ブラックすぎる職場、米海軍で士気の低下が深刻に
「パンと水」懲罰で乗組員を締め上げた鬼艦長
2017.10.19(木) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51363
アメリカ海軍駆逐艦チェイフィー(出所:米海軍)
アメリカ海軍駆逐艦チェイフィーは、2017年10月10日、西沙諸島(パラセル諸島)で「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)を実施した。西沙諸島は中国とベトナム(そして台湾も)が領有権を主張しているが、1974年に中国がベトナムとの戦闘に打ち勝って占領して以来、中国が実効支配を続けている。西沙諸島の中心となっている永興島には中国による南シナ海支配の行政機関である三沙市政庁が設置され、3000メートル級滑走路や駆逐艦や大型巡視船なども拠点とできる港湾施設、それに漁業施設や商業施設などの民間人居住区も存在する。
トランプ政権下で4回目となる今回のFONOPでは、チェイフィーは西沙諸島のいずれの島嶼の12海里内海域にも接近しなかった。その代わり、中国が西沙諸島の領海線として設置している線引き方法を「不適切である」とアメリカが指摘している海域を、米海軍駆逐艦が通航した。トランプ大統領の訪問を控えた中国に対して遠慮した形のFONOPであった。
もっとも、アメリカのFONOP実施に対しては、中国海軍が脅威を受けていようがいまいが対抗行動を実施し、中国政府が非難声明を発するのがパターン化されている。今回も、中国海軍フリゲートと2機の戦闘機、それにヘリコプターがチェイフィーに接近して警告を発した。そして、中国当局は米軍艦の西沙諸島への威嚇的接近を非難するとともに、中国海軍が「米駆逐艦を追い払った」との声明を公表した。
多くの幹部が処分された太平洋艦隊
トランプ政権が今後、FONOPをはじめとする南シナ海や東シナ海での対中牽制策をどのように進めていくのかは現時点では不明である。トランプ大統領としては、北朝鮮情勢を睨んで中国との軍事的緊張を高める行動は極力回避したいところだろう。さらに、本コラム(「米海軍・太平洋艦隊司令官の退役を笑って喜ぶ中国」)で取り上げたように、対中強硬派の太平洋艦隊司令官スコット・スウィフト大将が退役することになってしまったため、スウィフト司令官の後任者、そして次期太平洋司令官の人選によっては、控えめなFONOPすら先細りになる可能性もある。
多くの海軍将校たちの人望を集めていたスウィフト太平洋艦隊司令官は今年に入って連発している太平洋艦隊(第7艦隊ならびに第3艦隊)所属艦の事故(本コラム「米海軍で事故続発の原因、サイバー攻撃はありえない」2017年8月31日参照)の責任を取らされた形となった。同様に、太平洋艦隊の水上戦闘艦(一連の事故は巡洋艦と駆逐艦であった)の統括責任者であるトーマス・ロウデン中将も早期退職に追い込まれた。そして、すでに今年に入って2件目の死亡事故が発生した直後には、第7艦隊司令官ジョセフ・アーコイン中将が司令官を解任されている。また、それらの太平洋艦隊首脳人事に加えて、事故を起こした軍艦それぞれの艦長と副長たちも全て解任された(ただし、いまだに事故原因などの公式調査は完了していない)。
このように、太平洋艦隊では4件も事故が連発し、17名もの犠牲者を出し、人望があった司令官を筆頭に多数のリーダーたちが海軍を去るか左遷されるという状況に直面して、将兵の士気が大きく低下するのではないかという問題が生じている。というよりも、すでに太平洋艦隊での士気が低下しているからこそ、わずか8カ月の間に4件も立て続けに重大事故が発生してしまったのではないかと考えている海軍関係者も少なくない。そしてこのほど、そのような士気の低下を物語る調査結果が明らかにされた。
巡洋艦シャイローでの“転落事故”
横須賀を母港とする第7艦隊の米海軍巡洋艦シャイローは、弾道ミサイル防衛システムを搭載しており、2006年以来、北朝鮮の弾道ミサイルに対する警戒監視に投入されている。そのシャイローで、2017年の6月8日、下士官1名が甲板から海中に転落して行方不明になる事故が発生した。
海上自衛隊や海上保安庁も出動して3日間にわたる捜索活動を実施したが、発見に至らず、捜索は中止された。しかし、実はこの下士官は海中に転落していなかった。数日後、シャイローの機関室内に潜んでいたところを発見されたのである。この出来事はニュースとなり、士気が著しく低下した下士官の存在が知れわたるところとなった。さらにその後、シャイローの乗組員たちが「Navy Times」にシャイロー内での大幅な士気の低下とその原因について“告発”したため、海軍当局も調査に乗り出す事態に至っている(注:Navy Timesは、米海軍や沿岸警備隊に関するニュースや論説を中心とした新聞を月2回発行している、米海軍とは独立したニュースメディア)。
