2017年8月3日木曜日

米中戦争の時代 ~覇権国と新興覇権国とは戦争をするというロジック・既にはじまっているサイバー戦争~

米中戦争は起きるのか?「トゥキュディデスの罠」のワナ

産経新聞

 米マイアミ大学のジューン・ドレイヤー教授が、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)が主宰する日本研究賞の受賞講演で、「トゥキュディデスの罠(わな)」という米中戦争の可能性に言及した。北朝鮮によるミサイル発射実験の陰に隠れ、「中国との戦争」という重い命題が再び米国で議論されていることを示した。

 「トゥキュディデスの罠」とは、現行の覇権国(アメリカ)が台頭する新興大国(共産中国)との間で戦争することが避けられなくなるという仮説を指している。紀元前5世紀に起きたアテネの台頭と、それに対するスパルタの恐怖が、避けることのできないペロポネソス戦争を引き起こしたとする考えだ。これを現在の米中間に当てはめて論じられている。
 ドレイヤー教授は、来日前にワシントンで出席した会議で、この「トゥキュディデスの罠」が議論になったと述べた。彼女自身は米国がスパルタのような軍事国家ではなく、まして中国がアテネのような民主国家でもないとして、その前提に疑問を呈した。米中は厳しく対峙(たいじ)しながら互いに重要な貿易相手国であると認識し、戦争にまでは至らないとの見解を述べた。
 米中戦争の蓋然性を指摘するのは、長く「トゥキュディデスの罠」の危険性を研究してきた米ハーバード大学のグラハム・アリソン教授である。
 昨年9月に米誌で発表し、この4月にも米誌「ナショナル・インタレスト」(電子版)に「米中はどう戦争に踏み込むか」との警戒感で論議を巻き起こしている。5月末には、新著『運命づけられた戦争-米中はトゥキュディデスの罠を回避できるか』を改めて世に問うた。アリソン教授は過去500年間の欧州とアジアの覇権争いを研究し、16件が「台頭する国家」が「支配する国家」に取って代わる可能性があり、うち12件が実際に戦争に突入している。
 米中は互いに望まなくても戦争を起こしかねず、数年後に

(1)南シナ海で米中軍艦の衝突
(2)台湾で独立機運から緊張
(3)尖閣諸島をめぐる日中の争奪戦

-などが引き金となり、米中が激突する事態に至ると見通している。2016年のランド研究所の試算では、米中衝突によって米国の国内総生産が10%下落し、中国は35%まで急落すると予測する。
 アリソン教授によれば、新興大国には尊厳を勝ち取りたいとの「台頭国家症候群」があり、既存の大国には衰退を意識する「支配国家症候群」が、国際会議などで表面化する。さきにドイツで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議では、中国の習近平主席が「高まるうぬぼれから影響力の増大をはかった」し、トランプ大統領は台頭する中国を「恩知らずで危険な存在とすら見なす」傾向がみられた。

 トランプ大統領は2017年4月の米中首脳会談以来、中国に対して北の核開発停止への圧力を期待したが、必ずしも思わしくない。トランプ政権はまもなく、南シナ海の人工島近くで「航行の自由」作戦を再開し、台湾に大型武器を売却、北と取引のある中国企業2社と人物に制裁を発動した。

 アリソン教授の提起に対して、米誌で賛否が巻き起こった。こうした論議も含めて、米国には中国の台頭によって生じた「構造的なストレス」から、偶発戦争を引き起こしかねないとの懸念がある。日本は米中衝突の最前線にあり、「トゥキュディデスの罠」がもつワナに落ち込まぬよう万全の備えを怠るべきではない。(東京特派員)

《維新嵐》米中両国の利害が、南シナ海で衝突しているわけですから、武力紛争の可能性は否定するまでもないかと思いますが、はたしてそれがエスカレートするとはとても思えません。アメリカも共産中国も国連の常任理事国です。兵器装備にしろ情報インフラにしろ国家戦略に価値ある資源を保有する先進国同士が、実弾のとびかうような紛争、全面戦争に突入していくとはとうてい考えられません。大量破壊兵器が使用されることもないでしょう。
 太平洋を挟んで対極にあるアメリカと共産中国が行う戦争は、基本的に「戦わずに勝つ」戦争の追求ではないでしょうか?
 米中は、1992年の旧ユーゴスラビアの中国大使館誤爆事件以来「激しい戦争」状態にあるといえるでしょう。官民をあわせた相手国の中枢を狙った異空間における全面戦争です。

