2015年7月25日土曜日

あくなき共産中国による「アジア太平洋覇権戦略」 ~アメリカ一極支配とどう戦うのか?~

米の中国分析のベテランが告白 「自分の対中認識は間違っていた」

岡崎研究所

20150612日(Fri)  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5033
アメリカ、ハドソン研究所中国戦略センターのピルズベリー所長が、今年(2015年)2月発刊の著書“The Hundred-Year Marathon Chinas Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower”において、中国は、2049年までに米国に代わって世界の支配国になることを目指している、と述べています。
 すなわち、米国は、中国を支援し続けていけば、中国が民主的で平和な国家になり、地域や世界を支配しようなどと考えないだろうと想定していたが、完全な誤りであった。我々は、中国内の強硬派の力を過小評価していた。強硬派は、中国建国100年の2049年までに経済、軍事、政治のすべての面で世界のリーダーになるとの計画(100年のマラソン)を有し、毛沢東に始まる歴代の政治指導者に助言することで、建国当初からそれを実施に移していたのだ。強硬派は、300年前の中国、すなわち世界のGDP3分の1を占める中国を復活させたいのだ。中国の強硬派は、天安門事件以降特に力を強めた。
 2012年以降、中国人は、「中国主導の世界秩序」をおおっぴらに議論し、「中華民族の再興」とともに同秩序が訪れると信じている。最近になって、中国人は、私及び米国政府を最初(1969年)から騙していたと実際に語った。これは、米国政府史上最大のインテリジェンスの失敗である。
 中国は、最初から米国を「帝国主義者である敵」と認識し、米国を対ソ連カードとして用い、米国の科学技術を吸収、窃取するつもりだったが、米国の中国専門家はこれに気づかなかった。中国政府は公式に多極化世界の実現を主張しているが、実際には、それは、最終的に中国が唯一の指導国となる世界に至る途中段階に過ぎない。米国は中国に多大の支援と協力をしてきたにもかかわらず、中国の指導者は、150年以上にわたり米国が中国を支配しようとしてきたと考えており、彼らは中国が米国を逆に支配するためにあらゆることを行うつもりである。彼らにとって世界はゼロ・サムである。
 このような意図を有していたにもかかわらず、中国は、欺瞞、宣伝、スパイ等を用いて、中国が後進国で、軍事的に不活発で、弱い支援対象国であるとの誤ったイメージを西側諸国の関係者に与え続けた。中国はまた、西側諸国内の中国専門家をモニターし、様々な手段で操作してきた。
 中国は、「暗殺者の棍棒」と言われる非対照戦力をもって米国の通常戦力を破る作戦を考えている。実際に、この非対照戦力は有効であり、ペンタゴンの戦争シミュレーションで米軍が初めて敗れたのはこの中国の非対照戦力に対してだった。
 中国は、高い関税を課して重商主義的政策をとり、国営企業に補助金を与え、天然資源を直接コントロールしようとしている。中国の国営企業は今でも国内GDP4割を占め、市場に反応するのではなく、中国共産党の指示に従っている。
2049年に中国主導の世界秩序の中で中国が望んでいるのは、個人主義よりも集団主義を重んじる中国の価値、民主主義への反対、米国に敵対する諸国との同盟システムなどである、と論じています。
 出典:Michael Pillsbury, The Hundred-Year Marathon Chinas Secret Strategy to Replace America as the Global SuperpowerHenry Holt and Company, 2015
* * *
 本書は、『100年のマラソン』というタイトルや、その内容が一般の感覚では俄に信じがたいものを含んでいることから、いわゆる浅薄な「中国脅威本」の一つであると捉えられかねませんが、そういう類いのものとは全く異なります。米国の対中政策の転換に影響を与え得る書物です。
 まず、著者のピルズベリーですが、1969年から、CIA、国防総省、米上院特別委員会等に勤務し、対中政策の基盤となる中国の対米認識分析や米国の対中政策選択肢提示を地道に続けてきた人物です。2006年頃までは、米国の対中関与政策を支持する「対中協調派」の中心的人物でした。本書の中でも明らかにしていますが、ピルズベリーは、ほとんどの対中国インテリジェンスや米国内の対中国政策をめぐる秘密文書にアクセスしてきています。本書の内容、主張は、ピルズベリーが直接入手した関係者からの証言や、これまでアクセスした文書に基づいており、その信憑性は高いと思われます。
 ピルズベリーのような中国分析の大ベテランが、「自分の対中認識は間違っていた。中国に騙されていた」と本書で告白したわけですから、本書がワシントンの中国政策に関わる政府関係者や専門家に与えた衝撃は大きかったようです。
 本書の影響はすでに現れているようであり、例えば、本年3月には、米国のシンクタンクである外交問題評議会(CFR)が『中国に対する大戦略の変更(Revising U.S. Grand Strategy Toward China)」という小冊子を発表しています。同冊子は、米中関係は、戦略的ライバル関係になるとの可能性が高いとの前提で、対中政策をバランシングに重点をおくものに変更しなければならないと提言しています。米国の対中政策は南シナ海での中国の人工島建設などにより、強硬化しているように見えますが、今後どう推移していくか注目されます。

 なお、ピルズベリーは、昨年9月にも、1949年以来西側の対中観が誤って来たのは西側が中国を希望的観測から見て来たからである、と論じた論説を発表しており、20141027日付本欄で紹介しています。
人民解放軍

世論戦、心理戦、法律戦の三戦で日本と戦う中

国―米華字メディア

201302071503http://news.livedoor.com/article/detail/7389956/
   米華字ニュースサイト・多維新聞は記事「釣魚島の主導権を奪取せよ、中国は日本に“三戦”を展開」を掲載した。中国は世論戦、心理戦、法律戦という3つの手法を通じて、国際世論を味方につける方針だという。

201326日、米華字ニュースサイト・多維新聞は記事「釣魚島の主導権を奪取せよ、中国は日本に“三戦”を展開」を掲載した。
 尖閣諸島をめぐる日中の対立が続いているが、これまでのところ双方ともに節度を保っていると言えよう。安倍政権は日中関係を依然として「最も重要な二国間関係の一つ」として位置づけており、公明党の山口那津男代表、村山富市元首相が相次いで訪中し日中関係改善のシグナルを送っている。しかし尖閣問題はいまだに緊張が続いたまま。中国は2013年、「世論戦、心理戦、法律戦」の三戦を軍の重要作戦として位置づけることになろう。

