オーストラリア潜水艦、仏が受注
BBC News
2016年04月26日(Tue) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6669
オーストラリアのターンブル首相は2016年4月26日、記者会見で同国が選定を進めていた次期潜水艦の共同開発をフランスが受注すると発表した。同じく受注を競っていたドイツと日本は敗退した。
受注額は500億豪ドル(約4.3兆円)に上り、オーストラリアが発注する防衛関連プロジェクトとして史上最高額になる。
ターンブル首相は、新たに開発される「バラクーダ級」の潜水艦はオーストラリアで生産された鉄鋼品を使用し、同国南部アデレードで建造されると述べた。また、2800人の新たな雇用が生まれるという。
受注競争でこれまで最有力とみられていた日本の中谷元防衛相は同日、「大変残念だ」と述べ、オーストラリアに対して「選ばれなかった理由の説明を求めていく」と語った。
ターンブル首相は1年3カ月にわたる選定を経た決定は、「オーストラリア海軍の将来を何十年にもわたって確実なものにする」と語った。
同国のペイン国防相は、政府の選定過程では、さまざまな専門家が一致してフランスの提案を支持したと語った。
日本が当初の有力候補だった理由として、ターンブル首相の前任者であるアボット前首相が安倍晋三首相と緊密な関係にあったことが挙げられる。
しかし、日本が防衛装備品の輸出の経験に乏しいために今回の受注獲得に失敗したとの指摘もある。
日本は2014年に武器禁輸策を転換する「防衛装備移転三原則」を閣議決定している。多額の利益をもたらす潜水艦の受注は政策変更後初めての大型受注となり、安倍政権にとって大きな勝ち点となるはずだった。
さらに、日本政府は中国の台頭に対抗する方策のひとつとしてオーストラリアとの軍事的な連携強化を狙っているとみられている。潜水艦の共同開発によって、装備で互換性を持たせることが期待されていた。
日本の受注敗退が日豪関係に影響を及ぼすとの見方もある。
ターンブル首相は、安倍首相に連絡したと明らかにし、「日ごとに強まるオーストラリアと日本の特別な戦略的関係を維持する強い決意」を共有したと述べた。
(英語記事 France wins A$50bn Australia
submarine contract)
《維新嵐》日米豪による海軍力による対中戦略的連携は変わりはありません。ただ共通の装備による「互換性」がなくなりました。いわば我が国の次期戦闘機導入に際して、アメリカのF-35Aではなくユーロファイタータイフーンを採用したというものでしょう。だからといって日米安全保障体制がなくなるわけではないですから。同じ意味です。ただ共産中国の覇権主義と対抗していく戦略のためには、兵装の互換性はあった方が理想的でしたね。
共同開発相手はフランスに決定・日本の「そうりゅう型」は落選
中国の圧力に日和る?
2016.4.26 11:45更新 http://www.sankei.com/world/news/160426/wor1604260024-n1.html
【シンガポール=吉村英輝】オーストラリアのターンブル首相は平成28年4月26日、記者会見し、日本、ドイツ、フランスが受注を争っていた次期潜水艦の共同開発相手について、フランス企業に決定したと発表した。日本は、官民を挙げて、通常動力型潜水艦では世界最高レベルとされる「そうりゅう型」を売り込んだが、選ばれなかった。
ターンブル氏は、造船業が集積する南部アデレードで会見し「フランスからの提案が豪州の独特なニーズに最もふさわしかった」と選考理由を述べた。さらに、海軍装備品の中でも最も技術レベルが必要とされる潜水艦が「ここ豪州で、豪州の労働者により、豪州の鉄鋼で、豪州の技術により造られるだろう」とし、豪州国内建造を優先した姿勢を強調。7月に実施する総選挙に向けてアピールした。
地元メディアによると、ターンブル氏は25日夜、フランスのオランド大統領に電話をし、結果を伝えたという。
日本は受注競争で、「そうりゅう型」の実績や性能の高さ、日米豪の安保協力深化を訴えた。一方、フランス政府系造船会社「DCNS」は潜水艦の輸出経験が豊富で、現地建造による2900人雇用確保など地元経済への波及効果を早くからアピールしてきた。
次期潜水艦は建造費だけで500億豪ドル(約4兆3千億円)で、オーストラリア史上最高額の防衛装備品調達。アボット前首相は日本の潜水艦を求めたが、支持率低迷で昨年9月にターンブル氏に政権を追われて交代。ターンブル氏が経済連携を重視する中国は、豪州側に日本から潜水艦を調達しないよう、圧力をかけていた。
《維新嵐》 共産中国は、外交的なメッセージで豪州に「圧力」をかけていた!?豪中の経済関係を考えた時にターンブル政権が、このメッセージを気にしたことはあり得ます。
豪州潜水艦受注の陰に、共産中国の対日工作戦術あり。
いい加減に我が国も情報戦略での劣勢を挽回できないものか!?
