シリア代理戦争、米屈辱の敗北
重大な転換点、アレッポ陥落なら反体制派の終焉
2016年11月29日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8339
シリア内戦の激戦地、北部アレッポで2016年11月28日、アサド政権軍や民兵軍団が反体制派支配の市東部に進撃し、支配地域の北半分を制圧した。反体制派の敗色は濃厚で、政権側に完全に陥落するようだと内戦の重大な転換点となる。アサド政権が圧倒的に優位に立つ一方、反体制派は終焉の淵に立たされた格好だ。
かつてのシリア・アレッポ(iStock)
サウジとオバマ政権も敗者
アレッポをめぐる攻防は2016年11月15日から激化。ロシア軍や政府軍が東部地区に激しい空爆を加え、シーア派民兵軍団を先陣とする進撃が始まった。この空爆でこれまでに民間人500人以上が死亡し、東部地区に8つあった病院すべてが攻撃を受け、機能不全に陥った。東部地区は政権側に包囲されており、医薬品、水、食料の困窮が深刻化した。
民兵軍団はイランの革命防衛隊の指揮の下で、レバノンの武装組織ヒズボラ、イラクの「バラカト・ヌジャバ」などの諸組織、アフガニスタンの傭兵からなっている。イスラエルの情報機関によると、その勢力は約2万5000人。中でもヒズボラはイスラエルとの実戦経験から市街戦に強い。
対して反体制派は「ジャブハト・ファタハ・シャム」「アハラル・シャム」などのイスラム勢力や「ファスキタム」などの穏健勢力などが混在。その中で最も強力な組織はアルカイダ系の旧ヌスラ戦線(現シリア征服戦線)で、イスラム勢力などから信頼できるとして同組織に移る戦闘員も多い。
東部地区の反体制派勢力は合わせて1万5000人程度と見られているが、一時威力を発揮した米国製の対戦車ミサイルが底をつき、劣勢に追い込まれていた。アレッポ東部は2012年から反体制派に支配されてきたが、政権側が全市を完全に制圧すれば、内戦の重大な転換点になる。
「アサド政権がアレッポを制すれば、首都ダマスカスや東部沿岸のラタキアなどシリアの都市部のほとんどを支配することを意味する」(ベイルート筋)。逆に反体制派は深刻な打撃を被ることになり、ロシアの空軍力やイランの支援がある限り、政権軍勢力を押し返すことは難しい。「散発的なゲリラ戦を続けるしかなく、事実上、反体制派の終焉だ」(同)。
アサド大統領の追放という反体制派の目標実現は遠のき、同派が移行政権など「シリアの将来」で担う役割は限りなく小さいものになってしまうだろう。つまりはアサド政権の存続と、それを支援するロシアとイランの存在感、影響力が増大することになる。
反体制派の敗北で、支援してきたサウジアラビアやオバマ米政権は大きな打撃を被り、敗者となりそうだ。特にサウジはシリアを舞台にしたイランとの代理戦争に敗れたことになる。サウジは隣国のイエメン内戦でもイランとの代理戦争に旗色が悪く、二重の意味でショックだろう。
オバマ政権は昨年秋にロシアがシリアに軍事介入して以来、過激派組織「イスラム国」への空爆は続けているものの、内戦の泥沼にはまることを警戒するあまり、戦闘はほとんど傍観状態。主導権をロシアに引き渡してしまい、反体制派への支援もおざなりなものにとどまっていた。
次期米大統領のトランプ氏は反体制派に武器を供与することについて強い疑念を呈しており、反体制派への支援の打ち切りも十分考えられる。そうなれば、反体制派の打撃は一段と決定的なものになりかねない。
懸念されるヌスラ戦線の動向
こうした中で懸念されるのは旧ヌスラ戦線の動向だ。同組織にはシリア内戦の激化で各地から戦闘員が集まり、その規模は約1万人にも達し「アルカイダの中では最大になった」(中東専門家)。特にアルカイダの本拠があったアフガニスタンから逃走した幹部たちもシリアに結集しているといわれる。
米紙などによると、その中には、アルカイダの軍司令官だったサイフ・アデル、最高幹部の1人だったアブカイル・マスリ、テロ作戦の立案者とされるアブドラ・アブドラらがいる。
オバマ大統領は最近、国防総省に対し、同組織の指導者らを見つけ出して暗殺するよう命令を下し、IS用の武装無人機などをアレッポや北部シリア向けに移動させた。この作戦は10月から始まり、これまでに対外作戦立案者ら幹部4人を殺害した、という。
米情報機関は同組織が欧州でのテロを計画しているという情報を入手し、オバマ大統領がこれを強く懸念、国防総省の反対を押し切って作戦に踏み切った。作戦空域は地中海沿岸に設置されたロシアの防空システム内にあり、またロシア軍機との偶発的な衝突を回避するため、暗殺作戦の発動時には事前にロシア側に通告している、という。
いずれにせよ、旧ヌスラ戦線をどこまでたたくかはトランプ政権の発足後に決定されることになるが、トランプ氏が取り沙汰されているようにロシアのプーチン大統領と軍事協力で合意すれば、反体制派は泣き、アサド大統領はさらに笑うことになるだろう。
シリア・アレッポの子供たちが、アメリカ大統領選候補者に伝えたいこと。
アメリカだけでなく、ロシアや何よりアサド政権の幹部たちに届いてほしい願いですね。
シリア内戦で毒ガス使用疑惑あり。
「核兵器のない平和な世界の実現」戦略を掲げたアメリカ・オバマ政権でしたが、1回であれば毒ガスを使ってもいいというメッセージを発信してしまったようなものです。核兵器、毒ガス、そして化学兵器、こうした無差別大量殺戮兵器が地上から廃絶される日はくるのでしょうか?世界中の子供たちの未来に残すべき兵器ではありません。
和平にはシリアを分割するしかない
岡崎研究所
2016年12月2日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8316
