反テロで協調を狙うもロシアが背負う新たな脅威
トルコ軍によるロシア機撃墜で広がる余波
廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)
2015年11月25日(Wed)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5651
2015年11月13日にパリで発生した同時多発テロは世界に大きな衝撃を与えた。同テロは、ISIS(「イスラム国」。ISILとも)が犯行声明を出しており、また、さらなるテロの計画についても言及していることから、各国で警戒感が広がっている。今回のテロがISISに対する空爆への抗議の要素が極めて強いことからも、ISISに対する空爆に参加している諸国には特に大きな緊張が走っている。
そして、それら諸国の中でも、9月からシリアへの攻撃を弛まず続け、報復措置も受けているロシアの警戒感は特に強いと言える。
パリ同時多発テロ前夜のロシアとISIS
ロシアは9月末からシリアに対し空爆やカスピ海からの巡航ミサイルによる攻撃を続けているが(ただし、ロシアはISISに向けて攻撃をしていると主張している一方、欧米諸国はロシアが標的にしているのは主にシリア国内の反アサド派であると批判を続けてきた)、それに対する報復として、10月31日に、シナイ半島上空で、ロシアのサンクトペテルブルクに向かっていたロシア航空会社「コガリムアビア」のエアバスA321が機内に持ち込まれた爆弾によって墜落し、乗客乗員224名が全員死亡する事件が起きた。
同事件についても、ISISの傘下テロ組織「シナイ州」が犯行声明を出し、ロシア側は最初、テロの可能性を否定していたものの、様々な検証結果から、爆弾による空中爆破による墜落であることがほぼ間違いなくなり、ロシア当局としても本事件をテロと認めざるを得なくなった。そこで、11月6日には、ロシアのウラディミル・プーチン大統領が同国とエジプトを結ぶすべての旅客航空便を当面の間、運航停止にすると発表した。
ロシア当局にとって旅客機事故をテロと認めることは大きな痛手であった。何故なら、テロから国民を守れないことは政府の失策となる上に、そのテロがシリア空爆に対する報復だということになれば、国民の支持を集めていたシリア空爆への反対論が高まる可能性もあったからだ。そのため、事件の直後からテロの可能性の高さを重々承知しつつも、ロシア政府は同事件がテロだったという断定を避けてきた。
パリ同時多発テロ発生後のロシアと
ウクライナ問題への利用
ウクライナ問題への利用
そのような中で起きたのがパリ同時多発テロである。パリ当時多発テロは、ロシア機事件の決着のつけ方で頭を痛めていたに違いないロシア当局にとっては渡りに船になったと思われる。フランスのような欧州の先進国でもテロを防げなかったという事実はやはりテロの被害国となったロシア政府を安心させ、また、世界が「反テロ、反ISIS」で一致団結する雰囲気が高まったことは、対シリア攻撃などロシア政府の政策に対する批判をもみ消す効果を持ち得たといえるだろう。
そして、11月17日になって、プーチン大統領はやっと公にロシア機墜落を、爆発物を用いたISISによるテロと断定する発表を行ったのだった。当初、イワノフ大統領府長官が「原因解明には相当長期の調査が必要」だと述べるなど、ロシア当局が事件の結論を明示する時間稼ぎをしていたことが明らかであることからも、筆者は17日のテロとの断定宣言にはパリ同時多発テロの影響が大きいと考える。
プーチン氏は16日深夜に、トルコで開催されていた20カ国・地域(G20)首脳会合から帰国した直後に、安全保障関係の閣僚による会議を招集し、連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官に調査結果を報告させた。同長官は、乗客の荷物や機体の残骸を調査した結果、ロシア国外で製造されたと見られる手製爆弾(のちに、ISISが同型の手製爆弾の写真を公開)の痕跡を確認し、TNT火薬に換算して1kg相当の爆発があったとみられるとし、テロだと断定できると報告した。
