2015年9月1日火曜日

問われるアジア太平洋での「対中抑止」戦略 ~アメリカは共産中国に勝てるか?~

軍拡を進める中国 今や小さくなり過ぎた米海軍
岡崎研究所 

20150729日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5189

 2015625日付のナショナル・インタレスト誌のサイトに、米下院軍事委員会の海軍・在外米軍問題小委員会議長のRandy Forbes議員と、かつて上院軍事委員会の海軍問題小委員会議長を務め、現在はアメリカン・エンタープライズ研究所で上席研究員を務めるJim Talentが連名で寄稿しています。二人は、オバマ政権は「アジア重視」と言いながら海軍増強を怠っており、この20年間急速な軍拡をはかってきた中国がアジア地域での優位性を築き、自分の意志を周囲に押し付けつつあるので、米国は早急の海軍増強が必要である、と述べています。
 すなわち、オバマ政権のアジア重視政策は、中国の拡張主義を阻むことに失敗しつつある。中国は軍拡を急速に進めており、米国とそのパートナー諸国が足場を強化しない限り、東シナ海及び南シナ海における強圧的な戦術を取り続けるだろう。
 2012年、中国はフィリピン沖のスカボロー礁の実効支配権をフィリピンから奪い、現在同様の戦術をトーマス礁で繰り返している。そして、日本が実効支配する尖閣諸島を海上保安艦艇で埋め尽くし、その周囲を海軍で固めている。中国は東シナ海の大部分を防空識別圏と宣言し、同様なことを南シナ海で繰り返す構えでいる。
 中国はこれら敵対的行為についての交渉を拒絶し、公海やその上空に中国の絶対的な主権を主張して、外国艦船、航空機を脅かしている。
 この背景にあるのは、最近20年にわたって中国が米国から技術を盗みつつ築いてきた軍事力である。その近代的な海軍は300隻の艦船を数え、航空機は数千、近代的な諜報・偵察システム、対人工衛星作戦能力、高度のサイバー戦能力、膨大な量の長距離対艦巡航ミサイル・弾道ミサイルを有し、このほぼ全てを東シナ海と南シナ海に集中し得る状況にある。
 中国は、地域における軍事的優位を築きつつあるので、軍拡を止める必要性も感じておらず、周辺諸国や米国には中国の要求を呑むか、負け戦をするかの選択を迫ることができるようになりつつある。
 米国は、指導力を発揮して、この地域の諸国を団結させ、自らの軍事プレゼンスを中国への抑止力として提供しなければならない。ところが、今のところ、2500名の海兵隊を同地域に移したこと、2020年までに艦船配備を67隻とすることを決めたのみであり、力を誇示するより、弱さを暴露している。しかも、軍事予算削減を続けるなら、米海軍は現在の272隻から250隻程度に縮小してしまうのである。
 米海軍将兵の能力は中国より高く、潜水艦作戦能力でも上回る。しかし中国はこの面での弱さを自覚して、追いつこうとしている。

今や米海軍は小さくなり過ぎ、アジア太平洋地域に必要な兵力を提供できるようになるには何年もかかる状況にある。この傾向を直すのは容易なことではなく、時間も費用もかかる。しかし実行しなければ、西太平洋でのリスクは高まるだろう。今、努力を開始しなければならない、と述べています。
出 典:J. Randy Forbes & Jim Talent Americas Pivot to Asia : Why Rhetoric Simply Isnt Enough (National Interest, June 25, 2015)
http://nationalinterest.org/feature/americas-pivot-asia-why-rhetoric-simply-isnt-enough-13186
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 ワシントンでは、南シナ海での埋め立てを契機に、中国への警戒感が急速に高まっているようで、本件論評もその一つです。上記論説は、議会両院の軍事委員会の小委員会議長と元議長の連名で書かれたものであるだけに、議論の基調を設定する意味を持ちます。
 中国軍の実力の程度については、やや過大評価している面もあるかもしれません。米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」の報告書では、中国軍は、、統合運用、兵站能力、対潜作戦、近代兵器と在来型兵器の統合運用、近代兵器の操作人員不足等の問題を抱えていると言われます。
 中国海軍は、北海、東海、南海の3艦隊に分かれています。このうち、北海艦隊は天津・北京入口の防衛専用と見られることから、日本に対して用いることのできる海上兵力は東海艦隊のみです。南海艦隊も、対潜能力で劣るため、潜水艦に対して非常に脆弱です。東アジア・西太平洋地域における米軍のプレゼンスは、例えばウクライナをめぐる米軍のプレゼンスよりは比べ物にならないほど大きいので、中国軍がこの地域で優位に立つ状況にはなっていません。
 9月に習近平国家主席の訪米が予定されているため、米中関係がこのまま政府レベルでも対決基調になっていくのかどうかは、まだわかりません。しかし、中国経済の成長鈍化が進む中、米国が対決姿勢を強めれば、中国は経済不振の中で軍拡競争を米国に強いられて自滅したソ連の二の舞になりかねません。