まずは世界レベルで展開される世論戦だ。201298日、中国政府旗下の英字紙チャイナデイリーはニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズに「釣魚島は中国の領土」という一面広告を掲載した。アフリカ、中南米、東欧でも同様の新聞広告を掲載しているほか、各国に駐留している中国大使はテレビや新聞を通じて中国の主権を展開している。

世論戦で築いた基礎の上に実施されるのが心理戦。昨年12月、中国国家海洋局の航空機が尖閣諸島付近、日本が主張する領空を飛行した。その後も中国の軍用機が日本が主張する領空に接近している。また、中国海洋環境監視観測船隊(海監)は船舶と航空機による立体巡視を実行。日本側の阻止により偶発的な衝突が起きるリスクは高まったが、それでも中国側は依然として巡視を継続し、自信を示している。さらに中国は法律や歴史的経緯、国際条約から見ても尖閣は自国領土だと主張する法律戦を展開している。

2012年上半期には中国とフィリピンとの間で南シナ海スカボロー礁(中国名は黄岩島)をめぐる対立があったが、その際、中国は世論戦で一定の効果を収めた。今回の尖閣問題でも国際的な慣例に従いつつ、国際社会の説得を続けている。事実をもって伝えるそのやり方は国際社会に問題の由来を理解させるとともに、中国に世界での発言権を与えるものとなった。(翻訳・編集/KT

講演「沖縄を狙う中国の世論戦、法律戦」 仲村覚氏


中国の「三戦」には「反三戦」戦略を
投稿者:Chief operator 投稿日時:2013/05/07(火) 00:00
http://www.seisaku-center.net/node/554

 尖閣諸島を巡って中国との間で一触即発の危機が続いているが、そうしたなかで中国の対日戦略として「三戦」戦略が話題になっている。
 「三戦」とは世論戦、心理戦、法律戦の三つを言い、専門研究(『陸戦研究』掲載の斉藤良論文など)を参考にごく簡単に言えば、内外世論の中国共産党と政府への支持を獲得し、一方で国際世論や相手の国内世論に工作して反中国政策を抑止するのが「世論戦」。「心理戦」は、恫喝や懐柔などによって相手の意志に衝撃・抑止・士気低下をもたらす工作。国際法や敵の国内法を利用して中国に国際的な支持を集める一方、相手の違法性を主張して反中国政策を押さえ込もうというが「法律戦」である。いわば「平時の戦争」の戦略要領とも言えるものである。

 確かに、連日のように中国が公船を尖閣諸島の領海に侵入させているのは日本側がひるむことを誘う心理戦だと見ることが出来る。また、中国人学者をして尖閣は共同管理すべきだなどと日本向けに語らせたりしているが、日本の世論を揺さぶる世論戦であり、さしずめ「尖閣棚上げ」を主張している元外務省の孫崎某などはこの世論戦の先兵役と言える。
 法律戦はと言うと、昨年九月から中国首脳がカイロ宣言とポツダム宣言に言及し、敗戦国である日本が尖閣諸島の領有を主張するのは「国連憲章の趣旨と原則に対する重大な挑戦」だなどと主張し始めたが、ポツダム宣言や国連憲章を利用して旧戦勝国の支持を獲得し、一方で日本の「違法」を主張して尖閣での日本側の行動を押さえ込もうと狙う法律戦の典型だと言える。
 むろん、中国のこうした「三戦」工作は、力による恫喝であり、根拠のないプロパガンダだが、中国が「海洋強国の建設」という野望を遂げるために、軍事的圧力から恫喝、世論分断等々、あらゆる手段を使って「三戦」という「平時の戦争」を戦っているあり様が見えてくる。

 しかし、尖閣問題での最近の「三戦」はあまり効果をあげていないと言える。日本が安倍政権に代わって、まっとうな対応を始めたからである。安倍首相は自ら「先頭に立って」領土・領海・領空を守ることを宣言し、民主党時代に後退した自衛隊による警戒監視態勢を強化し、防衛力の強化にも踏み出した。その一方、日米同盟の修復、首相や主要閣僚による東南アジア歴訪などによって「中国包囲網」とも言える外交戦を展開している。言論の自由などの価値観に基づく外交、海洋は「力によってではなく」「(国際)法とルール」によって支配されるべきといった日本外交の原則も提起した。
 心理戦にはひるむことなく、毅然として主権を守る国家意志を明示し、世論戦では米国、東南アジア、インドといった国際世論をも喚起している。さらに、国際法による海洋支配という原則を打ち出して法律戦を展開している――こう見れば安倍政権はしたたかに「反三戦」を実行しているとさえ言える。

 この「三戦」は尖閣問題に限ったことではなく、むしろ歴史問題の方が深刻だと言える。最近も、麻生副総理など三閣僚の靖国神社参拝に対して、中国外交部は直ちに抗議の声をあげた。これは心理戦の一環だが、今回は安倍内閣の対応が冷静であるため効果はなかろう。
 しかし、世論戦となると、公明党の山口代表が「外交への影響は避けられない」などと反応し、新聞は「閣僚参拝は無神経だ」(毎日新聞)と安倍内閣批判を始めるなど、中国が逐一工作するまでもないほど分断工作は進んでしまっている。しかも、今年一月にはニューヨーク・タイムズ紙が安倍首相を「右翼ナショナリスト」呼ばわりしたように、米国への世論工作も進んでいる。「村山談話」を国際約束として捉え、謝罪と反省を要求するのは、法律戦の意味も含んでいよう。その上、歴史問題では韓国という「反日同盟国」も利用できる。
 今求められているのは、安倍政権の尖閣対応にならい、歴史問題についても中国の挑発に乗らず、国内世論の分断を警戒・批判し、国際世論の支持を獲得するという歴史問題における「反三戦」をしたたかに展開する覚悟だと言えよう。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)〈『明日への選択』平成255月号〉



