2015年6月6日土曜日

わが国は新しい安全保障体制で南シナ海のシーレーンを維持できるのか?

南シナ海への認識が甘すぎる日本の議論
人工島の出現で迂回航路も危険な状態に

北村 淳  2015.6.4(木) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43933
南シナ海で接近する中国の沿岸警備隊の船舶(上)とフィリピンの補給船(2014329日撮影、資料写真)。(c)AFP/Jay DIRECTO AFPBB News

 安倍政権は日本国内での安全保障関連法案に関する説明では、中国の軍事的脅威を極力口にしていない。
 例えば、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威は繰り返し強調しているが、北朝鮮の弾道ミサイルとは比較にならないほど日本を脅かしている中国の弾道ミサイルならびに長距離巡航ミサイルの脅威(拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』参照)はなぜか口にしたがらない。
 同様に、中国人民解放軍によって南シナ海を縦貫する海上航路帯を妨害される可能性についても沈黙を続けている。
南シナ海を機雷で封鎖するのは困難

 一方で、ホルムズ海峡でイランが機雷を敷設して海上航路帯を封鎖する可能性については安倍首相自らも繰り返し指摘し続けている。安保法制国会審議では「現時点では、ホルムズ海峡での機雷掃海しか、他国領域での自衛隊による集団的自衛権に基づいた武力行使は念頭にない」とまで公言している。
 もっとも、安倍政権はホルムズ海峡危機に関しては「機雷敷設による海峡封鎖」のみを想定しており、イランの地対艦ミサイルや潜水艦や小型攻撃艇それに航空攻撃といったアメリカ海軍が機雷戦以上に警戒している脅威に関しては何ら言及していない。
 日本政府は南シナ海の自由航行妨害という局面についても、このような思考回路の延長で想定しているようだ。つまり、「人民解放軍が機雷を敷設して南シナ海を封鎖する」というシナリオのみを対象にしており、南シナ海における中国軍事力の脅威は真剣に考えられていないように見受けられる。

確かに、日本にとって重大なチョークポイントとなるルソン海峡(バシー海峡とバリンタン海峡との総称=台湾とフィリピン・ルソン島の間の海峡部)を機雷により封鎖するのは、ホルムズ海峡を機雷で封鎖するようなわけにはいかない。海峡の最大幅一つをとっても、ホルムズ海峡が39キロメートルであるのに比して、ルソン海峡は250キロメートルにも及んでいるからである。
 さらに、広大な南シナ海を縦貫する航路帯のあちこちに機雷原を設置するにしても、いくら人民解放軍海軍がロシア海軍に次いで世界第2の機雷保有数(10万個と言われている)を誇っているとはいえ、極めて効率が悪い妨害手段と考えざるをえない。
 したがって、「航路妨害=機雷敷設による海峡あるいは海域封鎖」という単純な等式で考えるならば、南シナ海を封鎖するのは困難であり、いくら南シナ海が中国軍事力によりコントロールされても「重要影響事態」や「存立危機事態」とは見なしがたい。したがって、「南シナ海は迂回可能である」程度の認識が公言されることになったのであろう。
1800キロ長くなる南シナ海の迂回航路

 しかしながら、南シナ海は迂回できるからといっても、中国によるコントロールが可能になってしまった場合、日本国民生活や経済活動が深刻に脅かされることにはなりえないのであろうか?
 現在、日本に原油や天然ガスその他の天然資源などを運搬するために、膨大な数のタンカーや貨物船が毎日ひっきりなしに南シナ海を航行している。そもそも、そうした船が「南シナ海を迂回」しなければならなくなる事態とは、中国共産党政府が「日本関連船舶の南シナ海での自由航行を妨害・阻止する」といった決断を下した事態を意味している。
 中国政府がこのような決断をした場合、人民解放軍は、日本に関係しない船舶にもダメージを与えてしまう可能性が高い機雷戦は行わず、日本関連船舶だけにターゲットを絞って、ミサイル攻撃・魚雷攻撃・爆撃・砲撃といった手段で航行を妨害するであろう。日本政府はそのことを覚悟せねばならない。
 そして、実際にタンカーに魚雷を打ち込む必要はなく、日本関連船舶が「南シナ海を航行した場合には、深刻な危害が加えられる」との認識を船会社に与えれば十分なのである。

