2016年9月29日木曜日

決して軍事だけではない共産中国のしたたかな「国益追求」のための戦い ~経済&外交編~

第1章経済編
「狂気の沙汰だ」米海軍の中国製品購入に怒りの声
米海軍施設にも食い込む中国の影響力
北村淳 2016.9.22(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47929
サンディエゴ海軍基地のBAEメンテナンスエリア
中国で建造された巨大浮きドックが、今秋にも、アメリカ海軍太平洋艦隊第3艦隊が本拠地としているサンディエゴ軍港に設置される予定である。
 この浮きドックは、アメリカでも最大規模の軍需企業であるBAEシステムズ・インク(イギリスのBAEシステムズの北米担当子会社、以下「BAE」)が購入したものだ。同社はこの浮きドックを、サンディエゴ軍港でのアメリカ海軍艦艇のメンテナンスに使用するとしている(参考:"San Diego Ship Repair"BAEシステムズ)。
サンディエゴ軍港のBAEドックの1

アメリカ海軍に浸透する中国製浮きドック
 アメリカ海軍を支える中国製浮きドックは、BAEが調達した浮きドックだけではない。すでにオレゴン州ポートランドでは、Vigor Industrial社が中国から4000万ドルで購入したドックが使用されている。そして、ハンチントン・インガルス・インダストリーズ(以下「HII」)も中国から巨大浮きドックを購入する予定であることが公になった。

HIIはアメリカ最大の造船会社であり、アメリカ海軍とアメリカ沿岸警備隊の軍艦と巡視船を建造するとともに、BAE同様に軍艦のメンテナンスにも携わっている。同社はニューポートニューズ造船所(バージニア州ニューポートニューズ市)で原子力空母や原子力潜水艦を建造し、インガルス造船所(ミシシッピー州パスカグーラ市)では、強襲揚陸艦やイージス駆逐艦、それに沿岸警備隊巡視船などの水上艦艇を建造している。
 そのインガルス造船所で海軍艦艇を建造するための巨大浮きドックを中国から調達するために、HII幹部が中国企業と折衝していることが海軍に報告された。報告したのは、中国に駐在しているアメリカ軍連絡将校だった。
 ただし、HII幹部と中国側との仲立ちには、インガルス造船所の所在地であるミシシッピー州選出上院議員が関与していたとの情報もあり、連絡将校からの警告は、ペンタゴン(米国防総省)レベルではまともに対処されなかったようだ。
なぜ日本製でなく中国製なのか?
こうしたアメリカ海軍施設への中国製品の導入について、アメリカ海軍関係者の中でも中国情勢に危機感を抱いている人々の中からは、次のような憤怒の声が上がっている。
「なぜ、中国海洋侵出に立ち向かおうとしているこの時期に、アメリカ海軍に深く関与しているHIIBAEといった巨大軍需企業が、巨大浮きドックを中国から調達するのか。中国側を利する動きであり、はなはだ理解に苦しむ。
 この種の浮きドックは日本でも製造することができる。日本製ドックでは価格面で折り合わないというのなら、やはり同盟国の韓国製というオプションもある。それにもかかわらず中国製ドックを購入するというのは、軍事的視点からは正気の沙汰ではない」
 たしかにアメリカ海軍関係者が指摘するように、日本や韓国の浮きドックメーカーを飛び越して中国メーカーから調達するというのは、同盟国であり浮きドック建造能力を有する日本から見れば、はなはだ不自然と言わざるを得ない。中国メーカーからの調達は、アメリカ海軍にとっては仮想敵といえる中国海軍を利することになるからだ。


しかしながら、客観的に見れば、日本側が圧倒的に劣勢なのは無理もない。中国企業、中国政府、それに人民解放軍当局は、HIIBAE、それにインガルス造船所などとの関係構築だけでなく、それら軍需企業の地元選出上院議員や軍事関係の連邦議員や地方議員などに対する強烈なロビー活動を展開している。それに対して日本側は、ほとんどそのような活動を行っていない。
 日本でも、せっかく「防衛装備移転三原則」が打ち出され、軍需関連製品の輸出への道が開かれたにもかかわらず、国際的な防衛関連製品取引の分野では何の経験やノウハウを有さない官僚が主導しようとしているため、今回の浮きドック取引に際しても“蚊帳の外”であった。
中国海軍の自走式浮きドック(写真:中国海軍)
ようやく始まったサンディエゴ軍港の近代化
オバマ政権がアジア太平洋リバランス戦略を打ち出して久しいが、政権が幕引き段階に突入した今頃になって、ようやくサンディエゴ軍港の大型艦艇メンテナンス設備の近代化が始まった。
 これは、「アジア太平洋リバランス戦略」がいかに“かけ声先行”であったかを示す何よりの証拠の1つといえよう。軍艦の戦力価値は、軍艦そのものの質や量の強化だけでなく、メンテナンス能力によって大きく作用されるからだ。
 アジア太平洋リバランス戦略は、大西洋側と太平洋側に二分割されているアメリカの海洋戦力を、太平洋側を重視して配備につけるというものである。
 具体的には、2020年までに海軍艦艇の60%を太平洋側を本拠にする方向性で調整が進んでいる。その一環としてサンディエゴ軍港のメンテナンス能力強化も遅ればせながら始まったというわけだ。

ホワイトハウスやペンタゴンは名指しこそ避けているが、アジア太平洋リバランス戦略が想定している最大の仮想敵が中国人民解放軍、とりわけその海洋戦力であることは周知の事実である。しかしながら、オバマ政権が中国に遠慮しているのもまた誰の目にも明らかだ。その結果が、巨大浮きドックを中国から輸入するという、馬鹿げた巨額の軍需品取引となってしまったのだ。
リバランス政策が中国の脅威を高めることに
サンディエゴ軍港のメンテナンス能力強化は、アジア太平洋リバランス戦略の名の下に、中国海洋戦力の脅威を少しでも軽減するためである。
 しかし米国は、サンディエゴ軍港やインガルス造船所に配備される世界最大級の浮きドックを、脅威の元凶である中国から購入し、中国に莫大な対価を支払う。その資金は、回り回って中国海洋戦力の強化に役立つことになる。
 それだけでなく、中国はアメリカでも最大手の軍需コントラクターであるBAEHIIとの結びつきも強化することになる。
 中国は、アメリカから得た資金や、アメリカ軍需産業との結びつき強化などを糧にして、ますます海洋戦力の強化にいそしむだろう。そして日本をはじめとする中国周辺諸国は、ますます軍事的脅威を被ることになる。

 このようなサイクルでは、中国がますます優位を占め、アメリカの“かけ声倒れ”の状態がますます深刻化することは避けられない。

第2章外交編
中国の理解不能な“膨張主義”がまかり通る3つの理由

ダイヤモンドオンライン
嶋矢志郎

国際社会の働きかけも虚しく、南シナ海問題は中国による一方的な「力の支配」で押し切られようとしている。理解不能な中国の膨張主義がなぜまかり通るのか
 国際社会で非難の的になっている南シナ海問題が、中国による一方的な「力の支配」で押し切られ、封印されようとしている。日米中とASEAN(東南アジア諸国連合)など18ヵ国が参加して、201698日に閉幕したアジア首脳会議をはじめ、世界の首脳がアジアに集結した一連の外交ラッシュで、最大の焦点であった南シナ海問題を巡る攻防が、中国側の事前の切り崩しや巻き返し工作が功を奏して、中国ペースで終始したためである。
「法の支配」で中国を牽制し、圧力をかける日米両国の攻め手が不発に終わり、周縁の当事国側の抵抗も腰砕けで、提訴したフィリピンが一切言及せず、封印に手を貸した格好である。
 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が20167月に国連海洋法条約に基づいて、中国の主権主張を全面否定した仲裁判決は、国際秩序を法的に守る最後の砦であったが、中国は「紙くずに従う必要はない」と強弁。引き続き国際秩序に挑戦する実効支配の手を緩めず、エスカレートさせている。
 中国の膨張主義、とりわけ海洋進出戦略は、今後とも拡大の一途を辿ることは必至である。東シナ海への攻略も明日は我が身であり、狙いは沖縄トラフ(海溝)にあることが明らかになってきた。日本を含め、国際社会は中長期的な戦略で中国の膨張主義と厳しく向き合い、国際秩序の中へ封じて、取り込んでいく必要に迫られている。

