2018年12月10日月曜日

我が国のイージスアショア購入で戦略的にも嬉しいアメリカ 米中サイバー戦争激化!!


日本のイージス・アショア購入で米軍が大喜びの理由

中国に対して劣勢の米海軍、目の前に救いの神が登場

北村淳
ルーマニアに配備されたイージス・アショア(資料写真、出所:米海軍)
 中国海洋戦力が南シナ海、そして東シナ海で軍事的優勢を手にしつつある。アメリカとしては、東アジアでの軍事的優勢を維持するために、それらの中国海洋戦力を抑制できるような態勢を確保しなければならない状況に直面している。

地の利は中国にあり
 アメリカと中国が軍事衝突する場合、戦域は南シナ海あるいは東シナ海、そして場合によっては西太平洋ということになる。つまり、中国軍にとっては、西太平洋を南シナ海や東シナ海に接近してくるアメリカ軍を、自国領土に近接している海域やその上空で待ち受ける形となる。逆にアメリカ軍は、日本を本拠地にしている第7艦隊や空軍(三沢基地、嘉手納基地、横田基地)ならびに海兵隊(岩国基地)の航空部隊以外は、グアム、ハワイ、そして米本土から太平洋を越えて南シナ海や東シナ海に兵力を投入しなければならない。したがって、「過酷な距離」と称される不利な軍事的条件を課せられているアメリカ軍に対して、中国軍が地の利を手にしていることは明白である。中国がハワイやアラスカやアメリカ西海岸に侵攻する場合には、そのような立場は逆転するが、中国側にはアメリカ領域に侵攻する理由は全く見当たらない。しかし、これまで長きにわたって東アジアでの軍事的優勢を手にしてきたアメリカ側には、その既得権益を確保しておくためには中国との軍事的対決も辞さないという強い動機が存在する。
もちろん、米中全面戦争は避けたいというのも、米側の真意である。そのため、あくまで中国との軍事的対決に至っても局地的な限定的衝突にとどめようとすることは確実だ。したがって米中軍事対決の戦域は、(場合によっては西太平洋を含むかもしれないが)ほぼ間違いなく南シナ海と東シナ海が中心となるであろう。
南シナ海を航行する米海軍誘導ミサイル駆逐艦ディケーター(20161021日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / US NAVY/Petty Officer 2nd Class Diana QuinlanAFPBB News
極めて強力な攻撃能力が必要な米軍
 南シナ海や東シナ海で米中による軍事的な睨み合いが勃発した場合、それらの海域に出動可能な艦艇数は中国海軍側がアメリカ海軍側を圧倒している。かつては中国海軍の艦艇は、数量は多くても「戦力的にはアメリカ海軍や海上自衛隊に対抗することなど考えるだけ無駄」といった状態であったが、現在の中国海軍の戦力は、部分的には海上自衛隊や米海軍を凌駕する艦艇をも手にするに至っている。
 アメリカ海軍が中国近海で中国側を軍事的に抑制しようとする際は、中国海軍の艦艇だけが障害となるわけではない。中国本土の多数の航空基地から発進する航空機、同じく中国本土のあらゆる場所から発射される様々な対艦ミサイルや対空ミサイル、それに中国沿海域の海上、海中、空中といった、中国軍側にとっては安全な領域に展開する艦艇や航空機から発射される各種ミサイルなども、アメリカ海軍や米軍航空部隊にとって厄介な障害となって立ちはだかるのだ。したがって、アメリカ軍が、このように質・量ともに強化が急速に進んでいる中国軍の接近阻止戦力と対峙するためには、日本を中心に極東方面海域に展開するアメリカ海軍に、極めて強力な防空能力、対艦攻撃能力、対地攻撃能力を備えさせなければならないというわけだ。
弾道ミサイル防衛任務が重荷に
 しかしながら、日本周辺海域に展開するアメリカ海軍艦艇は、弾道ミサイル防衛(BMDBallistic Missile Defense)を重視する態勢を固めてきていた。
すなわち、北朝鮮や中国から在日米軍基地、グアムやハワイの米軍施設などに向けて発射される弾道ミサイルに備えて、横須賀を本拠地とする第7艦隊に所属するイージス巡洋艦やイージス駆逐艦は、弾道ミサイル防衛に対応する艦を中心に配備を進めてきた。
 現在、日本周辺海域に展開するアメリカ海軍艦艇にとっては、弾道ミサイル防衛任務が、最重要任務の1つと位置づけられている状態である。だが、中国海軍と対峙する最前線に配備している主力戦闘艦艇が、敵艦艇や敵航空機や敵地に対する攻撃能力を十分に身につけていない現状では、中国の接近阻止戦力との対決には心許ないと言わざるを得ない。もちろん、現在トランプ政権が主導して米海軍が取りかかっている「355隻艦隊」が完成した暁には、東アジア方面海域に展開させる米海軍戦力を大きく増強させることができ、弾道ミサイル対策に当たる艦艇に加えて、中国の接近阻止戦力を打ち破るための戦力を展開させることも可能になるかもしれない。しかし、そのような大艦隊が誕生するのはどんなに早くとも2035年以降になるというのが、アメリカの造艦能力の現状である。したがって、第7艦隊の艦艇を弾道ミサイル防衛任務から自由にして、それらの艦艇に「中国の接近阻止戦力に対抗するための強力な攻撃力と新たな任務」を付与するというのが、当面の間、アメリカ海軍にとって唯一可能な手段なのである。
米海軍が警戒を強める中国海軍の新鋭55型駆逐艦(出所:人民図片)
イージス・アショアは誰のためか
 しかしながら、これまで日本周辺海域でアメリカ海軍艦艇が担ってきた弾道ミサイル防衛態勢を廃止してしまうことは、在日米軍基地はともかく(在日米軍基地は、最悪の場合は引き払ってしまえば良い)グアムやハワイの防衛態勢上危険極まりない。
アメリカ軍がこのようなジレンマに直面していたところ、日本から思ってもみない救いの手が差し伸べられた。北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に慌てふためいた日本政府が、アメリカ側の売り込みにいとも簡単に応じて、地上配備型弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」を2セット購入することを決定したのである。イージス・アショアを東北地方と中国地方に配備すれば、理論的には北朝鮮(それに満州方面)から日本全域に向けて発射される弾道ミサイルを迎撃することが可能になる。そして、それは同時に、北朝鮮と中国からグアムとハワイを目標に発射される弾道ミサイルをも迎撃することになるのである。  したがって、これまで日本周辺で弾道ミサイル警戒任務に当たっていた米海軍イージス巡洋艦やイージス駆逐艦の任務を解除して、中国の接近阻止戦力との対決へと変更しても、日本列島で睨みを効かせる2セットのイージス・アショアが十二分に第7艦隊イージス艦の肩代わりをしてくれるのである。
アメリカ側の次のステップは、日本に設置されるイージス・アショアの迎撃能力を高めるために、すなわちグアムとハワイへの弾道ミサイル迎撃可能性を高めるために、それらのイージス・アショアの弾道ミサイル迎撃用ミサイル装填数を極大化(イージス・アショアを構成するミサイル発射装置そのものの数と発射装置の垂直発射管の数は増減可能)させるとともに、できるだけ多くの迎撃用ミサイルを日本政府に調達させることにある。
〈管理人〉イージスアショアについては、もっと国民的な議論があってもいいかと思います。これが税金の無駄遣いかどうか?弾道ミサイル防衛、抑止のための優れた装備、システムを構築できるならアメリカから買う必要もないのですが、アメリカの国防圏に我が国があるという点、より強い抑止力になる観点からみれば、アメリカ製が無難でしょう。
次に南シナ海をめぐる各国の動きは??
南シナ海問題をめぐる中国と関係諸国の攻防

