2015年9月14日月曜日

共産中国の海洋権益拡大の先兵・海上民兵 ~漁船団の実態とその戦略性~

中国の擬似海軍を担う漁船団
岡崎研究所

20150910日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5322
 米海軍大学のクラスカ教授が、2015810日付Diplomat誌ウェブサイトで、漁業をする漁船は国際法上捕獲できないので軍事的目的を持って行動する中国漁船は米軍などによる対応、決定を一層難しくする等課題を突き付けている、と述べています。
 すなわち、中国は漁船を海洋民兵網に組織化して、疑似海軍の機能を果たさせている。これら漁船は中国海軍の廉価な援軍になっている。これらの漁船は、大規模な数や広い活動範囲などのため、戦場の状況を複雑化し、相手側の決定過程を鈍らせ、海洋紛争での中国に対する対応をより慎重にさせるなど相手に政治的ジレンマを課している。また、深刻な法的問題も提起している。
 漁船民兵は、軍の船と民間の船との間の伝統的な境界を曖昧化する。海洋戦争法により漁船は攻撃や拿捕から保護されているが、中国漁船の場合、軍の目的を持っているのかどうかを見分けることは不可能である。漁船が戦域にいること自体が厄介なジレンマを惹起する。
 漁船を海軍の補助部隊として使用することは国際法に違反する。国際人道法の基本原則は、民間人や民間のものは武力攻撃から保護されるというものであり、そのために軍か民間かは峻別されている。中国の海洋民兵は、漁船と海軍との間の境界を曖昧にする。
 中国は世界最大の漁船団を保有し(約20万隻)、関連従事者は約1400万人に上る(世界の25%)。この巨大な集団が南シナ海や東シナ海で中国の戦略目的推進のために動いている。漁船は1974年の西沙諸島侵入の事例や米軍調査船の通行妨害に関与した。20085月には浙江省近くで中国漁船が弾薬と燃料を軍艦2隻に供給した。このように、漁船組織は中国艦船への兵站支援も行う。
 漁船員は、政府の軍事訓練や政治教育を受ける。漁船には最新の通信機器やレーダーが搭載され、人民解放軍海軍を補完するとともに沿岸警備隊などとの相互運用能力も持っている。多くの漁船は衛星航行機器を搭載、船舶位置情報等海洋諜報を軍に報告している。
 軍事活動をする漁船は武力紛争の際には合法的な攻撃目標になりうる。漁船使用の問題は、中国の法律上の概念や手続きの悪用の例を示すものだ。それは国際法の隙間を悪用するものであり、国際法の下で保護されるべき民間人を危険にさらすことにもなる。漁船は保護されるべきという国際法は、米軍などの運用に大きな制約圧力となっている。漁船を攻撃すれば、中国は、それを契機に相手の戦意を喪失すべく大々的な政治、外交宣伝に出るだろう。

漁船民兵は米国などにとって運用上の問題を提起しており、そのために艦艇や潜水艦、特にドローンなど兵力構造の拡大が必要になっている。中国が漁船民兵と海軍との統合を一層進めるのに伴って、漁船と軍の船舶の間の境界は益々ぼやけてきている、と論じています。
出典:James Kraska,Chinas Maritime Militia Upends Rules on Naval Warfare’(Diplomat, August 10, 2015
http://thediplomat.com/2015/08/chinas-maritime-militia-upends-rules-on-naval-warfare/
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 これは、非常に有益な記事です。中国が漁船を海軍の補助部隊として組織化していることの実体と、それが提起する問題点を明らかにしています。国際法は、漁船は攻撃や拿捕から保護されると定めていますが、中国の多くの漁船のように軍事的使命を持つ漁船にどう対処すべきかは、漁船の区別がつけがたいこともあり、軍の運用上大きな制約となっているようです。クラスカは、この問題のため米の兵力構造を見直し、潜水艦やドローンなどの増強が必要になっていると言っています。
 中国の漁船は日本にとっても他人事ではありません。20109月の尖閣諸島海域における中国漁船の海保船舶への衝突事件や、2012年の香港漁民による尖閣上陸事件を見れば、中国漁船の行為が如何に組織化されたものかが分かります。2014年秋には小笠原諸島海域での中国サンゴ船の大量密漁事件がありました。サンゴ獲得という経済目的は確かにあったのでしょうが、漁船民兵組織の運用試験という側面もあったのではないかと思われます。
 中国の行動は非常に厄介です。漁船の利用により、中国が国際法の隙間を突き、漁船と軍艦船の区別を曖昧にすることで、「法律戦」を推進しているのです。中国の法律上の行動と、領土問題の白黒をつけて欲しいと国際海洋裁判所に訴えているフィリピンの法律的な行動は全く異なるものです。また、漁船の軍事戦略への統合は、中国共産主義の戦争観の伝統が色濃く残っていることを示してもいます。
 このような中国の漁船には警戒していくことが必要です。海保や自衛隊など、政府においては、中国漁船に対する具体的な対処ルールや国際法の考え方を不断に整理し整備して置く必要があります。また、中国の漁船の行動につき研究することも重要です。更に、我が国を含め中国との協議において、漁船に軍事的使命を与えるべきでないことを継続して提起していくことが重要ではないでしょうか。国際的な規範は守るべきものであり、悪用すべきものではありません。国際的規範は、中国が言うような西洋社会が作ったルールというよりも、いみじくも1900年の米国の最高裁判決が述べるように、「文明国」の一般的な合意によるものだ、ということを中国に主張していかなければなりません。
《維新嵐コメント》共産中国の漁船の軍事戦略での利用は、第二次大戦での国民党軍が日本軍に対して行ってきた戦法そのものです。いわゆる「便衣兵」戦法。
 民間人の恰好した兵士が、突然攻撃してくる恐怖の再現ですね。