そして、この報告を受け、プーチン大統領は17日に墜落事件をテロだと断定する発表を行い、同時に、報復として対シリア空爆を強化する方針も明らかにし、ISISを壊滅するために、主要国の協力を強化する必要を訴えたのだった。加えて、プーチン氏はテロ実行犯を必ず見つけて訴追すると断言した上で、捜査の徹底を指示し、それを受けてFSBは有力情報には5000万ドル(約61億円)の報奨金をだすとウェブサイトで発表した。
ただし、エジプト側はまだ同事件をテロだと認めていない。同事件がテロだとなれば、エジプトの飛行場のセキュリティの甘さが証明されることとなるだけでなく、観光業が痛手を被ることも間違いなくなることから、エジプト経済への悪影響も極めて甚大となる。そのため、エジプトが同事件をテロだと認めたくないのは、ロシア以上であることは間違いない。ロシア機が出発したシャルムエルシェイク空港の職員二人を、爆弾を仕掛ける幇助をした疑いで拘束したという報道も、エジプト当局は否定している。
ちなみに、ウクライナ問題による欧米による制裁とルーブルの暴落により、ロシア人の海外旅行先は大きく限定されるようになり、チャーター便が用意されたこともあって、エジプトのシャルムエルシェイクは最近のロシア人の人気観光先の1位を占めていた。このことから、本テロの衝撃はエジプトにとってもロシアにとっても大きな意味を持った。
こうして、ロシアはテロとの断定を表明してからは、より一層、国際的な対テロ協力を求めるようになった。ウクライナ問題で国際的に孤立していた中で、国際的に「反テロ」で協調できれば、ウクライナ問題から諸外国の目をそらせ、欧米諸国との溝を埋められるという思惑も間違いなくあるだろう。このようなことから、ロシアにとってパリ同時多発テロは多くの利益や機会を与えてくれたと言えるのである。
ロシアが、2001年の米国同時多発テロ後の「テロとの戦い」を目的とした米露蜜月、NATOとの関係強化に代表される、世界との関係強化という漁夫の利を再び得たいと期待しているのは間違いない。
また、17日の発表に先立ち、ウィーンで行われたシリア和平を目指す多国間外相級協議では、ロシアの和平案が事実上採択され、シリアの政権移行を半年で行う合意も成立していた。このことからも、シリア問題でロシアがかなり主導的な立場を維持していることもわかる。米国が約1年シリアに空爆してもほとんど効果がなかったのに対し、いろいろな批判はあるものの9月末からのロシアによる対シリア空爆がそれなりの効果を出してきたことに鑑み、中東情勢ではロシアの方が米国より立場を強めたことは間違いない。
そして、11月18日、ロシアはISISをはじめとするテロとの闘いにおける協力に関する新たな決議案を国連安保理に提出した。同案文では「ISISとの闘いおよび各国の協力の必要性に大きな力点が置かれている」という。
これに先立ち、ロシアはこれに先行する反テロの大連合を目指す決議案を9月30日に安保理に提出していた。それは、プーチン大統領が国連総会での演説でISISやその他のテロ組織と闘うために世界が大連合を組んで協力するよう呼びかけた2日後のことであり、ロシアがシリア空爆を開始したその日でもあった。だが、その決議案は英米仏が難色を示したことにより、採択は阻まれたという。それでも、ロシアは決議案の「再度提出」を試みつづけるという。
なお、フランスも独自のテロ問題に関する決議案を作成し、それを受けて国連安保理は11月20日に、パリ同時多発テロを非難し、ISISと「あらゆる手段で戦う決意」を表明する決議案を全会一致で採択した。この動きに対してロシアは強く反発しており、各国が決議案を出すのではなく、早急に世界がISISに対して団結すべきだと主張し、ロシアの決議案を主張し続けるとしつつも、ISIS対策での国際連携を重視し、フランスによる決議案には反対しなかった。
一方同じく11月18日に、ロシアのラブロフ外相は、シリア内戦終結と政治移行を目指す反体制派などとの協議を来年1月までに開始したいという考えを発表した。
同日、フィリピン訪問中のオバマ米大統領は、シリア内戦の終結と政治的移行を目指す外交的取り組みでロシアを「建設的なパートナー」と評価し、シリアのアサド大統領の去就に関しては米露間の大きな溝がある一方、それが克服できれば米露の協力拡大の可能性が高まるとも述べた。