アメリカ海軍巡洋艦シャイロー
「浮かぶ牢獄」シャイロー
シャイローを含む第7艦隊所属艦は、南シナ海でのFONOPをはじめとする対中牽制のための長期にわたるパトロールや、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えて日本海や西太平洋で高度な警戒態勢を持続するなど、過密なスケジュールが続いていた。そのため乗組員たちは仕事量が増大するだけでなく、睡眠時間が減らされる状況にあった。
それだけではない。シャイローでは、ある人物によって乗組員たちが苛酷な勤務環境に追い詰められていた。その人物とは、『バウンティ号の叛乱』で有名なブライ艦長のように「極めて厳格な」艦長、アダム・アイコック大佐である。
アイコック大佐の“非人間的”とも言えるほど厳格な管理手法によって、下士官以下の乗組員たちは「懲罰の恐怖にさいなまれる」という状況に置かれてしまっていた。彼らは、自分たちの軍艦を「浮かぶ牢屋」あるいは「軍艦・パンと水(USS Bread & Water)」と名付け、「北朝鮮のミサイルなどどうでもいい」とまで考える乗組員が現われていったのである。
恐怖の「パンと水」懲罰
なぜ、「軍艦・パンと水」と呼ぶようになったのかというと、アイコック艦長は非違(違法行為)を犯した乗組員たちに対する懲罰として、米海軍で伝統的に用いられてきた「パンと水」を多用したからである。この懲罰は、軍法会議などの正式手続きを必要とせずに艦長が乗組員に科すことができる懲罰(NJP)の1つである。非違を犯した乗組員を艦内の営倉に3日間監禁し、その間の食事は毎日3食ともパンと水だけしか与えない、というものだ。「パンと水」は商船を含めて船舶艦艇では広く知られている懲罰だが、少なくとも今日の米海軍艦艇ではそう頻繁に実施されているわけではない。
ところが情報公開法に基づいたNavy
Timesによる調査によると、アイコック大佐がシャイロー艦長に着任してからの2年半は「パンと水」が多用されたという(アイコック大佐は2017年8月30日にシャイロー艦長から海軍大学の研究職に転出した)。
ちなみに、懲罰が異常に厳しいシャイローは、第7艦隊艦艇で最も悪名高い軍艦として「横須賀の船乗りだけでなく、タクシードライバーの間でも有名だった」という。
米海軍での士気の低下は事実
もともとシャイローの士気が低下していたからアイコック艦長が厳しい態度で引き締めを計ったのか、その逆に“現代版ブライ艦長”の出現により艦内の士気が低下したのかは調査を待たねば分からない。しかしながら、シャイロー乗組員の士気が大きく低下してしまっていたのは事実である。
そして、太平洋艦隊で立て続けに重大事故まで起きている状況からは、シャイローだけが士気を喪失した特異な軍艦であったとは考えにくい。
実際に、このような状況が表沙汰になり、強い危機感を感じた米海軍当局は、作戦従事中の米艦艇内での作業時間の短縮や睡眠時間の延長などの対策に乗り出す方針を打ち出した。
かつて日本では、中国海軍が新型艦艇を次から次へと生み出すことに対して、「いくら軍艦を作っても、練度も士気も低い中国海軍など恐れるに足りない」といった論調がはびこっていた。しかし、中国海軍ではなく、日本が頼みの綱としているアメリカ第7艦隊が士気の低下に苦悩している状況なのだ。このように、日本はより一層自前の防衛力を強化していかねばない状況に直面しているのである。
《維新嵐》軍隊における士気の低下は、部隊の戦闘力を一定レベル保つ上でとても重要な要素であろうと思います。会社であれば、社員の働くモチベーション維持にもつながるかと思うのですが、低下すれば確実に部隊の統率と戦闘力の維持にはねかってきます。
命令や軍規に違反したからといって、食事で罰を与えるとしたら、いわば子供がいたずらをしたからごはんを抜きにするというのと同じでしょう。一見もっともらしい指導にもみえますが、その実教育的効果は期待できず、今やどこの教育現場でも「食事を罰として抜く、減らす」懲罰指導は実践されていません。昔ながらのさびついた指導論?にこだわりすぎた時代遅れの人間が固執する悪しき懲罰方法だといえるでしょう。
公務員である軍人に一番効果のある懲罰かと思えるのは、一に「減給」、二に「左遷」つまり異動でしょう。公務員は国民のための奉仕者ですから、国民の血税で食わせてもらっているのだ、という意識を徹底してやればいいのです。今回の米海軍の指揮の低下は、部下が悪いこんちくしょう、というより、指揮官の統率、懲罰の与え方、規律の適用に問題があるという側面もあるのではないでしょうか?