中国 国際法重視の姿勢を示した背景
「法律戦」と南シナ海問題

岡崎研究所  20150610http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5031

パシフィック・フォーラムCSISのレンツ、ハイデマン両研究員が、58日付Diplomat誌ウェブサイト掲載の論説で、中国は国際法を重視する動きを示しているが、南シナ海の問題では比等が提起した海洋法条約の仲裁裁判への参加を拒んでおり、国際法を単なるガイドラインや外交政策の一手段以上のものとして認めなければならない、と中国に批判的な見解を述べています。
 すなわち、今年の初め、中国外務省は省内に国際法規委員会を設置した。この委員会は、海外に逃亡した汚職容疑者の引き渡しを実現するのが当面の活動とされているが、中国が国際法に関心を高めることは歓迎すべきことである。国際法規につき専門知識を増やすことは大国であるための必要条件である。
 注視すべき分野のひとつは、海洋法である。最近、南シナ海の領有権に関するフィリピンとベトナムの提訴に関して、仲裁裁判に参加しない権利を行使した。中国は、法的な解決を避け二国間での解決を主張する一方で、南シナ海において着々と埋め立てや施設建設を進めている。
 もし中国が徐々に国際仲裁裁判を受け入れる方向に行くのであれば、前向きなことである。中国南海研究院(南シナ海国家研究所)の呉士存院長は、「専門家が育ってくれば中国も仲裁裁判など国際法規を使って中国の国益を確保していくであろう。しかし、現在の国際法規が機能していないということであれば、中国はこれらの法規を変えていくことを求める」と述べている。かかる発言は国際法規への信頼性を損なうものである。国際法規に基づく問題解決に対する中国のコミットメントが不確かであれば、中国が今後仲裁裁判に参加したとしても、それは現場で既成事実を作り上げるための引き延ばし戦術とみなされるであろう。
 条約に基き南シナ海の紛争を解決するに当たっての障害は、中国の海洋法条約第298条宣言(海洋境界画定の強制解決は受け入れないとの宣言)である。しかも、中国は、この宣言を、1996年の条約批准時ではなく、批准の10年後の2006年に行った。これは条約上認められていることではあるが、中国の法解釈や手続きの一貫性の欠如として周辺国が懸念するところとなっている。そもそも中国は国際法について過度にプラグマティックなアプローチをとってきている。中国の一部学者は岩礁やサンゴ礁も島としての地位を持つと主張している。

中国が国際法規に一層大きな役割を果たさせるというのであれば、国際法を単なるガイドラインや外交政策の一手段以上のものとして認めねばならない、と論じています。
出典:Patrick M. Renz & Frauke Heidemann,China's Coming 'Lawfare' and the South China Sea’(Diplomat, May 8, 2015
http://thediplomat.com/2015/05/chinas-coming-lawfare-and-the-south-china-sea/
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 中国は、今や多くの条約を締結し、また、主要な国際機関に加盟することにより、国際法規の理解や実践を深めており、国際法規の専門家も増え、国全体として持つ国際法規に関する専門知識も大いに増大していると推測されます。
 開放前の時代には、中国は極めて特異な、硬直した国際法理論を取っていたと思われるので、中国が今日の国際法につき理解を深め、外交の中で国際法を使っていこうとすること自体は、一般論としては結構なことです。
 しかし、それが実際に結構なことになるのかどうかは、次のような点につき、中国の今後の行動を見ていく必要があります。
 第一に、硬直化した主権重視です。1990年代半ば、APECで具体的協力活動を進める際に中国はしばしば主権を持ち出して抵抗しました。今の国際社会でも、もとより主権は重要であり、これを軽視する国はありませんが、同時にそれを踏まえて、紛争や問題を解決し協力を進めようとしています。中国が国際協調の精神をもって国際法を使おうとしているかどうか、それを端的に示すのが紛争の司法的解決ですが、この点極めて消極的です。
 第二に、国際法の政治目的での利用です。中国は、国際法の適用に当たって極めてプラグマティックなアプローチをとっていると言われます。中国は二国間交渉による解決を好みます。最終的には、政治が優越するというのであれば、法の尊重にはなりません。
 最近の中国による国際法重視の姿勢の背景には、外交全般において「法の支配」が強調されていることと関係があるかもしれません。つまり、西側の「法の支配」論へ対処するために勉強を強化しようとしている可能性があります。仮にそうであれば、今日の国際社会の基盤をなす国際法を理解し順守しようとするよりも、西側の議論に反論するための理論武装をしようとしていることになります。
 中国南海研究院院長が示唆するように、今の国際法は西側資本主義国の作ったものだとか、途上国の意見が入っていないものだとか、そのため一部の法規は変えていかねばならないといった議論に向かうのであれば、中国の現状に対する挑戦が、地政学、経済の分野などに加え、国際法規の分野にまで拡大することを意味することになります。それが中国の目指していることであると見て間違いはないでしょう。




2015年7月24日金曜日

アメリカ軍におけるアジア太平洋戦略 ~提言・共産中国を戦わずに封じ込める方策 求められる次世代兵器~

【中国封じ込めに東南アジア各国との連携強化】米国がアジアで作る第二のトライアングル
  20150716日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5126


611日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、米国のシンクタンクAEIのオースリンが、米国のアジア回帰政策を実行するために、日豪韓印(第一の三角形)と東南アジアの国々(第二の三角形)との間で多数国間の協力の枠組み(二つの同心三角形)を具体化すべきである、と主張しています。

