日本に切迫している本当の軍事的脅威に目を向けよ
弾道ミサイル防衛システムでは防げない中国の巡航ミサイル
北村淳
2017.11.23(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51678
中国人民解放軍空軍の兵士ら、中国・湖北省で(2017年7月30日撮影、資料写真)。(c)AFP〔AFPBB News〕
日本政府が、弾道ミサイル防衛システムに巨額の国防費と防衛資源をつぎ込む姿を見ていると、日本が直面している軍事的脅威は、あたかも北朝鮮の弾道ミサイルだけであるかのような錯覚に陥ってしまう。
日本では理解されない「軍事的威圧の論理」
現在、日本国防当局が躍起になって整備を進めている弾道ミサイル防衛システム──すなわち4隻のイージスBMD艦、18セットのPAC-3システム、そして2023年度までに2カ所に設置する計画があるイージス・アショアBMDシステム──によって、北朝鮮から連射されるかもしれない100発程度(200発近いという情報もある)の弾道ミサイルの3割程度は撃墜することが計算上は可能となる。
しかし、日本に照準を合わせた弾道ミサイルを運用しているのは北朝鮮だけではない。中国もロシアも、日本を葬り去るだけの威力を持った核弾道ミサイルを配備している。
核の威嚇に対してはアメリカの核の傘が差しかけられており、日米同盟が健在である限り、対日核攻撃は日本に対する軍事的威嚇としては威力が弱い。だが、中国人民解放軍ロケット軍が運用している多数の通常弾頭搭載弾道ミサイルとなると話は別だ。核ミサイル(それに生物・化学兵器弾頭)と違い、高性能爆薬が充填されている通常弾頭が搭載された弾道ミサイルは、使用のハードルが低いからである。
もちろん、いきなり中国軍が日本に対して弾道ミサイルを撃ち込むことなどあり得ない。しかし、日本に対して弾道ミサイルを撃ち込む能力を保持しているという「状態」によって、日本に対して軍事的威圧を加え日中外交関係で優位を占めることができるのだ。この「軍事的威圧の論理」が、長年平和ぼけ状態に浸りきってきている日本社会では、なかなか理解されていないようである。軍備を整える究極の目的は、大金を投じて構築した軍備を使用してトラブル相手国を痛めつけつけるためではない。強力な軍事力が万が一にもむき出しで使われた場合にはどのような状況が生ずるのか?
ということを相手国に悟らせることによって、自らの外交的立場を優位に導くことにある。例えば、中国軍が日本各地の戦略的インフラを灰燼に帰すことができるだけのミサイル戦力を手にしている(すなわちシミュレーションによってそのような結果が示される)といっても、それが直ちに中国によるミサイル攻撃が実施されることを意味しているわけではない。中国側がそのような軍事的能力を背景にして(つまり軍事的に威嚇して)日本に対して外交的優位を占めることを意味しているのだ。
巡航ミサイル防衛態勢の構築を優先すべき
現時点においても、中国が日本に対して加えている軍事的威嚇は、通常弾頭搭載の弾道ミサイルだけではない。中国人民解放軍(ロケット軍、海軍、空軍)が合わせて1000発以上も保有している対日攻撃に使用できる長距離巡航ミサイル(すべて通常弾頭が搭載されている)は、弾道ミサイルに比べると、実戦に投入されるハードルがはるかに低いため、日本にとっては大いなる軍事的脅威だ。
それに同じ“ミサイル”という名がついていても長距離巡航ミサイルと弾道ミサイルとは根本的に原理が異なる兵器であり、どんなに優れた弾道ミサイル防衛システムといえども、巡航ミサイル防衛システムとしては全く役に立たない。北朝鮮弾道ミサイルの脅威を声高に叫び弾道ミサイル防衛システムをアメリカから買いまくるのならば、それよりはるかに脅威度の高い長距離巡航ミサイルから日本国民と国土を防衛するための巡航ミサイル防衛態勢の構築に、何倍もの努力を傾注するべきなのだ。
