2018年1月26日金曜日

アメリカ国家防衛戦略2018 ~マティス国防長官の野望~

米国防戦略・中ロとは「戦略的競合」=優位維持に軍再建-「ならず者」と北朝鮮非難

https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e7%b1%b3%e5%9b%bd%e9%98%b2%e6%88%a6%e7%95%a5%e3%80%81%e4%b8%ad%e3%83%ad%e3%81%a8%e3%81%af%e3%80%8c%e6%88%a6%e7%95%a5%e7%9a%84%e7%ab%b6%e5%90%88%e3%80%8d%ef%bc%9d%e5%84%aa%e4%bd%8d%e7%b6%ad%e6%8c%81%e3%81%ab%e8%bb%8d%e5%86%8d%e5%bb%ba%ef%bc%8d%e3%80%8c%e3%81%aa%e3%82%89%e3%81%9a%e8%80%85%e3%80%8d%e3%81%a8%e5%8c%97%e6%9c%9d%e9%ae%ae%e9%9d%9e%e9%9b%a3/ar-BBH23PV?ocid=spartandhp

時事通信

【ワシントン時事】米国防総省は2018119日、国防政策の指針をまとめた「国家防衛戦略」を発表した。中国やロシアを国際秩序の現状変更を目指す「修正主義勢力」、北朝鮮やイランを「ならず者国家」と位置付けた。特に中ロとの「長期的な戦略的競合」が最優先課題であり、対抗するために投資増強が持続的に必要だと強調。競争的優位性が損なわれている米軍再建の必要性を訴えた。 

 マティス米国防長官は119日、「大国同士の競争が米国の国家安全保障の最重要の焦点だ」と演説した。

 国防戦略は中国について、「軍隊の近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」と指摘。「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と警鐘を鳴らした。

 ロシアについては、周辺国の国境を侵犯したり、経済や外交などの政策決定に影響を及ぼしたりしていると批判。核戦力の拡大や近代化にも警戒感を示した。


 また、北朝鮮は核・生物・化学兵器などを追求し、日本や米国、韓国を脅かす弾道ミサイル能力向上を図り、体制維持を目指していると指摘した。
 

【さらに具体的に内容をお知りになりたい方は下の論文をご覧ください】

米中激突を予感させるマティスの「国防戦略」

2018年米国国家防衛戦略を読み解く


渡辺悦和
ジェームズ・マティス米国防長官(20171128日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / JIM WATSON AFPBB News

 米国防省は2018年119日、2018年米国国家防衛戦略(2018 National Defense Strategy)(以下「国防戦略」)を発表した。
 2008年版の国防戦略が発表されて以来10年間のブランクを経て久しぶりに発表された2018年版の国防戦略(NDS)は、私にとって気持ちよく読める文書であった。

 バラク・オバマ政権の8年間において、国防戦略が発表されなかったことを考えると、ドナルド・トランプ政権下でまっとうな国防戦略が発表された意味は大きい。

 私は、昨年末に国家安全保障戦略(NSS)が出されるまで、「トランプ政権は戦略を持たず、海図なき航海をしている」と批判してきた。
 しかし、国家安全保障戦略と国防戦略が公表され、今後、「核戦力体制の見直し」や「弾道ミサイル防衛見直し」も矢継ぎ早に出されるという。もはや、トランプ政権に戦略がないと批判することはできない。
 今後の焦点は、この国防戦略をいかに具体化するか、特に米国に並ぶ覇権国家を目指す中国に厳しく対処できるか否かだ。
 以下、国家安全保障戦略の公表バージョンである“Summary of the 2018 National Defense Strategy of The United States of America ”とジェームス・マティス国防長官のジョーンズ・ホプキンス大学での講演を中心に記述していきたいと思う。
2018国防戦略を読んでの感想
●「America First」や「Make America Great Again」などのトランプ色の強いスローガンが全く入っていないために、違和感なく受け入れやすい国防戦略になっている。2017年12月末に発表された国家安全保障戦略では、わざわざ「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」と命名したために、トランプ色が付きまとうNSSになってしまった。マティス国防長官は、トランプ大統領の不規則発言とは一線を画す、プロ好みの国防戦略に仕上げた。
●大統領就任後1年を経てもカオス状態にあるトランプ政権にあって、着実に任務を遂行している組織が国防省であることを改めて認識できる国防戦略となった。
 トランプ大統領は、国防省のことについてはマティス国防長官にほぼ全権委任していて、そのために国防省は、マティス国防長官という優れたトップの存在もあり、トランプ政権下にあって数少ない安定感のある組織である。気になるのは、国防省とは対照的に評価の低い国務省である。本来ならば、外交と軍事が混然一体となって機能すべきところではあるが、そうなっていない。
●戦略的環境に関する認識において、「米国と中国およびロシアとの大国間競争への回帰」を明示したことは高く評価できる。今後、中国とロシアに対しては厳しく対応することを期待したい。バラク・オバマ政権下においては、中国への過度の配慮のために、「米国と中国の大国間の競争」という言葉を使うことはタブーであった。当時のスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官は、この言葉を国防省が使わないように露骨に干渉した(JBpress記事「大国間競争を否定するホワイトハウスの大問題」参照)。この中国への過度な配慮が、中国の南シナ海人工島建設などの問題行動を許す要因となった。
●同盟国と友好国(パートナー国)との連携を重視した多国間主義は適切だ。
 「互恵的な同盟やパートナーシップは、米国の戦略にとって必要不可欠なものであり、米国の競争相手やライバルが追随できない戦略的利点を提供する」と適切な記述となっている。これは、トランプ大統領の対外政策が消極的な「対外不干渉主義」から米国単独でも軍事力の行使をいとわない「単独主義」に大きく振れる傾向を是正するものである。同盟国や友好国(パートナー国)との協調により諸問題を解決しようとする多国間主義の表明は妥当だ。下図参照。