こうした国際法を無視した戦術を行える国に対してどう対処すべきか、日本人自らが国家観、戦略観を身につけていかないとまた「泥沼の戦争」に巻き込まれそうですね。


《共産中国の海洋戦略に対する我が国の対処》

【民主党政権編】中国船の衝突映像・隠し続けてきたのは誰か?
2014.2.17 03:16更新 http://www.sankei.com/politics/news/140217/plt1402170020-n1.html

沖縄県の尖閣諸島沖で平成22年9月に発生した中国漁船衝突事件をめぐり、政府は海上保安庁の巡視船に漁船を体当たりさせた中国人船長に対する損害賠償訴訟を起こすとともに、衝突映像を一般に公開した。
 映像は海保が撮影したもので、当時の民主党政権は刑事訴訟法上の証拠に当たることを理由に公開を拒み続けた。遅きに失したが、政府の責任で公開した意味は大きい。
 昨秋の臨時国会で成立した特定秘密保護法には、秘密の範囲を限定し、恣意(しい)的な隠蔽(いんぺい)を防ぐ役割もある。衝突映像が「特定秘密」に当たらないことは、安倍晋三首相も明言していた。
 特定秘密とは、国と国民の安全を保障するためのものだ。外国から提供される軍事、外交、テロ情報や、自衛隊や日米共同の作戦計画、戦闘機や潜水艦などの国益を左右する装備情報の流出は防がなくてはならない。
 一方で、政権の都合で国民が知るべき情報を隠匿することは許されない。ようやくの公開ではあるが、このことが明白になった意味は小さくない。
 事件は、不可解なことだらけだった。海保が逮捕した船長を、那覇地検は「今後の日中関係を考慮する」などとして処分保留で釈放した。当時の仙谷由人官房長官は「地検の判断なので、それを了としたい」と語り、船長は大手を振って凱旋(がいせん)帰国した。


船長の釈放によって事実上、処分は起訴猶予しかなくなったが、いつまでも処分がないまま、初公判前の証拠公開を禁じた刑訴法を理由に、衝突映像はずるずると秘匿され続けた。
 義憤に駆られた元海上保安官が匿名で映像を動画サイトに流出させると、これを「由々しい事態」と指弾する仙谷氏を中心に、民主党政権で情報漏洩(ろうえい)防止のための法整備が検討された。
 有識者会議は「最高懲役10年の罰則を盛り込んだ秘密保全法制を早急に整備すべきだ」とする報告書をまとめたが、法案提出には至らなかった。
 特定秘密保護法の成立過程で民主党が「政府が恣意的に秘密の範囲を広げることができる」と批判したのは皮肉である。恣意的に映像を隠したのは誰だったか。
 改めて見る映像には、中国漁船の海保巡視船に対する犯意が、明白に映し出されている。

尖閣諸島中国漁船衝突事件・政府公開概要版ビデオ
2011/08/10 にアップロード
すべては民主党政権の「事なかれ」に抗議して海保職員一色正春氏の動画投稿から始まりました。