フランスの販売戦略 日本相手に絶望的状況から逆転のフランス「偉大な勝利だ」 極秘のステルス技術で口説き落とし
産経新聞
【ベルリン=宮下日出男】オーストラリアが次期潜水艦の共同開発相手にフランス政府系企業のDCNSを選定したことについて、フランスでは歓迎の声が広がっている。国内雇用の重要な柱の一つである軍需産業の振興に向けた官民一体の武器輸出攻勢が功を奏したもので、ルドリアン仏国防相は「偉大な勝利だ」と強調した。「フランスを信頼してくれて感謝する」。オランド仏大統領は2016年4月26日、豪政府による選定結果の発表直後に声明を出し、受注決定を「歴史的」と称賛した。
フランスは潜水艦を豪本土で建造することで現地に2900人の雇用確保を約束したが、仏側でも4千人の雇用創出につながるとされる。仏軍需産業は約17万人の雇用を抱える主要産業。約10%で高止まりする失業率の改善は仏政府にとり大きな課題で、長期の大型受注は支持率が低落中のオランド氏には朗報だ。
仏メディアによると、豪潜水艦の受注は当初、日本相手に絶望的な状況だったが、国防省と関係企業は連携して準備を継続。豪側の首相交代が転機となり、攻勢を加速させた。3月にはルドリアン氏が豪側を訪問し、これに仏企業団体の代表団も続いた。
さらに、フランスの勝因は他にもあるとされる。仏側はプロペラでなくジェット水流で静かに推進する装置の提供を決めた。極秘のステルス技術の海外輸出はDCNSにとって初めて。報道によると、仏側は豪側と対立関係にある国に提供しないとも確約し、豪側は驚きを示したという。
《維新嵐》 フランスに限らず、兵装の輸出、共同開発事業は、経済的な効果も見込めて、安全保障面での拡大意識にもつなげられる意味があることがわかります。しかしフランスの「潜水艦営業戦略」は手際がいいです。我が国は、今回は本懐をとげられませんでしたが、フランスの販売戦略から学ぶべきところはたくさんありますね。
フランスの潜水艦受注戦略 その驚くべき行動
焦点:日本敗れ潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏勝利の裏側
ロイターhttp://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e7%84%a6%e7%82%b9%e6%97%a5%e6%9c%ac%e6%95%97%e3%82%8c%e6%bd%9c%e6%b0%b4%e8%89%a6%e3%80%8c%e3%81%94%e3%81%86%e3%82%8a%e3%82%85%e3%81%86%e3%80%8d%e5%b9%bb%e3%81%ab%e3%80%81%e4%bb%8f%e5%8b%9d%e5%88%a9%e3%81%ae%e8%a3%8f%e5%81%b4/ar-BBsn3Ze?ocid=spartandhp#page=2
<本格的な国際競争へ>
2014年11月、フランスのル・ドリアン国防相は初めて豪州を訪れた。豪州の次期潜水艦の受注を獲得しにいくことを決めた仏政府系造船DCNSのトップ、エルベ・ギウ氏に促されての訪豪だった。国防相が飛んだのは、首都のキャンベラやシドニーではなく、南西部の都市アルバニー。そこは第1次世界大戦中、西部戦線に展開したフランス軍の応援に、豪軍が兵士を送り出した場所だった。
ル・ドリアン国防相は豪政府の主要閣僚とともに、100年前の悲しい出来事を称えた。「国防相はその重要なイベントに参加することを切望した。そこで豪州のジョンストン国防相、アボット首相と話す機会を得た」と、同行した仏関係者はいう。過去を共有することで、潜水艦の協議に向けた扉が開いたと同筋は振り返る。
豪政府は当時、自国建造は技術的リスクが高いとして、海軍の要求性能に近い海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦を輸入する方向で日本と話を進めていた。日豪は首脳同士の仲が緊密で、中国けん制のために防衛協力を強化したいとの思いも共有しており、日本が受注することは確実とみられていた。日本の政府内では、豪州向けのそうりゅうをもじり、「ごうりゅう」プロジェクトと呼ばれていた。