中国の「力の支配」に屈服?南シナ海問題を巡る働きかけ

 一連の外交ラッシュを締めくくった東アジア首脳会議は、南シナ海での中国の主権主張を全面否定した仲裁裁判所の判決後、関係各国が顔を合わせる初めての国際会議であった。日本の同行筋によると、南シナ海をめぐる安全保障問題を議論して閉幕したが、日米両国が国連海洋法に基づく仲裁判決には法的拘束力があるとしてその受け入れを中国に迫ったものの、中国は反発、当事国間での解決を主張。参加各国からは南シナ海情勢を懸念する発言はあったものの、ASEANの当事国の代表からは中国を名指しで批判する声は出なかった。
 フィリピンのドゥテルテ大統領は、「仲裁判決の尊重」を主張するペーパーを用意、事前に配布していながら読み上げることもなく、南シナ海問題には言及しなかった。提訴した当事国のフィリピンの主張が宙に浮いてしまったため、日米両国の「法の支配」を砦に中国を強く牽制し、国際秩序の中へ取り込み、諌めていく絶好の機会を失したことは否めない。
 オバマ米大統領は、南シナ海での航行の自由や非軍事化の重要性を訴えて、中国に対し、改めて仲裁判決の受け入れを求め、国際法の順守を迫った。安倍首相も沖縄県の尖閣諸島の周辺での中国による挑発行動を念頭に、南シナ海や東シナ海で中国の一方的な現状変更や軍事化の試みが続いており、深刻に憂慮していることを強調した。その上で「すべての当事国が地域の緊張を高めるような行動を自制し、国際法に基づいて、平和的な解決を追求すべきである」と訴えた。
 これに対し、中国の李克強首相は「南シナ海問題は当事国間の問題であり、域外国は関与すべきではない」との従来の主張を繰り返し、強調するだけで、日米両国の訴えに聞く耳を持たなかった。この国際会議のさ中にも、南シナ海で中国船約10隻がフィリピン沖のスカボロー礁で確認され、同礁では中国が建設作業にも着手する準備が進んでいる懸念が広がっている。
 閉幕後に出された共同声明では、ASEANと中国は海上での行動を規制する「行動規範」(COCCode of Conduct)の合意を急ぐことを盛り込んだが、仲裁判決については全く触れていない。ASEANと中国は、2002年に武力による威嚇と武力行使の禁止、領有権問題の平和的解決などを盛り込んだ「南シナ海行動宣言」(DOC:the Declaration on the Conduct of parties in the South china sea)に合意したものの、中国の一方的な実効支配で有名無実化してから14年。COCDOCを発展させ、法的拘束力を備えたものである。

中国の実効支配は40年以上騒乱の舞台となった南シナ海

 南シナ海は、中国をはじめベトナムやフィリピン、マレーシアや台湾など計8つの国・地域に囲まれている公海で、中東からの原油を輸送する要衝である。海域には南沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、東沙諸島の4諸島があり、それぞれの諸島には大小様々な島や岩礁が広がり、その数はおよそ200超と言われている。国連海洋法条約による排他的経済水域の制定をめぐる攻防の過熱化とともに、領有権を巡る争奪戦が熾烈を極め、中国が1971年からいち早く人工島を造成し、多数の施設を建造して、実効支配への動きを強めてから、騒乱の舞台となってきた。
 以来、南シナ海問題とは南シナ海の島々や岩礁とその周辺海域の領有権を、中国とフィリピンやベトナム、台湾などが争う諸問題の総称となっている。南沙海域では6ヵ国・地域が、西沙や中沙海域では3ヵ国・地域が領有権を主張して争っているが、中国は領有権の約90%を主張している。
 背景にあるのは、周辺海域に眠る豊富な海底資源である。米政府の推計によると、原油埋蔵量は約110億バーレル、天然ガスは約190兆立方フィート。シェールガスなどその他の資源への期待も大きい。このため、197080年代から中国とASEANの間で軍事的な衝突が絶えず、多数の犠牲者を出してきた経緯もある。主因は、中国が一方的に実効支配をエスカレートさせてきたためであるが、その真の狙いは軍事基地化だろう。
 現在の中国の実効支配の状況を見ると、すでに西沙諸島の最大の島である永興島で人工用地を整備、飛行場と南シナ海の岩礁群のすべてを統治する自治体として三沙市を設置、市庁舎を建てて、主に中国人民解放軍、中国人民武装警察部隊、さらには三沙市の行政関係者が常駐し、居住している。居住者には、食糧や水、石油などの生活物資を支給し、軍事用地以外の土地の自由な使用を許可するなど、中国政府が直接住民の生活支援に乗り出している。
 2013年末には、南沙諸島の7ヵ所で人工島を造成するなど、実効支配のペースを速めている。米国防総省によると、人工島には滑走路や港湾施設などを次々と建設、滑走路は3000m級が3本あり、百数十人乗りのジェット旅客機を試験飛行、着陸させている。さらには、大型レーダー施設や灯台、ヘリポートから地下防護施設まである。実効支配が40年以上に及ぶ西沙諸島では、地対空ミサイル部隊の展開や戦闘機の配備など、軍事基地化を加速している。ウッディ―島では、対艦巡航ミサイルを展開させたとの分析もある。

執拗な妨害工作を続けるも仲裁判決は中国の全面敗北

 中国政府がこれらの実効支配を対外的に認めたのが20127月。フィリピンが中国も締約・批准している国連海洋法条約に基づいて常設仲裁裁判所に提訴したのが20131月のこと。フィリピンが国際海洋法裁判所やICJ(国際司法裁判所)など4つの選択肢の中から常設仲裁裁判所を選んだのは、相手国が拒否しても、手続きは進められるからである。
 仲裁裁判所は、南シナ海のほぼ全域で領土の主権を主張する中国に対し、「中国が歴史上、排他的に支配してきた証拠はない」と断じた。中国が排他的な支配の根拠とする、いわゆる「九段線」についても「国際法上、根拠はない」と退けた。特に、中国が建設を進める7つの人工島については、うち3つは満潮時に水没する「低潮高地」であり、南沙諸島には「島」はなく、この海域には「中国の管轄権が及ぶ場所はない」と決めつけた。
 不利な判決は中国も予想していたようで、事前に「判決を出すな」との妨害活動に打って出て、それが無視されると、判決の翌日には中国国務院が準備していた2万字に及ぶ白書を発表し、一方的な反論を展開した。同白書によると、70ヵ国以上が中国の立場を支持しているとして、支持国を朱色で染めた世界地図を同日付けの中国共産党傘下のチャイナ・デーリー紙の一面に掲載した。ところが、インドが即刻「中国による誤報運動だ」と反発し、仲裁裁判所の裁定を支持すると表明した。

理不尽さがまかり通る3つの理由国際社会と異なる国境・領土観

 中国の南シナ海における一連の実効支配は、中国が自ら認める国際秩序への確信犯的な挑戦である。それにしても誰もが「法の支配」に倣い、従うことで成り立つ国際秩序の中で、なぜ中国の一方的な「力の支配」がまかり通るのか。1つ目は中国の大国化による驕りであり、2つ目は中国の国境・領土観の違いであり、3つ目は国際秩序の劣化・脆弱化である。この3点をベースに分析してみよう。
 まずは、大国化による驕りである。「米ロ両国に肩を並べる大国になれば、大国の狙い通りに無理を通せば道理が引く」との国際秩序を蔑ろにした傲慢不遜な大国意識である。中国は、2010年にGDP(国内総生産)ベースで日本を追い抜き、世界第2の経済大国になり、今や世界の工場から世界の消費市場へ脱皮しつつある。軍事力の面でも、米ロ両国に追いつけ、追い越そうと軍事費のGDP比率では米ロ両国を凌駕、背伸びしている。
 習近平国家主席が就任前の訪米時、オバマ米大統領に対し米中両国の「新しい大国関係」を提案し無視されたが、「太平洋は米中を受け入れるに十分な広さがある」として太平洋の「米中二分論」を口にした構想は本音であり、いずれ太平洋へ進出する野望を抱いているのだろう。南シナ海の内海化と軍事拠点化はその布石であり、東シナ海の攻略もすでに指呼の間である。詳細は後述する。
 2つ目は、国際的には通用しない中国の国境・領土観による実効支配である。中国は歴史上、「天下に王土にあらざるものなし」と唱え、「世界はすべて中国のもの」という中華思想を根本に持ちながら今日に至っている。大国化してきた今の中国は、この認識が強く、中国は今こそ「天下はもともと中国のもの。そのすべてを回収し、取り戻すとき」と考えている。このため、中国は元来国境や領土に対する価値観が薄く、もっと言うとないに等しい。強いて言えば、実効支配した領域が領土であり、国境はその先々にあろうがあるまいが関心がない。
 さらに通用しないのが領土観である。中国が一度でも支配した国、中国に朝貢した国、中国の古典に登場する国なども中国の「領土のうち」になる。大琉球の沖縄や小琉球の台湾をはじめ、遣隋使や遣唐使も朝貢扱いであり、中国の古典に登場する邪馬台国・日本も北朝鮮や韓国並みの「領土のうち」で、その潜在意識は根強い。

