土壇場のトランプが打ち出した「350隻海軍」計画
「偉大なアメリカ海軍」は復活できるのか?
北村淳
2016.11.3(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48274
「偉大なアメリカの復活」には海軍の増強が不可欠。揚陸指揮艦ブルーリッジ(資料写真)
「偉大なアメリカの復活」を表看板に掲げたトランプ陣営は、ようやく大統領選終末期になってその具体的な政策として「350隻海軍の構築」を公表した。
かつてアメリカでは1980年代にレーガン大統領の下で「600隻海軍」構想が推し進められた。80年代初頭はアメリカとソ連の冷戦のまっただ中であり、70年代中頃から急速に充実してきたソ連の海洋戦力を封じ込めるために、レーガン政権はアメリカ海軍の大増強政策を打ち出したのだった。その現代版が「350隻海軍」構想ということができる。
「戦闘艦」の数を現在の1.5倍に
「350隻海軍」というのは読んで字のごとく海軍の主力艦艇を350隻に増強するということだ。「オバマ政権による軍事費削減政策の結果、第1次世界大戦以降としては最小規模にまで落ち込んでしまったアメリカ海軍艦艇数を増大させる」という政策を一般向けに分かりやすく伝える標語である。
1990年と2016年のアメリカ海軍艦船数の比較
ただし、どの艦船を350隻に含めるのか?というテクニカルな問題までは明示されていない。350隻という数自体には決定的な意味はないと考えられる。
だが、原子力潜水艦や航空母艦それに駆逐艦といった「戦闘艦」(「戦艦」は「戦闘艦」の一種であることに注意)を現在の1.5倍ほどに大増強する計画によって、「偉大なアメリカ海軍の復活」がある程度達成できることは疑いない。
数だけを見るとレーガン政権が打ち出した「600隻海軍」にはおよばないが、レーガン時代と違い、現在は兵器システム、センサー類、通信システムの飛躍的進歩によって、以前より少ない艦艇数でもそれ以上の働きを期待することができる。そのため、現代の「350隻海軍」にかつての「600隻海軍」に近接する能力を期待することはあながち無理な発想とはいえない。
帆走フリゲート「USS
Constitution」は現在海軍艦艇リストに記載されている最古の軍艦である。
国防予算を大増額し、閉鎖した海軍造船所を再開
軍艦を100隻以上も建造するには、軍艦に乗り組む海軍将兵の数、メンテナンスや修繕に従事する要員数、港湾施設や修繕ドックなどの設備も大幅に増加させなければならない。当然のことながら国防予算、とりわけ海軍予算の大幅増額が必要不可欠だ。しかし「国防費を増額させて大海軍を建設する」というだけでは、願望的かけ声にとどまり、具体的な政策公約とは言えない。
そこでトランプ陣営は、「350隻海軍」を作り上げるために国防予算を大増額するという当たり前のことに加えて、「フィラデルフィア海軍工廠の復活」という具体的な政策をも打ち出した。
フィラデルフィア海軍工廠は1801年に開設されたアメリカ海軍の造船所である(正式名称は途中から「フィラデルフィア海軍造船所」に変わった)。長きにわたりアメリカ海軍艦艇を建造・修理を続け、第2次世界大戦中だけでも53隻もの軍艦を生み出し574隻の艦艇の修理を実施した。
しかしながら、冷戦終結後の海軍予算の縮小や、メンテナンスや建艦への海外企業の参入などに伴い、フィラデルフィア海軍工廠の規模は縮小され、1995年に閉鎖されるに至った。現在横須賀を本拠地にしているアメリカ第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」は、フィラデルフィア海軍工廠で生み出された最後のアメリカ軍艦である。
トランプ陣営によると、「アメリカ再生」はアメリカ人の手で、アメリカの鉄を用いてなされなければならない。従って「偉大なアメリカ」のバックボーンとなる「強大な海軍」は、復活したフィラデルフィア海軍工廠を中心に、アメリカの様々な企業の総力を結集して再建することになるのだという。