岡崎研究所 
2018年12月4日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14637
2018年11月15日、シンガポールで第13回東アジア首脳会議(EAS:参加国は、ASEAN10か国、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インド、米国、ロシア)が開催された。同日発出された議長声明のうち、南シナ海関連の部分の骨子は次の通り。
・南シナ海における平和、安全保障、安定、安全並びに航行及び上空飛行の自由を維持・促進することの重要性を再確認するとともに、南シナ海を平和・安定及び繁栄の海とすることの利益を再確認。南シナ海行動宣言(DOC)全体の完全かつ実効的な履行の重要性を強調。ASEANと中国との間の改善している協力関係及び相互に合意されたタイムラインでの実効的な南シナ海における行動規範(COC)の早期妥結に向けた実質的な交渉の引き続きの進展に留意。ASEAN加盟国及び中国がCOC交渉のための一つのテキスト案に合意したことに留意。この関連で、COC交渉に資する環境を維持することの必要性を強調。ASEAN諸国と中国による南シナ海における海洋危機管理のための外交当局間ホットライン試行の成功及び2016年9月7日に採択された南シナ海における「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」(CUES)の適用に関する共同声明の運用開始のような、緊張を緩和し、事故、誤解、誤算のリスクを減少させ得る実際的な措置も歓迎。また、特に当事者間の信用及び信頼を強化する信頼醸成及び予防措置の実施の重要性を強調。
・COCが、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法と整合的であることの重要性を強調。
・南シナ海に関する事項について議論し、信用及び信頼を損ない、緊張を高め、この地域における平和、安全保障及び安定を損ない得るこの地域における埋立てや活動に対する懸念に留意。相互の信用及び信頼を高め、活動の実施に当たっては行動を自制し、状況を更に複雑化させ得る行動を回避し、UNCLOSを含む国際法に従って、紛争の平和的解決を追求することの必要性を再確認。非軍事化及びDOCにおいて言及された事項を含む、南シナ海における状況を更に複雑化し、緊張を高め得るクレイマント国(注:領有権主張国)やその他の国による全ての活動の自制の重要性を強調。 
出典:外務省ホームページ『第13回東アジア首脳会議(EAS)』平成30年11月15日
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14637?page=2
上記議長声明は、南シナ海におけるCOCの早期発効を促すとともに、緊張を高め、平和や安全保障を損ない得る埋め立て等に懸念を表明するなど、最近のASEAN関連のこの種の会議での声明を踏襲した内容となっている。中国が参加しているにもかかわらず、南シナ海における埋め立てその他の活動への懸念を表明できている点は評価できよう。
 COCについては、8月に草案が承認された(非公開)が、大きな問題が含まれている。中国が提案した、軍事活動通告のメカニズムである。域外国と合同軍事演習を実施する場合、関係国に事前通告しなければならず、反対があれば実施できない、という内容である。例えば、ASEAN加盟国が米国と合同演習をしようとしても、中国が反対すれば、実施できないことになる。中国に対して厳しい姿勢をとるベトナムなどは反発しているようである。他方、中国はASEANとの軍事演習の定例化を求めている。また、中国は、COCに法的拘束力を持たせないことを目指している。それでは「行動規範」の名に値するかどうか疑わしい。実効性のあるCOCの策定への道のりは極めて遠いと言わざるを得ない。上記議長声明は「UNCLOSを含む国際法に従って、紛争の平和的解決を追求する」としている。しかし、中国は2016年の南シナ海についての仲裁裁判所の判決を「紙屑」と称するなど国際法を無視し、南シナ海の軍事拠点化を進めている。これに対抗するには、「航行の自由作戦」などを、着実に実行していくことが肝要である。
 米国のペンス副大統領は11月16日、APECのCEOサミットでの演説で「米国は海と空の自由を支持し続ける。我々は、国際法が許す限り、我々の国益が必要とする限り、どこであれ飛行し航行し続ける。嫌がらせは、我々の決意を強固にするだけだ。我々は方針転換しない。我々は、ASEANが、航行の自由を含む全ての国の権利を尊重する、意味のある、そして、拘束力のある南シナ海のCOCを策定する努力を支持し続ける」と述べた。勇気づけられる、力強い発言である。米国以外にも、英、仏、豪が航行の自由作戦を実施している。今や、中国の南シナ海における行動は、国際社会において広範な懸念を集めている。日本としても、南シナ海で、「航行の自由作戦」を含め、何ができるのか、より強い対応を考えなければならない時期に来ているかもしれない。
〈管理人〉軍事力は威嚇にしか使わない。経済力を背景に非軍事の方法で中国大陸周辺の海洋権益を奪いに来る共産中国に対しては、当事国の強力な連携を必要とすることは論を待ちません。どんな強力な兵装備よりも、国際海洋法という法規に基づいて秩序を守らないとなりません。海上自衛隊も国際的な歩調をあわせて「航行自由作戦」に参加しても文句のいわれようがないでしょう。


【ITリテラシーが不可欠な時代】
リーダーがPCを使わないことがもたらす、想像以上に深刻な事態
2018/12/07 08:09 https://www.msn.com/ja-jp/news/money/リーダーがpcを使わないことがもたらす、想像以上に深刻な事態/ar-BBQBxdP?ocid=spartandhp#page=2