自主性を育むスポーツのチーム作り
人材育成論は、時代の流れや指導の対象となる人材のあり方により変化するものです。この変化に対応できない指導者は、指導される側の人材のためにも猛省し、新しい育成手法を身に着けることが、その指導対象や所属する組織に迷惑をかけないことにつながるでしょう。
米軍が北朝鮮を攻撃したらどうなるか
反撃の矢面に立つ日韓、軍事的な「守れる」の意味は?
安倍晋三首相は、北朝鮮問題への対応について「すべての選択肢がテーブルの上にあるという米国の姿勢を一貫して支持する」と繰り返す。「すべての選択肢」には軍事力行使が入る。ただ合理的に考えれば米国、北朝鮮とも先制攻撃には踏み切れない。北朝鮮の反撃で日韓が被る被害の大きさは米国の行動を縛るし、北朝鮮にとっても全面衝突は体制崩壊に直結しかねないからだ。
安倍晋三首相は、北朝鮮問題への対応について「すべての選択肢がテーブルの上にあるという米国の姿勢を一貫して支持する」と繰り返す。「すべての選択肢」には軍事力行使が入る。ただ合理的に考えれば米国、北朝鮮とも先制攻撃には踏み切れない。北朝鮮の反撃で日韓が被る被害の大きさは米国の行動を縛るし、北朝鮮にとっても全面衝突は体制崩壊に直結しかねないからだ。
とはいえ、全面的な石油禁輸という制裁に直面した戦前の日本が無謀な対米開戦に踏み切ったり、欧州各国の誤算によって第1次世界大戦に発展したり、という例もある。日本の取るべき姿勢を考える一助とするために、これまで主に米国で行われてきた武力行使に関するシミュレーション結果などをまとめてみた。
なお、シミュレーションでは大きく取り上げられていないものの、実際には韓国に在留する外国人の数も考慮すべき点となる。経済成長とグローバル化の進展に伴って、冷戦終結後に急増してきたからだ。第1次核危機で戦争になることが懸念された1994年には9万6000人しかいなかった定住外国人が、現在では100万人を大きく上回るほどになった。武力衝突の影響を受けると予想される首都圏在住者が半数を超える。韓国統計庁によると、昨年の国別内訳は日本5万人、米国14万人、中国102万人(うち中国籍の朝鮮族63万人)である。
東京とソウルで死者210万人は「頭の体操」
米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮分析サイト「38ノース」が10月4日に公表した予測は衝撃的だった。北朝鮮が核ミサイルで反撃したら「東京とソウルで計210万人が死亡」というものだ。これは、(1)北朝鮮の保有する核兵器は25キロトン級の25発、(2)米軍の攻撃を受けた北朝鮮が25発すべてを東京とソウルに向けて発射、(3)発射されたミサイルのうち80%がMDによる破壊(迎撃)を免れて標的の都市上空で爆発——という3段階の仮定を重ねたものだ。
核兵器については15kt~250ktの7通り、MDによる迎撃に失敗して爆発に至る確率は20%、50%、80%の3通りとして、計21パターンを試算している。その中から代表的なものとして紹介されたのが、上記の「210万人死亡」だ。とはいえ、もっとも被害が少ない想定である「15キロトン、迎撃失敗の確率20%」という試算でも死者数はソウル22万人、東京20万人である。
日韓両国を狙うミサイルには既に、核弾頭を搭載できる可能性が高い。「頭の体操」とはいえ、現実味がないと切り捨てるのは難しいだろう。
先制攻撃を真剣に準備した米軍
米軍による北朝鮮攻撃が議論されるのは今回が2回目だ。前回は第1次核危機と呼ばれた1994年春だった。この時は、板門店での南北協議で北朝鮮代表が「戦争になればソウルは火の海になる」と発言して大騒ぎになった。
米軍による同年5月の試算では、朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者が5万2000人、韓国軍の死傷者が49万人とされた。クリントン米大統領はこの報告を聞いて、武力行使ではなく外交努力を続けることを指示したが、その後も状況は好転しなかったため6月には再び武力行使の可能性が高まった。結局、個人の資格で訪朝したカーター元大統領が金日成主席(故人)から譲歩を引き出したことで武力行使は回避された。国防総省の6月の見積もりでは、韓国における民間人の死者は米国人8〜10万人を含む100万人だった。
