2018年1月6日土曜日

第二次世界大戦の結果、日本の国益はアメリカの国益 ~国益を守るために腐らない国家戦略を担保せよ!~

【共産中国編】

中国の海洋浸出を食い止めるために日米がすべきこと

対処療法的な方針では焼け石に水、確固たる海軍戦略が不可欠

北村淳
香港に到着した中国の空母「遼寧」(201777日撮影、資料写真)。(c)AFP/Anthony WALLACEAFPBB News

 昨年(2017年)は、東アジア海域、とりわけ南シナ海において、中国が東アジア諸国はもとよりアメリカに対しても優勢的立場を着実に築き上げ、それに対してアメリカの東アジア方面海洋戦力が目に見えて凋落し始めた年であった。このような状況に関しては、2017年末の本コラム(「北朝鮮暴発の危機」は中国のシナリオだった? 中国の海洋戦略が勝利を手にした2017年」 )で述べたとおりである。  2018年にはいよいよトランプ政権の海軍力増強政策がスタートするが、南シナ海や東シナ海における中国の膨張主義的海洋侵出に、アメリカは待ったをかけることができるのであろうか?

米国民は東アジア海域に関心を示すのか?
 しかし、アメリカが南シナ海や東シナ海での中国の膨張主義的海洋侵出を食い止めるのは容易ではない。まず、トランプ政権が中国の動きを、アメリカの国益という観点からどの程度深刻な軍事的脅威と受け止めるのか? という問題がある。


中国の渤海で行われた軍事演習で、空母「遼寧」の甲板上に駐機された艦載機「殲15」(201612月撮影、資料写真)。(c)AFPAFPBB News
もちろん、かねてより米海軍関係者たちを中心とする人々は、南シナ海や東シナ海が「中国の海」と化することをアメリカの国益にとって最高度の脅威と考え、絶対に阻止すべきであると唱えてきた。なぜならば、戦時(そして準戦時)に際して、それらの海域に横たわる海上航路帯(SLOC、シーレーン)を中国がコントロールすることになると、日本や韓国そしてフィリピンといったアメリカの同盟国の経済活動のみならず、アメリカ海軍の軍事行動にとっても致命的な影響が確実に生ずるからである。
 しかしながら、海上航路帯の妨害という軍事作戦は、ミサイルや魚雷が飛び交う戦闘行為が繰り広げられることなしに──すなわち、人々の目に何が起きているのかが映し出される以前に、決着がついてしまう。そうした“目に見えないせめぎ合い”は、海軍戦略家以外の人々にはなかなか理解されがたいものである。
 そのため、アメリカから遠く離れた「アメリカ国民にとって全く馴染みのない」南シナ海や東シナ海で中国が軍事的優勢を手にすることがアメリカの国防にとって極めて重大な脅威となる、との説明が、トランプ政権や連邦議会、またアメリカの主要メディアや世論などに幅広く受け入れられる見込みは高くはない。
 まして、北朝鮮がアメリカ本土に到達するICBMを完成させ、アメリカを直接核攻撃できる能力を手に入れそうな状況下においては、「中・長期的に考えれば、中国海軍戦略の伸展こそが、金正恩のICBM恫喝などとは比べものにならないほどアメリカに対する最大の軍事的脅威となる」との主張が、トランプ政権や連邦議会そして米主要メディアを説得する可能性は低いものと考えざるを得ない。
海軍戦略を欠くアメリカ
 もしトランプ政権が、北朝鮮問題に対する中国の役割に期待する無益さを真摯に受け止めて、中国の膨張主義的海洋侵出政策に対して本腰を入れて妨害する決断をなしたとしよう。この場合、マティス長官率いるペンタゴンが南シナ海や東シナ海で中国海洋戦力に対峙する動きを開始させることになる。とはいっても、現在の米海軍の態勢では、とても中国の海洋侵出の勢いを大きく減速させたり食い止めたりすることはできそうにもない。
 なぜならば、中国は確固たる長期的海軍戦略を手にしているが、アメリカ側にはそれに対抗し得る海軍戦略が存在しないからだ。中国の南シナ海(そして東シナ海)での軍事的優勢の確保は、「積極防衛戦略」(米軍ではしばしば「接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略」と呼ばれている)と呼称される国防戦略に立脚して着々と推し進められている。一方、アメリカ側は中国側の動きに応じて対処療法的な方針を繰り出しているに過ぎない。
 中国は「よく練られ、適宜に修正を加えられつつある」海軍戦略を基に、南シナ海や東シナ海において次から次へと様々な手を打ち、主導権を手にしつつある。それに対してアメリカ側は海軍戦略といえるものを手にしていないため、押っ取り刀で対応し、結局は中国に振り回されているのが現在の構図である。そうした現状では、中国海軍・空軍・ロケット軍が睨みを効かせる南シナ海や東シナ海において、アメリカ海軍がかつてのように軍事的優勢を手中に収めることはもはやはなはだ困難であると言わざるを得ない。
たしかに、トランプ大統領は、355隻海軍建設のための法的根拠を実現させた。しかし、その355隻の主要戦闘艦が造り出され、アメリカ海軍がかつての大海軍の座を手にするまでには、10年以上もの年月がかかるとも言われている。その間、中国が待っていてくれはしない。それどころか、数隻の空母や多数の潜水艦を含む500隻大海軍が南シナ海、東シナ海、西太平洋、インド洋に展開し、東シナ海や南シナ海沿岸部からは無数の対艦ミサイルや対空ミサイルが中国大陸に接近する敵勢力に備えているという、積極防衛戦略が描いている状況が実現してしまうことになる。
日米共に効果的な海軍戦略が必要
 トランプ政権が打ち出したアメリカ海軍の大増強政策は長期的には必要不可欠な方針である。しかしながら、軍艦という「モノ作り」の前に、中国の積極防衛戦略に効果的に対抗するだけの海軍戦略を生み出さなければ、中国の極めて強力な膨張主義的海洋侵出の勢いを減衰させることはできない。

