2015年5月28日木曜日

南シナ海でぶつかる米中の国益 ~アメリカは南シナ海の海洋秩序を守れるのか?~

中国の人工島建設に堪忍袋の緒が切れつつある米軍

米国の対中強硬派は軍事衝突も辞さない構え

米海軍のP-8A対潜哨戒機(写真:米海軍)

CNNの取材チームを搭乗させたアメリカ海軍対潜哨戒機P-8Aポセイドンが、先週、南シナ海南沙諸島のファイアリークロス礁上空に接近した。
 中国海軍はP-8哨戒機に対して、「外国の軍用機に警告する。こちらは中国海軍。貴機は我が国の軍事警戒区域に接近しつつある。直ちに立ち去るように」と警告を繰り返し、やがて「とっとと立ち去れ!」といった高圧的な言葉を投げつけた。
 本コラムでも幾度か取り上げたように、人工島へと変貌しつつあるファイアリークロス礁では、軍用滑走路を含む各種軍事施設だけでなく、各種観測施設や研究所などの“民間施設”の建設も急ピッチで進められている。
南沙諸島に建設中の中国人工島
すでに高まっていた米中間の緊張

 すでに1カ月以上も前から、オバマ政権は「南シナ海において、中国が力によって弱小国の権利を侵害している」との非難を発していた。だが、中国は言葉だけの警告など完全に無視し続けている状況が続いている。
 それに対してアメリカ当局、とりわけ国務省などは、「中国による人工島建設それ自体は国際法違反ではない。しかし、それは南シナ海の平穏を乱し、中国も明言している周辺諸国を力により脅かさないという原則にも反している」といった消極的態度に終始している。
 しかしながら、人工島や軍用滑走路の建設がかなり進捗している状況が明らかにされるにつれ、マケイン上院議員をはじめとするアメリカ国内の対中強硬派が、オバマ政権の態度を厳しく突き上げるようになってきた。
哨戒飛行にCNNクルーを乗り込ませた米海軍

 このようにアメリカ側の南シナ海方針がぐらついている中で、5月上旬にはアメリカ海軍沿岸戦闘艦(LCS:排水量3000トンクラスの軍艦で、比較的軽武装ながらも快速を誇る新型軍艦)「フォートワース」が南沙諸島海域(アメリカ側にとっては公海)を1週間にわたってパトロールした。その航海中、「フォートワース」は幾度か中国海軍艦艇に遭遇し、その都度、軽武装の「フォートワース」は重武装の中国軍艦に追いかけられて中国人工島周辺海域から追い払われてしまった。
沿岸戦闘艦フォートワース(写真:米海軍)
艦艇と同様に、沖縄を発進した米海軍P-8対潜哨戒機も、南沙諸島上空へ進出して偵察活動を強化していた。アメリカ側にとっては公海の上空、すなわち国際空域を飛行中のP-8ポセイドンに対して、中国海軍側は執拗に「中国の警戒空域から立ち去れ」との警告を繰り返していた。
 このような状況を受けて、アメリカ海軍は、通常はメディアを乗り込ませることのない機密の塊である対潜哨戒機P-8AポセイドンにCNN取材チームを乗り込ませただけでなく、そのP-8哨戒機を“焦点の1つである”ファイアリークロス礁周辺上空に接近させたのだ。
 当然、冒頭のように中国海軍からは繰り返し警告が発せられ、その状況はCNNによって実況中継されるに至ったのである(下記サイト参照)。
中国は米軍が「他国の領空や領海に侵入」していると非難

 アメリカ側の対中強硬意見に対して、中国共産党政府は「南沙諸島ならびに周辺海域は中国固有の領域である」と繰り返している。また、南沙諸島での人工島建設は「中国領内での国内的作業」であり、人工島建設の目的は「民間諸事業のためであり、多くの国々にとっても利益をもたらす」と強調した。
 そして「中国は、自国の安全保障と、海洋での安全維持のために、関係する空域や海域を監視する権利を有している」「(アメリカだけでなく)諸外国は、(中国との領域紛争を)より複雑化させたり自分たちに都合の良いように誇張したりするような動きは即刻やめるべきである」との声明を発した。
 さらに中国海軍当局は「中国も公海自由航行の原則は尊重する。しかしその原則は、外国軍艦や軍用機が他国の領空や領海内を勝手に通過することを意味しているわけではない」と述べるとともに、「アメリカ軍部は、いつでも『公海の自由航行原則』を振りかざして、他国の領空や領海に侵入する」とアメリカ軍を非難している。
米国で「人工島の12海里内に艦艇や航空機を派遣せよ」の声