大統領の交代に期待する海軍
アメリカ海軍は、大統領の交代を海軍増強の絶好の機会と捉えている。
トランプ陣営が海軍増強政策を公表した1週間後の2016年10月27日、アメリカ海軍の高官たちが「アメリカ海軍は、より大規模な艦隊を必要としており、政権が交代するこの時期こそ、大きな海軍を作り上げる計画をスタートさせる好機である」といった講演をした。
このような考えは、単に海軍高官たちの個人的意見というわけではなく、2つの民間シンクタンク(MITRE、CSBA)と海軍の三者共同研究による成果を踏まえてなされた発言である(三者研究の報告書は近く公表される。)。
海軍副作戦部長モラン提督は、「アメリカ海軍力は、国際社会全体での抑止力かつ平和維持力の中心的な戦力である」として、オバマ政権下における国防予算の大削減という苦境の中でも海軍はなんとか質の低下を押さえる努力に邁進してきたが「アメリカ海軍の責務を果たすには、より多くの艦艇(当然ながらそれに見合った人員や施設も)が必要不可欠である」ことを強調した。
海軍作戦部長(CNO:米海軍のトップ)補佐官のモリー中将は、太平洋方面でアメリカ海軍水上戦闘戦力が直面している敵対勢力(中将は名を挙げることを避けたが中国を指す)のミサイル戦力の飛躍的強力化に対応するためには、アメリカ海軍の巡洋艦ならびに駆逐艦の数を大増強する必要がある、ことを明言した。
しかしながら、2023年度予算まで強制財政削減が続く現在の予算規模では、艦艇建造費や艦艇の修繕整備費をひねり出すことは至難の業である。アメリカ海軍に求められている戦力レベル(艦艇数、人員数、施設数、それらの質)を達成し維持するためには、国防予算のうち海軍予算に占める割合を飛躍的に増大させるか、国防予算全体の規模を大幅に増やすかのいずれかの方法しかない。
したがって、アメリカ海軍高官たちによると、国防予算の増額あるいは強制財政削減措置の再検討が期待できる大統領の交代という時期こそ、アメリカ海軍そしてアメリカ国防能力にとって大きなチャンスである、というわけである。
アメリカの“偉大さ”を支えるのは強力な海軍力
アメリカ海軍に限らず、ただ単に何隻の艦艇を保有しているかだけでその能力を評価するわけにはいかない。とりわけハイテクセンサー、ハイテクウェポンで身を固めた現代の艦艇の場合、量より質が海軍力を評価する重要なファクターになっている。
とはいうものの、ある程度以上の質を達成した艦艇に限って比較するならば、数が多ければ多いほど強力なのは当然である(もちろん関係する人員数や、修理整備能力も、艦艇の数に見合っただけの規模を達成していなければならない)。
そして、数や質を設定する以前に、個々の海軍に与えられた抜本的な任務(ある意味では存在価値ということになる)に適合するべく艦艇や艦隊を構築していかなければならないことは言うまでもない。
トランプ陣営が公約した「350隻海軍の建設」というのは、単に現在の250隻海軍から100隻ほど海軍艦艇を増やすという数だけの問題ではない。海洋国家であるアメリカの“偉大さ”を支えるのは強力な海軍力であり、現在の海軍力ではとても“偉大なアメリカ”を復活させることはできないという、海洋国家にとっての基本に目を向けよという呼びかけなのだ。
トランプ陣営の公約によれば、トランプ大統領が誕生した場合、執務初日に「350隻海軍」計画を発動するという。
一方、オバマ大統領とともに軍事費の大削減に関わったヒラリー・クリントンが大統領に就任した場合には、アメリカ海軍力の復活は再び遠ざかることになる。その結果、再び日本周辺に波を立てている中国海軍に増長する時間を与えることになってしまうのは間違いない。
《維新嵐》 アメリカが真に強力な海軍を作り上げるために艦艇数を増強するのはわかりますが、現代戦においては、それで精強な海軍力の構築というテーマにおいて十分なものなのでしょうか?新型トマホークミサイルの配備はどうなっているんでしょうか?