日中の緊張を高める中国の3つの動き
岡崎研究所

20150911日(Frihttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5323
 米アジア太平洋安全保障研究センターのジェフリー・ホーナン准教授が、National Interest誌ウェブサイトに812日付で掲載された論説にて、中国の最近の行動により、東シナ海における日中間の緊張が高まり得る、と警告しています。
 すなわち、尖閣をめぐる日中間の対立は目新しいものではないが、以下の三つの出来事により、緊張が強化され得る。
 第一は、中国による大型沿岸警備艇の造船である。2013年の海警の設立以来、沿岸警備艇は、中国の海洋への主張を追求するためのカギとなっており、多くの新しい船を就役させている。特に重要なのは、2隻の世界最大の総排水量1万トンに達する高耐久性巡視艇で、これらは火器を搭載でき、2機の多目的ヘリを艦載できる。1隻目は中国海警2901として完成し、2隻目は最終工程にある。
 第二は、中国が尖閣の近辺に2つの基地を作る計画であると報じられていることである。中国海警は、島への巡視能力を高めるべく温州市に基地を建設することを検討しており、同基地は、航空機・ヘリの巨大な格納庫、訓練施設、海警2901を含む6隻の船を係留できる桟橋を備えるとのことである。さらに、中国軍は尖閣から300キロのNanji島に大規模な基地を作ろうとしている、と報じられている。
 第三に、現在東シナ海において、16基の中国の施設が、沖合の石油とガスの開発に従事している。12基は、2012年以降に作られている。2008年に日中は東シナ海での資源の共同開発に合意したが、掘削リグ設置は中国の一方的な行為を示しているとして、日本は抗議している。中国側は、これらの施設は日本が主張する中間線より中国側にある、と言うが、日本側は、中国が日本のEEZ下の資源にまで手を伸ばしているのではないかと日本は懸念している。
 これらの三つの出来事は、二国間の力学を変化させ得る。新しい巡視艇は、中国海警を強化し、沖合での「権利保護」活動、小さな船舶の排除を可能にさせる。さらに、巡視艇の武装は、海警が他の船に攻撃的行動をとる用意があることを示唆する。これは、日本の海保を苦境に立たせる。海警2901の挑戦を受け海保の艦艇が退却すれば、日本にとり悪い前例となり、断固たる対応をすれば、同盟上の義務を通じて米国を紛争に巻き込み得る。
 新しい基地は、中国の尖閣に対する偵察能力を強化する。二つの基地は、沖縄に駐留している米日の軍よりも尖閣に近い。中国は、軍と沿岸警備隊を日本の実効支配を試せる位置に置こうとしている。日本が中国のプレゼンス増大に対抗すれば、偶発的衝突や摩擦の危険は高まる。日本が現在の水準で活動を続けるならば、中国に後れをとり、尖閣への実効支配が危うくなりかねない。
そして、東シナ海における中国の石油・ガス開発施設は、新たな海洋紛争を引き起こし得る。中国が今の活動を停止する可能性は低いが、対抗して日本が中間線の日本側で資源掘削を始めれば、関係は急速に悪化しよう。日中双方に、各々の施設を守るべく、軍と沿岸警備隊の展開を強いることになり、空海でのイタチごっこを尖閣周辺からさらに北方に拡大させる。
 これらは全て、地域の安全保障にとり良い兆候ではなく、米国も巻き込まれかねない。いずれかのシナリオが起これば、米国には大変な難問がつきつけられることになる。小さな無人島を守るために軍事的アセットを用い、中国との大規模戦争の危険を冒す用意があるのか。それとも、中国との紛争を避けるために、日本との同盟を犠牲にして、世界中への米国のコミットメントに対する疑念を招く用意があるのか。この問題への容易な答えは無いが、東シナ海での展開には注意を要するという重要な点が浮き彫りになっている、と論じています。
出典:Jeffrey W. Hornung,Get Ready: China-Japan Tensions Set to Flare over East China Sea’(National Interest, August 12, 2015
http://www.nationalinterest.org/feature/get-ready-china-japan-tensions-set-flare-over-east-china-sea-13557
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 中国の戦略は、論説が指摘する、12機の多目的ヘリを艦載できる大型沿岸警備艇の造船への着手、2)尖閣の近辺の温州市とNanji島に基地を作る計画、3)東シナ海での沖合の石油とガスの開発、の諸措置により、日本に圧力を加え、日本の対抗意識を削ぐことにあると思われます。中国がこれだけの措置を取り、日本が沿岸警備を一層強化するなど対策を講じれば、緊張は当然高まります。ただ、米国は再三尖閣には日米安保が適用されると述べており、中国は米軍の介入を招くような軍事行動を取ることは考えにくいでしょう。そのような明らかな軍事行動に至らない程度の挑発行動により、日本の反応を探り、日本が少しでも躊躇するようなことがあれば、既成事実を広げることに努めることになると思われます。
 日本は尖閣については一歩も譲らない姿勢を堅持し、沿岸警備体制の強化に努めています。日本国内には、日本が毅然とした態度を示せば、緊張が高まるとの批判が出る可能性はありますが、そもそも緊張を高めているのは中国であり、それに対応することは、何ら批判されるべきことではありません。
 日本政府は、中国が東シナ海で行っている、または行おうとしていることを、国内外で周知徹底させ、中国が緊張を高めていることに対する内外の理解の増進と啓発に努めるべきでしょう。


【山田吉彦】尖閣問題の盲点と今後[H24/8/7]
2012/08/08 に公開
 石垣市海洋基本計画策定委員長 及び、東京都専門委員として、尖閣諸島の購入と調査、実効的な管理の在り方など、尖閣諸島に関する海洋政策に携わっておられる東海大学教授の山田吉彦氏をお迎えし、国境や領土に対する国民の意識に高まりは見えるものの、尖閣諸島の主だった島々以外の岩(沖の北岩、沖の南岩、飛瀬など)の管理状況が影響しかねない思わぬ国境の線引きや、それらの岩を中国に獲られてしまった場合に起こり得る、日本が東シナ海を失うという事態など、日本が今まさに直面している危機的状況などについて、お話を伺います。

関連リンク:中国の尖閣への動きに、日本がすぐに実行すべき5つの対策~「中国を刺激するな」論の欠陥 古森 義久 2012-07-25 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

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