2016年10月8日土曜日

自衛隊のロジスティクス能力

船員組合に運行が左右される自衛隊の海上輸送
新たな中型輸送艇のすすめ

吉富望 (日本大学危機管理学部教授)


 201696日付の讀賣新聞朝刊に「陸自輸送 契約船使えず」との記事が掲載された。その記事によると、20162月の北朝鮮による長距離弾道ミサイルの発射に際し自衛隊は、年間輸送契約を締結していた「新日本海フェリー」所属のフェリー「はくおう」でミサイル落下に備えるための部隊を沖縄本島から石垣島などへ移動させようとしたが、船員が加盟する全日本海員組合が難色を示したため同船の使用を断念したとのことである。自衛隊はその後、定期船などを使って部隊を運び、ミサイル発射にはぎりぎり間に合った模様である。
 また記事では、本件の原因は防衛省と「新日本海フェリー」との契約では、輸送支援の事例として「災害派遣等」を挙げており、ミサイル発射に対処するための輸送がこれに該当するか否かで防衛省側と組合側で見解が分かれたこと、ならびに組合側が武器の輸送はしない姿勢であることとしている。
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東日本大震災以降における自衛隊の海上輸送力強化の動き
 自衛隊が平素に民間船舶を使用することは常態化している。著者も四国の陸上自衛隊の部隊に勤務中、北海道での転地訓練のために民間フェリーを使って移動した経験がある。ただし、転地訓練のように年度の計画に基づく輸送であれば民間船舶を事前に確保できるものの、災害派遣等で突発的に輸送ニーズが発生した場合、海運会社及び海員組合の協力無くして民間船舶を確保することは難しい。例えば、2011年の東日本大震災の時点で、自衛隊の海上輸送力の主力は「おおすみ型輸送艦」3隻であったが、震災に際してこのうち2隻が主として救援物資の輸送等に従事した(1隻は定期修理中のため不稼働状態)。このため、北海道から被災地に赴く陸上自衛隊の海上輸送は民間フェリーと米海軍の揚陸艦が実施した。この際の民間フェリー会社と海員組合による協力は特筆に値する。その一方で、緊急時における自衛隊の海上輸送が民間フェリー会社と海員組合による協力に左右される実態を強く再認識させたのも事実である。
 東日本大震災以降、自衛隊は海上輸送力の強化を進めてきたが、そこには二つの特徴が見られる。第一の特徴は『民間フェリーの安定的な使用』である。防衛省は2014年度以降に新日本海フェリーの「はくおう」(総トン数17354トン、トラック122両などを積載可能)と津軽海峡フェリーの「ナッチャンWorld」(総トン数1712トン、トラック33両などを積載可能)を借り上げる年間契約を結び、契約期間内に自衛隊から輸送要請があった場合には72時間以内に船を出すことになっていた。
 しかし、冒頭に述べたように北朝鮮のミサイルの発射に際して、この契約は機能しなかった。20163月にはフェリー会社などが出資する特別目的会社「高速マリン・トランスポート」が設立され、防衛省が同社から「はくおう」と「ナッチャンWorld」をチャーターする仕組みが構築された。そして、同年4月の熊本地震に際して「はくおう」が陸上自衛隊の災害派遣部隊を輸送し、早くもその仕組みが機能した。とはいえ、冒頭に述べた海員組合の姿勢を踏まえれば、災害以外の緊急時における民間フェリーの安定的な使用には不安が残る。防衛省は、災害以外の緊急時にはこれらのフェリーを非組合員の予備自衛官に操船させる計画と言われているが、十分な数の予備自衛官を確保できていない模様である。このため自衛隊は、民間フェリーの安定的な使用を追求するとともに、自前の海上輸送力の整備にも注力する必要があろう。
海上輸送に任ずる艦船の大型化
 自衛隊の海上輸送力強化の第二の特徴は『海上輸送に任ずる艦船の大型化』である。東日本大震災以降、自衛隊が借り上げ契約を結んだ「はくおう」と「ナッチャンWorld」は総トン数1万トンを超える大型船である。また、2015年に就役した「いずも型護衛艦」(基準排水量19500トン)には輸送機能が付加されておりトラック50両を搭載可能である。このように、「おおすみ型輸送艦」(基準排水量8900トン)を含む自衛隊の海上輸送に任ずる艦船は大型化しており大量の物資、車両、人員等を輸送する能力は高まっている。
 他方、「はくおう」、「ナッチャンWorld」及び「いずも型護衛艦」は搭載した車両を揚陸するために相応の水深を有する港湾の岸壁に接岸する必要があり、小規模な港湾しか有しない離島や僻地、あるいは地震や津波で被害を受けた被災地の港湾に車両を揚陸することはできない。こうした場合には、中型の輸送艇を海岸に直接ビーチングさせて車両を上陸させることになるが、現在、自衛隊でこれができるのは2隻の「輸送艇1号型」(基準排水量420トン)及び「おおすみ型輸送艦」に搭載して運用される6隻のエアークッション艇(LCAC)に限られる。
 ちなみに自衛隊は、東日本大震災当時には上記に加えて海岸にビーチングできる「ゆら型輸送艦」(基準排水量590トン)2隻を保有していたが、同輸送艦は震災後に退役し、後継は導入されていない。したがって、離島、僻地、被災地等への海上輸送能力は震災当時よりも低下していると言わざるを得ない。このように、東日本大震災以降における自衛隊の海上輸送力強化の動きは一定の成果を上げているものの、不十分な面も残されている。
自衛隊の海上輸送力全般の強化に向けて
 それでは、自衛隊の海上輸送力全般の強化のためにはいかなる追加的な措置が必要であろうか。ここでは、海上輸送力が不可欠となる三つの場面、すなわち南西諸島防衛、朝鮮半島での有事対処及び大規模災害対処を通して考えてみる。
