2017年6月25日日曜日

我が国は「自主防衛」のために防衛費を増額できるのか?

日本と大違い、カナダが国防費大増額を決めた経緯

あくまでも自国防衛の必要性から導き出された増額計画

北村淳
NATO軍の任務としてウクライナ軍を指導するカナダ軍将校たち

 トランプ政権によるNATO(北大西洋条約機構)諸国に対する国防予算増額要求がますます強められている。その中で、NATOの一員でありアメリカの隣国でもあるカナダが、カナダ史上最も大規模な国防予算増額計画を打ち出した。
 ただし、トランプ政権の圧力を受けたためではない。あくまでもカナダの安全保障に関する基本戦略を達成するために導き出された大増額である。
NATO加盟国が掲げた目標値
 オバマ政権による国防予算の大削減によってアメリカの軍事力が低下したため、NATO総体としての戦力も低下せざるを得なくなった。その一方で、対IS作戦をはじめとする対テロ戦争は、収束の目途が全く立たない。また、ロシアによるクリミア併合以降、NATOにとっては原点回帰とも言える対ロシア防衛態勢を強化しなければならなくなった。こうした状況から、NATOの戦力強化の必要性は目に見えて増大しているのである。
 ところが、アメリカ軍自身が戦力低下をきたしているため、かつてのようにNATOの戦力低下をアメリカ軍が補うことはできなくなっている。要するに、アメリカだけに期待する時代は過ぎ去ってしまったのだ。
 そこで2014年、NATOは、全加盟国が個々の軍事力を強化することによってNATO総体の戦力を強化する方針を採択した。
具体的には、全てのNATO加盟各国は「10年以内に国防予算をGDP2%以上に引き上げる、そして国防支出のうち20%以上は兵器装備調達費に割り当てる」という目標値を達成することとなった。
 言うまでもなく国ごとに国防予算規模が異なるのは当然である。そのため各国の国防努力の質を「国防費のGDP比」だけで計測することはできない。しかしながら、世界各国の国防費の国際平均値は過去数年間を通しておおよそ「GDP2%」となっている。それを踏まえて、「NATO加盟諸国は少なくとも国際水準であるGDP2%にすべきである」という論理で、目標値は2%に設定されたのだ。

NATO加盟国と日本の国防費のGDP(%)

 また、いくら国防予算を拡大しても、例えばそれらが人件費や施設費などに投入されただけではNATOの戦力強化には結びつかない。したがって、個々の加盟国がNATOに拠出することができる戦力を確実に強化するために、兵器装備調達費の目標値も設定された。
だが、NATOとして戦力強化のための目標値をこうして設定したものの、2年以上経過しても目標値達成のための具体的計画を打ち出した加盟国は少なかった。そこで、トランプ政権はアメリカの国防費のGDP比を4%以上(現在は3.4%)に押し上げる方針を打ち出すと同時に、NATO諸国に対しても、速やかに2%に近づける具体的努力を開始するよう強く圧力をかけ始めたのである。
国民への問いかけを経たカナダの国防費増額
そうした中で、カナダの大規模な国防予算増額計画が打ち出された。
2016年のカナダのGDP(名目GDP)は15292USドル(日本は49386USドル)で、国防予算はおよそ155USドル(189億カナダドル、日本は461USドル)である。
 国防費のGDP比はおよそ1%強(日本は1%弱)であり、NATO加盟27カ国中23位と、国際水準値もNATO平均値も共に下回る状態が続いている。この比率は、NATO加盟国でかつG7参加国の中では最下位ということになり、トランプ政権に言わせれば「全く話にならない水準であり、可及的速やかに真剣な国防努力をなすべきだ」と言うことになる。
 しかしながら、今回、カナダ政府が打ち出したカナダ史上最大規模の国防費増額10カ年計画は、トランプ政権の機嫌をとるためになされたわけではない。もちろんNATO加盟国である以上、NATOの申し合わせを達成する努力をなす義務はあるのだが、あくまでカナダの防衛ならびにNATOをはじめとする国際社会への貢献を達成するために必要な戦略を打ち出し、そのために必要な国防費を推計した結果誕生した国防費増額計画なのだ。
 カナダ国防当局は既に20164月に、カナダ国民に対して国防政策案に対する意見や提言を公募するための報告書「Defence Policy Review Public Consultation Paper」を公表して、国防態勢改革のための最終調整に入っていた。その結果、誕生したのが今年の67日に公表された国防政策の基本計画「Strong, Secure, Engaged: Canada’s Defence Policy」である。その中で「現在189億カナダドルの国防費を段階的に押し上げて20262027年度には327億カナダドルにする」という国防費大増額計画が明示されたのだ。
この基本計画では、カナダ自身を防衛するための基本戦略、北米大陸の安全をアメリカと共に確保していく戦略、NATOや多国籍軍それに国連の諸活動などに参加してカナダのプレゼンスを高めることでカナダ自身の安全保障を強化する戦略、そして、それらの戦略遂行に必要な人的資源や兵器装備などに関する基本計画が述べられている。これらの計画の実現ために、国防費を大幅に増額しなければならないというわけだ。
 要するに、「アメリカに言われたから国防費をGDP2%に近づけるポーズを示さなければならない」といった外圧に突き動かされたのではなく、あくまでも自国の防衛の必要性から導き出された国防費大増額計画と言うことができる。
日本に対する2%要求も時間の問題
トランプ政権が、NATO諸国に対してと同様の国防費増額──おそらくは「少なくともGDP2%という国際水準を達成すべきである」といった大増額要求を日本政府にも突きつけてくることは時間の問題である。
 日本政府、そして国会は、そのような外圧に踊らされるべきではない。「自らの国防戦略達成のための必要性」といった観点から国防予算計画を策定し、もし必要な予算がGDP1.5%で十分ならば「1.5%」を目標値に掲げれば良い。仮にGDP2%でも不足するようならば、さらに高い目標値を達成するための方策をひねり出さねばならない。

