北朝鮮がグアムを執拗に目の敵にする理由
アンダーセン空軍基地の爆撃機はこうして北朝鮮を攻撃する
北村淳
グアム島の米アンダーセン空軍基地で基地の概要について説明を受けるジョン・リチャードソン海軍作戦部長( 2017 年 5 月 17 日、出所:米海軍)
北朝鮮が、2017 年8 月29 日に引き続き2017年9 月15 日にも、日本列島上空を通過させてグアム島攻撃用弾道ミサイルのデモンストレーション試射を実施した。
VIDEO
グアムの米軍基地は今
グアムはアメリカの準州であるが、多くのアメリカ人にとってはどこにあるのかも知らない存在だ。そのため、北朝鮮が弾道ミサイルを日本の頭上越しに太平洋上に撃ち込んで、グアムを攻撃できる能力をアピールしても、一部の軍関係者を除いてはほとんど危機感は生じていない。
アメリカと違い日本でグアム島は観光地として有名であるが、「なぜ北朝鮮がグアムを目の敵にしているのか?」はあまり語られていないようである。
グアムにはこれまで100 年以上にわたって、アメリカ軍の拠点が設置されてきた。1898 年、米西戦争に勝利したアメリカは、スペイン領であったグアムを手に入れて海軍の拠点を設置した。それ以降、今日に至るまで、軍種や規模の変遷はあるものの、グアムにはアメリカ軍が駐留し続けている(ただし、日本軍が侵攻してアメリカ軍を駆逐した昭和16 年12 月10 日から、日本占領軍がアメリカ軍に撃破された昭和19 年7 月21 日までの期間を除く)。
現在もグアム島総面積の3 分の1 を米軍関連施設 が占めている。島の北部一帯には米空軍アンダーセン基地が、島の西側のアプラ湾周辺には米海軍グアム基地が設置 されている。
それらの基地を中心にグアムに駐留しているアメリカ軍将兵はおよそ7000 名 であり、現在のところ空軍と海軍が中心 となっている。加えて、近い将来には最大で7000 名の海兵隊員が沖縄から移動してくることになっている。
北朝鮮にとってアンダーセン基地は、沖縄に駐屯している米空軍や海兵隊、それに、三沢基地や岩国基地を本拠地にしている空軍や海兵隊の戦闘機部隊などよりも忌み嫌うべき存在である。
なぜなら、アンダーセン基地は爆撃機の拠点となっており、もしアメリカが北朝鮮を先制攻撃する場合にはそれらの爆撃機が主戦力になると考えられているからだ。
アンダーセン空軍基地にはB-1B 爆撃機、B-52H 爆撃機が配備されている。また、アメリカ空軍の虎の子であるB-2 ステルス爆撃機も前進拠点として使用できる設備が整っている。
さらに、爆撃機に加えて、爆撃機を護衛する戦闘機も恒常的に米本土から飛来しており、アンダーセン空軍基地は常に即応態勢を維持している のだ。
アメリカが北朝鮮を先制攻撃する場合、北朝鮮の核施設、各種ミサイル施設、地上移動式ミサイル発射装置(TEL )が格納されている施設、それに韓国との境界線の北側地域一帯に展開している各種砲兵部隊などを、極めて短時間で殲滅しなければならない (少なくとも1000 カ所程度と言われる攻撃目標を短時間のうちに徹底的に破壊しないと、韓国や日本に対する報復攻撃が実施され、日米韓側は言語に絶する犠牲を払うことになる)。
それらの施設の大半は、地下施設、半地下施設、それに山腹の洞窟施設などの形態 をとっている。したがって先制攻撃を実施する際は、それらの地下式設備の位置が特定できていることが前提条件 となる。
ここでは、米韓の軍事情報網がかなりの割合で特定に成功し、アメリカ政府が先制攻撃を決断したとして、どのような攻撃を加えることになるのかシミュレーションしてみよう(現実には、このような特定ができていないため、先制攻撃には踏み切れていない)。
・B-2 ステルス爆撃機による攻撃
先制攻撃の先陣を切るのは、重要な地下攻撃目標(おそらく核開発施設やアメリカへの報復用ICBM がスタンバイしている施設など)への地中貫通爆弾による攻撃である。大型地中貫通爆弾(GBU-57 “MOP ”)ならびに地中貫通爆弾(GBU-28 “バンカーバスター”)による攻撃が加えられることになる。
このMOP やバンカーバスターを搭載して、攻撃目標近くの上空まで接近して攻撃を加えるのが、B-2 ステルス爆撃機である(下の写真)。B-2 ステルス爆撃機にはMOP ならば2 発、バンカーバスターならば8 発を搭載することが可能だ。
B-2 ステルス爆撃機(写真:米空軍)
アメリカ空軍は「世界で最も高価(1 機およそ2000 億円)な航空機」と言われるB-2 ステルス爆撃機を20 機保有している(21 機製造されたが1 機は事故で墜落してしまった)。テスト飛行用の1 機を除く19 機のB-2 ステルス爆撃機は、全てミズーリ州のホワイトマン空軍基地を本拠地としている。これまでにアメリカ軍が実施した作戦行動の多くにおいて、B-2 ステルス爆撃機はホワイトマン空軍基地を発進し、長時間飛行して攻撃目標を爆撃している。ただし、30 時間以上のような長時間を要する作戦行動の場合は前進拠点からの運用も実施されており、グアムのアンダーセン空軍基地にもB-2 ステルス爆撃機用の設備が完備されている。