そのような状況になっても日本向け物資を運搬しようとする船会社は、
「インド洋 → マラッカ海峡 → 南シナ海 → バシー海峡 → 西太平洋 → 日本」
という南シナ海縦貫航路を避けて、
「インド洋 → ロンボク海峡 → ジャワ海 → マカッサル海峡 → セレベス海 → 西太平洋 → 日本」
という迂回航路を通航しなければならない。
 前者の中東産油国から南シナ海を北上して日本に至る航路はおよそ12200キロメートルであり、後者の迂回航路は、日本までおよそ14000キロメートルである。もっともこの迂回航路は、水深が浅いマラッカ海峡を通航できない超大型タンカー(UVLCC30万トン超の原油を積載)などが平時においても利用している航路である。
南シナ海航路(白色)と迂回航路(赤色)、大迂回航路(ピンク)
迂回の負担は燃料費だけではない

 大型タンカー(VLCC20万~30万トンの原油を積載)で迂回航路を航行すると日本まで3日余計にかかることになり、燃料代も(もちろんタンカーごとに差があるが)およそ85000ドルから10万ドル余計にかかることになる(このような経済的理由によって、往復では1週間ほど無駄になるうえに燃料代も嵩んでしまう迂回航路を通過をせざるを得ない超大型タンカーは、建造されなくなってしまった)。
 もし燃料代だけを考えるのならば、迂回航路を通航した場合には、往復でおよそ2000万~2400万円の費用がかさむことになる。すると30万トン積みVLCCの場合、燃料代の増加分は1トンあたり6780円程度となり、20万トン積みVLCCのそれは100120円程度ということになる。すなわち迂回航路を経由したVLCCで運搬される原油1バレル(原油1トン=7.396バレル)あたりの燃料費増加分は“わずか916円”ということになる。原油1バレル60ドルすなわち7200円とすると、このような燃料代分の価格上昇は“取るに足りない額”ということになる。
 ところが、米海軍関係者や日本で船会社を営む専門家によると、燃料代の増加分だけで迂回航路経由の影響を論ずることは「論外」であるということになる。
 なぜならば、平時において迂回航路を通航するのとは違い、中国の軍事的脅迫により迂回航路を通航せざるを得なくなった場合には、国際海運マーケットが過敏に反応して船員費などが沸騰するとともに、船舶保険料も信じられないほど高騰することは必至であるからだ。

それに加えて、そもそも船員の確保そのものが極めて困難になると考えるべきである。というのは、日本船体の船員構成といえども、日本人は船長と機関長それに極めて少数の航海士と機関士だけであって、ほとんどの航海士、機関士、デッキ要員、機関部要員それに司厨員は外国人である(高級士官はクロアチア人、北欧系、台湾人、韓国人など、一般船員はフィリピン人、韓国人、中国人、インド人など)。したがって、中国に軍事的に圧迫された中での日本向け航海への乗組員調達は望み薄となるというのだ。
人工島出現により迂回航路も危険にさらされる

 さらに、日本にとって都合の悪いことに、日中間が上記のような険悪な関係に立ち至った場合には、南シナ海縦貫航路どころかマカッサル海峡経由の迂回航路すらも通航できなくなる可能性が現実のものとなりつつある。
 本コラムでも繰り返し取り上げているように、中国は南沙諸島の数カ所に軍事拠点としての人工島を構築している。そのうちファイアリークロス礁には3000メートル級滑走路が建設中であり、ジョンソンサウス礁をはじめその他の人工島にも本格的な軍用滑走路が出現するものと考えられている。
 それらの南沙諸島人工島の航空基地に人民解放軍戦闘機や爆撃機などが配備されると、迂回航路が通過するセレベス海やマカッサル海峡は人民解放軍戦闘機の攻撃圏内にすっぽりと入ってしまう。その外縁であるジャワ海やロンボク海峡その他のインドネシア海峡部だけでなくティモール海やオーストラリアの北西の要衝ダーウィンまでもが人民解放軍爆撃機の攻撃圏内に収まることになる。
脅威にさらされる迂回航路
したがって、迂回航路を日本に向かって北上するタンカーも、中国軍戦闘機や爆撃機の攻撃の脅威に曝されることになり、マカッサル海峡経由の迂回航路は“危険回避”の役割を果たさなくなる。そのため、日本向けタンカーは、中国軍機による攻撃可能性がほぼ存在しない(そうでなければ乗組員は絶対に集まらない)以下のような“大迂回航路”を経由しなければならない。
「インド洋 → メルボルン沖 → 珊瑚海 →  グアム沖 → 日本」