桜田義孝五輪担当相が「自分でPCを打つことがない」と発言したことが大きな話題となっている。世の中ではPCが操作できることの是非といった低次元の論争となっているが、背後にはもっと深刻な問題が横たわっており、PC操作は氷山の一角でしかない。その問題とは、世界中で進むビジネスや生活の標準化という流れに対して、日本だけが追随できていないことである。
●PCの普及が世界の様子を一変させた
 桜田氏は政府のサイバーセキュリティ戦略本部副本部長を兼務しているが、2018年1114日の衆議院内閣委員会で「自分でPCを打つことはない」と答弁したことから、セキュリティ戦略の責任者としての資質を問う声が上がった。
 一連の指摘に対して桜田氏は、判断するのが自分の仕事であり、「判断力は抜群だと思っている」と答弁したが、桜田氏は国会答弁で間違いを連発しているだけでなく、福島第一原発事故で発生した指定廃棄物について「原発事故で人の住めなくなった福島の東京電力の施設に置けばいい」と発言するなど、以前から不用意な言動で知られている。
 客観的事実を見る限り、判断力が抜群とは思えず、担当大臣としてふさわしいのかについては疑問の余地があるが、PC経験の有無だけが、リーダーとしての適性を決めるわけではないという点についてはその通りだろう。
 しかしながら、現実問題として社会において指導的な立場にある人がPCを使っていないというのは、判断力や決断力といったリーダーとしての適性にそのものに悪影響を及ぼす可能性があり、かなり深刻な問題と捉えた方がよい。そしてこの話は、PCの操作に限ったものではなく、社会のあらゆる部分で多くの日本人が直面する課題でもある。それは、ビジネスや生活の「標準化」というテーマに密接に関係しているのだ。
 1990年代にPCが急速に普及したことで、社会の仕組みは大きく変わった。
 それまでコンピュータは大量の計算や業務処理を行う「装置」であり、個人の生産性を向上させる目的で使われるものではなかった。だが、PC(パーソナル・コンピュータ)はその名称からも分かるように、個人の生産性を飛躍的に向上させる「道具」であり、PCの普及によって個人の知的活動とITは切り離せない関係になった。その結果、ビジネスや生活の多くがITをベースに設計・構築されるようになり、全世界的な標準化が一気に進んだのである。
グローバル化の本質は英語を話すことではない
 かつては主要国ではない国の大学を卒業した人物が、どの程度のスキルや知識を持っているのか、即座に判断する手段はなかった。しかし社会のIT化が一気に進み、全世界的なデータベースの構築が進められたことで、今ではどんな小国であっても、大学名と学部が分かれば、その人材をどの程度のポジションと給与で処遇すればよいのか、たちどころに把握できるようになっている。
 業務の手順もかつては国ごとにバラバラだったが、ITシステムの普及が進んだことで、言語こそ異なっていても、業務プロセスは似たようなものとなってきた。国籍が異なる人材であってもスムーズに採用し、即戦力として活用できるのは、こうした標準化が進んだからである。
 業務プロセスが標準化されれば、当然、消費者向けサービスも標準化が進む。海外に出る機会が多い人なら、実感として理解できると思うが、ここ10年の間に、エアラインやホテル、レストランといった各種サービスの標準化が驚異的なペースで進んでいる。
 かつては経済的に遅れている国のサービスはひどいというのが常識だったが、こうした格差はほとんどなくなったといってよい。国としての経済力の格差は依然として存在しているものの、多くの人が利用するサービスについては、国際標準がほぼ確立しており、どの国のサービスを利用してもそれほど大きな違いを感じなくても済むようになっている。
 バルセロナのホテルから台北の民宿、バンコクのコンドミニアムに至るまで、価格によってレベルが異なるだけで、基本的なサービス体系や予約のルール、Webサイトでの情報提供の方法などは、皆、同じようになっている。
 こうした標準化の背景となっているのは社会のIT化であり、その基礎となっているのがPCであることは言うまでもない。国籍や人種、宗教は違っていても、一定以上の収入やスキルを持つ人のライフスタイルや価値観は今後、さらに似通ってくるだろう。
 グローバル化というものの本質は、外国語を話すことではなく、標準化された仕事の方法や価値観、立ち居振る舞いを身に付けること意味している。
流れに追いついていない先進国は日本だけ
 実は、こうした流れに唯一、追いついていない先進国が日本であり、そこにはPCがあまり普及していないという現実が深く関係している。
 桜田氏はたまたま答弁が下手だっただけで、日本では特に珍しいことではない。先日は経団連会長の執務室に初めてPCが導入されたという驚くべきニュースが世間を騒がせたし(秘書がいるとしてもやはり驚くべきことである)、自民党の石破茂元幹事長は、PCのワープロソフトは操作ミスしてしまうので、「かつてのワープロ専用機をもう一度発売して欲しい」と主張している。著名キャスターの古舘伊知郎氏が、番組中で「パワーポイントが何なのか分からない」と発言し、視聴者を驚かせたこともあった。
 子どもの教育環境も同様である。先進諸外国では中高生は、ほぼ全員、スマホに加えてPCも保有しており、授業や宿題もPC使用が前提となるケースが多い。だが、日本の中高生におけるPCの保有率は諸外国と比較して突出して低いことはよく知られた事実であり、カリキュラムもPCやタブレットを前提としたものにはなっていない。
 PCの普及率を正確に調査したデータはないが、PCの使用可能年数や販売台数などから筆者が独自に算定したところ、日本は欧米各国の半分から3分の2程度しか普及していない。ちなみに日本の労働生産性は、欧米各国の半分から3分の2程度にとどまっており、単なる偶然かもしれないが、両者の数字は一致している。
 この問題が深刻なのは、PCができないことは、単なるPC操作の問題にとどまらず、思考プロセスや行動様式に関係してくる点である。PCができる、できないといった話に矮小(わいしょう)化せず、社会全般の問題として捉えていくことが重要である。そうしなければ、冗談抜きで、日本は本当にガラパゴスな社会に転落しかねない。(加谷珪一)

〈管理人〉やばいですよ!日本。国際的な潮流にのることも前提条件でしょう。
世界はサイバー戦争の時代です。

ファーウェイとZTEが米国市場から排除される理由

中国の電気通信企業が国家の手先となりあの手この手のサイバー攻撃

横山恭三
中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)のロゴ(201878日撮影)。(c)WANG ZHAO / AFPAFPBB News