マティス国防長官のジョンズ・ホプキンズ大学での講演
 マティス国防長官は、2018年119日にジョンズ・ホプキンズ大学において国防戦略について講演をしたところ、国防戦略を理解するうえで参考になるので紹介する。
2018国防戦略の特徴
2018国防戦略は、新しい国防戦略は時代に合致したものである。
・単なる防衛戦略ではなく、米国の戦略である。
・2017年末に発表されたトランプ大統領の国家安全保障戦略を根拠としている。
・中国およびロシアとの大国間競争への回帰を強調している。しかし、他の脅威(ならず者国家である北朝鮮とイラン)についても触れている。
●米軍の任務
・米軍は、我々の生き方を守るが、思想の領域も守っている。地形を守っているだけではない。この国防戦略は、すべての領域における努力の指針となるものだ。
・軍事の役割は、平和を維持すること。平和をあと1年、あと1か月、あと1週間、あと1日平和を維持すること。問題解決にあたる外交官に力を背景とした解決を可能にさせ、同盟国に米国に対する信頼感を付与すること。
・この自信は、外交が失敗したとしても、軍が勝利するという確信に裏打ちされている。
●脅威認識
・過去に発表した戦略の時代から脅威は変化している。ロシアと中国が出現し、グローバルな移ろいやすさ、不確実性が増大している。
・テロリズムではなく、大国間競争が米国の国家安全保障の焦点だ。
・我々は、修正主義大国である中国とロシアからの増大する脅威に直面している。中国およびロシアは、全体主義的なモデルに一致する世界を作ろうとし、他の諸国の経済的、外交的及び安全保障上の決心に拒否権を行使しようとしている。
・北朝鮮とイランは、ならず者国家であり続けている。イスラム国(ISIS)の物理的な実体はもはや存在しないが、他の過激主義組織が憎悪の種をまいている。
●米軍の現状と改善の方向
・米国の軍事力はいまだに強力ではあるが、米国の競争における優越性はすべての作戦領域(空・陸・海・宇宙・サイバー空間)において劣化し続けている。
16年間のテロとの戦い、急速な技術的変化、国防費の上限枠、絶え間ない決議のために、伸び切った軍隊、資源の欠乏した軍隊になっている。
・米国の軍事力の卓越性は、当然の前提ではない。もしも国家が自らを守るためには、より強力な軍隊を持たなければいけない。
・もっと強力な統合軍を構築すること、古い同盟を強化し、新たな同盟を構築すること。国防省のビジネス慣行を改革すること。
・成功は、新技術を開発した国ではなく、それを統合し、より迅速に戦い方に応用した国に与えられる。
●議会への要望
・この国防戦略は、資源が与えられないと意味をなさない。いかなる戦略も、必要な予算、安定し予測可能な予算なくして成立しない。軍隊を近代化しないと、過去には勝てた軍隊も今日の安全保障には不適になる。
16年間にわたる対テロ戦争において、米軍の即応性を傷つけたのは、予算統制法による予算削減とそれに関係する多くの議会決議だ。
・米軍は、議会が通常やるべきことをやらなかったために、不十分で不完全な資源(人・物・金)にもかかわらず、休むことなく任務を遂行している。
・我々は、自らの命を懸け、自発的に白紙の小切手にサインをする軍人たちに誠実であるべきだ。議会は、予算決定の運転者席に座るべきで、予算制限法による自動的な削減の傍観者の席に座るべきではない。
・我々は予算が必要だし、米軍の卓越性を維持するのであれば、予算の予測可能性が必要だ。
2018国防戦略の概要
●国防省の任務
 国防省の変わらない任務は、戦争を抑止し、国家の安全を保障するに必要な信頼できる戦闘能力を備えた軍事力を提供することだ。もし抑止が失敗したとしても、統合軍は勝利する準備ができている。
 米国の伝統的な外交ツールを補強しつつ、国防省は、大統領と外交官が「力を背景とした立場」で交渉するために軍事的選択肢を提供する。
 今日、我々は、米国の軍事的競争における優位性が劣化していることを認識する時代つまり「戦略的衰退(strategic atrophy)の時代」を生きている。
 我々は、長期的なルールに基づく国際秩序の後退が特徴である、グローバルな無秩序に直面している。その無秩序が、安全保障環境を過去に経験した以上により複雑かつ流動的にしている。テロリズムではなく、大国間の戦略的競争が米国の国家安全保障の主要な懸念になっている。
●戦略的環境
・中国
 中国は、戦略的競争相手である。
 中国は、軍事の近代化、影響作戦、略奪的な経済を使い、近隣諸国を脅し、南シナ海における軍事化を推進している。また、インド太平洋地域の秩序を自分に都合のいいように再編している。
 中国は、引き続き経済的、軍事的台頭を続け、挙国一致の長期的戦略においてパワーを強調し、引き続き軍事近代化計画を推進し、近い将来にインド太平洋地域の覇権を追求し、米国を追い出し、将来におけるグローバルな卓越(global preeminence)を獲得しようとしている。
 中国やロシアは、システムの内側から、その利益を利用しながら、同時にその諸原則の価値を貶め、国際的な秩序を密かに傷つけている。
 米国の国防戦略の最も遠大な目的は、米中両国の軍事関係を透明で、非侵略的な道に導くことである。
・ロシア
 ロシアは、NATO(北大西洋条約機構)を害し、欧州と中東の安全保障及び経済の構図を自国に有利になるように変えていこうとして、隣接国の政治的、経済的、外交的、安全保障上の決定を拒否する権力を追求している。ジョージア、クリミア、東ウクライナにおける民主的プロセスを貶め、転覆するために最新の技術を使うことは大きな懸念であるし、それが核戦力の拡大および近代化と結びつくとその脅威は明らかだ。