中国ロケット軍の対日攻撃用弾道ミサイル射程圏
南シナ海と東シナ海に関心を払わない日本
中国が日本に突きつけているそれら長射程ミサイルのほかにも、日本にとって深刻な軍事的脅威となりつつあるのが、中国海洋戦力である。しかしながら、海における軍事的脅威について感覚が鈍すぎる日本では、北朝鮮の脅威の陰に完全に隠れてしまっている。
中国人民解放軍の対日攻撃概念図
中国は膨張主義的海洋進出政策を実施するために、過去四半世紀にわたり海洋戦力(海軍艦艇戦力、海洋航空戦力、長射程ミサイル戦力)の増強に努力を傾注し続けてきた。その結果、南シナ海での軍事的優勢を完全に手に入れる段階にますます近づいている。すなわち本コラムでも繰り返し取り上げてきたように、中国は今や南シナ海の西沙諸島や南沙諸島に人工島を含む数多くの軍事拠点を建設し、中国本土から遠く離れた南シナ海に前進軍事拠点を確保してしまった。
中国による南シナ海のコントロール
トランプ政権もこのような中国の動きに反発を強めていたが、結局はアメリカ自身が攻撃されるかもしれない北朝鮮の核ミサイルへの対抗を優先させ、アメリカに直接軍事的脅威を与えない南シナ海問題などは後回しにしてしまった。そのため、南シナ海における軍事バランスは大きく中国側優位に傾いてしまっている。
中国は南シナ海に引き続き東シナ海での軍事的優勢も手中に収めるべく、さらなる海洋戦力の強化にいそしんでいる。そのような中国の動きを後押ししているのが、やはり北朝鮮危機である。トランプ政権としては、“アメリカに対する北朝鮮ICBMによる核攻撃”と、“アメリカ人が誰も知らない東シナ海や尖閣諸島それに先島諸島などでの領域紛争”のどちらに関心を集中させるのかというならば、迷うことなく北朝鮮ICBMということになるのは理の当然だ。
そのうえ、日本は東シナ海問題の当事国であるにもかかわらず、政府もメディアも北朝鮮の弾道ミサイルにのみ関心を集中させ、南シナ海や東シナ海における中国海洋戦力の軍事的脅威には関心を払おうとすらしていない。まさに中国にとっては千載一遇のチャンス到来である。
北朝鮮の脅威と中国の脅威の違い
北朝鮮の弾道ミサイルは、アメリカが北朝鮮に先制攻撃を加えない限り、日本に対して撃ち込まれることは決してあり得ない。
アメリカが先制攻撃した場合だけ脅威となる北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイル射程圏
しかし、中国の弾道ミサイルや長距離巡航ミサイル、それに強力な海洋戦力は、中国がそれらを手にしているという「状態」だけで日本に対する中国の外交的優勢を許してしまっている「現実の脅威」なのだ。このような中国の軍事的脅威に対しては目を逸らして、北朝鮮弾道ミサイルの脅威に対抗するために、巨額の国防費と多数の人員や装備をつぎ込むことによって、ますます東シナ海での中国の軍事的優位が高まることになる。
このような状態が続くならば、気がついたときには南シナ海も東シナ海も「中国の海」となってしまうことを、日本政府は再認識しなければならない。
《維新嵐》共産中国を「仮想敵国」として設定して、国防戦略を練り上げるような機関があるのでしょうか?未だにソ連を仮想敵国として考えているのではないか?
核兵器も含めた軍事力と三戦に代表される「総合的な戦略」に対抗できる、つまり共産中国の戦略から、我が国に有利に運ぶ国家戦略の策定を自衛隊や警察機関の協力の下に内閣官房が主導して策定しなければなりません。日本を守るのは、外国人ではなく紛れもなくわれわれ日本人なのです。国民の「国防意識」のスキルアップが今強く求められます。みんなで祖国を守りましょう!
