2017年2月28日火曜日

共産中国による南シナ海の覇権支配の現状 ~わが日本はどうするのか?~

トランプでも元に戻せない中国の南シナ海支配の現状
状況の悪化を食い止めるために日本は何をすべきなのか?
北村淳
オーストラリアの首都キャンベラで記者会見を行う中国の王毅外相。南シナ海で米と衝突なら「双方が敗者になる」と述べた。(201727日撮影)。

トランプ政権が発足して2週間を経た2月初旬、シンガポールを拠点にしているアメリカ海軍の沿海域戦闘艦「コロナド」が、南シナ海で訓練航海を実施した。
 それに引き続いて、アメリカ海軍攻撃原子力潜水艦「ルイズビル」がフィリピンのスービック軍港に寄港した(スービック軍港は、かつてアメリカ海軍が本拠地にしていた軍港で、米軍が再びフィリピンに展開する際には中心的拠点となる)。もちろん攻撃原潜の行動内容は極秘であるが、「ルイズビル」が南シナ海でパトロールを実施していることは明らかだ。
 そして先週土曜日、アメリカ海軍原子力空母「カール・ビンソン」とイージス駆逐艦「ウェイン・E・マイヤー」が南シナ海で「定型的」(公式には「特定国をターゲットにしていない」という慣用語)なパトロールを開始した。
スカボロー礁が軍事拠点化へ
 空母「カール・ビンソン」が南シナ海へ姿を見せる数日前、すなわちハワイ沖に続いてグアム沖で南シナ海でのパトロールに備える訓練航海を実施している頃、フィリピン国防当局は「スカボロー礁で中国による軍事拠点化の動きが確認されている」との談話を発表した。
 スカボロー礁はルソン島沿岸から230キロメートル程度しか離れていない。そこに中国の前進軍事拠点が設置された場合、「ファイアリークロス礁の軍事基地が突きつける脅威の比ではない極めて深刻な軍事脅威になる」とフィリピン国防長官は大きな危惧を示している。
近い将来、アメリカ軍がフィリピンに軍事拠点を回復した場合、その中心的な本拠地となるのはスービック海軍基地である。スカボロー礁はスービック海軍基地から直線距離でおよそ270キロメートルしか離れていない。そのため、スービック軍港に出入りしようとするアメリカ海軍艦艇や海上自衛隊をはじめとする同盟国艦艇は、スカボロー礁から発射される地対艦ミサイルやスカボロー礁を拠点にする人民解放軍戦闘攻撃機などの脅威に直面することになる。
 かつて、南沙諸島での中国による人工島建設の動きにフィリピン当局が懸念を表した際には、アメリカ太平洋艦隊をはじめとする一部の米軍戦略家たちは、強硬手段も含めて素早い対応をオバマ政権に提言した。だが、オバマ政権は具体的対抗策を講じなかったため、中国はあっという間に7つもの人工島を誕生させてしまった。
 スカボロー礁に関しても、アメリカのみならず南シナ海での自由航行に利害関係を持つ諸国が連合して、中国による人工島化を阻止する行動に出なければ、数年後には軍事基地のみならず、灯台をはじめとする非軍事設備それにリゾート施設まで誕生してしまうことは必至だ。
人工島を元に戻させることはもはや不可能
 トランプ政権は、中国による南シナ海のコントロールをなんとしてでも阻止する意向を表明している。そしてティラーソン国務長官は「場合によっては中国艦船が中国が建設した南沙諸島人工島へ接近するのを阻止する」とまで公言した。
 しかし、「接近阻止」ということは、軍事作戦としての「ブロケード」という策を用いざるを得ない。「ブロケード」は、すなわち戦争を意味する。だが、現状では米中全面戦争をアメリカから仕掛けることは99%起こりえない。
 また、仮に南シナ海戦域に限定した米中軍事衝突を想定した場合、アメリカ軍が南シナ海に投入できる戦力や補給支援態勢、それに米国内世論の動向を考えると、人民解放軍が優位であることは否めない。人民解放軍は南沙諸島や西沙諸島に前方展開地上基地を数カ所保持するとともに、海南島と広東省に多数の出撃補給拠点を保有しているのである。
したがって、トランプ政権が強硬な対中姿勢(ポーズ)を取ったとしても、現実的に考えれば「中国との戦争はもちろんのこと、米中軍事衝突だけは何としてでも避けねばならない」というのがアメリカ軍事戦略家たちの真意である。
 ということは、アメリカは、南シナ海で中国が物理的にコントロールする“中国の島”から中国に手を退かせることは、実質的に断念していると考えねばならない(ここで言う“中国の島”とは、南沙諸島の7つの人工島や、中国が南シナ海の行政の中心と位置づけ軍事施設のみならず行政機関まで設置している西沙諸島の永興島、それに西沙諸島のいくつかの島嶼環礁などを指す)。
中国人民解放軍による南シナ海のコントロール