 南シナ海情勢をめぐる活発な動きを受けて、ペンタゴン内部では、「いずれかの人工島周辺12海里領域以内に米海軍艦艇や航空機を派遣して、公海航行自由原則を中国に突きつけ、アメリカは中国による人工島による領土領海拡大など認めないという態度を明示すべきである」という声が強まっている。
 ただしペンタゴンの公式声明では「12海里領域内への米軍艦艇航空機の派遣はあくまで『次のステップ』であり、今のところそのような具体的計画があるわけではない」としている。
 またアメリカ太平洋軍では、南シナ海での中国人工島に関連する非常事態対応計画を急遽策定した。しかしながら、この太平洋軍の計画はオバマ政権によっていまだに吟味されていない。というのは、「人工島は国際海域に建設されているわけであるから、その周辺海域は『公海』ということになる。当然のことながら、公海を米軍艦や米軍機が通過することが可能であるため、現在のところ何の非常事態にも立ち至っていない地域に対する軍の展開計画に対する判断をする時期ではない」という“逃げ”の理由からである。
 もっとも、ペンタゴンやマケイン議員をはじめとする対中強硬派といえども、「アメリカ側が軍事的強硬策を実施することは、平穏な米中関係に大損害を与える可能性が極めて高い」という認識は、オバマ政権や国務省それに外交専門家の大多数(対中融和派)と共通している。
 しかしながら対中強硬派としては「そのようなリスクを犯すことを百も承知の上で、中国に対しては強硬な態度が必要である、そうしなければアメリカ自身にも多くの同盟国友好国にとっても国益を左右する南シナ海の平和が維持できない」と考えているのである。
米国は海上自衛隊の支援に期待をかけている

 これまでは一般のアメリカ国民のみならず多くの米軍関係者にとっても、南シナ海という極東の海域は“関心の中心”とはなりにくかった。だが、CNNでの報道によって、中国の“周辺弱小国に対する横暴”、それも大海原のど真ん中に多くの人工島を建設し、領海を拡張していくという前代未聞の行動に対する関心が急激に高まっている。したがって、対中強硬派の圧力が勢いを増す可能性は高い。
もし、アメリカ海軍艦艇や航空機が南沙諸島の中国人工島周辺12海里内領域に送り込まれる事態に立ち至った場合には、中国は2つの方針で対処するものと思われる。
1)中国海警をはじめとする法執行機関の船舶や航空機を米海軍艦艇や航空機に立ち向かわせて、「アメリカこそが力で南シナ海の覇権をもぎ取ろうとしている」との宣伝(白々しいのは百も承知で)を国際社会に向けて発信しまくる。
22001年の海南島衝突事件や2013年のカウペンス事件(参照:「米軍巡洋艦に中国揚陸艦が『突撃』、衝突も辞さない中国海軍の攻撃的方針」)はじめ数件の艦艇や航空機によるニアミス事件を起こしている人民解放軍は、再び人民解放軍海軍艦艇や戦闘機を米海軍艦艇や哨戒機に異常接近させるなどの危険な挑発的インターセプトを繰り返し実施する。
 このように、軍事衝突の危険性を伴うことはアメリカの対中強硬派にとっては織り込み済みである。
 そうした状況を想定するペンタゴンや米太平洋軍内部の対中強硬派にとって、安倍政権が打ち出している(そして安倍首相が米連邦議会で公約した)日本の防衛政策の抜本的転換は大きな助け舟になっている。

 なぜならば、日本にとっても“存立を左右する”海域である南シナ海で米中軍事衝突が発生した場合、米海軍が信頼を寄せている海上自衛隊が支援のために駆けつけることになる(とアメリカ側は考えている)からである。

【中国国防白書】米、南シナ海での警戒監視続行~関係国との連携強化も~

2015.5.27 23:41更新 http://www.sankei.com/world/news/150527/wor1505270050-n1.html

 ワシントン=青木伸行】米政府は2015526日、「海上軍事闘争への準備」などを明記した中国の国防白書に対する見解を表明した。踏み込んだ批判や論評は控え、中国を過度に刺激することは避けたが、米政府は南シナ海での米軍偵察機などによる警戒監視を継続しつつ、外交を通じて中国への牽制(けんせい)を強める方針だ。