・北朝鮮
 ならず者国家である北朝鮮やイランは、核兵器の追及やテロリズムを支援することにより地域を不安定にしている。北朝鮮は、政権の生き残りの保証および核・生物・化学・通常及び非通常兵器を追求することによる影響力の増大に努め、また弾道ミサイル能力の向上により韓国、日本および米国に威嚇的な影響力を及ぼそうとしている。
●国防省の目標
・国土を攻撃から守る。
・統合戦力の軍事的優位性を全世界及び重要な地域において保持する。
・米国の死活的に重要な国益に対する敵の侵害を抑止する。
・国防省と関係の深い他省庁による米国の影響力および国益を増進する努力を援助する。
・インド太平洋地域、欧州、中東、西半球における地域的な力の均衡を有利に保つ。
・同盟国を軍事的侵略から防護し、脅迫に対してパートナー国を支援し、共通の防衛の責任を公平に担う。
・敵性国家や非国家組織が大量破壊兵器を獲得し、拡散し、使用することを思い止まらせ、予防し、抑止する。
・テロリストが米国本土、米国市民、同盟国、友好国に対して作戦を実施したり、支援したりすることを予防する。
・国際的な公共ドメイン(宇宙、サイバー空間など)をオープンかつ自由にする。
・継続的に国防省の思考態度、文化、管理システムを変えていく。
21世紀の国家安全保障上のイノベーション基盤―効果的に国防省の作戦を支持し、安全と財政を付与する基盤―を確立する。
●戦略的アプローチ
・戦略的に予測可能ではあるが、作戦的には予測不可能であれ。
・米国の各省庁の能力を統合して、国力のすべてを活用せよ。
・威嚇や破壊に対抗せよ。
・競争的な思考態度を涵養せよ。
①より強力な統合軍の建設による即応性の再建
②新たな友好国との同盟関係の強化
③より大きなパフォーマンスと適正な費用負担のための国防省ビジネス改革
●より強力な軍事力を整備する
①戦争準備に優先順位をつけよ。
②中核となる能力を近代化せよ。
・核戦力
 核の三本柱および核の指揮・統制・通信・支援インフラを近代化する。核戦力の近代化は、競争相手の威嚇的な戦略(脅迫のための核戦力の使用または戦略的な非核攻撃)に対抗するための選択肢の開発も含む。
・戦争遂行領域としての宇宙及びサイバー空間
 強靭性、再編成、米国の宇宙能力を確実にするための作戦に対する投資を優先する。サイバー防御、強靭性、全スペクトラムの作戦にサイバー能力を継続的に統合することに投資する。
C4ISR
 戦術レベルから戦略計画レベルまでの強靭で残存性が高いネットワークと情報エコシステムの開発を優先する。
・ミサイル防衛
 多層のミサイル防衛および戦域ミサイルと北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対処する能力に投資を集中する。
・混沌とした環境下における統合致死能力
 統合戦力は、機動可能な戦力投射プラットフォームを破壊するために、敵の防空及びミサイル防衛ネットワークの中に存在する多様な目標を打撃することが可能でなければいけない。複雑な地形における近接戦闘致死性を強化する能力が含まれる。