 中国では、習近平政権が指導権を確保したと見られること、9月に訪米を控えていること、経済不振の中で周辺諸国と対立するのは望ましくないことから、日本、ASEAN諸国等に対して関係を改善しようとする動きが見られます。日本には、米国に逆らってでも中国との関係を進めるよう求める声が出てくるかもしれませんが、そのようなことをすれば、米中関係が好転した時、日本は米中双方から疎外されかねません。日中関係修復は、自己目的ではなく、米国と十分調整しつつ進めていくべきものでしょう。
今のところ優位にたつアメリカ海軍

 アメリカが西太平洋、南シナ海、東シナ海において共産中国の「侵略」を抑止して自国の権益を維持していくためには、同盟国との政治、経済、軍事の面での「パートナーシップ」が絶対不可欠になります。政治的な隙、空白が生じれば生じただけ共産中国の浸食を招くでしょう。しかも新しい戦争のスタイルでの戦いが主流になりますし、すでにこうした戦いは始まっています。
 「国境のない戦い」にいかにアメリカが対処できるか、オバマ大統領が世界の警察をやめます発言をしても冷戦時代からアメリカの軍事力の影響下で独立を担保してきた国は、そう簡単に「はいそうですか」とはいかないんですよ。
中国の影響力拡大が米豪同盟に影を落とす

岡崎研究所

20150831日(Monhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5290


2015717日付のオーストラリアン紙に、マイケル・グリーンやピーター・ディーン等、米国と豪州の安全保障専門家達が連名で、論評記事を寄稿し、中国の台頭と米豪同盟の課題に関して述べています。
画像:iStock
 すなわち、中国の台頭は地域経済のエンジンとして大きな恩恵をもたらした。中国は豪州にとって最大の、米国にとって2番目の貿易相手国である。しかし、中国の台頭に伴うリスクも明らかである。軍の近代化の推進は地域的な軍事競争の懸念を生んでいる。小国を力で脅迫している。東シナ海、南シナ海における圧力は地域の緊張を高めている。この「アジアのパラドックス」、即ち経済的な協力と安全保障上の競争が並行して進行している事実は明白である。太平洋の米国の同盟国は今や米国より多くを中国と取引きしているが、他方この地域の殆どの国は中国中心の秩序よりも米国主導の秩序を好ましいものとしている。
 豪州の政治家は、このパラドックスがこの地域における米国主導の同盟システムの終焉の前兆であるのかを議論している。米国は中東と欧州に注意を奪われていることや、米中間の紛争の罠に豪州が陥ることを心配する向きもある。この心配は少なくとも2004年、ダウナー外相がANZUS条約における豪州の義務は台湾海峡の有事には及ばないと述べ米国を驚かしたときに遡る。2014年にはジョンストン国防相が同様のことを東シナ海について述べた。要するに豪州には米国によって罠に陥ることを心配する向きがある。
 一方、米国では、将来の中国との緊張の事態において豪州に見捨てられるのではないかと心配する向きがある。豪州の2013年の国防予算が、対GDP比で、1938年以来最低の水準となった時、米国の懸念は大きくなった。豪州での議論を見て、アジアにおける最も信頼に足る同盟国として日本が豪州にとって代わるのかと問う向きもある。この豪州における罠の心配と米国における見捨てられることの心配が同盟の管理にとっての主要な課題である。
 この傾向はこれまでの流れの逆転を意味する。豪州はその歴史を通じて主たる同盟国、英国や米国に見捨てられないことに神経を使ってきた。第1次世界大戦以来の全ての主要な紛争において、米軍とともに戦ったのは、英米両国が豪州の犠牲を記憶し、いざという時に援護してくれることを確かなものにしたかったからである。また、米国も豪州の支持を心配したことはなかった。
 米豪同盟の緊張は表面化している。それは中国の行動によって地域紛争のリスクが高まっているからである。今日、同盟は必要なのかと問う向きがある。こういう議論はそれぞれが置かれた状況の違いにもよるが、中国に対する共有された戦略が欠如していることにもよる。
 しかし、現下の状況は、同盟の重要性を増すものである。米豪同盟は底深く不朽である。当面、次の3分野を優先分野として示唆したい。