およそ22000キロメートルに及ぶ大迂回航路を通航する場合、航海日数は南シナ海経由の倍の6週間近くかかることになるため、もはや燃料費も無視しうるレベルではなくなってしまう。それに、航海日数が2倍になってしまうと、当然ながら必要な船腹数も船員数も全て2倍ということになる。そのため、中国軍機による攻撃の可能性はゼロでも、船腹数や船員の確保そのものが極めて困難になり、日本が必要とする原油や天然ガスの供給量は維持できなくなる。
やはり南シナ海は日本の死命を左右する

 中国は広大な南シナ海の8割以上の海域を“中国の海洋国土”と公言してはばからない。いくらアメリカや日本やオーストラリアが非難したからといって、中国がすでに巨額の建設費を投入している“中国の主権下における”人工島の建設を中止する見込みは全くない。
 中国に中止させる唯一の手段は、アメリカをはじめとする反中国勢力が人工島建設を武力によって阻止することであるが、当然それは中国との全面戦争を意味するため、実施可能性はゼロに近い。
 要するに、極めて近い将来に、南沙諸島に複数の航空基地や軍港を備えた強力な人民解放軍海洋基地群が誕生することは避けられそうもない。
 ということは、日中関係が最悪の事態に陥った場合には、「南シナ海は迂回できる」などと言っていられない事態に日本国民は直面することになる。南シナ海は日本にとって「重要影響事態」も「存立危機事態」も発生しうる生命線であるとの認識を持って、安全保障関連法案に関する国会審議は進められなければならない。

※北村氏の指摘は、今さらいわれるまでもないことのように思えるくらい当たり前の認識である。
 集団的自衛権行使に反対する勢力は、個別的自衛権の行使のみで我が国のシーレーンの安全を守れると本気で考えているのであろうか?我が国のシーレーンは、アメリカをはじめ共産中国以外の国の動脈となっていることを考えれば、共産中国の一方的な覇権行使に対して各国が連携して防衛にあたる態勢が構築されること、すなわち集団的自衛権行使が発動される情勢になることは必然なことなのである。
 そして集団的自衛権行使の発動は、違憲だとさわいでいる野党の皆様方に申し上げたいが、憲法9条の精神に合致することである。
 日本国憲法は、国防戦争や国防軍の保持、自衛権の行使は認めているからである。これは、国家の生存権を定めた条文とも合致する。
 このように解釈すると現行憲法の解釈の上になされようとしている新安保法制は、憲法の平和主義の理念に合致されるものであり、合憲といえる。
 そもそも日本国憲法9条が、国防戦争、国防軍の保持、自衛権の行使を認めているという解釈でいくなら、こと安保分野に関しては憲法改正など必要ない。

【日本、来年からマラッカ航路測量】シーレーンの要衝、沿岸3カ国と協力

2014.12.11 06:00 http://www.sankei.com/world/news/141211/wor1412110002-n1.html



【シンガポール=吉村英輝】日本が、東アジアと中東を結ぶシーレーン(海上交通路)の要衝であるマラッカ海峡の航路測量を来年から実施することが10日、分かった。沿岸国のインドネシア、マレーシア、シンガポールの担当者が来週、東京で日本側と協議し、正式合意する。
 計画では、海流で海底の地形が変化するなど、直ちに測量が必要な5カ所で来年早々に行う。日本の船会社などが財団法人「マラッカ海峡協議会」(東京都港区)を通じて資金と技術者を送り、沿岸の3カ国政府による測量に協力する。2016年以降は、日本が設置した日・ASEAN統合基金も活用し、早ければ18年に新たな海図を完成させて公表する。
 マラッカ海峡はタンカーなど年間12万6千隻(12年実績)が航行する“大動脈”だが、航路が狭く浅瀬や沈船も多い。日本は過去2回、1969~75年と96~98年に海峡の航路測量を支援している。

 関係者によると、海峡を利用する自国向け船舶が増えている中国も測量参加に関心を示したが、「潜水艦の航行など軍事目的にデータが流用されるのを警戒し、3カ国が拒絶した」という。