 もちろん、アメリカ以上に海軍戦略(そして国防戦略そのものも)不在状態が続いている日本が可及的速やかに「国防戦略」や「海軍戦略」といえるだけの戦略を策定しなければ、未来永劫アメリカの軍事的属国、そしていずれは中国の属国の地位から脱却できないことは言を俟たない。

〈管理人より〉やはり政治の中枢である内閣府、官邸が政治主導で、大枠の国家戦略を立案し、遂行していくことが求められます。あたりまえのことですが、官邸に出入りする官僚にこの点の主導権を渡してはなりません。官僚は自分たちの庭先しかみえない人種です。そして「事なかれ主義」。政治家はこの点で官僚とは一線を常時画すべきでしょう。政治家や高級軍人が「官僚化=事なかれ主義」に陥ると、再び日中戦争や太平洋戦争の悪夢を繰り返すことになりかねません。失敗はいつも未来の成功への糧とすべきです。

海洋覇権をめざす中国の脅威

【北朝鮮編】

北朝鮮に「最大限の圧力」を課しているのか

岡崎研究所

  ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、20171129日の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験を受けて、「北朝鮮に最大限の圧力:中国も米もまだ最もきつい制裁を課していない」との社説を同日付けで掲載、対北圧力強化を主張しています。要旨は次の通りです。
 20171129日早朝、金正恩は新型ICBMを試射した。データによると、米本土全体に到達しうる。もし北朝鮮が弾頭技術を完成すれば、米国を核の人質になし得る。トランプ政権が、米国はこの脅威と共存できないというが、正しい。何をなすべきか。
 ピョンヤンはすでに極端な経済的、外交的圧力下にあるというのが通説である。しかし、現実には、国連も米国も昨年、幅広い制裁をかけ始めたにすぎない。中国は石油輸出その他の貿易で、ロシアは北の奴隷労働への支払いで、金政権を支持してきた。
 これらのライフラインを止めることが最優先事項である。9月、北がIRBMを発射した際、米はそのようにする安保理決議を提案した。しかし中露が抵抗し、米国は折れた。決議2375は石油輸出と労働契約を制限しただけであった。トランプ政権は安保理での全会一致を勝利であるとしたが、決議は多くのピョンヤンのライフラインをオープンなままにした。
 米国は制裁破りをしている中国の会社への制裁を延期し、中国の賛成票に褒賞を与えた。最近、財務省が丹東の4つの会社を金融関係のブラックリストに載せ、その延期は終わった。米政府は他の「第2次制裁」、特に銀行に対するものをまだ、控えている。
 中国の制裁実施は不完全である。中国の銀行は北朝鮮の会社の口座は凍結したが、制裁破りをしている中国の会社への融資をしている。8月の決議で石炭の貿易は全面禁止になったのに、中国は、石炭は引き続き輸入している。トランプ政権はこれを暴露できる。
 米国の対応は安全保障措置も含むべきである。韓国への戦術核兵器再配備も必要であろう。ピョンヤンに、同盟国への攻撃に対しては米本土へのICBM攻撃のリスクにもかかわらず、圧倒的に報復することを明らかにし、金正恩が誤算しないようにすべきである。THAADミサイル防衛レーダー、発射機の韓国配備で、中国に北朝鮮支持は結果を伴うという強いシグナルを送るべきである。先月、中国は韓国の文在寅大統領を脅し、THAAD配備を凍結させたが、米国は新しい配備に固執すべきであろう。