 米政府は、2018513日に成立した2019会計年度国防授権法(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019)により、全政府機関に対して、中国共産党の情報機関と関係しているファーウェイ(華為技術)およびZTE(中興通訊)が製造した通信機器の使用を禁止した。米国に続いて、豪、印およびニュージーランドの各政府は、それぞれ5月、9月および11月に、自国の高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムへのファーウェイの参入を正式に禁止した。
※ファーウェイの創業者の長女、孟晩舟(マン・ワンジョウ)最高財務責任者(CFO)カナダ・バンクーバーで逮捕された。
 また、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、1122日に米政府が日本やドイツ、イタリアなどの同盟国に対し、ファーウェイの製品を使わないように求める説得工作を始めたと報じた。
 以上のように、各国で、中国の2大電気通信企業であるファーウェイとZTEを電気通信インフラ市場から排除する動きが広まっている。その背景には、中国の電気通信企業がもたらす安全保障上の脅威がある。その脅威とはサイバー攻撃であり、なかんずくICT(情報通信技術)サプライチェーン攻撃である。重要インフラに対するICTサプライチェーン攻撃は、その重要インフラが提供するサービスを中断・停止させ、社会に大混乱をもたらす。以下、初めに米下院・情報常設特別委員会がかつて作成・公表した調査報告書について、次に、ICTサプライチェーン攻撃ついて解説する。
1.米下院・情報常設特別委員会の調査報告書
 今回、注目を集めている事象の起源は、米下院・情報常設特別委員会が201210月に公表した「中国の通信機器会社であるファーウェイとZTEによりもたらされる米国の国家安全保障問題に関する調査報告書*1」にある。若干長くなるが本調査報告書の経緯について述べる。
 20101月、米下院・情報常設特別委員会のマイケル・ロジャーズ委員長は、「ファーウェイやZTEを含む中国企業により米国のセキュリティと通信インフラが脅威にさらされている」として予備調査を命じた。
米国の情報機関や民間企業との一連の会合、聴取、調査を行った結果、この脅威が、米国にとって最優先となる国家安全保障上の懸念につながると判断し、201111月に本格的調査を開始した。委員会の調査は、米国の電子通信インフラ市場に機器を売り込もうとしている中国の電気通信装置メーカーの上位2社であるファーウェイとZTEに集中した。両会社の現または元従業員に対する何時間ものインタビュー、大規模かつ度重なる文書要請、公開情報の調査などが行われ、約1年に及ぶ調査の結果を受けて、本報告書が作成・公表された。本報告書は、両社がもたらす安全保障上の脅威について次のように述べている。
「中国には、悪意のある目的のために、電気通信会社を通じて、米国で販売される中国製の電気通信の構成品およびシステムに、悪意のあるハードウエアまたはソフトウエアを埋め込む可能性がある」
「電気通信の構成要素とシステムを改竄する機会は、製品の開発・製造の期間を通して存在する」
「そして、ファーウェイやZTEのような垂直的に統合された巨大産業は、中国の情報機関に、悪意のあるハードウエアまたはソフトウエアを、重要な電気通信の構成品およびシステムに埋め込む多くの機会を提供することができる」
「中国は、このために、ファーウェイまたはZTEのような会社の指導部に対して、協力を求めるかもしれない」
 「たとえ会社の指導部がそのような要請を拒否したとしても、中国の情報機関は、これらの会社の中の現場レベルの技術者または管理者を雇いさえすれば十分である」
 「さらに、中国の法律の下では、ZTEとファーウェイは、中国政府によるどんな要請にでも、例えば、国家のセキュリティという名目の下に、悪意のある目的のために彼らのシステムを使用またはアクセスするという要請にも協力する義務がある」
 「悪意のあるハードウエアまたはソフトウエアを米国の顧客向けの中国製の電気通信の構成品とシステムに埋め込むことによって、北京は、危機または戦争の時に、重要な国家安全保障上のシステムを停止または機能低下することができる」
 「送電網または金融ネットワークなどの重要インフラに埋め込まれた悪意のあるウイルスは、中国の軍事力の中でも驚異的な兵器となるであろう」
 「中国製の悪意のあるハードウエアまたはソフトウエアは、センシティブな米国の国家安全保障システムに侵入するための強力なスパイ活動の道具でもある」
 「同時に、センシティブな企業秘密、先進の研究開発データおよび中国との交渉もしくは訴訟に関する情報が蔵置されている外部と接続されていない米国企業のネットワークへのアクセスを提供する」
上記の調査結果に基づき、本報告書は次のような提言を行っている(機器の排除に関する部分のみを抜粋)。
米国政府のシステム、特にセンシティブなシステムには、ファーウェイまたはZTEの機器(部品を含む)を使用してはいけない。
 同様に、政府契約者、特にセンシティブな米国プログラムの契約に関係する契約者は、彼らのシステムからZTEまたはファーウェイの機器を排除しなければならない。
米国のネットワーク・プロバイダとシステム開発者には、彼らのプロジェクトのために、ZTEやファーウェイ以外のベンダーを探すことが強く求められている。
以上の報告書に基づき、2012年から実質的に米国政府のシステムからファーウェイとZTEの機器は排除されているようである。
 上記の報告書のいう「電気通信企業がもたらす安全保障上の脅威」とは、危機の際に、重要ネットワークと通信へのアクセスを獲得するまたは重要なシステムを制御する、もしくは機能低下させる能力を得るためにICTサプライチェーンを危殆化しようとする国家の企ての可能性であると言える。
2ICTサプライチェーン攻撃
 本項では、実例、定義および攻撃の態様を紹介する。
1)実例
 初めにサプライチェーン攻撃の実例を紹介する。
(この実例は、拙稿『北朝鮮のミサイル発射を失敗させた米国7つの手口』JBpress2017.4.27)の中で紹介したものであるが、ICTサプライチェーン攻撃の脅威の大きさやインテリジェンス活動を理解するのに重要であるので、再録した)
 「1980年代初頭、長大なパイプラインの運営に欠かせないポンプとバルブの自動制御技術をソ連は持っていなかった」
 「彼らは米国の企業から技術を買おうとして拒絶されると、カナダの企業からの窃盗に照準を合わせた」
 「CIA(米中央情報局)はカナダ当局と共謀し、カナダ企業のソフトウエアに不正コードを埋め込んだ」
