2016年4月30日土曜日

戦略的国益をかけた「ごうりゅうプロジェクト」の敗北 ~そうりゅう型潜水艦の海外共同開発ならず~

オーストラリア潜水艦、仏が受注
BBC News
20160426日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/6669


 オーストラリアのターンブル首相は2016426日、記者会見で同国が選定を進めていた次期潜水艦の共同開発をフランスが受注すると発表した。同じく受注を競っていたドイツと日本は敗退した。
受注額は500億豪ドル(約4.3兆円)に上り、オーストラリアが発注する防衛関連プロジェクトとして史上最高額になる。
ターンブル首相は、新たに開発される「バラクーダ級」の潜水艦はオーストラリアで生産された鉄鋼品を使用し、同国南部アデレードで建造されると述べた。また、2800人の新たな雇用が生まれるという。
受注競争でこれまで最有力とみられていた日本の中谷元防衛相は同日、「大変残念だ」と述べ、オーストラリアに対して「選ばれなかった理由の説明を求めていく」と語った。
ターンブル首相は13カ月にわたる選定を経た決定は、「オーストラリア海軍の将来を何十年にもわたって確実なものにする」と語った。
同国のペイン国防相は、政府の選定過程では、さまざまな専門家が一致してフランスの提案を支持したと語った。
日本が当初の有力候補だった理由として、ターンブル首相の前任者であるアボット前首相が安倍晋三首相と緊密な関係にあったことが挙げられる。
しかし、日本が防衛装備品の輸出の経験に乏しいために今回の受注獲得に失敗したとの指摘もある。
日本は2014年に武器禁輸策を転換する「防衛装備移転三原則」を閣議決定している。多額の利益をもたらす潜水艦の受注は政策変更後初めての大型受注となり、安倍政権にとって大きな勝ち点となるはずだった。
さらに、日本政府は中国の台頭に対抗する方策のひとつとしてオーストラリアとの軍事的な連携強化を狙っているとみられている。潜水艦の共同開発によって、装備で互換性を持たせることが期待されていた。
日本の受注敗退が日豪関係に影響を及ぼすとの見方もある。
ターンブル首相は、安倍首相に連絡したと明らかにし、「日ごとに強まるオーストラリアと日本の特別な戦略的関係を維持する強い決意」を共有したと述べた。
(英語記事 France wins A$50bn Australia submarine contract

《維新嵐》日米豪による海軍力による対中戦略的連携は変わりはありません。ただ共通の装備による「互換性」がなくなりました。いわば我が国の次期戦闘機導入に際して、アメリカのF-35Aではなくユーロファイタータイフーンを採用したというものでしょう。だからといって日米安全保障体制がなくなるわけではないですから。同じ意味です。ただ共産中国の覇権主義と対抗していく戦略のためには、兵装の互換性はあった方が理想的でしたね。
共同開発相手はフランスに決定・日本の「そうりゅう型」は落選
中国の圧力に日和る?
2016.4.26 11:45更新 http://www.sankei.com/world/news/160426/wor1604260024-n1.html

【シンガポール=吉村英輝】オーストラリアのターンブル首相は平成28426日、記者会見し、日本、ドイツ、フランスが受注を争っていた次期潜水艦の共同開発相手について、フランス企業に決定したと発表した。日本は、官民を挙げて、通常動力型潜水艦では世界最高レベルとされる「そうりゅう型」を売り込んだが、選ばれなかった。
 ターンブル氏は、造船業が集積する南部アデレードで会見し「フランスからの提案が豪州の独特なニーズに最もふさわしかった」と選考理由を述べた。さらに、海軍装備品の中でも最も技術レベルが必要とされる潜水艦が「ここ豪州で、豪州の労働者により、豪州の鉄鋼で、豪州の技術により造られるだろう」とし、豪州国内建造を優先した姿勢を強調。7月に実施する総選挙に向けてアピールした。
 地元メディアによると、ターンブル氏は25日夜、フランスのオランド大統領に電話をし、結果を伝えたという。

http://www.sankei.com/world/news/160426/wor1604260024-n2.html

日本は受注競争で、「そうりゅう型」の実績や性能の高さ、日米豪の安保協力深化を訴えた。一方、フランス政府系造船会社「DCNS」は潜水艦の輸出経験が豊富で、現地建造による2900人雇用確保など地元経済への波及効果を早くからアピールしてきた。
 次期潜水艦は建造費だけで500億豪ドル(約4兆3千億円)で、オーストラリア史上最高額の防衛装備品調達。アボット前首相は日本の潜水艦を求めたが、支持率低迷で昨年9月にターンブル氏に政権を追われて交代。ターンブル氏が経済連携を重視する中国は、豪州側に日本から潜水艦を調達しないよう、圧力をかけていた。 

《維新嵐》 共産中国は、外交的なメッセージで豪州に「圧力」をかけていた!?豪中の経済関係を考えた時にターンブル政権が、このメッセージを気にしたことはあり得ます。

豪州潜水艦受注の陰に、共産中国の対日工作戦術あり。
いい加減に我が国も情報戦略での劣勢を挽回できないものか!?