日豪韓印(第一の三角形)と東南アジアの国々(第二の三角形) (画像:iStock

 すなわち、シンガポールで開催されたシャングリラ対話で、カーター米国防長官は、南沙諸島での中国による埋め立ては認めないと明言し、同時に、すべての当事者が同様の行動をやめるよう要求した。米国は中国が領有を主張する島の空域や水域に今まで通り米軍機を飛ばし艦艇を通過させることを明確にした。
 シャングリラでの長官発言は具体策を欠いたので、大した対中抑止効果を持たないのではないかとの懸念を惹起したが、その後長官は、中国の拡張主義への具体的対応を明らかにした。ベトナムでは、警備艇などの売却を約束し、防衛ビジョン共同声明を出した。インドでは、防衛産業協力の拡大を約束した。
 オバマ政権は、大きな国のグループと小さな国のグループをリンクして、一体的な多国間協力の枠組みを構築すべきである。米国は、豪日韓印という民主グループとともに、海洋パトロール、諜報共有や軍事教育などの協力拡大を通じて地域の公共財を提供することができる。
 東南アジアの国々は、内側のもうひとつの三角形となる。インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなどは、自国の防衛力を増強し役割を果たすことができる。ベトナムを除き、これ等の国は自由主義国家か、あるいは自由主義国家になりつつある国家であり、より広い自由主義国家のグループの一部になることにより、マレーシアのように、民主化へのコミットメントを鮮明にすることができる。
 二つのグループを一体化することを米国の明示的な政策にすべきだ。それが、アジア回帰戦略を一層具体的、効果的にする方法である。この二つの同心三角形アプローチは、中国の一方的な行動を抑止することに貢献するとともに、アジアの繁栄と安定にも貢献するだろう、と述べています。

出典:Michael AuslinTurning the Asia Pivot Into Reality’(Wall Street Journal, June 11, 2015
http://www.wsj.com/articles/turning-the-asia-pivot-into-reality-1434039972
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 上記は、面白い考え方です。豪日韓印を外側の三角形、東南アジアの国々を内側の三角形と捉え、米国はこれらのグループとの関係強化を図るとともに、これら二つのグループ相互間の協力を強めるように仕向けるべきだと言います。同盟国・友邦国との関係を強化し、同時に、これ等の国の間の協力を推進させるとの考え方は、米安全保障戦略にも述べられており、進むべき方向としては、基本的に望ましいものです。
 しかし、オースリンの主張については、優先順位の置き方、アジア諸国の反応、実現可能性などを考えますと、米政府の明示的な政策とするには問題があるように思われます。
 第1に、アジア回帰策の第一の優先順位は、アジア側内部の多国間協力推進というよりも、米国のアジア太平洋でのプレゼンスの強化であり、アジアの同盟国、友邦国との関係強化であるべきです。
 第2に、アジアの国々を大きな国、小さな国、リベラルな国、そうではない国と分類して議論することは、政治的に無用な反発を招くおそれがあります。民主化されたリベラルなアジア連合とも言うべき議論は、微妙な問題です。加えて、東南アジアの中国観は、シャングリラ対話におけるシンガポールのリー・シェンロン首相の基調演説に見られるように、曖昧であり、一般的な中国包囲網と取られるような議論には敏感になるでしょう。アジア回帰政策に、民主主義を持ち込むのは逆効果です。アジア回帰政策の真髄は、台頭する中国の振る舞いがもたらす問題から、如何に地域の秩序と安定を守るかであって、民主主義の話ではありません。また、アジア諸国は、総体として、米国のアジア回帰を歓迎しているのですから、それを複雑化するようなことは避けるべきでしょう。

 米国のアジア回帰政策は、グランド・デザインよりは、個々の協力の積み重ねでいくことがより効果的であると考えられます。すなわち、米国にとって、具体的には、(1)米国の軍事的プレゼンスと活動を強化し、日豪韓印といった同盟国・友邦国との関係強化を図る、(2)それぞれの状況を配慮しつつ東南アジアの関係国との関係を強化していく、(3)日豪韓印の間の協力強化、東南アジアの関係国間の協力強化などを慫慂していく、(4)南シナ海での中国の行動に対しては、日豪韓印や越、比、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどとの間の有志連合を築き、連携、協力していく、(5)中国とのエンゲージメントを維持、強化していく(6月末に米中戦略経済対話がありましたし、9月には習近平の訪米が予定されています)ことこそが重要な要素ではないでしょうか。
中国を突き放すため】米国の新軍事技術開発
岡崎研究所 20150720日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5160
61319日号の英エコノミスト誌は、圧倒的だった米国の軍事的優位は急速に崩れつつあるので、米国は、優位を維持するために新世代の軍事技術の開発に乗りだした、と報じています。
 すなわち、米国はこれまでも、新技術の開発によってライバルの優位を相殺してきた。先ず、1950年代初期にソ連の大規模な通常戦力に直面すると、核戦力の開発で対抗し、1970年代半ばに核戦力でソ連に追いつかれると、精密誘導ミサイル、偵察衛星、ステルス戦闘機等を開発した。これらの新技術の威力が示されたのが1991年の湾岸戦争だった。
 しかし、その後、これらの新技術が拡散する一方、米国はアフガニスタンやイラクで反乱勢力とのローテク戦争に気をとられ、その機に乗じて中国、ロシア、さらにはイランや北朝鮮までもが軍事面で急速な進歩を遂げてしまった。
 中でも、中国は軍を増強、高度化させ、周辺諸国への強硬な姿勢を強めている。また、ロシアもここにきて軍の近代化を急速に進め、旧ソ連圏での影響力回復を狙っている。
 だからこそ、米国は第三の相殺戦略(the third offset strategy)を打ち出す必要があった。ただ、それは、敵に大きなコストを負わせるような軍事技術の開発でなければならない。
 米国が開発に力を入れるのは、
1)無人ステルス戦闘機
2)小型ドローン
3)無人潜水艇
4)長距離ステルス爆撃機
5)電磁レール・ガン及びレーザー・ガン、だろう。
 防衛予算の逼迫が続く中、新技術開発のための資金は、どこか別の所から持ってくる必要がある。課題は、増大する軍人の給与・福祉手当を抑制することだ。不用な基地の閉鎖や軍の調達の改善も助けになる。
 軍自身も身を切る覚悟が必要かもしれない。例えば、射程距離の短いF-35戦闘機の購入数の縮小や、脆弱性が増している空母の一部放棄が考えられる。ただ、空軍は戦闘機に、海軍は空母に強い愛着があるので、実行は容易ではない。陸軍も規模を縮小しなければならない。
 ところで、これらの障害を全て克服したとしても、第三の相殺戦略は、第一や第二ほど長くは西側の優位を保てないだろう。インターネットの影響もあり、技術は以前よりはるかに早く拡散し、消費者市場での激しい競争のおかげで技術革新自体の速度も増している。
 また、同盟国が開発に協力してくれれば助かるが、あまり期待はできない。英国などは国防費をGDP2%以下にすべきかどうかを議論している。