第1は、米豪は域外で協力することはあっても、インド洋・太平洋を引き続き焦点に据えるべきである。
 第2は、米豪同盟は、アジアの地域的秩序と構造の中心的ハブとして日本、インド、インドネシアなどの同盟国、パートナー諸国を結びつける役割を担うべきである。
 第3は、米豪同盟は、特に中国によって突き付けられた海洋に係る挑戦に対応する上で主導的役割を果たすことに焦点を当てるべきである、と述べています。
出 典:Michael Green & Zack Cooper & Peter Dean & Brendan Taylor Chinas ascent: the challenges facing Australia and the US’(Australian, July 17, 2015


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 米豪同盟の現状を知る上で良質な論評記事だと思います。
 米豪同盟に緊張が存在するとされていることには些か驚きを覚えます。豪州が米国の制止を振り切ってAIIBに参加を決めたことが1つの背景なのかも知れません。それにもまして、中国の台頭に直面しているこの時期に、米豪同盟が必要なのかと問う声が豪州にあるということは驚きです。我が国の状況を見ると、むしろ当然のように日米同盟の強化に動くことには大方の支持があると思われ、この時期に日米同盟が必要なのかを問う声はないと思います。両国の置かれた状況の違いから来ることでしょうか。豪州にあるとされる「罠に陥る」という不安は我が国の「巻き込まれ」論を想起させますが、リスクは全て避けるというのでは同盟は成り立たないということでしょう。
 いずれにせよ、豪州は我が国にとって安全保障政策の重要なパートナーであり、米豪同盟を健全な姿に保つよう豪州には意を用いて貰う必要があります。その意味で、3つの提言は的を射たものです。

《維新嵐コメント》

※豪州にとっては、経済と軍事は表裏一体でありながらも別枠で考えていきたいという本音があるのではないでしょうか?
TPPに加盟しながらAIIBにも加盟するという点は、アメリカ主導になってしまったTPPが戦略的に利益を上げられないときの「保険」的な意味合いでAIIBを位置付けているのかもしれません。ただ日米と豪州では、民主主義・資本主義的な価値観を共有している点を考えるとやはり共産中国は、国家社会主義という点から豪州とは一線をひかざるをえないことから、今後の推移からAIIB脱退も視野に入っている可能性もある。軍事的には、共産中国の海洋覇権主義が拡大すれば、豪州の生命線である南シナ海の権益が完全に奪われることになるから、軍事面での連携は日米豪では、共有されていくことで問題はないであろう。


オバマ政権も海軍も 中国と波風を立てたくない米国
リムパックに再び招待?米軍と中国軍の関係がますます緊密に
北村 淳 2015.9.3(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44673
リムパック 2014 に参加した各国軍艦(写真:米海軍)