韓国の金泳三大統領(故人)は、クリントン大統領との電話で武力行使に反対したと回顧録に記している。金泳三氏は「60万人の韓国軍は一人たりとも動かさない。朝鮮半島を戦場にすることは絶対にだめだ。戦争になったら、南北で無数の軍人と民間人が死に、経済は完全に破綻して外資もみんな逃げてしまう。あなたたちにとっては飛行機で空爆すれば終わりかもしれないが、北朝鮮は即座に軍事境界線から韓国の主要都市を一斉に砲撃してくるだろう」と訴えたという。
もっとも当時は「核危機」とはいっても核開発を疑われるというレベルの話であり、ミサイルにしても日本を射程内に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」の開発を急いでいるという段階だった。
ソウルは「火の海」になるか
北朝鮮軍の砲撃に着目した分析には、米ノーチラス研究所が2012年に発表した報告書「Mind
the Gap Between Rhetoric and Reality」がある。米陸軍の退役軍人である専門家による分析で、「北朝鮮はソウルを火の海にはできない」と結論づけた。ただし、それは「ソウルに被害が出ない」という意味ではない。何万人かの犠牲は出るが、それは「火の海というほどではない」という内容だ。
英語で「collateral damage(付随する損害)」と呼ばれる民間人の巻き添え被害は、どんな軍事作戦でも避けがたい。そうした軍事的な常識が背景にある。一般的な日本人が持つであろう「被害」という言葉との認識ギャップには注意すべきだ。
試算は、ソウルに被害を与える北朝鮮の装備として240ミリ多連装ロケット砲(射程35km)と170ミリ自走砲(同60km)を挙げる。そして、(1)240ミリ多連装ロケット砲の射程に入るのはソウル市の北部3分の1程度、(2)すべての装備を一斉に稼働できるわけではない、(3)ソウルには2000万人分の退避場所(地下鉄駅や地下駐車場などが指定されている)があるので、最初の一撃を受けた後には多くの人が退避施設に入って難を逃れる、(4)北朝鮮軍の砲弾の不発率は25%程度に達する、(5)米韓両軍の反撃によって北朝鮮の野砲は1時間に1%という「歴史的」なペースで破壊される——などと想定した。
それによると、北朝鮮がソウルを標的に攻撃をしかけてきた場合、最初の一撃で3万人弱、24時間で約6万5000人が死亡する。北朝鮮の装備は数日で沈黙させられることになるため、1週間後でも死者数は8万人と見積もられた。この程度では「火の海」とは呼べないということだ。
ただし、韓国は240ミリ多連装ロケット砲の射程をソウル全域に到達可能な60kmと考えている。しかも韓国の16年版国防白書によると、北朝鮮は射程200kmに達する新型300ミリ多連装ロケット砲の配備を始めている。この試算が行われた時には存在しなかった兵器である。
イラク戦争の5倍の爆撃が必要に
米国の雑誌「アトランティック・マンスリー」が、米国防総省やCIA、国務省の元高官といった専門家に依頼して2005年に行ったシミュレーション「North
Korea: The War Game」もある。専門家による討議の結果をまとめたもので具体的な数字の根拠が示されているわけではないが、参考にはなるだろう。この時点で最も問題視されていたのは、北朝鮮からテロリストへの核兵器や核物質の「移転」だった。
激しい議論となったのが、ソウルの被る被害だ。国防総省傘下の国防大学で軍事模擬演習を専門としてきたサム・ガーディナー大佐は、「ソウルを保護するためには最初の数日が非常に重要だ」と説明した。ソウルを守るためには、北朝鮮の化学兵器、ミサイル関連施設、核兵器関連施設を北朝鮮側が使おうとする前に攻撃しなければならない。そのため初日には、イラク戦争の5倍となる4000回の爆撃出撃(1機が出撃に出て戻るのを「1回」と数える)が必要になるという。
