離治療を受けている』との情報を伝え、警戒を呼びかけていたと明らかにした」

「記者会見を開いた陳時中・衛生福利部長(大臣)によると、台湾側は昨年末から武漢の現地報道などを注視しており、1231日にWHOに伝え、入境時の検疫も強化した。陳氏は『隔離治療は、ヒトからヒトへの感染の可能性があることを意味する』と指摘し、WHOが台湾の情報を生かしていれば、感染拡大に早く対処できたと主張した」

 この報道で注目されるのは、台湾の情報機関(国防部参謀本部軍事情報局、国家安全局国防部参謀本部電訊発展室及び法務部調査局など)が武漢ウイルスの発生をいち早くキャッチしこれをモニターしていたことだ。

 台湾は、中国の武力侵攻を恐れ、その情報をキャッチするために情報源(スパイと協力者など)を中国全土に埋伏しているのは事実だろう。

 陳時中・衛生福利部長が「武漢の現地報道などを注視しており」と曖昧な言い回しをしたのは、情報源を隠蔽・偽装する狙いからだろう。

 情報を開示する際は「情報源を暴かれないことと、手の内をすべて見せずに小出しにして目的を達成すること、および余韻を残すことで次の情報戦の布石を打つこと」などが原則である。

 台湾は、後々新型コロナウイルスの発生源(出自)を特定する重要な情報を握っている可能性がある。

 そうでない場合でも、WHOに対し昨年(2019年)12月末の段階で、「中国・武漢で特殊な肺炎が発生し、患者が隔離治療を受けている」との情報を伝た事実を示せば、その中国に伝わるメッセージの中には「台湾は、もっと核心的な情報を持っているよ」というブラフになるのは当然だろう。
 台湾は目下、「テドロスWHO事務局長が台湾が人種差別攻撃をしたか否か」について、中国との情報戦を行っている。

 中台の情報戦の行方は、中台の諜報能力にかかっていると言っても過言ではなかろう。
 その意味で、「か弱い立場」のはずの台湾が情報戦で大陸に攻勢を仕かけているのはそれなりの自信があるからだろう。もちろん、ドナルド・トランプ政権を支える米国の情報機関が台湾の背後に控えていることが台湾を勢いづけているのは事実だろう。

 対中国諜報において、スパイや駐在武官などが人間から聞き取るヒューミント(HUMINTHuman intelligence)の分野においては、台湾の方が優れているのではないか。
 台湾人は言語が中国と同じであるうえ大多数が漢民族であることから、スパイとして中国に潜入して活動するうえで有利であろう。
 また、同様に新聞やテレビなど公開されている情報を情報源とするオシント(OSINTOpen-source intelligence)の分野でも、地の利と文化・社会などが近似する台湾の方が米国よりも優れた情報を得ている可能性がある。
 一方の米国は、偵察衛星や偵察機によって撮影された画像を継続的に分析することで情報を得る手法のイミント(IMINTImagery intelligence)や通信や電子信号を傍受することで情報を得る方法のシギント(SIGINTSignals intelligence)などの分野では圧倒的に優れている。

 このために、米国は、台湾にイミントやシギント情報を提供する代わりに台湾のヒューミント情報をもらうことで、相互協力しているのではないか。
 いずれにせよ、対中国情報では、次に説明するように、米国のヒューミント能力が大幅に損なわれたために、台湾に頼らざるを得ないようになっているのではないか。

 米国の対中国諜報能力が低下:台湾に頼らざるを得ない理由

 2020412日付朝日新聞は「CIAに中国スパイ、消された協力者 米国諜報網に異変」と題し、要旨次のように報じている。

「米国と中国は冷戦時代の米ソと同様に諜報戦を繰り広げている。中国は中央情報局(CIA)や国防情報局の元職員を協力者に金で抱き込んだ」

CIA元職員ジェリー・チャン・シン・リーは数十万ドルでCIA工作員や協力者の名や電話番号、特殊な暗号を使った通信方法などを売り渡した。そのため、2010年から12年の間に十数人のCIA協力者が殺され、ある者は見せしめで政府庁舎の中庭で射殺された」