日本は何をすべきか?
もちろん、日本やフィリピンをはじめとする同盟国の手前、トランプ政権はそれらの島嶼環礁から中国を追い払うようなニュアンスを否定はしていない。しかし、アメリカ当局が実際に発動することができる軍事的オプションは、中国に国際海洋法を遵守するように要求する「航行自由原則の維持のための作戦(FONOP)」が関の山である。
 たとえアメリカ海軍がFONOPを質・量共に強化しても、7つの人工島の開発が完成に近づいている今となっては、中国の人工島を更地にすることはできない。
 海軍艦艇や航空機による南シナ海でのパトロールやFONOPでできることは、「これ以上、中国が南シナ海における支配領域を広げないようなデモンストレーションを展開する」ことということになる。

 東アジア地域のアメリカの同盟国の中でも突出して強力な海軍力を有し、南シナ海のシーレーンから最大の恩恵を享受している日本としては、アメリカに言われるまでもなく初歩的なレベルでも良いからFONOPを南シナ海で実施し、中国による「南シナ海全域におよぶ完全な支配権の確立」を少しでも阻止する努力を開始すべきである。

【維新嵐】まずは外交政策で共産中国が、南シナ海はじめ海洋へ触手をのばせないように手を打つべきでしょう。軍事力はあくまで担保です。

人工島のミサイル・「中国の海」にはさせない
中国が建設を進める南シナ海の人工島


2017年2月23日木曜日

「米中戦争」の狭間での我が国の防衛のあり方 我が国における軍事研究のあり方

【米中戦争の確率は「70%以上」】そのとき日本はどうすべきか?

 米国のドナルド・トランプ大統領は大統領選挙キャンペーン中、「駐留米軍撤退」を示唆していたが、駐留米軍が米国の世界戦略に不可欠である現実を、44年もの軍歴を誇る退役海兵隊大将ジャームズ・マティス国防長官ら、軍事的合理性を重んじるプロの助言で理解し、封印した。
 小欄は過日、駐留米軍撤退に伴うわが国の防衛予算の在り方について、安全保障関係者と共にシミュレーションを試みた。後述するが、予想通り、結果は「激増」であった。
 ただ、駐留米軍撤退の有無にかかわらず、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の占領を狙い、北朝鮮が核開発を進め、弾道ミサイルを乱射する…わが国を取り巻く危機的環境を直視すれば、自衛隊が使えるヒト・モノ・カネの数量は圧倒的に不足している。当然、日本の国会は、軍事膨張路線をひた走る敵性国家に対する「備え」を議論しなければならない。
 ところが、野党国会議員のエネルギーは、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に絡む「戦闘」と「武力衝突」の違いをただす「国語のお勉強」に集中する。日本の国会議員の内、期限切れを迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題を知る人物は何人いるだろう?
 トランプ氏は1月下旬、ロシアのウラジミール・プーチン大統領との電話会談で新STARTの延長問題を提起されたが、何のことだがわからなかった、とか。日本の政治家にもぜひ、「国語」ではなく「国防のお勉強」をしていただきたい。