 米国と韓国は脱北者を増やすプログラムを強化すべきである。非武装地帯を超えた亡命兵士は韓国メディアに接して、脱北を決意したと言っている。中国が脱北者を受け入れ、韓国に送れば、その噂は北で広まり、国内を不安定にするだろう。中国の援助による北のレジーム・チェンジが戦争をしないで、北の脅威を終わらせる最善の道である。
 トランプ政権はその前任者より北の核計画を妨げてきたが、最大の圧力をかけているとは言えない。こういう措置は結局効果がないかもしれない。しかし代替策は黙認か戦争である。米国は金正恩を止めるために持てるすべての手段を使うべきである。
出典:‘Maximum Pressure on North Korea’(Wall Street Journal, November 29, 2017
https://www.wsj.com/articles/maximum-pressure-on-north-korea-1511987125

この社説の趣旨は常識的です。今の段階では、北朝鮮に最大限の圧力を加えるのが正解です。まだやり残していることがあると言う指摘もその通りです。中国の会社・銀行への「二次制裁」、石油の禁輸、北朝鮮の労働者雇用の制限、金融制裁など、まだやれることが多くあります。
 要するに、北朝鮮をできるだけ孤立させることが肝要でしょう。そんなことをすると、北は暴発すると心配する人がいますが、北は暴発したら、一挙に潰されることがよくわかっており、暴発などしないと見られます。「ICBMの実験をしたから、北を攻撃する」というのは、国連憲章を中心とする国際法を尊重する以上、出来ないことです。北はそれを見越しています。こちらが自衛権行使しうるような暴発はしないと考えておいてよいでしょう。
 北を孤立させていく上で障害になるのは、主として中露です。中国は米中関係を重視せざるを得ませんし、北の行動には相当な不満を有しているとみて間違いがありません。しかし、ロシアの方はクリミア併合以来、米、欧との関係が悪く、米国との関係のさらなる悪化をコストとして考えない傾向が強いです。ラブロフ外相は、米国の圧力強化方針を批判しています。ロシア外交は、緊張を作り出しその緩和を材料に利益を引き出すことを伝統的に得意技としており、注意が必要です。
 中国には、北に対するTHAADなどミサイル防衛の強化が、中国自身の核戦力の有効性にも影響を与えることを示していくべきでしょう。文在寅がTHAADで対中妥協をすることを止めることが、中国に北朝鮮問題に真剣に取り組む動機を作ることにつながるでしょう。
 日本は長い間、北の中距離弾道ミサイル(IRBM)の脅威のもとにあります。米全土を射程内に収めたICBMは米国への脅威であり、日本との関係では、米国がニューヨークを犠牲にする覚悟で東京を守るかという「デカップリング」の問題になります。これがないならば、日本への脅威には大きな変化はありません。しかし、日本の脅威への対応は敵基地能力保持の問題にしても、遅々として進んでいません。「核の北は容認しない。抗議する」と言って済む話ではなく、対応をよく考える必要があります。
 なお、ニューヨーク・タイムズ紙は今回のICBM実験を受けて、2017年1129日付けで「北の核のテストは希望のサインなのか(Is North Koreas Nuclear Test a Sign of Hope?)」と題する社説を掲載、「核戦力ができるまで北は外交に出てくることはなかったが、核戦力が出来た今、外交交渉に乗り出し得るようになった」など、理解に苦しむ情勢分析、主張を展開しています。対話での問題解決模索を重視するアプローチのつもりでしょうが、こういう主張が北の核・ミサイル開発をここまで進めさせた一因であるように思われます。