 カナダ国防当局の一連の動きは、日本にとっても参考にすべきモデルと言えよう。はじめから「どうせできるわけがない」といった態度では、国防を論ずる資格はない。

《維新嵐》国防費を増額する動機は、この国は十分すぎるくらいあるのではないでしょうか?要はその使い道だと思います。国防についての大戦略が煮詰められていないのに、正面装備にいくらお金をかけたところで「的外れな」防衛体制にしかならず、有効に機能しないのであれば意味はありません。まずは与党も野党も軍事戦略についてのリテラシーを一段高めることが基本でしょう。そしてそのためには国民それぞれがどういう国防戦力が国家の主権と独立を守るために有効な形なのか理解を深める努力をすべきでしょう。

アメリカのトランプ政権からの国防費増額についての要求が出されているのは、カナダだけではありません。

【目前に迫る北朝鮮の脅威】防衛費増額の国会審議を
■加瀬英明(かせ・ひであき) 外交評論家。1936年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、エール大学、コロンビア大学に留学。「ブリタニカ百科事典」初代編集長。福田赳夫内閣、中曽根康弘内閣の首相特別顧問を務める。松下政経塾相談役など歴任。著書・共著に『いま誇るべき日本人の精神』(ベスト新書)、『呆れた哀れな隣人・韓国』(ワック)など多数。

 北朝鮮は、平壌(ピョンヤン)で大規模な軍事パレードを行った2017年4月16日早朝、日本海沿岸からミサイルを試射したが、失敗した。米韓軍合同司令部によれば、中距離弾道ミサイル(IRBM)だった。(夕刊フジ)
 ドナルド・トランプ米大統領は、米国まで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を試射する確証を得たら、先制攻撃を加えると警告している。「アメリカ・ファースト」=「アメリカン・セイフティ(米国の安全)ファースト」なのだ。
 日本が頭から火の粉をかぶることになるが、トランプ政権は、剣道でいえば「肉を斬らせて、骨を斬る」ことになる。肉は日本だ。
 私たちの目のすぐ前で、朝鮮半島に点火する導火線が、火花を散らして燃えている。
 いつ、朝鮮半島に火の手があがることになるのだろうか。
 私は「まだ1年あまりは、時間的な余裕がある」と思う。あるいは、「2年ある」だろうか。
 米国は、中国という龍に北朝鮮に強い圧力を加える芸を、教え込もうとしている。中国が鍵を握っている。だが、中国はホワイトハウスの庭に飼われる、ポチ龍にはなりたくない。
 中国の習近平国家主席は「偉大な5000年の中華文明の復興」、英訳すれば「メイク・チャイナ・グレイト・アゲイン」と叫んで、中国国民の人気を博してきたのに、北朝鮮のおかげで米国に対して威張れなくなった。
 といって、米国のいうままになって、北朝鮮に核開発を放棄するように、真剣に迫ることはしまい。
 北朝鮮が核やミサイル開発を、投げ棄てることはあり得ない。核やミサイル実験を行わなくても、核武装国家のイスラエルの例のように、性能を高めることができる。
 このまま進んでゆけば、米国はいずれ北朝鮮を、攻撃することとなろう。
 国会は与野党が一致して、ミサイル迎撃システムを強化し、北朝鮮のミサイル基地を攻撃する能力を保有するために、防衛費を画期的に増額することを、集中審議すべきだ。
 中国にとって、米国が好戦的な暴力国家としてイメージを大きく損ね、日本がミサイルを浴びて傷つくほど、おいしいことはない。
 72年前に、朝日新聞と狂気に取り憑かれた軍人たちが、日本精神さえあれば「神州不滅」だと叫んで、「一億総特攻」をあおった。
 護憲派が「平和憲法」さえあれば、「日本は不滅」だと説いているが、72年前に「一億玉砕」の道を突き進んでいた、恐ろしい亡霊が全国をさまよっているとしか思えない。
 祈りや精神力だけでは、日本を守れない。