最後に警告する。相殺戦略は、核抑止の論理が有効であることが前提になっている。しかし、「危険を犯す競争」で勝てると思えば、敵は相手の技術的優位を前に核の瀬戸際作戦に走る可能性がある、と報じています。
出 典:Economist Whos afraid of America? (June 13-19, 2015)
http://www.economist.com/news/international/21654066-military-playing-field-more-even-it-has-been-many-years-big
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 「第三の相殺戦略」は、米国が再び世界での軍事的優位を確立しようとする努力の一環です。
 米国が、アフガニスタンやイラクでのローテク戦争に集中している時、他国、特に中国が軍事力を高め、米国の技術優位を脅かすようになってきました。そこで、米国は、「第三の相殺戦略」を打ち出す必要を認識しました。したがって「第三の相殺戦略」は中国の軍事能力の増大を念頭に置いたものであると言ってもよいでしょう。
 「第三の相殺戦略」の中核的技術は、高度な自律性を備えた無人機や無人潜水艇などのロボティクス、それらの運用を支える強靭性の高いネットワーク、次世代長距離ステルス爆撃機、電磁レール・ガンとレーザー・ガンなどです。これら技術の開発に必要な研究の多くは、シリコンバレーなどの民間ハイテク企業が行っていると言われます。歴史的にはいわゆるdual use 技術(軍事・民生の両方に利用可能な技術)はコンピューターのように、まず軍事技術として開発され、後に民生用に広く使われるようになったものが多いですが、最近ではカーボン・ファイバーのように、まず民生用に開発され、それがのちに軍事用にも使われるようになったものが増えています。最近注目を集めているドローンは典型的なdual use技術です。論説は、英国を念頭に同盟国の協力はあまり期待できないと言っていますが、ロボティクスをはじめ、民生用技術が得意な日本は協力する余地が十分にあります。
 米国が世界で軍事的優位を維持することは日本の安全保障にとっても極めて重要です。さる4月に新日米ガイドラインが策定され、10月には、新たに「防衛装備庁」が設置されることもあり、日本は米国の「第三の相殺戦略」確立に向けて、防衛技術面で積極的に協力すべきでしょう。
尖閣諸島周辺での偶発的衝突に「対応する用意ある」米司令官が表明
2015.7.21 20:24更新 http://www.sankei.com/world/news/150721/wor1507210040-n1.html


記者会見するスウィフト米太平洋艦隊司令官=21日午後、東京都港区

 来日中のスウィフト米太平洋艦隊司令官は21日、東京都内で記者会見し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺など東シナ海での日中対立は外交解決を模索すべきだとした上で、偶発的衝突が万が一発生した場合について「米大統領から命令があれば、対応する用意はある」と表明した。
 オバマ米大統領は尖閣諸島に関し、日本防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の「適用対象」と明言している。太平洋艦隊が中国と対峙する可能性を示唆することで中国をけん制する狙いがあるとみられる。
 東シナ海での日中の対立について「武力行使は正しい判断ではない」とし、日中両国だけでなく多国間による外交解決を目指すべきだと強調。同時に「太平洋艦隊は(偶発的衝突に)対応できる準備が整っており、とても満足している」と述べた。
 安倍政権が今国会成立を目指す安保関連法案に関しては、日本が決めることだと断った上で「成立すれば、日米両国の(安全保障)関係を深める良い機会になる」と期待感を示した。(共同)

アメリカ第七艦隊

2015年7月19日日曜日

みんなで変えよう自衛隊! ~いわゆる「島嶼防衛戦略」について~

【南西方面の島嶼防衛強化を急げ】
拓殖大学特任教授・森本敏
2015.5.22 05:02更新 http://www.sankei.com/column/news/150522/clm1505220001-n1.html

《戦略的拠点となった尖閣諸島》

 わが国は北東から南西方向にかけて約3千キロに及ぶ縦深性のある地形を持ち、6850以上の島嶼(とうしょ)群からできているが、そのうち5つの本島を除けばあとは離島である。しかも、この島嶼群の中で有人島は420ほどであり、あとは無人の離島である。特に、鹿児島県大隅半島から沖縄南西端の与那国島までの約1100キロはわが国の3分の1を占め、この南西方面は第1列島線とほぼ一致する。
 中国は第1列島線から第2列島線までの間をアクセス拒否の海域にしようとしており、中国の海空軍は2008年以降、毎年のごとく東側に活動域を拡大してきた。そうなると、将来におけるわが国の戦略目標は第1列島線と第2列島線の中間に位置する海域で、中国に対して優位なバランスを確保することになる。
 1970年代初めに中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めた頃の動機は、海洋資源獲得だったが、今や、尖閣諸島を在沖縄米軍と南西方面の自衛隊を牽制(けんせい)する重要な戦略的拠点として確保することにある。近年、中国で尖閣諸島を核心的利益に含む発言が見られるようになったのもその証左である。
 中国は国連海洋法条約を恣意(しい)的に解釈して、排他的経済水域と大陸棚の外縁までを海洋国土と呼称し、国家主権を主張している。尖閣諸島が中国の領土になり、そこから200カイリ(370キロ)の排他的経済水域内が中国の海洋国土になれば、在沖縄米軍と南西方面の防衛に任じる自衛隊の活動は大きな制約を受けることになる。
 中国にとって尖閣諸島の領有権を主張するだけでなく、費用対効果の面で有効な手段があればぜひとも確保したい領土であろう。南シナ海で中国がやってきた島嶼占領の手法を東シナ海に適用すると、中国が国際法上、武力攻撃とはみなされない方法を使って、領土占領を狙うという可能性がないとはいえない。
 《緊密な連携活動と練度の向上を》
 しかし、わが国の施政の下にある領域に対して、武力攻撃でない限り米国は日米安保条約に基づいてわが国の防衛のために共同行動をとるという条約上の義務を有しない。尖閣諸島に日米安保条約5条を適用するという米国のコミットは勇気づけられるものであるが、尖閣が危なくなると米国が助けてくれると考えるのは合理的ではない。こうした場合にわが国が自国の領域を守るためにまず、自らが必要な措置をとることは国家として当然の義務である。