国会で「国語のお勉強」が許される国際情勢か

 国防長官就任を前に、マティス氏は米国議会の公聴会で明言した。
 「強い同盟国を持つ国は栄え、そうでない国は衰退する」
 マティス国防長官は来日時も、「強い同盟国日本」を求め、「日米関係は試すまでもない。政権移行期に乗じた挑発行動を防ぐために訪日した」とも語った。
 実際、ジョージ・ブッシュ大統領(子)就任の3カ月後、南シナ海上空で、米海軍の電子偵察機EP-3に、中国海軍のJ-8II戦闘機が急接近して空中衝突し、戦闘機は墜落、EP-3も中国・海南島に不時着した。2001年の《海南島事件》である。米新政権の出方を見極める軍事行動だったといわれる。 
 では、果たして日本は「強い同盟国」「試すまでもない同盟国」なのであろうか。少なくても、国会論議を見る限り、そうは思えない。
 南スーダンPKOへの派遣部隊の日報に、大統領派と反大統領派の間で「戦闘」があったと記されていたが、政策論争能力の乏しい野党は、この二文字のうっかりミスに噛み付いた。
 海外での武力行使を禁じた憲法第9条にPKO参加部隊が違反しないよう定めた《参加五原則》に触れぬよう、政府は「戦闘」と「武力衝突」を法的に区別して使ってきた。世界平和に背を向ける硬直した憲法の隙間を縫い、バカバカしいとは感じつつ、「戦闘」と「武力衝突」を別概念としてきたのだった。


 政府批判を強める野党議員は「国連を裏切れ!」と叫んでいるに等しい。国連事務総長特別顧問は南スーダン情勢に関し「大虐殺が生起する恐れが常に存在する」と断言。その国連は加盟国に、虐殺など人権を踏みにじる蛮行に遭っている市民を助けるべく、紛争地に武力介入する《保護責任》への参加を促しているからだ。 
 いずれにしても、少し前まで、米軍撤退も可能性ゼロではなかった日米関係の緊張下、国会で「国語のお勉強」をしている場合ではない。「強い同盟国」「試すまでもない同盟国」になるには、どういう戦略が必要なのか、国会で議論しなければならない情勢なのだ。議論の一助として、現行の年間防衛予算5兆円が米軍撤退後、どう変わるのか…小欄らのシミュレーション結果を一部掲載しておく。
 《防衛予算は3~4倍の15~20兆円に。内訳は、陸上自衛隊の2~3倍/海上自衛隊と航空自衛隊は3~4倍にせざるを得ない》
 防衛予算は、米軍が本土&ハワイ&グアムより来援するまで、侵略目的で押し寄せる現時点での中国人民解放軍戦力を迎え撃つために必要な兵器の種類や戦闘員数を基にはじき出した。米軍来援には、軍種・作戦にもよるが、準備と移動で数週間~半年以上かかる。
 以上は、人民解放軍のみとの戦闘に伴う防衛予算増で、北朝鮮やロシアへの備えも担保すれば、4~6倍の20~30兆円に膨らむ。


 しかも、「来援する」という楽観分析の上、核・弾道ミサイルへの迎撃や報復、策源地(敵ミサイル基地)への攻撃も米軍まかせ。人民解放軍情報も8割前後を、米軍にお願いするが、提供されるとは限らない。
 マティス長官の来日時や日米首脳会談後の共同声明では、人民解放軍が尖閣諸島に対して侵略にのり出せば、日米安全保障条約第5条の適用対象と確認され、情けないほど安堵したが、わが国の国民や政治家の多くは誤認識している。バラク・オバマ氏も大統領時代、尖閣諸島に触れたが、わざわざ「日本の施政下」だと断った上で、尖閣諸島は「5条の適用対象」と話している。
 オバマ発言は、重要な意味を含んでいた。米国にとり尖閣諸島は「日本の施政下」であって「領有」を認めたわけではない現実。米国は領有権の係争問題では介入・明言を避ける。現に、わが国が領有権を主張しながら実効支配できていない北方領土や竹島(島根県隠岐の島町)に関し、米国は「日本の施政下」「5条の適用対象」とは、絶対に言わない。
 逆に中国は、「5条の適用対象」にさせない「戦況」を創り出す戦略・作戦の構築に全力をあげる。具体的には、海警局の重武装公船や漁民を装う海上武装民兵を投入し、尖閣諸島の実効支配(=中国の施政下)を執拗に狙ってきている。


