2016年2月21日日曜日

情報戦争の裏側 ~「大国」の国益の守り方~

【ロシアがソ連から引き継いだ毒殺史】日本の元外務省調査員や首相の長男にも魔手が

政治部専門委員 SANKEI EXPRESS  野口裕之


猛毒を混入したお茶を飲まされ、ロンドンの病院で治療を受ける元ロシア諜報機関・連邦保安庁(FSB)中佐のアレクサンドル・リトビネンコ氏。入院から22日後に死亡した=2006年11月(ゲッティ=共同)

英国・独立調査委員会が1月に公表した報告書の報道に接し、深い闇の中より「あの事件」がほんの一瞬“顔”をのぞかせた、気がした。報告書は、元ロシア諜報機関・連邦保安庁(FSB)中佐のアレクサンドル・リトビネンコ氏(当時43歳/英国籍)が、猛毒の放射性物質ポロニウム210を混入したお茶を飲み、ロンドンで暗殺された事件(2006年)に、ウラジーミル・プーチン大統領(63)が関与していた可能性を指摘した。
 動機は、プーチン氏が政権を掌握する契機となった1999年のアパート爆破事件がFSBの自作自演だった過去を、リトビネンコ氏が明らかにしたためという。本件が露諜報機関員による暗殺なら物的証拠は残さぬが、報告書には状況証拠が満載だ。だが、筆者が95年に追跡した事件には状況証拠すらなかった。日本の戦後最大のスパイ事件の発覚後、19年も経過して謎の死を遂げる元外務省調査員の名前は、産経新聞の連載《戦後史開封》を担当した際入手した、600ページにのぼる《部外秘》の捜査関係資料に在った。


「ラストボロフ事件」の闇

 身辺調査や尾行結果、供述内容がびっしりと収まった資料は、冷戦中のソ連諜報機関の凄味を凝縮した《ラストボロフ事件》であぶり出された日本人スパイ36人を網羅していた。とりわけ印象深かった人物が、元外務省アジア局第2課調査員の室井正三(仮名)だった。
 室井は54(昭和29)年2月5日に警視庁に自首。ソ連の2等書記官を装う内務省諜報機関員ユーリ・ラストボロフ中佐(当時33歳)に「米軍極東情報部地理課員時代の51年以来、約40回にわたり情報提供した」と自供した。情報は「朝鮮戦争(1950~53年休戦)の休戦交渉決裂の場合、米軍は中国の本土爆撃と海上封鎖を実行」「沖縄には戦術核が到着」などを含んでいた。報酬は計68万5000円。米軍での月給が手取り2万5000円~3万円、外務省の手取りが1万5000円だった頃である。
 室井を追ったが、既に死亡していた。妻=当時(65)=や関係者を説得し、資料の内容を確認・捕捉した。「闇の世界」は小説の中だけではなかった。


第一幕《54年2月3日夜7時半、都内のアパートで節分の豆まきを終えた室井は窓を閉める際、電柱の陰に口笛を吹く人影を見た。妻に「たばこを買いに行く」と言って出た。資料では「たばこ」が「仁丹」だったが、妻は「たばこは買い置きがあったのでいぶかった」ことを覚えており、室井の記憶違いかもしれない。肩をたたかれた室井が振り向くと、中国人風の男が「自殺しろ」と、低いロシア語でささやき、走り去った。2日前、在日ソ連代表部(大使館に相当)が「ラストボロフは挑発目的の米国諜報機関に拉致された(実は亡命)」と発表していて、口封じで「消される」と直感した》

19年後の謎の死

 第二幕《妻は回想する。「翌日夜10時、真っ青の顔の主人に打ち明けられ愕然とした。バッグに下着や預金通帳を詰め、住人に悟られぬよう素足で階段を降り、上野の旅館に隠れた。4回目の結婚記念日だったが一晩中、逃亡か自首かを話し合った」》
 第三幕《室井は事件後4回、居所を変え反省したかに見えたが、日本の公安組織も甘くはない。63年6月19日以降、ソ連側との接触を確認している。前後して、室井は石油開発会社の常務となる。「数日日本で、30~40日をソ連で過ごすハードな生活の繰り返しだった」と妻。自民党親ソ派大物代議士や経済人の推薦を受け、ソ連での石油開発を手掛けていたのだ》


終幕《73年3月、室井はモスクワ行き民間航空機内で不可解な死を遂げる。乗り合わせた新婚旅行中の医師は大学教授になっていたが、記憶は鮮明だった。
 「脈がなく呼吸停止、瞳孔が開いていた。東京監察医務院の判定からはクモ膜下出血や脳内出血の症状。発作後数分だった。皮膚が紫がかるチアノーゼが観られたので、嘔吐(おうと)に因(よ)る窒息や超劇症型の可能性がゼロではないが、一般的には死の兆候が早過ぎる」
 教授は「死ぬ1時間前に『薬を飲み間違えた』と周りに語っており、すっきりしない一件だった」と、筆者に対し毒殺を否定しなかった》

暗殺を認める法律

 ロシアの石油は今、露諜報機関やマフィアが牛耳る「危ない利権」だが、70年代のソ連には石油不足に悩む西側への外交カード。安全保障では同盟する日米が、石油獲得ではソ連にすり寄り対立する「もっと危ない利権」だった。その最前線で、室井はソ連コネクションを駆使、石油獲得を狙い失敗した。