北朝鮮に対する先制攻撃では、アンダーセン空軍基地から出撃するB-2 ステルス爆撃機によるMOP とバンカーバスターによる地下設備攻撃が、口火を切るものと考えられる。
・B-1B 爆撃機による攻撃
B-2 ステルス爆撃機に引き続き、アンダーセン空軍基地を発進したB-1B 爆撃機による攻撃が行われる。B-1B 爆撃機は、空母や、日本それに韓国などの航空施設から飛び立った戦闘機の護衛を伴い、地上や半地下目標への猛爆撃を実施する。
B-1B 爆撃機はソ連とのデタントによって核爆弾は搭載できない仕様になっているが、有名なB-52H 爆撃機よりも大型で、爆弾搭載量も多い(高性能爆薬500 ポンド爆弾ならば84 発搭載可能)。スピードもB-52H より速く(マッハ1.2 )、かつ機動性能に優れている。そのため低空を敵の防空レーダーを超音速でかいくぐって攻撃目標に接近することができる。
B-1B 爆撃機(写真:ボーイング社)
・洋上からミサイル攻撃
以上のB-2 ステルス爆撃機およびB-1B 爆撃機による奇襲的爆撃とタイミングを合わせて着弾するように、米海軍巡航ミサイル原潜や攻撃原潜、それにイージス巡洋艦やイージス駆逐艦などが大量のトマホーク長距離巡航ミサイルを発射する。そのためには、爆撃開始時刻の1 時間〜30 分前にはトマホークミサイルを発射する ことになる。
・B-52H 爆撃機と韓国軍F-15 戦闘機による攻撃
引き続いてアンダーセン空軍基地から飛来したB-52H 爆撃機が多種多様の爆弾を投下し、場合によってはアメリカ軍の指揮下に入った韓国軍のF-15 戦闘機がバンカーバスターを含んだ爆弾を投下する。
・韓国軍も総力で攻撃
これらの爆撃に加えて、韓国軍による砲撃や、巡航ミサイル攻撃、そして短距離弾道ミサイル攻撃(韓国軍は北朝鮮全域を攻撃することができる巡航ミサイルと短距離弾道ミサイルを多数保有している)など、ありとあらゆる火力を総動員して、北朝鮮軍の報復能力を壊滅することになる。
(残念ながら現状では、上記シナリオが成功し、30 分程度と言われる“短時間”で北朝鮮軍の反撃報復戦力を完膚なきまでに破壊することは不可能と試算 されており、ソウル周辺を中心とする韓国や日本に対して報復攻撃が加えられるのは必至と考えられている。 そのため、トランプ政権は“口撃”は加えているものの、軍事オプションに踏み切ることには躊躇をせざるを得ない状態が続いている。)
このように、北朝鮮にとっては、アンダーセン空軍基地を拠点にする米空軍爆撃機による攻撃こそが、核搭載弾道ミサイル攻撃と匹敵する、あるいはそれ以上の脅威と映っている。そのため、北朝鮮はグアム島攻撃能力の誇示にいそしんでいるというわけである。
ただし、北朝鮮がグアムに向けて実際に弾道ミサイルを発射する段階には立ち至っていない。なぜならば、オバマ政権下で軍事予算を大幅に削減されてしまったアメリカ軍の現状では、B-2 ステルス爆撃機やB-1B 爆撃機を多数出動させたり、超高額なMOP やバンカーバスターをふんだんに攻撃に投入するまでにはかなりの準備期間が必要であることを、北朝鮮側は十分承知している からだ。
したがって、太平洋上に弾道ミサイルを撃ち込むミサイル技術の向上試射を時折実施して、日本にはるか頭上の宇宙空間を弾道ミサイルが通過する度に大騒ぎをさせて、怯えさせていれば事足りるのである。
《維新嵐》北朝鮮は、よく日米韓の軍事的な動き、配置、戦力をよくみながら、核開発とミサイルの実験をしていることがよくわかります。アメリカ、日韓も北朝鮮を制圧するノウハウはあるのだが、限られた期間の中で作戦目標を達成する自信があるか不安になってきて直接の軍事オプションまで踏み込めないということはよくわかります。
北朝鮮の側からすれば、ミサイルを太平洋にむけて発射、我が国に「恫喝」をかけることにより、アメリカを政治的にゆさぶり直接交渉にもっていく、ということでしょう。
【日米、日米韓の軍事的連携を強化する訓練】
これが北朝鮮への「軍事的圧力」となりますね。
空自とアメリカ空軍、東シナ海でF-15 とB-1B が編隊航法訓練
航空自衛隊は2017 年9 月9 日( 土) 、アメリカ空軍と東シナ海で共同訓練を実施しました。目的は、日米共同対処能力及び部隊の戦術技量の向上で、編隊航法訓練を実施しました。
参加兵力は、航空自衛隊が那覇基地の第9 航空団所属のF-15 が2 機、アメリカ空軍がグアム・アンダーセン空軍基地の第37 遠征爆撃飛行隊所属のB-1B が2 機でした。公開されている画像によると、F-15 は「32-8943 」「52-8951 」、B-1B は「86-0118 」「85-0081 」でした。B-1B は「85-0081 」がこの後、三沢基地を訪問して地上展示、「86-0118 」はアンダーセン基地に戻っています。詳しくは航空自衛隊、アメリカ空軍のウェブサイトを参照ください。
東シナ海で編隊航法訓練を実施
「 85-0081 」は訓練後に三沢基地を訪問