〈管理人より〉外交交渉だけ、経済制裁だけでは北朝鮮の核開発と弾道ミサイル配備は止まりません。制裁発動は一国ではなく国連で、軍事的な圧力は、本当はアメリカ単独ではなく、「国連軍」という形でかけることが重要でしょう。国連軍が理想的すぎるというなら、イラクの時のように「多国籍軍」でもいいかと思います。あと忘れてならないのは、広報戦、メディア戦という情報戦でしょう。北朝鮮はこの点とサイバー戦は、世界をリードできるレベルにあるといっていい。彼らがハッキングで仮想通貨の取引所を狙うのなら、日米韓も北朝鮮の金融機関を国際的な金融制裁だけでなく、ハッキングしていくとです。また北朝鮮への広報戦、宣伝戦においても、やはり北朝鮮という国の価値を貶めるための「戦術」が不可欠です。特に北朝鮮の特殊工作部隊を活用した外国人拉致は明らかに「侵略」事案ですから、北朝鮮は「非道な侵略国家」であるとの宣伝戦がしかけられます。核開発と弾道ミサイルなどはもっと露骨に北朝鮮のマイナスイメージ高揚に活用すればいい。彼らが追い詰められた時も核兵器を使うことができないくらいしばりつける必要があります。そういう意味ではアメリカによる「テロ国家」再認定は正しい戦術といえるでしょう。リアルな戦争で戦えないくらいインテリジェンス戦で勝利しなければ、北朝鮮の動きをとめられないし、金政権体制も覆すことはできません。北朝鮮国民、とりわけ朝鮮人民軍に戦意をなくさしめ、政権打倒へむけるだけの広報戦、インテリジェンス戦をさらに制裁と並行して徹底すべきです。

北朝鮮が世界各国の圧力に屈し完全降伏 そして国連は動く



【そして中東で再び】

アメリカは、しかし北朝鮮に海軍力を結集しているので、中東に軍事的圧力の強化はできないでしょう。ならばいわゆる「エルサレム首都発言」の真意はどこにあるのでしょう?

トランプが誘発する新たな戦争

佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 あからさまな“恫喝外交”はまさにトランプ氏の真骨頂だった。国連総会の緊急特別会合は20171221日、聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定した米決定を批判する決議を圧倒的多数で採択したが、同氏はこれに先立ち、反対する国への米援助を打ち切ることを強く仄めかした。しかし、「援助と投票」を絡めた発言への反発は激しく、米国の国際的な孤立は一段と深まった。

