2018年10月14日日曜日

現代先進国の間での「戦争の形」 ~武力による戦争は嫌がられる現実?~


【世界サイバー大戦】
米国と中露のサイバー戦争の行方

岡崎研究所
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米国国防総省は2018年(平成30年)918日、「サイバー戦略2018」の概要を発表した。その内容は、国防総省のサイトで読むことができる。一部、その要点を紹介する。

・米国の繁栄、自由及び安全保障は、情報への開かれた信頼のおけるアクセスに依拠する。
・デジタル時代の到来は、国防総省や米国に新たな問題も生じさせる。米国や同盟諸国の競争相手達は、サイバー空間を使って技術を盗んだり、政府や財界を欺いたりする。また、我々の民主的手続きや基礎インフラを脅かす。
・我々は、中国及びロシアと長期的戦略的競争関係にある。これらの諸国は、競争をサイバー空間にまで広げたので、米国及び同盟・パートナー諸国にとって、長期的戦略的リスクとなっている。中国は、米国の公共及び民間組織から絶え間なく重要情報を抜き取り、米国の軍事及び経済を浸食している。ロシアは、サイバー空間を使って米国民に影響を与え、民主主義に挑戦している。他にも北朝鮮やイラン等は、同様なやり方で、米国民や米国の利益を害している。このようなサイバー空間の悪用は規模が拡大し、その速度も早くなっている。これは、米国にとって緊急かつ許容できないリスクである。
・国防総省は、米国の軍事的優位及び国益を守るために、毎日のサイバー空間上の競争の対処しなければならない。我々の焦点は、米国の繁栄と安全保障に脅威をもたらす諸国、特に中国及びロシアにあてられる。我々はサイバー空間で作戦を行い、情報を集め、軍事的サイバー能力を高め、危機や紛争でも使用できるようにする。我々はネットワークの安全性と強靭性を高め、軍事的優位を保てるようにする。我々は、省庁間、財界、外国のパートナー達と協力して相互利益を促進する。
・戦時には、米国のサイバー部隊は、陸海空・宇宙の部隊とともに作戦を行い、敵を打つ。統合部隊は、攻撃的サイバー能力も駆使し、あらゆる紛争場面を通じて、サイバー作戦を展開できるようにする。
・「国防総省サイバー戦略2018」は、「国家安全保障戦略」及び「サイバー空間のための国家防衛戦略」に基づくもので、「国防総省サイバー戦略2015」にとって代わる。
・米国は行動しないわけには行かない。我々の価値、経済競争力、軍事力は、毎日危険の増大する脅威にさらされている。

サイバー空間における戦略的競争

1)サイバー空間を含むあらゆる局面で、米軍が闘い勝利をおさめられるようにしなければならない。
2)米国の基礎インフラに影響を与える悪意のあるサイバー攻撃を抑止、先制攻撃し、負かす。
3)国防総省は、米国の同盟諸国・友好諸国と協力し、サイバー能力を強化し、双方向の情報共有を増やして、相互利益を促進する。

米軍の優位を可能にする民間アセットを守る

・国防総省は、国防総省が所有者ではない防衛基礎インフラ(DCI)や防衛産業基盤(DIB)のネットワークやシステムを守る必要がある。厳しいサイバー環境においても国防総省の目的が達成されるようにDCIが継続して機能していることが重要である。