訓練後にアンダーセン空軍基地へ戻った「 86-0118 」
アメリカ空軍B-1B や海兵隊F-35B 、空自と共同訓練
韓国では爆撃訓練
http://flyteam.jp/airline/united-states-marine-corps/news/article/84314
航空自衛隊は 2017 年 9 月 18 日 ( 月 ) 、アメリカ空軍と九州周辺の空域で共同訓練を実施しました。目的は、日米共同対処能力及び部隊の戦術技量の向上で、編隊航法訓練を実施しました。
参加部隊は、航空自衛隊が築城基地の第8 航空団所属のF-2 が4 機、アメリカ海兵隊から岩国基地の第12 海兵航空群F-35B が4 機、アメリカ空軍がグアム・アンダーセン空軍基地の第37 遠征爆撃飛行隊所属のB-1B が2 機でした。空自F-2 は、公開されている画像によると、「13-8515 」「53-8535 」「63-8536 」「43-8526 」が参加しています。
訓練は、日米韓三カ国の連携の一環として実施されたもので、空自との共同訓練に続き、アメリカ空軍と海兵隊は韓国空軍との二国間共同訓練を実施しています。このB-1B とF-35B は韓国と北朝鮮の国境付近まで飛行し、爆撃訓練を実施しています。詳しくは航空自衛隊、アメリカ空軍のウェブサイトを参照ください。
航空自衛隊 F-2 と B-1B 、 F-35B
日米韓共同訓練
【北朝鮮が核兵器開発&弾道ミサイルを開発する理由】
金正恩は「側近による暗殺」を恐れ核ミサイルから手を引けない
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e9%87%91%e6%ad%a3%e6%81%a9%e3%81%af%e3%80%8c%e5%81%b4%e8%bf%91%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e6%9a%97%e6%ae%ba%e3%80%8d%e3%82%92%e6%81%90%e3%82%8c%e6%a0%b8%e3%83%9f%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%ab%e3%81%8b%e3%82%89%e6%89%8b%e3%82%92%e5%bc%95%e3%81%91%e3%81%aa%e3%81%84/ar-AAsh6l8?ocid=spartandhp
ダイヤモンドオンライン
武藤正利
核実験や日本上空を通過するミサイルを発射するなど、北朝鮮の挑発行動はエスカレートするばかり。国際社会は制裁を強め、金正恩を対話に引きずり出そうとしているが応じないだろう。なぜなら、側近による暗殺を恐れているからだ。(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)
北朝鮮の核ミサイル開発はいよいよ最終局面
北朝鮮は2017 年9 月3 日、6 回目となる核実験を行った。その規模は、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)が公表する揺れの大きさを基準に計算するとマグニチュード6.1 、破壊力は160 キロトンで、広島原爆の10 倍と推計されている。これを受けて北朝鮮は、「水爆実験が成功した」と発表。2016 年に行った5 回目の実験は11 ~12 キロトンであったことから、その技術の急速な進歩が伺える。
さらに、2017 年9 月15 日には、8 月29 日同様に中距離弾道ミサイル「火星12 型」を発射、日本の襟裳岬の上空を飛行し、3700 キロメートル飛んで太平洋上に着弾した。これは、グアムまでを十分射程に収める距離だ。それに先立って、7 月4 日と28 日には「火星14 型」と言われるICBMを、ロフテッド軌道で発射している。
こうした北朝鮮の挑発行動に対し、国連安保理は9 月11 日、追加制裁決議を採択した。それによれば、まず石油の輸出に関し、過去12 ヵ月の輸出を年間の上限にするとし、石油関連製品の輸出を3 割減とすることが盛り込まれた。また、労働者の海外派遣は新規雇用を禁止、現在の労働者についても更新を禁止するとしている。
加えて、現在は、中国からの加工委託を受けて生産している繊維製品の輸出を禁止(16 年の輸出額は7 億2600 万ドル、今年上半期の輸出は56 %増)、北朝鮮の貨物船を公海上で検査することについて、禁輸品の積載が疑われる場合には加盟国に要請する、そして北朝鮮の個人団体との合弁企業を禁止する、というのが主な内容である。こうした制裁によって、北朝鮮の輸出の9 割が削減されると言われている。
制裁受けても開発を加速化有効な制裁は石油の禁輸
2017 年8 月5 日に決定した追加制裁では、石炭・鉄・鉄鉱石・海産物・鉛の輸出全面禁止措置を取ったため、北朝鮮は輸出総額の3 分の1 に相当する年10 億ドルの外貨収入を失ったことになる。
しかし、北朝鮮は核ミサイルによる挑発を加速している。