 国防総省のウォーレン報道部長は「米軍の航空機と艦船は国際空域や公海上を航行し、航行の自由を支援している」と述べ、南シナ海での米軍の活動に関する白書の批判に反論した。

 国務省のラスキー報道部長は「白書の判断は示さない」としたうえで、「中国の軍事力の発展を注意深く監視し、中国に透明性を求め続ける」と述べた。

 一方、有識者からは「地域の覇権を達成するための青写真だ」(新アメリカ安全保障センターのパトリック・クローニン氏)など、明確な警戒感と批判の見解が示されている。
 今後の主な外交日程としては、カーター国防長官が27日、ハワイでフィリピンのガズミン国防相と会談する。フィリピンは、中国が造成中の人工島の12カイリ以内で、米軍に偵察活動などの「一層強力な関与を求める」(ガズミン氏)としている。米側に中古の航空機、艦船、レーダーなどの追加供与も要請する。
 カーター氏はまた、29~31日にシンガポールで開かれるアジア安全保障会議で演説する。中国からは孫建国・軍副総参謀長が出席し、火花を散らすことになりそうだ。カーター氏は31日にベトナムも訪問する。 

 一方、米政府は26日、米中戦略・経済対話が6月22日から3日間、ワシントンで開かれると発表した。9月に予定される習近平国家主席の訪米も見据えての双方の出方が注目される。
 また、ベトナムの最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長が7月に訪米する方向で調整中で、オバマ大統領は会談を通じ対中国で連携を強化する。



米韓訓練初参加・新鋭艦「フォートワース」公開 韓国・釜山で

 米海軍の最新鋭沿岸海域戦闘艦(LCS)「フォートワース」(AP
2015.3.14 17:54更新 http://www.sankei.com/world/news/150314/wor1503140069-n1.html
米軍と韓国軍が実施している毎年恒例の野外機動訓練「フォールイーグル」に初めて参加した米海軍の最新鋭沿岸海域戦闘艦(LCS)「フォートワース」が14日、韓国南部釜山の韓国海軍基地に入港し、報道陣に公開された。
 フォートワースは浅い海域での水上戦や潜水艦との戦闘などを想定して建造され、乗組員は約100人。無人偵察ヘリコプターやミサイルなどを搭載している。
 北朝鮮は米韓訓練の実施に反発。朝鮮労働党機関紙、労働新聞は4日、フォートワースについて「朝鮮半島沿岸の浅い海域を作戦舞台とする(北朝鮮への)攻撃艦船だ」と非難した。フォールイーグルは2日に始まり、4月24日まで行われる予定。(共同)


【南シナ海問題】「中国は出て行け!」 フィリピ

ンで独立記念日に合わせ抗議デモ


12日、フィリピン・マニラ近郊で、「フィリピンに干渉するな」と書かれたメッセージを掲げながら中国大使館に向けて行進するデモ参加者ら(AP)
2015.6.12 21:10更新 http://www.sankei.com/world/news/150612/wor1506120035-n1.html
【シンガポール=吉村英輝】フィリピンの首都マニラで12日、スペインによる植民地支配からの1898年の解放を祝う独立記念日に合わせ、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で急速に人工島建設を進める中国への抗議デモが行われた。
 在フィリピン中国大使館前で、市民団体のメンバーら1千人以上が「フィリピンに干渉するな」と英語で書いたプラカードや「中国はフィリピン水域から出ていけ」と中国語で書いたカードを掲げ気勢をあげた。
 抗議デモは、中国に岩礁埋め立ての即時中止を求め、人工島周辺で哨戒機による監視活動を強める米国にも矛先を向けて、米中の摩擦拡大に危機感を示した。
 一方、アキノ大統領は独立記念日の式典で、中国を含む各国大使を前に、国家間における問題解決には「国際法による支配」が重要だと強調。抗議を無視して人工島建設を進める中国を暗に批判した。
※フィリピンのあくなき中国共産党との領土をめぐる「仁義なき戦い」です。我が国も「共闘」体制を維持すべきでしょう。

【関連リンク】
海洋に進出する中国の脅威


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