《維新嵐》まずは北朝鮮のミサイル飽和攻撃という「ありえない」脅威に対する対策。防衛費増額となれば、ミサイル迎撃という観点に特化して検討できますね。

NATOに防衛費増額迫るトランプ政権
日本は恐々、駐留費問題沈静化も「このままでは納得しない」
 トランプ米政権の同盟各国に対する防衛費負担をめぐる温度差が鮮明になっている。北大西洋条約機構(NATO)加盟国に国防費増額を強く迫るトランプ大統領だが、日本などアジアの同盟国には表立った批判を避けている。ただ、トランプ氏の矛先が今後、日本に向く可能性は否定できず、日本政府内には防衛費のさらなる増額は避けられないとの声が漏れる。
 「他のNATO加盟国も、財政上の義務を果たそうとするルーマニアに続き、応分の負担をしてほしい。NATOを強くするためには資金が必要だ」
 トランプ氏は9日、ルーマニアのヨハニス大統領とホワイトハウスで開いた共同記者会見で、NATO加盟国に防衛費の負担増を改めて求めた。
 NATO加盟国は2014年9月の首脳会合で、加盟各国の国防費を10年間で国内総生産(GDP)比2%にすることで合意したが、達成しているのは英米など5カ国のみ。トランプ氏は今年5月のNATO首脳会合で「(残る)23カ国は彼らの防衛のため支払うべき額を払っていない」と指摘したほか、集団防衛義務を定めた北大西洋条約第5条の防衛義務にも言及しなかった。
一方、GDP比1%未満の日本への対応は欧州と対照的だ。昨年の大統領選期間中に主張した在日米軍駐留経費の全額負担は政権発足後に封印。今年2月の日米首脳会談後の記者会見では、在日米軍の受け入れに感謝の意まで表明した。
 背景には、ミサイル発射を続ける北朝鮮や、海洋進出を進める中国に対し、防衛費をめぐり日米同盟がギクシャクしている印象を与えるのは得策ではないとの考えがあるようだ。防衛省幹部も日米同盟の戦略的重要性を指摘し、「米国にとってアジアにはライバルの中国、そして悪者の北朝鮮がいる」ことから、良好な同盟関係をアピールする必要があると分析する。
 対照的に、トランプ氏がNATOに強気な姿勢で臨むのは「中国ほどロシアが明確なライバルではないからだ」(外務省幹部)との見方がある。別の外務省幹部は「NATOはGDP比2%の合意がある。約束を守るよう加盟国に『未払い分を払え』という位置づけだ。日米同盟にはそういう約束はないので『約束違反』ということにはならない」と語る。
ただ、2月の日米首脳会談の共同声明では、日本として「同盟におけるより大きな役割及び責任を果たす」と明記した。日本は第2次安倍内閣発足以降、防衛費を年平均0・8%増額させているが、「そのままの伸び率ではトランプ政権は納得しないだろう」(政府関係者)との見方が少なくない。
 日米両政府は7月中旬には外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)をワシントンで開催する方向で調整している。中国や北朝鮮への対応とともに、日本の「役割と責任」が主要議題となる見通しだ。(杉本康士、千葉倫之、ワシントン 加納宏幸)

《維新嵐》安倍政権になってから、防衛費を年平均0.8%づつ増えていたとは、防衛費が増加傾向にあるのは知っていましたが、具体的に数字でみると納得できます。
 この記事を見る限りでは、我が国の防衛費増額は、アメリカに望まれるままにという要素が強いかなと思わざるをえません。アメリカに求められるままの防衛費増額は、アメリカのための防衛力整備になりかねませんし、我が国の事情にあわせた防衛整備にならないと思います。
 防衛費は3%くらいになっても我が国の経済規模からすれば不思議ではない額かと思います。ただ防衛費の使い道を「国情」にあった執行の仕方をしてほしいと思います。
例えば、各省庁に分立する情報機関を統括するセクションを内閣官房におく。(仮に内閣情報局の設置、ヒューミントの拠点)、防衛省のサイバー防衛隊を陸海空自衛隊に続く「第4」の軍種にする。我が国は「サイバー攻撃」による「侵略」を受ける国です。急迫不正な侵略に対応するならサイバー空間でも同じでしょう。国家の知的財産という「国益」は守らなければいけないかと思います。

サイバーインテリジェンスセンター(CIC)

2017年6月20日火曜日

「接続性」の地政学の必要性

なぜ「接続性」の地政学が重要なのか?

中西 享 (経済ジャーナリスト)
「地図に描かれている国境線はあまり意味がなくなり、輸送、エネルギー、通信のインフラネットワークがこれからの世界秩序を考えるキーワードになる」
 インド出身のパラグ・カンナ・シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員は日本記者クラブで講演、「従来の国境線を土台にした地政学は再考すべきで、複雑化する世界情勢を理解するためには『接続性』(Connectography)をベースにした新しい解釈が必要になり、インフラによる都市間の『接続性』が新しい国際秩序を作る」と指摘した。

iStock

間違った地図
 人類は6万年の歴史で、輸送、エネルギー、通信の3分野のインフラを構築してきた。特に冷戦終了後の25年間に、インフラの「接続性」の量が拡大し、あらゆる国境を圧倒するボリュームになっている。このため、これまでは自然環境を表した地図、政治状況を示した地図だったが、これからはインフラの機能を示した地図が最も重要になる。
 しかし、この機能を表した地図はオフィスや学校の教室には掲げられていない。このことが今世紀、大きな心理的、メンタル面で大きな間違いを生んでいると言いたい。私はこの誤った世界の見方を変えたい、革命を起こしたいと思う。最近は世界の動きを「接続性」でとらえようとする機運が出てきている。
 島国である日本にとって「接続性」は重要な意味がある。これからの「パワー」は、日本がその他の社会とどの程度「接続性」を持つかを地図の上に表し、定量化することが必要になる。
国境を超えたメガシティ
 国境を超えた「接続性」がいかに重要かという事例を2つ挙げる。一つは、マレーシア、シンガポール、インドネシアの3か国で、もう一つは中国南部の広州から香港までの珠江デルタ地帯だ。2つの共通点は、インフラが国境を再定義し、2から3の当事者がインフラを通して経済統合で合意したことだ。マレーシアの中で最も急成長しているのがシンガポールに近い南部地域で、インドネシアと一緒に経済特区などができ、電機、造船、繊維、不動産などが伸びている。珠江デルタ地帯には、英国が香港を中国に返還された1977年以降、中国が相当程度の投資を行った結果、この地域はいまでは東京を上回るほどの世界で最大規模のメガシティになっている。予測では、珠江デルタ地帯は20年か25年までには経済規模は25兆㌦になり、インドより大きな規模になる。
 世界の中では、4050の都市が最も重要になり、「都市列島」ができてきている。世界の人口は頭打ちになりつつあり、100億人を超えることはないだろう。この中で、人口は大きな都市に集中するようになる。日本の企業がインフラに技術を輸出する場合は、こうした都市に向けられるべきだ。
「接続性」強化が重要
 パラグ・カンナ インド出身の新進の研究者。1977年生まれ。米国ジョージタウン大学で博士号を取得。ブルッキング研究所などを経て、現在はCNNグローバル・コントリビューター、シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員。今年1月に原書房から『接続性の地政学「『接続性』の地政学 グローバリズムの先にある世界」』(上下2巻)を刊行した。