ちょうどこのころ、豪州では政治の風向きが変わり始めていた。自国の造船会社はカヌーを造る能力もない、などと発言したジョンストン国防相が2014年12月に辞任。強権的との批判や景気減速などでアボット政権の支持率は低下した。
日本が受注すると豪州に経済効果がないとの声が高まり、「競争的評価プロセス(CEP)」という名の競争入札に切り替えざるを得なくなった。
2015年2月19日、日本の安倍晋三首相はアボット首相から電話を受けた。次期潜水艦建造の支援先を決めるに当たり、日本、ドイツ、フランスを対象にCEPを実施したい──。アボット首相はそう告げた。20日に発表するという。
安倍首相は「トニー」、「シンゾウ」と呼び合うアボット首相の苦境を理解し、入札への変更を承諾した。武器市場に参入したばかりの日本が、準備のないまま本格的な国際競争に放り込まれた瞬間だった。
<安保法案への影響を懸念>
ところが、政府・三菱重工業(7011.T)・川崎重工業(7012.T)で作る日本の官民連合は、独造船ティッセンクルップ・マリン・システムズ、DCNSとの競争になったことの意味を理解していなかった。「豪州が本当に欲しいのは日本の潜水艦。勝っているのだから、余計なことはしないというムードだった」と、日本の関係者は振り返る。
© REUTERS 焦点:日本敗退で潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏の勝利の裏側
翌2015年3月に豪州で開かれた潜水艦の会議に日本から参加したのは、海上自衛隊の元海将2人。豪国防相が出席したにもかかわらず、日本が現役の政府・企業関係者を送らなかったことは、豪国内で驚きを持って受け止められた。ティッセンとDCNSは、この場で自社の潜水艦建造能力を大いにアピールした。
同月には豪政府からCEPへの招待状が届いたが、 日本は5月まで入札への参加を正式決定しなかった。大型の武器輸出の入札に手を挙げることで、国会の予算審議、その後に控える安全保障法案の議論に影響が出ることを懸念した。
建造に必要な部品や素材を供給する現地企業の発掘にも苦戦した。豪企業の参画をできるだけ高めるのが入札の条件だったが、武器の禁輸政策を取ってきた日本の防衛産業は同国内に足掛かりがなかった。現地企業向けに説明会を開いても、当初は計画を具体的に説明せず、日本は前向きではないとみられるようになった。
さらに、日本は豪国内で建造しない、最先端の鋼材を使うつもりがないなどの現地報道が相次いだ。「独が情報戦を仕掛けてきた。日本の欠点を徹底的に叩いてきた」と、別の日本の関係者はいう。
同年9月には、安倍首相の盟友だったアボット首相が退陣。ライバルのターンブル首相が就任し、入札は完全な自由競争となった。「日本は受注確実の取引に招待されていたのに、気が付けば経験のないまま国際入札になっていた」と、豪防衛産業の関係者は指摘する。「ポールポジションから、窮地に立たされることになった」と、同筋は話す。
<連絡あれば日本を支援した>
どの国の案にも弱点はあった。2000トンの既存艦を2倍の大きさにする提案をしたティッセンは、技術的なリスクが大きかった。日本のそうりゅうは静粛性には優れているが、リチウムイオン電池による航続距離が疑問視された。DCNSは5000トンの原子力潜水艦の動力をディーゼルに変更するという誰も手掛けたことのない提案をしていた。
仏にとって重要な節目は、15年4月にショーン・コステロ氏を現地法人のトップに据えたことだった。辞任したジョンストン豪国防相の側近で、豪海軍で潜水艦に乗っていた。豪政府系の造船会社ASCの幹部だったこともある。受注に向けて現地のチームを率いるには適任だった。
もし日本がコステロ氏に声をかけていれば、彼は日本の支援に応じていただろうと、同氏をよく知る関係者は言う。「しかし、日本は電話をかけてこなかった」と、同関係者は話す。