・前方展開戦力の機動及び体制の強靭性
 敵の攻撃間における全てのドメインにおいて展開し、生き残り、作戦し、機動し、再生することができる陸・空・海・宇宙戦能力に優先して投資する。
・先進自律システム
 国防省は、軍事競争を優先し、自律システム、人工知能、機械学習の軍事への幅広い適用及び迅速な民間のブレークスルー技術の適用のために投資をする。
・強靭で機敏な兵站
 前方事前集積物資・弾薬、戦略機動アセット、友好国及び同盟国の支援を優先する。
③革新的な作戦コンセプトを作り上げる。
④強力で敏捷で強靭な戦力態勢および運用を開発する。
⑤全構成員の能力を開拓する。
●同盟を強化し、新たなパートナー国を引きつける
 互恵的な同盟やパートナーシップは、米国の戦略にとって必要不可欠なものであり、競争相手やライバルが追随できない長続きする非対称な戦略的利点を提供する。
・相互の尊敬、責任、優先順位、説明責任を支持する。
・地域的協議メカニズムや共同計画を拡大する。
・インターオペラビリティ(相互運用性)を深化させる。
・インド太平洋地域の同盟とパートナーシップを拡大する。
NATOを強化する。
・中東において持続可能な連合(coalition)を形成する。
・西半球における優位性を維持する。
・アフリカにおける重大なテロリストの脅威に言及する関係を支持する。
トランプ政権は中国に毅然と対処できるか?
 トランプ大統領は、選挙期間中の公約を律儀に一つひとつ実現しようとしてきた。移民の規制、メキシコとの国境沿いの壁の建設、オバマケアの廃止、税制改革などであるが、1つ全く手をつけていないのが中国に対する通商問題や安全保障面での厳しい対応である。
 国防戦略で横暴な中国との対峙を明示したが、本当に強敵である中国と対峙できるか否か、トランプ政権の真価が問われている。習近平主席の野望は、2013年に中国の国家主席に就任した時に掲げた「偉大なる中華民族の復興」である。
 彼は、昨年10月の第19回党大会における演説の中で、20回以上も「強国」という言葉を使い、建国100周年に当たる2049年頃を目途に「総合国力と国際的影響力において世界の先頭に立つ『社会主義現代化強国』を実現する」と宣言した。
 そして、「2035年までに、国防と人民解放軍の近代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに人民解放軍を世界トップクラスに育成する」と強調した。彼の野望は、まず米国と肩を並べる大国になること、そして最終的には米国を追い抜き世界一の大国として世界の覇権を握ることである。彼の野望に待ったをかけるのは米国と日本をはじめとする同盟国や友好国との連帯である。米国が今回発表した国防戦略に則り毅然とした行動をとることを期待する。
【マティス国防長官から発表されたアメリカの国家国防戦略については、様々な批判、反論が発生しました。完璧な論稿などありませんからね、】