戦略的アプローチ

・我々の戦略的アプローチは、次のことを相互に同時並行的に行うことである。
1)より強力な統合軍の創設
2)サイバー空間での戦いと抑止
3)同盟の強化と新たなパートナー
4)国防総省の改革
5)能力向上
・サイバー時代の到来は、国防総省及び米国に、新たな機会と挑戦を生む。情報への開かれた信頼のおけるアクセスは、米国及び同盟諸国の利益に不可欠なものである。我々は、それを断固として守ると言うことを、競争相手国は理解すべきである。「国防総省サイバー戦略2018」は、国防総省に対して、上記の戦略的アプローチで、前に出て防御し、毎日の競争に対処し、戦争に備えることを指示している。
参考:Department of Defense ‘Summery Cyber Strategy 2018’ (September 18, 2018)
 今回の「国防総省サイバー戦略2018」は、中国とロシアを名指しして、サイバー空間での相手の攻撃に対して、積極的に、すなわち防御とともに先制攻撃も含め、対処しようという意思を明確に示したものである。昨年末の国家安全保障戦略及び本年の国家防衛戦略でも、対立する大国として中国とロシアが挙げられていた。
 中国は、サイバー空間を通じて、米国の重要な軍事情報や民間の技術情報、更には政府高官の個人情報まで盗取している。トランプ大統領は国連安全保障理事会で、最近、中国は米国の中間選挙に介入しようとしていると釘をさした。ロシアは、2016年の米国大統領選挙に介入したとされ、その事が今回の戦略文書にも明記された。
 上記には、同盟国との連携も述べられている。日米同盟のもと、日本もセイバー・セキュリティーを強化する必要がある。米国も指摘しているように、防衛省や公共部門のみならず、民間との連携も欠かせない。そして防御をするには攻撃方法を知らなければ、効果的な防御策は取れない。サイバー空間に国境はない。緊急な課題であることは、日本も同様である。
【情報戦の意味】
スパイ大作戦・トランプ VS CIAの真実 サイバー攻撃と核ミサイル
島田洋一(しまだ・よういち)氏 昭和32(1957)年生まれ。京都大学法学部卒業。同大大学院法学研究科博士課程修了。専門は国際関係論。国家基本問題研究所企画委員。著書に『アメリカ・北朝鮮 抗争史』(文春新書)など。
この記事は、月刊「正論5月号(2018)から転載しました。