国際的な法秩序の劣化を突いたサラミ・スライス戦略とキャベツ戦術

 そして3つ目は、世界統治(グローバル・ガバナンス)の体制維持に必須な国際社会の社会基盤である国際的な法秩序の劣化であり、脆弱化である。主因はひとえに国連の安全保障理事会の機能不全にある。拒否権を持つ常任理事国が大国の横暴で国際的な法秩序を無視した立ち居振る舞いに及んでも、拒否権の応酬で相互監視機能が働かず、むしろ大国が相互の牽制合戦で国際秩序を撹乱し、混乱に陥れる原因者と化している。とりわけ、国際社会で一極支配を続けてきた米国の統治力の衰退は否めず、そこに付け込んできたのが中国である。
 1992年に米軍がフィリピンの南シナ海に面するスービック基地から撤収し、南シナ海方面に向けた米軍の最前線拠点が沖縄まで後退したのとは対照的に、中国が南シナ海における実効支配を一方的に強化・拡大させてきたのは、いかにも象徴的であった。それ以来、中国は海洋戦力の増強とともに、南シナ海での積極的な海洋政策に打って出てきている。
 これに対し、米国は外交的な警告を発しているだけで、より具体的で効果的な反対行動には出ていない。少なくともオバマ政権は、中国の膨張主義的な海洋政策に対し、何の対抗措置も打ち出していない。この間隙を突いて中国が南シナ海の全域で展開してきたのが、いわゆるサラミ・スライス戦略とキャベツ戦術である。
 サラミ・スライス戦略とは、丸ごとのサラミでは目立つが、薄くスライスすれば目立たないように、敵側に気がつかれないうちに、目立たない些細な攻撃を小出しに積み重ねていくことで、敵側の抵抗勢力を封じ、制圧しながら、自軍の攻め手を尽くして、目標を達成する戦略手法のことである。
 これに対しキャベツ戦術とは、芯を葉が幾重にも取り巻いていくキャベツのように、目指す目標に向かって多種多彩な攻め手を繰り出して幾重にも取り囲み、そんな状況を継続することで、目標を陥落させる戦術手法のことである。この場合は、目標とする島嶼や環礁に対し、武装民兵が乗り込んでいる漁船をはじめ、海洋調査船や海洋警察艦、さらには海軍の艦艇などで取り囲む。中国は、この手で満潮時には水没する「低潮高位」の環礁を次々と立派な島々へと変身させてきている。
 東シナ海は、日本にとって明日は我が身である。とりわけ尖閣諸島だ。この絶海の小さな岩礁に、中国はなぜそこまで執着しこだわるのか。その狙いは沖縄トラフにあることを、日中両国の外交筋が明らかにした。中国が尖閣諸島の領有権を公言し出したのは、国連機関による石油資源探査が始まった1960年代以降であったため、当初は海底資源が狙いと思われていたが、狙いははるかに野心的で、安全保障上の軍事戦略拠点としての沖縄トラフが垂涎の的なのである。
 中国大陸を取り囲む大陸棚は、水深が約200m程度の浅瀬である。一般に、戦略原潜は自国周辺の安全な海中で係留、停泊し、外国の探知から身を守りながら、核ミサイルの発射命令を待つのが任務である。しかし中国は、戦略原潜を保有していながら、その身を潜め守るだけの深い海を持っていない。
 沖縄トラフは、九州の西側から台湾島の北側まで、南西諸島と琉球諸島の西側に沿った円弧状の海底盆地で、全長約1000㎞、幅約200㎞、水深は2200mに及ぶ、長大な、東シナ海では最深の海域である。この海域であれば、中国が保有する戦略原潜が身を潜めるのに、戦略上も恰好な位置取りとなる。沖縄トラフであれば、中国の戦略原潜096型「唐」が搭載する潜水艦発射弾道ミサイル「巨浪2」の射程は約11000㎞で、米国の東海岸の政治中枢をも射程内に納めることができるからである。
 中国は少なくとも4隻の戦略原潜を保有し、最低でも48基の「巨浪2」を搭載している。いずれも多弾頭(MIRV)であるため、約200個の核弾頭を積載していることになる。これは、中国の核戦力のおよそ3分の1を占めている。これだけの核戦力を外国の、具体的には日米の潜水艦ハンターによる監視の目からどうやって身を隠しながら、安全に作戦を展開し得るか。
 それには、この水域内に自国の領土、領海を多少でも確保することである。そこに逃げ込むことで、他国からの手出しを封ずることができるからである。そのためのお目当てが尖閣諸島である。水深は500m、12カイリ離れた領海の水深は1200mで、沖縄トラフの水深2200mには及ばないが、尖閣諸島は沖縄トラフへ通ずる、いわば橋頭堡なのである。中長期的な狙いでは、太平洋を米中二分論で管理、監視する野望への布石として押えておきたい海であり、島なのである。

「明日はわが身」の東シナ海法の支配による平和的な解決へ

 直面する東シナ海への中国の一方的な攻勢を含め、中国の膨張主義に対し、日米両国をはじめ国際社会はどのように対処すべきか。国際社会は決して手を緩めず、厳しく向き合いながら、既存の国際秩序の中へ取り込み、その価値観の下で徹底的に話し合い、理解を求めて諌めていく必要がある。既存の国際秩序に挑戦的な中国の膨張主義は、やがて国際秩序も中華思想で塗り替え、世界の統治も中国が先導する新秩序の構築へと、いわばパワーシフトを狙っている遠大な戦略・戦術であり、放置できない危険な思想でもあるからである。
 したがって、ここは「力の支配」による愚かな武力衝突を避けて、国際的な法秩序を背景に「法の支配」による平和的な解決へ、人類の英知を結集すべき絶好の好機である。まずは中国に対し、中国が愛する子々孫々の未来に至るまで、このかけがえのない地球倶楽部の住人であり続けたいと思うならば、住人一人ひとりが公正に守り合う国際的な法秩序を守り抜く順法精神の醸成こそが、平和と安寧を守ってくれる真の安全保障であり、その第一歩であることを、中国が心から理解し悟ってくれるまで、愚直な努力を積み重ねていくことが先決ではないだろうか。

第3章東シナ海波高し!尖閣諸島は「日本が実効支配している」だけ。周辺海域は「赤い海」

中国船の侵略から尖閣諸島を守れ!中山石垣市長インタビュー

米国務省が尖閣周辺での中国公船増加に懸念表明「日本の施政権を損ねるいかなる行為にも反対する」

米国務省のトルドー報道部長は2016810日の記者会見で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の接続水域を航行する中国公船が増加していることに懸念を表明した上で「日本の尖閣諸島に対する施政権を損ねようとするいかなる一方的な行為にも反対する」と強調した。
 また、ベトナムが南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で実効支配する島に移動式ロケット弾発射装置を配備したとの情報について「全ての領有権を主張する国に緊張を高める行為をやめるよう求める」と述べ、平和的解決を促した。(共同)

《維新嵐》 中国海警と海上民兵により、尖閣諸島周辺海域(我が国の接続水域)はどこの海域かわからない様相を呈してきています。島は我が国が「実効支配」しています。ただ無人島です。周辺の海から共産中国の法執行機関である中国海警と民兵による漁業活動(経済活動)により「攻め込まれている」状態とはいえないでしょうか?
 漁船と称して、海上民兵を大量に、組織的に送り込んでくることは、海中での潜水艦の作戦を隠蔽する目的もあるようです。
 我が国も一部から指摘されているように、尖閣諸島に公務員を常駐させる案もいわれますが、行政マンを配置するのではなく、海上保安官を常駐させることの方が賢明であるように思います。つまり「海難救助」を目的にヘリポートと港を建設、ヘリを24時間体制で飛ばせる形を作るのです。「海難救助」であれば、国連への覚えもよりよくなることでしょう。もう無人島でおいておくことは「限界」です。

尖閣諸島にアメリカ海軍の強襲揚陸艦が出動し、中国船を蹴散らしていたことが判明

アメリカは、自らの自国の「西の国防線」を防衛するために動きます。尖閣諸島を共産中国にとられるとマリアナ諸島と沖縄が人民解放軍の脅威にさらされますから、尖閣諸島の上陸占領は早めに阻止するために動くだけです。我が国も南西諸島防衛に関しては、アメリカばかり頼るのではなく、自国の国家戦略に基づいた「防衛行動」をとるべきです。前提条件としては、尖閣諸島を「人の住む島」にすることでしょう。「無人のまま」にしておくことは離島管理の面から明らかにまちがいです。

共産中国「三戦」については、こちらのリンクをご参考いただけます。

2016年9月25日日曜日

アメリカ軍の「世界最強」伝説を考えるための論説

最強の米軍は不変

岡崎研究所 2016919http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7755

 元米CIA長官で元イラク駐留米軍・中央軍司令官のペトレイアスと米ブルッキングス研究所上席研究員のオハンロンが、201689日付のウォールストリート・ジャーナル紙に連名で論説を寄せ、米軍の即応性危機は神話であり、予算の強制削減の影響はあるものの米軍は世界最強の戦闘能力を維持していると述べています。主要点は次の通りです。
米軍の即応性に危機はない