 「KGB(ソ連国家保安委員会)はこのソフトウエアを盗み、自国のパイプラインの運営に利用した」
 「当初、制御ソフトは正常に機能したものの、しばらくすると不具合が出始めた。そしてある日、パイプの一方の端でバルブが閉じられ、もう一方の端でポンプがフル稼働させられた結果、核爆発を除く史上最大の爆発が引き起こされた」
 この事例は、米国の元サイバーセキュリティ担当大統領特別補佐官リチャード・クラーク氏の著書『世界サイバー戦争』(徳間書店)の中で紹介されていることから極めて信憑性が高いと見ている。
2)定義
(米・国立標準技術研究所(NIST)の定義などを参考に筆者が作成した定義である)
 「情報システムのハードウエア、ソフトウエア、オペレーティング・システム、周辺機器またはサービスに対して、それらの据えつけ前に、論理爆弾(サイバー攻撃などに用いられるウイルスの一種で、対象のシステムの内部に潜伏し、あらかじめ設定された条件が満たされると起動して破壊活動などを行うもの)やバックドア型トロイの木馬」
 「またはマルウエアが埋め込まれた偽物とすり替えるなどの不正工作をし、ライフサイクルの間のいかなる時点かで、事前に埋め込んだマルウエアを始動させ、重要データの窃盗もしくは改竄したり、あるいはシステム/インフラを破壊するなどして任務遂行を不能とする」
3)攻撃の態様*2
 ICTサプライチェーン攻撃は、一般的には商業的な結びつきを通してアクセス権を有する個人または組織によって実行または促進される。
 ICTサプライチェーンへの攻撃機会には、上流、すなわち製造過程と、下流、すなわち流通過程がある。以下、それぞれの攻撃の態様を述べる。
ア.上流への攻撃の態様
 ネットワーク・ルータおよびその構成要素である半導体集積回路(IC)の製造プロセスは、電気通信およびマイクロエレクトロニクスのハードウエアがもたらす潜在的な脆弱性の代表例である。半導体産業の複雑さと融通性によって、多くの会社で働いている何百人もの人々によって世界中で設計されたICを、1つのチップに組み込むことが可能となる。チップ設計と製造のこの世界的な分業は、生産ペースを速めて、新しい製品開発のコストを下げている。しかし、チップがより大きなICに統合されるために次の場所に出荷される前に、何億ものトランジスタの中に隠された危険な回路を探知することは困難である。熟練した人員とエンジニアリング資源を自由に使える洗練された敵対者は、プログラム可能なチップのソフトウエアを改竄することによって、チップが他の製品への統合のために出荷される前に、メーカーに対して上流攻撃をしかけることができる。
 このように、ルータ、スイッチ、または他の電気通信ハードウエアのメーカーは、数えきれない改竄の機会にさらされている。とはいえ、米国のICTサプライチェーンに対してチップ・レベルの不正工作を実行しようとする攻撃者は、作戦上の複雑な課題に直面する。すなわち、政府機関、ネットワーク、または民間団体の一つを標的として、上流の製造過程で不正工作しようとする攻撃者は、不正工作したコンポーネントがどこに配送されるのかを予想できなければならない。さもなければ、攻撃に成功できないばかりか、不正工作したハードウエアを世界中の顧客に出荷させることにもなる。
イ.下流への攻撃の態様
 標的とする組織に製品を供給している下流の流通経路を攻撃することは、上流の半導体製造サプライチェーンそのものに侵入しようとする複雑さに比べれば、あまり複雑でない。多数のシナリオが可能であるが、最も成功しそうなシナリオは、トンネル会社を作り、卸業者への特定のブランド機器の再販業者として利用することである。それにより、敵対者は、アセンブリ(組み立て)の時にファームウエアまたはソフトウエアの中に読み込まれた「トロイの木馬」を含んだ偽物のハードウエアを埋め込むことができる。あるいは、敵対者は、非常に関心のある標的を顧客としている再販業者と卸売業者を目的地とするブランド機器の積荷の中に完成した偽のハードウエアを混入することができる。プロの情報機関であれば、市場で顧客リストを入手するのに時間あるいは資源などの大きな投資を必要としないであろう。しかし、このような方法は、偽造品が発送または据え付けプロセスのいかなる点かで発見されるリスクがないわけでない。
おわりに
 我が国ではサプライチェーンは、物流やモノづくりに関わる問題としてとらえられることが多い。そのため、オープン化、グローバル化が進むICTサプライチェーンを情報セキュリティ問題と結びつけて考えることは、最近に至るまでほとんど行われてこなかった。現在もこの状況はあまり変わっていない。このため、我が国では、政府機関や企業の中国製IT機器に対する警戒心が皆無と言っても過言でない。我が国の政府機関などの公共機関は、製品や役務(サービス)を調達する際には最低価格落札方式を原則としている。しかし、政府機関や重要インフラ事業者の使用するシステム・機器には高い信頼性が要求されることは言うまでもない。
従って、これらの電気通信機器の整備に際しては最低価格落札方式でなく、ICTサプライチェーン脅威を考慮した新しい調達方式が必要となっている。また、重要インフラシステムのICTサプライチェーン・リスクへの対応は, 企業だけではできるものではなく、国と企業が一体となって進めなければならない。まずは、ICTサプライチェーン・リスクに係る包括的な調査研究を、官民で協力して実施し、同調査研究成果を公表して、官民のICTサプライチェーン・リスクに対する認識を向上させることから始めなければならないであろう。そして、最終的にはICTサプライチェーン・リスクマネージメント(SCRM)のべストプラクティスを策定しなければならない。
さて、我が国は、公的調達からファーウェイを排除しろという米国の働きかけにどのように対応するのであろうか。我が国は、自ら件の中国企業の脅威を調査していないので、米国の調査結果をうのみにすることもできない。さりとて、同盟国の誘いをむげに断るわけにもいかない。そのうえ、国益と民間企業の利益は必ずしも一致しない。都合のいいことに、WTO(世界貿易機関)政府調達協定第3条(旧協定第23条)は、加入国が「国家安全保障」のために必要な措置をとることを妨げないとしており、各国が「国家安全保障」を理由として他国企業の応札を拒絶することを許容している。従って、我が国も、「国家安全保障」を理由としてファーウェイの製品を入札から排除することも可能である。報道によると、米当局者の一人は今回の説得工作について米紙WSJに「米国および同盟諸国と中国のどちらがデジタル網でつながった世界の支配権を握るかをかけた『技術冷戦』の一環だ」と指摘したとされる(産経1123日)。米中の覇権争いの渦中にあって、我が国としては同盟国米国を選ぶしか選択肢がないであろう。