 チリで20173月に行われたTPP(環太平洋連携協定)加盟国の会合には、TPPを提唱した米国は来なかったが、中国が参加した。貿易関係は地政学的には歴史に基づいたものだが、いまでは変化してきている。かつては国境をめぐる戦争が起きていたが、いまや「接続性」、マーケットアクセスをめぐる戦いが起きている。中国はいまや世界の120か国の最大の貿易相手国になりつつある。パキスタンや東アフリカの国が重要な貿易相手国になり、同盟関係を強め軍事関係を強めてもサプライズではない。
 グローバリゼーションは弱まることはなく、今後、強まるだろう。
 20世紀は欧州と米国の関係が大きかったが、21世紀になってからは欧州とアジアの関係が欧米の関係を凌駕してきている。欧州と中国、インド、日本、東南アジアの貿易量は年間15兆ドルにもなっている。欧州とアジアとの関係ではインフラ整備ができておらず、だからこそ、中国の習近平国家主席が広域経済圏構想「一帯一路」を打ち出した。3週間前に北京で開催された「一帯一路」サミットは、地政学的にも大きな意味がある。ユーラシア大陸にある国は、これにより戦略的目的、野心が変わってくる。
 「一帯一路」構想のプロジェクトは実現には収益性などで懸念があるが、最終的には実現されるだろう。日本がアジア諸国に影響力を行使したいのであれば、相手国との間の「接続性」を強めなければ影響力を行使できない。
新たなグローバルシステム
 東南アジアのインフラをめぐって世界的に競争になっているが、最終的には力の源泉は軍事力ではなく、エンジニアリングの力による。欧州には世界のトップ25のエンジニアリング・建設会社があるが、米国には3つしかない。このため、欧州はアジアのインフラ整備に力を入れようとしている。
 地政学の土台は、領土を支配する大きさに規定されていたが、新しい考え方を取り入れなければならない。今の時代の「力」は、「接続性」の密度と価値で測るべきだ。イデオロギーや歴史、文化のつながりではなくサプライチェーンに関する相互補完性で考えなければならない。
 米国と欧州は西欧文明による文化を共有しているが、いまや欧州はアジアとの「接続性」を強めようとしており、根本的に欧州の戦略は変わってきている。このように「接続性」をめぐる競争は、新たなグローバルシステムを誕生させて、いまよりも良いものになる。「接続性」が強じんになれば、多様なオプションが生まれる。
 その最たる事例が石油だ。イラン、イラクなど中東で不安定リスクはあるが、石油価格は安くなっている。その理由は、石油需給を調整させる道筋があるからだ。昨年は米国の石油の最大の消費国が中国だった。5年前には中東の石油を巡って戦争がおきるかもしれないとささやかれていたが、いまや両国は石油の売買をしている。「接続性」には矛盾がある。場合によっては戦うこともあるが、米中のように長期的には石油価格を安定化させる面もある。
中国の情報量の伸びは相乗的
 中国ではフェースブック(FB)、イーベイ、アマゾンなど欧米の製品を使いたい意欲をそぐことができるが、国内ではこれらが使えなくても、これよりもっとベターなアリババ、ウィーチャットが通信手段として使われている。覚えておいてほしいのは、情報のオープン度合い、開放度合いは、ニューヨークタイムズやFBを読んでいる人の数だけでは測れないことだ。データの流れを調べるには、どの程度の情報交換がさまざまなサービスを通じて行われているかを調べなければならない。世界と中国をつなぐ情報の「接続性」は、FBがあるなしにかかわらず、相乗的に伸びている。

《維新嵐》地政学上の対立構造があった感があったTPPとAIIBでしたが、アメリカがトランプ政権になってからTPPから抜けて以降は、様相が変化してきましたな。
国際政治は、一寸先は闇、どうなるかわからないものです。昨日の敵は今日の友となるものですな。
学校では教えてくれない地政学



【米中戦争の様相】インテリジェンスを知らない?トランプと積極的に国内外に情報戦を展開する共産中国

インテリジェンスを理解できないトランプ

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、2017516日付の同紙で、トランプと情報機関の確執を取り上げ、トランプ政権の綻びが始まっていると書いています。論説の要旨は、次の通りです。