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 米軍の即応性が大統領選挙で再び争点になっているが、幾つかの重要な事実が見過ごされている。国防費強制削減の影響はあったが米軍の戦闘態勢は整っている。米軍は各般の戦闘経験を有し、ハイテク国防産業は最新兵器を供給し、秀逸な諜報能力が米軍を支えている。幾つかの事実を指摘しておきたい。
 目下6000億ドル超の国防予算は冷戦時代の予算を上回る。その額は米国に続く中国、ロシアなど世界上位8か国の国防予算の合計よりも大きい。国防支出はブッシュ政権後期やオバマ政権初期に比べれば少ないが、海外での作戦行動の縮小と財政緊縮のためであり理由のあることである。
 さらなる強制削減がないとすれば、国防省の装備購入予算は今や年間1000億ドルを超える。1990年代から2000年代にかけての低調な調達の時代は終わった。一部航空機等は老朽化し交替や改修が必要だが、大半の装備は概ね良好である。陸軍装備の戦闘使用可能比率は90%にもなる。
 訓練も、テロ等への対処を重視し、10年以上やってきた。2017年までに、陸軍は、毎年全体の三分の一を、海兵隊は、全体の半分を訓練に投入する。空軍は、フル稼働の8098%レベルの訓練をする予定である。兵士は優秀で士気も高い。軍隊の在籍期間は下士官で約80カ月となっている。
 このように、米軍は、即応性の危機にはない。しかし、次のような緊急を要する課題がある。近年、縮小された陸軍、海軍は、もう少し強化すべきではないか。航空機の近代化計画では、ドローンや爆撃機をより重視すべきではないか。海軍は、海中ロボットや無人システムの導入を強化すべきではないか。米国は他国の弾道、巡行ミサイルの性能により効果的に対処すべきではないか。
 サイバースペース能力は十分か。中東、欧州等での支援体制を如何に強化するか。シリコンバレーなどの技術革新を国防分野に取り込む方法はないか。国防予算の規模はどれほど拡大すべきか。自己主張を強めるロシアと中国に対し更に何をすべきか。これらの課題に対する答えは分かっている。問題は、それらの課題が現下の議論では十分に議論されていないことである。
出典:David Petraeus & Michael OHanlon The Myth of a U.S. Military Readiness Crisis’(Wall Street Journal, August 9, 2016
http://www.wsj.com/articles/the-myth-of-a-u-s-military-readiness-crisis-1470783221

 米軍の即応性は大統領選挙のイシューになり易いです。今回の選挙でも、トランプは民主党政権下で米軍は弱体化した、と民主党を攻撃しています。トランプは、自分が大統領になれば、軍隊の規模、能力を増やす、国防予算の上限を外すと公約しています。他方、クリントンは世界最強の米軍を維持していくとして、基本的には目下の政策の継続を示唆するとともに、むしろ同盟の強化に重点を置いています。
依然として世界最強
 ペトレイアス元在イラク司令官等によるこの記事はトランプ流の米軍衰退の主張に反論するものです。トランプ共和党候補の言っている米軍の危機論については、米メディアも懐疑的です。実際、例えば、兵器近代化支出は、今もブッシュ政権時代と同じレベルにあります。また、オバマ政権時代の国防費削減は、議会の共和党、民主党双方の主張によって合意されたものだと指摘されています。
 この論説記事は、米軍は予算規模、装備、訓練、兵士の質などから依然として世界最強であると強調します。しかし同時に、今後の課題の指摘も忘れていません。自己満足のコメントではありません。
 最近潜水艦戦力バランスが議論になっています。西側の優位が崩れつつあるのではないかと指摘されています。ロシアや中国の潜水艦が一層静かになり、装備する武器も高度化しているといわれます。水中ドローンの導入を含め、米国などによる潜水艦の追跡能力強化の必要性が指摘されています。
 西側にとって大きな課題は、特に中国とロシアの軍事力強化です。ハードウェア、訓練、ポリティコ・ミリタリー(同盟強化、友好国拡大等)という三つの分野で対応を強化していくことが重要です。その関連で、南シナ海問題を抱えるフィリピンについて、麻薬取り締まりに係る人権批判をした国連からの脱退も厭わないとの大統領発言など今後に不安はありますが、フィリピンとの連携に努めていくことは極めて重要なことでしょう。

米軍が考える第三の相殺戦略

岡崎研究所 2016921http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7766

ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、2016816日付同紙掲載のコラムにて、米国防総省は、ロシアと中国の軍事能力の向上を相殺するため、新しいハイテク通常兵器の開発を進めている、と解説しています。要旨、次の通り。

最新通常兵器
 ワーク国防副長官は、「第三の相殺戦略」により、中ロに対する米国の技術的優位を確保する、と述べた(第一の相殺戦略は1950年代の戦術核、第二は1970年代の精密誘導通常兵器)。その前提は中ロの軍事能力の著しい向上である。ダンフォード統合参謀本部議長は、7月の公聴会で、ロシアは今や米国の存在にかかわる脅威であると述べ、中国については最近のランド研究所の報告が、その軍事能力の向上により、かつては戦えば米国が勝利すると考えられていたのが、いまや決定的な勝利はなく、双方に多大の損害が生じるだろうと述べている。
 ワーク国防副長官は、4月ブリュッセルでの演説で、新しいドクトリンと考えを打ち出す時が来たと述べ、米国が十分な技術的優位を保たなければ、通常戦力の抑止が弱まり、危機に際して不安定が増し、米国の将来の軍事作戦のコストが大幅に高まるだろう、と警告した。
 考えられている最新通常兵器とは、空中の無人機、海中の無人潜水艦、敵の戦闘管理ネットワークを無力にする陸上の最先端システムである。国防総省によれば、過去一年に、これまで極秘であった兵器計画の一部を明らかにしたのは中ロの軍事計画を攪乱するためで、将来の戦闘の有効性を維持するため、他の計画は秘匿しているとのことである。
 米政府当局者は、中ロの軍事的台頭を相殺するこれらの計画は、大国関係を不安定化させるのではなく、安定化させる効果を持つという。世界の不安定の現状に鑑み、この問題は大統領選挙で広く議論するのに値する。
出典:David Ignatius,America is no longer guaranteed military victory. These weapons could change that.’(Washington Post, August 16, 2016
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/america-is-no-longer-guaranteed-military-victory-these-weapons-could-change-that/2016/08/16/004af43e-63d2-11e6-be4e-23fc4d4d12b4_story.html?utm_term=.045585fcecef

 イグネイシャスは米国の「第三の相殺戦略」に深い関心を持ち、取材を続けており、去る2月にも国防副長官と統合参謀本部議長を取材した結果を報告しています(330日付本欄『米国のハイテクすぎる近未来戦の全容』http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6422参照)。
 戦後の「米国の平和(パックス・アメリカーナ)」を支えてきたのは米国の軍事的優位であり、それが中ロにより脅かされるに至った今、優位を再び取り戻そうというのが「第三の相殺戦略」です。「第三の相殺戦略」に含まれる最新兵器には、論説に列挙されたもののほかに、小型レールガン(注:電磁誘導により音速の7倍で弾丸を発射)や現在より小型の高性能爆弾などがありす。
繰り返されるいたちごっこ
 技術の優位は脅かされる宿命にあります。後発国は先発国の技術を習得しようと懸命の努力を払います。最近はサイバー攻撃による技術の窃取もあり、技術の優位を維持できる期間が以前より短くなっています。米政府当局者は、「第三の相殺戦略」は大国関係を安定化させる効果を持つと言っているとのことですが、これは「第三の相殺戦略」により、米国が再び通常戦力での優位を確立する間のことであり、中ロの必死の努力でこの優位が再び脅かされることになれば、情勢は不安定化するでしょう。
 このようないたちごっこは繰り返されるでしょうが、米国が健全な技術革新の国家的基盤を維持する限り、米国が常に優位を保つことは可能であり、それは日本を含む西側世界にとって望ましいことです。

世界サイバー大戦の時代です!