〈管理人〉ファーウェイの副会長さんが拘留された件についてはこちらをご覧ください。
ファーウェイ副会長、カナダで逮捕 米当局が要請

BBC News
カナダ司法省は平成30125日、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)創業者の娘で同社最高財務責任者(CFO)兼副会長の孟晩舟氏をカナダ西部ヴァンクーヴァーで逮捕したと発表した。逮捕は米警察当局の要請という。
カナダ司法省によると、孟容疑者は1日にヴァンクーヴァーで逮捕された。米当局が孟容疑者の身柄引き渡しを求めているという。
ファーウェイは、容疑に関する情報はほとんどなく、「孟氏のいかなる不正も把握していない」と述べた。
孟容疑者は、ファーウェイを創業した任正非氏の娘。同社によると、孟容疑者は航空便の乗り継ぎ中に拘束された。
カナダ司法省の報道官は、7日に孟容疑者の保釈聴問会を開くとしている。
ただ同報道官は、孟容疑者からの要請を受けて裁判所が報道禁止を命じているとし、詳細については発言しなかった。
「公正な結論を」
米メディアは、米国のイラン制裁に違反した疑いでファーウェイが捜査を受けていると伝えている。
また、ファーウェイの技術はスパイ目的で中国政府に利用される可能性があり、米国の国家安全保障の脅威になるとして、米議員らも同社を繰り返し非難してきた。
ファーウェイは声明で、「事業展開している地域の輸出規制や制裁に関する法律、さらに国連(UN)や米国、欧州連合(EU)の法規を含む、あらゆる関連法を」同社は順守していると述べた。
「当社は、カナダおよび米国の法制度が最終的に公正な結論に至ると信じている」
在カナダ中国大使館は6日、声明を発表。米国の要請により、カナダ当局が「いかなる米国法にもカナダ法にも違反していない」中国国民を逮捕したと書いた。
さらに、「中国は米国およびカナダに対し、厳しく抗議した。間違いをすぐに正し、孟晩舟氏の自由を回復するよう強く要請した」と付け加えた。
ファーウェイは、孟氏を訴追したのはニューヨーク東部地区連邦地方裁判所だとしているが、同地裁の報道担当者はコメントしなかった。
米政府はこのところ、サイバーセキュリティ上の脅威や米国の対イラン経済制裁の違反を理由に、中国のテクノロジー関連企業に法的措置を取る機会を増やしている。
米政府は今年4月、イラン制裁違反を理由に、中国通信大手の中興通訊(ZTE)に米企業との取引禁止を科した。これによりZTEは事実上、事業ができない状態になった。
米政府はその後、取引禁止を解除。代わりに罰金の支払いと経営陣の変更をZTEに求めた。








2018年12月1日土曜日

共産中国による南シナ海の「ミサイル版万里の長城」 どうなる??今後の我が国のサイバーセキュリティ


中国が南シナ海に築いたミサイルの「万里

の長城」

対決する米海軍は戦力の転換が必要に

北村淳

南シナ海・南沙諸島のミスチーフ礁(2017421日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / TED ALJIBEAFPBB News

 中国が南シナ海・南沙諸島の7つの環礁を埋め立て、人工島を建設する作業を邁進していた状況を、当時のアメリカ太平洋軍司令官であるハリー・ハリス海軍大将(現在、駐韓国アメリカ大使)は「great wall of sand」(埋め立ての砂で築き上げる万里の長城)と表現し、中国による南シナ海での支配圏の強化に強い警鐘を鳴らしていた。そして先日、アメリカインド太平洋軍司令官、フィリップ・デイビッドソン海軍大将は、「great wall of sand」と呼ばれた南沙諸島人工島や西沙諸島に、中国軍が地対艦ミサイル(SSM)や地対空ミサイル(SAM)を配備し、アメリカ軍艦艇や航空機の接近を阻止する態勢を固めている状況を「great wall of SAM」と表現し、大いなる危惧の念を表明した。
アメリカ側はたかをくくっていた
 ソ連との冷戦終結後の東アジア方面では、ソ連海軍の脅威が消滅したため、アメリカは大平洋(南シナ海や東シナ海を含む)からインド洋にかけての軍事的優勢をほぼ完全に掌握し続けてきた。それに対して、米ソ冷戦末期頃から近代化努力を開始した中国海軍が、21世紀に入ると急速に戦力強化の姿勢を示し始めた。しかしながら、世界最強の空母戦力を誇っていた(現在も誇っている)アメリカ海軍は、「中国海軍がまともな航空母艦や空母艦載機を手にし、空母部隊を運用できるようになるのは(もし実現できたとしても)相当先のことになる」と考えていた。潜水艦戦力をとっても、やはり世界最大の原子力潜水艦戦力を有していた(現在も有している)アメリカ海軍から見ると「中国海軍の原潜のレベルが米海軍に追いつくのははるか先の未来」と考えていた。要するに、いくら中国が海洋戦力の強化に勤(いそし)しんでも、アメリカ(それに日米)の海洋戦力にとって深刻な脅威になることなど、少なくとも近未来には起こりえないと、アメリカ側はたかをくくっていたのだ。
戦略最優先目標を達成しつつある中国
 ところが、ここで忘れてはならないのは、アメリカの海軍戦略と中国の海軍戦略がまったく異なることである。