 諜報の世界では、敵国内に工作員を潜り込ませ、協力者まで獲得するのは至難の業だ。
 特に、中国の防諜能力(カウンター・インテリジェンス)は、高精度のIT顔識別技術などにより支えられ、鉄壁の防護ではないだろうか。

 今回の「武漢ウイルス」事態では、米国の現地におけるヒューミント能力の低下が原因で、武漢ウイルス発生についての情報把握が遅れ、そのことが米国はもとより世界に感染拡大するのを阻止できなかった一因ではないだろうか。
 米国は、その応急的な穴埋めとして、米国メディアの記者を動員しようとしたのではないか。

 それに対して、中国外務省は、米国のウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストの3つの新聞社に所属する記者の取材証を剥奪すると発表した。

 事実上の国外追放だ。

 これに対して、トランプ政権は32日、中国国営新華社通信など中国共産党傘下の国営メディア5社の「記者」として米国内で勤務する職員の人数について、13日から計100人の上限を課すと発表した。現状では約160人が勤務している。

 このように、中国に対するヒューミント情報能力が低下した米国は、台湾のヒューミント能力の力を借りざるを得ないのではないだろうか。

 それは、第2次世界大戦直後の米国が「鉄のカーテン」に閉ざされたソ連の情報を得るために西ドイツのゲーレン機関の協力を得たのに似ている。
 ゲーレン機関は、第2次世界大戦中にヒトラー政権下の国防軍で対ソ連諜報を担当する陸軍参謀本部東方外国軍課の課長を務めた、ラインハルト・ゲーレン陸軍少将の名前にに由来する。
 ゲーレンは、戦後は米国に接近し、その諜報経験や大戦中にソ連・東欧諸国に埋伏したスパイ網を活用して諜報活動を継続し、米国に協力するのと引き換えに自身と部下たちのナチス党政権下での活動追及を免れ米国側陣営諜報機関の要員として厚遇された。
 ゲーレンは、西ドイツの情報機関で連邦情報局(BND)の初代長官を務めた。

 翻って、大日本帝国陸海軍の情報将校の中にゲーレンのような強かな策士がいなかったのは残念だった。今日、JCIAを持てない理由の一端はここにあると思われる。
 このように、諜報能力の価値は絶大で、米国は米中覇権争いにおいては台湾の諜報能力を「高値」で買わざるを得ないのではなかろうか。

 中国のが一枚上の新型肺炎宣伝戦

 2020410日付時事通信電は「VOAが『中国の宣伝に加担』 米政権、異例の批判」と題し、要旨次のように報じている。

「トランプ米政権は10日、政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)を『中国政府のプロパガンダ(政治宣伝)役』などと非難する声明をホワイトハウスのホームページに掲載した。米政府の対外宣伝を担うVOAを政権が批判するのは異例だ」

「声明は、VOAが最近の記事で、新型コロナウイルスで都市封鎖が行われた中国・武漢市を『成功例』と伝えたことを紹介。『中国の秘密主義は死のウイルスを世界中にばらまいた。ジャーナリストは事実を知らせるべきなのに、VOAは中国のプロパガンダを増幅させている。VOAは、米市民でなく敵国の代弁者となっている』と非難した」

 この報道を見て、筆者は「さもありなん」と思った。その理由はこうだ。
 バラク・オバマ大統領(当時)は2013年、テレビ演説で「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べ、米国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確にした。
 この声明は、パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)を放棄したと受け止められても仕方がない。事実、オバマ政権ではその兆候が見られた。
 オバマ政権時代、米政府系ラジオのボイス・オブ・アメリカ(VOA)が年間800万ドルの経費節減のために、201110月から中国語のニュース放送を停止した。米国の凋落が象徴される出来事だ、と筆者は思った。