これには元国務省幹部が「少なくとも最初の24時間、おそらく48時間はソウルを守ることはできない」と反論。割って入った退役空軍中将が「ソウルを『守る』ことと、ソウルが被る被害を『抑える』ことは違う。多くの人が死ぬが、それでも勝利する」と指摘し、ソウルでの死者を「10万人か、それより少ない」人数に抑えられるという見通しを示した。
1日4000回の爆撃出撃を行うと仮定し、ソウル攻撃の主力となる北朝鮮軍の長射程砲が最前線地帯に集中しているという事実や米軍の爆撃力を勘案すれば、ソウルでの人的被害を減じられるという主張だ。同誌は「ソウルは保護されると保証できないというのがコンセンサスとなった」とまとめるとともに、初期の韓国側死者を10万人に抑えられるという意見も出たと記した。
これは、北朝鮮による最初の核実験の前年に行われたシミュレーションだ。通常兵器に関しても、この約10年後に配備が始まった300ミリ多連装ロケット砲は射程が200kmあるので、必ずしも最前線に集中配備する必要はない。米軍側には不利な要素である。
「アメリカ・ファースト」への疑念
最後に英国の王立防衛安全保障研究所が今年9月末に発表した報告書「Preparing
for War in Korea」だ。「戦争が現実に起きる可能性がある」と懸念する報告書は、戦争が起きた場合には甚大な人的被害が出るとともに、世界経済にも大きな影響を及ぼすという見通しを示した。
韓国はいまや世界11位の経済だ。韓国メーカーの半導体や液晶は世界中に供給されており、サムスン電子の有機EL液晶がなければiPhone Xの生産もままならない。韓国の産業が被害を受ければ、サプライチェーンに与える影響は計り知れないのである。
北東アジアの安全保障環境に与える影響も大きい。ソウルで予想される被害の大きさを考えれば当然だろうが、韓国の文在寅政権は先制攻撃には明確に反対している(保守派政権だったとしても賛成はできないだろう)。この点について報告書は「韓国の同意を取り付けないまま米国が先制攻撃に踏み切るなら、『ソウルを犠牲にしてニューヨークを守る』という意思の表明だと受け取られる。それは戦後処理の過程で、(在韓米軍撤退を求める)中国の圧力とあいまって、在韓米軍が撤退せざるをえない状況を生む可能性を高める」という見解を示した。
報告書は同時に「地域の同盟諸国への破壊的な攻撃をもたらしうるとしても、予見しうる将来の脅威から米国を防衛するため北朝鮮を攻撃するという決定はアメリカ・ファーストの最も顕著なデモンストレーションになるだろう」と述べた。
この文章での同盟国は、単数ではなく複数である。そして、北東アジアにおける米国の同盟国は日本と韓国しかない。米国の先制攻撃によって日本に被害が及んだ場合には、日米同盟も大きな試練にさらされることになるはずだ。
容認しうる武力攻撃シナリオはあるか
トランプ米政権の対応は、どうしても不透明さをぬぐえない。
ティラーソン国務長官やマティス国防長官は外交努力を尽くそうとする姿勢を明確にしている。頭ごなしに圧力をかけるだけで北朝鮮が屈服することなどないと分かっているから、金正恩体制を転覆する意図はないと誘い水を送っているのだ。トランプ大統領の乱暴なツイッターで台無しにされている感はあるが、米国の政策基調は「最大限の圧迫と関与(対話)」である。少なくとも現時点で武力行使に踏み切る兆候は見えない。
ただし、いざとなったら米国は攻撃に踏み切るのではないかと懸念する安全保障の専門家は少なくない。トランプ政権だからというのではない。米本土を核攻撃できる能力を北朝鮮のような国が持つことを米国は決して許さないだろう、という考え方だ。
そうした人々からは、こんな想定を聞くことがある。たとえば、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射は決して許さないと明確にした上で、北朝鮮が発射準備をしたらミサイルだけを破壊する。同時に、「金正恩体制を問題にしているわけではない。ICBM開発をやめるなら交渉できる。報復攻撃をしてくるなら体制そのものを壊滅させる」と北朝鮮に伝える。そうすれば事態はエスカレートせず、うまく物事が進むと米国は考えるかもしれない。