法執行機関である海保や警察を中心に、自衛隊を含めて平時から警戒監視に専念することは当然として、武力攻撃には至らない事態には、海上警備行動や治安出動を含めて法執行機関や自衛隊の緊密な連携措置をとることは国家の警察作用である。これらの諸活動をスムーズにかつ、迅速に行うため確実な手順を決め、緊密な連携活動を訓練し、練度を高めておくことも国家の義務である。
 それでも尖閣諸島を占領しようと行動された場合にどうするか。
 まず第1に、そのような事態になることをできるかぎり未然に防止する努力が必要である。警戒監視活動を重層的に強化しておくことや、平素から部隊を配置して抑止を機能させておくことは当然であるが、中国を不要に挑発しないよう十分、留意することである。
 わが国が中国を挑発したという言い訳を中国に与えるような対応を、相手は待ち構えている。日中間の連絡メカニズムの具体的手段について合意し、誤解や挑発や偶発によって不測の事態が起こらないよう注意深い慎重な努力を根気よく続けることも必要であろう。多国間協力を通じた外交努力をすすめ、頻繁に行う共同演習も抑止行動の一環である。


《不可欠な即応緊急部隊の展開》

 第2に、それでも実際に非合法な手段を駆使して島嶼群を占領しようとする可能性はある。それに備えて南西方面の島嶼群に必要な即応緊急部隊を展開しておくことは不可欠の手段である。わが国はこの面でまだ不足している。
 奄美大島や先島諸島の要地に即応部隊を展開し、また、いつでも展開できるように部隊受け入れの基盤を構築することが重要である。本土を含めて他地域から部隊を迅速に輸送展開する態勢を確保しておくことも必要となる。
 また、それでも島嶼群を占領された場合には、ただちに水陸両用部隊を駆使して領土を取り返す手段と態勢を確立しておくことが求められる。そのための自衛隊の統合運用は不可欠であり、南西方面にある全ての部隊を統合任務部隊として西部方面総監に一括して指揮させる体制を確立することも検討すべきであろう。
 第3は、日米同盟関係の強化である。尖閣シナリオに基づく日米共同作戦計画を策定し、調整メカニズムを確立して共同対処の態勢を確立し、訓練を行う必要がある。ガイドラインと安保法制はそれを可能とするものであるが、法制が成立しても実態が追いついていくよう努力する必要があり、これは今後の大きな課題であろう。(もりもと さとし)

※森本氏のご指摘にあるように南西諸島防衛は、アメリカ軍との連携なくしては意味をなさないものです。緊急展開部隊の創設も必要でしょう。ただ島嶼部の部隊と海洋防衛との関連、「島嶼奪還」の具体的な方法についてさらにつきつめて考えてみる必要があるように感じます。

 以下の北村淳氏の論考もみながらわが国が実行できる島嶼防衛戦略について考えを深めてみたいと思います。


島嶼防衛の戦略は人民解放軍に学べ
「島嶼奪還」ではなく「接近阻止」が大原則
タリスマン・セイバーで上陸訓練を実施する米海兵隊(写真:米海軍)

 2年に一度開催されているオーストラリア軍とアメリカ軍の合同軍事演習「タリスマン・セイバー」が、オーストラリア北部ダーウィン近郊のフォグベイを中心に実施されている。
 この軍事演習は米豪両軍から3万名を超える将兵が参加する大規模なものである。オーストラリア軍にとってはアメリカとの親密な同盟関係を誇示するためにも重要な機会となっている。
40名の陸自部隊が初参加
 今回は、初めて日本からも陸上自衛隊の部隊が参加している。このため「日本とオーストラリアの准同盟化」といったニュアンスで取り上げている日本のメディアも存在する。ただし、タリスマン・セイバーに陸自部隊が参加しているといっても、オーストラリア当局側では日豪軍事同盟を見据えたような参加と考えているわけではない。
 参加している陸自部隊はわずか40名ほどの小部隊であるし、そもそも主催国であるオーストラリア側としては、あくまでも豪米軍事同盟の強化が目的である以上、“余分”な要素が加入することには積極的ではなかった。
 そのため、西部普通科方面連隊から極めて小規模な部隊が抽出されてアメリカ海兵隊第31海兵遠征隊(アメリカ海兵隊は日米豪の軍事的結びつき強化を望んでいる)に組み込まれた形で参加するということで日本の参加が実現したという事情がある。
もちろん、陸自の参加部隊が3万名中40名と極めて小規模であっても、また背景事情がどうであれ、日米豪の軍事的結びつきがわずかながらも進展したことには疑問の余地がない。そこで中国メディアなどは「アジア地域の安定を脅かす」といった具合に非難している。