そのため今回の制裁に際し、当初、米国が提案していた決議案には「石油禁輸」が含まれていた。北朝鮮の核ミサイル開発を制裁によって止めるためには軍事活動の“血液”となる石油の禁輸が不可欠だ、と考えられているからだ。
とろこがこれは、北朝鮮の暴発を招きかねない。戦前の日本が、ABCD包囲網による石油禁輸で追い詰められ、真珠湾への奇襲攻撃で太平洋戦争に突入したように、北朝鮮も身動きが取れなくなった時、一か八かの攻撃を仕掛けてくる危険性があるからだ。
そうした懸念もあり、北朝鮮を追い詰めたくない中ロの反対で、決議案の主要な部分は薄められてしまい、米トランプ大統領は、「石油禁輸のない決議では不十分」と述べている。だが、原油の取引をテーブルに載せたことは、今後の決議で石油禁輸を取り上げる足掛かりとなろう。1 週間で決議を採択したことも成果と言える。
唯一、残されたのは制裁により対話を引き出す方法
今、日米韓をはじめとする国際社会の主要国の基本的な方針は、北朝鮮に対する経済制裁を強化することによって、核ミサイル開発の資金を遮断し、北朝鮮が開発を続けられなくすることで「対話」の道に引き出そうというものである。しかし、こうした考えは、「実効性があるから」というよりは、「北朝鮮への有効な対応手段がないため、これに期待する」という“希望”が強いように思えてならない。
米朝ともに対話の道は否定していないが、米国は対話の前提として「北朝鮮の非核化」を求めている。これに対し北朝鮮の対話の目的は、米国に核保有を認めさせ、あわよくば在韓米軍を撤退させることである。つまり、対話といってもその前提が全く正反対で、妥協点がないのである。
他方、北朝鮮に対する軍事行動は、北朝鮮の報復を招いて数十万から百万人単位の犠牲が出かねないと危惧されており、何としても避けたいというのが本音である。
ただ、このまま何もできないでいると、来年前半には北朝鮮が核弾頭を搭載したICBMを実戦配備する可能性もある。したがって、今、期待できるのは石油の禁輸により北朝鮮軍の血液を断つ方法と、制裁により北朝鮮を対話に引き出す方法の2 通りである。このうち石油の禁輸は中ロの反対により、当面は実施されないことになったので、今できることは後者だけだ。
とはいえ北朝鮮は、制裁により資金が枯渇しかけたとしても核ミサイル開発は断念しないであろう。それはなぜか。
一番よく言われているのは、北朝鮮にとって政権の存続を図るためには、核ミサイルを保持し、日米韓を威嚇することで北朝鮮に手出しできないようにする必要があると考えているからである。
金正恩は、イラクやリビアの政権が崩壊したのは「大量破壊兵器を保有していなかったため」であると考えている。北朝鮮では、金日成の時代から核ミサイル開発を続けており、これを完成させることは父・金正日の“遺訓”でもあった。
つまり、米国を攻撃できる核ミサイルを持つことで、米国と対等の立場で交渉できるという考えであり、今年の朝鮮労働党大会において核保有宣言を行い、米国に核保有国として認めさせることを目論んでいる。
核ミサイルを放棄できない事情は国内にもあった
じつは、北朝鮮が核ミサイルの開発を放棄できない理由は、国内にもある。
金正恩にとって最も大事なことは、自身の安寧、そして保身である。金正恩は、政権を継承する前こそ、父・金正日に連れられて中国を訪問し、当時の国家主席だった胡錦涛に会っているが、政権を担ってからは一度も国外に出ていない。諸外国に赴けば、自身の身が危険にさらされると考えているのであろう。米軍の攻撃を恐れ、地下施設内を転々と移動する生活だと聞く。
それだけではない。金正恩は敵国だけでなく、国内の、しかも側近による暗殺も恐れている。
金正恩は、自身の最も近い側近を含め、政権について以来300 人以上を粛清したと言われる。少しでも反逆の噂があれば、捉えて公開処刑してきた。伯父で、最側近と言われた張成澤を公開処刑したことは、今でも語り草である。しかも最も残忍な方法で。機関銃で穴だらけにする。犬に食わせる。人々はこれを見て、恐怖におののいて従っているのである。
国民に対する監視網も徹底している。夫婦の間でも不審であれば密告させており、もう誰も信じられなくなっている。金正日の頃までは、側近や軍人には贈り物をして忠誠を誓わせてきたし、一度失脚しても復権の道があったが、今あるのは恐怖のみだ。
一方で、国民の生活は困窮を極めている。国連食糧農業機関(FAO)によると、今年の干ばつは2001 年以来の深刻さであり、2017 年収穫初期の穀物生産は31 万トンと昨年の45 万トンから、3 割以上減少したようである。にもかかわらず金正恩は、外貨収入を国民のための食糧輸入に使うのではなく、核ミサイル開発に注いでいる。韓国の文在寅政権からの人道支援のための交流も拒否しているほどだ。
北朝鮮国内では、「早く南北間で戦争が起きてほしい」という声をたびたび耳にするという。韓国との戦争で勝ち、経済的な恩恵を横取りしようというのではなく、「もうどうなってもいいから、早く戦争が起きて、今の生活が終わってほしい」と考えているというのだ。指導者から見捨てられた国民の悲劇である。