 他国に対して軍事的に優位にたちたいが、表だって実弾の飛び交う戦争はできない。なぜなら自国の経済的な利益を損なうことになり、悪影響を及ぼすから。国際的な信用を失い、やはり経済的、政治的なデメリットははかりしれない。しかし戦略上どうしても手に入れたい権益、技術があるときに活用される手段がインテリジェンスということになります。

 インテリジェンスを入手するためには、元になるデータが不可欠。それを収集するために熟練されたヒューミント要員(情報工作員)を送りこむこともまた戦術ですが、もっとステルス的に、手間も時間も、コストもかからない収集方法が、サイバー攻撃ということになります。

 どこの誰がやったのか調査はできても「推定」の範囲をこえることはありません。
確実にデータを手に入れ、うまくいけば分析されたインテリジェンスを入手できるかもしれない手法で、家は知らないよ的な態度で逃げ切ることができるサイバー攻撃というSIGINT(信号情報)といわれる情報入手の方法は、今後ますます巧妙化、ステルス化、兵器化の一途をたどるものと考えています。
 宣戦布告なき開戦の時代は、既に始まっています。熟練された工作員よりも目的に応じて開発されたマルウェアがインテリジェンス戦略の主流になっていく流れはとめようもないでしょう。正直背筋が凍りつく思いです。

サイバー新部隊の実情と各国サイバー事情について、伊東寛氏が語ります。

 

米中サイバー戦争 国防総省の決断


サイバー攻撃はたとえ同盟国であっても油断できないのです。むしろ同盟国だからこそ知っておきたい何かがあるということでしょう。


アメリカの高度な情報戦略が生み出した最新兵器

無人攻撃機MQ-1プレデター・MQ-9リーパー

艦上無人攻撃機X-47B

アメリカ?の極秘攻撃機TR-3B反重力戦闘機アストラ。1980年代より飛行し、湾岸戦争にも投入されていたといいます。核融合エネルギーで飛行し、大気圏外の飛行も可能。大気圏突入性能もあります。ロズウェル事件以来、アメリカが秘かに異星人と共同開発してきた技術により開発されたといわれますが、真偽のほどはどうなんでしょうか?
UFOではありませんが、これを運用すれば国籍不明機として、処理することでアメリカの政治的立場を守ることはできますね。


アフガニスタンのタリバン勢力を掃討するTR-3B。戦争に使われるとは異星人もびっくりでしょう。想定外!?


日中にみるとそのフォルムがよくわかります。空間移動ができることでも知られています。



 



2016年9月20日火曜日

【北朝鮮による邦人拉致】日米戦争以後北朝鮮からしかけられた「情報戦争」 ~解決の糸口を考える~

 北朝鮮の「金王朝」による朝鮮戦争直後から始まった日本人拉致については、「テロ」事件としてとらえられる向きが強いのですが、北朝鮮の国家機関、国軍による計画的な拉致であることは明らかであり、しかも特殊工作機関や朝鮮人民軍による訓練を受けた工作員と国内の朝鮮総連との共同による軍事作戦という位置づけといえます。
 すべて朝鮮戦争において北朝鮮が朝鮮半島の統一に失敗したところから、日本人を利用して韓国への工作活動、いわゆるインテリジェンスによる工作を実現するための作戦だといえます。
 
 我が国の国民は、日米戦争の終戦から戦後の苦しい時期を朝鮮戦争による経済特需により脱しつつある時期に発生し始めた事案であり、北朝鮮のインテリジェンス戦を達成するために邦人を拉致するという「情報戦」、『孫子』用間編の「生間」の手法を応用した軍事作戦と考えることもできます。

 われわれ日本人は、アメリカとの戦争に敗れた後、北朝鮮による情報戦による国民拉致という侵略戦争にも敗れた、といえるだろう。そして未だに日本人は、自国が侵略戦争に敗れたという自覚もできないままこの「戦後処理」を解決できないでいます。

 産経ニュースの記事からどう邦人が拉致され、外国工作機関によって利用されてきたか、今後救出の手立て、望みはないのか、考えていけるきっかけとなればと思います。
 拉致被害者のご家族のご心痛には、察するにあまりまる心境ですが、ご家族にも時間がないように拉致されたご本人の方々にも時間がない状況である。特に拉致された当時、年齢の高かった方々は北朝鮮でお亡くなりになられている方も少なくないのではないでしょうか?
 北朝鮮は事あるごとに我が国に植民地時代の謝罪を求めてくるが、それなら我が国も朝鮮戦争の「戦勝国」として、その結果受けた「邦人拉致」という侵略の事実に対して謝罪と補償を求めても罰はあたらないであろう、と思います。


① 北朝鮮の元戦闘員が日本潜入の手口を現場で再現した「日本の警察は撃たない」「拉致はまた起きる」

 元北朝鮮の戦闘員、李相哲(仮名)氏(左)。特定失踪者問題調査会の荒木和博(中央)らに日本潜入のときの様子を説明した=平成28年8月31日、山口県長門市
 日本に潜入した経験をもつ北朝鮮の元戦闘員、李相哲(リサンチョル、仮名)氏が8月末に来日し、山口県長門市の潜入現場などを訪れた。その李氏は日本人拉致を実行した工作機関が今後も存続していたとしたら、「拉致はまた起きる可能性がある」と断言した。いまだに拉致問題を解決できず、拉致実行犯の協力者らも野放しのままの日本。核とミサイルで国際社会を脅し続ける北朝鮮から国民の命を守ることはできるのか。

工作員の日本人化教育、身分のクリーニング目的で1960年代から拉致

 李氏が日本に入ったのは昭和57年6月。北朝鮮から工作母船で出港し、山口県沖合の小島で組み立て式の子船に乗り換えた。その後、先に青海島に向かった同僚から無線で連絡を受け、ゴムボートで島へ。20代半ばぐらいの在日朝鮮人とみられる男性を船に乗せ、北朝鮮へと連れていった。李氏は翌年、韓国に潜入しようとしたところ逮捕された。現在は転向して、韓国で暮らしている。
 今回、李氏は拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」の特別検証に合わせて来日。山口県長門市から船に乗り、かつて潜入した青海島の付近などをめぐった後、島根県益田市で開かれたセミナーで日本人拉致について語った。
 「北朝鮮では1960年代の中盤から、工作員を日本人化する教育というのを始めた。日本人化教育をしようと思えば、日本人が来て教育をしなければいけない。もう一つ、身分のクリーニング、つまり日本人の身分を得て行動するということだ」と日本人拉致の目的を説明した李氏。拉致が行われた期間については「60年代半ばから80年代に入ってまで、かなり活発に拉致を続けたのではないかと思う」と話し、実施した組織は朝鮮労働党傘下の工作機関のほか、朝鮮人民軍も行っていたと証言した。


北工作員になめられる理由「日本の警察は撃たない」

 続けて李氏は日本の無防備さを語った。「日本は海岸線がすごく長くて、韓国の場合は武装した軍人が守っているが、日本はそうではない。前に清津(チョンジン)連絡所から聞いた話だが、日本から浸透して、そのときに警察に捕まりそうになっても、日本の警察は撃たない。だから北朝鮮から浸透する人間も武装しないで入っていた」。北朝鮮の工作員にとってはそれだけ、日本への侵入は簡単ということなのだろう。
 さらに李氏はこう予言した。「60年代中盤から拉致をやってきたといったが、今後も北朝鮮の工作機関が残るとすれば、そのときに連れていった人たちも年をとる。そういうことになると、今度また拉致が起きていく可能性があるのではないかと思う」
 その理由として、再び日本侵入が簡単なことを挙げた李氏。日本国内での情報を収集する必要もないとして、「朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)が日本の中にあるので、そこで十分に情報は収集できる」と説明した。

日本海側だけではない拉致「どこでも危ない」

 セミナーを開いた特定失踪者問題調査会の荒木和博代表も拉致問題の深刻さについて、「一体どれだけの人が拉致をされているのか全然分かっていない。今政府が認めている人は17人というわけだが、実際にははるかに多くの人たちが拉致をされている」と語った。
 さらに「拉致というのはやろうと思えば非常に簡単にできる」と説明した荒木氏。「(北朝鮮による拉致の可能性を排除できない)特定失踪者には日本海側だけでなく、太平洋側でも内陸でも拉致の可能性の高い人がいる。おびき出してしまえば、車に乗せてどこにも連れて行けるので、どこでもある意味危ない」と警鐘を鳴らした。


李氏、荒木氏の話で浮かび上がった日本の甘さは過去の事件からも一目瞭然だ。昭和52年9月に石川県の宇出津海岸から三鷹市役所の警備員だった久米裕さん(91)=拉致当時(52)=が拉致された事件では、久米さんを北朝鮮工作員に引き渡した男が逮捕されたが、容疑は拉致とは直接関係のない外国人登録法違反。男は久米さん拉致への関与を認めたにもかかわらず、「被害者がいない。主犯もいない」として起訴猶予となった。
 53年6月にごろ、神戸市の中華料理店に勤務していた田中実さん(67)=拉致当時(28)=が拉致された事件でも、拉致にかかわったとされる男の一人は逮捕されることなく死亡し、もう一人の男は今でも東北地方のある県で暮らしている。

 何より、北朝鮮の非合法活動に協力してきたとされる朝鮮総連が今も存在していることが日本の甘さを示している。北朝鮮が再び拉致に手を染めたとき、日本国は日本人を守れるのか。スパイを防止する法律すらなく、不法行為が指摘されている怪しげな組織の存続を許している現状では、心許ないとしかいいようがない。


