2016年2月8日月曜日

自衛隊は中国海軍の「漁船」と「商船」を成敗できるのか?

 2016.1.11 08:50 http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/160111/wor16011108500007-n1.html

野口裕之

不吉な初夢にうなされた。海原の船影を宝船だと慶んだのもつかの間、蒙古襲来で博多湾を埋め尽くした軍船の数に驚く鎌倉武士の心境は、かくやと思った。夢の中で小欄は、東シナ海で「中国漁船」を警戒・監視中の海上自衛隊護衛艦の艦長を務めていた。100隻以上の「漁船」は地元漁船の10倍強もある100~500トン級で、紅色の国旗を掲げ海軍艦隊のごとく陣形を組み整然と航行。沖縄県の尖閣諸島に向かっている。頭の中で法律を整理し、何ができるか考えている間に…。中国の台湾侵攻の序曲だと知るのは、夢から覚める直前だった。

訓練された「海上民兵」

 はるか前方を走る海上保安庁の巡視船が領海侵犯した「漁船」に退去を命じたが、逆に“退去命令”される。放水や進路妨害をしても恐れず徘徊した。と、準軍隊化を進める中国海警局の艦船が「自国民保護」名目で「漁船」との間に割り込む。海保は放水・進路妨害を止めた。国際法が禁じる公船への放水・進路妨害誘発を懸念したためだ。だが、海警局船は巡視船に放水や進路妨害を繰り返した。海保にはもう一つ、実力行使を控える理由があった。海警局船は海軍のフリゲートを改造し機関砲を残していた。巡視船も機関砲は装備するが、不測事態回避に加え、砲撃戦に至れば、ほぼ商船構造の巡視船に対し軍艦の船体は耐弾性・ダメージコントロールにおいて雲泥の差をつける。


「漁船」は《海上民兵》が操っていた。民兵は中国軍の一部で、軍事の最高意思決定機関《中央軍事委員会》の支配下に置かれる。多くは中国軍を退役した予備役将兵で、海上民兵も日常、漁業や海運・港湾事業に就き、各々の職業的特技を活かした任務を担う。例えば、商船乗員は海軍艦艇への補給物資輸送支援/離島住民は警戒・監視の一端を担任する。漁師の場合、母港+操業海域近くの海軍艦艇や陸軍将兵輸送船団に弾薬・燃料・食糧を運ぶ。南シナ海の人工島軍事基地建設に当たり、埋め立て用土砂や建設資材は海上民兵が運搬した。レーダー/通信機器/魚群探知機/衛星測位システムを搭載し、潜水艦を含む自衛隊・米軍艦艇の位置などの情報を、軍や準軍隊に通報している。兵器の扱いを学び、戦闘訓練や政治教育も受ける。機雷敷設やミサイルで外国艦船への攻撃もいとわない。

状況に合わせ軍服を着脱

 中国は世界最大の漁船保有国(20万隻)で、関連従事者は1400万人(世界の25%)に達する。海上民兵も相当数に上る。
 艦長たる小欄も「海上民兵?」との危惧は持った。長崎県の島(人口1800人)に2012年、106隻(3000人)の「中国漁船」が侵入し、1週間居座った件を鮮明に記憶していたためだ。「台風からの緊急避難」名目だったが、「漁船艦隊」を使った有人島制圧演習-との分析は専門家の間で根強い。


しかし、この時点で自衛隊の行動は制限される。夢の中でも、武装公船が援護しつつ、自動小銃やロケット・ランチャー、手榴弾などで武装した「漁師」が島に上陸。「漁船」も火砲やミサイル発射機を据え付け島の周囲に散開、迎撃態勢を完了した。不測の事態回避で一旦後退した巡視船は、所属不明の輸送ヘリで続々と重火力兵器と特殊作戦部隊員が後送されたのを確認し、さらに下がった。
 平時が有事?に激変したのだ。政府は「切れ目のない法的対処」を目指すが、法律は「切れ目」を生む。対する中国は法律によらぬ「切れ目のない対処」で、わが国の「切れ目」に斬り込んで来る。中国は本格的戦闘を回避したければ、一般人を装う工作員・民兵、準軍隊を投入。戦争覚悟で目的を達成すべきときは、正規軍を正面に入れる。ただし、投入人員の種類は、場所と時間を固定せずに変幻自在に行ったり来たり=モザイク状の状況を創出する。海上民兵は本当に漁をする。漁師である以上、自衛隊は手出しできない? 半面、指揮官や旗が存在し、階級章や民兵章が付く軍服を有す、国際法が認める戦闘集団だ。戦況を有利に導くべく、状況に合わせ軍服の着脱を繰り返すだろう。かくして、自衛隊の戦力が発揮できる防衛出動を下令させぬよう、日米安全保障条約を適用し米軍が来援せぬよう、硬直して実効性に乏しい法律のスキを衝きまくる。結果、政治レベルでも作戦レベルでも決心が致命的に遅れる。


「法律戦」で日本を縛る

 厄介なのは海上民兵だけではない。2015年制定の規範《国防所用を満たす民間船建造技術の仕様》を注視したい。軍の民間船徴用は当然として、新造商船の海軍仕様準拠方針を明記した。乗員の指揮系統などに象徴される軍艦資格を有するか否といった国際法上の識別義務を、中国が鮮明にせぬ恐れがある。
 武装漁船とともに、自衛隊や米軍にとり重大な研究課題で、投入のハードルが低い海保・警察の火力・権限拡充は急務だ。
 中国は《法律戦》を挑んでいる。防衛力を、法律で自縄自縛する日本に対し、何でもアリの中国が日本側の縄目をさらにきつく縛っている構図だ。対抗するには、法律の増殖ではなく、自衛官が即応できるよう条文を激減させ、柔軟な判断を可能にする法環境を整備する他ない。


法の柔軟性は政治決断で補えばよい。無人島であろうと、政治が(1)相手を殲滅しても主権を守る(2)主権は守るが、領域より排除する程度の抑制的対応(3)主権放棄…などを決心し、命令するのだ。その際、政治は自衛隊の助言を基に(1)は比較的容易だが、(2)は自衛隊の被害を大きくする。(1)は以後の抑止力に成るが、(3)は抑止力を無力化し、(2)は抑止力低下を招く…など、後の戦略も描かねばならぬ。こうした政治の覚悟が欠如し続けたが故に新型危機の度、欠陥法を背負い対処する自衛官は“政治的決断”まで強いられてきた。的確な政治決断が下されれば、決断の範囲内で自衛隊は各種ROE(交戦規定)に沿った対処に専念できる。
 夢の最後はこうだった。

 《同時多発的に、自衛隊戦力が手薄な複数の有人・無人島が占領され、九州南部~台湾にかけ、西太平洋→東シナ海に進出する米軍の台湾救援用ルートを一部封鎖する長城が完成した。もはや台湾侵攻は時間の問題だった》
 ところが《米軍の台湾救援を支援するべき日本の国内では、反戦運動と反戦報道が…》。(政治部専門委員 野口裕之)

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