国内で弱みを見せれば反逆者を生みかねない
こうした状況で、金正恩自身も追い詰められている。
自分たちを犠牲にして進めてきたにもかかわらず、開発をやめてしまえば国民はどう思うか、少しでも弱みを見せれば反逆が起きてしまうのではないかなどと考えている可能性がある。だから、どのような困難に直面しても、強い指導者で居続けなければ、生き残ることができないと考えていると見られる。
したがって、制裁によって開発資金が不足しても、国際社会と手打ちして保身を図るよりは、国民に犠牲を強いてでも、資金がなくなる前に核ミサイル開発をやり遂げようとするのが自然な見方ではないだろうか。
こう考えてくると、北朝鮮に対し、圧力と対話で核問題を解決するのは困難ではないかと思えてならない。仮に対話で問題が解決されるとしても、金正恩政権ではなく次の政権にならざるを得ないであろう。
いかに中国を巻き込むかがカギ
前回の寄稿(「北朝鮮への石油禁輸や斬首作戦は成功するか?元駐韓大使が論評」)で、北朝鮮に核ミサイルを放棄させるためには、金正恩をトップから降ろす以外にないと書いた。米国のキッシンジャー元国務長官は、米中合意が得られれば、その機会は増すであろうと述べたようである。
中国は、北朝鮮が崩壊し、中朝国境が不安定化することは望んでおらず、まして中朝国境付近まで韓国や米国が入って来ることは、決して許すことができないだろう。習近平政権も北朝鮮の行動には辟易しており、そうした懸念さえ払拭されれば政権交代に関して、あるいは少なくとも石油の禁輸で、協力を得ることができるかもしれない。
これは、少なくとも北朝鮮との対話よりは、実現の可能性が高いだろう。北朝鮮に対する中国の影響力の拡大は、東アジアの地政学にとって好ましからざる事態ではあるが、北朝鮮との戦闘や核ミサイルを保持する国との共存よりはましだ。
北朝鮮の核ミサイル問題に正しい答えはない。どの選択肢が「最も犠牲が少ないか」という視点から考えていかざるを得ないのではないか。
北の核保有固執は「政権維持のため」
ペトレイアス元CIA長官一問一答
2017.9.23 22:13 更新http://www.sankei.com/world/news/170923/wor1709230042-n1.html
元CIA長官デイビッド・H・ペトレイアス氏(元米中央情報局長官)が語る。
デービッド・ペトレイアス元CIA長官との単独インタビューの一問一答は次の通り。
--北朝鮮への外交的、経済的圧力の効果は
「経済的、外交的圧力を北朝鮮に加えることによって、北朝鮮が挑発的な形でミサイル、核実験を行うことを一時的にでも思いとどまれば、次に交渉のステップにいくことができる」
--北朝鮮はなぜ核保有に固執するのか
「(金正恩朝鮮労働党委員長)自らが政権の座に居続けることと、抑止力をつけるためではないかと思われる。金委員長は南北の統一を考えているわけではないと思う」
--どう対応するべきか
「マティス米国防長官は、米国の核戦力の3本柱(大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機)を改善していくことを明らかにしている。日本、韓国などが、追加的にどのように防衛能力を強化していくのかということを協議することが大切だ」
--中国による南シナ海などでの現状変更について
「台頭する中国は米国にとって一番の貿易パートナーであるが、摩擦や考え方の違いが出てきている。その一つが南シナ海の問題だ。米国は周辺国とともに断固たる対応をとるが、挑発ではない形で行うことになる」
--米国はアフガニスタンでの戦いにどう幕を引くべきなのか
「アフガニスタンが自ら防衛し、統治できるようにすることが大切だ。(過激派は)パキスタンなどアフガニスタン国外に拠点を作っており、圧力をかけて交渉で解決するということを困難にしている。米国が取り組みを続けることは重要で、短期ではなく10年以上の長期にわたってサポートしていく『持続可能な関与』を支持する」(聞き手 住井亨介)
【北朝鮮は「外国人拉致を行う侵略国家」・妥協のない粘り強い戦いを】
【各地で集会】「拉致被害者救出待ったなし」蓮池薫さんが訴え
加藤担当相は「最大限の圧力必要」
2017.9.23 21:38 更新 http://www.sankei.com/world/news/170923/wor1709230039-n1.html
拉致問題解決への願いや自らの体験について蓮池薫さんが語る
北朝鮮北東部で観測されたマグニチュード(M)3・0の揺れをめぐり、北朝鮮が7回目の核実験を実施したとする情報も錯綜した23日、国内各地では拉致被害者の講演会や、拉致被害者家族らが出席する集会が開かれた。北朝鮮と米国が激しい応酬を展開するなど、北朝鮮をめぐる情勢が緊迫感を増す中、出席者らは改めて早期の問題解決を誓った。