 情報機関のコミュニティーが有する脆弱な秘密のネットワークを瀬戸物屋、そしてトランプを情緒不安定で躾のなってない雄牛と見立てて欲しい。数カ月にわたり、我々はこの両者の破滅的な衝突を見せられて来た。
 最も新しいスキャンダルは携帯パソコンに仕込んだ爆弾によるIS(イスラム国)の航空機上のテロの脅威に関する秘密情報をトランプが自慢気にラブロフ外相に漏らしたというものである。愚かで無謀な行動である。続いて、去る20172月、トランプがコミーFBI長官に対し、解任したばかりのフリン補佐官に対する捜査を止めるよう要請したことが明らかになった。
 これはホラー映画である。マクマスター補佐官は、大統領の行動は「全く問題ない」と述べてトランプの弁護に悪戦苦闘した。もし、問題がないなら、どうしてボサート補佐官がCIANSAの長官に電話してトランプがラブロフらに喋ったことを警告せねばならなかったのか。大統領には発言要領が必要で、トランプのような経験がなく衝動的な人間が即席でやろうとすると混乱にはまる。Lawfareという公正なサイトは、トランプは「大統領職を誠実に執行する」という宣誓に違反したのではないかという問題を提起している。これはトランプが弾劾されるべきかどうかを上品に問うたものに他ならない。
 トランプに対する信頼性は綻びつつある。彼は情報機関と法執行機関の職員をいじめると思えばおだてようとした。ロシアの選挙介入疑惑をでっち上げだといった。情報機関の職員をナチになぞらえたこともある。CIAを訪問した時は彼等を英雄だといった。FBI長官には忠誠を要求し、拒否されると解任した。
 大統領は誰しも有害な情報漏えいや情報関係の問題に遭遇する。カーターの時にはヨルダンのフセイン国王がCIAにカネを貰っているという話が出た。ブッシュの時には「9.11」およびイラクの大量破壊兵器の評価に係わる最悪のインテリジェンスの失敗に遭遇した。オバマの時にはアラビア半島のアルカイダに対する英国とサウジの秘密工作に係る報道の扱いで不手際を演じた。
 しかし、トランプの場合の違いは、トランプは、情報機関が味方なのか敵なのかについて確信が持てないように見えることである。トランプは彼の正統性に対する挑戦だと思うとCIAFBIの長官を攻撃する。ところが、ラブロフらに対しては凄いインテリジェンスを持っているだろうと自慢する。情報機関との愛憎関係は変わる必要がある。それは政府の品位を貶めるばかりでなく、自己破壊的である。インテリジェンスの関係は信頼の上に成立する。大統領の成功もまた信頼の上に成立する。雄牛は瀬戸物屋から出て行く必要がある。
出典:David Ignatius Trump's presidency is beginning to unravel (Washington Post, May 16, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-presidency-is-beginning-to-unravel/2017/05/16/e27aa366-3a7a-11e7-8854-21f359183e8c_story.html
 a bull in a china shop」という言葉がありますが、瀬戸物屋に雄牛が闖入し、暴れ回っては迷惑だという意味です。イグネイシャスは、トランプという雄牛には出て行ってもらう必要があると述べています。トランプには大統領を退いてもらう必要があるといっているのかも知れません。
いつまでこの政権に我慢するつもりか
 米国民は何時までこの政権に我慢するつもりかが問われる状況になりつつあるように見えます。ニューヨーク・タイムズ紙のトム・フリードマンは、ウォーターゲートの時のように、トランプの権力濫用に立ち向かう共和党議員はいるかと問い、答えはNOだと匙を投げ、2018年の議会選挙で民主党ないし無所属が共和党多数をひっくり返すしかないと書いています。マクマスターは大統領を擁護しようとして長い年月をかけて得た彼の名誉を台無しにしたなどと書いて、遅くならないうちにトランプの周りの人間は逃げ出した方が良いと早々と書く向きがあります。大統領の最小限のブレーキ装置がはずれることは、それはそれで迷惑なことではあります。
 文芸春秋の3月号に脳科学者の中野信子という人がトランプについて書いています。中野氏によれば、トランプは脳科学者にとって興味深い研究対象であるそうですが、彼は「サイコパス」だといいます。「サイコパス(織田信長が日本人の典型例だという)」の最大の特徴は、冷酷な合理性にありますが、弱みもあって、飽きて投げ出す傾向があるといいます。中野氏は「サイコパスには飽きっぽい人が多く、長期的な人間関係を築くことができません。また、利害のみが物事の判断基準となっているため、大統領職が『自分の価値を発揮できない』、『メリットがない』と判断すれば躊躇なく辞任するでしょう」と書いています。そういうことがあるのかも知れません。
《維新嵐》中野氏のご指摘は、まさにドナルド・トランプ氏のことをいっているように聞こえてきますよ。

他国の大統領選挙に「干渉」できるハッキング。もはやサイバーインテリジェンスは、「攻撃兵器」です。

【アメリカ・トランプ政権とは?】トランプ政権を牛耳る「対日強硬派」の正体
HARBOR BUSSINESS ONLINE 平成29617

トランプ大統領誕生から5か月がたったが、政権運営は難航している。一方、経済政策は今後、どう推移していくのか。5月に『トランプ政権を操る[黒い人脈]図鑑』(小社刊)を上梓したフルフォード氏が解説する!