 安倍首相の「70年談話」が国内世論を考慮して中国側の予想より“トーンダウン”していたため、人民日報、環球時報などの英文ウェブ版を中心とした対米プロパガンダマシンも騒ぎ立てることができなかった。
 そこで、それらの中国英文メディアは「70年談話」の代わりに「抗日戦勝70周年パレード」の準備状況に関する話題を連日写真入りで報道しまくっていた。もちろんパレード開催後しばらくはパレード成功の模様を流し続けるものと思われる。
歴史を歪める中国の「抗日戦勝70周年」行事
「抗日戦勝70周年パレード」に関する宣伝報道に関しては、もちろん人民解放軍の動向を注視している米軍関係者たちの関心は高い。ただし、どの国の軍隊がパレードで行進するのか? どの国の政府首脳がパレードを観覧するのか? といった話題よりは、あたかも中国人民解放軍が日本軍を打ち破ったごときイメージを作り上げ、国際社会に定着させようとしている情報戦の進行状況に注目し、危惧しているのである。
 さすがに台湾では軍首脳などから、中華人民共和国が日本に勝利したようなプロパガンダに対して反発する声が上がっている。日本軍との正規の交戦主体は中華民国軍であって、抗日戦争時に中華人民共和国は存在していなかった。だが、国際社会における中国の強力な情報戦の前には、台湾からの正論は全く気にもかけられないといった状況だ。
 台湾軍部と同様に、太平洋戦争だけでなく大東亜戦争の経緯を学んだことのあるアメリカ軍関係者たちも、中国の「抗日戦勝70周年」には下記のように大きな疑義を呈している。
815日から92日(米国時間)に日本が公式に降伏した時点では、アメリカ軍が主導した太平洋戦域では日本海軍は壊滅しており、太平洋の数多くの島嶼守備隊やフィリピンの日本軍も完全に敗北していた。ビルマからインドにかけての戦線でも日本軍は壊滅していた。そして満州にはソ連軍が侵攻したため関東軍は壊滅し満州国は崩壊してしまった」
「しかし、中国戦線では支那派遣日本軍は敗北してはおらず、中華民国軍との間で膠着状態が続いていた。ただし、本国との補給を絶たれ、満州からもソ連軍が南下してくる状況では、支那派遣日本軍の命脈も長くは持たなかったであろう」
「もちろん日本という国家が連合軍に降伏したのであるから、中国戦線の日本軍も中華民国軍に結果的に敗北したことには変わりはない。しかしながら、日本軍の投降を受け入れたのは中華民国軍であって、中国共産党の八路軍でも新四軍でもない。人民解放軍は、連合軍から対日戦の勝利を横取りし、独り占めしようとしているようである」
 支那事変勃発以降の中国での戦争は、交戦主体が日本軍対中国軍というように単純な国家間戦争の様相を呈していないため、上記のようないきさつを知る人々は、英語圏では軍事関係者たちの間でも少数である。もっとも歪んだ歴史教育のせいで日本でも少数派かもしれない。
 したがって、中国政府が華々しく「抗日戦勝70周年パレード」をぶちあげて、「抗日戦勝」を繰り返し国際社会に向け発信し続けていけば、そう遠くない将来には、従軍慰安婦と同様に中国バージョンの「抗日戦争史」が世界の歴史のスタンダードになりかねない。
アメリカ軍と人民解放軍の関係はより緊密に
 軍事専門家たちだけではなく、政治家などの中にも「抗日戦勝70周年」プロパガンダに眉をひそめている人々は少なくない。そのため、さすがのオバマ“親中”政権といえども、政府高官を「抗日戦勝70周年パレード」に列席させるわけにはいかなかった。
 しかしながら、その代わりとしてスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官を北京に派遣して、習近平国家主席や人民解放軍首脳たちとの会談がとり行われた。アメリカでの国家安全保障担当大統領補佐官の位置づけと派遣のタイミングから判断すると、オバマ政権の中国重視ぶりが如実に示された出来事である。
 ライス大統領補佐官は、中国による南シナ海での人工島建設やアメリカに対するサイバー攻撃などに懸念を表した。それに対して習主席は、中国もアメリカもそれぞれの「核心的利益」を尊重しあい、両国間の意見の相違を縮小し、大局的立場で両国関係を発展させるように提案した。
 要するに、良好な米中関係の維持は最大限に重視しているものの、「核心的利益」すなわち南シナ海問題と東シナ海問題では妥協する気がない旨を改めて表明したのだ。
一方、ライス長官と人民解放軍首脳との会合では、アメリカ軍と人民解放軍の関係をより緊密にすることが確認された。両軍が相互理解を深め、互いの違いを認識することで、とりわけ海軍や航空戦力の間における思わぬ誤解に基づいた軍事衝突が避けられ、両国関係の安定に寄与することになる。そのため米中両軍は、より一層首脳レベルでの密接な交流や、共同訓練などの様々な形での軍事交流を推し進める、ということで合意した。
米海軍首脳部はリムパックへの中国海軍の参加を容認
 ライス補佐官が中国指導部と「米中間の新たな軍事交流の推進」を確認し合っていた頃、アメリカでは海軍作戦部長(アメリカ海軍における軍人のトップ)のグリーナート提督が、人民解放軍海軍(以下「中国海軍」)トップとのビデオ電話会談でのやり取りを語った。
「中国海軍は、強くリムパック(RIMPAC:環太平洋合同演習)2016への参加を望んでいるようである。米海軍は中国海軍との間で、互いの誤解にもとづく衝突を防止するための様々な努力を重ねてきている。今後もそのような努力を続け、中国海軍や中国海警とアメリカ海軍との間に不測の事態が起こらないようにすべきである」
 このように提督は、暗に米海軍首脳部はリムパック2106への中国海軍の参加を容認するような発言をした。
 リムパックとはアメリカ太平洋艦隊が主催してアジア太平洋地域の海軍や海兵隊などが参加して行われる“世界最大規模”の海洋軍事演習である。2年ごとにホノルルを中心としたハワイ海域で行われており、日本は1980年以降毎回参加している。昨年のリムパック2014には中国海軍が初めて参加し各国海軍の注目を集めた(本コラム「リムパックで特等席を与えられた自衛隊『いせ』」参照)。