 かかる状況では、武力攻撃事態認定→自衛隊の防衛出動→5条適用は、不可能だ。中国が「海上警察力」や「漁民」しか出していないのに、国際的には国軍と認知される自衛隊を出せば、国際社会はカネの縁も手伝い、中国の肩を持つはずだ。自衛隊に警察権を行使させる主張も散見されるが、実力を縛るだけ。
 つまり、緒戦は海上保安庁など警察力を中心に、独力で尖閣諸島を守り抜かねばならない。人民解放軍が出撃してきても、《日米防衛協力の指針=ガイドライン》では、日本の離島防衛は自衛隊が主体的に行い、米軍は自衛隊を支援・補完するとうたわれている。小さな無人島群すら守り通せぬのなら、米国が日本を信用し、共に戦う道理がない。
 リチャード・アーミテージ元米国務副長官とはかつて会食後、ウイスキーのストレートを何杯もショットグラスでイッキ飲みし、楽しく語らった思い出があるが、幾つかの想定での米軍来援を尋ねると、元軍人の顔に戻って答えを返してきた。
 「日本次第だ。自衛官が戦えば、米軍将兵も共に戦う。だが、日本が米国の後ろに隠れるのなら、米軍将兵の血は一滴も流さない」
 「日本が米国の後ろに隠れない」姿勢を明確にする観点でも、日米首脳会談後の共同声明で、日米同盟における両国の任務分担の一層の見直しに触れた点は評価できる。安倍晋三首相も「自衛隊の役割・能力を見直していくことは当然」と述べている。


米軍再建は自国のため

 折しも、トランプ政権は、オバマ前政権でガタガタにされた米軍の再建に乗り出す。同盟国の防衛ではなく「米国の安全」のために使われる公算が大きいとしても、同盟相手たるわが国も、防衛費増額で応える重大な局面を迎えた。
 オバマ前大統領が財政再建に伴い2013年に始めた国防費の強制削減措置で、シンクタンク・米戦略予算評価センター(CSBA)によれば、2010~14会計年度の下落幅は21%に達した。トランプ政権は、議会と協力して強制削減措置を撤回し、米軍再建に傾注する。
 その結果、陸軍が今秋までに計画する新兵の募集目標6万2500人を6万8500人へと6千人上積み。1973年に完全志願制になって以来、最大の募集となり、過去80年で最低に落ち込んだ兵力(48万人)が54万人へと増強される。
 過去100年で最少規模の海軍現有艦艇274隻も350隻に増やす方向とみられるが、超党派の国防諮問委員会が勧告した保有艦艇目標323~346隻をも上回る配備数だ。創軍以来の最少となった空軍の戦闘機は1200機に回復、海兵隊の36大隊態勢も視野に入った。
 繰り返すが、米軍の増強分が同盟国防衛に投射されるか否かは未知数だ。米国向けに使うのがスジだからだ。