「増強」は艦艇数を増やせばよし、の問題ではないかと思います。現有艦艇のカスタマイズや装備の見直し、刷新で諸能力の向上に資するという考えもありかなと思います。
ただアメリカ海軍は、これから今後通常の海軍力というより、対中弾道ミサイル&巡航ミサイルへの防衛を考え実践していく時期かと思います。
尖閣諸島へ米海軍艦隊を派遣
【危機に瀕する米海軍の優位性】抑止力維持に艦艇増強を
岡崎研究所
2016年02月12日(Fri) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6063
米国のシンクタンク、ハドソン研究所米海軍力センター所長のクロプシーが、2016年1月6日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、中国の海軍力の増強に鑑み、米国は海軍力を思い切って増強する必要がある、と述べています。論説の要旨は以下の通りです。
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レーガン政権時の半分以下まで落ち込んだ艦艇数
中国が自前の空母の建設を発表するなど、海軍力を増強している。一方、2011年の予算強制削減などにより米国防省の予算が1兆ドル削減された結果、米海軍の艦艇数はすでに272隻に減っている。これは30年前のレーガン政権末期の半分以下である。
米国は、世界で抑止効果を上げるとともに、もし抑止が敗れた場合に戦いに勝つための先端兵器が必要である。そのために約350隻の戦闘艦が要る。その内訳は以下の通りである。
空母を、西太平洋、ペルシャ湾、そしてふたたび地中海に配備するため、現在の11隻から16隻に増やす必要がある。
供給艦(物資を供給する艦艇)は現在29隻だが、倍増する必要がある。
潜水艦については、中国は2020年までに69~78隻の潜水艦を保有する予定なので、米国は、同年に70隻を保有する見込みだが、維持修理、ローテーション等を考慮すれば、90隻は要る。
水陸両用艇は、地中海におけるロシア、中国、イランのプレゼンスの増大、ISによるリビアの港町Sirteの占領から、米国は冷戦時代のプレゼンスが必要であり、海軍と海兵隊で45隻が必要である。
大型水上戦闘艦、駆逐艦、巡洋艦は、米艦隊の背骨であり、潜水艦を追尾し、空母を守るので、16隻の空母を守るため、少なくとも100隻を要する。
小型戦闘艦(沿岸戦闘艦LCSと呼ばれるもの)は、フリゲート艦の攻撃、防御能力を備えた30隻が要る。
高速船(陸軍と海兵隊の小規模部隊と装備品を運ぶもの)は、現在の11隻の計画は妥当である。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6063?page=2
合計350隻で、年240億ドルの建造費がかかる。2045年までに350隻の目標を達成するには、海軍の造船予算に毎年75億ドル追加する必要がある。中国の建造計画、世界の他の挑戦を考えれば、30年以内により規模の大きい艦艇が必要とされよう。
これは確かに高価であるが、世界における米海軍の優位を譲るよりは安い。中国の海軍力増強を考えれば、このままでは米国の海軍力の優位は危うい。米国は種々の脅威が増しているのに後退はできない。
出典:Seth Cropsey‘S.O.S. for a Declining American Navy’(Wall Street Journal, January 6, 2016)
http://www.wsj.com/articles/s-o-s-for-a-declining-american-navy-1452124971
出典:Seth Cropsey‘S.O.S. for a Declining American Navy’(Wall Street Journal, January 6, 2016)
http://www.wsj.com/articles/s-o-s-for-a-declining-american-navy-1452124971
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艦艇増強は必要経費
この論説のキー・フレーズは、提案の米海軍力増強計画は高価であるが、米国の世界における海軍の優位を譲るよりは安いという文言です。
確かに、空母を現在の11隻から16隻に、潜水艦を2020年までに現在の見通しの70隻を上回る90隻にし、さらに米艦隊の背骨である大型水上戦闘艦を少なくとも100隻にして、艦艇数全体を現在の272隻から350隻に増やすという計画は高くつきます。