国家安全保障戦略はトランプの政策を変えられないだろう

岡崎研究所
2018124http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11683
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「理論上のトランプ・ドクトリン:台頭する脅威についての現実主義と政策上の不接合」と題する社説を1218日付けで掲載し、トランプが同日に発表した国家安全保障戦略についてコメントしています。社説の要旨は、次の通りです。
トランプは米外交の急激な改革を選挙の際にしばしば主張したが、大統領としての1年目は、反対者が恐れ、レトリックが示したものより、ずっと普通の政策であった。今度の国家安全保障戦略も、もし実施されるならば、同様に安心できるものである。本文書のもっとも注目すべきテーマは、「世界がもっと危険になっている」との歓迎すべき現実主義である。
 文書は、次の通り論じている。中露は「修正主義国」であり、「米国の力、影響力、利益に挑戦」している。またイランと北朝鮮はならず者国家であり、「地域を不安定化」している。そして、ジハード主義者などがテロのリスクなど、国境を超える脅威をもたらしている。新しい技術が「弱い国家に力を与え、米本土・利益への脅威になっている」。
 今回の文書はこれらの脅威を地域的文脈におき、「米国に対抗して起きている地域バランスの変化は、わが安全保障を脅威に晒しうる」と正しく指摘している。
 文書は「米国は、インド太平洋、欧州、中東における不利な変化と対抗するために意思と能力を動員すべきであり、有利な力のバランスの維持は同盟国やパートナー国との協力を必要とする」と述べている。
 トランプがプーチンに友好的な態度をしばしば表明しているにもかかわらず、ロシアについて率直な評価をしていることは注意を引く。文書は「ロシアは米の影響力の弱体化、同盟国などとの離間を狙っている。世界の諸国の国内政治に干渉している」と述べている。
 戦略はウクライナを不安定化するロシアの試みに言及している。しかし、トランプはウクライナへの殺傷兵器供与を拒否している。オバマと同じである。トランプはイスラム国後のシリアをロシアとイランが支配することを放置している。トランプの対イラン言辞はオバマよりずっと厳しいが、彼の政策はそうでもない。
 この文書は、トランプ政権は、宗教的少数派や個人の尊厳など「米の価値を強調」するという。しかし、トランプ政権高官はこれらの価値についてあまり語らず、トランプは習近平やプーチンを称賛し、矛盾したメッセージも発してきた。
 トランプはこの戦略を明らかにするために異例にも演説をした。しかし、我々は彼の外交本能は個人的で取引的であると知っている。彼は取引を好み、相手を魅惑しようとする。この文書によれば、敵対者は魅惑などできない。「原則のある現実主義」の戦略は、オーバル・オフィスに確固とした原則を持つ現実主義者を必要とする。
出典:‘The Trump Doctrine, in Theory’(Wall Street Journal, December 18, 2017
https://www.wsj.com/articles/the-trump-doctrine-in-theory-1513642862
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11683?page=2

 今回の国家安全保障戦略文書は、この社説が指摘するように、情勢認識において現実的です。中露を競争勢力と決めつけるほか、同盟国との協力を重視するなど、基本的なところでは歓迎できる面が多いです。こういう考え方が政策に反映されるのならば、安心できます。この文書はマクマスターを中心とする国家安全保障会議が起案したものでしょう。トランプがどれほど真剣にこの文書を吟味したかは分かりません。
 この社説も指摘するように、トランプの外交への対応は取引的であり、無原則です。米国の価値観を強調するこの戦略文書が出たからと言って、トランプ外交が価値重視で、原則重視になるとはとても思えません。
 同盟が米国の力を増大させるとの認識は、同盟重視であり、歓迎できます。しかし、実際の外交がどうなるか、依然としてよく分かりません。
 この国家安全保障戦略は基本的には良い文書ですが、これで米国の世界的影響力が回復するとは考えられません。厳しい言い方になりますが、トランプが大統領でいる限り、米国の世界での影響力は低下し続けるでしょう。
 「トランプ1年目の外交が過激な変化というより普通であった」とのウォール・ストリート・ジャーナル紙の評価にはあまり賛成できません。
 通商政策においては、米国はTPPNAFTA、さらにはWTOを攻撃し、保護主義的な通商政策を標榜しています。自ら構築した戦後秩序を自ら壊しています。
 エルサレムをイスラエルの首都と認定しましたが、安保理でその撤回を求める決議が出され、孤立し、拒否権行使を余儀なくされました。さらに総会でも孤立しています。米国とアラブ諸国、イスラム教の諸国との関係を悪化させることになりました。中東和平での米国の影響力はかつてないほど低下しています。イランを「ならず者国家」と呼び、サウジに肩入れする政策が中東の安定に資するとも思えません。
 欧州でも、気候変動パリ協定離脱、プーチンへの甘い態度、ウクライナ支援へのあいまいな態度などを巡り、トランプ政権への批判は多いです。
 アジアにおいては、北朝鮮問題が最も重要な課題ですが、その行先はまだ不透明です。もっともこれはトランプのせいではありません。中国が競争勢力とされたことが北朝鮮問題での中国の協力にどう影響するか、今後見ていく必要があります。
 なお、この国家安全保障戦略文書について、ワシントン・ポスト紙は「トランプの国家安全保障戦略は全く戦略になっていない」と厳しく批判する社説を1219日付けで掲載しています(‘Trumps National Security Strategy isnt much of a strategy at all’)。同社説は、国家安全保障会議が米国の外交利益とトランプの衝動を調整しようとした試みですが、それに成功していないとしています。日本は米大統領が誰であってもよい関係を求めざるを得ませんが、こういう立場でいることについて、反省する必要もあるように思われます。

スーザン・ライスによるトランプの国家安全保障戦略批判
岡崎研究所
2018126http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11685