こうして「反テロ」の国際的連帯においては、ロシアが主導的立場を取れる可能性が出てきたかに見え、同時に、ロシアがウクライナ問題で失った国際関係が改善していく可能性も生まれたように見えた(だが、後述のように、その雰囲気は長くは持たなかったのだが)。ロシアは、多国間の対シリア対策で主導権を握れば握るほど、ウクライナ問題での欧米の制裁を緩和できると見ていたといってよい。11月16日には、これまで断固拒んできたウクライナの債務返済の繰延を容認する考えを突然、何の前触れもなく発表して世界を驚かしたが、その行動も、ウクライナ問題での諸外国との軋轢を緩和したい動きの一貫だと思われる。
シリア攻撃の増強とイランへの接近
こうしてロシアは報復として、17日以降、対シリア攻撃を強化している。特に17日には、フランスとロシアがともに、ISISが「首都」とするシリア北部のラッカを含むISISの拠点を空爆した。ロシア国防省の発表によると、ロシア軍が投入した戦略爆撃機は「Tu-160」、「Tu-95MS」、「Tu-22M3」の3機種で、ロシア空軍が保有する大型戦略爆撃機と中型戦略爆撃機の全種類であり、空中発射式の巡航ミサイルや爆弾を投下したという。この規模からも、ロシアの本気度がわかる。しかも、空爆用の爆弾に「われわれのために、パリのために」と書き込む動画なども流された。
また、20日には、ロシアのショイグ国防相が海軍のミサイル艦がカスピ海から巡航ミサイル 18発を発射し、ラッカなどを攻撃したとプーチン大統領に報告した。カスピ海からの巡航ミサイル攻撃は10月7日以来2回目であり、対テロ作戦で国際社会との協調を目指す姿勢を示す一方で、アサド大統領の退陣問題などで対立する欧米に対して精密誘導兵器を誇示し、牽制する目的もあったと考えられる。
なお、11月17日の攻撃では露仏両国の連携はなかったが、両国は双方が受けたテロを受け、連携姿勢を強めており、17日にプーチン大統領はオランド仏大統領との電話会談の後に、ロシア海軍に対し、地中海東部に向かうフランス海軍の部隊と連絡を取り、同盟軍として扱うよう指令を出すなど、さらなる攻撃強化に向け、両国は連携を強めつつある。プーチン氏は、ロシア軍幹部に対し、海軍と空軍によるフランスとの合同作戦計画を練ることも命じた。急遽、オランド大統領が11月26日に訪露し、プーチン大統領と会談することも決まり、ISIS対策での連携強化が合意される見込みだ。
また、ロシアのイランへの急接近も注目すべき動きだろう。そもそも、ロシアとイランの関係は基本的に良好であったが、前号の拙稿「シリアに介入するロシア その複雑な背景と思惑」でも述べたように、ロシアがシリアへの空爆を決行するに至った背景の一つに、イランの存在があったことが間違いないなど、最近の両国関係は特に緊密になっていた。
そのような中、プーチン大統領が11月23日に8年ぶりにイランを訪問し、同国の最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領との会談後、イランに対し、発電所や港湾整備など35の事業に計50 億ドル(約6000億円)の支援を行うことを発表したのである。
首脳会談では、ドルを介さない両国の自国通貨による貿易決済の方向性や、ロシアが主導するユーラシア経済同盟とイランの間の自由貿易協定、イランの原発建設でのロシアの支援強化、査証制度の簡素化、関税引き下げなどについても議論がなされたという。ウクライナ危機による経済制裁や石油価格下落でロシア自身の経済状態も厳しい最中の援助であることとその金額の規模を考えれば、ロシアがいかにイランを重視しているかがわかる。
ロシアとしては、核問題の最終的な合意後に対イラン制裁が解除される前に、同盟国としてイランをしっかり取り込んでおきたいのだろう。しかも、イラン訪問を発表した11月12日には、プーチンが出席予定であった18日からフィリピンのマニラで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の欠席も発表していた(APECにはメドヴェージェフ首相が出席)。