フランスの販売戦略 日本相手に絶望的状況から逆転のフランス「偉大な勝利だ」 極秘のステルス技術で口説き落とし
産経新聞
【ベルリン=宮下日出男】オーストラリアが次期潜水艦の共同開発相手にフランス政府系企業のDCNSを選定したことについて、フランスでは歓迎の声が広がっている。国内雇用の重要な柱の一つである軍需産業の振興に向けた官民一体の武器輸出攻勢が功を奏したもので、ルドリアン仏国防相は「偉大な勝利だ」と強調した。
 「フランスを信頼してくれて感謝する」。オランド仏大統領は2016年4月26日、豪政府による選定結果の発表直後に声明を出し、受注決定を「歴史的」と称賛した。
 フランスは潜水艦を豪本土で建造することで現地に2900人の雇用確保を約束したが、仏側でも4千人の雇用創出につながるとされる。仏軍需産業は約17万人の雇用を抱える主要産業。約10%で高止まりする失業率の改善は仏政府にとり大きな課題で、長期の大型受注は支持率が低落中のオランド氏には朗報だ。
 仏メディアによると、豪潜水艦の受注は当初、日本相手に絶望的な状況だったが、国防省と関係企業は連携して準備を継続。豪側の首相交代が転機となり、攻勢を加速させた。3月にはルドリアン氏が豪側を訪問し、これに仏企業団体の代表団も続いた。
 さらに、フランスの勝因は他にもあるとされる。仏側はプロペラでなくジェット水流で静かに推進する装置の提供を決めた。極秘のステルス技術の海外輸出はDCNSにとって初めて。報道によると、仏側は豪側と対立関係にある国に提供しないとも確約し、豪側は驚きを示したという。
 ポリネシアなどの海外領土を有するフランス自体も太平洋やインド洋に利害を持つ。ルドリアン氏は豪訪問時、ペイン豪国防相と中国の海洋進出による脅威についても協議し、「われわれは共通の戦略に取り組んでいる」と強調していた。

《維新嵐》 フランスに限らず、兵装の輸出、共同開発事業は、経済的な効果も見込めて、安全保障面での拡大意識にもつなげられる意味があることがわかります。しかしフランスの「潜水艦営業戦略」は手際がいいです。我が国は、今回は本懐をとげられませんでしたが、フランスの販売戦略から学ぶべきところはたくさんありますね。

フランスの潜水艦受注戦略 その驚くべき行動

焦点:日本敗れ潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏勝利の裏側

ロイターhttp://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e7%84%a6%e7%82%b9%e6%97%a5%e6%9c%ac%e6%95%97%e3%82%8c%e6%bd%9c%e6%b0%b4%e8%89%a6%e3%80%8c%e3%81%94%e3%81%86%e3%82%8a%e3%82%85%e3%81%86%e3%80%8d%e5%b9%bb%e3%81%ab%e3%80%81%e4%bb%8f%e5%8b%9d%e5%88%a9%e3%81%ae%e8%a3%8f%e5%81%b4/ar-BBsn3Ze?ocid=spartandhp#page=2 


[東京/パリ/シドニー28日 ロイター] 初の大型武器輸出として日本が目指したオーストラリア向け潜水艦「ごうりゅう」の受注は、幻に終わった。首脳同士の絆のもとで日本は勝利を疑わず、途中で変わったゲームの流れについていけなかった。勝利したフランスは自分たちが劣勢にあることを認識し、現地の事情に通じた人材を獲得、弱点を地道に克服して勝負をひっくり返した。

<本格的な国際競争へ>

2014年11月、フランスのル・ドリアン国防相は初めて豪州を訪れた。豪州の次期潜水艦の受注を獲得しにいくことを決めた仏政府系造船DCNSのトップ、エルベ・ギウ氏に促されての訪豪だった。国防相が飛んだのは、首都のキャンベラやシドニーではなく、南西部の都市アルバニー。そこは第1次世界大戦中、西部戦線に展開したフランス軍の応援に、豪軍が兵士を送り出した場所だった。
ル・ドリアン国防相は豪政府の主要閣僚とともに、100年前の悲しい出来事を称えた。「国防相はその重要なイベントに参加することを切望した。そこで豪州のジョンストン国防相、アボット首相と話す機会を得た」と、同行した仏関係者はいう。過去を共有することで、潜水艦の協議に向けた扉が開いたと同筋は振り返る。
豪政府は当時、自国建造は技術的リスクが高いとして、海軍の要求性能に近い海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦を輸入する方向で日本と話を進めていた。日豪は首脳同士の仲が緊密で、中国けん制のために防衛協力を強化したいとの思いも共有しており、日本が受注することは確実とみられていた。日本の政府内では、豪州向けのそうりゅうをもじり、「ごうりゅう」プロジェクトと呼ばれていた。
ちょうどこのころ、豪州では政治の風向きが変わり始めていた。自国の造船会社はカヌーを造る能力もない、などと発言したジョンストン国防相が201412月に辞任。強権的との批判や景気減速などでアボット政権の支持率は低下した。
日本が受注すると豪州に経済効果がないとの声が高まり、「競争的評価プロセス(CEP)」という名の競争入札に切り替えざるを得なくなった。
2015年2月19日、日本の安倍晋三首相はアボット首相から電話を受けた。次期潜水艦建造の支援先を決めるに当たり、日本、ドイツ、フランスを対象にCEPを実施したい──。アボット首相はそう告げた。20日に発表するという。
安倍首相は「トニー」、「シンゾウ」と呼び合うアボット首相の苦境を理解し、入札への変更を承諾した。武器市場に参入したばかりの日本が、準備のないまま本格的な国際競争に放り込まれた瞬間だった。