CJ-10ロングソード巡航ミサイル
「北朝鮮をテロ支援国家に再指定する」ベストなタイミング
2017年11月22日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11109
テッド・クルーズ米上院議員が、2017年10月22日付けニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、米国は北朝鮮をテロ支援国家に再指定すべきだと強い調子で主張しています。要旨は次の通りです。
国務省は、北朝鮮につき重要な決定をしなければならない。2017年8月にイラン、ロシア、北朝鮮制裁法が成立した際、私(クルーズ)は北朝鮮のテロ支援国家再指定につき90日以内に対議会報告を求める条項を挿入した。
北朝鮮については、米国人オットー・ワームビアの非人道的取り扱い、金一族の海外での暗殺、イランとのミサイル開発共謀、米国の映画会社へのサイバー攻撃、シリアでの化学兵器使用支持、ヒズボラとハマスへの武器売却、亡命反政府活動家の暗殺計画が糾弾されている。再指定を決定すべきだ。
10年前に北朝鮮がテロ支援国家から除外された経緯は、如何に米国が北朝鮮につき間違った判断をしたか、それがその後の核兵器開発につながったか、なぜ米国は直ちに北を再指定すべきか、理解するカギになる。
2007年2月13日、国務省は北朝鮮の非核化と全面的外交関係の開始とを取引する合意に署名した。その際主要問題となったのはテロ支援国家リストであった。リストに指定されると種々の規制がかかるとともに、外交関係を進めるに当たってテロの資金調達やテロ支持の放棄が条件となる。2005年、国務省は指定継続の理由として北朝鮮のテロ・グループとの関係と核開発を挙げた。2年後イスラエルは北朝鮮が関与していたシリア(テロ支援国家)で建設中の原子炉を爆破した。
ところが、2008年に米国は北朝鮮をリストから除外してしまった。90年代、クリントンは北と枠組み合意を結んだ。2003年、金正日がNPT(核兵器不拡散条約)から脱退した時、ブッシュは中国主導の六カ国協議を始めた。2009年、北が二回目の核実験をした時、オバマは「戦略的忍耐」政策を選択した。その後、北は三回の核実験をするが、それは、これらの決定が如何に間違っていたかを示している。
北が交渉により核を手放すことはないと認めるべき時だ。対話への扉は開けておくべきだが、北の体制維持にとっての核の最重要性を過小評価することは利益にならない。それは体制維持の保険だけではない。北は北の条件で朝鮮半島を統一しようとしている。金正恩は限定的な核戦争のリスクを冒しても韓国から米軍を追い出し、韓国を抑え込もうとしている。
米国は冷徹な考えを持って早急に北に対処すべきだ。トランプは議会と協力して北への圧力を最大限にすべきだ。
北は海外で非合法金融活動をしている。北朝鮮外交官はアフリカや欧州で国際ルールに違反して資金洗浄活動に関与している。テロ支援国家に再指定すれば関係国は北朝鮮との外交、経済関係につき再検討するだろう。我々は間違った前提で北とのやり取りを続けるべきだろうか。2008年の指定解除の後、北は核を小型化しICBMに搭載できるようになった。再指定は希望ではなく事実に基づいた戦略に向けての第一歩となる。
北の危険な野望についての真実を伝え、北をテロ支援国家に再指定すべきだ。それにより我々の手を強め金正恩の手を弱めることができる。国務省が北をリストに再指定するよう強く求める。
出典:Ted Cruz,‘A Pressure Point for North
Korea’(New York Times, October 22, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/10/22/opinion/ted-cruz-a-pressure-point-for-north-korea.html
https://www.nytimes.com/2017/10/22/opinion/ted-cruz-a-pressure-point-for-north-korea.html
テッド・クルーズ上院議員は、2016年の大統領選で、共和党の大統領候補の一人でした。論説では、北朝鮮テロ支援国家再指定を求める強い主張をしています。これは議会には幅広くある考えであり、それは強まっているようにみえました。行政府(国務省)のイニシアティブを待たずして議会が独自のイニシアティブを取る動きがあるというような情報は見当たりませんでしたが、11月20日、トランプ大統領は北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると表明しました。