昭和53年7月に北朝鮮に拉致され、平成14年10月に帰国した蓮池薫さん(59)が23日、滋賀県で講演し、「拉致被害者の精神状態はスレスレまで追い込まれ、一刻も早い救出が必要。待ったなしの問題だ」などと訴えた。
北朝鮮が全拉致被害者の再調査を約束した26年のストックホルム合意以降、事態が膠着する中、蓮池さんは北朝鮮が「死亡」としている横田めぐみさん(52)=拉致当時(13)=らに関する物的証拠を出さず、虚偽説明を重ねている点も指摘。「『報告』を受け入れてはならない。生きているから返せ、という前提で交渉すべきだ」と力を込めた。
核とミサイルによる挑発で情勢は緊迫しているが、「拉致問題を決して置き去りにさせてはならない。残された被害者は私たちの帰国をリアルタイムに知っている。『なぜ帰れない』という葛藤や、死亡とされた恐怖の中で生きている」と思いを寄せた。
また、被害者の家族が老いや病に直面する中、「本当に時間がない。一目再会できればいいわけではなく、夢と絆を取り戻す時間が必要だ」と呼びかけた。会場には定員を超える聴衆が駆けつけ、約800人が講演に聞き入った。
「拉致問題の早期解決を願う千葉県民の集い」が23日、千葉市内で開かれ、加藤勝信拉致問題担当相は政府を代表し、「北朝鮮の容認できない暴挙を止めるため、最大限の圧力をかける必要がある。あらゆる政策を駆使し、一日でも早い拉致被害者全員の帰国に向け、政府が先頭に立ち全力で取り組んでいきたい」と述べた。
一方、横田めぐみさんの弟、拓也さん(49)も登壇し、「北朝鮮と対話を試みてもだまされ続け、核・ミサイル開発や拉致被害者が帰国できない現状しか残っていない」と指摘。制裁を強めるトランプ米大統領の対北姿勢を「全面支持する。圧力をもって、拉致問題は解決に動き出す」と訴えた。
【維新嵐】邦人の拉致問題の解決にむけての動きも北朝鮮への圧力となるでしょう。それには北朝鮮に自国民を拉致されたすべての国、日韓だけに限ませんが・・が結束をはかっていくことが重要でしょう。
雲行きが怪しくなってきた北朝鮮情勢
ソウルを火の海にしない米国の軍事作戦とは
織田邦男
米ニューヨークの国連本部で開かれた第 72 回国連総会で演説するドナルド・トランプ米大統領( 2017 年 9 月 19 日撮影)。 (c)AFP/TIMOTHY A. CLARY 〔 AFPBB News 〕
2017 年9 月3 日、北朝鮮は国際社会の警告を無視して6 回目の核実験を強行した。国連安全保障理事会は11 日、新たな制裁決議を全会一致で採択した。厳しい制裁に慎重な姿勢を示してきた中国やロシアも賛成に回った。
当初の制裁決議案には、北朝鮮への石油輸出の全面禁止や最高指導者の金正恩朝鮮労働党委員長の資産凍結を含む厳しい内容が含まれていたが、中国、ロシアの反対により米国が譲歩したという。
この7 月、2 度にわたる大陸間弾道ミサイル「火星14 型」の試験発射を受け、8 月5 日に鉄鉱石、石炭の輸出禁止を含むこれまでにない強い国連制裁決議がなされたばかりである。経済制裁は今回で9 回目となるが、まさに「暖簾に腕押し」状態である。
米国国防省情報局(DIA )が7 月28 日に公表した情報では、「北朝鮮はICBM 級を含む弾道ミサイルで運搬する核弾頭を生産した」「核爆弾の数を最大60 発と推定」「小型化、軽量化、多種化された、より打撃力の高い核弾頭を必要なだけ生産できるようになった」とある。
今回の核実験は水爆実験だと北朝鮮は主張しているが、もはや弾道ミサイルに搭載できるまで「小型化、軽量化」は完成したとみるべきだろう。
9 月11 日の国連制裁決議にもかかわらず、15 日には北朝鮮は中距離弾道ミサイル「火星12 型」を再度発射し、グアム島を射程に入れる3700 キロを飛行させた。
この「火星12 型」は8 月29 日に発射したものと同じであり、この時も日本上空を通過させた後、太平洋に着弾させている。だが、この発射では2700 キロの飛行距離に留まった。
ただし、「今回の火星12 型の発射は飛距離が2700 キロしかなく、筆者は試験発射に失敗したとみている」とし、「グアム方向の射撃は米国の反発でやめたが、2700 キロではグアムをいつでも攻撃できるというメッセージにはなり得ない」ので「今後も成功するまで火星12 型のミニマム・エナジー軌道発射試験は続くと思われる」と書いた。
不幸にも予想が的中してしまったが、先述のDIA 情報と合わせて考えれば、初めて米国領土に届く北朝鮮の核搭載弾道ミサイルが完成したことになる。
この事実に米国は衝撃を受けたようだ。
これまでドナルド・トランプ米大統領は、「これ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。北朝鮮は炎と怒りに見舞われるだろう」(8 月8 日) 「誰も見たことのない事態が北朝鮮で起きるだろう」(8 月10 日)と述べ、軍事力行使も辞さない強い意志を示していた。
だが実態は、軍事的「手詰まり」状態であり、現配備兵力ではとても軍事力行使はできない状況にある。