しかし、中国の海軍力の増強に直面し、このような艦艇の増強をしないと、世界における米海軍の優位が失われてしまうのであれば、優位を保つための必要経費と考えようということです。それはその通りでしょう。世界における海軍力の優位が米国から中国に移れば、パックス・アメリカーナの終焉であり、その戦略的意味合いは計り知れません。米国はなんとしてでも、そのような事態の到来は避けるべきであり、米議会は強制削減を含む国防費の削減の戦略的意味を真剣に考えるべきでしょう。
米海軍作戦部長が使用禁止にした「A2AD」
2016年11月3日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8079
リチャードソン米海軍作戦部長が、National Interest誌のウェブサイトに2016年10月3日付で掲載された論説において、今後米海軍としてA2AD(接近阻止・領域拒否)という用語を使用することは控える、と述べています。要旨、次の通り。
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正確な定義のないA2AD
A2ADの意味は正確でない。ある人には、立ち入り禁止地域を示唆し、そこに入るには多大な危険を伴う。他の人にはそれは技術の集まりを意味し、また別の人には戦略を意味する。つまりA2ADはぞんざいに使われている用語で、正確な定義がなく、いくつかのあいまいか、相反するメッセージを与えるものである。
海軍では、任務遂行のためすべてを明確に理解しなければならず、その観点からA2ADという用語は使わないことにする。その理由は以下のとおりである。
1)A2ADは何も新しい現象ではない。紛争地域を含め、海域を支配し力を投影することは昔から行われており、米国が海軍力に頼るのはまさにそのためである。
2)「領域拒否」の「拒否」という用語はしばしば既成事実という印象を与えてしまうが、より正確には願望である。「拒否」は立ち入れない領域という印象を与えるが、実際ははるかに複雑で、そのような領域に入るのは危険が伴うが、脅威は乗り越えられないものではない。
3)A2ADは本来的に防衛を志向しており、当該領域に外から接近することが想定されているが、当該領域の内側から攻撃することも可能である。
4)A2ADにとらわれると、対立と競争の次のレベルの問題を考慮できなくなる。
A2ADという用語が正確性を欠いており、一つがすべてに適用されるという簡素化のし過ぎの問題がある。実際には海域ごとに特徴が異なることが重要である。
それではA2ADの代わりに何を言うべきか。海域ごとに問題が異なるので、一つの用語を使うことはさらなる混乱を招く。その代わりに我々の戦略と能力が何かを具体的に話すこととする。
海軍は海上の優位を維持することに集中すべきである。優れた装備、柔軟な作戦概念、そして最も大切なことだが、実績を上げるチームによって、よりよく考え、より早く学ぶことができる。これらの組み合わせにより、いかなる敵をも凌ぐより有能で、適応性にとんだ戦力が得られる。
海軍は海上の優位を維持することに集中すべきである。優れた装備、柔軟な作戦概念、そして最も大切なことだが、実績を上げるチームによって、よりよく考え、より早く学ぶことができる。これらの組み合わせにより、いかなる敵をも凌ぐより有能で、適応性にとんだ戦力が得られる。
我々は言葉を超えて行動しなければならず、実際行動している。訓練、実験、戦争ゲーム、新技術により能力の向上を図っている。海兵隊や他の部隊と密接に協力している。民間部門や学会、産業部門と協力し、最善の考えを早く取り入れるように努めている。そして世界の友好国の海軍との協力関係を強化している。
変化のペースはいたるところで加速している。勝利の決め手は極めてわずかである。米国の優位を保つためには、これまで以上に明晰に考え、今日と将来の脅威に対する我々の任務遂行のため決然とした行動を取る必要がある。
出典:John Richardson,‘Chief of Naval Operations Adm. John Richardson: Deconstructing A2AD’(National Interest, October 3, 2016)
http://nationalinterest.org/feature/chief-naval-operations-adm-john-richardson-deconstructing-17918
http://nationalinterest.org/feature/chief-naval-operations-adm-john-richardson-deconstructing-17918