 トランプ政権は、テロ勢力や反米全体主義国に対する情報戦の強化を公約している。「情報戦」という言葉は幅広く、様々な意味で使われる。まず簡単に概念を整理しておこう。  
 第一に、敵対勢力の行動計画や戦力に関する正確な知識を得る活動が最も伝統的な意味での情報戦である。裏腹の関係にあるのが、こちらの行動計画や戦力を知らせない防諜活動となる。  
 第2に、情報操作を通じて、敵対勢力の行動計画や戦力に打撃を与える活動も情報戦と呼ばれる。これは攻撃的タイプの情報戦と言えよう。 第3に、敵対勢力の内外におけるイメージを低下させたり、逆にこちらのイメージ低下を阻止するための対抗発信などもしばしば情報戦と呼ばれる。その内、歴史に関するものが、日本で近年市民権を得た「歴史戦」である。広報戦という言葉の方がふさわしい場合も多い。  
 以上いずれにおいても、「戦」すなわち戦いという以上、敵の存在が前提されるが、そこには外部だけでなく、往々にして「内なる敵」も含まれる。  
 以下、アメリカにおける情報戦の現状を、特に中央情報局(CIA)に焦点を当てて見ていきたい。日本にも参考になる部分が多々あると思う。 
 なお、上に上げた3分類は目的別で、手段として近年特に注目を集めるのがサイバーである。いずれの目的にも使われる。適宜言及したい。  
テロリストを強化尋問
 さて、まずは最も泥臭い、できれば目を背けたいCIAの情報活動から取り上げるとしよう。  
 諜報分野において、アメリカで十数年来論議の的となってきたのが、「水責め」(waterboarding)に代表される「強化尋問」(enhanced interrogation)である。コンピュータ・ハッキングといった現代型の情報戦に我々の注意は向きがちだが、テロとの戦いにおいて、テロリスト自身から直接証言を得ることの重要性は今も昔も変わらない。  
 こうした、いわば綺麗な手段では得られない人的情報(ヒューミント)をいかに取るかは、特に人権を重視する自由民主主義国において大きな課題となる。  
 ブッシュ政権は拘束したアルカイダ幹部に対し積極的に強化尋問を実施したが、オバマ政権は、アメリカの理念に反する拷問だとして、強く忌避する姿勢を取った。  
 トランプ大統領は、選挙戦中から、「水責めはもちろん、もっと恐ろしい方法も辞さず」テロの情報を取ると公言してきた。  
 しかし、政権発足前に、マティス国防長官(当時は候補)と面談した後、「マティス将軍に水責めをどう思うかと聞いたところ、驚いたことに彼は、『有効だと思ったことは一度もない。私にタバコ一箱と2、3本のビールを用意してくれれば、拷問よりずっと良い結果を出してみせる』と言った。強い印象を受けた」とトランプが語ったことで、水責め実施は断念したかのような報道も流れた。しかし、事はそう単純ではない。
まず、トランプは続けて次のように述べている。「私が考えを変えたわけではない。我々は、人々の首を刎ねたり、鉄の檻に入れておぼれさせたりする連中を相手にしている。なのに我々の側では水責めが許されないのか」。強化尋問をどこまで実施するかを判断するのはあくまで自分との立場を、トランプ大統領は維持している。 
 まず留意すべきは、テロリストの強化尋問はマティスが長官を務める国防総省の担当ではなく、大統領の指示のもと、CIAが当たるという点である。マティスのコメントは、その意味で参考意見の域を出ない。 敵の正規兵を捕虜にした場合は、軍が管理下に置いた上、休戦後、本国に帰還させる。敵方情報を得る目的で尋問を行うことは、そもそも戦時国際法上認められない。  
 他方、テロリストのような非正規戦闘員には、国際法上の保護は与えられない。どう尋問しようが、平たく言えば、捕らえた側の自由である。  
 ブッシュ長男政権で国防長官を務めたラムズフェルドは回顧録に大要次のように書いている。  
 戦闘に集中せねばならない軍においては、戦場で確保した人間が正規軍兵士かテロリストか民間人かといった判断に時間を掛けている余裕はなく、手早く後方に移送する他ない。一方、CIAは、重要テロリストと見られる少数の人間に絞って、徹底した尋問を行うことを任務とする。そのため、「慎重に管理された環境下で、強化尋問を行う訓練を受けた」専門家を擁している。若い軍の兵士たちに真似できることではない。  
 ラムズフェルドは、従って、軍はテロリストへの強化尋問は行わないとする一方、CIAによるそれには、基本的に賛成する立場を取った。 オバマ政権前期にCIA長官を務めたパネッタも、回顧録で、水責めには反対としつつ、こう付け加えている。 
 「しかし私は、いわゆる時を刻む時限爆弾シナリオ(ticking time  bomb scenario)、すなわち容疑者が、迫り来る大惨事に関する情報を持っていながら明かさない状況では、躊躇なく、あらゆる尋問手法を追加的に認めるよう合衆国大統領に願い出るつもりだった」  