これは、フィリピンに対しては極めて異例かつ非礼な決断であり、プーチンが「マニラよりテヘランを選んだ」つまり、アジア太平洋より中東を選んだとも分析された。10月20日には、シリアのアサド大統領がロシアを電撃訪問し、11月15-16日のトルコで行われた20カ国・地域(G20)首脳会合の際には、トルコのエルドアン大統領はもとより、サウジアラビアのサルマン国王と会談し、24日にはロシアのソチでヨルダンのアブドラ国王と会談することが決まっている。
加えて、30日にパリで始まる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、イスラエルのネタニヤフ首相との会談を早々に決めているなど、プーチン大統領の中東諸国との関係強化の姿勢は最近極めて顕著である。シリア問題で主導権を握り、そのまま中東全体での影響力を強く確保しようとしている狙いが見て取れる。
テロの脅威の増大と問われる対応
このように、パリ同時多発テロで、ロシアは多くの外交カードを得たかに思えるが、ロシアがさらなるテロの被害を被る可能性が高まったのも事実だ。
パリ同時多発テロが起こる前日の11月12日までに、ISISのメディア部門はロシアに対する攻撃を警告するビデオ声明をインターネット上に公開していた。その声明は、プロパガンダ映像を背景に「近いうちに血が海のようにあふれ出るだろう」「ロシアは死にかけている」とロシア語で好戦的な歌を流しているが、英語の字幕付きであり、ロシアのみならず、世界に発信しようとしている意図は明らかだ。
そして、テロの脅威はパリ同時多発テロでさらに現実味を帯びた。11月20日には、国際テロ組織アルカイダ系のイスラーム武装勢力「アルムラビトゥン」によるホテル襲撃事件が起き、ロシア人6人を含む19人が犠牲になる事件が起き、アルカイダ系テロ組織がISISに対抗して起こしたテロとも見られており、世界にテロの波が広がっている。
加えて、ロシアがシリアでの攻撃を拡大したのを受け、報復が計画される可能性が高まった中、11月17日に、ロシア原子力庁は「テロ警戒の一環として、原発の安全管理や施設の警備を強化した」と発表し、ロシア全土の原子力発電所においてテロに対する警備態勢を強化した。また、国内のテロ対策も強化しており、たとえば、11月22日にも、ロシア国家テロ対策委員会が同国南部のカバルディノ・バルカル共和国の首都・ナリチクで対テロ作戦を実施し、ISISに忠誠を誓っていた武装勢力の11人を殺害したと発表した。加えて、ロシア政府はこれまでにもまして、国境管理や移民管理を厳重に行うとしており、そのことは中央アジアからの出稼ぎ労働者にとっては打撃となるだろう。
実際、ロシアの主要都市や原子力発電所などで、テロが起こされてしまえば、ロシアの対外的、対内的威信は地に落ち、ロシア国民も不安にさいなまれ、ロシア政府に対する支持も低下する可能性がある。ロシア機に対するテロについては、エジプトのセキュリティ対策不足という言い逃れができても、ロシア国内でテロが起きれば、それはプーチン政権にとって大きな痛手となる。ロシアとしては、何としてもテロを防がねばならないのである。現在、ロシアが背負ったテロ対策への重荷は限りなく大きいと言えそうだ。
また、ロシアにとって、ロシア主導でISISを壊滅できることが、国内外共に名声や支持を高めるための最善のシナリオであるが、現在、ISISをとりまく状況は極めて複雑であり、ISISを壊滅させるために世界が一枚岩になれないが故に、それが困難となっているという図式もある。イスラーム教シーア派のイランは、スンニ派のアラブ・中東諸国とは相容れない前提がある一方、イランとイラクはロシアとの関係を緊密化している。他方、ロシアはシリアのアサド政権を支持しており、アサドをなんとしても引き摺り下ろしたい欧米諸国とシリア国内の反アサド派とは対立関係にある。そして、シリア隣国のトルコも、ISISの壊滅を望みつつも、同時にクルド人問題を抱えており、シリアではクルド人勢力を攻撃しているという事実もある。それに、欧米としては対ISISでまとまるといっても、ロシアに主導されることには我慢がならない背景もある。このように、対ISISで国際的な連携が生まれるためには様々な障壁があるのである。
テロリストの手先が背後から攻撃?