国務省は、今年7月、『2016年テロ支援国家報告書』を発表しています。これまでと同じイラン、スーダン、シリアの3カ国を支援国家に指定、北朝鮮は除外されました(9年連続)。しかし、同報告書は、北朝鮮が資金洗浄やテロ資金調達を止めていないと記述しています。他方、米財務省は、16年6月に北朝鮮を「第一次マネーロンダリング憂慮国」に指定しています。
米国によるテロ国家再指定は、北朝鮮に圧力をかける有力な手段であり、有効かつ必要な時に発動すべき手段です。目下は安保理制裁の強化が図られているので、当面その効果を見極めることが必要だったかもしれません。また、一方的制裁が安保理制裁の足並みを乱すことになってもいけません。更に、今後追加制裁が必要となった場合に備え、将来の有力な手段として保持しておくに留めておいてもよかったかもしれません。なお、クルーズが言うように、確かに2008年の支援国家指定解除の決定は過早でした。
交渉論、抑止論など対北朝鮮政策議論の中心課題の一つは、北が交渉を通じ非核化する可能性があるのかどうかということにあります。クルーズは、北が非核化するとの前提は間違っていると主張しています。議論の分かれるところです。北が非核化するかどうかは、国際社会の圧力など種々の事項に依存するでしょう。しかし、北が能力を格段に進展させるに従い、少なくとも非核化の可能性は段々少なくなっているように見えます。
このところ、北朝鮮は妙に静かです。その理由は不明ですが、再度の挑発に備えておくことが必要です。他方、9月の強力な核実験で豊渓里の核実験場の山の内部が崩れ(実験後地殻崩落による地震が数回観測された他、地形変形も確認されている)実験施設にも影響が出たのではないかとの情報も流れています。興味深い情報と言えるでしょう。
安保理制裁は徐々に効いてきているものと思われます。10月20日、朝鮮中央通信は、国際社会による経済制裁が子どもや女性を苦しめる「明白な人権蹂躙行為」であるとする「朝鮮制裁被害調査委員会」のスポークスマン談話を配信したと言います。段々状況がひっ迫し始めてきているのでしょう。
《維新嵐》北朝鮮に対してアメリカは、空母3隻に象徴される軍事的圧力の他に政治、外交的な圧力をかけ続けています、国連にも働きかけて安保理において経済制裁も発動されています。今や北朝鮮は世界中を敵に回しているといっていいでしょう。
北朝鮮が優位にたてているのはランサムウェアによるサイバー攻撃くらいか?
直接軍事力を行使するのではなく、北朝鮮の金政権を倒すためには、国際的に政治的な不利な状況を深化させていき、瓦解させる方法が一番でしょう。
北朝鮮は、テロ支援国家ではなく「テロ国家」そのものです。金政権は政治的な道義のツケを払うべきでしょう。政権の座からおろし、新たな民主的政権に代わるべきでしょう。
してはいない
脅威あおるだけでは分からぬ不気味さ
「テロ支援国家」再指定に北朝鮮は“猛”反発
してはいない
脅威あおるだけでは分からぬ不気味さ
2017年11月25日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11212
「反発のレベルが低いね」
米国によるテロ支援国家への再指定に北朝鮮が初めて反応した2017年11月22日夜。私はたまたま北朝鮮情勢の研究会に参加していた。参加者の一人に速報が入り、その場で皆が朝鮮中央通信をチェックした。朝鮮半島情勢を専門とする研究者と官僚、記者の集まりだったが、そこで一様に漏れたのが前記の感想である。「予想通り」あるいは「予想以上に」激しい反応だと主張した人はいなかった。
米政権が閣議、北朝鮮をテロ支援国家に再指定(写真:UPI/アフロ)
ところが日本の新聞、テレビには「猛反発」というような記事が目立った。詳しくは後述するが、「反発する談話」などという専門家なら即座に分かる間違いをおかした記事まで散見された。「国難」をあおる傾向に協力しようとしているのか、便乗しているのかもしれないとさえ思える。だが、北朝鮮が態度を変えた時、あるいは変えなかった時に、きちんと判断するためにも現実はきちんと評価しなければいけない。
仕方ないので、北朝鮮の反応はどんなものだったのかを簡単に紹介しておきたい。
もっとも低いレベルだった発信形式
まずは形式だ。再指定への反発を表明した北朝鮮国営朝鮮中央通信の記事は次のように始まった。
朝鮮民主主義人民共和国外務省代弁人(韓国と北朝鮮では報道官のことを「代弁人」と呼ぶ)は22日、米国がわが国を「テロ支援国」に再指定したことと関連して朝鮮中央通信社記者が提起した質問に次のように答えた。