 もっとも、オバマ政権に比べトランプ政権が「米中直接激突」に身構えているフシはある。例えば、トランプ政権が新設した国家通商会議(NTC)委員長に抜擢されたカリフォルニア大学のピーター・ナバロ教授が著書《米中もし戦わば-戦争の地政学=文藝春秋》に盛り込んだ安全保障観。第1章《米中戦争が起きる確率》では《70%以上》という数字を記している。算出理由はこうだ。
 《世界史を概観すると、一五〇〇年以降、中国のような新興勢力がアメリカのような既存の大国に対峙した一五例のうち一一例において(すなわち、七〇%以上の確率で)戦争が起きている》
 この著書が出版されたのは昨年11月であったが、安全保障関係者の間では近年、《トゥキディデスの罠》と呼ばれる現象・法則が再注目されていた。オバマ大統領が2015年、中国の軍事膨張を念頭に、習近平国家主席との米中首脳会談で使ってもいる。おおよそ、次のような現象・法則を指す。
 《紀元前5世紀、新興のアテネと既存支配者のスパルタの間で戦争が始まった。歴史家のトゥキディデスは『急速に台頭する新興大国は必ずや既存大国に挑戦し、既存大国が受けて立てば、戦争が起こってしまう。戦争を回避できなかった原因は、スパルタに潰されまいと力を付けるアテネと、現状維持を望むスパルタの恐怖心にある』と指摘した》


 戦争は30年近く続いた揚げ句、両国とも滅んだ。《トゥキディデスの罠》未遂は歴史上15回ぼっ発し、内11回が戦争へとエスカレートした。新興ドイツが既存の英国に挑んだ史実は象徴的だ。2度にわたる世界大戦への導火線となったのはご存じの通り。ひるがえって、中国がアテネ、米国はスパルタという構図が、現代の国際社会によみがえりつつある。
 米中が軍事力を行使し激突すれば、同盟国・日本は最前線の「不沈空母」としての役割を求められる。在日米軍基地は緒戦で猛攻撃される可能性が濃厚で、日本にとっても国際法上認められている自衛戦争に他ならぬ。人民解放軍のミサイル攻撃などを回避せんと、駐留米軍が一旦、グアムまで下がる戦略も観測される。米軍の来援は、前述したごとく、日本の戦いブリにかかっている。
 日米同盟の大前提は、安倍首相が何度も口にするように「価値観の共有」だ。が、小欄は国家主権や国民の生命を戦争覚悟で守る米国と、正視を避け続けてきた日本の間で、価値観が共有できているのか疑問に思う。
 先日の国会で、安倍首相は「南スーダンで駆け付け警護の任務中に自衛官に死亡者が出たら総理はどう責任をとるのか」との質問に対し、「辞任などを含めて責任をとる」といった主旨の答弁をした。
 けれども、米軍は多くの戦死者を出しても、最高司令官たる大統領は辞任などしない。その代わり、戦死者に勲章をはじめ名誉を与え、国家をあげて丁重に弔う。


首相=最高司令官が、わずかながらも戦死が想定されるのを承知で自衛隊に任務付与するのなら、辞任は任務付与に対する信念と責任の放棄に過ぎない。辞任ではなく、国家と任務に殉じた者へ名誉を与え、国家としての弔いを責任もって行うべきだ。より安全に任務が遂行しやすくなる装備や法的環境を整備していくのが最高司令官の責務でもある。

 そもそも、PKOに参加する各国軍は《駆け付け警護》などという“軍事用語”を使わない。他国のPKO部隊との共同防衛や市民保護は、論じるまでもない当たり前の任務なのである。【野口裕之の軍事情勢】より

マティス国防長官の来日と日本の安全保障政策の修正


軍事研究タブーは「百害あって一利なし」?
中国、北朝鮮からの危機にさらされながら…世界と乖離する日本学術界

防衛省の安全保障技術研究推進制度のイメージ。諸外国では大学による軍事研究が行われているが、日本ではいまだに〝アレルギー〟が強く、研究者による応募を禁じる動きも広がっている

アメリカ軍を沖縄から台湾へ「再配置」する!?日本の「専守防衛」のあり方

米軍を沖縄から台湾に再配置する!?
「一つの中国」見直し論

岡崎研究所

 トランプ政権と近く、国務長官候補に名前が挙がったこともあるボルトン元米国連大使が、2017116日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説にて、米政権は「一つの中国政策」を改め、台湾への武器売却のみならず、一部の米軍を沖縄から台湾に再配置するなどして、中国と対峙すべきだ、と論じています。要旨、次の通り。
iStock