標的はエジプトか
 決議はトルコとイエメンが提案。投票結果は賛成128、反対9、棄権35、欠席21。賛成の中には、日本を含め、英仏独伊など米国の有力同盟国が軒並み入っており、決議に拘束力がないとはいえ、米国にとっては大きな打撃だ。特に、中東の同盟国であるサウジアラビア、エジプト、トルコ、ヨルダンなどが賛成に回ったのが痛い。トランプ氏の圧力が逆効果を招いた格好だ。
 米国の他国への経済援助や国連など国際機関への巨額な拠出に批判的だったトランプ氏にとっては、エルサレム問題での世界的な反発に我慢がならなかったようだ。特に、米国から莫大な援助をもらっているのに「肝心な時に支援しない」(アナリスト)国に対する不満が一気に爆発した。
 同氏は20日、国連総会の特別会合が米国に首都認定の決定の撤回を求める決議を採択する見通しになったことを受け、「米国から数億ドルや数十億ドルも受け取っておきながら、われわれに反対するのなら、やらせておけばいい。(かえって)節約できる」などと反対国に対する援助打ち切りを示唆し、決議に賛同しないよう圧力を掛けた。
 中東で米国から10億ドルを超える経済・軍事援助を受けているのはイスラエルを除けば、エジプトとヨルダンしかない。いずれも米国にとっては戦略的な同盟国だ。特にエジプトには、これまでに774憶ドルを援助、ここ数年は年間13憶ドルの軍事援助を行ってきた。
 しかし、エジプトのシシ大統領は最近、ロシアのプーチン大統領と急速に接近し、ロシア軍機にエジプトの空軍基地の使用を認め、ミサイルなど最新の兵器売却契約にも調印した。米国はこうした動きに神経をとがらせていたが、特別会合に先立つ国連安保理で、米決定に反対する同じ内容の決議案をエジプトが作成したことから大統領の怒りに火が付いたようだ。
「ドルで意思は買えない」
 また2018年1月に予定されているペンス副大統領の中東歴訪で、エジプトのイスラム教スンニ派の最高学府アズハルやコプト派キリスト教徒の指導者らとの面会がエルサレム問題でキャンセルされたこともトランプ氏の怒りの遠因になっているのは間違いない。シシ大統領の独裁政権下のエジプトでこうした重要行事がシシ氏の承認なしに決定されることはないからだ。
 ペンス氏の中東歴訪は当初、10月に予定されていた日程がいったんは12月に延期され、さらに議会での税制改革法案の投票が大詰めを迎えていたという理由で1月中旬に延期された。しかし、本当のところはエルサレムの首都認定問題で混乱の渦中にある中東に足を踏み入れるのは得策ではない、との判断があったと見られている。
 しかし、ペンス氏は何のために今、中東に行くのか、という基本的な疑問が浮上している。本来の目的は中東和平交渉の促進のためだったはずだ。しかし、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、パレスチナ側は交渉拒否の姿勢を鮮明にし、アッバス自治政府議長も同氏との会談を拒んでいる。
 トルコのエルドアン大統領はトランプ氏の恫喝に対し「ドルでトルコの民主的な意思は買えない」とツイート、中東各国の考えを代弁した。こうした反発が広がっている中で、米国の決定に理解を求めることは難しく、ペンス氏の歴訪の実現自体が危ぶまれる事態になるかもしれない。
 トランプ氏が援助を影響力行使に利用するのは今回が初めてのことではない。テロ掃討への協力に煮え切らなかったパキスタンに対しても援助停止をちらつかせたし、また北大西洋条約機構(NATO)の国防費支出目標に達していないことに対して、米軍撤退も仄めかして圧力を加えている。


本当の危機
 ワシントン・ポスト紙はこのほど、トランプ氏の外交政策について総括。「トランプ外交」の形成要因が「選挙公約、直感、型破りの思考」の3つからなっていると報じたが、エルサレムに関する決定は実にこの指摘通りだ。自分を当選させたと確信しているものこそが、同氏の外交政策にとっての土台と言えるだろう。国際的な合意や秩序など既存の枠組みに対する敬意は驚くほど小さい。
 エルサレム問題はパレスチナ自治区を中心に抗議行動が激化しているものの、各国政府の取り締まりもあって、イスラム世界での暴力的な事件は発生していない。むしろ、中東全体で米国とイスラエルに対する不満と憎悪がうっ積、暴発するにはなお時間がかかるような気配がする。
 反面、当面の本当の危機は別の所で起こりそうな予感がある。「実は戦争激化のリスクが急速に高まっている。それはサウジアラビアとイエメンの戦争だ。このまま放置すれば、ペルシャ湾が戦乱にまみれる事態も懸念もある」(ベイルート筋)
 イエメンを支配するフーシ派が11月、サウジアラビアの首都リヤドやアラブ首長国連邦(UAE)の原発に向け、相次いで弾道ミサイルを発射。同派の発表によれば、1219日にはサウジの首都リヤドの王宮を狙ってミサイルを発射した。ミサイルはサウジ軍によって迎撃されたという。
 米紙は11月に発射されたミサイルは900キロ飛行してリヤド国際空港の国内線ターミナル滑走路の近くに着弾したとの検証記事を掲載した。これが事実ならサウジの米国製防空網の信頼性はなくなってしまう。この防空システムは日本にも導入されているものだが、エルサレム問題の一方で、“新たなミサイル危機”が中東をさらなる混乱に陥れようとしている。




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