今年の4 月7 日、化学兵器を使用したシリアに対し、米国は59 発の巡航ミサイルを撃ちこんだ。北朝鮮に対しては、このような「ちょっとだけ攻撃」して「お仕置きを」というわけにはいかない。
ソウル周辺には北朝鮮の火砲の射程圏に約2000 万人が住んでおり、言わば約2000 万人が人質状態にある。軍事力行使で核やミサイル施設を破壊するには、同時に38 度線に配置された約1 万門とも言われる火砲を奇襲的に一挙に無力化しなければならない。
これを実行するには、海空軍の航空戦力の大規模増派が必要である。だがこれにはロジスティックも含めると最低1 ~2 か月はかかり、奇襲性が失われるというジレンマがある。
また、この作戦を実行する場合、反撃による犠牲は日本、韓国にも及ぶ危険性が高い。従って両国政府の事前承諾は欠かせないが、特に文在寅韓国大統領は北朝鮮攻撃には強硬な反対姿勢を示しており、承諾を得るのは難しい。
小規模軍事作戦で「斬首作戦」という選択肢もなくはないが、リアルタイム情報(ヒュミント情報)が決定的に不足している。また「ポスト金正恩」の出口戦略もない。この作戦の特徴は、チャンスが1 回しかないということだ。
しかも金正恩の死を検証できる攻撃でなければならない。(死体が確認できないような攻撃は失敗)失敗すれば反撃の口実を与えることになり、ソウルが「火の海」になる危険性が高い。
この「手詰まり」状態を最もよく理解しているのはジェームズ・マティス米国防長官である。彼は軍事力行使の可能性も示唆しながらも極めて慎重な発言に終始してきた。
8 月5 日の国連制裁決議後、翌6 日にはトランプ大統領の「炎と怒り」発言があり、9 日には北朝鮮の「グアム包囲攻撃予告」、そして10 日には再びトランプ大統領の「誰も見たことのない事態が北朝鮮で起きるだろう」発言があった。
まさにチキンゲームが過熱するなか、8 月13 日、ティラーソン国務長官、マティス国防長官はウォール・ストリート・ジャーナルに連名で寄稿して火消しを図った。
今後の北朝鮮対応として①「戦略的忍耐」は失敗であり、今後は軍事的手段に支えられた外交的努力を主とする②目的は朝鮮半島の非核化であり、北朝鮮の体制変換は求めず(斬首作戦の否定)、朝鮮半島の統一も求めない③交渉を優先する。そのためには北朝鮮がシグナルを送らねばならないというものであった。
トランプ大統領の激しい言辞とは違い、やや宥和的とも言える両長官の主張であった。だが、これに対する「北朝鮮のシグナル」が9 月3 日の6 度目の核実験だった。
北朝鮮の核実験を受け、ホワイトハウスでの緊急会合後、マティス長官は制服組トップのジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長と共に報道陣の前に現れ、さすがに厳しく北朝鮮に警告している。
「米国やグアムを含む米領、そして同盟国に対するいかなる脅威も、大規模な軍事的対応、効果的かつ圧倒的な対応に直面するだろう」「殲滅は考えていないが、そうできる数多くの選択肢がある」
注目点は「米国やグアムを含む米領、そして同盟国に対するいかなる脅威」であり「いかなる攻撃」でないところ、つまり「大規模な軍事的対応」のハードルを一段下げたところだろう。だが「殲滅は考えていない」ということで金正恩を袋小路に追い込んではいない。
だがその後、この警告を無視するだけでなく、11 日の国連制裁決議を歯牙にもかけない15 日の「火星12 型」の発射だった。米国領であるグアム島を射程圏内の収める弾道弾ミサイル発射の成功は、どうやら米国の姿勢を大きく変えたようだ。
5 月以降、4 つの「NO 」、つまり ①政権交代は求めない②政権崩壊させない③半島統一を加速化させない④米軍は38 度線越えないとの主張を続けてきたティラーソン国務長官も17 日、「平和的解決を目指している」としつつ「外交的努力が失敗した場合、残されるのは軍事的選択肢のみとなる」と述べた。
同日、ニッキー・ヘイリー米国国連大使は「私たちの誰もそうしたいと思っていないし、 戦争は望まない」としつつも「北朝鮮が無謀な行動を続け、米国が自国や同盟国を防衛する必要があるなら、北朝鮮は壊滅する」と警告し、「現時点で、安保理でできることは全てやり尽くした」「外交的手段が尽きればマティス将軍が後を引き受ける」と述べている。
彼女の言辞は昭和16 年11 月26 日、ハル・ノートを野村・来栖両大使に手交したコーデル・ハル国務長官が、「私はこの件(日米交渉)から手を引いた。後はあなたとノックス海軍長官の出番だ」とスティムソン陸軍長官に報告したのに酷似している。
これらの発言からキーパーソンであるマティス長官の発言が注目されていたが、18 日、彼は意外にも次のように述べた。
「ソウルを重大な危険にさらさずに、北朝鮮に対して軍事的な対応が可能だ」
これには筆者も大変驚いた。先述のとおりソウルの2000 万人人質状態が軍事力行使の「手詰まり」状態を生んでいるはずだが、これが解決できるとマティス長官が述べたからだ。
8 月18 日に解任されたスティーブン・バノン主席戦略官も軍事力行使には反対し続けていた。解任される2 日前、彼は次のように語っている。