 オバマ政権の国家安全保障補佐官のスーザン・ライスが、20181220日付のニューヨーク・タイムズ紙で、トランプの国家安全保障戦略を激しく批判しています。主要点は次の通りです。
トランプの国家安全保障戦略(以下「戦略」)は歴代大統領の戦略と大きくかけ離れ、「極めて危険な」世界観を打ち出している。戦後米外交の基礎となった米国の政治、軍事、技術、経済上の力や自由の推進等への言及は殆どない。
 トランプによれば、米国の勝利が常に他国の犠牲によってしか達成されない。公共財や国際社会、普遍的価値は存在しない。戦略はゼロ・サム・ゲーム思考の権化になっている。これはトランプの国家主義的な、白黒分別思考の米国第一主義戦略でしかない。実際の世界は白黒ではなくグレイなところであり、トランプはその微妙な分別がつけられないようだ。中ロを同じ敵国と見做している。中国は競争者ではあるが、敵対者ではなく、近隣諸国を不法に占拠している訳でもない。ウクライナを蹂躙したロシアこそ米国の敵国であり、トランプはそれを直視しようとしない。中ロ両国を束ねて、中国批判者達のご機嫌を取ろうとしている。それはロシアと中国の接近をもたらす間違った考え方だ。
 移民については引き続き厳しい政策を取っている。また多国間より二国間の合意を優先させ、中国の拡張阻止に資するTPPからの離脱を自賛している。
 戦略は人権や貧困、高等教育、HIV/AIDS等米国がこれまで重要と考えてきた多くの優先課題を省略している。これは米国の世界での指導力を削ぐものだ。
 戦略は、外交が重要だというが、ティラーソンの国務省は資源、人材や存在感を喪失している。報道の自由を述べるが、フェイク・ニュース批判は続ける。そういうことでは戦略の内容をどれ程真面目に受け取るべきか分からなくなる。
 米国の力は長年その軍事力、経済力だけでなく、米国が掲げてきた理想の力にも基づいていた。この難しい時代に米国の道徳的権威を放棄することは相手をより大胆にさせ、自らを弱体化させるだけだ。それでは米国第一主義の考え自体が茶番になるだろう。
出典:Susan E. Rice When America No Longer Is a Global Force for Good’(New York Times, December 20, 2017
https://www.nytimes.com/2017/12/20/opinion/susan-rice-america-global-strategy.html?_r=0
この批判は、ライス流でも、ことのほか厳しいです。党派的な感じさえします。しかし、白黒二分法的な世界観やゼロ・サム・ゲーム思考、国際公共財などの軽視、道徳的権威の欠如など批判が的を射ている点もあります。実際の世界は白黒ではなくグレイなところであると述べている点は上手い表現であり、全くその通りだと思います。
 しかし、ライスの中国観には賛成できません。中国は競争者であるが敵対者ではなく、近隣諸国を不法占領している訳でもないと主張しています。しかし、南シナ海など中国の振る舞いを見ればそのような中国観は問題です。もっと厳しい見方が必要でしょう。そういえば補佐官時代の彼女の対中姿勢は宥和的なもので批判されもしました。なお、中国は、正しいことですが、「協力こそが米中の唯一の選択肢だ」と反論しています。
 今回の対議会報告について注目した点は、次の通りです。なお、日本政府は基本的に今回の報告を歓迎しているようです。
 (1)トランプの強い意気込みが感じられました。従来事務的に発表されたものですが、今回はトランプ自らが発表しました。ただ一部のメディアは選挙演説の様だと皮肉っています。
 (2)トランプの政策が全体として当初よりは改善、修正されてきていると感じられました。第1は、世界での米国のリーダーシップ、影響力を政策の目的として認めるようになって来ていることです。米国の影響力の推進が第4の柱になっています。大統領就任演説などでは世界における米国の役割を放棄した狭隘な「アメリカ第一主義」の考えでしたが、知らず知らずのうちに世界での役割をとにかく果たすように変わってきています。そのためには強い力が必要だとし、力を通じた平和維持の考え方を打ち出しています。マティスなど側近の教育でしょうが、重要な進展です。
 (3)第2に、中ロは米国に挑戦する「修正主義勢力」と規定していることです。従来の政権が採ってきた中国を国際社会に融合すれば中国は変化していくという政策は間違いだと考えています。中国の見方が厳しくなっているかもしれません。所謂ステークホルダー論が間違っているとは思いませんが、中国との関係はそれだけでは不充分です。ステークホルダー論と共に勢力均衡を忘れないで、これらを合わせ追求していくことが必要だと思います。
 (4)第3は「自由で開かれたインド太平洋」の概念を採用していることです。「地域の文脈における戦略」の章ではインド太平洋の記述が一番目にあり、最も多いスペースが割かれています。インド太平洋の概念は安倍総理がインドでの演説で最初に打ち出したものです。日本、インド、豪州との関係強化にも言及しています。北朝鮮問題重視の考えも心強いです。
 (5)日本を「不可欠な同盟国」と述べています。日米同盟関係が緊密に推移していることは良いことです。ただ一つ双方に違いがあるとすれば、貿易の頑なな二国間志向であり、この戦略でも貿易経済は4本柱の一つにされています。なおトランプのWTOへの敵対的姿勢は強く懸念されます。