ロシアにとっては、チャンスも含む一方、多くの困難をはらんだ、難しい局面が続いていたなか、11月24日にトルコ軍がロシアの爆撃機「スホイ24」を撃墜する事件が、シリアとトルコの国境付近で発生した。トルコ側は、10回にも及ぶ警告を無視して、トルコ領空を侵犯したので撃墜したと主張するが、ロシア側はシリア領空を飛んでおり、トルコの領空を侵犯していないとし、双方の主張は完全に食い違っている。しかも、ロシアの参謀本部によれば、撃墜された爆撃機からパラシュート脱出した乗員のうち一人が地上から銃撃されて死亡し、救出に向かったロシアのヘリコプターも攻撃を受けて兵士一人が死亡したとのことで、ロシアのトルコに対する憤りは頂点に達している。
プーチン大統領は、ロシア機は決してトルコの領空を侵犯していないと主張した上で、「テロリストの手先がロシアの爆撃機を背後から襲った。2国間関係に深刻な影響を与えるだろう」と強い言葉でトルコを批判した。ロシアが中東諸国との関係強化を進めていた中で計画されていた11月25日のラブロフ外相のトルコ訪問も中止となり、ロシア国民に対し、トルコ訪問を控えるようメッセージが発せられた(トルコは、ロシア人のウクライナ危機後の人気の海外旅行先として第2位の座にあった)。加えて、トルコとの軍事的な接触を中断するなど、即座に事実上の対抗措置を打ち出し(11月24日現在)、今後も新たな措置が出される可能性は高い。
だが、トルコのエルドアン大統領はロシア機が領空侵犯をし、警告を無視したという立場を崩さず、撃墜は正当であったと主張する。加えて、ロシアが空爆を行っていたトルコに近接するシリア北西部はトルコ系民族の居住地域であり、ISISとは無関係なトルコ人の親戚が多く犠牲になっているとし、ロシアの空爆そのものも批判した。そもそも、トルコは9月末からのロシアによるシリア空爆が始まってから、ロシアによる領空侵犯を度々批判し、10月16日には無人機を撃墜する事件も起きていた(トルコはロシア機と判断したが、ロシア側は否定)。このような緊張感の中、トルコは「何か発生した場合の責任はロシアにある」と度々警告してきた経緯がある。そのため、トルコとしては、今回の事件の責任もロシアにあるという立場だ。
今回の撃墜は、ISISとの戦いという目的を共有しつつも、アサド政権の去就を巡っては対立するロシアとトルコを含む有志連合の乖離と、対ISISの国際連携の難しさを浮き彫りにする象徴的な事件だと言える。皮肉なことに、このような事件はISISにとっては好都合であり、このような状況は国際的なテロの展開を容易にしてしまいかねない。
しかも、ロシアとトルコは歴史的には地域の覇権を争ってきたとはいえ、近年は戦略的な大人の関係を維持してきた。そのような両国の関係が悪化すれば、そもそも多くの紛争の火種を抱えた黒海地域の微妙な均衡が崩れ、地域の混乱につながる可能性が高まる。そうなれば、世界中に不安定感が広がってしまう。
関係国は対ISISという共通の目的を思い出し、一度冷静になって、世界の平和により資する慎重な対応を取るべきだろう。
《維新嵐・こう思います》
あくまでシリア・アサド政権の維持から中東、地中海方面への影響力を担保したいロシアが、トルコの領空付近に接近しすぎたのか、という気がします。
基本的に、領空侵犯した際の対応としては、警告に従わない場合は撃墜しても国際法には違反しないわけですから、ロシア側が領空侵犯がないとあくまで主張するなら、根拠となるデータをまず示すべきでしょうね。
何にしてもロシアとトルコにとっての「共通の敵」は誰なのか、ははっきりしているわけですから、双方誤解のないようにトルコの防空データや当日のロシア側の爆撃機の飛行データをつきあわせてわだかまりのないように解決してほしいと願うばかりです。
《維新嵐・こう思います》
あくまでシリア・アサド政権の維持から中東、地中海方面への影響力を担保したいロシアが、トルコの領空付近に接近しすぎたのか、という気がします。