リムパック 2014 パールハーバーに停泊する各国軍艦、手前は海上自衛隊「いせ」
中国海軍を「二度と招待するな」という声
 しかしながら、太平洋艦隊や太平洋海兵隊などリムパックのホスト部隊では、依然としてリムパック2016に中国海軍を招くことに反対する意見が多い。
 昨年のリムパックでは中国海軍は演習に参加する艦艇以外にも情報収集艦を演習海域に派遣し、米海軍空母をぴったりマークするなどしてスパイ活動を展開した(本コラム「ホノルル沖に出現した招かれざる客、中国海軍のスパイ艦『北極星』」参照)。そのため、当時の太平洋艦隊司令官ハリス提督(現在は太平洋軍司令官)をはじめとする主催者側は、国際信義にもとる行為と中国を批判した。また、米連邦議会でも中国封じ込め派の議員たちから「友好国の海軍合同演習には二度と人民解放軍など招待すべきではない」という声が上がった。
 アメリカ海軍の“中国招待反対派”の人々は、アメリカ政府のみならず海軍首脳部も中国招待に傾いていることに失望を隠せない。そして、次のように反発を強めている。
「確かに海軍軍人、とりわけ海軍首脳にとっては、他国海軍との“予期せぬ衝突”を何としてでも避けたい、というのは職責上当然のことである。したがって中国海軍も含めてCUES(アメリカ、日本、中国などを含むアジア太平洋地域21カ国の海軍間で合意された取り決めで、海洋上での予期せぬ軍事衝突を防止するための行動指針)を締結し、さらにそれに中国海警をも取り込んで、南シナ海でアメリカ海軍が中国側と不測の事態に陥らないよう努力しているのは理解できる」
「しかし海軍作戦レベルで考えると、リムパックは自衛隊のような同盟軍や友好国の海軍が集まって共同作戦の指揮統制を身につける貴重な場である。海軍行動の指揮統制をある程度共有する訓練は、まさに“親密な友人”だけの間の訓練でなければならない。そのような場に、中国海軍を加えて、将来の不測の事態を回避しよう、などというのは本末転倒と言わざるをえない」
 また、対中強硬派のフォーブス議員などは、「リムパック2014への中国海軍の参加や、その後の米中両軍の相互交流の努力などによっても、中国エンゲージメント(取り込み)政策などは全然進展していないではないか!」と、中国をリムパック2016へ招待することには強く反対している。
結局、中国海軍は参加することに?
 しかし、前述したようにライス補佐官と中国最高指導部との会談では米中間の軍対軍関係の密接な交流促進が特に強調された
し、9月下旬に国賓として訪米する習主席も、改めて人民解放軍とアメリカ軍の友好的関係の強化を話題にするはずである。
世界最大規模の多国籍間軍事演習であるリムパックに人民解放軍を招待することは、両国軍の関係緊密化を謳い上げるシンボルとしてこの上もない意味を持っている。
 何よりもリムパックに招待する海軍を最終的に決定するのは、太平洋艦隊司令官でもアメリカ海軍作戦部長でもなく、ホワイトハウスである。したがって、オバマ政権の判断は「結局呼ぶことになる」と考えている人々が多い。
日米同盟だけにすがりついていてよいのか
 日本では、安倍政権が「安全保障法制」を成立させ、また辺野古埋め立てを開始して、いわゆる普天間移設問題を解決することで日米同盟が強化されるとしている。日本政府には確固たる自主防衛戦略が欠落しており、そのような戦略を構築しようともしていない。そんな日本にとっては、日米同盟の強化、そして日米同盟にすがりつくことだけが、日本を中国などの軍事的脅威から守るための切り札と認識されているようである。
 しかしながら、アメリカは中国との間に直接領域紛争を抱えているわけではない。また、アメリカ(少なくともオバマ政権)にとっては同盟国である日本はもちろん大切であるが、同盟国ではなくとも軍事大国である中国は軍事的には日本以上に大切なのだ。
 そのことは、ホワイトハウスが「抗日戦勝70周年パレード」に政府高官は出席させない代わりにパレードの直前にライス大統領補佐官を習主席のもとに派遣したことや、アメリカ海軍のトップと中国海軍のトップがしばしばビデオ電話会談を実施して意思疎通を図っていること、などが物語っている。
 日本政府にとっては日米同盟“だけ”が国防の決め手であるかもしれない。しかし、アメリカの国防にとっては、日米同盟はあくまでも多数あるツールのうちの1つにすぎない。我々はそのことを肝に銘じておかねばなない。