 要するに、強化尋問を排除しないということである。それゆえ、トランプの主張は、決してアメリカにおいて特異なものではない(ところで、パネッタの言う「時を刻む時限爆弾シナリオ」が日本で起こった場合、果たして政府はどうするつもりなのであろうか)。  
 パネッタはさらに、ブッシュ政権時代の強化尋問で得られた情報が、オサマ・ビンラディンの隠れ家に出入りする伝令の特定につながり、海軍特殊部隊シールズによる急襲作戦の成功に寄与したと認めている。先に引いたマティスの、「タバコ一箱と2、3本のビールがあれば」云々は本人の剛毅を示すエピソードではあるが、これを模範解答として思考停止してはならないだろう。筋金入りのテロリストを実際に尋問した人々は、相当違った情景を描いている。
アルカイダ幹部の1人アブ・ズベイダの尋問に当初当たったのは、情報機関のCIAでなく、警察機関であるFBIだった。その模様は、例えば次のようだったという。 
 「アルカイダの核兵器取得計画についてさらに質したところ、アブ・ズベイダは何か重要事実を話そうとするかの如く、上体をぐっと前に突き出した。FBIの係官たちも、聞き取るべく身をかがめた。アブ・ズベイダはその時、彼らの目をまっすぐ見つめながら、長い、耳障りな、しめった音で放屁した」。(James Mitchell, Enhanced Interrogation, 2016 )  
 アブ・ズベイダは、アルカイダの海外活動におけるロジ担当(後方支援担当)だった。CIAによる、その後の水責めを含む強化尋問によって彼が告白した内容から、メンバーの移動ルートやアジトが明らかとなり、さらなる幹部テロリストの拘束につながった。  
「水責め」とは何か
 ちなみに、水責めは、ブッシュ政権時代のマニュアルによれば、具体的には次のようなものである。  医療用のストレッチャー(車輪付き担架)にテロリストを仰向けに載せ、脚の側を数十度高くする形で縛る。顔と鼻に布の覆いを掛け、その上に、20秒から40秒水を垂らし続ける。一旦布を取り、3、4回の呼吸を許す。再び布を掛け、水を垂らす。これを計20分間に亘って繰り返す。終了後、具体的な質問をぶつけ、次回までに答を整理しておくよう伝える。  
 アブ・ズベイダの場合、水責めを1日1回、3日間繰り返したところで、協力的態度に変わったという。ブッシュ大統領が法律顧問の助言のもと承認した強化尋問手法は、他に睡眠剥奪(一度に最長 11日間まで)、頬へのびんた、上体を強く前後に揺さぶり弾力性ある壁にぶつける、冷蔵庫大の暗い箱に拘禁する(最長2時間まで、より広いスペースの場合は最長18時間まで)、その箱に毒性のない虫を入れる、などである。  
 これら強化尋問を非人道的と批判するのは簡単だが、その結果、ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴ、ロンドンその他におけるビル、橋梁、ガソリン・スタンドなどへの襲撃を未然に防止できたとされることに鑑みれば(あり得る犠牲者の中には日本人も含まれたであろう。9・11同時多発テロで日本人24名が死亡した事実を想起したい)、テロリストの苦痛にさほど同情する必要もないだろう。
CIAによるドローン攻撃
 CIAは、大きく情報部局、科学テクノロジー部局、管理部局、作戦部局に分かれている。国家秘密局(National Clandestine Service)が作戦部局の現在の名称で、大統領の責任で、秘密活動に従事することが法律上認められている(対内的活動は認められない)。 
9・11テロの際、CIA、FBI、入管当局などが持つ情報が十分共有されなかったことから、情報部門を統括する存在として国家情報長官が新設され、CIAなどもその下に位置づけられることになったが、作戦部局に関してはCIA長官を通して大統領に直結する秘密機関という位置づけは変わっていない。  
 なお、ウォールストリート・ジャーナル3月17日付記事によると、トランプ政権は、テロリストにドローンを用いた攻撃を行う権限を、CIAに新たに付与したという。  
 オバマ時代は、特に2013年以降、CIAがテロリストのアジトや集合場所を特定しても、攻撃作戦はすべて軍が実行することになっていた。CIAはテロリストを殺害しても公表する義務がないが、軍にはその義務がある。オバマ政権の措置は、人権団体などの要求を容れ、透明性の向上を図る趣旨であった。  
 しかし、軍にすべて攻撃作戦を委ねると、軍内部の調整に時間を要するなどで、好機を逸する場合も出てくる。情報収集から攻撃までを、CIAが完結した秘密作戦として行えるようになれば、その分、機動性が増すだろう。いわゆる「行動可能な情報」(actionable intelligence)を実際に行動につなげられる場面が多くなろう。もちろん軍に委ねる方がよいと判断されれば、軍に協力を求めることになる。  