DCNSの現地チームは、受注獲得に必要な課題をすべて洗い出した。最大の懸案は、豪潜水艦に武器システムを供給する米国企業が、仏との協業を敬遠しているとの噂があることだった。
しかし、システムの入札に参加しているロッキードとレイセオンとの協議で、これも解決した。そして2016年3月、仏はダメ押しとして政府・財界の一団が大挙して訪豪し、DCNS案を採用した場合の経済的なメリットを訴えた。
<日本の巻き返し>
日本も昨年夏、経済産業省から防衛省に送られた石川正樹審議官がチームを率いるようになってから、巻き返しを図った。1隻目から豪州で建造する具体案をまとめ、現地に研修所を作って技術者を育成することを10月に発表した。
資源価格の低迷に苦しむ豪経済の浮揚につながる産業支援策を準備し、現地にリチウムイオン電池工場を建てることも検討した。そして最終局面の今年4月、三菱重工がようやく現地法人を設立、海上自衛隊が豪軍との共同訓練にそうりゅう型潜水艦「はくりゅう」を派遣した。
しかし、はくりゅうがシドニー港を離れた4月26日、ターンブル首相はDCNSに発注することを発表した。ル・ドリアン仏国防相が自国の勝利を知ったのは、前日の25日。14年11月のアルバニーへの訪問を思い出しながら、仏で戦没した豪軍兵士の追悼式に参加していた。
「仏の動きには注意を払っていなかった」と、日本の関係者は言う。「日独が情報戦で互いを叩き合っている間に、仏はうまく浮上した。地道に根回しをし、冷静だったと思う」──。
(久保信博、ティム・ケリー、シリル・アルトメイヤ、コリン・パッカム 編集:田巻一彦、リンカーン・フィースト)
「中国を喜ばせる結果に」ローウィ国際政策研究所(シドニー)のユアン・グラハム氏に聞く
2016.4.27 11:05更新 http://www.sankei.com/world/news/160426/wor1604260040-n1.html
ターンブル政権は、次期潜水艦の共同開発相手決定で、性能などを考慮したと強調した。ただ、野党労働党は潜水艦の国内建造を主張して政権攻撃していた。安全保障面だけではなく、雇用など国内問題が今回の決定に影響した側面は否めない。
ターンブル氏が政権浮揚のため打って出る今年7月の総選挙では、次期潜水艦が建造されるという南オーストラリア州の議席がカギを握る。政局も考慮されたと思われて仕方ない。日本からの潜水艦調達を主張していたアボット前首相は、今回の決定が「不純」だと選挙戦で攻撃するだろう。
米軍は豪側に、現役の「コリンズ級」と同様、フランスの次期潜水艦でも、戦闘システムを提供はするだろう。だが、日本の「そうりゅう型」に提供される予定だったものと比べれば、性能面で制約を受ける。日豪と連携して南シナ海などの抑止力維持を目指す米国の落胆は深い。
ターンブル氏は会見で、あえて日本との安保上の連携の重要性を訴えた。日本の安倍首相が、今回の決定で対豪関係を厳しくみると承知しているためだ。他の防衛装備品を日本に発注するなどし、日本との関係改善を模索する必要がある。
そうりゅう型の調達に反対していた中国からの圧力が、どう影響したかは不明だ。だが、現実政治として、今回の判断は中国を喜ばせる内容となった。次期潜水艦の実践配置までには時間がかかる。国内建造にしたことでさらに長期化するだろう。その間、国際安保情勢が想定以上に厳しさを増せば、ターンブル政権の今回の判断は、禍根を残す結果を招く。(談)
《維新嵐》 今回の潜水艦共同開発の失敗自体は、あまり長く尾を引かない方がいいでしょう。
潜水艦装備の面での互換性がなくなったというだけで、日米豪の海洋戦略での協調は今後も強化されていくわけですし、装備面での互換性をつなげていくなら、潜水艦以外の装備で模索すればいいことかと思います。兵器の共同開発は、今や主要国のトレンド的なやり方になりつつありますが、営業は熾烈を極めていきますから、一度の敗北でめげてしまうことはないのです。
要は、失敗を次への戦略的な成功への糧にしていけるかどうか、が重要かと考えます。