安倍首相、南シナ海関与強める~沿岸国と連

携、中国牽制
2015.6.6 09:00  http://www.sankei.com/politics/news/150606/plt1506060011-n1.html
スプラトリー諸島
 衆院平和安全法制特別委員会は2015年6月5日、中谷元(げん)防衛相と岸田文雄外相が出席し、安全保障関連法案に関する一般質疑を行った。4日ぶりの開催となった特別委で焦点の一つとなったのは、中国による人工島建設で緊迫の度合いが強まる南シナ海への対応だ。同海域はシーレーン(海上交通路)の要衝であり、日本の資源輸入には航行の自由が欠かせない。安倍晋三首相は、法整備を進めるとともに沿岸国と連携し、南シナ海への関与を強めようとしている。
 「わが国の周辺海域は常に関心を持っているが、自衛隊は南シナ海で常続的な警戒監視活動は行っておらず、現在、具体的な計画を有しているわけではない」
 中谷氏は5日の特別委で、南シナ海での自衛隊の活動への見解を求めた民主党の長島昭久元防衛副大臣の質問にこう答えた。
 中谷氏は「現在」と断りを入れることで、将来的な可能性に含みを持たせるにとどめたが、南シナ海沿岸国には米国と同様、自衛隊の活動への強い期待がある。
   新たな安保法制には、地理的な制約を受けずに自衛隊が他国軍を後方支援する重要影響事態法案を盛り込んでいる。また、首相は南シナ海で起きる武力衝突が「重要影響事態」に認定されることを否定していない。名指しこそしないが、中国に対する牽制(けんせい)であることは明らかだ。
 重要影響事態法案は、現行の周辺事態法から地理的制約を外した。後方支援の対象を米軍に限らず他国軍にも広げ、支援内容も拡充する。南シナ海で沿岸国軍を支援できるようになれば、同海域の抑止力を高めることが可能だ。
 首相は外交面でも布石を打っている。4日に会談したフィリピンのアキノ大統領のほかにも、3月にインドネシアのジョコ大統領、5月にはマレーシアのナジブ首相をそれぞれ日本に招いた。この海域で建設を進める人工島を軍事拠点化し、上空には「防空識別圏」を設定しようとする中国の「力による現状変更の試み」に対抗するには、日米同盟を基軸とした沿岸国との連携強化が欠かせないと考えているためだ。

 首相はドイツ南部のエルマウで7、8両日に開かれる主要国首脳会議(サミット、G7)でも、南シナ海問題を取り上げる。アジア唯一のG7メンバー国として、海洋進出を強める中国への懸念を訴え、首脳宣言への明記を求める構えだ。 (峯匡孝、小川真由美)

中国国防大教授「日米照準に訓練実施」「日本

は強力なライバル」
2015.3.13 21:21更新 http://www.sankei.com/world/news/150313/wor1503130051-n1.html
中国国防大の梁芳教授は、中国が近年、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺海域や西太平洋でたびたび海軍演習を実施していることについて、日本や米国などに「照準を合わせた訓練を実施している」と述べた。共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)が13日伝えた。
 梁氏は、最新鋭の兵器を有し、米国と同盟を結ぶ日本は「強大なライバル」だと指摘。南シナ海での領有権をめぐるフィリピンなどとの対立に比べ、尖閣をめぐる問題の解決はさらに困難との認識を示し「中国は軍備を発展させなければならない」と主張した。

 その上で尖閣周辺などの「微妙な地域で訓練を実施し、実戦能力を高めることは、将来の発展のために非常に有利だ」と訴えている。(共同)
※狡猾な共産中国の海洋覇権への動きとその根拠については、以下の村井氏の論文をご参照されたい。

最終段階に入る対日「人民戦争」 


東京国際大学教授・村井友秀

2015.5.14 05:01更新 http://www.sankei.com/world/news/150514/wor1505140012-n1.html

過去の世界史を見ると、国家間の力関係が大きく変化するとき(パワーシフト)、すなわち強者が弱者になり弱者が強者になるとき、強者を追い越した弱者が、弱体化した強者を一挙に叩(たた)く機会主義的戦争が発生する傾向があった。現在の日中関係を見ると、パワーシフトが進行している。2004年に中国の軍事費が日本の防衛費を追い抜き、10年には国内総生産で中国が日本を追い抜いた。