北朝鮮にとって最優先の課題は「国体護持」と呼べる金正恩体制の生き残りだ。米国と本格的な戦争をして勝ち目がないことは北朝鮮だって認識しているから、国体護持を約束しておけば反撃してこないはずだ。そうした想定に立つ考え方である。一般的なイメージとは違うかもしれないが、金正恩体制も彼らなりの論理に基づいた合理的な選択をしてきている。その判断力を「信頼」しての想定であり、その通りに事態が動く可能性を期待することはできるだろう。それでも、北朝鮮が想定通りに反応する保証はない。
歴史上、圧力をかけられただけで屈服した国などないといわれる。北朝鮮に対する圧力を強めることは必要だが、それは交渉の場に引き出すための手段である。武力衝突が起きた場合、確実に犠牲になるのは韓国の人々であり、日本に住む我々も犠牲を強いられる可能性がかなり高い。戦後処理の過程で北東アジアの国際秩序が大きく、しかも日本にとって望ましくない方向に揺れる恐れも強い。そんな事態を招かないためには、わずかな可能性でも追及する外交努力を尽くすしかないのである。
「米朝海戦~日本は何をなすべきか?」
《維新嵐》アメリカは北朝鮮を攻撃するのか?
経済的価値のあるエリアであり、そこを稼げるように戦略をめぐらす国があるにも関わらず、すべてを破壊しつくすような戦争を実行する国はありません。アメリカのトランプ政権は、北朝鮮を非難しながら、むこうの外交的な譲歩を期待しているようにみえます。
外交的な最大抑止力は、強力な軍事力や核兵器などではなく、外交的政治的な戦略であり、その教科書的な外交的プレゼンスが価値観を同じくする「軍事同盟」かとは思うのですが、以下のような興味深い論文もあります。一体世界、北東アジアhどうなっていくんでしょうか?
北朝鮮問題で「日米韓の同盟関係強化」は現実味なし
2017年10月2日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10671
米国のシンクタンクAEIのマイケル・マッザ研究員が、北朝鮮の核とミサイルの脅威に対しては、日米韓の三カ国は結束を謳うだけでは足らず、同盟関係の強化を図るべしとする論説を、2017年8月30日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿しています。要旨は次の通りです。
北朝鮮が日本の上空を通過する中距離弾道ミサイルの発射実験を行った。北朝鮮が核弾頭とミサイルを合体させ、核弾頭を日米韓のいずれにも確実に到達させることが出来るようになるのは時間の問題だと見られる。この事態はこの地域の安全保障構造を覆す。
金一族が核兵器能力を追求する目的の一つは米国の韓国および日本との同盟関係を不安定化させ、究極的には切り離すことにある。その目標は中国の利益ともたまたま合致する。
北朝鮮が米国本土を攻撃し得るようになると、韓国と日本の防衛に対する米国のコミットメントについて両国で懸念を生むであろう。つまり、北朝鮮は両国の指導者が米国はロサンゼルスを犠牲にして釜山と大阪を守る用意があるか訝ることを余儀なくしつつある。
更に、北朝鮮が日本をその核兵器の標的とし得ることは、米国が日本にある基地を使って朝鮮半島の事態に介入することに日本が抵抗することになり得る。つまり、同盟国の信頼性に対する懐疑の念は双方向であり得るわけである。
声明や力の誇示のようなコミットメントの保証は有用ではあるが、限界がある。敵がその関係をほつれさせようとするのだから、三カ国はその関係を深化すべきである。このために、米国は三カ国の外務・防衛の閣僚会議をなるべく早く招集すべきである。議論の焦点は、短期的には危機の場合の役割と責任の分担を定めること、中期的には北朝鮮の脅威に対する防衛計画を調整すること、そして甚だしく論議を呼ぶであろうが北朝鮮を対象とする集団防衛条約に向けて前進すること、に置かれるべきである。究極的には北朝鮮の一国に対する攻撃は三カ国全てに対する攻撃と見做されるべきである。
韓国人の多くはかつて植民地支配を受けた日本との同盟に尻込みするであろう。他方、日本では憲法問題を惹起するであろう。しかし、安倍総理と朴槿恵前大統領は歴史問題を超えて協力することが出来ることを示した。また、日本は集団的自衛権の行使を容認することとしたので、いずれは相互的な安全保障上の義務を受け入れることになるかも知れない。結局のところ、朝鮮半島における事態は日本の安全保障に直接影響すると常に理解されて来たのである。