② 自衛隊特殊部隊OBが工作員の日本上陸を再現してみせた!「水際で防ぐことは不可能だ」

 秋田県の男鹿半島に、日本への絶好の潜入ポイントがあるという。北朝鮮による拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」が6月10日に実施した特別検証で、自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」の先任小隊長を務めた伊藤祐靖さん(51)が北朝鮮工作員役となり、海からの上陸を実演した。その様子を報告する。
上陸するのに「ありがたい地形」とは
 伊藤さんは昭和62年、海上自衛隊に入った。平成11年に能登半島沖で発生した北朝鮮の工作船による領海侵犯事件では、護衛艦「みょうこう」の航海長として不審船を追跡した。その経験を買われ、特別警備隊の創設にかかわった。
 自衛隊を平成19年に退官した後は、各国の警察、軍隊への訓練指導に携わっているほか、元自衛官らでつくる「予備役ブルーリボンの会」の幹事長として、北朝鮮による拉致問題にも取り組んでいる。


 男鹿半島に伊藤さんが着目したのは、日本海に飛び出た半島で、1直線上に並ぶ灯台が2つあるからだ。鵜ノ崎灯台と潮瀬崎灯台の2灯台からの光が重なるラインをたどっていけば、コンパスなど方位を指し示す道具がなくても、最短距離でたどりつける。両灯台の光は領海外からも見えるといい、伊藤さんは特異な条件を持つ男鹿半島に関し、「上陸するほうからすればありがたい地形だ」と説明する。

上陸後に休憩?実は「五感を回復するため」

 その後陸に近づくと、陸に向かって左方向奥の防波堤にある明かりを目印にして進めば、湾内に入ることができるという。
 通常は船でできるだけ陸に近づいた後、工作員が泳いで岸へと向かうが、伊藤さんが今回実演したのは、湾内に入ってからどのように上陸するかという過程だ。


 日中でも、波消ブロックに沿って陸に近づいて来る伊藤さんの様子はかすかにしか分からない。実際に密上陸を図る際には、人の出入りや船が少ない荒天の日の夜を狙うことが考えられるため、その場合はまったく姿は確認できないことがうかがえた。
 伊藤さんは陸が間近になると、うつぶせで接近を図った。動画では確認しづらいが、このときナイフを浅瀬の砂地に差しながら進み、波に流されないようにしていたという。荒天時での上陸が通常のため、それを想定しての行動だった。
 完全に陸に上がってから、伊藤さんはうつぶせの状態から、あおむけに体勢を変えた。体を休めているかのように見えたが、視覚や聴覚が制限されるうつぶせの状態から「五感を一番感知しやすい状況にするため」だという。すべての行動には、しっかりとした理由があった。

難しい上陸阻止、協力者「あぶり出すのが大事」

 今回は一人で上陸してみせた伊藤さんだが、実際に北朝鮮工作員が密入国する場合は、ナビゲーターとしての協力者の存在が欠かせないという。
 ナビゲーターの役割は、船から降りた工作員を安全に陸へと誘導すること。上陸地点に人がいないかを確認して無線で伝えるのに加え、上陸後に必要となる着替えなどの物資を渡すことが重要だと強調する。
 ただ見つからないよう上陸するだけなら、一人でも簡単だが、上陸後に安全に行動するためには協力者がいないと厳しいという。
 海岸線の長い日本の場合、伊藤さんは「水際で止めるのは不可能」と伊藤さんは指摘。日本への上陸を防ぐためには、「協力者をどうやってあぶり出すのかが大事だ」と話した。

【関連リンク】



③ 拉致現場となった海岸の近くには無人島が…証言から浮かぶ計画性とその手口とは…

 北朝鮮工作員は、どのように日本人拉致を実行したのか。拉致が行われた現場の検証を通じ、地形に応じ、その方法が異なることが分かってきた。昭和53年7~8月に起きた一連のアベック拉致事件のいくつかでは、海岸近くに無人島があることが確認されている。帰国した被害者の証言と合わせると、拉致作戦の遂行にあたって、無人島が大きな役割を果たしていることがうかがえる。

■2カ月で少なくとも4件発生

 アベック拉致事件は、現在分かっているだけでも、4件が確認されている。7月7日に福井県小浜市で地村保志さん(61)と浜本(現地村)富貴恵さん(61)が連れ去られ、同月31日には新潟県柏崎市で蓮池薫さん(58)と奥土(現蓮池)祐木子さん(60)が拉致された。
 8月に入ると、8月12日に鹿児島県日置市で市川修一さん(61)=拉致当時(23)=と増元るみ子さん(62)=拉致当時(24)=が連れ去られ、同月15日には富山県高岡市で拉致未遂事件が発生した。


 同じ年の8月12日に新潟県佐渡市で、曽我ひとみさん(57)と母のミヨシさん(84)=拉致当時(46)=が連れ去られた事件もアベックとして狙われた可能性がある。
 2人の当時の服装を調べると、曽我さんがワンピース、ミヨシさんはいつもズボンをはいていた。曽我さん母子拉致事件では、2人は後方から襲われており、後ろから見た場合、2人をアベックと誤認したことが考えられるからだ。

■無人島の存在は工作子船を隠すため?

 この一連のアベック事件について、拉致被害者の支援組織「救う会」の西岡力会長とジャーナリストの恵谷治氏が現場を訪れて調べたところ、福井県小浜市の地村さん拉致現場と、市川さん、増元さんが拉致された吹上浜の近くに、無人島があることが確認できた。
 拉致現場近くにある無人島の存在について、6月22日に東京都文京区で開かれた集会で、恵谷氏は「福井の小浜と鹿児島の吹上浜、この沖合には小島というか、岩の島がある」と説明。さらに「福井の場合、小浜湾にある島ですが、入り江のようになって工作子船がちょうどすっぽり隠れることができる」と話した。吹上浜の沖合にも、久多島という無人島があり、工作子船を係留できるような地形だったという。


 恵谷氏がいう工作子船とは、さらに大きな工作母船から出て、陸地のほうに近づく船のことだ。海岸に上陸する場合は、さらにゴムボートなどが使われることが通常だ。
 小浜や吹上浜とは異なり、蓮池さんが拉致された柏崎の海岸や曽我さんが拉致された現場には、工作子船を隠すための島がないという。恵谷氏は「子船はいったん母船まで戻る。それは危険回避という意味です」と指摘した。

■被害者証言から増す信憑性

 拉致現場近くにあった無人島が工作子船を隠すためだったと推測する恵谷氏。帰国した被害者の証言と合わせると、その推測はさらに信憑性(しんぴょうせい)を増す。
 帰国した被害者から拉致されたときの状況を詳しく聞いた西岡会長は「地村さんはゴムボート、子船、母船と2回乗り換えている。ところが曽我さんは『1回しか乗り換えていない』という」と明らかにした。蓮池さんも1回しか船を乗り換えていなかったという。
 このことは何を意味するのか。西岡会長は「曽我さんと蓮池さんの場合は、無人島がない。だから子船は帰っていったのではないか。ゴムボートがかなり長い距離を行き、母船も危険を冒して(日本の)領海の中に入ってきて(ゴムボートを)回収したのではないか」と話し、こう総括した。


「(拉致現場近くに)無人島がない拉致被害者は1回しか(船を)乗り換えていない。(現場近くに)無人島がある地村さんたちは2回乗り換えていた。このことと、今、恵谷さんがいった『子船を無人島に隠していたのではないか』ということがぴったり合った」
 少しずつではあるが、見えてきた北朝鮮による日本人拉致の実態。だが、北朝鮮はその真相を明らかにしないだけでなく、生きている拉致被害者についても、「死亡した」などとうそをついて返そうとしていない。

④ 見えてきた日本人拉致の全貌・横田めぐみさんは偶然に拉致されたのではない

 政府が認定する被害者だけで17人に上る日本人拉致事件の全貌(ぜんぼう)はどこまで分かっているのか。拉致被害者の支援組織「救う会」の西岡力会長とジャーナリストの恵谷治氏が拉致事件の発生現場や被害者証言の検証を通じ、目的に応じて3つのパターンに大別することが見えてきた。かつて偶然に拉致されたとみられていた横田めぐみさん(51)=拉致当時(13)=らも、ある目的のため、北朝鮮工作員に連れ去られたことがうかがえる。

新たに浮かんだ「条件拉致」

 日本人拉致事件が3つのパターンに大別されることは、6月22日に東京都文京区で救う会が開いた集会で明らかにされた。
 西岡会長と恵谷氏が示したパターンは、海上遭遇拉致、人定拉致、条件拉致の3つ。海上遭遇拉致は、海上で漁船に見つかった際に工作員が摘発されるのを防ぐため、さらっていくもの。昭和38年5月に石川県志賀町から出漁し、消息を絶った寺越昭二さん=失踪当時(36)=らの事件が該当する。