 まず南西諸島防衛では、陸上自衛隊の部隊等を侵攻が予想される島嶼に事前に展開して抑止態勢を構築することが重要であり、この際に海上輸送力が果たす役割は大きい。しかし、ここで問題となるのは、南西諸島において「おおすみ型輸送艦」などの大型艦船が接岸できる港湾を有するのは屋久島、奄美大島、沖縄本島、宮古島及び石垣島に限られることである。このため、これら以外の島嶼に部隊の車両等を揚陸する際には、沖合に停泊した「おおすみ型輸送艦」から発進するLCACで島嶼との間をピストン輸送することになる。
 しかし、LCACは構造上、車両を揚陸できる場所は海岸に限られ港湾(岸壁)への揚陸はできない。また、宮古島以南の島嶼の多くはほぼ全周をサンゴ礁で囲まれており、LCACが車両を揚陸できる海岸も限られる。LCACでの揚陸にはこうした制約があり、部隊の展開完了までに時間を要するおそれがある。なお、自衛隊が保有する「輸送艇1号型」でも岸壁への車両の揚陸はできない。ここから、自衛隊が岸壁への車両の揚陸も可能で、九州から南西諸島全域を迅速にカバーできる高速性と長い航続距離を有する新たな中型輸送艇を自衛隊が保有する必要性が浮上する。こうした中型輸送艇を多数保有していれば、「おおすみ型輸送艦」及びLCACとの併用で迅速に部隊を揚陸可能となり、必要に応じて住民の避難も迅速に実施できる。
 次に、朝鮮半島での有事対処について考えてみたい。最近の北朝鮮の姿勢は度重なる核実験や弾道ミサイルの発射に見られるように強硬さを増している。このため、万一の際に韓国に在住している邦人(約37000人)及び旅行中の邦人の日本への退避を想定しておく必要がある。また、韓国に所在している邦人以外の外国人についても、最も近い日本は退避先の筆頭になるであろう。この際、海路での輸送については、危険が伴う状況であれば民間船舶を使用できる保証は無く、海上自衛隊や海上保安庁あるいは米海軍の艦船に依存せざるを得ない。
 しかし、朝鮮半島が有事となれば日本周辺における警戒・監視、ミサイル防衛、米軍に対する後方支援等が必要となり、現状では邦人等の輸送に割ける艦船の隻数は限られる。したがって自衛隊が多数の中型輸送艇を保有することの意義は大きい。この際、当該輸送艇は退避作戦のテンポを速めるための高速性と長い航続距離を有し、併せて邦人等の集合場所に適する比較的大きな港湾でも人員を乗降させ得ることが望ましい。
 また、大規模災害の直後に被災地付近の陸上交通が途絶することは、東日本大震災などの事例から明らかである。したがって、四面環海の日本では海からの救援を今以上に重視する必要があることは論を待たない。この際、瓦礫除去のための重機や救援物資を積んだ車両を、直接、被災地の海岸や小規模港湾の岸壁に揚陸できる中型輸送艇は、被災直後の厳しい環境下にある被災者に救いの手を差し伸べる上で価値が高い。この輸送艇に関しても、救援のテンポを速めるための高速性と長い航続距離は不可欠である。
 なお、既に述べた「はくおう」、「ナッチャンWorld」及び「いずも型護衛艦」は陸上交通の復旧状況に応じて被災していない港湾に大量の物資や車両を揚陸し、救援活動を支援できる。このように、南西諸島防衛、朝鮮半島での有事対処及び大規模災害対処のいずれの場面を眺めても、「高速」で「長い航続距離」を有し、「海岸でも岸壁でも」車両等の乗降が可能な中型輸送艇が自衛隊の海上輸送力全般の強化に寄与すると考えられる。
 ただし、自衛隊が多数の中型輸送艇を保有する上で、要員の確保は最大の課題である。近年、防衛予算はようやく縮減傾向を脱したが、自衛隊の隊員数については基本的に抑制傾向が続いている。こうした状況では輸送艇を運用する新たな部隊を創設することはできない。日本周辺の情勢が緊迫の度を増している今日、日本の防衛を全うするためには輸送艇の要員を含めて隊員数の純増は不可避である。とはいえ、輸送艇の要員確保がどうしても難しい場合には「はくおう」や「ナッチャンWorld」の場合と同様に、中型輸送艇を保有する特別目的会社を設立し、予備自衛官を乗組員にして災害以外の緊急時でも自衛隊を輸送できる態勢を構築すべきであろう。

《維新嵐》 海上輸送部隊を自前でも編成すること。陸上自衛隊を「完全海兵隊化」し、自前で輸送艦を保有することも有効な手かと考えます。

 戦場の主体は、輸送部隊にあり、といっても過言ではないでしょう。輸送部隊こそ「第1戦」部隊なのです。
https://youtu.be/O01fSO301Uk
自衛隊の輸送船ナッチャンワールド


ロジスティクスについて
【英】:Logistics

http://www.weblio.jp/content/%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9より)

ロジスティクスは、もともと軍隊用語で兵站へいたん)と訳される。
作戦計画に従って兵器
兵員確保し、管理し、補給するまでの全ての活動を言う。前線戦闘従事する前方業務に対して後方業務または後方支援呼ばれる業務領域を指す。
ロジスティクスという言葉は、「物流」と同義語的に扱われることも多いが、本来のロジスティクスは、調達から販売消耗部品供給という物流的な側面の他に、設備メンテナンス体制製品ライフサイクル課題にする広範領域業務対象とする。
あえて見方識別すれば、ロジスティクスは、物本来の機能発揮させるための支援着目しているのに対し、物流は、物の移動滞留着目しているとも言える

【関連リンク】

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