2017年1月15日日曜日

フィリピンへ「武器供与」を通じて影響力を高めようとするイケイケ中露、どうする日本

中国もロシアも、フィリピンに武器供与提案で急接近

米国は自動小銃供与を中止、間隙を突く中露

北村淳
ペルーの首都リマでアジア太平洋経済協力会議の合間に、ロシアのプーチン大統領との会談が行われるホテルに到着したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(中央、20161119日撮影)。(c)AFP/LUKA GONZALESAFPBB News

201713日、ロシア海軍の対潜駆逐艦アドミラル・トリブツと給油艦ボリス・ブトマがフィリピンの首都マニラのサウスハーバーに入港した。各種歓迎式典に引き続いてフィリピンのドゥテルテ大統領はロシア駆逐艦を訪問した。
 人工島基地群建設をはじめとする中国の南シナ海侵攻戦略の進展や、ドゥテルテ大統領の言動などの影響で、中国やアメリカのみならずロシアまでもがフィリピンに対する軍事的な働きかけを強化し始めたのだ。
ロシアがフィリピンへの武器供与を提案
ロシア海軍艦艇のフィリピン訪問は今回で3度目だが、ドゥテルテ政権になってからは今回の訪問が初めてである。
 駆逐艦アドミラル・トリブツに乗り込んでフィリピンを親善訪問したロシア太平洋艦隊副司令官ミハイロフ海軍少将は、近々ロシア海軍とフィリピン海軍が海賊対処や対テロ作戦分野での合同訓練を実施する意向を明らかにした。南シナ海で実施される合同訓練は、ロシアとフィリピンに限らず中国やマレーシアなどを加えた多国籍軍事訓練という形もあり得るとも語った。
 この種の海軍艦艇親善訪問に際して合同訓練の促進といった話題が語られることは何ら珍しいことではない。だが、ドゥテルテ政権はアメリカ軍との共同訓練を縮小する方針を掲げており、今回の親善訪問は、ロシア海軍がその方針に付け込んで伝統的な米比軍事同盟関係に楔を打ち込もうとしているとの見方もある。
 実際に、記者会見でミハイロフ海軍少将と同席したロシア駐フィリピン大使は、「ロシアはフィリピンに対して、小火器や小型兵器のみならず航空機やヘリコプター、潜水艦をはじめ各種兵器を、それもアメリカが供与している中古品と違って最新兵器を供与する準備がある」と語った。これは、ロシアによるフィリピンへの軍事的関心の高さを表している発言と言えよう。
サウスハーバーに停泊中のロシア海軍の駆逐艦アドミラル・トリブツ