基本的に、領空侵犯した際の対応としては、警告に従わない場合は撃墜しても国際法には違反しないわけですから、ロシア側が領空侵犯がないとあくまで主張するなら、根拠となるデータをまず示すべきでしょうね。
何にしてもロシアとトルコにとっての「共通の敵」は誰なのか、ははっきりしているわけですから、双方誤解のないようにトルコの防空データや当日のロシア側の爆撃機の飛行データをつきあわせてわだかまりのないように解決してほしいと願うばかりです。
青山繁晴氏
ロシア機撃墜に2つの理由~エルドアンの深謀遠慮~
佐々木伸 (星槎大学客員教授)
2015年11月27日(Fri)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5665
トルコによるロシア軍機撃墜は両国の対立を激化させ、シリアをめぐる軍事的な緊張が高まっている。撃墜に至った背景には、トルコの”皇帝”と呼ばれるエルドアン大統領の深謀遠慮がある。しかし過激派組織「イスラム国」(IS)を攻撃する側のこうした分裂で、ISだけが独り、ほくそ笑んでいる。
アサド退陣棚上げ論つぶし?
画像:iStock
エルドアン大統領はシリアのアサド大統領の追放を長らく求め、反体制派を支援してきた。シリアとの国境管理や物資の補給、石油の不正密売などでISに比較的緩やかな対応を取ってきたのも、ISよりもアサド政権の打倒を優先させていたからだ。
しかし、シリアに軍事介入し、ISよりも反体制派への攻撃を続けていたロシアは10月末のエジプトでのロシア旅客機爆破テロ、パリの同時爆破テロを受けて、方針を修正しIS攻撃を本格化させた。米国のオバマ大統領やフランスのオランド大統領はロシアを取り込んでIS攻撃を一体化させようという絵を描いた。米主導の有志連合とロシアとの共闘である。
こうした空気を反映し、シリアの紛争で欧米とロシアの最大の対立点だったアサド大統領の扱いをめぐって、アサド氏の処遇を一時棚上げにして、ISに米欧ロで一致して当たろうという機運が急速に高まった。これに危機感を深めたのがエルドアン大統領である。
アサド退陣棚上げ論が既定路線になれば、アサド政権を追放し、トルコ寄りの新政権を樹立することを第1に掲げてきたエルドアン氏の戦略は大きく狂ってしまう。ベイルートの消息筋は「アサド棚上げ論では、結果的にロシアやイランの要求が通り、アサド氏が移行政権でも生き残ってしまう。これを恐れて棚上げ論をつぶしにかかったのがロシア機撃墜の理由の一端だ」と指摘する。
確かに撃墜事件の後、米欧ロの共闘の雰囲気は一変し、冷戦時代の再来を思わせるような対立状況となった。米国とロシアのISに対する戦果をめぐる応酬も激しくなった。米国防総省は、ISのタンクローリー1000台を破壊したといったロシア側の発表を誇張しすぎと批判、これにロシアも米国を嘘つき呼ばわりするなどとげとげしいやり取りを繰り広げており、”棚上げ論つぶし”ということであれば、エルドアン氏の狙いはうまくいったことになる。
もう1つ、撃墜の理由はシリアの少数民族の反体制派、トルコ系のトルクメン人をロシアが攻撃したことに対する怒りである。トルクメン人はトルコ国境に近いシリア北部を居住地区とする少数民族で、エルドアン氏が”親類”と呼び、トルコの庇護下にあると見なす部族だ。アサド政権の打倒を目指す反体制派として戦闘に加わってきたが、このところ、ロシア軍機によるトルクメン人攻撃が目立っていた。
トルコ政府はロシア大使を呼んで再三注意したが、ロシア側がこれを軽視したような姿勢を示していたため、愛国主義者にして民族主義者のエルドアン氏が激怒し、ロシア機の領空侵犯には撃墜もやむなし、との決定になったようだ。
NATOの介入を回避