 これとは対照的なのが中国だ。

 中国は計画的・積極的に世界規模で情報・宣伝戦能力を強化しつつある。

 中国政府は70億ドルを投じる世界的な情報・宣伝戦略の一環として、2012年に米ニューヨークのタイムズスクエアに中国中央電子台(CCTV)が運営する英語ニュースチャンネル(CGTN America)を設置し、24時間放送を始めた。
 また、米国の太平洋支配を覆そうとしている中国は、フィジー、サモア、トンガなどの太平洋諸島諸国への情報・宣伝戦能力強化にも注力している。
 オーストラリアの公共放送ABCがネットの時代に時代遅れだとして太平洋諸島向けの短波放送を中止したところ、中国が素早く空いた10の周波数に滑り込み、短波放送を開始した。
 このように、中国が世界規模で行おうとしている「宣伝思想工作」攻勢を見ると、中国の世界覇権の野望を窺い知るような気がする。
 この例に見られるように、米国が各種メディアなどによる情報・宣伝能力が勢いを失いかけている一方で、中国が着々と実力をつけつつあるというのが現状だ。
 目下、新型コロナウイルスの「出自」を巡り米国と中国が激しく論争し、情報・宣伝戦を繰り広げているところだが、米国は中国を侮れないのが現状ではないだろうか。

諜報能力低下の一因はトランプ氏

 トランプ大統領は、当選の立ち上がりから、CIA、国家安全保障局(NSA)、連邦捜査局(FBI)などの諜報機関と対立せざるを得なかった。
 米国の諜報機関が「ロシア政府がネットのハッキングによって米大統領選の結果をねじ曲げ、トランプを勝たせた」とする報告書を出したからだ。
 トランプ氏は元CIA長官の機密アクセス権を剥奪したほか、20198月には、情報機関を統括するダン・コーツ国家情報長官を辞任させた。
 そもそも、国際情報はもとより個人情報までも握る米国の諜報機関は強大なパワーを持ち、時の大統領に逆らうほどだ。
 歴代大統領のスキャンダルを掴んでFBI長官に居座り続けたジョン・エドガー・フーバーの例もある。ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺もCIAが関与したとする陰謀説があるほどだ。

 トランプ氏はこのような悪弊のある諜報機関の改革を目指し、諜報界が政治的になり過ぎているのを改めさせるために、現業中心の組織に戻そうとしている。


 習近平政権になってからの共産中国は、蔡英文総統が就任してからの台湾に対して、強烈な外交戦、プロパガンダ戦を展開してきました。
 台湾と友好関係にある国々、国交のある国々に根回しを行い、台湾との国交を断絶させ、共産中国との友好関係を構築し、経済支援を約束しています。
 これは共産中国が、莫大な経済支援を撒き餌に覇権主義を拡大し、台湾を外交的に孤立させ、蔡英文総統の国際的な信用を落とさしめようとする露骨な外交・プロパガンダ戦です。共産中国と台湾は昔年の仇敵同士ですが、もうリアルな軍事武力戦争はしないと思われます。軍事攻撃、核攻撃は台湾に外交的な圧力をかけるための恫喝にすぎないと思います。
 なぜなら共産中国と台湾は経済的な関係としては、相互依存的な関係にあるからです。また台湾のバックには、常にアメリカが「台湾関係法」という法律を背景に睨みをきかせています。中台の経済的な関係は、既に一体化しているといっていいかもしれません。お互いが軍事攻撃しだすとお互いの国の人的、社会的なインフラが大きな打撃を被って、戦争の継続が難しくなるのです。
 世界は、経済的な相互依存関係にあり、軍事同盟ありで、軍事紛争がおこらないような構造背景になっています。
 だからこそ隣国や仮想敵国に対して優位にたつために「諜報戦」「情報戦」での戦い方が問われているのです。

動画

共産中国の諜報工作員が台湾・香港でのスパイ活動を暴露
台湾出身の米海軍将校、中国にスパイ容疑で逮捕

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