20171月初め、中国は空母「遼寧」に台湾海峡を通過させた。この動きは、台湾の蔡英文総統がトランプ次期大統領に当選を祝う電話をしたことへの対応の一部である。これが中国のやり方である。
 上海コミュニケから45年が経過した現在、「一つの中国政策」を見直し、米国がその意味をどう捉えるか再考するときがきている。トランプは、この政策は交渉可能だと言っている。交渉は米国が譲歩し中国が得をすることを意味するべきではない。我々は1972年ではなく2017年を反映する形で、戦略的に一貫性のある優先順位を決める必要があり、そこには貿易や通貨政策以上のもの、特に台湾政策が含まれるべきだ。
 米国はこれまであまりに長い間、不本意にも「一つの中国政策」という言葉遊びに付き合わされてきた。しかし、上海コミュニケにおいてさえ、「米国は、全ての中国人が、中国はただ一つであり、台湾はその一部であると信じていることを認識する」としているだけだ。
 米国は常に、中台の再統一は、平和的かつ双方の合意のもとでなければならないと主張しているが、67年が経過しても相互の合意は存在していない。中国が香港についての一国二制度を乱暴に再解釈し、それを香港に強いているのを見れば、予見しうる将来にも双方の合意は実現しえないだろう。
 米国は、台湾への武器売却を増やし、兵員と装備を台湾に再度配備することで、東アジアにおける軍事態勢を強化し得る。マッカーサーのように台湾を「不沈空母」と捉える必要はなく、相互防衛条約の再交渉も必要ない。基地駐留の権利と関連活動は、完全な防衛同盟を意味するわけではない。我々の活動は、シンガポールのやり方とそれほど変わらないだろう。台湾関係法は広範に作られており、既にそのような関係を含んでいるため、新たな権限法を通す必要はない。
 確かに、米軍の駐留は上海コミュニケ違反だと主張する向きもあるだろう。しかし、それには台湾関係法の文言が優先されるべきである。この地域の情勢は、中国が主張するような1972年の状況とは根本的に異なっている。アジアの近隣諸国は、中国の軍事力と好戦性が劇的に高まっていると見ているはずだ。より重要なことは、中台関係に恒久的な変化が生じており、上海コミュニケの大半が時代遅れになっていることである。国際法における事情変更の原則に基づけば、1972年と異なる視座に立つことは正当化される。
 台湾の地理的位置は、沖縄やグアムよりも東アジアの本土や南シナ海に近く、事態が生じた場合に、米軍が即応展開する際の広範な柔軟性を与えることになる。米国は、少なくともある程度の米軍を沖縄から台湾に再配備し、日本との緊張を緩和することもできるだろう。それに現在のフィリピン指導部を見れば、予見しうる将来、米比の軍事協力を強化する機会はあまりなさそうである。
 海洋の自由の維持、軍事的冒険主義の抑止、一方的な領土併合の阻止は、東アジアおよび東南アジアにおける核心的な米国の利益である。現在では、1972年とは逆に、台湾との軍事関係の緊密化が、これらの目的を達成するのに重要な一歩となるはずである。もし中国が異議を唱えるならば、もちろん話し合う余地はある。
出典:John Bolton,Revisit the One-China Policy’’(Wall Street Journal, January 16, 2017
http://www.wsj.com/articles/revisit-the-one-china-policy-1484611627