この「記者の質問に答えた」というのは、北朝鮮が対外的に発信する際によく使われる形式の一つだ。公式の対外発信でもっとも重みのあるのは「政府声明」であり、外務省の出すものでも「声明」「代弁人声明」「談話」「代弁人談話」「朝鮮中央通信社記者の質問への回答」などがある。9月に国連安全保障理事会が新たな制裁決議を採択した際には「外務省代弁人談話」で反発した。トランプ米大統領による国連演説に反発して「老いぼれ」と激しい個人攻撃を加えたのは、金正恩国務委員長による「国務委員長声明」だった。国務委員長声明はこの時が初めてだが、北朝鮮の体制を考えれば、現在は国務委員長声明が最も重いということになるだろう。
社会主義体制においては形式が非常に重要視される。これは対外発信についても変わらない。そして、公式の声明や談話ではなく、記者から質問されたので北朝鮮の立場を説明するという「記者の質問に答えた」というのはもっとも軽い形式だ。朝鮮半島を担当する記者でこれを知らない人はいないはずなのに、「談話」などという表現を記事に使う神経を私は理解できない。今回のものを「談話」と書いてしまった場合、9月の安保理制裁への反発との違いを説明するのが難しくなるという問題点も指摘できるだろう。
なお、この「記者の質問に答えた」形式は日本の読者になじみがないので、普通は「北朝鮮外務省報道官は○○○という立場を表明した」とか「北朝鮮外務省は○○○と米国を批判した」などという書き方になることが多い。今回も、そうした書き方をしているメディアもあった。
具体的な挑発行動は示唆せず
中身も見てみよう。外務省代弁人は、北朝鮮は国際テロとテロに対する支援に一貫して反対してきたと強弁しつつ、再指定について「尊厳あるわが国に対する重大な挑発、乱暴な侵害だ」「(米国に)従わない自主的な国を圧殺するための強盗さながらの手段」と反発した。
さらに「われわれの核は、半世紀以上も続く米国の極悪非道な対朝鮮敵視政策と核による脅しに対抗して自主権と生存権、発展権を守るための抑止力だ。米国の対朝鮮敵対行為が続く限り、われわれの抑止力はさらに強化される」と述べて核・ミサイル開発を続けると宣言。最後は「米国は、むやみに我々に手出しした彼らの行為が招く結果に対して全面的に責任を負うことになる」と締めくくった。
経済建設と核開発を並行して進めるという、金正恩時代の政策である「並進路線」の正しさを強調してもいる。全体として、米国による圧力強化にもかかわらず核・ミサイル開発を続けるという強い意思を示した内容だ。ただし、具体的な挑発行動を示唆するような発言はなく、トランプ大統領に対する個人攻撃もなかった。激しい表現のように見えるかもしれないが、これは通常レベルである。
「様子見モード」と報じた韓国メディア
北朝鮮は2017年9月15日に北海道上空を飛び越える軌道で弾道ミサイル「火星12」を発射して以降、本稿執筆時(11月24日)まで挑発行為を行っていない。地上でのエンジン試験実施などの開発は続いているし、複数の弾道ミサイルを搭載できる大型潜水艦を新たに建造しているとも見られる。
だから、今回の反発が穏やかだったことで対話路線への転換だなどと判断することはできない。北朝鮮がしばらくミサイルを発射していないことにしても、単純に技術的な理由である可能性を排除できない。米国が何をするかにかかわりなく、技術開発上の理由で必要があれば発射し、必要がなければ発射しないのではないかというのが多くの専門家の見立てである。
韓国メディアはさすがに冷静だった。聯合ニュースは「北、『テロ支援国再指定』に低いレベルで反発…様子見モードが続くのか」という解説記事を配信した。聯合ニュースは、北朝鮮は再指定への動きに対して事前に「過酷な代価(を米国は払うことになる)」などと警告していたのだから反発するのは当然だと指摘。そのうえで「反発するかどうかより、反発のレベルがどの程度かが注目された。(今回の)発表形式と内容を見てみると、憂慮していたより低いレベルだという評価が支配的だ」と報じた。根拠は、私が紹介したものとほぼ同じである。
聯合ニュースは「北韓の抑えた反応から考えると、すぐに軍事的挑発で対応するというより、しばらくは周辺情勢をながめながら様子見モードを続けるのではないかという展望が出ている」と踏み込んだ。この判断はいささか性急かとも思うけれど、冒頭に紹介した研究会では「米国との水面下の協議が続いていることを反映した可能性があるのではないか」という見方も出た。少なくとも、今回の朝鮮中央通信報道を「追加の軍事的挑発の可能性」に結びつけるのは無理がある。
北朝鮮の意図を正確に知ることはできないだけに、少なくとも表面に出てきたものは予断を持たずに判断する姿勢を持ちたい。そうしてこそ不気味な「静けさ」であることを理解できるのだから。
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