プーチン氏は「背後から刺された」「謝罪の一言もない」などとトルコを非難、最新の地対空ミサイル・システムをシリアに配備する一方で、ロシアからの天然ガスパイプラインの建設の見直しも含め経済制裁を発動する構えだ。
エルドアン氏は「再び領空侵犯があれば、同じように対応する」と強気の姿勢を崩していないが、実際のところ、プーチン氏がこれほど強く反発するとは予想していなかったようで、計算違いとの見方も強い。特にロシアはトルコにとって最大の輸入先。全輸入量の10%(2014年)を依存、輸出も4%を占めている上、ロシアがトルコ旅行の禁止を打ち出したのが打撃だ。
北大西洋条約機構(NATO)はトルコの要請を受けて緊急理事会を開催し、加盟国であるトルコとの連帯を強調した。しかし今回の撃墜事件をロシアとNATOの問題にはしたくない、というのが本音で、エルドアン政権に対して自制を強く促している。オランド仏大統領は26日モスクワでプーチン氏と会談し、ロシア側にもトルコとの対立をエスカレートさせないよう求めた。
トルコとロシアの緊張が高まる中、エジプトやチュニジアではISの分派によると見られるテロが続発するなど、パリの同時多発テロ以降も各地でISの活動が活発化しており、国際的なIS包囲網の亀裂を尻目にISが欧州で新たなテロを画策しているとの懸念も浮上している。
《維新嵐こう思います》
トルコ国内での反ロシア感情もあるようですが、トルコとロシアが反目すれば、せっかく対テロでできつつある国際連携に穴があいてしまいます。ロシアに言い分はあっても、領空侵犯に対して断固対応したトルコ側の処置を受け入れるべきでしょう。
敵はISです。トルコ、ロシアの反目は、ISにとって好都合な事態になっていくだけです。
《維新嵐こう思います》
トルコ国内での反ロシア感情もあるようですが、トルコとロシアが反目すれば、せっかく対テロでできつつある国際連携に穴があいてしまいます。ロシアに言い分はあっても、領空侵犯に対して断固対応したトルコ側の処置を受け入れるべきでしょう。
敵はISです。トルコ、ロシアの反目は、ISにとって好都合な事態になっていくだけです。
“ルビコン川超えた”プーチン・ロシアとト
ルコの対立、決定的に
佐々木伸 (星槎大学客員教授)
2015年12月02日(Wed) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5678
ロシア爆撃機の撃墜で緊張高まるトルコとロシアの関係はプーチン大統領が撃墜の理由について、過激派組織イスラム国(IS)からの石油密輸ルートを守るためとトルコを非難し、抜き差しならないところまで悪化した。両国の対立と緊張はいつまで続くのか。
11月30日、ロシアに還される撃墜されたパイロットの遺体(Getty Images)
「それを言っちゃお終い」
プーチン氏の発言は2015年11月30日、国連の気候変動会議「COP21」が開かれているパリの記者会見で飛び出した。同氏は「犯罪者にロシア人パイロットら2人が殺された」と非難した上で、トルコがISの支配地域から大量に石油を密輸しており、撃墜はこの輸送経路がロシア軍機に破壊されないよう守るためだった、と大胆に指摘した。
トルコがISと手を組んでいると受け取れる発言にエルドアン・トルコ大統領も「証拠があるなら見せてもらいたい。テロ組織と商売するほどわれわれは下品ではない」と強く反発、証明されたら自分は大統領でいられないが、「あなたはどうだ?」とやり返した。
プーチン氏の発言はトルコにとっては「それを言っちゃお終い」(テロ専門家)のような意味を持つ。ISと戦っている米欧やロシアの間には、シリアのIS支配地域からの石油の密輸やシリアへの戦闘員の流入が止まらないことにトルコが本気で国境管理を行っていないという不信感が強く、一部にはトルコとISの闇の関係を疑う声もあるからだ。