<安保法案への影響を懸念>

ところが、政府・三菱重工業(7011.T)・川崎重工業(7012.T)で作る日本の官民連合は、独造船ティッセンクルップ・マリン・システムズ、DCNSとの競争になったことの意味を理解していなかった。「豪州が本当に欲しいのは日本の潜水艦。勝っているのだから、余計なことはしないというムードだった」と、日本の関係者は振り返る。

© REUTERS 焦点:日本敗退で潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏の勝利の裏側

2015年3月に豪州で開かれた潜水艦の会議に日本から参加したのは、海上自衛隊の元海将2人。豪国防相が出席したにもかかわらず、日本が現役の政府・企業関係者を送らなかったことは、豪国内で驚きを持って受け止められた。ティッセンとDCNSは、この場で自社の潜水艦建造能力を大いにアピールした。

同月には豪政府からCEPへの招待状が届いたが、 日本は5月まで入札への参加を正式決定しなかった。大型の武器輸出の入札に手を挙げることで、国会の予算審議、その後に控える安全保障法案の議論に影響が出ることを懸念した。
建造に必要な部品や素材を供給する現地企業の発掘にも苦戦した。豪企業の参画をできるだけ高めるのが入札の条件だったが、武器の禁輸政策を取ってきた日本の防衛産業は同国内に足掛かりがなかった。現地企業向けに説明会を開いても、当初は計画を具体的に説明せず、日本は前向きではないとみられるようになった。
さらに、日本は豪国内で建造しない、最先端の鋼材を使うつもりがないなどの現地報道が相次いだ。「独が情報戦を仕掛けてきた。日本の欠点を徹底的に叩いてきた」と、別の日本の関係者はいう。
同年9月には、安倍首相の盟友だったアボット首相が退陣。ライバルのターンブル首相が就任し、入札は完全な自由競争となった。「日本は受注確実の取引に招待されていたのに、気が付けば経験のないまま国際入札になっていた」と、豪防衛産業の関係者は指摘する。「ポールポジションから、窮地に立たされることになった」と、同筋は話す。

<連絡あれば日本を支援した>

どの国の案にも弱点はあった。2000トンの既存艦を2倍の大きさにする提案をしたティッセンは、技術的なリスクが大きかった。日本のそうりゅうは静粛性には優れているが、リチウムイオン電池による航続距離が疑問視された。DCNSは5000トンの原子力潜水艦の動力をディーゼルに変更するという誰も手掛けたことのない提案をしていた。
仏にとって重要な節目は、15年4月にショーン・コステロ氏を現地法人のトップに据えたことだった。辞任したジョンストン豪国防相の側近で、豪海軍で潜水艦に乗っていた。豪政府系の造船会社ASCの幹部だったこともある。受注に向けて現地のチームを率いるには適任だった。
もし日本がコステロ氏に声をかけていれば、彼は日本の支援に応じていただろうと、同氏をよく知る関係者は言う。「しかし、日本は電話をかけてこなかった」と、同関係者は話す。
DCNSの現地チームは、受注獲得に必要な課題をすべて洗い出した。最大の懸案は、豪潜水艦に武器システムを供給する米国企業が、仏との協業を敬遠しているとの噂があることだった。
しかし、システムの入札に参加しているロッキードとレイセオンとの協議で、これも解決した。そして2016年3月、仏はダメ押しとして政府・財界の一団が大挙して訪豪し、DCNS案を採用した場合の経済的なメリットを訴えた。

<日本の巻き返し>

日本も昨年夏、経済産業省から防衛省に送られた石川正樹審議官がチームを率いるようになってから、巻き返しを図った。1隻目から豪州で建造する具体案をまとめ、現地に研修所を作って技術者を育成することを10月に発表した。
資源価格の低迷に苦しむ豪経済の浮揚につながる産業支援策を準備し、現地にリチウムイオン電池工場を建てることも検討した。そして最終局面の今年4月、三菱重工がようやく現地法人を設立、海上自衛隊が豪軍との共同訓練にそうりゅう型潜水艦「はくりゅう」を派遣した。
しかし、はくりゅうがシドニー港を離れた4月26日、ターンブル首相はDCNSに発注することを発表した。ル・ドリアン仏国防相が自国の勝利を知ったのは、前日の25日。14年11月のアルバニーへの訪問を思い出しながら、仏で戦没した豪軍兵士の追悼式に参加していた。
「仏の動きには注意を払っていなかった」と、日本の関係者は言う。「日独が情報戦で互いを叩き合っている間に、仏はうまく浮上した。地道に根回しをし、冷静だったと思う」──。
(久保信博、ティム・ケリー、シリル・アルトメイヤ、コリン・パッカム 編集:田巻一彦、リンカーン・フィースト)