リチャードソン米海軍作戦部長は、A2ADは正確な用語ではないので、使わないことにすると言っていますが、彼が真に言わんとしていることは、A2ADは一般に考えられているほど強力でないということです。すなわち「拒否」の対象となる領域に入るのは危険を伴うが、乗り越えられないことはない、当該領域は外から接近することが想定されているが、内側から攻撃することも可能である、と言っているのです。
米国の底力に期待
これは一般論ですが、実際にそれを可能にする兵器体系、戦略があるかどうかが問題です。
A2AD戦略は1996年の台湾危機に際し、米国が台湾海峡に空母艦隊を送り、中国が台湾の総統選挙への内政干渉をあきらめざるを得なかった屈辱をバネとし、その後20年近くをかけて兵器体系、戦略を築き上げてきたもので、米国がリチャードソンの言うように、これに有効に対処できるかどうか定かではありません。また、リチャードソンは、海域はそれぞれ特徴を異にするので、A2ADは一律には適用できないと言っていますが、中国のA2ADは西太平洋、東アジア、さらに特定すれば南シナ海地域を対象に考えられたものです。
A2AD戦略は1996年の台湾危機に際し、米国が台湾海峡に空母艦隊を送り、中国が台湾の総統選挙への内政干渉をあきらめざるを得なかった屈辱をバネとし、その後20年近くをかけて兵器体系、戦略を築き上げてきたもので、米国がリチャードソンの言うように、これに有効に対処できるかどうか定かではありません。また、リチャードソンは、海域はそれぞれ特徴を異にするので、A2ADは一律には適用できないと言っていますが、中国のA2ADは西太平洋、東アジア、さらに特定すれば南シナ海地域を対象に考えられたものです。
リチャードソンは、今すでに米国は中国のA2AD戦略を克服できると言っているのではなく、克服できるよう全力を尽くすとの意思を表明したものと考えられます。米国の戦略思考の柔軟性、軍事技術のすそ野の広さと技術革新力を考えれば、それは不可能ではありません。米国は、これまでも何度となく敵国、あるいは潜在敵国から挑戦を受け、それを乗り越えてきました。A2ADについても、米国のこのような底力に期待したいところです。
《維新嵐》 納得できる話かと思います。要は、アメリカ独自の対中戦略も含めた国土防衛戦略を構築できれば問題ないかと思います。
米軍近代化へサプライズ投資
米軍近代化へサプライズ投資
岡崎研究所
2016年11月7日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8128
カーター米国防長官が2016年9月29日空母カール・ビンソン艦上でアジア太平洋リバランス政策につき演説し、アジア太平洋配備の米軍戦力の近代化と同盟国の間のネットワーク強化を進めていくとの決意を表明しています。主要点は次の通りです。
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米国が単独でやるのではない
今の主要な安全保障上の課題は、①ロシア、②中国、③北朝鮮、④イラン⑤ISISの5つ。5年前にオバマ大統領が発表したリバランス政策は米国の国家的なコミットメントである。この地域をすべての国が台頭し繁栄することができる地域にするために外交、経済、軍事の政策を進めるものである。
米国が単独でやるのではない。米国は友邦国や同盟国との間で「原則に基づく包含的な安全保障ネットワーク」を築くことを通じて行う。
戦後米国は、「紛争の平和的解決、外部からの強制・脅迫不行使、国際法に基づく航行飛行の自由など」の重要原則を擁護してきた。それにより日本等が発展し、今や中国やインドが続いている。TPPは最重要な非軍事のリバランス政策である。米国はTPPをやらねばならない。
北朝鮮の核開発の他、東シナ海や南シナ海、インド洋などの海洋は将来にとってリスクとなっている。原則擁護のために米は国際法が許す飛行、航行、行動を続ける。
リバランスの第一段階である過去5年の間、米国は展開部隊の量と展開位置を強化した。この地域に数万人の兵士を追加的に派遣し、2020年までに米国の海外展開海軍と航空アセットの6割を当該地域に展開することを決めた。リバランスは昨年から第二段階に入った。米国の最新兵器(F22やF35ステルス戦闘機、P8哨戒機、戦略爆撃機、DDG1000ステルス駆逐艦など)をアジア太平洋に展開する。最新の戦略等も策定している。
同盟国等との連携を強化する。アジア太平洋の要である日米同盟は強力である。韓国にはTHAADを配備する。豪州との同盟はグローバル化している(イラク、シリアでも協力)。比との同盟は堅固で、防衛協力強化合意により比軍の近代化を支援している。