自衛隊に必要な水陸両用能力は島嶼奪還能力ではない
 タリスマン・セイバーでは、米海軍揚陸艦からゴムボートに分乗して発進した陸自偵察部隊が海岸に上陸して、米部隊や豪部隊とともに内陸に展開する訓練が実施された。
 いくつかの日本のメディアはこの訓練を「島嶼(とうしょ)奪還訓練」と報道しているが、大きな誤りである。
 日本国防当局は、これまで日本防衛のために必要であったにもかかわらず自衛隊に保持させてこなかった水陸両用能力(水陸両用作戦を実施するための軍事的能力)を修得する努力をしている。しかしながら、日本のメディアの多くは「水陸両用作戦」を「強襲上陸作戦」と同一視してしまっている。そして、自衛隊が水陸両用作戦の訓練をすると、短絡的に「島嶼奪還訓練」と報道しているのだ。
 水陸両用作戦は、「強襲上陸作戦」「襲撃作戦」「撤退作戦」「撤収作戦」「示威作戦」それに「支援作戦」に分類される。これらのうち、第2次世界大戦中の硫黄島侵攻作戦やノルマンディー上陸作戦のように敵が待ち構えている海岸に敵と戦闘を交えながら上陸するのが強襲上陸作戦である。
 21世紀の現在、上陸部隊の前進基地となる沖合の揚陸艦や、揚陸艦から海岸線に到達する手段である揚陸艇、水陸両用装甲車、ヘリコプターそしてオスプレイなどを攻撃する各種ミサイルの戦力が飛躍的に強化されているため、強襲上陸作戦は敵が相当貧弱な戦力しかない場合にしか実施され得ない。日本のメディアが“想定”しているような「尖閣諸島を占領している人民解放軍部隊」を相手には、とても強襲上陸作戦は実施できない。
ちなみに、タリスマン・セイバーで陸自部隊が実施したゴムボートによる上陸訓練は襲撃作戦や支援作戦の訓練であり、これを「島嶼奪還訓練」などと報道しているようでは、中国はもとより国際社会の失笑を買ってしまう。
島嶼奪還ではなく接近阻止が必要
 日本のメディアには、水陸両用作戦と強襲上陸作戦の同一視からいい加減に卒業してもらいたいものだが、メディアのみならず国防当局なども使用する「島嶼奪還」あるいは「離島奪還」という表現そのものに問題がある。
 日本の防衛当局がこのような表現を用いるのは、「水陸両用作戦イコール強襲上陸作戦」という誤解が流布しているからであろう。さらにはそれを踏まえて、自衛隊の水陸両用能力の獲得が「あくまでも中国人民解放軍に占領されてしまった尖閣諸島をはじめとする離島を奪還するという専守防衛の軍事行動に資するためである」ということを強調したいがためであろう。
 しかしながら、より根本的な問題は、多くのメディアや国防当局とりわけ陸上自衛隊の「島嶼防衛」に関する発想が「日本の島嶼を占領されてしまった」時点からスタートさせている点にある。
 尖閣諸島のような、無人で軍事施設も生活インフラも存在しない岩礁のような島嶼は、占領しても確保が困難である。そのため、人民解放軍にとって占領価値はゼロに近い(ただし、象徴的価値は見いだせるが)。しかしながら、宮古島や石垣島のような占領価値のある離島を人民解放軍によっていったん占領されてしまった場合、それを奪還するのは自衛隊にとってはもちろんのこと日米連合軍にとっても至難の業ということになる。
 したがって「島嶼防衛」を論ずるには、「島嶼奪還」ではなく人民解放軍の侵攻占領部隊が日本の島嶼に接近することを何としてでも阻止するための確固たる戦略を確立しておかなければならないのだ。

中国人民解放軍のA2/AD戦略とは
 人民解放軍の接近を阻止する戦略を打ち立てるにあたって参考になるのが、皮肉なことに人民解放軍がアメリカ軍と自衛隊などの同盟軍が中国に侵攻してくるのを中国沿岸域からできるだけ遠方で阻止するために打ち立てた「接近阻止/領域拒否」(A2/AD)戦略である。
「接近阻止」とは敵侵攻軍が中国の防御ライン(第2列島線、第1列島線)を突破して中国側に接近してこないようにすることを意味する。そして「領域拒否」とは敵侵攻軍が第2列島線の中国側(そして最悪の場合は第1列島線の中国側)の海域を一時的にでも自由に使用させないことを意味している。
1列島線と第2列島線(白:日米海軍拠点、赤:中国海軍拠点)
人民解放軍は、この「A2/AD」戦略を実施するために海軍力と航空戦力を強化するとともに、その主役として膨大な数の各種長距離ミサイル(対艦弾道ミサイル、対艦巡航ミサイルなど)の配備に邁進している。

日本がA2/AD戦略を実行するなら
 このような中国の「A2/AD」戦略を裏返しにして日本が手にすれば、人民解放軍侵攻軍による日本の島嶼への接近を阻止することが可能になる。
 すなわち「日本版A2/AD戦略」とは、第一に、九州から与那国島にかけての中国側が第1列島線と名づけている島嶼ラインからできるだけ中国側に防衛ライン(第1防衛線:日本政府が主張している東シナ海日中中間線)を設定して、その防衛ラインから日本側に人民解放軍が侵攻してこないような「接近阻止」態勢を固めるのである。
1列島線より中国寄りに設定する第1防衛線
 そして、万が一にも機動性の高い人民解放軍侵攻部隊が第1防衛線を突破しても、その侵攻部隊が日本近海域では自由に行動することはできないような「領域拒否」態勢を維持するのである。
「日本版A2/AD戦略」実施に必要なのが、人民解放軍同様に強力な海軍力(海上自衛隊)と航空戦力(航空自衛隊・海上自衛隊)であり、それに加えて九州から与那国島に至る島嶼のいくつかに配備される地対艦・地対空ミサイル戦力(陸上自衛隊)である(本コラム効果は絶大、与那国島に配備される海洋防衛部隊」参照)。そして、島嶼線に設置される多数の自衛隊拠点間の戦力移動や補給活動を迅速に実施するためには、水陸両用能力が不可欠となるのだ。
 このようにして「日本版A2/AD戦略」が確立すると、それをバックアップする日米同盟と相俟って「中国版A2/AD戦略」と軍事的均衡が保たれ、中国共産党指導部による覇権主義的海洋拡張政策を抑止できる可能性が生ずるのである。


※日中中間線は、国際海洋法に基づいて設定された日中間の海洋権益をわかつラインですが、いやいやながらも共産中国は国際法をたてにとられた状態では、これを無視するわけにもいかず、ガス田開発でも中間線より西側に建設されています。

「法律戦」をたてにする共産中国ですから、国際法に基づいて外交的に対処することも有効な抑止手段ですが、北村氏がご指摘されるように経済的政治的な日中中間線を軍事的にも利用することは、自衛隊の防衛戦略を構築整備する上で、また人民解放軍の海洋侵攻を抑止する上でも有効でしょう。