「中国を喜ばせる結果に」ローウィ国際政策研究所(シドニー)のユアン・グラハム氏に聞く

2016.4.27 11:05更新 http://www.sankei.com/world/news/160426/wor1604260040-n1.html

ローウィ国際政策研究所(シドニー)ユアン・グラハム博士

ターンブル政権は、次期潜水艦の共同開発相手決定で、性能などを考慮したと強調した。ただ、野党労働党は潜水艦の国内建造を主張して政権攻撃していた。安全保障面だけではなく、雇用など国内問題が今回の決定に影響した側面は否めない。
 ターンブル氏が政権浮揚のため打って出る今年7月の総選挙では、次期潜水艦が建造されるという南オーストラリア州の議席がカギを握る。政局も考慮されたと思われて仕方ない。日本からの潜水艦調達を主張していたアボット前首相は、今回の決定が「不純」だと選挙戦で攻撃するだろう。
 米軍は豪側に、現役の「コリンズ級」と同様、フランスの次期潜水艦でも、戦闘システムを提供はするだろう。だが、日本の「そうりゅう型」に提供される予定だったものと比べれば、性能面で制約を受ける。日豪と連携して南シナ海などの抑止力維持を目指す米国の落胆は深い。


ターンブル氏は会見で、あえて日本との安保上の連携の重要性を訴えた。日本の安倍首相が、今回の決定で対豪関係を厳しくみると承知しているためだ。他の防衛装備品を日本に発注するなどし、日本との関係改善を模索する必要がある。
 そうりゅう型の調達に反対していた中国からの圧力が、どう影響したかは不明だ。だが、現実政治として、今回の判断は中国を喜ばせる内容となった。次期潜水艦の実践配置までには時間がかかる。国内建造にしたことでさらに長期化するだろう。その間、国際安保情勢が想定以上に厳しさを増せば、ターンブル政権の今回の判断は、禍根を残す結果を招く。(談)

《維新嵐》 今回の潜水艦共同開発の失敗自体は、あまり長く尾を引かない方がいいでしょう。
潜水艦装備の面での互換性がなくなったというだけで、日米豪の海洋戦略での協調は今後も強化されていくわけですし、装備面での互換性をつなげていくなら、潜水艦以外の装備で模索すればいいことかと思います。兵器の共同開発は、今や主要国のトレンド的なやり方になりつつありますが、営業は熾烈を極めていきますから、一度の敗北でめげてしまうことはないのです。
 要は、失敗を次への戦略的な成功への糧にしていけるかどうか、が重要かと考えます。



熊本地震災害支援でのオスプレイ運用について

海兵隊がオスプレイを出動させた本当の理由
ピント外れの「政治利用」議論
北村 淳 2016.4.28(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46691
支援活動のため岩国基地に到着したオスプレイ(出所:米海兵隊、撮影:Samantha Villarreal