【国防戦略にそって北朝鮮に対しては、即時先制攻撃できる態勢をとっているアメリカ】

あらゆる手段を駆使しながら、北朝鮮に「睨み」をきかしているようにみえますね。

米国が静かに進めている北朝鮮「軍事攻撃」の準備

グアム島に集結する主力爆撃機、日本も心の準備を

北村淳



米空軍のB-1B爆撃機。グアム島アンダーセン空軍基地にて(2017年2月撮影、資料写真、出所:米空軍)

 北朝鮮が韓国文在寅政権に対して平昌オリンピック参加を餌に揺さぶりをかけることにより、南北直接対話が開始された。その結果、アメリカ軍による挑発的な軍事圧力や軍事攻撃(予防戦争)は一見して遠のいたかに見える。日本のメディアによる北朝鮮騒ぎも、ひとまず下火になっているようである。
 しかしながら、北朝鮮が、アメリカ本土を直接攻撃可能な核搭載長距離弾道ミサイル(ICBM)を取り揃えようとする限り、トランプ政権が対北朝鮮軍事オプションを放棄することはあり得ない。実際、昨年(2017年)末から現時点にかけても、米軍では来たるべき対北朝鮮「予防戦争」発動に備えた訓練や具体的準備が静かに進められている(もちろんペンタゴンとしては、できうる限り避けたい事態であるのだが)。
地上軍の投入が必要
 アメリカ国防当局が決して望まない事態であるとはいえ、トランプ政権が決断を下した場合には、米軍による対北朝鮮軍事攻撃は現実のものとなる。
 この「予防戦争」の戦端を開くのは、ICBMを中心とする核・弾道ミサイル関連施設に対する米空軍爆撃機部隊、戦闘攻撃機部隊によるピンポイント猛爆撃であり、それとタイミングを合わせて着弾するように米海軍艦艇からも大量の長距離巡航ミサイルが発射される。引き続いて、空軍爆撃機部隊の第二波爆撃と共に、海軍や海兵隊の戦闘攻撃機による爆撃も実施され、韓国内からも巡航ミサイルや長射程火砲による砲撃が実施される。この段階で、「予防戦争」の戦争目的である北朝鮮のICBM戦力や核戦力は壊滅することになる。
 だが、それらの目標を空爆しただけでは目的を完遂することにはならない。海兵隊の少数精鋭部隊を先鋒として、それに引き続く大規模な陸軍侵攻部隊が北朝鮮領内に侵攻して核施設を接収していかなければ「予防戦争」は終結しない。
このように地上軍を投入しなければならないという点が、米軍首脳が「予防戦争」実施を躊躇する大きな要因の1つである。
訓練を開始した米陸軍
 米軍は過去10年間以上にわたってイラクやアフガニスタンでの戦闘に従事してきたが、主たる敵はテロリスト集団が組織する武装勢力であって、いわゆる国家の軍隊ではなかった。そのため、猛爆撃により大打撃を与えた後とはいえ、北朝鮮に侵攻して朝鮮人民軍(以下、北朝鮮軍)という正規の陸軍部隊と戦闘を交えるのは米軍陸上部隊にとっては久しぶりということになる。
 もっとも、あらゆる状況下でアメリカの尖兵として敵地に乗り込む役割を負っている海兵隊は、海岸線沿岸地帯の敵勢力を撃破し、後続する陸軍部隊を迎え入れる、といった類いの訓練は常に実施している。だが、米陸軍がこれまで対処してきたのは、イラクの砂漠、アフガニスタンの荒野や山岳地帯でのテロリスト武装集団や非正規叛乱軍などの武装蜂起やテロ攻撃である。北朝鮮に侵攻して、テロリスト武装集団より格段に訓練が行き届いた正規陸軍と戦闘を交えるためには、これまでとは異なった訓練を実施しなければならない。
 そこで昨年暮れには、ノースカロライナ州で48機の攻撃ヘリコプターと輸送ヘリコプター、それに多数の将兵が参加して、実弾砲撃の中で陸軍部隊と大型兵器資機材を移動させる実戦さながらの訓練が実施された。それに引き続いて、米陸軍の精鋭部隊である第82空挺師団は、ネバダ州で100名以上の隊員による夜間降下侵攻訓練を実施した。これらの限りなく実戦に近い訓練が北朝鮮侵攻を念頭に置いたものであることは明らかである。
 そして間もなく、1000名もの米陸軍予備役将兵が参加する、緊急時における予備役動員訓練が実施されることになっている。また、平昌オリンピック・パラリンピック開催期間中には、韓国に駐屯している米陸軍特殊部隊を大幅に増強する予定も明らかになった。それらの特殊部隊は、予防戦争勃発と共に北朝鮮領内に侵入して、空爆目標の誘導や各種破壊活動などを実施する役割を持っている。