 ≪毛沢東思想の「持久戦論」≫
 パワーシフトを中国の軍事戦略に翻訳すると次のようになろう。
 資本主義的発展を続ける共産主義国家中国では国民の価値観が混乱している。しかし、毛沢東思想だけは誰も反対できない絶対的権威を持ち、共産主義体制を支える大黒柱である。中国共産党の毛沢東に対する公式の評価は「功績第一、誤り第二」であるが、中華人民共和国は毛沢東によって建国されたのであり、「偉大な愛国者、中華民族の英雄」という評価を中国共産党が変えることはできない。中国憲法にも国民は毛沢東思想を学び従わなければならないと記されている。習近平国家主席も毛沢東を重視していると思われる言動がしばしば見られる。
 毛沢東思想とは人民戦争理論である。人民戦争理論を代表する「持久戦論」は日中戦争の中で執筆されたものであり、「弱い中国」が「強い日本」に勝つ戦略を構想したものである。

 「持久戦論」は次のように述べている。日本は強力な帝国主義国家で、軍事力・経済力は東洋第一である。従って、中国は日本に連戦連勝できない。しかし、日本は国土が小さく、人口、資源が欠乏し、長期戦には耐えられない。
 一方、中国の軍事力・経済力は日本に及ばない。しかし中国の国土は大きく、資源が豊富で人口・兵力が多く、長期戦に耐えることができる。敵が強く味方が弱いという状況の中で、速決戦を何回も展開することによって、抗戦能力を強化する時間を稼ぐと同時に、国際情勢の変化と敵の内部崩壊を促進する。このようにして戦略的持久を達成し、戦略的反攻に転じて侵略者を中国から駆逐する。

 ≪21世紀は戦略的対峙の時期≫
 「持久戦論」は戦争を三段階に分けている。
 第一段階は、強い日本軍の戦略的進攻と弱い中国軍の戦略的防御の時期である。
 第二段階は、日本軍と中国軍の戦略的対峙(たいじ)の時期である。敵が最も危険だと感じているところや弱いところに向けて行動を起こし、敵を弱体化し牽制(けんせい)する。大きい力を集中して敵の小さい部分を攻撃する。この段階で中国は弱者から強者に転じることになる。
 第三段階は、持久戦の最終段階であり、日本軍の戦略的退却と中国軍の戦略的反攻の時期である。最終的に日本帝国主義を包囲攻撃し、これを一挙に殲滅(せんめつ)する。

敗戦と革命の混乱を経て、1970年代に日中が再会したとき、日本は超大国米国の同盟国であり、世界第2位の経済大国になっていた。他方、中国は文化大革命で大きな傷を負った不安定で貧しい発展途上国であった。中国にとって再会した日本は、40年前とは違う形の強敵であった。
 アジアの覇者を目指す中国は日本に対して再び人民戦争を開始した。第一段階は戦略的防御の時期であり、日中友好と尖閣問題の棚上げの時代であった。21世紀は第二段階の時期であり、戦略的対峙の時期である。中国は日本の力を削(そ)ぐために、対中強硬論の弱体化を狙って心理戦、世論戦を強化し、尖閣諸島の領海に漁船や公船を頻繁に侵入させてサラミをスライスするように日本の権益を削り取り、他方、米国とは「新型大国関係」を目指すなど、日中の力関係を中国に有利にしようとさまざまな手段を講じている。

 ≪アジアの覇者へ進む中国≫
 20世紀の中国軍は基本的に国内の反革命勢力を打倒する革命軍であり、海を越えて軍隊を投入する能力に欠けていた。実質的に日米同盟に対抗する術(すべ)はなく、対日政策の基本は中国に不利な既成事実の発生を阻止し、現状を維持する「棚上げ」戦略であった。

また、日中戦争の経験者が多数存命した20世紀には、自分たちの村を焼き払った恐ろしい日本軍に対する恐怖感が年配の中国人の意識の中にあり、日本を挑発する対日政策を躊躇(ちゅうちょ)させていた。20世紀には日米同盟と中国軍の間に巨大な軍事力の格差があり、日中間にパワーシフトはなかった。
 しかし、中国の経済力と軍事力の急速な拡大によって、中国人の意識の中で日本に対する恐怖感や劣等感は消えた。中国のネット世論は日本に対する優越感に満ちている。中国海軍は潜水艦70隻(日本は18隻)、水上艦艇72隻(日本は47隻)になった。
 毛沢東の「持久戦論」から現在の日中関係を見ると、現段階は「持久戦論」の第二段階から第三段階に移ろうとしている時期である。中国はできるだけ早く第二段階を通過して第三段階に進み、アジアの覇者の地位を固めようとしている。(むらい ともひで)



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