 熊本地震に対する自衛隊の災害派遣を支援するかたちで、沖縄を本拠地にするアメリカ軍が災害救援活動を実施した。
 アメリカ軍が救援活動に投入したのは、「第31海兵遠征隊」(31-MEU)隊員120名と8機のMV-22ティルトローター中型輸送機(オスプレイ)、それに米空軍のC-130H大型輸送機(ハーキュリーズ)が2機であった。31-MEUが使用したオスプレイ8機のうち4機は、出動中であったフィリピンから、オスプレイの特徴である長距離航続性能を生かして、災害救援活動に参加した。
普天間基地で支援準備をするオスプレイ(出所:米海兵隊、写真:Jessica Collins
岩国基地に勢ぞろいした第一陣(出所:米海兵隊、写真:Samantha Villarreal
支援活動のため岩国基地を発進するオスプレイ(出所:米海兵隊、写真:Aaron Henson
オスプレイ反対派は「災害の政治利用」と批判
アメリカ海兵隊が災害救援支援活動にオスプレイを使用したことに対して、一部メディアや政党などは、次のようなオスプレイ批判を展開していた。
「オスプレイが災害救援活動に使用できることを示して、国民の安全性への懸念を取り除こうとする試みである。災害の政治利用とみなされても仕方がない」
「避難している被災者の人々も、危険なオスプレイを不安に思っている。米軍の協力はありがたいが、オスプレイの使用はやめるべきだ」
「安倍政権は、被災者の藁にもすがる思いでいるという状況を、オスプレイの国内配備のために利用するのか」
「自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターは災害救援活動には極めて優秀な航空機である。自衛隊はそのCH-47を多数投入できるにもかかわらず、なぜ海兵隊のオスプレイを使用する必要があるのか」
「オスプレイの能力は災害時に役立つ」と擁護側
一方、オスプレイの使用を擁護する陣営は、主として中谷防衛大臣の次のような声を伝えていた。
「オスプレイの安全性はすでに保証されている。自衛隊のヘリコプター輸送能力だけでは十分に現地に物資が届けられていない」
「オスプレイは 垂直離着陸が可能であり、山間部など狭隘な場所でも物資を運ぶことができる。災害時に役立つ能力がある」
「効率的で迅速な活動を行うため、自衛隊の輸送力に加え、高い機動力と即応力を併せ持つオスプレイの活用が必要だ」
「米側の力を利用できるのはありがたい。困っているときに支援してくれるのが本当の友人だ」
ピンボケのオスプレイ論議
 オスプレイの使用を批判する人々は、かねてよりの持論である「オスプレイ恐怖症」を再燃させようと、まさに災害救援という緊急事態を利用して31-MEUのオスプレイ出動を政治利用したと言えよう。
しかし中谷大臣が言う通り、また本コラムでも何回も指摘したように、今さらオスプレイの危険性をあげつらうのは噴飯物に近い。
 そもそも、31-MEUはオスプレイを出動させたいがために災害救援支援活動を申し出たのではない。現在31-MEUが保有している各種航空機のうち、今回の支援活動に最適なのは中型ティルトローター輸送機であるオスプレイであったからオスプレイを使用したのである。したがって、オスプレイ反対陣営の議論が論外なのはもちろんのこと、擁護陣営があえてオスプレイの有用性を強調するのもおかしな議論である。
 また、オスプレイと自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターを比較するような議論も見受けられるが、海兵隊はCH-47を保有していない。また、自衛隊がいくら多数のCH-47を運用しているといっても、同盟軍の海兵隊が自衛隊の輸送能力を増強してくれるというのならば、素直に受け入れれば良いのだ。
 大災害直後の緊急輸送は「猫の手も借りたい」わけであるから、オスプレイであろうが、CH-47であろうが、自衛隊であろうが、海兵隊であろうが、投入可能な支援アセットは躊躇なく投入しなければならない。
 自衛隊にせよ、海兵隊をはじめとする米軍にせよ、本来の任務は国防であるが、それぞれが負っている国防の任務を維持しつつ、最大限の救援活動を実施するには最適の資機材を投入する必要がある。今回の支援活動を政治的プロパガンダと解釈するのは「あまりにも政治的に穿った見方」であり、軍事組織の本質を見誤っていると言えよう。
海兵隊は条約上の義務を果たしただけ
そもそも、昨年改定された現行の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)には、日本での大規模災害における救援活動は、当然のことながら日本が主体的に実施するが、米軍も積極的に協力する旨が下記のように明記されている。
「米国は、自国の基準に従い、日本の活動に対する適切な支援を実施します」(支援内容の例:捜索・救難、輸送、補給、衛生、状況把握及び評価並びにその他の専門的能力)
「日米両政府は、適切な場合に、同盟調整メカニズムを通じて活動を調整します」
 したがって、在日米軍が、日米間の取り決めに明記されている自衛隊の大規模災害救援活動を支援するために、可及的速やかに効果的な支援活動を実施しようとするのは、中谷大臣の言うような「友人として」の善意というよりは、むしろ条約上の約束の履行なのである(もちろん、安保条約締結中は、かけがえのない友人であるが)。
 そして、やはりガイドラインに記されているように、陸海空自衛隊で構成する「統合任務部隊」内に「日米共同調整所」が設置され、自衛隊と海兵隊の連携が保たれた。
 まさに、今回の米軍による自衛隊の救援活動の支援は、日米国家間の取り決めに基づいて31-MEUが「自衛隊に対して適切な輸送支援活動」を提供しただけであり、オスプレイのプロパガンダなどという動機は微塵も存在しなかったのである。

 海上自衛隊「ひゅうが」艦上での救援物資積み込み作業(出所:米海兵隊、写真:Samantha Villarreal
「ひゅうが」艦上での救援物資積み込み作業(出所:米海兵隊、写真:Samantha Villarreal
支援活動中に「ひゅうが」艦上で給油を受けるオスプレイ(出所:米海兵隊、写真:Darien Bjorndal
オスプレイから救援物資を搬出する陸自隊員と海兵隊員(出所:米海兵隊、写真:Nathan Wicks
オスプレイで駆けつけた海兵隊員と陸自隊員(出所:米海兵隊、写真:Nathan Wicks
支援活動中の自衛隊員とオスプレイ(出所:米海兵隊、写真:Darien Bjorndal

《維新嵐》 「災害の政治利用」とは、精神が歪んでいると思われても仕方がないような指摘です。「日米防衛協力のための指針」は、東日本大震災の時の地震、津波による被害の大きさや支援活動の反省からあらためられたものではないでしょうか?
 要は、在日米軍、とりわけアメリカ海兵隊の投射能力を災害支援に大きく活用することを念頭においているものと考えられます。二度と大規模災害での被災者が日常生活に困窮しないように、死に至らしめるような状況にならないように、自衛隊で及ばないようなところをアメリカ軍の力で補填しるためのものです。
 より多くの人々のくらしを支えるためのシステムを円滑に運用するためには、効率よく利用できるものはなんでも利用したいと思うものです。
 いちいちこの論文で指摘されるまでもないことです。こういう「災害人道支援」のやり方をいまだ地震災害の爪痕が色濃く残っている時期に外野からピント外れの批判をすべきではありません。日本人は気持ちを一つにして、運よく被災者にあたらなかった地域の人々もこの事実をみて個人でできるだけの準備を整えたり、自分たちを災害有事から守ってくれる社会インフラについて学ぶべきです。

自衛隊のコーチング術 後編

スペシャリストを育成する陸上自衛隊化学学校のコーチング
「仕事への動機づけ」と「自ら考えさせる教育」が重要!