米国諜報機関の犯行とも推定できるが、ソ連の毒殺史も年季が入っている。米国は第二次世界大戦(1939~45年)中、末期がん患者の1人に210を水に溶かして与え、4人に注射を打ったが、6日間生きた1人を除き、微小な投与で極短時間で死亡した。核爆弾開発《マンハッタン計画》に携わる関係者の生命に関する影響を検証する人体実験とみられる。ソ連は1920年代に《毒物研究所=第12号研究室やラボXの別称アリ》を創設。ドイツ軍捕虜に210を服用させる人体実験を行ったようだ。近衛文麿・首相(1891~1945年)の長男・文隆氏(1915~56年)も毒殺したとされる。ソ連側公表の「動脈硬化を発端とする脳出血と急性腎炎」は、到底信じ難い。戦後11年もの間、過酷な抑留・拷問に耐え、協力者要請を拒絶した若くハツラツとした貴公子が、敗戦・占領で虚脱した日本の指導者に迎えられる→生気を取り戻した日本に、ソ連収容所の表裏を知り尽くす首相が誕生…。こうした構図はソ連にとり最悪だった。「一服盛った」との有力観測は、この辺りより浮上する。


露議会は2006年、反露分子やテロリストの暗殺を認める法律を通過させた。半年もしない内にリトビネンコ氏は暗殺された。もっとも、通過前にもロシアやソ連が絡む毒殺事件は少なくなく、法律など無用だろう。

 210はウランの330倍強い放射線を出し、1グラムの摂食・吸引で1000万~1億人を殺戮できる。当然、リトビネンコ氏の内臓はズタズタだった。「見せしめ」にはもってこいの、人間の所業とも思えぬ残酷さではないか。

《維新嵐》 リトビネンコ氏は気の毒ですし、そこまでひどいことをしなくても、とは思いますが、そこまでしてでも守りたい、知られては困るような機密事項漏洩に関わっていた、ということでしょうね。

甘利元経済再生相の秘書口利き疑惑は、中国によるTPP妨害工作の一環ではないのか?!

政府が極秘に調査

2016.2.20 08:00更新 http://www.sankei.com/premium/news/160220/prm1602200020-n1.html

甘利明前経済再生相の事務所不正疑惑に関し、政府機関が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の妨害工作として海外諜報組織の関与がなかったどうか極秘に調査を開始した。TPPが動き出すと不利益を被る中国の関与が黒幕として疑われていて、“スパイ天国”と呼ばれる日本の問題が思わぬところに波及している。世界が政治、経済、安全保障で各国と密接につながる中、日本国内での諜報員による妨害工作への懸念も高まっている。
 政府関係者は「千葉県の建設会社が道路新設工事をめぐる補償交渉で、甘利氏側に金銭提供などの動きを強めてきた時期がTPP交渉の大詰めを迎え、2月の協定署名に向けた時期と重なる」と指摘する。
 日米が主導したTPPは新たな世界の経済ルールとなる見込みで、「経済覇権で軍事拡大を含めた国力増強を目指す中国にとってTPPは不都合だ」と語る。
 また、今回の疑惑で「建設会社の総務担当者が甘利氏側とのやり取りを告発したことは、建設会社の経営にも大きなダメージが出る可能性も高い」と告発の狙いをいぶかる声もある。
 このため日本政府機関が、外国諜報員によるTPP締結への妨害工作で建設会社側に関与がなかったか内密に調べるという。
 TPP交渉筋は、「そもそも日本国内は各国機関が自由に行動できる状態で、中国など多くの諜報員が派遣されている」と交渉内容を漏らしてはいけない立場から警戒感を強めていた。


日本政府は、英米のような英秘密情報部(MI6)や米中央情報局(CIA)などの組織を持たず、日本国内での対応も重視してこなかった。
 外国の犯罪組織に関しては警察や公安調査庁が対応できるものの、大学研究者や企業職員などの肩書で身元を伏せながら活動する諜報員への対応は甘いと指摘されている。
 一方、各国の経済政策はグローバル市場が浸透するなかでそれぞれの通貨や株価市場に影響を与える。

 加盟国の国内総生産(GDP)で世界の約4割を占めるTPPのような大規模ルールでは、各国の思惑が複雑に入り交じり、利害も対立する。
 交渉国間での情報戦は当たり前で、日本政府も交渉相手からの盗聴についても警戒しながら協議やミーティング、連絡など行っている。
 また、交渉外にいる国が協議状況の内密に把握し、時に阻止に向けた対応を検討することも通商交渉や国際協定において驚くことではないという。
 日本政府は昨年12月に海外で国際テロ関連の情報を収集する「国際テロ情報収集ユニット」を立ち上げたが、国内で暗躍する外国諜報員への対応も急務となっている。

《維新嵐》 甘利氏の閣僚辞任は確かに作為的なものを感じていましたが、年始の国会の直前でTPPの署名式を控えてのことでしたし、当時、経済再生大臣でTPP交渉の全権を任されていた甘利氏は「反対勢力」からすれば、落としやすいポジションでしょう。
ですが、これらは、大臣を辞任させるには、意味としては弱いかと思います。
共産中国の工作員が甘利氏辞任の関わった可能性があれば、野党である民主党の国会へむけての布石とみれなくもない。
目標を確実に達成しておいて、当事者は知らん顔でいられるのが情報戦の強みですし、何より中核から攻められますね。外国の工作員ならその国の国益が絡んでくるわけですが、我が国もヒューミントによる情報戦を駆使できるだけの法律は、やられてばかりの国なので急務ということは確実にいえますね。


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