 これからの先進国同士の(知的財産を豊富に保持する先進国)戦争は、サイバー戦争がメインになるのでしょうね。


世界的に高まるサイバー攻撃の脅威


岡崎研究所
201782日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10246


201771日付のワシントンポスト紙の社説は、今回の「ランサムウェア」によるサイバー攻撃は、世界的な規模で行われ、今後サイバー攻撃はますます広がる恐れがある、と警告しています。社説の要旨は、以下の通りです。

iStock.com/Mirexon/Zffoto/Ociacia

 先週世界的に見られたサイバー攻撃で、石油会社、航空会社、送電網、コンテナ船、港湾、銀行、省庁のコンピューターが動かなくなった。
 今後病院が標的とされ、患者に多大な影響が出る等、さらに深刻な事態になる日が遠くないかもしれない。
 最新のサイバー攻撃は、コンピューターを動かなくし、動かすために身代金を要求する「ランサムウェア」と称するマルウェアによるものであった。北朝鮮は2015年ぐらいから世界の銀行を狙ったランサムウェア攻撃を繰り返しており、今回の攻撃についても北朝鮮が疑われてもおかしくない。ただ専門家の中には、身代金の要求ではなく、混乱を引き起こすことが目的ではなかったかと考えるものもいる。
 今回のサイバー攻撃を誰がしたのかの断定は容易でない。そもそもサイバー攻撃の犯人を割り出すのは難しく、時間がかかる。悪意のあるグループかもしれないし、北朝鮮といった国かもしれない。
 このような脅威を防ぐ魔法の解決策はない。警戒を怠らず、特に重要なインフラなどを防護する以外にない。
出典:Washington Post A cyberattack swept across the globe last week. We should be ready for more (July 1, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/a-cyberattack-swept-across-the-globe-last-week-we-should-be-ready-for-more/2017/06/30/1d697c88-5c2f-11e7-a9f6-7c3296387341_story.html?utm_term=.2a4a41416114

今回のサイバー攻撃で、サイバー攻撃の脅威が一段と高まったことが明らかになりました。
 サイバー攻撃の問題は、国が対外政策の一環として使いうることです。
 世界の安全保障に大きなかかわりを持つ国々は、いずれもサイバー軍を持っています。米国では20053月に、サイバー戦争用の部隊であるアメリカサイバー軍を組織したことを公表しました。ロシアではロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)のほか、ロシア連邦保安庁(FSB)などがサイバー戦に従事していると見られています。中国については、20115月、国防省の報道官が、広東州広州軍区のサイバー軍の存在を認めています。
 イスラエルでは、国防軍参謀本部諜報局傘下の8200部隊がサイバー戦の主力と言われています。
 北朝鮮は約7000人規模のサイバー軍を持っていると推測されています。
 これまでのところ、国レベルのサイバー攻撃については、特定の政治的目的のため行われるケースが目立ちました。米国とイスラエルが2010年、Stuxnetと称する不正ソフトウェアでイランのウラン濃縮施設をサイバー攻撃し、遠心分離機を破壊したことが典型的な例です。
 最近では2016年の米大統領選挙に関し、ロシアが米民主党の全国委員会のシステムに侵入し、幹部の電子メールなど大量の重要情報を盗み出したことがロシアによる米大統領選挙への不正介入であるとして問題化しました。
 しかし、サイバー攻撃が、このような政治的目的に限られず、軍事目的のために使われる危険は常に存在します。電力、鉄道などのインフラが狙われる危険は夙に指摘されており、さらにサイバーが、従来の兵器と同様に軍事作戦の一環として使われる可能性は現実のものと考えられるようになっています。米国では2011年に国防総省が「サイバー空間作戦戦略」を発表し、それに合わせて、サイバー兵器を武器弾薬のリストに加え、サイバー兵器を通常兵器と同様に扱うようになっています。
 サイバーは目に見えない兵器であるとともに、誰が使用したかの特定が容易でないので、戦力の比較、戦闘の形態の予測などが困難です。サイバー攻撃に対する抑止が可能かという問題もあります。
 サイバー攻撃の危険が高まるにつれ、サイバーを含む武力紛争は、新しい戦略論を必要としています。