【陸上自衛隊化学学校とは何か?】

NBC兵器による有事事態に対処する要員を育成する教育機関。(Nuclear核、Biological生物、Chemical化学)

1951年 臨時化学教育隊(宇治駐屯地)の新編からはじまる。
1957年 陸自化学学校として改編(大宮駐屯地へ移駐)

【任務目的】

NBC+放射性物質(Radio logical=CBRN(シーバーン)といわれる目にみえない脅威に対処する要員の育成を行う。
対処事例からの実戦的経験に基づいた教育が行われている。
1995年地下鉄サリン事件、1999年東海村JCO臨界事故、2011年福島第一原発事故)


動画でわかる陸上自衛隊化学学校


【教育方針】

・運用の実効性向上のための教育の追求
・最先端の特殊武器防護技術の確保普及

 科学的、技術的根拠に基づいたリアリティのある教育を実施する。
誰もが行くのをためらう危険な現場でも自信をもって対処できる要員を輩出することを目標とする。

 目にみえないCBRNに対処するには、物質の特性をよく知り把握することが重要である。そしてイメージをつかんだ上で対処し、任務達成につなげていかなければならない。
 実際の薬剤に検知紙をつけ、色の変化を視認させるなど現実に近い環境で各種訓練を行い、身をもって学ばせ、現場に自信をもって臨めるよう教育が行われている。
 警察や消防など他職種からも教育の要望がある。

スペシャリスト(専門職)としての仕事に対する意識づけが重要視される。

   各個人の経験と志向性を見極めて、そこからスキルを磨き、道を極めていけるように指導していく。
   自分の仕事が組織の中でどのような位置をしめ、どのように作用し、機能しているのか、誰のためにどう役にたっているのかを本人に理解させる。
   ②により職業観を把握させて、高いパフォーマンスを発揮できるようにしていく。

   それぞれの訓練の位置づけやその意味を明示することで、学生たちの動機づけを行っている。
「運用の実効性向上のための教育」を各教官が行うことで、高いレベルで動機づけを行っている。
「目にみえないものの恐怖を克服させる。」学生たちは脅威に自分の職能を駆使して対処しなければいけない。


陸上自衛隊化学学校NBC防護部隊レポート


【スペシャリストたる個人と組織を強靭化していく秘訣】

 いかなる状況でも的確な作業を行うために、常日頃から自問自答すること。ルーティンを身につけさせるために陸自化学学校では、教育のあらゆる場面で学生自身が考え判断させる機会を与えられている。

 例えば「野外訓練」の中では、各器材や部下をどう運用するのかを常に学生に考えさせている。そのためいろいろな問題を学生に付与している。
 同じ状況は二度となく、その時に応じてどうすればベストな判断ができるのか、を考えさせる習慣をつけさせるのである。
 「習慣化」することで、さまざまな不測事態に遭遇した際にも焦ることなく自ら考えてベストな対応ができるようになるのだと考えられる。

ルーティン~決められた動作を繰り返すこと。どのような状況でもベストパフォーマンスを発揮するための手法。

【化学科職種の精神】


「没我支援」「覚悟と誇りを持て」


「新たな脅威にそなえて~NBCRから防災まで~」井上忠雄氏 

2016年4月26日火曜日

自衛隊のコーチング術 中編

【陸海空自衛隊の幹部自衛官を育成する防衛大学校】
個と全体がみられる人材の教育、人材を生み出す教育環境が重要!

防衛大学校とは何か?

1952年保安庁付属機関として神奈川県横須賀市久里浜に保安大学校が設置される。
1954年防衛大学校に改名
1955年横須賀市小原台に移転する。文部科学省が定める大学設置基準に準拠する。
   教養教育、外国語、人文・社会科学、理工学の専門教育を実施する。防衛に関する学際的な研究、教育を行う。その目的は将来の陸海空の自衛隊の幹部自衛官としての人材を育成することにある。


動画でわかる防衛大学校

基本的な教育方針

「自主自律」~幹部自衛官として自分で考え、行動できる人物を育てる。

   大隊で実施している綱引きや騎馬戦などの行事は、学生が自主的に計画し、実行しているプログラムであるという。学生がやりたいと思うことはなるべくやらせ、計画を実現することの大変さを実感させるという方針。安全面への考慮など指導教官からのアドバイスや修正は、必要最小限にとどめられる。失敗から学ぶことも重要である。


防衛大学校開校記念祭

強い組織を作るためのキーワード「組織作用」

   「上司から部下への的確な指示・命令」と「部下から上司への質問・提案」が常に循環している上下関係があると強い組織へと成長するといわれる。組織作用の体系が整っていることがうまくまわる条件。