米外交問題評議会上級フェローのレイ・タキーが、2016年10月31日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説において、かつてのような統一シリアは望むべくもなく、せいぜい可能なのは、何らかの連邦制度の下で、いくつかの地域が共存することである、と述べています。
iStock
ケリー国務長官の外交の最大の誤り
シリアに関する米国の戦略は、まず米ロが合意し、次いで地域の主要対立国であるイランとサウジが和解し、和平案をシリア内戦の対立グループに飲ませるというものである。しかしイランとサウジは地域の冷戦を戦っていて和解しそうになく、シリア内戦の対立グループは、あまりに手を広げ過激であるので、相違を乗り越えるのは不可能である。シリアの誰もが勝つために戦っている。
ケリー国務長官の外交の最大の誤りは、ロシアまたはイランの支持を得てシリアを再建できると考えていることである。たとえ合意ができても交戦グループは戦闘を止めそうにない。米国と英仏などの西側の主要同盟国にとって考えられる唯一の選択肢は、権限分割の諸原則を作り、大規模な兵力を展開してその順守を確保することである。分割案は、シリアの民族、宗教の違いを考慮し、国を分割しようとするものである。
アラウィ派や他の宗教グループには、公国ともいうべきものが認められる。スンニ派はISの影響力を排除したのち自身の勢力圏を持つ。
これらのグループは弱い連邦制のもとで共存することが期待される。このような体制は外部勢力による長期にわたる占領があって初めて定着するだろう。すなわち西側諸国が20世紀初めに行ったような実力を行使するということである。このような事情からシリアの内戦の早期終結は望めない。すべての当事国に戦い続ける理由があり、戦争を終わらせる力を持っている米国はその力を使うのを躊躇している。その間政治家は成功の見込みのない中途半端な提案をし続けるだろう。そしてシリアは炎上し続ける。
出典:Ray Takeyh,‘Partition
presents the best hope for peace in Syria’(Financiak
Times, October 31, 2016)
https://www.ft.com/content/06e2af00-9d19-11e6-8324-be63473ce146
https://www.ft.com/content/06e2af00-9d19-11e6-8324-be63473ce146
シリアの和平については、これまでいくつもの構想が発表され、国連のデミストゥラ・シリア特使などが努力しましたが、具体化に至っていません。和平の前提である停戦については、人道上の見地などから、何度か実現されましたが、米ロの思惑の違いなどがあって、いずれも短命に終わっています。
タキーは和平が成立するとすれば、権限の分割しかないと言っています。統一シリアの復活はありえないということです。その通りでしょう。アサドが再びシリア全土を統治することも、反政府グループがアサド政権を倒してシリア全体を支配することも考えられません。
権限の分割は、シリアの民族、宗教の違いに基づいて行われ、各グループがそれぞれの支配地域をもち、それが弱い連邦制の下で共存するという構想です。内戦の戦闘グループがこのような権限の分割に合意するか、グループごとの支配地域の線引きをどのようにするかなど、難題が山積していますが、統一シリアの復活がないとすれば、権限の分割が唯一の選択肢ということになるのでしょう。
ただ、このような体制をいかに維持するかについて、タキーは、それは外部勢力による長期の占領があって初めて可能であると言っていますが、西側諸国が20世紀初めに行ったような実力行使というのは、植民地政策です。
はたしてそのようなことは可能でしょうか。平和維持軍的な役割であれば可能とも思われますが、タキーは「占領」とか「実力行使」といった表現を使っており、平和維持軍とは異なる軍事力による監視と、必要な場合の行使を考えています。米ロがそのような役割を共有できるのか、そもそも米国がそのような軍事力の行使に賛同するか、疑問です。
タキーはシリア内戦をかつてのレバノン内戦と比較しています。レバノンでもキリスト教徒、スンニ派、シーア派の間の微妙なバランスが崩れ、1970年代半ばに内戦に突入しました。レバノン内戦が1991年に終結したのは、冷戦の終結でロシアが西側との関係改善を求め、中東で建設的役割を果たそうとしたこと、イランでラフサンジャーニがサウジとの関係改善を図ったこと、などの要因が重なったためと言っていますが、現在シリアをめぐって類似の国際政治環境の変化は望むべくもありません。
タキー自身、自分の構想の実現が困難であることは十分承知しているようです。それが証拠に、論説の結末で、シリア内戦の早期終結は望めず、シリアは炎上し続ける、と言っています。
結局、シリアの和平は解のない方程式を解くようなもので、少なくとも当分の間は答えは出ないということになります。
結局、シリアの和平は解のない方程式を解くようなもので、少なくとも当分の間は答えは出ないということになります。
《維新嵐》 自国民の声に真摯に耳を傾けられず、弾圧迫害を繰り返し、大国の軍事介入を許して内戦で自国民を苦しめ続けるシリアのアサド政権は地上で最も退陣しなければいけない政権といえるでしょう。シリアの例をみればよくわかります。国内の激しい貧富の差、経済がよくならないのは、国民それぞれの働きが悪いからではないということです。その国の政府が、国民の暮らしに目をむけない政策をとり続けていたり、いたづらに自己の保身に走ってみたり、要するに政治が悪いということです。
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