 CIAはその活動を、適宜、上下両院の情報委員会(特に共和・民主両党の指導的議員)に報告せねばならないが、ポンペオ新CIA長官は、昨年まで下院情報委員会の共和党側中心メンバーで、目下、共和党が多数を占める議会との関係はスムーズにいくと見られている。  
 ちなみにポンペオは、1963年生まれ。陸軍士官学校出身で、5年間の軍務を経て、ハーバード・ロースクールを修了、民間で活動後に連邦下院議員となった。自己責任、減税・規制緩和を掲げるティーパーティ運動に熱心に関わるなど、生粋の保守派である。今後、オバマ時代に進行したCIAの左傾人事をどこまで、そして早期に払拭できるかが課題となろう。
サイバー攻撃と核ミサイル
 3月4日、ニューヨーク・タイムズ(電子版)が大要次のように報じた。オバマ前大統領が2014年初め、北朝鮮のミサイル開発計画に打撃を与えるべく、サイバー、電子攻撃を強化するよう国防総省に指示した。その効果で、北朝鮮の長距離弾道ミサイル実験は失敗が続いた。が、北の開発体制は予想以上に強靱で、その後持ち直し、実験を成功させるに至った。トランプ政権においては、金正恩一族が資金を預けている中国の銀行への圧力強化や軍事攻撃など、総合的にオプションが検討されている。--  
 核ミサイル・システムへのサイバー攻撃は、開発を遅らせるなどの効果を一定程度期待できるものの、相手もマルウェアの排除など対策を講じてくるため、頼り過ぎるのは危険、というのが常識的判断だろう。同記事もそう結論づけている。  
 なお、記事中気になるのは、オバマ前大統領がサイバー攻撃を命じた理由が、迎撃ミサイルに信を置けないためとしている点である。最も好い条件下でも、実験の失敗率は56%に上るという。実際の戦闘に際しては、失敗率は更に高くなろう。
サイバー戦、ミサイル防衛とも効果は限定的となれば、やはり敵の基地や司令系統中枢などへの物理的攻撃が必要となろう。  
 上記記事は、同紙が2011年1月に報じた、イランへのサイバー攻撃にも改めて触れている。アメリカとイスラエルが組み、イランの核工場にスタックスネット(Stuxnet) と呼ばれるマルウェアを仕込んだ経緯である。  
 このマルウェアは二つの効果を発揮する。一つは、濃縮ウランを製造する遠心分離器に異常回転を起こさせること、もう一つは、にも拘わらずオペレーター室の機器には正常数値を表示させることである。  
 記事によれば、イラン側が異変に気づいて修正措置を取るまで、約3年を要したという。その分、核開発計画を遅らせることができた。   しかし、あくまで遅らせられただけで、致命的打撃を与えたわけではない。サイバー攻撃も、常に新たなマルウェアを開発し、波状的に行う必要があり、その効果も低めに見積もっておくのが無難だろう。   
トランプvs 情報機関?
 3月7日、秘密情報公開サイト、ウィキリークスがCIAのハッキング技術に関する機密文書の公開を開始した。サムソンのテレビを盗聴器に変じさせるなど、具体的手法が明らかにされている。  
 CIAに情報提供、技術供与すると、いつリークされるか分からないとなれば、協力に二の足を踏む向きも当然出てこよう。米情報コミュニティにとって打撃は大きい。トランプ大統領がリーク者の摘発が進まない現状に苛立ちを示すのも無理はない。  
 フリン前安保担当補佐官が、秘密裏に駐米ロシア大使と制裁緩和を協議したとされる問題で辞任に追い込まれたが、協議の内容より、米当局によるロシア大使の盗聴が露呈したことの方が重大だろう。当然、ロシア側は盗聴対策を講じ、今後、同手法での情報収集の道は封じられよう。  
 国益を損ねてもトランプ政権に打撃を与えたいという勢力(彼らの主観では、トランプ政権を早くつぶすことが国益に適うわけだろうが)が、政府内にあることで、米国の総合的な戦闘力が低下しないかが懸念される。 
 野党民主党や米主流メディア(多くが民主党支持)は、「プーチン・ロシアに異様に近いトランプとそれを危惧する情報機関の対立」との構図で事態を描こうとするが、トランプ共和党政権とオバマ残存勢力との主導権争いという面も見逃してはならないだろう。  
 また、ロシアによるハッキングが米大統領選に影響を与えたと印象づけたい野党民主党および主流メディアにおいては、ロシア以上に組織的かつ大規模にサイバー戦を展開してきた中国に充分目を向けない傾向が見られる。不見識であり、これも危惧される点である。
〈管理人〉アメリカ、トランプ政権が共産中国にしかける関税率ひきあげにみられる一連の「経済戦争」は、共産中国の南シナ海での覇権拡大主義を阻む「攻撃」ともいえるでしょう。共産中国が対外的に稼げなくなれば、軍事費にも予算が回しにくくなる、軍事覇権にむきあう戦争は、必ずしもガチな武力による紛争ではないのです。