「学生綱領」~「廉恥」恥を知る清らかな心を持つ
      「真勇」真の勇気を持つ
      「礼節」礼儀と節度を重んじる

    「学生綱領」は学生自身が主体となって定めたものである。3つの資質を併せ持ち「真の紳士、、淑女たれ。」と説かれる。「真の武人たれ。」が理念。こうした「学生綱領」実施のために4つの活動が重視される。

   教育訓練
   学生舎での団体生活
   校友会での活動
以上人格形成のための教育
   学生隊~大隊、中隊、小隊から成る。人の上にたつ者としての責任感、状況にあわせた的確な判断力を育む経験を積む。


動画でわかる!防衛大生の一日

教育を行う上で大切にしている言葉

「熱意」「信念」「誠実」「謙虚」の4つ。

 熱意がなければ前へ進めない。信念がなければ行動がぶれる。誠実さがなければ人から信頼されず、つながりがもてない。謙虚さがなければ、人から素直に話を聞きそこから学べない。

防衛大学校の指導教官の特質

   ある目標にむかって突き進んでいく「リーダータイプ」ばかりではなく、組織を維持するために人をサポートする「フォロワータイプ」の人も多い、といわれる。

   学生が主体となって生活をすることが防衛大学校の目指すところ。指導教官はあくまで学生のサポートをし、アドバイスを行う立場にあると考えられる。

   学生と接するときに心がけているのは、なるべくフランクに声をかけることだという。

   自衛隊という組織としての厳しさは、しっかりと植え付けさせながら、休憩時間などでは、気軽に話しかけられる雰囲気を自ら作って学生の話を聞く。指導教官と学生のこうした関係性は、大手一流企業などの経営者やマネージャーたちが学ぼうとしている、部下との接し方と一緒である。


2016年4月25日月曜日

「核兵器のない平和な世界の実現」をめざすアメリカの核戦略 ~ アジア諸国を守る「核の傘」

オバマ大統領の広島訪問でも米国は変わらない
核兵器廃絶どころか「もっと近代化せよ」の声
北村 淳 2016.4.21(木) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46631
発射されたミニットマン3

ケリー国務長官がオバマ大統領に広島訪問を進言したことにより、ホワイトハウスは大統領の広島訪問を検討し始めている。そして、日本のメディアの多くは、オバマ大統領の広島訪問が核兵器廃絶に向けての大きな推進力になると報道している。
 ところが、ホワイトハウスが広島訪問を検討しているその足元で、アメリカでは核廃絶とは大きく隔たった核議論が展開されていることもまた事実である。
 議論は、ウィリアム・ペリー元アメリカ国防長官が「アメリカ軍はICBM(大陸間弾道ミサイル)を廃止すべきである」と主張したことに端を発する。
 ペリー元長官の発言は、莫大な維持費がかかっているICBMを廃棄して、国防費の大削減による戦力低下に歯止めをかけるべきである、といった意味合いのものであった。しかし、反核活動家たちは「ICBMの廃棄」という点を取り上げ、ペリー元長官の意見に賛同し活動を強化しようとしている。
 これに対して、戦略軍関係者や核戦略家などは「ICBMの廃棄など、とんでもない誤りである」と反論を開始した。
1000基のミニットマン3450基に
ここで話題になっているアメリカ軍のICBMとは、「ミニットマン3LGM-30)」大陸間弾道ミサイルと呼ばれる長距離弾道ミサイルで、地下に建設されたミサイル発射装置(地下サイロ)から発射される。
 アメリカ軍は、一時は1000基のミニットマン3を保有していたが、現在その数を削減しており、2018年までには450基(核武装400基、予備用50基)に減らすことになっている。
 ミニットマン31970年に誕生したICBMであるが、その後も核弾頭部を中心に近代化改修が続けられ、現在配備中のミニットマン3には最新式核弾頭が搭載されている。それぞれのミサイルに搭載されている核弾頭は300500キロトンと言われている(広島攻撃に使われた原爆は15キロトン、長崎攻撃用は22キロトンであった)。
 これらのICBMはモンタナ州、ノースダコタ州、ワイオミング州の空軍基地に配備されているが、発射態勢を維持したミニットマンが格納されている地下サイロは、敵のミサイル攻撃によって一挙に壊滅されないように、それぞれ離れた位置に点在している。


ミニットマン発射基地とサイロ(青丸印)