 1972年の「上海コミュニケ」の中ではじめて表現された米国の「一つの中国政策」を今日の現実に合うように変えるべきであるとの主張です。トランプ大統領がツイッターで「『一つの中国政策』は交渉次第である」と述べたことと軌を一にしています。
曖昧な同床異夢
 「一つの中国政策」とは、もともと曖昧な同床異夢の上に成りたった概念です。中国はそれを「台湾は中国の不可分の一部」を意味するものと主張します。米国も日本も中国の主張に相当の歩み寄りをみせつつも、米国は「中国の主張を認識する」というにとどめ、日本は「中国の主張を十分理解し、尊重する…」というにとどめ、中国の主張を承認したり、合意したりしていません。
 この同床異夢の概念が成立したのは、ボルトンの言う通り1970年代の冷戦期です。さらに、その後40数年の間に、台湾人のもつアイデンティティー意識は、各種アンケートが示すとおり、「自分たちは中国人ではなく、台湾人である」との意識が着実に強まってきました。
 米国はこれまで、中国の主張する「一つの中国政策」の解釈について、直接的に異議を唱えることなく、そのまま受け入れることが多く、そのため、知らず知らずのうちに中国の解釈に屈してきたという、ボルトンの指摘はその通りです。
 トランプの対中政策のうちでは、為替・関税操作、南シナ海問題、「一つの中国政策」の3分野が主たる注目点です。トランプが、いずれかの分野で中国が妥協すれば、他の分野での要求をとりさげるというような取引材料としてこれらを使おうとしているのか、依然として判然としないところがあります。
 今日までの中国の反応を見る限り、いずれの分野に対しても中国はトランプの批判に対抗する立場をとっていますが、この3分野の中では「一つの中国政策」に対して最も強硬な態度をとっているように見えます。中国外交部スポークスマンは、「台湾問題の高度な敏感性を十分認識し、『一つの中国原則』に基づき政策を継続するよう促す」との趣旨の発言を行いました。
 そのような中国の対応から見る限り、「一つの中国政策」の見直しを主張するトランプやボルトンの主張は、中国にとって最も痛いところを突くものなのでしょう。これまで、各国が中国と対話するうえで、一種のタブーのように扱われてきた「一つの中国政策」をトランプがいとも簡単に破ったことに中国としては内心、恐慌をきたしているに違いありません。
 ボルトンが指摘するように、「台湾関係法」を持つ米国は、台湾への防御用武器を台湾に売却できる仕組みをもっています。ボルトンは「台湾関係法」の文言を優先して、国際法の「事情変更の原則」により、米軍の一部を台湾に再配備することを提案しています。この点については、専門家の間においてもいまだ議論されていない点であり、そう簡単に実施に移されるとは考えられません。ただし、このような議論が米国内で行われるようになったということ自体が、中国牽制の意味を持つものと考えられます。
 台湾の蔡英文政権は、「一つの中国政策」をめぐる米中間の対立の中に「台湾カード」として巻き込まれることを避けるため、目下のところ、本件を静観するとの基本的姿勢を維持しています。中国は、空母「遼寧」を台湾島の周辺を一周させた他、サントメ・プリンシペの台湾承認を中国承認に切り換えさせ、トランプ就任式に出席した台湾代表団を威嚇したりしています。

《維新嵐》アメリカ軍のどの軍種、部隊を沖縄から台湾に再配置する考えが出されているかこの文面からは読み取れないですが、アイディア自体は悪くない考え方であろうと思う。ただそういう場合尖閣諸島も含めた南西諸島の防衛ラインの一角を死守するために「再配置」して減ってしまったアメリカ軍の穴をうめるため「日本国防軍」たる自衛隊の部隊、装備を強化する必要が出てくるのは必然かと思えます。そうした場合に単に正面装備だけ協力にするのではなく、システムの上で島嶼間への外国侵攻を探知し、即応できる態勢を作っておくことは不可欠です。北朝鮮による邦人拉致のように外国工作員でしたが、二度と本土への上陸をなされてはならないのです。。