 人定拉致は、拉致する対象者を工作員らがじっくりと選定した上で、北朝鮮に連れ去る。52年に工作員が日本人になりすます目的で、東京の三鷹市役所警備員の久米裕さん(91)=拉致当時(52)=が拉致された事件がこれにあたる。
 集会で、西岡会長は「海上遭遇拉致と人定拉致があるということは常識だった。逆にいうと、人定拉致こそが拉致の主流だというように思っていた」という。だが、いろいろ調べていく過程で、「1977(昭和52)年、78年の拉致についていろいろ調べると、もう一つ条件拉致があるのではないかということが分かってきた」と明かした。
 これまで昭和52年に拉致された松本京子さん(67)=拉致当時(29)、横田めぐみさんについては、工作員がたまたま目撃され、秘密の暴露を防ぐために拉致した遭遇拉致とみられていた。だが、西岡会長と恵谷氏が調べると、どうやら違っていることが分かってきたという。
 例えば、松本さんが連れ去られた際には、拉致現場近くに住む男性が現場近くを通った際に工作員の顔を見ているが、殴られただけで連れ去りはされなかった。この状況を根拠にして、恵谷氏は「偶発的に出会って連れ去られるのは海上でしかない、陸上ではないと判断した」と指摘。横田めぐみさんに関しても、事件と同じ月日の現場を見た上で、「めぐみさんも当初は遭遇拉致ではないかといわれていたが、真っ暗な中で(工作員を)目撃するはずもなく、めぐみさんは『若い女性を連れてこい』という条件拉致だったのではないか」と語った。


被害者の証言「若い女性を工作員にしようとしていた」

 若い女性を連れてこいという条件があったのはなぜか。西岡会長は、北朝鮮が当初、女性拉致被害者を工作員にしようとしていたという帰国被害者の証言に注目する。
 ただ、工作員として養成することはうまくいかなかった。外国人拉致被害者のケースでは、訓練を受けた後、海外に演習に出かけ、逃亡したこともあった。
 大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫(キムヒョンヒ)元北朝鮮工作員によると、「当時、若い女性を連れてきて洗脳しろという命令が金正日(キムジョンイル)から出ていた、と。しかし、なかなかうまくいかないという状況だったんです」(西岡会長)という。


 恵谷氏は「(北朝鮮の)とにかく目的は女性だった。しかし、女性一人であれば、精神的に不安定になり、寂しいとかいろいろな問題があるのでカップルにしろということになった」と説明する。松本さんやめぐみさんが拉致された翌年夏、日本ではアベックが連れ去られる拉致事件が頻発した。

状況、証言から浮かぶ「アベック」という条件拉致

 昭和53年夏に起きた日本人拉致事件は未遂も含めて5件に上る。このうち4件の被害者はアベックだが、残る1件については異なっている。
 8月12日に新潟県佐渡市で北朝鮮工作員に曽我ひとみさん(57)と母のミヨシさん(84)=拉致当時(46)=が連れ去られた。2人はアベックではない。
 しかし、西岡会長が曽我さんに2人の服装を聞いたところ、ミヨシさんはいつもズボンをはいており、曽我さんはその日ワンピースを着ていた。事件が起こったときはすでに薄暗くなっていたうえ、2人は後方から近づいてきた工作員に襲われた。こうした状況から、西岡会長は「後ろから見たら、若いアベックに見えたのではないか」という一つの仮説を挙げ、「そうすると1977(昭和52)年は若い女性が狙われ、78年はアベックが狙われた。ぴったりと条件ということに合う」と話した。
 今回、集会で拉致事件の全貌に迫った目的について、西岡会長は「北朝鮮に問題提起したいのは、『あなたたちは1977年、78年に条件拉致をやっていたでしょう。記録を調べてみなさい。われわれがいっていることが正しいということが分かったならば、日本を甘く見てはいけないということが分かるはずだ』という問題提起です」と話す。北朝鮮は拉致についてうそをつき続けているが、真実は徐々に明らかになってきている。

【情報戦で対抗】北が恐れるラジオ放送「しおかぜ」・中波送信開始で“電波戦”に新展開

北朝鮮による拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」が運営している北朝鮮向け短波ラジオ放送「しおかぜ」が近く、中波での放送を始める。従来の短波に加え、中波での放送を行うことで、より多くの人に情報を届け、拉致被害者の早期救出につなげることが狙い。外部からの情報流入を嫌う北朝鮮はこれまで短波放送に対し、妨害電波で対抗しており、中波にも同様の妨害工作を仕掛けてくることが予想される。拉致問題解決に向けた北朝鮮との“電波戦”は新たな展開を迎えた。

北では短波より中波ラジオが普及

 北朝鮮に普及しているラジオ受信機の台数は約300万台という情報があり、そのうち3分の2が中波受信機とされている。
 こうした事情から、平成26年12月、日本、韓国、米国の北朝鮮向けラジオ放送の担当者を集めて開かれたシンポジウムでは、中波放送の重要性が強調された。韓国のあるラジオ放送の担当者は「強力な中波放送で、北朝鮮の住民に拉致被害者家族の立場を伝えることが大事だ」と話した。


 調査会による脱北者の聞きとりでも、北朝鮮では韓国の中波ラジオ放送をよく聞いていた。このため、調査会は以前から中波放送の実施を検討してきたが、日本国内の送信施設を使う許可が得られず、実現に至っていなかった。
 その後、調査会は海外の放送会社に委託しての放送実施を模索。平壌から約1350キロ離れたモンゴルのチョイバルサンという都市にある施設から放送できることが判明。その施設から送信した音声について、平壌よりも遠いソウルで収録したした音声を確認したところ、ある程度音声を聞き取ることができた。このため、モンゴルからの中波放送実施を決めた。
 しおかぜを担当する調査会の村尾建兒(たつる)専務理事は今後、「いつ北朝鮮が妨害をかけてくるか。それでどれだけ(しおかぜを)認識してくるかが分かる」と話す。北朝鮮はこれまでも、妨害電波を発信し、しおかぜを聞くことがができないような工作を仕掛けてきたからだ。


妨害電波に周波数の重複申請…、度重なる嫌がらせ

 平成17年10月に放送を始めたしおかぜに対し、妨害電波が確認されたのは、18年4月のことだった。その後、妨害電波は平壌から発信されていることが分かった。
 放送開始当時、しおかぜは1つの周波数でしか放送していなかった。そこに妨害電波を出されると、逃げ道はなかった。妨害電波をかわすため、調査会は複数の周波数で放送できるよう政府への働きかけを進め、現在は複数の周波数で放送。妨害電波に負けないよう、300キロワットでの送信も行っており、北朝鮮で聴取しやすい環境を整えている。
 妨害電波の状況を見ると、北朝鮮の情勢とも関係していることがうかがえる。例えば、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の叔父で後見人とされた張成沢(チャンソンテク)氏が粛清された後、2週間ほど妨害電波が確認されず、調査会は「北朝鮮の指揮命令系統がうまくいっていないためではないか」と分析する。
 逆に金正日(キムジョンイル)総書記の死去後、金正恩氏が最高指導者になった後は、妨害電波の音の種類がより音声を聞くのが困難なものに変わったといい、「体制固めのためにやったのではないか」(調査会)とみている。
 妨害電波以外の工作も確認されている。調査会によると、昨年10月に開かれた国際電気通信連合の周波数調整会議で、北朝鮮がしおかぜが使用している周波数の取得申請を行ったという。今年3月末の会議で取り去れたが、調査会は「しおかぜの放送を妨害しようとした意図が感じられる」とみている。


 さまざまな妨害を仕掛けてくることは、北朝鮮がしおかぜによる情報流入を恐れていることを示している。それだけに、しおかぜの中波放送に対して北朝鮮がどのように反応してくるかは、情報が北朝鮮にしっかりと届いているかどうかを見る一つの指標となる。

将来的に目指す日本国内からの送信

 調査会が脱北者からラジオへの要望を聞くと、「まずニュースを聞きたい」という希望が多いため、しおかぜの中波放送では、朝鮮語と日本語による北朝鮮情勢によるニュースを放送。さらに政府認定の拉致被害者と拉致の可能性を排除できない特定失踪者の氏名を日本語と朝鮮語で読み上げる内容となっている。今後は要望の多い、音楽を放送することも検討している。
 中波での放送は3カ月間を予定している。2時間半の放送費用が月額約100万円の短波に比べ、中波は30分で月額約135万円が必要で、同じ時間で換算すると中波は短波の6倍以上の費用が必要となる。放送予定期間を3カ月としているのは、十分な資金がないためで、調査会は今後資金が集まれば、放送を継続する予定だ。
 費用面の課題に加え、送信距離という問題もある。モンゴルの送信施設から平壌への距離は約1350キロあり、日本の九州にある送信施設からの距離のほうが近い。このため、今後政府に働きかけるなどして、日本国内からの送信を目指す。村尾専務理事は「たった30分の時間を認識してもらわないといけない」と話している。


【国軍で対抗】自衛隊は拉致被害者を救出できないのか?ドイツの事例を参考に元自衛官らが訴える「奪還シナリオ」の必要性

 北朝鮮による拉致問題の進展がない中、自衛隊を活用した拉致被害者救出実現を目指す動きが始まっている。自衛隊はこれまでイラクとアルジェリアで邦人輸送をした経験はあるものの、昨年、成立した安全保障関連法の審議でも自衛隊による拉致被害者救出が議論されることはほとんどなく、現状では自衛隊を邦人救出に活用することへのハードルは高い。「なぜ被害者を助けるのに自衛隊を使えないのか」。自衛隊OBらは“有事”に備えた準備の必要性を指摘する。