大型貫通爆弾で地下施設を攻撃
 前述したように、米軍による対北朝鮮「予防戦争」は、空軍爆撃機部隊による北朝鮮のICBM関連施設への奇襲空爆によって開始される。この第一波攻撃で、アメリカ領域を攻撃できるICBM関連施設を破壊しなければ、アメリカ本土に対する報復核攻撃が実施される可能性もある。 北朝鮮のICBMをはじめとする弾道ミサイル関連施設や移動式ミサイル発射装置は、いずれも地下施設や山岳地帯の洞窟式施設などに潜んでいる。そのため、先制奇襲攻撃では、地下深くの攻撃目標を破壊するために開発されたGBU-57大型貫通爆弾(MOP:最大60メートルのコンクリートを貫通した後に爆発し目標を破壊する)を使用する必要がある。
 巨大なMOPを搭載することができる爆撃機は、B-52戦略爆撃機とB-2ステルス爆撃機のみである。米空軍爆撃機部隊が北朝鮮攻撃の主たる前進拠点としているグアム島アンダーセン米空軍基地に常駐しているB-1B爆撃機には、MOPを搭載することはできない。よって、B-2ステルスを奇襲攻撃に投入し、B-52B-1Bが共に第二波攻撃で大量の各種爆弾を投下する役割を担うことになる。
グアムに15機の主力爆撃機が勢揃い
 いずれにせよ、米軍による対北朝鮮軍事攻撃が敢行される場合には、グアム島アンダーセン米空軍基地に、B-1B爆撃機、B-2ステルス爆撃機、それにB-52戦略爆撃機が集結していなければならない。B-2B-52も、アメリカ本土から北朝鮮上空に飛来して爆撃を実施し、日本やグアムの基地に帰還することは十二分に可能であるが、攻撃のタイミングや兵員の疲労などを考えると、できるだけ多くの爆撃機を、できるだけ攻撃目標に近い基地から発進させる必要がある。そのため、アンダーセン空軍基地や、場合によっては日本の米軍基地などにも、B-2B-52が展開している状況を作り出し、予防戦争開始のタイミングを敵にも味方にも悟らせないようにする準備態勢作りが肝要になっている。


米太平洋空軍がグアムに展開したB-2ステルス爆撃機(出所:米太平洋空軍)
 実際に、201818日には、ミズーリ州ホワイトマン空軍基地から3機のB-2ステルス爆撃機と200名の関係要員がアンダーセン航空基地に展開し、現在配備されている6機のB-1爆撃機部隊と合流した。超高価なため米空軍といえども20機しか保有していないB-2ステルス爆撃機を前方に配備するのは、専門スタッフの配置も必要であることから、まさに実戦を想定した動きに近いといえる。 引き続いて2018116日には、ルイジアナ州バークスデール空軍基地から6機のB-52H戦略爆撃機と300名のスタッフがアンダーセン航空基地に到着した。これによってグアムには、合計15機の3種類のアメリカ空軍主力爆撃機が勢揃いしたことになる。
B-52戦略爆撃機(出所:米太平洋空軍)
 これらの爆撃機部隊増強は、平昌オリンピック開催期間中の不測の事態を抑止するための威圧目的で、期間限定の展開とされている。ただし、上述したように、対北朝鮮「予防戦争」を念頭に置く米空軍、そして米太平洋軍司令部としては、奇襲攻撃が迫りつつあるサインを北朝鮮側に悟らせないためにも、今後恒常的にB-2ステルス爆撃機やB-52をアンダーセン航空基地に展開させるものと思われる。このように、南北会談や平昌オリンピック・パラリンピック開催といった動きと平行して、静かながらも着実にアメリカによる「予防戦争」実施準備は推し進められている。現実に「予防戦争」が開始された場合、北朝鮮軍による報復攻撃として弾道ミサイルの飛来が十二分に予想される日本としても、心の準備を怠ってはなるまい。
アメリカの空軍力2017
【アメリカは、平昌五輪が終わってからにでもスポット的に北朝鮮を攻撃するという人もいますが、どうでしょうか?ただ確実にいえることは、決して軽挙妄動はしないということと、攻撃するときは奇襲攻撃となるということ。サイバー空間では、もう米朝は激しくやりあっているのでは?】


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