◆ロスチャイル系のハゲタカと、日米貿易戦争で戦った男を任命

 選挙中から物議をかもしてきたトランプ大統領の誕生に際し、各国首脳が言葉を慎重に選ぶなか、安倍首相は「これこそ民主主義のダイナミズム」と手放しで祝辞を送った。その後の日米首脳会談でも、安倍首相はトランプとゴルフを1.5ラウンドも楽しみ、仲の良さをアピールした。
 しかしこうした現在の蜜月ムードは、長くは続かないかもしれない。
「トランプは対日外交、こと通商政策においては強硬路線を打ち出してくる可能性が高い」
 米経済誌『フォーブス』元アジア太平洋支局長で作家のベンジャミン・フルフォード氏はそう指摘する。トランプ政権の閣僚人事に、隠された“牙”が見え隠れするという。
「その1人が、ウィルバー・ロス商務省長官。商務省は、経済成長と技術競争力、持続的発展を促進させるためのインフラの整備を担当するとともに、海外のアメリカ大使館に出先機関を置き、経済界と極めて密接な部署。そんな商務省のトップに就任したロスは、ロスチャイルド系企業の企業再建部門に在籍していた頃、’99 年に破綻した幸福銀行の再建にも携わった過去がある。また、これが縁で1907年に設立された歴史ある日米交流団体『ジャパン・ソサエティー』の会長も務めた『知日派』とされているが、決して親日というわけではない。対日貿易赤字の削減を訴える彼は就任早々、日本から輸出された鉄筋が不当廉売に当たると認定。206.43%から209.46%の反ダンピング関税を課すことを決定している」
 さらにロスには“裏の顔”もある。
24年間務めたロスチャイルド系企業を退社した彼は、自身の投資会社を設立しているが、これが典型的なハゲタカ・ファンド。例えば’08年のサブプライム危機の際には、ヘッジファンドから多くの資産や債権を次々に買い叩き、その後、市場が平穏を取り戻すとすぐに売却して大儲けしている。こうしたハゲタカ的手法で、日本を食い物にする気でいるはず」
 ちなみにロスが長官就任前に開示した彼の個人資産は380億円に達している。
そしてもう一人の“牙”としてフルフォード氏が名指しするのが、米国通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザーだ。
USTRといえば’80~’90年代から『日米貿易摩擦』という名の経済戦争で、アメリカの利益代表機関としてタフ・ネゴシエーターを演じたことで記憶している方も多いはず。そのトップであるライトハイザーこそ、この時代、レーガン政権下でUSTR次席代表を務め、日本製品に対する輸入抑制を主導して日本側に鉄鋼の輸出自主規制を飲ませた張本人。そんな彼を再びUSTRに、しかもその代表として復帰させたトランプの念頭にあるのはこれから始まる日本や中国をはじめ、各国と始まる「二国間交渉」にほかならない。そんなトランプの意向の下、彼が就任直後に議会に提出した『2017通商政策課題』には、アメリカの貿易主権を擁護し、二国間交渉を進めていくと明記されている。これは過去20年間にわたるアメリカの通商政策を全否定し、新たにアメリカ中心の貿易体制を構築するというもの。そのうえで、『農業分野の市場拡大は、 日本が第一の標的』と名指しして宣言しているのです」
 こうしたなか、アメリカによる日本の“属国化”が強化されるという。
「クリントン政権下では、USTRによる交渉で当時の宮澤喜一内閣に規制緩和の実行を飲ませた。以降、これに基づく『年次改革要望書』という、アメリカから日本への事実上の命令書を民主党に政権交代する’08 年まで毎年出してきた。この命令によって日本では、独占禁止法の解禁や郵政民営化、人材派遣の自由化など“構造改悪”が行われた。また、日本人が長年蓄えてきた資産の多くも吸い上げられることとなった。この年次改革要望書が、トランプ政権下で復活させようとする動きもある」
 日本はいよいよ、これまでのアメリカ追従を見直すべきときに来ているのではなかろうか?

◆トランプ政権を牛耳るゴールドマン・サックス

 暴利を貪るウォール街を批判することで白人労働者の支持を獲得して当選したトランプだが、彼が布陣した政権はゴールドマン・サックス(GS)の“傀儡”と揶揄されるほど、GS出身者が多い。
 代表格が、財務長官のスティーブン・ムニューシンだ。彼はGSで上級役員にまで上り詰め、在籍17年間で総額50億円の報酬を得ている。
 また、経済担当補佐官・国家経済会議委員長のゲイリー・コーンは、政権入りする前までGSの社長兼共同COOの座にあった。同社を離れるにあたり彼に支払われた退職金は1兆円以上といわれている。さらに、首席戦略官・大統領上級顧問のスティーブン・バノンや、SEC委員長ジェイ・クレイトンもGS出身だ。
 また“乗っ取り屋”として名高いカール・アイカーン(規制改革特別顧問)などもおり、トランプ政権の経済・金融面での政策が「富裕層に有利」になることは間違いなさそうだ。
取材・文/奥窪優木 写真/AFP=時事

《維新嵐》経済政策の方面では、情報戦の素養がある面々ばかりで、トランプ自身もビジネスマンとして情報には通じているはずですがね。国家的なインテリジェンスはまた経済とは別ということですか。