台湾国防軍

【阿比留瑠比の極言御免】
敵基地攻撃能力の保有へ機は熟している「座して死を待つなかれ」
「わが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは考えられない」
 鳩山一郎首相(当時)が衆院内閣委員会でこんな政府統一見解を示し、敵基地攻撃能力の保有は合憲だと表明したのは、さかのぼることはるか61年、昭和31年2月のことである。統一見解は次のように続く。
 「誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的に自衛の範囲に含まれ、可能である」
 まだ日本が、現在のように北朝鮮や中国の弾道ミサイルの脅威にさらされていなかった時代でも、そうだったのである。
 それからミサイル技術は日進月歩し、正確性も破壊力も比べものにならない。にもかかわらず、情けないことに「わが国は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、保有する計画もない」(今年1月26日の衆院予算委、安倍晋三首相答弁)のが現状だ。

■国際情勢の変化

 長年にわたる政治の不作為により、国民の生命と財産は危険にさらされ続けてきた。もうここらで、政治は真摯に現実に向き合うべきだろう。自衛隊部隊の日報における「戦闘」の定義や意味について延々と不毛な論争をするよりも、よほど国民のためになる。
 安倍首相はこの1月の答弁で、敵基地攻撃能力の保有について「国民の生命と財産を守るために何をすべきかという観点から、常にさまざまな検討は行っていくべきもの」とも述べた。当然の話だろう。
 もともと安倍首相は、わが国の敵基地攻撃能力の欠如について問題意識を持っている。まだ当選2回の若手議員だった平成10年9月の衆院安全保障委でも、次のように主張している。
 「日米安保条約第5条は、具体的に日本が攻撃されたときに米国が報復をするという義務規定ではない。わが国が報復する能力を持っていなければ、抑止力に穴が開いてくる」
 「(現状では)基地をたたくのは、すべて米軍がやらなければいけないことになる。この状況は少しおかしいのではないか。すべて米軍の若者の血と生命によらなければ、わが国の生命と財産が守れないかもしれないということになる」
 これに対し、当時の額賀福志郎防衛庁長官は「現在の自衛隊は敵の基地を攻撃する目的で装備体系をしているのではないので、敵基地に対し軍事的な有効な打撃を行うことはなかなか難しい」と答えている。
 この質疑からも18年余がたつにもかかわらず、日本はいまだに自分の手足を縛り続け、国際情勢の変化についていけていない。
■ハードルは低い
 安倍首相は11年4月の衆院日米防衛協力のための指針に関する特別委では、集団的自衛権の限定行使容認を訴え、16年後の27年にはそれを可能とする安保関連法を成立させた。
 このときは、従来の政府解釈の変更が伴ったこともあり、野党や憲法学者らから違憲だとの指摘が相次ぎ、国会前でデモが行われるなどの騒ぎになった。だが、敵基地攻撃能力の保有に関しては歴代内閣が鳩山一郎内閣の統一見解を踏襲しており、ハードルはもっと低いはずである。
 また、稲田朋美防衛相や自民党の高村正彦副総裁、日本維新の会の片山虎之助共同代表も検討に前向きであり、機は熟している。

 安倍首相にはぜひ、国民を守るため敵基地攻撃能力の保有の検討開始に踏み切ってもらいたい。座して死を待ってはならない。(論説委員兼政治部編集委員)

《維新嵐》ジャーナリストの櫻井よし子氏もご指摘されていますが、日本国憲法第9条は、国防軍事力すべてを否定したものではありません。パリ不戦条約の精神を受け継いだこの条文の精神は、侵略戦争と侵略戦争を遂行するための軍事力は禁止するということです。国家の主権と独立を守るための国防軍、自衛戦力は否定されてはいません。自衛隊も国防軍も同義ですが、もちろん憲法では国家の主権と独立を守る軍隊になります。
そして「敵地攻撃能力」は、国防上当然可能なことです。問題は手段です。日本列島、南西諸島は日米共通の国防線、海峡を封鎖していくことを至上命題とする自衛隊では、敵地攻撃は、今の時点では難しいでしょう。海のむこうまで飛ぶような長距離の兵器があって、新たな軍事ドクトリンの構築が必要になります。結論からすると巡航ミサイルの運用がかぎになるかと思います。
専守防衛と敵地攻撃能力について

敵ミサイル基地を撃破せよ!