 アメリカの海軍戦略は、世界中の海に空母部隊を展開させることによりアメリカの国益と軍事的優勢を維持することを主眼に置いている。一方、中国の海軍戦略は、アメリカ軍とその同盟軍による中国沿岸への接近を阻止することを主眼に置いている。それぞれが必要とする海洋戦力の構成内容や用い方が相違しているのは当然である。
 中国の海軍戦略にとっては、アメリカ海軍に匹敵するレベルの、すなわち世界中の海に進出展開して沿岸諸国を威圧する能力を持つ空母艦隊(巨大航空母艦と高性能艦載機、空母を護衛するイージス巡洋艦とイージス駆逐艦、艦隊の露払いをする攻撃原潜、それに戦闘補給艦)を保有することは必須ではない。なぜならば、そのような空母艦隊が存在しなくとも、中国の戦略主目標である「アメリカ海洋戦力の中国領域への接近を阻止する」ことは可能だからである。実際に中国は、東シナ海や南シナ海を中国大陸沿海域に接近してくる米軍や自衛隊の艦艇や航空機を撃破するための地上発射型対艦ミサイルや対空ミサイルを極めて多数沿岸地域に配備しているだけでなく、アメリカ海軍が警戒を強めている対艦弾道ミサイルまで開発している。また、東シナ海や南シナ海での防衛任務に投入される各種艦艇(攻撃原潜、通常動力潜水艦、駆逐艦、フリゲート、コルベット、ミサイル艇)には、強力な対艦攻撃能力が付与されており、新鋭駆逐艦には高性能防空システムが装備されている。加えて、防空用、そして対艦攻撃用の戦闘機、攻撃機、爆撃機も多数保有している。このような東シナ海から南シナ海にかけての中国本土沿海域への接近阻止態勢に留まらず、中国当局がその大半の主権を主張している南シナ海での軍事的優勢を維持する態勢も、着実に手にしつつある。
数年前までは、いくら中国が、南沙諸島の領有権をはじめとして南シナ海の8割以上の海域をカバーする「九段線」の内側海域の主権を主張しても、そのような広大な海域での主権を維持すること、すなわち軍事的優勢を確保するための海洋戦力を手にすることは至難の業である(あるいは、はるか先の未来の話である)と米軍側では考えられていた。もちろん、そのような楽観的予測は誤りであり、中国の海洋戦力建設スピードを見くびってはならないと警鐘を鳴らす勢力も存在したが、少数派に留まっていた。
中国当局は、南シナ海の九段線内は「中国の海洋国土」であると主張している
ところが、中国海洋戦力に対する警戒派が危惧していたように、中国は南沙諸島に7つもの人工島を建設するという方針に打って出た。そして、ハリス太平洋軍司令官(当時)が「great wall of sand」として何らかの強硬な抑制策をとらねばならないと警告していた間にも、中国はそれらの人工島に3カ所の本格的軍用飛行場を含む海洋軍事施設を建設し続けた。こうして人工島の埋め立て作業が確認されてからわずか4年足らずのうちに、南沙諸島人工島基地群や、かねてより実効支配を続けている西沙諸島にも、アメリカ軍艦艇や航空機の接近を阻止するための地対艦ミサイルや地対空ミサイルが展開し、デイビッドソン司令官が「great wall of SAM」と呼称するようなミサイルバリア網が出現してしまったのである。
多くのアメリカ軍関係者たちが考えていたように、今のところ中国海軍はアメリカ海軍に匹敵する巨大空母を中心とする空母艦隊はまだ手にすることはできていない。しかし、中国の海軍戦略にとって最優先事項である「敵海洋戦力に対する接近阻止態勢」は、南シナ海において確立させつつあるのだ。
米海軍は戦力内容の転換が必要に
 これに対してアメリカ海軍は、東シナ海や南シナ海、そして西太平洋で、中国海洋戦力を抑制できるような態勢を確保しなければ、東アジアでの軍事的優勢を維持することができない状況に直面している。
 そのためには、それらの海域上空から米軍側に脅威を加える中国空軍と中国海軍の戦闘機、攻撃機、ミサイル爆撃機などを撃破しつつ、それらの海域で活動する中国海軍攻撃原潜、通常動力潜水艦、駆逐艦、フリゲート、コルベット、ミサイル艇などを打ち破らなければならない。同時に、中国本土沿岸地域、西沙諸島、南沙諸島人工島などの地上に展開している各種ミサイルシステム(移動式発射、コントロール装置に搭載されている)も破壊する必要がある。つまり、アメリカ海軍は強力な防空能力、対艦攻撃能力、対地攻撃能力を身につけて、西太平洋から東シナ海や南シナ海に接近しなければならないのである。ところが米ソ冷戦期以降、アメリカ海軍は空母艦隊を敵の攻撃から防御する戦力の強化には多大な努力を重ねてきたが、敵艦艇や地上移動式ミサイル発射装置などを攻撃する戦力は重視してこなかった。そして近年は、北朝鮮による弾道ミサイル開発に対応して、とりわけ日本周辺海域に展開するイージス巡洋艦やイージス駆逐艦に弾道ミサイル防衛を担わせる態勢を固めていた。したがってアメリカ海軍は、中国海洋戦力と対峙し、万一の際には打ち破るために、弾道ミサイル防衛重視、そして自衛態勢重視というこれまでの基本姿勢をかなぐり捨てて、敵艦・敵地攻撃優先という方針へ転換することが迫られている。その結果、日本は、これまでアメリカ海軍が担ってきていた弾道ミサイル防衛戦力を肩代わりする努力が迫られることになるであろう。その動きについては、稿を改めさせていただきたい。
南シナ海での日米合同訓練