【共産中国の情報戦・国外編

リスク回避からリスク許容へ

サイバー空間において積極的に動く中国

岡崎研究所
 米ジェームスタウン財団のマティス研究員が、National Interest誌ウェブサイトに201576日付で掲載された論説にて、最近の中国のサイバー攻撃等の活発化について解説し、中国はインテリジェンス政策において、リスク回避からリスク許容へと態度を変えた、と論じています。
すなわち、2000年代のどこかの時点で、中国はインテリジェンス政策において、リスク回避からリスク許容へと態度を変え、特にサイバー空間において、より積極的に活動するようになった。
 中国の方向転換は、二つの意味で注目すべきである。一つは、中国の表面的な協調姿勢にもかかわらず、インテリジェンス活動の積極化は、中国が対立と競争を想定している点である。二つ目は、中国ウォッチャーの多くが、中国のサイバー空間での活動と国家のインテリジェンスおよび安全保障部門の動きとを結びつけて来なかった点にある。
 1985年、中国情報部門の職員が米国に亡命した事件を契機として、鄧小平は外交部の主張を容れ、改革開放政策に悪影響が及ぶとの理由で、海外でのインテリジェンス活動に制限を加えた。だが2010年に、スウェーデンにおいて中国の諜報活動が発覚した。おそらくその前に、中国は対外インテリジェンス活動の制限を撤廃したように見受けられる。近年に至り、アメリカなどの政府関係ネットワークへの侵入事件と中国の関連が頻繁に指摘されている。
 中国がインテリジェンス活動に関するリスク計算を変更した理由として、以下の数点の要因の組み合わせが考えられる。一つ目が、必要性の増大だ。急速に拡大する海外権益を保護するために、インテリジェンス能力の向上は急務である。二点目に、官僚組織の力関係の変化がある。
 1980年代、インテリジェンスを司る国家安全部と軍内の関連部門は外交政策において大きな影響力を持っておらず、「中央外事工作領導小組」にも参加していなかった。しかし、近年、中国の対外政策の決定プロセスは多元化し、外交部の影響力は相対的に低下し、国家安全部の影響力は増大している。
 三点目に、過去に海外活動のリスクを過大評価していたとの中国の判断もあろう。それと関連して、四点目に、中国の経済的重要性の急増もあり、中国の脆弱性は低下したと判断されている。中国の指導者は、海外でのインテリジェンス活動が中国の平和発展に影響を与えるとはもはや考えていないように見受けられる、と指摘しています。
出典:Peter Mattis,The New Normal: China's Risky Intelligence Operations’(National Interest, July 6, 2015
http://nationalinterest.org/feature/the-new-normal-chinas-risky-intelligence-operations-13260
***
 中国のいわゆるスパイ活動は、主に中国系の人脈を通して行われて来ました(例えばD.ワイズ『中国スパイ秘録:米中情報戦の真実』参照)。旧ソ連と比べてもかなり立ち遅れていました。最近のサイバー空間での活動の活発化は、その遅れを、ハイテクを駆使した手法により挽回しようとするものなのでしょう。実際に諜報要員を海外に展開するよりは手間も省けますし、一見、安全です。
 インテリジェンス活動の活発化は、中国の対外姿勢に関する大きな質的変化の最中の動きであり、中国の対外強硬姿勢の顕在化と軌を一にしています。鄧小平の重しが取れたということであり、資金も豊かになり、国家安全部及び軍情報部門の活動はさらに活発になることを覚悟しておくべきでしょう。
 しかし、中国にとり安全な職務達成手法であったはずのサイバー攻撃が、目下、米国をはじめ世界の強い反応を引き起こしています。米側は、そのために必要な措置は取り始めているはずであり、ここでも中国は「作用・反作用の連鎖」に入り込んだと言えるでしょう。
 中国の諜報分野での活動の度合いが、中国の自国に対する敵対度を測るメルクマールとなります。これは、まさに軍事安全保障の世界の話です。つまり、実際の行動がすべてであり、世界はそれにより相手の意図を判断します。外交と違い「玉虫色の解決」はありません。南シナ海や東シナ海の問題と同様に、習近平の新外交路線は、厳しい試練に直面しています。9月の訪米までにどう調整するのでしょうか。それによって中国の対外姿勢の見定めがつくと思われます。

【共産中国の情報戦・国内編】

「インターネット安全法」が映し出す、中国の情報統制強化

大西康雄 (日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・上席主任調査研究員)

 中国では、わが国では考えられないほど国家により個人情報が管理されているが、201761日施行の「インターネット安全法」は、これをさらに一歩進めようとするものだ。もともと、個人の経歴は中国共産党や公安警察が所管する「档案(とうあん)」(以下、個人情報書類)に記され、当人の移住・転職ごとに移転先の党・機関(以下、国家)に送られる体制である。
 外国人もその対象であり、ひとたび中国に長期滞在すれば、自分の個人情報書類が作成されていると覚悟する必要がある。その一方で、外国のインターネットサービスであるグーグル、フェイスブック等は基本的に利用できないなど情報鎖国状態にある。
 こうした現状を踏まえて今次法律を見ると、第一に注目されるのは、インターネット上の個人情報や、ビジネス活動を通じて企業が得た個人情報の国家管理を明文化したことだ。
 「総則」部分で、「いかなる個人や組織も情報ネットワークを使って、国家の安全や栄誉、利益に危害を与えること、政権や社会主義制度の転覆を扇動すること、国家分裂や国家統一の毀損(きそん)を教唆すること、テロリズムや過激主義を流布すること、民族への憎悪や差別をあおること、暴力やわいせつな情報を流布すること、デマを流して経済や社会の秩序を混乱させること(中略)などを行ってはならない」としていることは国家が何を恐れているのかを示している。
 第二は、広範な義務規定を設けるとともに、官民共同でネットを管理するとしていることだ。
 具体的には、ネット運営者に利用者個人情報の登録義務付け、ネット業者に国家への協力(情報提供等)を義務付け、国内で収集した重要データを国内で保存することを義務付け、ネット運営者に違法情報を削除できる権限を付与したほか、「社会安全にかかわる突発的事件の場合は」ネットを遮断できるとしている。
 第三は、ネットワーク関連サービスへの参入障壁が高く、罰則が重いことだ。
 企業が情報ネットワーク製品・サービスを提供する際は国家の審査・許可を必要とするほか、各種ネットワークサービスに登録・加入する際に「実名登録」を求め、公安・国家安全機関が安全維持活動、犯罪捜査を行う際に協力を義務付けている。
 違反すると、重要インフラ運営者の場合は10100万元(1701700万円)の罰金を課すほか、業務の一時停止を命じることができるとしている。