アルバニアの動乱から邦人を救ったドイツ

 「自分の国民をほかの国の軍隊に救出してもらうこともあるし、自分の国の軍隊でほかの国民を救出することもある。これが国際的な常識です」。自衛隊OBや予備自衛官らで作る「予備役ブルーリボンの会」(荒木和博代表)が3月5日に東京都内で開いたシンポジウムで、そう指摘する意見が上がった。
 指摘したのは、予備役ブルーリボンの会幹事の荒谷卓氏。陸上自衛隊唯一の特殊部隊といわれる特殊作戦群の初代群長を務めた経験を持つ自衛隊OBだ。
 シンポジウムで荒谷氏は、世界各国による在外国民救出の事例を説明。その中でも、1997年に東ヨーロッパのアルバニア共和国で発生した動乱での、ドイツの活躍を紹介した。
 アルバニアでは国民の間で流行していたネズミ講が破綻。財産を失った国民が暴徒化するという事態に発展。このときドイツはアルバニア在住の自国民保護のため、国防軍を派遣。ドイツ人だけでなく、日本を含む他国民も救出した。


 このときのドイツの行動に関し、荒谷氏は「自国民も救出したが、非常に多くの外国人を救出した。これで国際社会もドイツが軍事的にも主体的に行動するということを是認した」と説明。自国民保護をきっかけに、ドイツが国際政治の中で重要なプレーヤーになっていったと強調した。
 これに対し、日本の自衛隊はこれまでイラクとアルジェリアで邦人輸送を実施したが、「両方とも非常に安全な状況の輸送だった」と荒谷氏はいう。このため、「自衛隊を自国民保護という目的で、世界中の国々の人をどんどん救出していく。そのオペレーションの実績、経験を積んでいくことによって、北朝鮮で救出する機会がきたときに恐らく自信をもって作戦行動ができるようになると思う」と北朝鮮有事に備えた準備の必要性を語った。

北にいうこときかせるには「力しかない」

 続いて登壇した予備役ブルーリボンの会代表で、拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」代表の荒木和博氏は、韓国人拉致被害者救出や小泉純一郎首相の訪朝による拉致被害者5人の帰国などを例に、日本がどう北朝鮮に対峙していくべきかを述べた。
 北朝鮮が日本人拉致を初めて認め、その後の拉致被害者5人の帰国につながった2002年の日朝首脳会談が実現した背景には、米による圧力強化があったことが知られている。同年1月の一般教書演説でブッシュ米大統領は「悪の枢軸」と北朝鮮を名指しして批判、北朝鮮が日本に接近し、首脳会談へとつながった。
 荒木氏は一般教書演説を受け、「これで爆弾を落とされると本気で北朝鮮の中は思った」と説明。当時は中国との関係も悪化したため、北朝鮮には日本に近づく選択肢しかなかったと分析した。


 こうした経緯から、今後北朝鮮との間で被害者帰国に向けた交渉を実現するため、荒木氏は「北朝鮮にいうことをきかせるには、力でやるしか方法はない。北朝鮮の中で金正恩が『このままいくと爆弾を落とされる』『日本がキレたら何をするかわからないと』いうふうに思えば、交渉に乗ってくる可能性はある」と話した。
実現しなかった拉致被害者救出作戦
 シンポジウムでは、民間による拉致被害者救出が過去に検討されたことがあったことも明かされた。
 昭和53年8月に北朝鮮に連れ去られた増元るみ子さん(62)=拉致当時(24)=の弟、照明さん(60)は平成14年終わりごろ、るみ子さんと、るみ子さんと一緒に拉致された市川修一さん(61)=拉致当時(23)=救出作戦の実施を提案されたという。
 照明さんによると、作戦を提案したのは、元北朝鮮工作員の安明進(アンミョンジン)氏。「現在でも増元るみ子さんと市川修一さんの所在地がある程度わかる。連れ出せるはずだという相談があった」という。
 しかし、るみ子さんと市川さんの2人を同時に救出するのは困難だという見通しを伝えられ、「どちらか一人残されたほうはどうなるのだろうという危惧があったのでプロジェクトを断らざるをえなかった」と振り返った。
 荒木氏も15、16年前に、民間軍事セキュリティー会社の関係者から、特定の被害者奪還を提案されたことがあったと説明。「そのときはそこまで考えがいたっていなかったのと、それ以上に一人だけ取り返すということについてどうしても抵抗があって、なんとなく立ち消えになった」というが、「どこかで(救出作戦を)決断しなければいけない時期はくるという可能性はある」と話した。


天災でも準備しないといけない時代だが…

 シンポジウムの最後では、報告者らが意見をそれぞれ訴えた。荒谷氏は「天災でさえも今はちゃんと準備しないといけない時代。政治的な災害はもっと主体的にかかわれるはずだ」とし、「拉致問題に対する根本姿勢を一度見直して、本当に国際社会で責任ある国家であればどうするだろうという視点から、立ち向かうべきだろうと考えている」と話した。
 自らも予備自衛官である荒木氏は「この国が蹂躙されて国民が連れ去られ、向こうから取り返せない。その状態を自衛官として予備であろうが現役であろうが恥ずかしいと思わないか。悔しいと思わないか」と訴え、膠着した事態を動かすためには「怒りが必要だ」と強調。「こんなことやられて、われわれは今何もできていないのだという怒りをしっかりとかみしめて、先祖にも、生まれてくる次の世代にも申し訳ないとしっかり感じていく必要があると思っている」と呼びかけた。


《維新嵐》北朝鮮を孤立させること。経済制裁だけでなく政治的(外交的)、軍事的な制裁を加えながら、北朝鮮が暴発しないようにする。その後は・・・詳細はふせます。ただいえることは目には目を、の戦略を駆使。自衛隊は現状のままでは拘束性が強すぎて役にたたないでしょう。法改正してたら時間ばかりがすぎます。超法規的措置かな。
 敵国の様子、動きを常に把握し「負けない」ための戦略を構築していく必要があります。あらたな情報機関(ヒューミント、シギントの部門をもつ)の創設は必須でしょう。

【北朝鮮が国家戦略として外国人を拉致していた事実を映画化】

「拉致」指令認める金正日総書記の肉声公開
ドキュメンタリー映画「恋人と独裁者」が米国で封切り

【ロサンゼルス=中村将】北朝鮮による韓国人女優と映画監督の拉致事件を扱ったドキュメンタリー映画「The Lovers and the Despot(恋人と独裁者)」の上映が23日、米ロサンゼルスやニューヨーク、首都ワシントンなどの一部の劇場で始まった。被害者が金正日(キム・ジョンイル)総書記とのやりとりをひそかに録音していた内容が含まれており、拉致の指示を認める金総書記の「肉声」が公開された。
 北朝鮮は1978年1月、韓国人女優の崔銀姫(チェ・ウニ)さんを香港から工作船で拉致。行方を捜していた元夫で映画監督の申相玉(シン・サンオク)さん(故人)もその後、拉致された。金総書記が映画作りに従事させ、北朝鮮映画の質を向上させるために拉致した事件として知られる。2人は北朝鮮で再婚した。
 映画は2人の英国人監督が撮影。崔さんの証言や、米国務省関係者や米中央情報局(CIA)関係者らのインタビューなどを基に構成されている。米サンダンス映画祭や世界三大映画祭の一つ、ベルリン国際映画祭で評価された話題作だ。


金総書記は甲高い声で被害者夫妻に拉致の目的を「映画製作のためにあなた方に目をつけた」と説明。「『(工作機関に)2人を連れてきなさい。重要なんだ』と言った」と述べている。「南朝鮮(韓国)には自由も、民主主義もない。あなたたちは本当の自由を得るために(北朝鮮に)来た。創造の自由を約束する」などと被害者夫妻を洗脳するような発言もある。
 被害者夫妻は北朝鮮で何があったのかを証明するために、かばんなどにカセットレコーダーをしのばせ、録音していたという。CIA関係者も「肉声」との認識を示している。
 申さんが怪獣映画「プルガサリ」や「帰らざる密使」などを撮影して信頼を得たことで、夫妻は映画関係の仕事で東欧などへの出国が認められた。86年3月、オーストリア・ウィーンの米国大使館に夫妻で逃げ込み、脱出に成功した。
日本でも平成28924日から一部の劇場で「将軍様、あなたのために映画を撮ります」の題名で公開が始まった。

《維新嵐》必要な技術は、それをもっている人材を外国から拉致してでも手に入れる。単に北朝鮮という国家戦略というだけではなく、民族的な慣習という側面もあるのかもしれません。少なくとも農耕民族的な価値観では理解できないやり方といえるでしょう。