「通常兵器による攻撃の最初の30 分でソウルの1000 万人が死なない、という方程式の一部を誰かが解くまでは軍事的解決はない」
彼もアナポリス(海軍士官学校)出身の元軍人である。軍人であればこの深刻な「手詰まり」はよく理解できる。だからこそ軍事力行使に反対し続けていたのだ。
このマティス発言に驚いているのは筆者だけではない。方程式はどう解くのだろう。まさにマジシャンがステージで帽子から鳩を出すようなもので、軍事関係者からはいろいろと憶測が飛んでいる。
6 回目の核実験直後に実施されたギャラップ社の米国世論調査では、北朝鮮の
核・ミサイル問題で平和的解決が不可能な場合、米国民の58 % が軍事力行使を支持(2003 年調査では47 %)している。
共和党支持者では87 %、民主党支持者でも37 %が支持しており、無党派層も56 %が軍事力行使を支持している。
今後、北朝鮮が国連制裁を無視し続けて、ハワイが射程圏内に入る「火星14 型」、そしてワシントンDC まで届く「火星13 型」の開発を続ければ、米国民は、平和的解決への取り組みは無駄と判断し、軍事力行使を支持する声はますます上るだろう。
9 月19 日におけるトランプ大統領の国連演説はこういう情勢を反映したものに違いない。相変わらず激しく、挑戦的とも言える言葉で北朝鮮を非難している。
「米国は強大な力と忍耐力を持ち合わせているが、米国自身、もしくは米国の同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる」
金正恩朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、「『ロケットマン』は自身、および自身の体制に対する自爆任務に就いている」
問題はその方程式の「解」である。筆者はマティス長官が導き出した「解」であれば、やはり大規模な軍事力行使、つまり正攻法である湾岸戦争型、あるいはイラク戦争型の対応であろうとみている。
北朝鮮が次に何らかの挑発行動を起こした場合、国連で武力行使容認を取りつける根回しを開始する。同時に米国本土や世界各地に展開する米海空軍の航空戦力を日本、韓国、ハワイ、グアムに増派し攻撃作戦準備を開始する。
北朝鮮への軍事力行使はシリアとは状況は全く異なる。ヒル元米国務次官補も「韓国には、北朝鮮の大砲の射程に約2000 万人が住んでいる」と述べている。
38 度線に集中する約1 万の火砲(多連装ロケット砲や長射程火砲など)はソウルを向いており、開戦初頭でこれらを一挙に壊滅させる態勢を確保しなければならない。
そのための作戦準備である。米本土から三沢、横田、嘉手納に攻撃戦闘機が続々と展開する。グアムのアンダーセン基地やハワイのヒッカム基地からも爆撃機、空中給油機、電子偵察機、大型輸送機等など来援するだろう。
同時に米国民へ朝鮮半島への渡航中止措置を実施し、NEO (Non-combatant Evacuation Operation )、つまり「非戦闘員退避作戦」 を開始する。
韓国には現在、観光客を含め米国市民や軍人家族(軍人を除く)が24 万人所在していると言われる。これらの米国民の退避は米国にとっては最優先事項である。日本人も韓国に5 万7000 人所在するため同様な措置が必要となる。
こういった作戦準備に最低1 ~2 か月かかり、その間、中国、ロシア、そして韓国、日本への武力行使容認を取り付けようとするだろう。もちろんそれは容易ではない。
中国、ロシア、韓国は反対を崩さないだろうし、日本でも事前協議をめぐって反対運動が起きるだろう。
北朝鮮の攻撃がない限り、湾岸戦争のように国連から白紙委任状を取りつけるのは不可能だろう。イラク戦争のように国連でお墨つきが得られないまま、攻撃に至る可能性もある。
こういった一連の作戦準備で金正恩はようやく米国の覚悟を悟り、交渉に応ずるかもしれない。
「流血を覚悟して、初めて流血無き勝利が得られる」と言ったのは、クラウゼウィツである。マティス長官はクラウゼウィッツを愛読しているという。彼はこういうシナリオを考えているのではなかろうか。
マティス長官は最後の最後まで戦争を起こしたくないと考えていると思う。戦争の悲惨さは戦場で戦った者が一番よく知っている。これまでの彼の言辞の端々からそれは伺える。
ただ戦争というのはちょっとした錯誤、誤解、読み違いで起きる。戦争になれば日本も被害は避けられない。ミサイルは日本にも当然降り注ぐ。「J アラート」が「狼少年現象」を引き起こすからダメだなんて牧歌的なことを言っていられないだろう。
実のところマティス長官の「方程式の解」が何だかいまだ分からない。だが、どんな「解」にせよ、日本は無縁ではいられないことは確かだ。日本人に覚悟と当事者意識が求められている。
日本ではのんびりと解散風が吹き始めた。一度解散ムードが起きると止められないという。解散するのであれば、次の内閣はひょっとして「戦時内閣」になる可能性もある。このことを自覚したうえで日本国民も選挙に臨まねばならない。