このように点在しているからこそミニットマンを廃棄すべきではないというのが、ICBM廃棄反対の人々の主張だ。反対派はこう唱える。
「敵がアメリカを核攻撃する場合、大量の核ミサイルを用いなければアメリカのICBM戦力を沈黙させることはできない。もし、ペリー元長官が言うように、ICBMを廃棄してしまったならば、敵は多数のミニットマン地下サイロを破壊する必要がなくなり、それだけの数の地上攻撃用核ミサイルが、アメリカや同盟国の地上目標めがけて降り注ぐことになる」
「今こそICBMを近代化せよ」との声も
すでに旧式となった地下サイロ発射式のミニットマン3といえども、以上のように敵にミサイルを消費させるという重要な役割を担い続けていることは確かである。
 しかし、ミニットマン自体や地下サイロ基地のメンテナンスには莫大な予算が必要なため、ペリー元長官たちは、原潜発射型の核弾道ミサイルによる抑止力で十分であると考えている。さらに、固定基地発射型であるがゆえに、敵の攻撃を間違いなく被る。そんなICBMは廃棄して、その分の予算を他の戦力強化(厳密には戦力レベル維持)に振り向けよう、というのである。
 これに対してICBM廃棄に反対する人々は廃棄は論外であると力説する。
「陸上、海中、そして空中からの核反撃能力の維持は絶対に必要である。陸上発射型ICBM36524時間常時発射態勢を整え続けることにより敵を威嚇している。原潜発射型核弾道ミサイルは、敵が把握することのできないどこかの海中からのステルス攻撃態勢によって敵を威嚇している。そして、核爆弾を搭載した戦略爆撃機は、潜水艦とは逆に敵の目に見える形で核攻撃が可能な姿を見せ付けることによって敵を威嚇している。こられの違った形態によって、効果的な核抑止力が生じているのだ」
 ここに来て、ICBM撤廃反対どころか、以下のように、TEL(地上移動式発射装置)発射型へのグレードアップを主張する声も聞かれるようになってきた。
「国防費節約のためにICBMを廃止して地下サイロを撤去するなどというアイデアを出すくらいならば、今こそ地上配備型ICBMも、全てTELから発射できる新型ICBMに取り替えるべきである。ロシアも中国もICBMの多くがTEL発射型に更新されており、極めて生存性が高くなっている。このままでは、アメリカの核抑止力がロシアや中国に対抗しきれなくなってしまう」
三位一体のアメリカの核兵器に守られている日本
冒頭で述べたように、日本ではオバマ大統領の広島訪問といった動きが取り上げられて、あたかも核廃絶に向けてアメリカが歩を進めつつあるかのようなニュアンスが伝えられている。しかし、実際の核戦略に携わっている人々の間で交わされている議論は、核廃絶とは程遠いというのが実情だ。
 アメリカ軍はミニットマン3のような陸上発射型以外にも、海中発射型、空中投下型の核兵器を保持している。つまり、3通りの核報復能力によって、敵からの核攻撃を“抑止”しているのだ。
 アメリカ海軍が運用している18隻の戦略原子力潜水艦には、それぞれ24基の「トライデント1」(8隻、100キロトン核弾頭)あるいは「トライデント2」(10隻、300475キロトン核弾頭)弾道ミサイルが搭載されている。これら18隻の戦略原潜全てが出動しているわけではないが、アメリカ海軍は理論的には432基のトライデント核弾道ミサイルを運用しているのだ。


オハイオ級戦略原潜のミサイル格納ハッチ

また、アメリカ空軍は58機のB-52戦略爆撃機、60機のB-1B戦略爆撃機、それに20機のB-2ステルス戦略爆撃機を運用している。これらの戦略爆撃機は、それぞれ16発の核爆弾(B-61340キロトン、あるいはB-831200キロトン)を搭載できるので、アメリカ空軍爆撃機は2208発の核爆弾を運用していることになる。

アメリカの戦略爆撃機(奥からB-52B-1BB-2

 皮肉なことに核廃絶を口にしている日本は、アメリカ本土の地下サイロでスタンバイする400基のミニットマン3、アメリカ海軍戦略原潜に搭載されている432発のトライデント、そしてアメリカ空軍戦略爆撃機に積載される2208発の核爆弾によって生み出されている核の傘によって保護されているのである。

《維新嵐》 我が国は、核兵器による防衛戦略の上でもアメリカの西の「国防圏」の中にあるということをまざまざと思い知らされます。日本列島には、アメリカ軍の四軍すべてが駐留していますが、世界大戦で「敗戦」を受け入れることにより、国際的地位が低下し、アメリカの軍事戦略の及ぶ「国防線」の内側の国にとりこまれた点からこの国の防衛を考えていく必要があります。

アメリカの対中ミサイル戦略の現状

《基本認識》
「中国のミサイルも米国に到達するのは、100発前後です。米国はやる気になれば、中国に数千発単位の核ミサイルを叩き込めますから。」~敵国に初弾を叩き込むのは、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)である。~

バージニア級原子力潜水艦

《共産中国の中距離ミサイル攻撃の現状と対処》
「米海軍とミサイル専門家らの話では、現在おそらく中国は800~900のミサイル発射台を持っています。その内の100~150が在日米軍むけと予想されています。」
「アメリカのミサイルディフェンスの考え方は、フェイズ・ゼロ。つまり発射前の段階でたたきます。」
「第7艦隊の攻撃型原潜には、トマホークが200発搭載されています。当然核弾頭も搭載可能です。因みにどの原潜が何の弾頭を何発積んでいるか、これは最高機密です。
 ターゲットリストには、中国の司令部とミサイル発射台100~150の情報すべてが入っています。先に司令部(C2、Command and Control)を潰して、司令系統を分断します。だから、ミサイル発射台の方では、発射の命令がこないので、撃てません。なので潰せます。
 米海軍攻撃型原潜のトマホークが正確に飛来して共産中国の発射台は潰されます。
(引用出典:『2020年日本から米軍はいなくなる』 元アメリカ陸軍大尉 飯柴智亮著2014年8月)