( 写真・XtockImages/iStock/Thinkstock

 外国企業にとって問題なのは、抽象的で不明確な規定が多いことだ。現地外国企業からは法の運用を懸念する声が上がっている。

 また、個人情報については、「ネット決済を通じて既に国家に把握されている」(現地邦人ジャーナリスト)のも事実であろうが、それを使って国家が個人レベルにまで統制力を及ぼそうとしていることは、現政権の志向を示すものとして注意しておくべきであろう。

《維新嵐》中国大陸へ旅行するときは、どこで個人の情報をとられているか、どう活用されているか、わかったものではありませんな。

佐藤優のインテリジェンス入門「ハニートラップ」

世界最悪の中国サイバーセキュリティ法

岡崎研究所

中国サイバーセキュリティ法が狙うネット主権

 英フィナンシャル・タイムズ紙が、201762日付け社説で、中国のサイバーセキュリティ法は、個人の言論と思想を統制し、外国企業にとっての非関税障壁となるばかりでなく、中国企業の競争力を阻害し中国の経済的利益にも反する、と批判しています。社説の要旨は次の通りです。

中国は常に、世界で最悪のインターネットの自由の侵害者である。201761日、施行されたサイバーセキュリティ法は、明らかに、市民の言論と思想の統制を強化することを目的としている。同法は、グローバル企業の中国での操業に障害となり、中国企業が世界で競争する能力も阻害することになろう。
 同法は、共産党が国家の名誉を害したり、経済的・社会的秩序を乱したり、社会主義体制の転覆に寄与すると看做す、ネット上の如何なる情報も犯罪であると明記している。表向きは中国のインターネットユーザーのプライバシー保護が目的だが、実際は、インターネットにログオンする全ての個人を国家が監視する権限を強化し、中国で操業する全ての企業に監視の共謀を強いるものである。
 同法の対象は、曖昧・広範囲であり、共産党の見解に反する情報を発信した者は殆ど誰でも起訴し得る。そうした情報を自分のサーバーに保管する企業も対象である。
 同法は、中国で操業するグローバル企業にとり非関税障壁としても働く。中国で集めた全ての情報を中国のサーバーに保管するよう企業に求めることにより、政府は国内企業を有利にしている。中国における広範な知的所有権侵害(その多くは政府が支援している)を考えると、ソースコードを中国政府に渡すべしとの企業への要請は、効果的に彼らを市場から締め出すことになる。
 今日、AlibabaTencentBaiduといった中国のテクノロジー企業は、中国国内で巨人となっているが、世界的にはまだ「小人」である。グローバルな競争相手が世界で最も厳しい検閲により遠ざけられてきたため、彼らは中国で繁栄できたのである。
 少なくとも、検閲はイノベーションを阻害し、中国のテクノロジー企業のグローバルな競争力を損なう。この法は、中国のテクノロジー産業の閉鎖性を悪化させ、国内企業の競争力を弱める。この法律で影響を受けるグローバル企業は、中国の立法者に、同法が間違っているばかりでなく中国の経済的利益に反すると一致協力して納得させるべきである。
出典:‘Chinas cyber security law and its chilling effects’(Financial Times, June 2, 2017
https://www.ft.com/content/60913b9e-46b9-11e7-8519-9f94ee97d996
 中国は「サイバー安全保障法」を施行しました。その内容はインターネット上の情報統制法というべきものです。社会の安定、社会主義体制に悪影響を及ぼすインターネット上の情報拡散を処罰しようとしています。
我々自由民主主義国とは全く異質の政権
 中国は、自由な情報の流通により社会主義体制、要するに共産党の支配が揺るがされかねないと危惧しています。これがこういう法を施行する背景でしょう。国民に隠し事をしなければならない、要するに情報の自由、言論の自由を抑圧しなければならない政権には、正統性はありません。中国の政権は自由な情報流通に対し脆弱性を持つこと、我々自由民主主義国とは全く異質の政権であることを、もう一度想い起すべきでしょう。
 インターネットの普及によって、国民の情報アクセスが改善され、専制主義の国の民主化に資すると言う論があります。しかし、インターネットもサイバー空間も要するに道具であって、良い目的にも悪い目的にも使えます。独裁国や権威主義政権はこれをうまく使っています。サイバー攻撃、サイバー・エスピオナージ、産業スパイ活動などに、この新しい情報技術が使われています。
 同時に、独裁国、権威主義の国はインターネットの情報拡散機能を統制するために苦労もしています。トルコも中国もそうです。
 全体として社会がこれでどう変わるかは興味深い問題ですが、まだよく分かりません。
 この社説は、今回の法が海外のテクノロジー企業の中国における活動を阻害することに懸念を表明しています。ソースコード(色々なプログラム作成の元になる機械言語ではなく、人間が判る言語で書かれたもの)を中国で活動する会社は中国政府に開示すべしとの要請がこの法にあると言いますが、例えばマイクロソフト社は、ソースコードは開示していません。したがって、今後、中国での活動がどうなるのか、よく分かりません。
 今回の法は非関税障壁ではないか、自国企業優先策ではないかという議論はあり得ます。これはWTOで争うべき問題でしょう。ソースコードを開示している会社もあり、こういう会社にとっては今回の法の影響は小さいかもしれませんが、これらの会社が中国の言論統制に加担するのはあまり感心できません。中国企業が競争にさらされず弱体化するなど、経済的コストが中国側に生じることを理由に西側がこの法の問題点を一致して指摘することを社説は推奨しています。しかし、共産党支配体制維持のために必要ということであれば、中国側がそういう議論に耳を傾ける可能性はほぼゼロです。対抗措置をとるか、その内容をどうするか、を考える方が良いでしょう。