【米中経済戦争】

日米貿易戦争は回避?米国と全面衝突は中国のみか


岡崎研究所

 2018年(平成30年)9月の国連総会に際して、日米首脳会談が開催された。日本の貿易赤字を問題視し、たびたび強硬な発言をしてきたトランプ大統領に対し、日本側として如何に踏みとどまることができるか注目されたが、「日米物品協定」(TAG)締結に向けた交渉を開始するということで、先送りに近い形となった。首脳会談において発せられた共同声明は、日本外務省の発表によれば以下の通り。

12018926日のニューヨークにおける日米首脳会談の機会に、我々、安倍晋三内閣総理大臣とドナルド・J・トランプ大統領は、両国経済があわせて世界のGDPの約3割を占めることを認識しつつ、日米間の強力かつ安定的で互恵的な貿易・経済関係の重要性を確認した。大統領は、相互的な貿易の重要性、また、日本や他の国々との貿易赤字を削減することの重要性を強調した。総理大臣は,自由で公正なルールに基づく貿易の重要性を強調した。
2.この背景のもと、我々は、更なる具体的手段をとることも含め、日米間の貿易・投資を互恵的な形で更に拡大すること、また、世界経済の自由で公正かつ開かれた発展を実現することへの決意を再確認した。
3.日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する。
4.日米両国はまた、上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする。
5.上記協定は、双方の利益となることを目指すものであり、交渉を行うに当たっては、日米両国は以下の他方の政府の立場を尊重する。
-日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場 アクセスの譲許内容が最大限であること。
-米国としては自動車について、市場アクセスの交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること。
6.日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに,知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく。
7.日米両国は上記について信頼関係に基づき議論を行うこととし、その協議が行われている間,本共同声明の精神に反する行動を取らない。また、他の関税関連問題の早期解決に努める。

 今般の首脳会談で決まったことは、TAGという新たな協定への交渉を開始し、その交渉をしている間は、報復関税のようなことは慎むということである。この構図は、7月の米国とEUとの間の合意を想起させる。米=EU合意も、「大掛かりな貿易協定の交渉」(関税ゼロ、非関税障壁ゼロ、自動車産業以外の製品への補助金ゼロを目指す)で双方が合意し、交渉期間中は関税戦争をしないとする内容であった。米国からのLNGの輸入を拡大することで合意した点も、日米、米欧で共通している。
 新たな交渉を開始するということでトランプのメンツが立ち、中間選挙に向けたアピールができた一方、日本側としても、受け入れることのできないFTAではなくサービス貿易や投資などを除いたTAGに落ち着いたこと、また、農産品の関税についてはTPPで合意済みの水準を限度(上記共同声明中「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場 アクセスの譲許内容が最大限」とある)とすることができた。なお、トランプが貿易赤字について言及する際はreciprocal(相互主義的な)という語を使うのが常であるが、共同声明ではmutually beneficial(互恵的な)という語を使っている。まだ楽観視はできないが、態度の軟化を示しているかもしれない。
 通商をめぐるトランプ政権の大きな立場は、次第に明確になりつつあるように思われる。米国は、日欧とは全面衝突を回避し、NAFTA見直しをめぐってもメキシコに続いて930日にカナダとの間でも合意した。今や、大きな経済ブロックで、米国と真正面から衝突しているのは中国だけと言える。米国は「経済戦争」の対象を中国に絞ったと見てよいのであろう。上記共同声明の第6パラグラフは、非市場志向型の政策や慣行、知的財産の収奪、強制的技術移転、補助金等を挙げているが、当然これは中国が念頭にあるものと思われる。ルールに基づいて中国の不当な行為を正していくのが本来あるべき姿である。しかし、そうではなく、むき出しのパワーの衝突という形で、通商分野においても米中対立が進む可能性がある。世界は、その余波を受ける覚悟をする必要があるのかもしれない。
【動画】
米中貿易戦争の行方

トランプがしかけた罠にはまった米中経済戦争



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