《維新嵐》既に「サイバー戦争」という視点から、軍事的手段としてのご指摘があります。

サイバー戦争が制御不能になる可能性

岡崎研究所

 フィナンシャル・タイムズ紙の20161014日付け社説が、米国はロシアの最近のサイバー攻撃に措置をとるとしてもサイバー攻撃による反撃はすべきでない、と述べています。要旨は次の通りです。
対抗措置の選択は簡単ではない
 米国の主張が正しければ、ロシアはハッカーのグループを通じて米大統領選挙に前代未聞の介入をしてきている。国土安全省と国家諜報委員会によれば、全国民主党委員会などから4カ月前に盗まれた情報は、その後タイミングを見計らってウィキリークスに暴露されている。
 米国はこれにどう対応するかという極めて重要な決定に直面している。米国に対する国家支援のサイバー攻撃(イラン革命防衛隊、中国、北朝鮮等)が増加している。西欧諸国は敵のコンピューターネットワークを無能化するようなマルウェアの開発などサイバー能力の強化に努めている。2009年、米国は軍の中にサイバー司令部を設立した。
 しかし、ロシアにサイバー対抗攻撃を仕掛けることは問題を孕んでいる。マルウェアが間違った者の手に入った場合、電力網、航空管制など死活的に重要なインフラの破壊に使用されかねない。
 対抗措置の選択は簡単ではない。クレムリンに対する制裁(ソフトオプション)は、本質的に非対称的な措置であり、サイバー戦争のエスカレーションに繋がる可能性は低い。しかし問題はある。国際的な支持を得るためには米国は主張の裏付けを開示するよう圧力を受けるだろう。
サイバー攻撃による反撃には危険がある。サイバーのやり取りについてのルールは定まっていない。米国にとって有害なエスカレーションが起こらないようにしてロシアに損害を与えることができるとの保証はない。
 今、米国や西欧の国々がすべきことはサイバーに対する強靭性と防衛を強化することである。同時に、米国は、ロシアに対して、このような行動は決して容認しないことを明らかにすべきだ。中国との間には緊密な経済関係があるため、中国にはある程度の梃子があった。ロシアについては、クリミア制裁により経済関係は既に大きく縮小されている。制裁といっても現行の制裁の強化に過ぎず、しかもそれは米国の独自の措置としてやらねばならないことになるかもしれない。
 米ロ中の三国が理解すべきことは、サイバー攻撃は新たな形の戦争でありそれを制御不能にしてはならないということだ。それを制約する国際的約束はいまだ可能となっていない。しかし何とかして新たな努力をする意思を見つけ出さねばならない。
出典:‘Americas dilemma over Russian cyber attacks’(Financial Times, October 14, 2016
https://www.ft.com/content/8a75f954-9151-11e6-a72e-b428cb934b78

 FT紙らしい正論です。対ロ制裁に慎重と思われる欧州のムードも反映しています。今回のロシアによるサイバー攻撃は由々しきことです。米国はロシアに対する「均衡的な措置」を検討中といわれますが、上記社説は、対ロ措置の必要性は基本的に認めつつも、サイバーに対する攻撃的な報復措置は制御不能なサイバー戦争への道を開きかねず、行ってはならないと主張します。大事なことは、それぞれの国がサイバー強靭性と防衛力を強化するとともに特に米ロ中が国際的な規制を作るために努力すべきだと主張しています。
 米国で取るべき対ロシア措置については種々の意見が出されています。対抗措置のオプションとしては、経済制裁(しかし欧州に悪影響を与えるので欧州が同調するかどうか)、金融制裁、ロシア関係者の訴追(しかしシリアに関する外交協議は益々できなくなるかもしれない)、米司法省によるハッカー関係者訴追(中国人民軍に対して行ったような)、ロシアの選挙へのサイバー攻撃(しかし有効性は分からない)、サイバー反撃(ロシアのサーバーの無能化)、プーチンの金融コネクションの暴露などが考えられます。1011日、ホワイトハウス報道官は、大統領は一連の措置を検討中であるが、事前にそれを公表するようなことはないだろう、米はサイバー防衛能力とともに攻撃的能力を持っている、対応措置は当然ながら「均衡的」なものとなる、と発言しています。これらを踏まえた上で、大事なことは次のようなことではないでしょうか。
1)ロシアに対しては、今回のようなことは容認できないことを強く伝えるとともに、それに信頼性を与えるため何らかの「非対称的な」制裁措置を取る。
2)措置にはソフトな措置(人的制裁、経済制裁、金融制裁などの非対称的措置)からサイバー分野での対称的な制裁措置(マルウェアで相手のサイバー能力の無能化、破壊)までがあり得るが、後者の措置は、サイバー戦のエスカレーション、サイバー軍拡という未知の段階に公式に足を踏み入れるものであり、望ましくない。FTの言う通り、未知の世界に踏み出すことになる。

3)措置を取るにあたっては、米の優位とエスカレーション・ドミナンスを損なわないようにすることが重要である。そのためにも「静かに」措置を取るべきである。

米中サイバー戦争エスカレーション①

サイバー情報戦争 米中などのネット情報戦争とTPP





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