「日本離島防衛論」 福山隆氏

 自衛隊は精強ですが、どのみち我が国単独による防衛だけはさけなければいけません。また海上保安庁などの国内機関とも連携を密にしていくことは前提でしょう。


日本が採るべき新たなる対中戦略 情報共有
と“逆A2/AD戦”の必要性

岡崎研究所
20160209日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/6044

 新アメリカ安全保障センター(CNAS)のヴァン・ジャクソン客員研究員が、Diplomat誌ウェブサイトに16日付で掲載された論説において、アジアで対中バランスをどう維持するかにつき、海域の常時哨戒を行い、中国による一方的行動を速やかに把握してその情報を広くシェアすること、中国に仕掛ける気を起こさせない抑止力を持たせることといった、現実的な提案を行っています。

対中戦略に求められる3つのこととは
 アジアにおける米国の政策の目的は、安定した自由な秩序を維持することだが、最近はアジア諸国間の信頼の欠如、軍事力強化、領土問題とナショナリズムによって、この目的の達成が阻害されている。しかも、中国は微細な主張を強引に通そうとし続け、予想外の紛争を起こしかねない。
 現在の米国の政策は、これらの問題を止めようとしていない。しかしこのまま進めば、米国のアジアにおける利益は阻害される。何ができるだろう? 戦争にもならず、一方的に譲歩することにもならない解決策が今ならいくつかある。
 一つは、米国の同盟相手及びパートナーのうち、中国と紛争に陥る可能性が高い国、例えば日本、台湾、ベトナム、フィリピンの軍事力を高めることである。これは、これら諸国に中国と同等の軍事力を備えさせるということではなく、抑止力を高め、中国の行動を慎重にさせるためである。
 もう一つは、情報をできるだけガラス張りにすることである。中国は南シナ海領土紛争で、軍ではない力を行使し、「これは力の行使ではない」と強弁するが、情報をガラス張りにすれば、このようなことを難しくすることができる。そうなれば、いずれの側が仕掛けたかもわかるし、中小国が団結して中国を非難しやすくなる。
 そのためには、米国はアジアの関連国の海上偵察能力を向上させるのが良い。それは既にフィリピン、インドネシアで行っていることであり、シンガポールにP-8哨戒機を供与することも正しい一歩である。しかしこれはまだ「大海の一滴」であり、2017年に予定されるMQ-4C Triton無人偵察機配備等で米国が収拾する情報は、同盟国、友好国ともっとシェアするべきである。
 もう一つは、いくつかの同盟国・友好国の軍事力を高め、中国がこれら諸国との初期段階の小さな戦闘では勝てないようにしておくことである。これは、中国が米国に対して取っている「接近阻止」戦略を逆に行くものである。そのためには、これまでのMD(ミサイル防衛)、巡視船の供与だけでは不十分である。水中機雷、潜水艦、巡航ミサイル、種々の無人機の供与が不可欠だが、これは例えばベトナムに対する従来の政治的・法的制限そして融資上の制限措置を解除することを意味する。もっとも重要なことは、先端ミサイル、無人機の供与を制限しているミサイル技術管理レジーム(MTCR)を改正することである。

以上では生ぬるいと言う者がいるだろう。逆に以上の措置は、戦争の危険をかえって高めるという者もいるだろう。米国の技術流出を心配する者もいるだろう。
 しかし、以上の措置は、戦争と一方的譲歩の中間を行くものである。今日の技術開発は軍事研究より民需部門で行われており、技術の流出を過度に心配しても仕方ない。如上の3つの方策は並立し得るものでもあり、将来の大統領の対アジア政策を最も柔軟なものにできるだろう。
出典:Van Jackson,Rethinking US Asia Policy: 3 Options Between Appeasement and War’(Diplomat, January 6, 2016
http://thediplomat.com/2016/01/rethinking-us-asia-policy-3-options-between-appeasement-and-war/
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米軍自身の言及なき提案
 この論説の筆者ヴァン・ジャクソンは、空軍の朝鮮語専門の情報担当としてキャリアを開始、その後一貫してアジア太平洋関連の国防畑を歩み、2009年から2014年まで国防長官の顧問として朝鮮半島等を担当してきた人物です。この論説は、アジアで対中バランスをどう維持するかについて現実的な提案を行っており、オバマ後の政権を主たるターゲットとした提言でしょう。
 提案の肝は、海域の常時哨戒を行い、中国による一方的行動を速やかに把握してその情報を広くシェアすること、同盟相手・友好国に中国との小規模戦闘では勝てる力をつける、つまり中国に仕掛ける気を起こさせない抑止力を持たせること(中国が米国に対して適用している「接近阻止:の戦略を逆用)、そのために水中機雷、潜水艦、巡航ミサイル、種々の無人機の供与まで検討することです。
 しかし、気になる点もあります。まず、米軍(特に海軍、海兵隊)自身についての言及がほとんどありません。豪州の役割についても言及がありません。この論説の趣旨には賛成できますが、アジアの安定を地域諸国の間のヤジロベエ的相互抑止に委ねてしまおうという発想であるとすれば、要注意です。
 そして、日米同盟の役割について言及がありません。日本で論議を呼ぶのを警戒したのか、それとも、国防省でも日本担当者以外のマインドはこの程度のものなのかは分かりません。東アジアのバランスについては、中国、北朝鮮の核兵力、ロシアの新型巡航ミサイルが呈する脅威等も議論する必要があります。3月末には米国で核安保サミットが開かれるので、立場を整理しておく必要があります。
 日本の対中抑止力を整備するためには、日本の空母保有を米国が明示的に認めること、F35の供与を急ぐこと、巡航ミサイル、無人機技術を供与することが有効でしょう。
《維新嵐》付け加えれば、主戦場を間違えないことである。大きな武力紛争はおきない「静かな」アジアとなっているが、人民解放軍や中華系の企業によるサイバー攻撃は、周辺国に大きな脅威になっており、我が国も例外ではない。今や人を殺傷せず、インフラ設備を破壊せずに国家の中枢から先端技術を窃取し、これを継続していくことにより、敵国を骨抜きにする手法が数を増しており、サイバー空間はまさに「戦争状態」なのである。そうした得体のしれない「新しい戦争」の時代の中で、離島を守るためにはどのような点に考慮を払い、政治に働きかけるのであろうか?