「武力」としての情報戦略
「Psychological Operations」(=PSYOP)心理作戦。「サイオプス」と呼ばれる。
「Psychological Warfare」心理戦争。「サイオプス」とは別の意味になる。
軍事的威圧をかけることなく、心理戦をしかけて他国の世論を自国の都合のいい方向に誘導し、自国の利益を確保する。
「サイオプス」は軍事技術として発展してきた純粋な「武力」である。本来ならば、戦争相手もしくは敵国への巧妙な攻撃手段なのである。しかし「サイオプス」は、あからさまな武力にみえない、みせないようにカムフラージュしているものである。
同盟国だけでなく、自国民にも平然としかけられるものとなっている。
現在、私たちの世界は銃弾こそ飛び交わさなくても、流言飛語やデマゴーグ、プロパガンダが飛び交う「情報戦争」の真っただ中にある。そこで最強の兵器となっているのが、アメリカの「サイオプス」システムなのである。
サイオプスを構成する「3つの戦略」
歴史的な戦争において使用されてきた最もオーソドックスな画概念。
敵に対して戦場においてはこちらの戦力や作戦の漏洩を防ぐとともに、まちがった情報を与えて相手を混乱させる。
(攻勢対情報)相手にしかけるもの。
(防勢対情報)相手がしかけてきた情報戦を防ぐ。
戦争や戦場に限定された作戦が情報戦となる。
カテゴリー② 「国家心理戦」
敵国には敵国民の戦意を挫き、反政府の世論をを喚起する。逆に自国民には戦意を高めて政府を支持するように世論を換気する。さらに周辺国や中立国、友好国への働きかけや国際世論の喚起もこの「国家心理戦」のカテゴリーに入ってくる。
国家心理戦は、戦時に限定されない。むしろ平時において活用するものである。国家政策をより有効化することが目的であり、政治的、経済的、軍事的、外交的などあらゆる方面で国家の利害の最大化を目指すのである。
カテゴリー③ 「軍事心理戦」
軍と国家が共同で行うものである。軍事活動において最も効果的な心理作戦は、「自軍のイメージアップ」&「敵軍のイメージダウン」にある。「正義」と「悪」の対立構造を作り、相手国を占領した場合も「占領軍」ではなく悪辣な独裁者から国民を救った「解放軍」というイメージを周囲に植え付ける。そうなると自軍の士気は高まり、相手の戦意は下がり、なおかつ戦争後も相手国の国民の管理もしやすくなる。
一例として2007年に陸上自衛隊がイラクのサマワに部隊を派遣した際に、現地での活動をスムーズに行うために実行した作戦があげられる。
イスラム圏では通常男性は濃いヒゲを生やす。そこで自衛隊の隊長は、故意にヒゲをのばした。さらに陸自の車両に現地で人気のあった日本のアニメである『キャプテン翼』のイラストを描いていた。
軍が主体となった情報操作を「情報戦」と呼び、国家が主体となった情報操作が「サイオプス」となる。軍もまた国家の構成要素の一つである以上、サイオプスの方が上位概念となっているわけである。
サイオプスの母胎は、民事作戦(Information Superiority)、民間に対する作戦である。
軍隊に対する情報戦、民間に対する情報戦
サイオプスは軍事技術として発展してきた。その母胎が「情報戦」である。軍事における情報戦は大きくわけて二つに大別できる。
・敵の軍隊に対する作戦
有事の際は、直接的な「攻撃」が行われる。
①フェイクニュースやプロパガンダの流布。
②指揮統制中枢、情報発信源の物理的な破壊行為。
③敵国の重要インフラに対するサイバー攻撃。
マルウェアの活用、不正なハッキング、ハッキングによるデータやソフトウェアの破壊行為。
④情報機器の破壊などの電子戦。(電磁パルス攻撃)
⑤心理戦
⑥軍事的欺瞞
・民間に対する作戦(民事作戦・Cvil Affair Oparations)
こちらがサイオプスの母胎となっている。
情報戦とは、「攻撃情報優勢」(Information Superiority)の確保、つまり相手には重要な情報を与えず、味方は相手の重要な情報を奪うことにある。
そのため戦争をしていない時でも偵察衛星、偵察機、偵察艦などを使って敵の基地を調べたり、自軍の情報が漏れないように基地に偽装工作を施したりという活動は常時行われている。
中心的なオペレーションは軍事心理戦。作戦エリアにおいて地元住民と友好的な関係を築くための作戦。敵が活動するエリアでは逆に地元住民と対立するように仕向けるわけである。地元住民と友好関係を築くには、部隊行動以上に本国からの支援、具体的に経済援助などが重要になり、「国家心理戦」と重なってくる。
国家心理戦
国家機関を総動員して民間企業に協力させながら以下のような作戦を行う。
①政治宣伝 ~プロパガンダ工作
②軍事宣伝 ~戦意作戦(MO・Morale Operation)と呼ぶ宣伝と敵に降伏、逃亡、対上官犯罪などの利敵行為をさせる宣伝の2種類がある。
③教育 ~団結を阻害して士気を減退させるような、味方にとって有害なステレオタイプを解消することや、利敵行為を防止するための精神教育なども行う。
④検閲 ~政府の情報機関などによって新聞などの出版物や放送、映像、郵便などにおける表現や内容に対して強制的に関与する。
⑤宣伝外交(Propaganda diplomacy) ~政府当局による国際世論の誘導、広報外交(Public diplomacy)。文化、教育、科学、技術、芸術、スポーツ、観光、親善などの分野における活動として行われる。
⑥テロリズム(Terrorism) ~政府、国民世論、国際世論において継続的な恐怖によって誘導すること。破壊工作、暗殺、爆破、狙撃、放火、誘拐、虐殺、襲撃、宣伝などがあげられる。
諜報機関は、国家心理戦を計画、立案のための情報を提出することが任務といっていい。国家心理戦の実務を担うのは、ごく一般的な公務員であり、政治家であり、ビジネスマンなのである。
直接的な軍事作戦よりも民事作戦の方が次第に重要度が増してきた。民事作戦を機能させていくには、国家心理戦で活動中のあらゆる国家機関や企業との協力関係が不可欠であり、そのためには、軍の組織をいったん改組改変して組みなおす必要性が出てきた。
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心理戦で負けないメンタルの作り方