だからこうした国際的な不信の目を意識しているトルコにとって、今回のプーチン氏の発言は到底容認できるものではない。「プーチン氏は怒りにまかせてルビコン川を渡った。両国の関係修復は難しくなった」(ベイルート筋)という険悪化した状態だ。
プーチン氏はエルドアン氏からの首脳会談の要請を一蹴し、撃墜されたSU24爆撃機などに空対空ミサイルを搭載、最新の地対空ミサイル・システムS400をシリアのラタキアの空軍基地に配備するなど軍事的な緊張も高めている。ただこうしたロシアの強気の姿勢もいつまでも続かないという見方もある。
ロシアは11月末、チャーター便の運航停止や農産物の輸入制限などトルコに対する経済制裁を発動したが、取り沙汰されていた天然ガスの輸出停止や原発建設中止などは含まれていない。「ロシアは原油価格の低下や西側経済制裁で経済的に大きな打撃を受けている。これ以上の経済の悪化は望んでいない」(ベイルート筋)からだ。ロシアも突っ張ってばかりはいられないというわけだ。
なぜIS資金が枯渇しないのか
プーチン氏が指摘した石油密売はISの活動資金の大きなソースで、いったんは米軍の精油所などへの空爆で激減したものの、簡易の精油装置を導入して生産が急増。最近では1日5万バレル、月約50億円の密売収入を上げるようになっているという。
このため米軍がISのタンクローリーへの攻撃を強化、ロシアも同様の攻撃を開始していた。しかし米英紙によると、ISはすでに石油密売に依存しなくてもいいように支配地域の住民らからカネを搾り取る暴力的なシステムを確立、年間約10億ドル(1200億円)もの収入を得ている。
ニューヨーク・タイムズによると、ISのこのシステムはさまざまな徴税から不動産の家賃、電気・水道料金、イスラム法に違反した行為への罰金まで多岐に渡っており、米国のテロ専門家は「彼らは朝に戦い、午後には税金を徴収している」と指摘しているほどだ。
税金で言えば、ISは支配地域の出入り口に検問所を設け、物資輸送のトラックなどから通行料を徴収、イスラム国のロゴの入った受領書を発行している。ヨルダンからアイスクリームを冷凍車でイラクに運ぶ運転手は1カ月に3回、300ドルを支払っている。首都であるシリアのラッカでは、「清掃税」という名目で市場の各商店から月、7ドルから14ドルを納めさせている。
住民は電気代として月、2ドル50セント、水道料金として1ドル20セント程度を払っている。イスラム法違反の罰金も収入源となっており、例えば喫煙を見つかった男性は15回のむち打ちとともに、罰金約40ドルを支払わされたという。
ISはこうした歳入システムを作り上げることによって、空爆などの影響を最低限にとどめており、組織の資金源を断つためには、最終的に支配地を奪回して住民を解放するしか方法がない。ロシアとトルコがいがみ合い、IS包囲網に深刻な亀裂が生じている現状では、IS壊滅は遠のくばかりだ。
《維新嵐こう思います。》
ISの首脳部を支配するのは、アメリカに崩壊させられた旧フセイン政権の残党ですから、放っておいても国家的な体裁は形成されていくでしょう。ここで対IS包囲網が作られつつある今、その中枢にあるトルコとロシアの対立で包囲が崩れるようなことはあってはならないのです。
領空侵犯されたと「見なされれば」警告、撃墜されるのは、違法なことではありません。
ロシアは、まず自国爆撃機に本当に領空侵犯がなかったのかどうか検証して、この事件に早々にオチをつけてほしいものです。
《維新嵐こう思います。》
ISの首脳部を支配するのは、アメリカに崩壊させられた旧フセイン政権の残党ですから、放っておいても国家的な体裁は形成されていくでしょう。ここで対IS包囲網が作られつつある今、その中枢にあるトルコとロシアの対立で包囲が崩れるようなことはあってはならないのです。
領空侵犯されたと「見なされれば」警告、撃墜されるのは、違法なことではありません。
ロシアは、まず自国爆撃機に本当に領空侵犯がなかったのかどうか検証して、この事件に早々にオチをつけてほしいものです。