《維新嵐コメント》
 アメリカはまず共産中国と全面戦争はもとより、局地的な武力紛争すらおこしたくない、考えられないことと認識されているように感じられる。
 そして人民解放軍は、海洋にでてこないように「抑止」する、その手段として「世界最強の」アメリカ海軍の軍事力、海兵隊の着上陸戦闘能力をみせつけておきたい、そのためのいい機会としてリムパックが位置づけられているように感じられるのである。
 おそらくアメリカは、日中戦争での最前線での戦闘局面が膠着化した大日本帝国の状況や朝鮮戦争でのアメリカ軍と中国人民義勇軍との戦闘状況も勘案したワシントン筋の判断であろうとことは想像に難くない。
 またこの要素が一番大きいかもしれないが、やはり経済の相互依存関係である。
しかしこれらの諸要素は理解できないでもないが、共産中国に演習中にスパイ活動による情報収集活動を許していいというわけでもなかろう。
 情報窃取という側面では、近年苛烈化するアメリカに対する共産中国49618部隊をはじめとするサイバー攻撃も存在する。
 情報戦、サイバー戦という新たな戦争概念ができている昨今において「交戦状態」にある「敵国」と海軍同士の共同訓練を実施して自国海軍、海兵隊の手の内をみせてしまうことについて懸念を感じるのは、軍事素人である私だけではあるまい。
 さらにリムパックはアメリカの同盟国も参加している。そのあたりの対策は手をうっているのであろうか?
 どうもリムパックの様子一つみてもホワイトハウスという政治の中枢と米海軍、海兵隊という軍事の現場との対中戦略観のズレが見え隠れする。そこを見透かされて中国共産党の「非対称戦」にからめとられなければいいのだが・・・。
 わが日本は、とにかく「北方領土」問題を解決して「日露平和友好条約」締結、日露安全保障条約を締結、日露2+2交渉を定期的に開催すべきであろう。
 不毛な意味のない官僚のプライドの尻ぬぐいのような悪魔のような「四島一括返還要求」は、政権与党が「命がけで」撤回し、ロシアと建設的な経済、軍事関係を構築していくべきである。それはプーチンの在任中がチャンスであろう。
 そして将来的には日米露のよる三国安全保障条約締結により極東の地域情勢を安定化させ、三国でサハリンやシベリアの経済投資、技術投資を進めていく戦略をとるべきである。
 日米関係強化だけでは、対中抑止にはならない。
リムパック2015



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