米印関係は緊密である(防衛技術貿易イニシアティブ等)。シンガポールには米国の沿岸戦闘艦船やP8哨戒機が展開中。越には軍事機器の移転が可能となった。今秋には米の駆逐艦が30年ぶりにニュージーランドを訪問する。
海洋安全イニシアティブ
昨年、米国は比、越、インドネシア、マレーシア、タイの間で「海洋安全イニシアティブ」に合意、ハードウェアの供与を含めてこれらの国々の間の協力強化を支援していく。米国は中国との間で意思疎通強化や計算間違い低減のために、最近、海洋行動に関する措置と危機意思疎通の措置という二つの信頼醸成措置を締結した。軍高官協議も定期的に開催。しかし、海洋、サイバーなどでの中国の最近の行動については深刻な懸念を持っている。中国は原則の摘み食いをしようとしている。中国は国際社会の原則を等しく順守すべきだ。
リバランスの第三段階では、米軍の戦力を先鋭にする。詳細は言えないが、サプライズの投資もする。アジア太平洋の国々は米との連携を求めている。米国はこれに応えていく。それにより「原則に基づく包含的な安全保障ネットワーク」が確実に発展する。それは正式の同盟ではないが、安全保障の協力と原則の擁護に資する。
ネットワークは既に進展している(日米韓協力の進展、インドネシア、マレーシア、比による共同海洋パトロール開始、ASEAN国防相会議プラスなど幅広い多国間枠組みの芽生え)。将来、豪州のP8にシンガポールの要員が乗り込み、米の駆逐艦と連携して捜索救助活動ができるかもしれない。航行の自由もネットワーク参加国の共同パトロールによって守っていくことができるかもしれない。
出典:Ashton Carter,‘Remarks on “The Future of the Rebalance:
Enabling Security in the Vital & Dynamic Asia-Pacific”’(U.S. Department of Defense, September 29,
2016)
http://www.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/959937/remarks-on-the-future-of-the-rebalance-enabling-security-in-the-vital-dynamic-a
http://www.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/959937/remarks-on-the-future-of-the-rebalance-enabling-security-in-the-vital-dynamic-a
米国のリバランス政策を知る上で有益な演説です。手堅い力量を発揮しているカーター長官のリバランスにかけるコミットメントの強さが窺われます。日本にとっては心強い政策宣言となっています。
サプライズ投資
キーワードは、①米展開部隊の質的、量的拡大、②「原則に基づく包含的な安全保障ネットワーク」の構築という二つです。戦後のアジア太平洋のハブ・アンド・スポーク体制に多国間協力の枠組みを補強していくものであり、理屈に合う政策方向です。ここでは、「原則」と「包含」という二つの制限句が目を引きます。紛争の平和的解決や国際法順守など国際社会の原則の重要性を強調しています。他方で、排他的なものでないことも示そうとしています。しかし、いずれもアジア太平洋で挑戦を惹起している台頭する中国に対して、「立ち向かう」ことと「中国封じ込めではない」ことを念頭に置いた文言であることは明白です。
オバマ大統領もカーター長官も約3カ月で任期が終わります。日本としては、リバランスが次の米政権にも引き継がれていくよう見届けることが重要です。なお、本演説がTPPの重要性を述べていること、詳細は言えないとしつつ、リバランス第三段階でサプライズの投資をする」と述べていることなどにも関心を惹かれます。
《維新嵐》 これはオバマ政権による次のトランプ政権への「置き土産」ですね。オバマ政権による「太平洋リバランス戦略」は引き継いでほしい、在日米軍撤退なんていっちゃだめよ、必要に応じて軍事面での投資は続けるからね、といってるように聞こえます。 「戦わない」大統領=「弱腰の大統領」とみられる傾向はあります。この点をドナルド・トランプ氏がどう考えているかな?
アメリカ海軍・アジア太平洋リバランス戦略で駆逐艦3隻を配備
どうなるアメリカのアジアリバランス政策
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