PC使えぬ桜田サイバー担当相が更迭必至な

理由


G20サミット、ラグビーW杯、五輪、万博・・・日本はこれからハッカーの最大の標的になる!

山田敏弘
(国際ジャーナリスト・山田敏弘)
国際ジャーナリスト。1974年生まれ。米ネヴァダ大学ジャーナリズム学部卒業。『FRIDAY』『クーリエ・ジャポン』、英ロイター通信社、『ニューズウィーク』などで活躍。その後、米マサチューセッツ工科大学でフルブライト・フェローとして国際情勢とサイバーセキュリティの研究・取材活動にあたり、帰国後はフリーのジャーナリストとして活躍。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、翻訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など。
海外メディアで報じられる日本がらみの記事のなかで最近、かなり大きく報じられた恥ずかしいニュースがある。世界でよく知られるワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、さらにタブロイド版のニューヨーク・ポスト紙は、それぞれが同じ米AP通信の記事を掲載した。タイトルもどれも全く同じだった。
「日本のサイバーセキュリティ担当大臣はパソコンを使ったことがない」
PC使えぬ人物のサイバー担当相起用は「システムエラー」
 日本でも大きな話題になったが、サイバーセキュリティ基本法改正案の担当閣僚である桜田義孝五輪担当相が、衆院内閣委員会で「自分でパソコンを打つことはありません」と話したことで、大きな話題になった。こんな悪い冗談のような話を海外メディアはこぞって記事にし、英ガーディアンは、「システムエラー」であると見事なタイトルで報じている。
 だが感心している場合ではない。世界的に「日本のサイバー政策トップはパソコンを使うことすらできない」と知れ渡ったのである。もっとも、当の本人はメディアに「いいか悪いかは別として、有名になったんじゃないか」と語ったと報じられている。まさに開いた口が塞がらない。ただこうした桜田大臣の騒動を見ていて、ならば諸外国のサイバーセキュリティ担当の責任者たちは優れているのかと疑問を抱く人もいるはずだ。サイバーセキュリティ分野で政府や軍の責任者を見てみると諸外国の事情はどうなのか。
 米国で著名なサイバーセキュリティ専門のジャーナリストであるキム・ゼッターは、桜田大臣に関するワシントン・ポスト紙の記事をリツイートし、こうメッセージを添えている。「暗号化やサイバーセキュリティなどの政策を担当する米連邦議員の多くが電子メールやスマホを使わないのと大して変わらない」
 ただこう言ってしまえば、世界中の多くの議員たちにも当てはまってしまうはずで元も子もないし、日本の閣僚になるようなベテラン政治家も多くはそうではないだろうか。また他の分野でも状況は似たようなものだろう。またドナルド・トランプ大統領もパソコンを使わないという指摘もあるが、そもそもトランプや日本の安倍晋三首相も担当閣僚ではないので、彼らを責めるのは筋が違うだろう。
 問題は、桜田大臣のように国のサイバーセキュリティに責任のある立場の人物が、それを担うのに適材がどうかということだ。とはいえ、桜田大臣のようなサイバー担当者が世界にいるのかを比較するのは難しい。大臣のような責任者を置いていない国もあるし、この分野では情報機関や軍部がかなり力を持っている国などもあるからだ。そこで例えば世界最強のサイバー国家である米国がどうサイバーセキュリティ政策を進めているのかを見てみたい。
 米国のサイバー政策界隈にはさすがに桜田大臣ような人物はいない。実は、米国では20184月から、ホワイトハウスでサイバー政策を専門に担当していた人たちが相次いで退職している。ホワイトハウスでトップを務めていたのが、NSA(国家安全保障局)の元幹部であり、米国でも選りすぐりの凄腕ハッカー集団を率いていたロブ・ジョイスだった。だが彼も今では退職し、NSAに復職した。また彼の直属の上司であった国土安全保障及び対テロ担当大統領補佐官のトム・ボサートもジョイスより少し先に離職している。
 在任時は、ジョイスとボサートが政権のサイバー政策を担っていた。実は、当時新しく政権入りしたばかりだったジョン・ボルトン大統領補佐官が自分の影響力を行使するために、このサイバー担当のポストを撤廃するのに動いたと言われている。ジョイスらの退職後は、その役割は別の担当者が引き継いでいるとされる。ただもちろん、ジョイス時代よりも「サイバー政策は後退した」(政府関係者)と弱体化が指摘されており、今はその穴埋めをNSAやサイバー軍が埋めるようになっていると聞く。
 また米国でインフラなどへのサイバー攻撃対策を担当するのは、キルステン・ニールセン国土安全保障長官だ。名古屋へ留学経験があるニールセンは近々更迭されるとの噂も出ているが、彼女はトランプ政権で長官に就任する前、米ジョージ・ワシントン大学のサイバー・国土安全保障委員会センターの上級メンバーだったことから、サイバー分野にも精通している長官である。
英国では、テロ・犯罪担当大臣がサイバーセキュリティを担当
 ちなみに軍部を見ると、サイバー軍と、凄腕ハッカーらを抱えるNSAのトップは日系人のポール・ナカソネ陸軍中将で、もともと陸軍のサイバー部隊を率いていたサイバー戦のプロ。彼の上司にあたるジェームズ・マティス国防長官もトランプ政権に入る前からサイバーセキュリティの重要性については深く理解しており、例えば2009年には、統合戦力軍司令官時代に応じた雑誌のインタビューでもサイバー攻撃との戦いについて知見を見せている。
 ここまで見ても、米国のサイバー政策を担う幹部に「パソコンを使ったことはない」という人物がいるはずもないことがわかるだろう。
少し他の国も見てみたい。基本的に世界でも米国のように防衛や攻撃、犯罪などサイバーといっても担当は分かれている場合は少なくない。また首相府などに専門施設を置いている国も少なくない。首相府にサイバー分野を取り仕切る国家サイバー局があるイスラエルでは、そのトップに情報機関でもサイバーセキュリティに携わっていた人物が就いている。英国では、テロや犯罪などの担当大臣が、サイバーセキュリティ担当も担っている。英国については最近、サイバーセキュリティ専門の閣僚を任命すべきとの議論も出ていたが、現時点でそのアイデアは見送られている。またオーストラリアはサイバーセキュリティに特化した大臣を置いていない。
 そのほか、シンガポールは首相府にサイバーセキュリティ局を置いており、そのトップは英ロンドン大学キングス・カレッジで電子・電気工学を学び、米ハーバード大学への留学経験もある専門家である。いずれにせよ、コンピューターを使ったことがないという人がこうしたサイバーセキュリティ関連組織のトップになるという話は筆者は聞いたことがない。
今回の件で感じるのは、桜田大臣のようにサイバーセキュリティを理解していない人が担当大臣になったことが、笑い話にもなってしまい、日本にとっていかにマイナスかが十分に認識されていないのではないかということだ。既に述べた通り、世界に「日本のサイバー政策トップはパソコンを使うことすらできない」と知れ渡ったと書いたが、影響はそれだけではない。国境も関係なく攻撃が繰り広げられるサイバーセキュリティの世界では他国との協力も不可欠だ。そして日本はよくサイバー意識の高いイスラエルやエストニアといった国々と協力関係を築いていると世界に向けて喧伝している。だが今後、サイバーセキュリティを軽視し、知識もない大臣を任命する日本との協力は「大丈夫か?」と世界から言われかねない。また、全くの素人がサイバーセキュリティ担当大臣を務める日本は不幸であると、外国人たちが他人事として嘲笑していることは間違いない。
国際イベント目白押しの日本はハッカーの最大の標的になる
 また国内に目を向けても、サイバーセキュリティはサイバー犯罪、経済問題、テロ、サイバー戦争などとつながっていく問題であり、専守防衛を国是とする日本では、どんなサイバー攻撃を受ければ個別的または集団的自衛権を行使できるのかなど憲法問題にもつながる重要課題である。今年末に改訂する防衛大綱でもサイバー防衛が注目されているにも関わらず、サイバーセキュリティ担当大臣がUSBが何かもよくわかっていないようでは笑えない。
 特に日本では、これからG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)やラグビー・ワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピック競技大会、大阪万博と世界的に目立つ国際的なイベントも続く。しかもこうしたイベントでは、過去のケースから見ても、国家系ハッカーたちの格好の標的になり、ハッカーらは早い段階から攻撃の準備を始めていることがわかっている。攻撃側よりも圧倒的に不利な防御サイドはかなりの準備が必要になり、すぐにでも議論を加速する必要がある。にもかかわらず、担当大臣は、国会の答弁でニヤニヤと「スマホは極めて便利なので1日何回も使っている」と話し、ドヤ顔でスマホを見せている場合ではない。彼を担当大臣に選んだ安倍首相も、サイバーセキュリティの重要性をわかっていないのではと指摘されても仕方がない。さすがに、日本のサイバーセキュリティの司令塔とも言われる内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)のセンター長である防衛省出身の前田哲氏は、パソコンを触ったことがあるだろうし、他国の水準から見るとサイバーセキュリティに精通した人物に違いないはずだ。桜田大臣は、前田センター長というサイバーセキュリティの先生からしっかりとサイバーセキュリティについて教えてもらったほうがいいかもしれない。とはいえ、やはりパソコンを触ったことのないサイバーセキュリティ担当大臣は歓迎されるべきではない。「今から勉強してください」と言えるような時間的猶予はないのだから。
 海外の新聞社などによる報道の余韻が残っている今ならまだ、名誉回復のチャンスはある。サイバーセキュリティ担当大臣を今すぐに入れ替えるべきではないだろうか。
こういう子供むけの啓発動画からみせて、ステップアップさせていかないとならないでしょう。しかし「サイバー戦争」が世界的に苛烈化することに伴って、素人で担当大臣がつとまるわけがないことは、子供でもわかる理屈でしょう。
 政党の派閥関係で国務大臣人事を決めることは、もうやめてほしい。
官僚にバカにされない。その道の専門家でお願いしますよ。
しかし東京五輪はとても楽しみなのに、サイバー攻撃でどういう被害がでるのか、と考えるとこんな人事では正直怖いです。