以上のような同盟強化の努力は金正恩に彼の核兵器の価値を考え直させるかも知れない。より重要なことは、中国に対する圧力になることである。中国は北朝鮮問題の最終的な解決のために三カ国と協力することを選ぶことが出来る。あるいは、中国が嫌って来たことであるが、米国のハブ・アンド・スポーク型の同盟関係が集団防衛型に発展することを我慢することも出来るが、中国は北朝鮮の脅威だけに絞った同盟の範囲がいつの日か広がるかも知れないことを承知である。
もし、三カ国が地域の安全保障環境を有利になるように根本的に変えたいのであれば、果敢な行動が必要である。
出典:Michael Mazza,‘Bolstering Alliances
Against North Korea’(Wall Street Journal, August 30,
2017)
https://www.wsj.com/articles/bolstering-alliances-against-north-korea-1504109458
https://www.wsj.com/articles/bolstering-alliances-against-north-korea-1504109458
この論説は、日米韓三カ国が北朝鮮の核の脅威に晒される事態において、三カ国の安全保障上の利害関係が必ずしも同一ではないかもしれない可能性を指摘して、その結束を深化させるため、三カ国が究極的には集団防衛条約を目指すべきことを主張しています。しかし、これは現実性のない夢想に過ぎません。遠い将来のことだとしても、韓国と日本が同盟関係になり得るという夢を弄ぶ時でもありません。日米の二国間の安全保障体制を三国間の同盟に作り替えることで、三カ国の安全保障上の利益を常に同一にし得るわけではないからです。最も重要なのは、北朝鮮に対する最大の抑止力である米国の軍事力の維持ですが、そのことは三国間の同盟に作り替えることと関係がありません。
論説は、米国が北朝鮮の核弾頭搭載のICBM(大陸間弾道ミサイル)に攻撃され得る状況になると韓国ないし日本の安全保障と米国の安全保障が切り離されるというディカプリング(decoupling)の問題が生じ得ると指摘します。例えば、朝鮮半島の武力統一を目指す北朝鮮の侵攻が行われた場合、北朝鮮の核攻撃による報復の危険に晒されてはいても、米国は(要すれば核をもって)韓国を防衛する用意があるかという問題です。これは厄介な問題ですが、目下の最良の保険は、韓国に米軍が駐留することです。駐留米軍が導火線となり、危機の当初から米軍も当事者として関与せざるを得ない立場に立つこととなります。韓国海軍艦艇の撃沈、韓国が支配する島への砲撃、非武装地帯における挑発など、低レベルの挑発の場合に、韓国と米国との間で対応を巡って齟齬が生じる可能性を論ずる向きもありますが、過度の心配はむしろ有害だと思われます。
論説は、もう一つの問題として、北朝鮮が日本をその核兵器の標的とし得ることは、米国が日本にある基地を使って朝鮮半島の事態に介入することに日本が抵抗することになり得る、と指摘します。これは何とも嫌な指摘です。しかし、日米安保条約上、米国が日本にある基地を使って戦闘作戦行動を行うには事前協議を行い、日本政府の同意を得る必要がありますが、この問題には既に回答が出ています。すなわち、1969年11月、沖縄返還を達成した日米首脳会談の際、当時の佐藤栄作総理は、ワシントンのナショナル・プレス・クラブでの演説で次の通り述べています:「韓国に対する武力攻撃が発生するようなことがあれば、これは、わが国の安全に重大な影響を及ぼすものであります。従って、万一韓国に対して武力攻撃が発生し、これに対処するために米軍が日本国内の施設・区域を戦闘作戦行動の発信基地として使用しなければならないような事態が生じた場合には、日本政府としては、このような認識に立って、事前協議に対し前向きにかつすみやかに態度を決定する方針であります」。今後とも、この方針に従って対処するということになるはずです。
フォールイーグル2017
世界最大級の米韓合同軍事演習
0 件のコメント:
コメントを投稿