武器をプレゼントする中国
今回の軍艦訪問のひと月ほど前の昨年12月中頃、ドゥテルテ大統領は国防大臣と外務大臣をモスクワに送り込み、兵器調達に関する折衝を開始していた。ドゥテルテ政権がこのような動きを見せたのは、オバマ政権が、ドゥテルテ大統領による強硬な麻薬撲滅政策を忌み嫌い、フィリピン軍に対する26000丁の自動小銃供与を中止する意向を表明したからに他ならない。
 実はアメリカの自動小銃供与中断は、中国に対してもフィリピンへの武器供与の動きの引き金となってしまっていた。
「フィリピンに対する武器供与」という土俵にロシアが乗り込んでくる以前に、すでに中国は手を打っている。アメリカ側が自動小銃供与を中断する方針を明らかにするや、駐フィリピン中国大使がおよそ15億円相当の武器を、無償でフィリピンに供与する方針であることを明らかにしたのだ。
 中国がフィリピンにプレゼントする武器の詳細は明らかにされていないが、アメリカが供与することになっていた26000丁のM4ライフルの代替として中国製ノリンコ突撃銃も含まれているという。そして15億円の無償供与に加えて、500億円以上にのぼる武器借款プログラムも提示した。
 今のところドゥテルテ大統領はじめフィリピン側は、中国側の提案がフィリピンの国防にとってどれほど有用かどうかを見極めた上で判断するとの慎重な姿勢をみせている。
日本にとっても必要な武器供与プログラム
中国そしてロシアによるフィリピンに対する武器供与という動きはまだ始まったばかりで、具体的に進展があったわけではない。ただし、南シナ海問題にとって地政学的に重要な位置に存在しているフィリピンに対する中国やロシアからの軍事的なアプローチはますます強化されるであろう。
 とりわけ、兵器の供与を通しての軍事的結びつきを強化することは、「防衛協力関係の促進」「共通の価値を守る」といった類いの理念的な結びつきを推進するより、はるかに実質的な成果を上げることは確実である。それだからこそ、中国やロシアは、綻びが生じ始めた米比軍事同盟関係に楔を打ち込むために、武器供与パッケージをドゥテルテ政権に提示し始めたのだ。
 その動きを日本はただ傍観しているだけでよいのだろうか。安全保障の観点からは、日本にとっても南シナ海は国の存立を左右しかねない重要な海域だ。その南シナ海を軍事的にコントロールするための中国人工島基地群に隣接するフィリピンとの軍事的な結びつきを強化することは、日本の国防にとって喫緊の課題である。
 そのために欠かせないのは、理念的あるいは形式的な防衛協力の強化の約定を交わすことではなく、中国やロシアに対抗して兵器、“防衛装備”を供与する具体的プログラムを提示して、実体的な軍事的支援を実施する姿勢を示すことである。
 もちろん、フィリピン軍が伝統的な同盟国であるアメリカからの兵器調達から中国やロシアからの兵器調達へ全面的に乗り換えることは、ドゥテルテ大統領の反米(反オバマ)発言にもかかわらず実現可能性は低い。しかし、アメリカからの調達ができない兵器(たとえば通常動力潜水艦、地対艦ミサイルシステム)や、アメリカからの調達では高額すぎる兵器(たとえば地対空ミサイルシステム、小型水上戦闘艦)などについては、中国やロシアが割り込んでしまう可能性も否定できない。したがって、そのような分野で日本がアメリカのギャップを埋め、中国やロシアがフィリピンに対して軍事的影響力を増大させるのを阻止すること十二分に可能だ。
 また、日本はフィリピンに対して沿岸警備隊巡視船の供与を開始している。引き続いて潜水艦や小型水上戦闘艦、それに地対艦ミサイルシステムなどの供与を提案しても、何ら不自然ではない。

武器輸出三原則から防衛装備品移転三原則へと歩を進めた現在、日本政府は、政府間や軍隊間の交流を頻繁に行うよりも、重要な兵器の供与によって生み出された軍事的結びつきの方がはるかに実効的であることを認識すべきである。

ドナルド・トランプはアジアをどうしたいのか?

《維新嵐》 アメリカとフィリピンは米比相互防衛援助協定という日米安全保障条約以上に深い軍事的なつながりがあります。本来はアメリカの一番の兵器供与のお得意さまであり、軍事拠点的にもアジアでは日本以上に重要性の高い基地が存在してもいいかもしれません。
 そんなアジアのチョークポイントとしてのフィリピンのはずなのに、南シナ海戦略では、だ二次大戦(太平洋戦争)で日本から獲得した権益を共産中国に奪われつつあります。
 そして武器市場としてのシェアもさがるとなると、ここに共産中国やロシアという太平洋への新たな新興勢力が台頭してくるのはごく自然の流れといえるでしょう。
 トランプ政権が、オバマ政権のある意味失策を埋められるかどうか、アメリカファーストですが、実業家出身のドナルド・トランプですから、その視点は経済的な利益を追求するという点に偏りがちになるように考えられます。
 軍事的、安全保障的な観点が薄くなれば、アジアでのアメリカの軍事的プレゼンスは強くなることはないかもしれません。となると我が国も自主防衛を勧め、独自外交戦略、政治戦略をしっかり確立して、ロシア関係を強固にしながら南シナ海での存在感を大きくするべく存在感を発揮するいい機会かもしれません。
 軍事力だけが抑止力ではありません。
国家戦略という総合戦略があって、外交、軍事、情報戦略をバランスよく回しながら国家運営していくことが理想と考えます。戦後の連合軍占領政策シンドロームを脱却するいい機会でしょう。


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